説明

土壌診断方法及び土壌診断装置

【課題】土壌中に含まれる各有効元素成分を測定する土壌診断装置により、診断結果を得るまでの時間を極力短縮し、かつ、専門的知識を必要とせず、誰もが診断結果に基づく適確な施肥作業をおこなえる前記土壌診断装置を提供することを課題とする。
【解決手段】拡散反射測定装置(土壌診断装置1)を用いて、採取した圃場の土壌に赤外線を照射して、集められた拡散反射光をスペクトル分析して、土壌中の有効元素成分量を測定し、最適な有効元素成分量と比較する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡散反射法を用いた赤外線のスペクトル分析により、圃場等における土壌の有効元素成分量を測定し、肥料の施肥計画を可能とする土壌診断の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、農作物を栽培する圃場等においては成長を促進し、収穫量が増加するように施肥作業が行われている。すなわち、農作物の成長には窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)等の元素(以下、有効元素成分と記す。)が必要であり、自然状態と異なって同じ土壌で繰り返し農作物を栽培する圃場等では該農作物の吸収により、これら元素が不足するため、補給する必要がある。
ここで、土壌の土性や土質の違いから、各圃場における有効元素成分の土中含有量は各々異なるため、効果的な肥料の施肥を行う場合には、まず土壌診断を行い、現状の各有効元素成分の土中含有量を把握した上で、施肥計画を実行する必要がある。
【0003】
前記土壌診断に関しては、発色試薬を加えて各有効元素成分を発色させ、比色計にて測定する方法が主流であり、その前処理工程として、作業者の手によるサンプル土壌や試薬の計量作業や、緩衝液による前記各有効元素成分の乖離作業等が必要となる。
しかし、サンプル土壌や、試薬の計量作業や、試薬の注入、攪拌作業はとかく時間がかかり、また、前記緩衝液は人体への汚染が予想されるものであった。
そこで、「特許文献1」に示される技術が公知になっている。
【特許文献1】特開平9−61420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記「特許文献1」によれば、土壌の酸度、伝導度、および、リン、カリウム等、各有効元素成分の土中含有量を測定する土壌診断装置において、上述の前処理工程から各種測定の実施までを全自動により行う技術が示されており、前処理工程における作業者の介在を無くすことで、前処理工程の時間短縮、また、人体汚染の軽減が計られている。
しかし、比色計による土壌の診断方法を用いる限り、試薬の反応時間等を確保する必要があり、診断結果を得るまでに数時間かかり、また、その診断結果の内容についても、十分に理解するためには専門的知識を必要とし、該診断結果を基に適確な施肥作業を行えるか否かは、作業者の力量に委ねられていた。
そこで、本発明においては、土壌中に含まれる各有効元素成分を測定する土壌診断装置により、診断結果を得るまでの時間を極力短縮し、かつ、専門的知識を必要とせず、誰もが診断結果に基づく適確な施肥作業を行える前記土壌診断装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0006】
即ち、請求項1においては、拡散反射測定装置を用いて、採取した圃場の土壌に赤外線を照射して、集められた拡散反射光をスペクトル分析して、土壌中の有効元素成分量を測定し、最適な有効元素成分量と比較するものである。
【0007】
請求項2においては、土壌に赤外線を照射して、集められた拡散反射光をスペクトル分析して、土壌中の有効元素成分量を測定する拡散反射測定装置を、走行可能な自走車両に搭載し、該自走車両を圃場内で走行し、測定個所の土壌に直接赤外線を照射して、前記有効元素成分量を測定するものである。
【0008】
請求項3においては、前記拡散反射測定装置は防振支持されるものである。
【0009】
請求項4においては、前記拡散反射測定装置は、防塵機構が具備されるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
