説明

土壌燃料電池発電システムを用いた土壌電気修復法及び装置

【課題】土壌、腐葉土、底泥等を酸糖化処理する事によって効率的に燃料電池発電を行うと同時に発電後残渣を肥料成分添加土壌若しくは土壌改良剤等として活用する。
【解決手段】土壌、腐葉土、堆肥、底泥等を水に懸濁した懸濁液に燐酸、硫酸、塩酸等の酸を添加した懸濁液を燃料電池の電子供給源(燃料)に用いると同時に、発電後残渣を生石灰で中和した後に発生する燐酸カルシウム、硫酸カルシウム(石膏)、塩化カルシウム等のカルシウム塩を含んだ土壌残渣、腐葉土残渣、堆肥残渣、底泥残渣を、肥料成分添加土壌、若しくは土壌改良剤等として活用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来、バイオマスとしては扱われていなかった土壌、腐葉土、底泥等から燃料電池発電を行うと同時に発電後残渣を肥料成分添加土壌若しくは土壌改良剤等として活用する資源循環技術及び当該方法を用いた土壌環境修復技術、更には水質汚濁測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に土壌1gには約1億以上の微生物(バクテリア、酵母、糸状菌)、原生動物、線虫等が棲息しており菌密度から考えると土壌は微生物スープに近い。また、生きた土壌生物群だけでなく、腐植物質や死菌等も多く、それらが分解されて生じた糖類、蛋白、有機酸等も少なからず存在している複合系のバイオマス資源(土壌バイオマス)である事が知られている。また、海外では微生物燃料電池を用いて下水処理場や底泥を発電プラントに変える試み等が行われてきている(文献:ロクサン・カムシ、「開発進む微生物利用のバイオ燃料電池」、ホットワイヤードニュース、2003;デビッド・スノウ、「発電と汚水浄化を同時に行なうバイオ燃料電池」、ホットワイヤードニュース、2004)が、汚泥や下水を活用するにあたって予め酸糖化処理を加えていないため十分な電子抽出効率が確保できていない。また、発電後のバイオマス残渣の有効利用が考えられていないため全体として経済的にシステムを回転させる事が困難な状況にある。
一方、金、銀、白金等の金属を陰極として有機物を酸化し、空気中の酸素を陽極で還元利用する「グルコース−空気電池」はグルコースを初めとする様々な糖を酸化し、燃料電池発電を行える事が最近報告されているが、(文献:谷口功、「グルコース酸化用機能性電極の開発とグルコース−空気電池の作製」月刊エコインダストリー、Vol.10,No.4,p36−45、2005)、糖だけでなく様々な動植物残渣の土壌生物分解産物を含む土壌バイオマスに関しても適用できる可能性があるものと発明者らは考えた。
また土壌バイオマスが燃料電池発電に適用できると、エネルギー生産に活用できるだけでなく、特定地域の土壌中に含まれているカドミニウムやウラン等のイオン性環境汚染物質を、水電気分解の逆反応に準ずる燃料電池反応を行う過程で電極に引き付け除去する事も可能となり、土壌浄化コストの問題で今まで浄化が行いにくかったカドミ汚染土壌、放射線汚染土壌を浄化過程で発生する発電収入によって浄化コストを回収しながら浄化できる利点が発生し、「食の安全性」確保や環境保全にとって有益となる。
本発明は以上の背景に鑑みなされたものであり、今まで燃料電池分野では考慮されていなかった土壌、底泥等の様々な有機物を酸糖化処理によって燃料電池に対する豊富な電子供給源として用いると同時に、発電後残渣を土壌改良剤、肥料成分含有土壌等として土壌生態系に還元する技術を提供すると共に、当該原理を用いた水質中の有機物含量測定法を提供する事によって環境保全に留意した持続型社会の形成を促進させる事を目的としたものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、土壌、腐葉土、底泥等を酸糖化処理する事によって効率的に燃料電池発電を行うと同時に発電後残渣を肥料成分添加土壌若しくは土壌改良剤等として活用する資源循環技術及び当該方法を用いた土壌環境修復技術、更には水質汚濁測定方法を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、(1)土壌、腐葉土、堆肥、底泥等を水に懸濁した懸濁液に燐酸、硫酸、塩酸等の酸を添加した懸濁液を金属空気電池等による燃料電池の電子供給源(燃料)に用いると同時に、発電後残渣を生石灰で中和した後に発生する燐酸カルシウム、硫酸カルシウム(石膏)、塩化カルシウム