請求項1においては、拡散反射測定装置を用いて、採取した圃場の土壌に赤外線を照射して、集められた拡散反射光をスペクトル分析して、土壌中の有効元素成分量を測定し、最適な有効元素成分量と比較するため、測定の都度、測定部をサンプル土壌に接触させる必要もなく、非接触で測定を行うことができる。そのため、一部のサンプル土壌が測定部に附着して測定精度を低下させることもなく、また、測定対象物(サンプル土壌)を変える度に測定部の清掃を行う必要が無いため、測定時間が短縮でき、かつ、清掃による測定部品の消耗期間を無くすことができる。
また、サンプル土壌に直接赤外線を照射して測定を行うため、前処理工程を必要とせず、土壌の分析結果を得るまでの時間を格段に短縮することができる。
【0012】
請求項2においては、土壌に赤外線を照射して、集められた拡散反射光をスペクトル分析して、土壌中の有効元素成分量を測定する拡散反射測定装置を、走行可能な自走車両に搭載し、該自走車両を圃場内で走行し、測定個所の土壌に直接赤外線を照射して、前記有効元素成分量を測定することで、土壌診断を行いながら、その診断結果に基づいて即時に施肥作業を行うことができるため、効率の良い施肥作業を行うことができる。
すなわち、診断結果を得た後は作業者を介さず、該診断結果に基づいて施肥計画(肥料中に混合される各有効元素成分の含有量等)が自動的に演算処理されて指示命令として施肥機に送られることで、専門的知識を必要とせず、誰もが診断結果に基づく適確な施肥作業を行える。
また、診断結果が疑わしい場合には、その場で測定個所を変更することもできるため、効率的に精度の高い土壌診断を行うことができる。
【0013】
請求項3においては、前記拡散反射測定装置は防振支持されることで、精密機器から構成される土壌診断装置を自走車両に搭載する場合に、外部から受ける振動の影響を効果的に防ぐことができ、測定精度の低下や、精密機器の故障を極力防ぐことができる。
【0014】
請求項4においては、前記拡散反射測定装置は、防塵機構が具備されることで、精密機器から構成される土壌診断装置を自走車両に搭載し、屋外にて使用する場合に、外部から受ける粉塵や土壌の附着を効果的に防ぎ、測定精度の低下や、精密機器の故障を極力防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施例に係る土壌診断装置の構成を示したブロック図である。
図2は土壌診断装置における制御手段の構成を示したブロック図である。
図3は同じく土壌診断装置に具備される測定装置の可動状態を示す側面図である。
図4は同じく別実施例における測定装置の可動状態を示す側面図である。
図5はデータベースの蓄積情報の作成における一連の流れを示すフローチャートである。
図6は土壌中の各成分における検量線を示すグラフである。
図7はデータベースに蓄積される情報の階層を示す図である。
図8は土壌診断装置の測定手順における、作業車両の停止から土壌のスペクトル分析の開始までの一連の流れを示すフローチャートである。
図9は同じく、土壌のスペクトル測定から各成分の不足量算出までの一連の流れを示すフローチャートである。
図10は同じく、土壌の各成分における過不足量の算出から診断結果の表示までの一連の流れを示すフローチャートである。
図11は本発明の一実施例に係る土壌診断装置を搭載した、作業車両を示す全体図である。
【0016】
[土壌診断装置1]
まず、本発明の一実施例に係る土壌診断装置1の構成について、図1、乃至、図4を用いて説明をする。
土壌診断装置1は本体部2と測定部3からなるFT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)により構成される。
ここでFT−IRとは赤外線を用いて有効元素成分量の測定を行う装置であり、本実施例では、主として拡散反射法を用いた測定装置により構成されている。
【0017】
前記拡散反射法とは赤外分光法の一種であり、測定対象とする土壌に照射し、その後、該土壌により反射された赤外線からスペクトルを測定し、該スペクトルを変換することで有効元素成分量の測定を行う方法である。
【0018】
すなわち、物質に赤外線が照射されると該物質を構成する原子の種類によって、その振動エネルギーに相当するだけの赤外線が吸収されることになり、この照射後の赤外線の吸収度合いを調べることで、物質を構成する有効元素成分量を測定する方法が赤外分光法である。
【0019】
このうち、物質に赤外線を照射した場合、該物質の粒子の表面で正反射される赤外線(正反射光)と、該物質の粒子の内部に一旦入り込み、その後、透過して別の物質の粒子表面で正反射され、あるいは、再び別の物質の粒子内部に入り込み、複雑な透過、反射を繰り返して外部に反射される赤外線(拡散反射光)とがあり、後者の拡散反射光を用いて物質のスペクトルを得る方法が拡散反射法である。
【0020】
なお、本実施例においては後述の通り、自走車両(作業車両100)に搭載された土壌診断装置1の実施形態について説明するが、たとえば、本体部2と測定部3を一体的に構成し、事務所や実験室等において、固定的に配置して土壌を診断することも可能である。
【0021】
[本体部2]
図1より、本体部2は主に筐体4と、該筐体4の内部に設けられるAD変換部8と、制御手段5と入力手段31と表示手段32等により構成される。
本体部2は伸縮自在な接続ケーブル9を介して後述の測定部3と連結されている。
【0022】
[AD変換部8]
AD変換部8は検知部7から送信される出力信号をデジタル信号に変換し、その後、制御手段5に設けられる処理手段へ該デジタル信号を送信するためのものである。
【0023】
[制御手段5]
図2より、制御手段5はRAMやROM等の記憶部と演算処理装置(CPU)等を備え、投光部6や、AD変換部8とケーブルにより接続される一方で、施肥機14とも接続されている。
【0024】
前記制御手段5には、データベース11と接続され、該データベース11はハードディスクやコンパクトディスク等の記憶媒体から構成されており、該データベース11には、土質または土性毎において、あるいは、圃場毎において、土壌中の有効元素成分量や検量線(または検量式)等が蓄積されている。
【0025】
[測定部3]
測定部3は略直方体の箱からなる筐体15と、該筐体15の内部に設けられる投光部6と、検知部7と、干渉計16と、複数の照射用反射手段17・18、および、受光用反射手段19・20と、照射用ミラー21、および、受光用ミラー22と、光路変更手段23等により構成される。
【0026】
[投光部6]
投光部6は赤外線を照射するためのものであり、ランプまたはLED等で構成され、図示せぬケーブルにより制御手段5に接続されている。すなわち、制御手段5からの指令により投光部6から赤外線が照射される。
【0027】
[検知部7]
検知部7は土壌で反射した赤外線を検知し、その検知した赤外線の光学的情報を出力信号としてAD変換部8へ送信するためのものである。
すなわち、前記投光部6により照射された赤外線は測定対象物(土壌)に照射され、その後、該土壌より反射された赤外線は再び測定部3へと跳ね返り、検知部7へと導かれる。
【0028】
筐体15の底面略中央部には開口部15bが設けられており、該開口部15bを介して赤外線の照射、および、該土壌で反射された赤外線の受光が行われる。そして防塵機構を設けて、筐体15内へ塵埃等が侵入しない構成としている。つまり、前記開口部15bには可動式のシャッター24が設けられており、該シャッター24は前記制御手段5と接続され、土壌診断を行う以外は常時閉じられ、外部からの泥や粉塵の筐体15内部への侵入を防ぎ、測定するときのみ開けるように制御している。さらに、筐体15内には高圧空気を供給可能に構成することもできる。この場合、本体部2に設けたコンプレッサー33よりホース等を介して高圧空気を筐体15内に供給できるようにしている。こうして、前記シャッター24が開かれた場合でも、開口部15bを介して外部へ空気が放出され、細かな粉塵等は内部へ侵入しにくくなっている。
【0029】
このように、測定部3には可動式のシャッター24、および、筐体15内部に高圧空気を供給する防塵機構が具備されており、後述するように、たとえ、本土壌診断装置1を走行可能な自走車両100に搭載して用いる場合でも、粉塵等に対して耐久性の弱いFT−IRを効果的に防塵することができる。
【0030】
[干渉計16、光路変更手段23および各種反射手段]
干渉計16は投光部6から照射された赤外線を分光して合成(干渉)し、照射用反射手段17へと投光するものである。前記干渉計16により干渉された赤外線は、その後、複数の照射用反射手段17・18へと投光され、照射用ミラー21へと導かれる。そして、前記照射用ミラー21によって反射された赤外線は測定対象とする土壌へと照射される(図1に示す矢印Aの方向。)。
【0031】
土壌に照射された赤外線は上述のとおり、その一部が吸収されて再び外部へと反射される(図1に示す矢印Bの方向。)。前記反射された赤外線は、その後、受光用ミラー22に集められ、複数の受光用反射手段19・20を介して光路変更手段23へと導かれる。