等のカルシウム塩を含んだ土壌残渣、腐葉土残渣、堆肥残渣、底泥残渣を、肥料成分添加土壌、若しくは土壌改良剤等として活用する事を特徴とする資源循環方法及び装置、(2)1において酸を添加後、加温加圧処理を行った糖化液を用いる方法及び装置、(3)1、2において重金属や過量の塩類等のイオン性有害物質汚染物質含有土壌・底泥等を燃料電池発電の対象にする事によって、カドミウム等の有害イオン性物質を電極に引き付け除去する土壌・底泥電気修復方法及び装置、(4)1、2、3においてSS(浮遊懸濁物)を含んだ農業廃水、イオン性有害物質を含んだ工業廃水等に適用し、排水処理と発電の双方を行う資源循環方法及び装置、(5)3においてイオン性有害物質含有土壌・底泥の代わりに、イオン性有害物質含有食品若しくは食品廃棄物を用いる電気修復方法及び装置、(6)1〜5の方法を用いた二酸化炭素排出量の抑制方法、(7)1〜5を含む全ての「燐酸を電解液とする燃料電池発電系」において電解液回収時に生石灰で中和して得た燐酸カルシウムを肥料として農地還元する方法及び装置、(8)銀電極活用燃料電池を用いた水質中の有機物量測定方法及び装置、(9)8において銀電極以外の金属電極を用いる方法及び装置、の計9技術のうちの1つ以上を適用すればよい。
【発明の効果】
【0005】
本発明を適用すれば、土壌バイオマスから燃料電池発電を行う事が可能となるだけでなく、発電残渣を土壌改良材、肥料成分含有土壌等として有効活用する事が可能となると同時に、従来より効率的な土壌汚染修復が可能となる。また従来より微量で測定可能な水質中の有機物量を測定する事も可能となる。それによって、環境保全に留意した持続型社会の形成の促進が可能となろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。土壌、腐葉土、堆肥、底泥等をまず水に懸濁した上で硫酸、燐酸、塩酸等の酸を加え酸糖化を行う。この時、常温常圧のまま酸添加しても、加温加圧処理を行っても良い。ただ加温加圧処理を行う際は相応の設備を要するため、可能なら常温常圧のまま酸添加する事が望ましい。次に酸糖化液を酸性のままで燃料電池発電に用いる訳であるが、その際、銀、金(若しくは白金)を陰極とし、空気中の酸素を還元活用する炭素素材を陽極とした上で、燐酸等の酸性溶液を電解液とした燃料電池を用いるのが有効な方法である。金属を陰極に使えば糖だけでなく様々な有機物から電子を抽出する事が可能となり、多様な有機物群が含まれる土壌バイオマスを活用する上でこの金属電極の性質は有利に働く。金属の中でも特に銀は極微量の多様な有機物から電子を抽出する事が可能である。銀のこの性質はエネルギー生産目的に使えるだけでなく、水質中の有機物量を測定する燃料電池センサーを作成する上でも有効に働きうる。なおこのセンサー開発にあたっては電極を銀のみにこだわる必要はなく金等の他の金属を用いても良い。金の場合は感度は銀よりも落ちるが銀より酸化されにくく持久性の面で有利である。
【0007】
この金属空気電池を用いて土壌バイオマスから発電を行う場合、重要な事は効率よく発電ができる濃度まで土壌を希釈する事である。銀電極(あるいは金電極)を用いれば、かなり微量の濃度からも起電力を発生せしめる事は可能であり、土壌濃度が濃ければ発電効率の面でかえってマイナスに働く。また電流量を増大させるためには金属電極の電極面積をできるだけ大きくする必要があり、必要ならば多孔性構造物質に銀や金等を蒸着させた方がよいであろう。なお必要ならば生きた微生物を電子抽出に用いる微生物燃料電池に供しても良いが、酸性条件が厳しいと活用できる微生物種は限定される。
【0008】
燃料電池発電を行った後の残渣は生石灰で中和すれば、どの酸を糖化に用いた場合でも少なくともカルシウム肥料成分添加土壌として土壌生態系還元を行いやすくなる。糖化は経費が安価な硫酸で行う事が望ましいが、単に安価なだけでなく硫酸を生石灰で中和した際に発生する硫酸カルシウム(石膏)は土壌改良剤として活用されている(文献:松本聰、日本農芸化学会シンポジウム「地球環境の再生へ向けて」世界の問題土壌とその再生への要素技術の開発、2000;松本聰,中野圭一,雷 玉平,石川祐一.「中国河北省九連城地域のアルカリ土壌改良と植林」、日本土壌肥料学会講演要旨集.50:163、2004)と同時にカルシウム肥料にもなるので土壌還元に特に有利である。また酸糖化に燐酸を用いた場合でも生石灰中和後に発生する燐酸カルシウムは燐酸肥料として有効に機能し、土壌生態系に発電残渣を還元する上でやはり有利に働くであろう。