【0032】
光路変更手段23に投光された赤外線は検知部7に送られ、その後、該赤外線の光学的情報は出力信号としてAD変換部8へ送信される。
【0033】
ここで、本実施例における土壌診断装置1は作業車両100に搭載される。
すなわち、図11において、土壌診断装置1からなるFT−IRと施肥機14は作業車両100の後部に配設され、該土壌診断装置1や施肥機14の各種操作を担う本体部2が操縦席の近傍に配設される。
【0034】
このように、土壌に赤外線を照射して、集められた拡散反射光をスペクトル分析して、土壌中の有効元素成分量を測定する拡散反射測定装置(土壌診断装置1)を、走行可能な自走車両(作業車両100)に搭載し、該作業車両100を圃場内で走行し、測定個所の土壌に直接赤外線を照射して、前記有効元素成分量を測定することができる。
【0035】
このような構成からなる測定部3は外周部をコンクリート等による強固な箱29で密封され、複数の弾性支持材26・26・・・を介して固定される。
すなわち、本実施例における土壌診断装置1は作業車両100に搭載されており、測定部3は振動に対する影響を極力避ける必要がある。そこで、拡散反射測定装置(前記測定部3)は複数の弾性支持材26・26・・・により防振支持されることで、作業車両100の走行時における、路面の凸凹から生じる微振動や、障害物を乗り越える際の大きな揺れ等から、測定部3を効果的に防振することができる。なお、測定部3の外周部を囲う前記箱29はコンクリート製に固執されるものではなく、頑丈な構造体を形成することが可能であれば、例えば、鉄や強化プラスチック等、別の材料を用いても良い。
【0036】
また、前記測定部3は、本体部2と独立して上下方向に昇降自在に設けられる。すなわち、図3において、作業車両100(または本体部2)と測定部3の間に昇降手段34が配置され、該測定部3には距離センサー35を付設して測定土壌までの距離を検知するようにして制御手段5と接続し、更に昇降手段34も制御手段5と接続し、設定高さとなるように制御手段を駆動する構成としている。こうして土壌の診断時においては、測定対象との間の距離を一定に保つように制御している。
【0037】
なお、昇降機構については限定しないが、たとえば、サーボモータやシリンダ等、精密な位置決めを可能とする構成とする必要がある。すなわち、後述するが、測定部3の下降距離は測定対象とする土壌との焦点距離に関係し、その精度は数ミリ単位で位置調整する必要があるためである。
【0038】
また、前記測定部3を昇降手段34により昇降する構成としているが、図4に示すように、投光部6と検知部7を本体部2側に配置して、干渉計16、照射用反射手段17・18、受光用反射手段19・20、光路変更手段23を測定部3に配置し、測定部3と本体部2を光ファイバー等で接続する構成とすることも可能である。
【0039】
次に、土壌診断について説明する。
土壌診断は土壌を測定する前に、予め試験を行い各土壌の各成分の検量線(または検量式)を調べておく、つまり、圃場ごと、または、同様の土性ごとに土壌中の各成分の検量線を測定するとともに、その圃場における最適な有効元素成分量もデータベース11に蓄積しておく。
【0040】
そして、本機を圃場まで移動して、本機をそのまま圃場内に乗り入れて、直接圃場面に赤外線を照射して測定する。なお、GPSを搭載することで、測定した位置情報も同時に検出して、データベース11に蓄積しておくことで、今後の施肥や作物栽培のデータとして有効に活用できる。
【0041】
まず、図5において、所望の圃場を診断する前にサンプル土壌データの作成について説明する。特定の土質または土性の土壌を採取し(ステップS01)、測定試料として、土壌診断装置1によって各々分析され、スペクトルが測定される(ステップS02)。測定されたスペクトルは上述のとおり、検知部7を介してAD変換部8へ送信され、デジタル信号化されて制御手段5の演算処理装置に送られる。
【0042】
演算処理装置ではデジタル信号化されたスペクトル情報を、変換式により吸光度を示す個有の数値に変換し(ステップS03)、その後、該数値を基にして各有効成分ごとに検量線が作成され(ステップS04)、作成された該検量線は既存情報としてデータベース11に保存される(ステップS05)。
【0043】