【0009】
本反応を行うための装置としては、例えば(1)土壌、底泥を予め酸を加えた水を添加しスラリー状にする区、(2)銀、金(若しくは白金)を陰極とし、空気中の酸素を還元活用する炭素素材を陽極とした上で、燐酸等の酸性溶液を電解液とした燃料電池発電区、(3)発電後残渣を生石灰で中和し排出する区の3つの区から構成されていればよく、銀や金を陰極として用いた燃料電池発電を行う場合は特に熱をかける必要はないので極めて簡単な装置でよい。また、前述したように必要ならば(2)の金属空気電池を微生物燃料電池に変更しても良い。ただその際は酸性に強い微生物を用いるか、あるいは発電前に土壌処理物を中和した上で微生物燃料電池に供するかのいずれかをとる必要があろう。
【0010】
なお、この技術体系は単に発電を行うだけでなく、秋田県で問題となっているカドミニウム汚染土壌やアメリカ合衆国やウクライナで問題となっている放射能汚染土壌、更にはオーストラリアや中国等で問題になっている塩類集積土壌を修復する上で有効に機能する。何故ならば金属極を用いて燃料電池発電を行っている最中にカドミニウムであれウランであれナトリウムであれ正電荷を持っている有害物質は陰極である金属極に引き付けられ除去できるからである。従来、土壌浄化の最も大きな律速要因は浄化コストであった。しかし本方法を用いれば浄化コストを発電収入で軽減できるので従来より有利に土壌汚染を行う事が可能となる。近年、国連コーデックス委員会は農作物へのカドミニウム汚染の基準を厳格にする方向で動いているが本方法を用いればカドミニウム含有土壌問題に多大な予算を投じている秋田県はより有効に「食の安全性」を改善する事が可能になろう。
【0011】
また、北海道ではホタテのウロに大量のカドミニウムが含まれるため、その食品廃棄物を処理するために電気分解除去法を用いた上で肥料化してきた。本方法は北海道が活用している電気分解法の逆反応を行い発電を行いながらホタテのウロからカドミニウム除去できる分だけ有利に機能するものと考えられる。この方法は何もホタテのウロに限ったものではなく、イオン性の有害物質を含んでいる食品、食品廃棄物全般に適用できる事が特徴であり、「食の安全性」向上のためにも速やかに導入する事が望まれる。
【0012】
また、本方法はSS(浮遊懸濁物)を含んだ農業廃水、イオン性有害物質を含んだ工業廃水等に関しても適用可能であり、その際、排水処理と発電の双方を行う事が可能となる。特に秋田県においては八郎潟干拓農業において発生する代掻き農業廃水が八郎潟残存湖の水質汚濁の最大の原因になっている事が指摘されている(文献:近藤正、「水の循環・利用・汚濁機構と定量評価」、平成11〜13年度科学研究費補助金研究成果報告書「限界閉鎖系水圏環境における環境保全型農法の高度化と測定評価に関する研究」、p.34)が、本技術体系を用いて大潟村農業廃水に硫酸を添加し酸性化した上で燃料電池発電に供し電力を確保しながら発電後残渣を生石灰で中和し八郎潟残存湖に戻す方向をとれば中和過程で発生する硫酸カルシウムによってSS(浮遊懸濁物)を大幅に減少させる事が可能となり、水質改善に寄与する事が可能となろう。なお硫酸カルシウムは生態系に悪影響を与えるという報告はない。大潟村は干拓前は湖底だったため海抜より低い。そのため24時間絶えずポンプで大量排水を行わねばならず国庫の電気代で賄っているが、本技術体系を用いれば自らその電力を確保できる可能性も出てくる事が期待される。
【0013】
ところで本技術体系においては酸糖化液から燃料電池発電を行うにあたって、電解液がアルカリであるアポロ型よりも酸性であるジェミニ型で行う事が望ましいが、燐酸を電解液に選択した場合は、その電解液を定期的に回収する際に生石灰で中和すれば中和によって発生する燐酸カルシウムが肥料として循環活用できるのでより有利に働くであろう。リン資源は地球全体で眺めても決して豊富ではなく石油の次に枯渇する事が懸念されている以上、本技術体系で用いる燃料電池だけでなく、全ての分野の燐酸活用燃料電池においても同様な配慮が求められるものと考えられよう。
【0014】
以上の技術体系を適用できれば土壌バイオマスから多大な電力が確保できるので従来、火力発電で賄ってきた電力量の一部が低減でき、その分、二酸化炭素排出量が低減できる効果もある。これは現時点で既に達成不可能と評されている京都議定書での契約に関し国際社会に誠意を示す上でも大切になってくるのではないだろうか?
【実施例】
【0015】
松林表層土壌50gに水450mlを加え懸濁後、硫酸を5ml添加した液を中和する事なくそのまま燃料電池の燃料に供した。また、それと同時に同じ松林表層土壌および籾殻をそれぞれ50g、3Lの三角フラスコに入れ、濃硫酸5mlを予め加えた蒸留水500mLを加え懸濁した上で、120℃、3時間、加温加圧処理後、吸引濾過して得た糖化液に関しても各々同様に燃料電池の燃料に供した。また陰性対照区として、水道水と超純水を用い、同様に測定した。用いた燃料電池は5%燐酸を電解液とし、素焼き筒をセパレーターとした上で、陰極を白金電極に、陽極を活性炭にした金属空気電池を用い、テスターで起電力を室温で測定したところ、(1)加圧加温処理なしの硫酸添加土壌懸濁液:0.18V、(2)加圧加温処理を加えた硫酸添加土壌懸濁液:0.18V、(3)超純水:0.02V、(4)水道水:0.04V、(5)加圧加温処理を加えた籾殻糖化液:0.13Vという数値を示した。なお、ここでは詳細なデータは示さないが、電極に白金ではなく銀を用いた場合は概ね2倍の起電力を示していた。この結果は籾殻よりもむしろ土壌の方が燃料電池電子供給源として優れている可能性を示唆している。これは土壌の方が糖化を行わなくとも様々な形態で分解されている多様な有機物が予め含まれているからであるかもしれない。またここでは具体的な数値を示さないが銀電極を用いれば水道水に微量に含まれている有機物を高水準で検出する事が可能であり、水質中の有機物を検出する新たなセンサーに活用できるものと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明を適用すれば、土壌バイオマスから燃料電池発電を行う事が可能となるだけでなく、発電残渣を土壌改良材、肥料成分含有土壌等として有効活用する事が可能となると同時に、従来より効率的な土壌汚染修復が可能となる。従って、新たな形態でのエネルギー産業、土壌資材産業が開拓できるであろう。また従来より微量で測定可能な水質中の有機物量を測定する事も可能となるので、環境モニタリング産業に対しても好影響を与える事が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌、腐葉土、堆肥、底泥等を水に懸濁した懸濁液に燐酸、硫酸、塩酸等の酸を添加した懸濁液を金属空気電池等による燃料電池の電子供給源(燃料)に用いると同時に、発電後残渣を生石灰で中和した後に発生する燐酸カルシウム、硫酸カルシウム(石膏)、塩化カルシウム等のカルシウム塩を含んだ土壌残渣、腐葉土残渣、堆肥残渣、底泥残渣を、肥料成分添加土壌、若しくは土壌改良剤等として活用する事を特徴とする資源循環方法及び装置。
【請求項2】
請求項1において酸を添加後、加温加圧処理を行った糖化液を用いる方法及び装置。
【請求項3】
請求項1、2において重金属や過量の塩類等のイオン性有害物質汚染物質含有土壌・底泥等を燃料電池発電の対象にする事によって、カドミニウム等の有害イオン性物質を電極に引き付け除去する土壌・底泥電気修復方法及び装置。
【請求項4】
請求項1〜3においてSS(浮遊懸濁物)を含んだ農業廃水、イオン性有害物質を含んだ工業廃水等に適用し、排水処理と発電の双方を行う資源循環方法及び装置。
【請求項5】
請求項3においてイオン性有害物質含有土壌・底泥の代わりに、イオン性有害物質含有食品若しくは食品廃棄物を用いる電気修復方法及び装置。
【請求項6】
請求項1〜5の方法を用いた二酸化炭素排出量の抑制方法。
【請求項7】
請求項1〜6を含む全ての「燐酸を電解液とする燃料電池発電系」において電解液回収後に燐酸を生石灰で中和して得た燐酸カルシウムを肥料として農地還元する方法及び装置。
【請求項8】
銀電極活用燃料電池を用いた水質中の有機物量測定方法及び装置。
【請求項9】
請求項9において銀電極以外の金属電極を用いる方法及び装置。

【公開番号】特開2006−339132(P2006−339132A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−192795(P2005−192795)
【出願日】平成17年6月5日(2005.6.5)
【出願人】(500412183)
【Fターム(参考)】