ここで、前記吸光度を示す数値情報は一時的にデータベース11に蓄積され、その後、各有効成分ごとに予め設定された個数分の吸光度に関する情報が集積された時点で、再びこれら情報を演算処理装置に呼び出し、検量線に関する情報の作成を行う。
すなわち、図6において、吸光度と濃度(土中含有量)の二軸からなる次元において、前記蓄積された吸光度の情報をプロットアウトし、該プロットアウトされた複数の点を繋ぐことにより検量線が作成される。
【0044】
なお、図6においては、説明の都合上、一次関数を示す直線にて表しているが、予測精度を向上させるべく、二次曲線等を用いてもよい。
【0045】
一方、採取した土壌は各有効成分を混ぜ合わせることなく、単体においてもスペクトルが測定され、検知部7を介してAD変換部8へ送信され、デジタル信号化されて制御手段5の演算処理装置に送られる。
【0046】
演算処理装置に送られた前記スペクトル情報は、変換式により酸度、伝導度等、土壌の土性や土質の違いを示す固有の数値に変換され(ステップS11)、その後、前記検量線に関する情報に関連付けされてデータベース11に蓄積される(ステップS12)。
【0047】
すなわち、図7において、各圃場の土壌単体の情報(吸光度としての情報。以下、土壌情報と記す。)を親情報27とし、該親情報27の階層下に各有効成分における前記土壌中に含有したときの検量線に関する情報を子情報28として関連させたうえで、データベース11に蓄積されることとする。
【0048】
このような構成により既存情報を作成してデータベース11に蓄積することで、実際の各圃場における土壌分析では、まず、土壌単体の土性や土質を把握することで瞬時に各有効成分に関する検量線の情報を読み出すことが可能となり、土壌の分析時間を短縮することができる。
【0049】
[土壌診断装置1による土壌診断の流れ]
次に、土壌診断装置1による土壌診断の流れについて、図8、乃至、図10を用いて説明をする。
まず、図8において、測定対象とする圃場の測定個所(土壌)まで作業車両100を移動し、一時停止させた後、測定部3を下降させる(ステップS21)。
測定部3は予め定められた測定距離に達すると下降を停止し、筐体15の下面に設けたシャッター24を開く(ステップS22)。
【0050】
その後、投光部6より赤外線が照射され、測定部3の照射用ミラー21等を介して、土壌表面に照射され(ステップS23)。土壌表面で反射した赤外線は測定部3の受光用ミラー22へと導かれる(ステップS24)。
【0051】
受光用ミラー22に到達した赤外線は受光用反射手段19・20等を介して検知部7へと導かれ、該赤外線を検知した検知部7はそのスペクトル情報を出力信号としてAD変換部8に送信し、該AD変換部8によりデジタル信号に変換した後、制御手段5で処理される(ステップS25)。
【0052】
ここで、本装置に用いられるFT−IRでは、測定対象物に反射された後、検出される赤外線のエネルギー値が常に測定されており、予め設定されたエネルギー値の範囲内に前記測定された赤外線のエネルギー値が収まるか、収まらないかの判断を行うことにより、自動的に測定部3の下降距離(測定対象物との焦点距離)は調整される。
【0053】
すなわち、焦点距離が長すぎると検出される赤外線は弱くなるためエネルギー値は小さくなり、逆に焦点距離が短すぎると検出される赤外線は強くなるためエネルギー値は大きくなる。そこで、予め適正なエネルギー値の範囲を設定しておき、該範囲を越えるエネルギー値が検出されれば、「焦点距離が短い」と判断されて、測定部3は微上昇され、また該範囲に満たないエネルギー値が検出されれば、「焦点距離が長い」と判断されて、測定部3は微下降されることとなる(ステップS26、S27)。
【0054】
このようにして、測定部3は適正な赤外線のエネルギー値が検出されるまで、上昇、下降による微調整を繰り返し、予め定められた適正範囲内に前記エネルギー値が収まる高さ(焦点距離)で停止し、土壌のスペクトル解析が実行される(ステップS28)。
【0055】
図9において、土壌表面より反射された赤外線は上述のとおり、検知部7にて検知された後(ステップS31)、デジタル信号に変換されて制御手段5に送られる(ステップS32)。
【0056】
前記デジタル信号に変換されたスペクトル情報は、変換式により吸光度を示す固有の数値に変換され(ステップS33)、その後、データベース11に蓄積される既存情報と照合され、最も近似する土壌情報、すなわち、親情報27を見つけ出し(ステップS34)、該親情報27に付随する子情報28(各有効成分に関する検量線の情報)が、演算される(ステップS35)。
【0057】
その後、前記検量線を用いて、各有効成分に関する土壌中の含有量が演算され(ステップS36)、予め設定された最適含有量との比較演算し、各有効成分に関する過不足量が算出される(ステップS37)。
【0058】
一方、土壌表面より反射された赤外線を検知部7にて検知し、土壌のスペクトル情報に関する収集を終えた後は(ステップS32)、制御手段5の指令により投光部6による赤外線の照射は停止し(ステップS41)、前記シャッター24が閉じられる(ステップS42)と同時に、測定部3が上昇し、作業車両100の車体内に収納される(ステップS43)。
【0059】
図10において、制御手段5の演算処理装置により算出された、前記各有効成分の過不足量に関する情報は、表示手段に表示される(ステップS51)。そして、その圃場の複数箇所の土壌を分析し、十分肥料が足りている場合には、そのままとし、不足している場合には、その成分と量と、肥料の名称と、その肥料の施肥量が表示手段に表示され、土壌診断は終了する(ステップS52、S53)。
【0060】
続いて、施肥作業を行う場合には、不足する肥料を施肥機14に充填し、施肥量は制御手段5により前記検知した値がそのまま適用され、不足する量を施肥するように制御される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施例に係る土壌診断装置の構成を示したブロック図。
【図2】土壌診断装置における制御手段の構成を示したブロック図。
【図3】同じく土壌診断装置に具備される測定装置の可動状態を示す側面図。
【図4】同じく別実施例における測定装置の可動状態を示す側面図。
【図5】土壌診断装置のデータベースに保存される蓄積情報の作成において、土壌の採取からデータベースへの蓄積までの一連の流れを示すフローチャート。
【図6】土壌中の各成分における検量線を示すグラフ。
【図7】データベースに蓄積される情報の階層を示す図。
【図8】本発明の一実施例に係る土壌診断装置を用いた測定手順において、作業車両の停止から土壌のスペクトル分析の開始までの一連の流れを示すフローチャート。
【図9】同じく、土壌のスペクトル測定から各成分の過不足量算出までの一連の流れを示すフローチャート。
【図10】同じく、土壌の各成分における過不足量の算出から診断結果の表示までの一連の流れを示すフローチャート。
【図11】本発明の一実施例に係る土壌診断装置を搭載した、作業車両を示す全体図。
【符号の説明】
【0062】
1 土壌診断装置
2 本体部
3 測定部
4 筐体
5 制御手段
6 投光部
7 検知部
8 AD変換部
9 接続ケーブル
14 施肥機
15 筐体
16 干渉計
17 照射用反射手段
18 照射用反射手段
19 受光用反射手段
20 受光用反射手段
21 照射用ミラー
22 受光用ミラー
23 光路変更手段
24 シャッター
26 弾性支持体
29 箱
31 入力手段
32 表示手段
33 コンプレッサー
34 昇降手段
35 距離センサー
4a 貫通孔
15a 貫通孔
15b 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡散反射測定装置を用いて、採取した圃場の土壌に赤外線を照射して、集められた拡散反射光をスペクトル分析して、土壌中の有効元素成分量を測定し、最適な有効元素成分量と比較する土壌診断方法。
【請求項2】
土壌に赤外線を照射して、集められた拡散反射光をスペクトル分析して、土壌中の有効元素成分量を測定する拡散反射測定装置を、走行可能な自走車両に搭載し、該自走車両を圃場内で走行し、測定個所の土壌に直接赤外線を照射して、前記有効元素成分量を測定することを特徴とする、土壌診断装置。
【請求項3】
前記拡散反射測定装置は防振支持されることを特徴とする、請求項2に記載の土壌診断装置。
【請求項4】
前記拡散反射測定装置は、防塵機構が具備されることを特徴とする、請求項2に記載の土壌診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−203153(P2008−203153A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41272(P2007−41272)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】