説明

土留め工法

【課題】この発明は、シートパイルなどの土留め部材の引き抜きによる地中の空隙を生じさせず、施工後にも周囲の地盤や地下水の流れに変動を与えることがなく、環境問題を発生させない施工方法、そのための土留め部材および土留め工事プラントを提供することを目的とする。
【解決手段】溝を掘削し、硬化剤注入管が取り付けられた土留め部材で溝の両壁を土留めしながら溝内で作業をする土留め工法であって、硬化剤注入管は多重管であり、硬化剤注入管の先端部には複数の噴出孔8と栓9と栓9を上向きに付勢する付勢手段10が設けられており、溝を埋めた後に土留め部材を引き抜くとともに土留め部材に設けられた硬化剤注入管にゲルタイムが10秒以下の硬化剤を注入し、その圧力によって栓9を噴射口を塞がない位置に移動させ、硬化剤を横向きに地中に注入して土留め部材が引き抜かれた後の空隙を埋めることにより課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地中に水道管、ガス管、側溝、カルバートボックス等を埋設する土留め工事の施工に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地中で比較的浅いところに水道管、ガス管、カルバートボックス等を埋設する工事においては、まず溝の両壁を構成すべき位置に簡易矢板、鉄板、シートパイル等の土留め部材を設置して溝壁が崩れるのを防止した上で、地面を掘削して溝を形成し、溝内での水道管等の敷設作業が行われる。この工事について図5に基づいて説明する。
【0003】
舗装21をカッターで切って取り除き、溝の両壁を構成すべき位置に簡易矢板、鉄板、シートパイル等の土留め部材23を設置して溝壁が崩れるのを防止した上で、掘削を開始する。(図5a)。シートパイル23の転倒を防止するための横梁28を設置しながら所定の深さまで掘り進めて溝22を形成する(図5b)。水道管等の埋設の場合は1.2〜1.7m程度の深さに掘る場合が多い。このシートパイル23によって溝22の壁が崩れるのを防止し、その後の作業を溝内で安全に支障なく行えるようにする。溝22の底盤部を整地し、グリ24とよばれる小石を所定の厚さだけ敷き点圧を行う(図5c)。このグリ24の層の上に砂26と埋設物25を入れる(図5d)。砂26は埋設物25の上をある程度の厚さで覆う程度に入れる。さらに砂26の層の上に土27を盛って溝22を完全に埋める(図5e)。ここで、砂26および土27は十分な強度に固められるように25cm程度の厚さずつ入れては点圧器で点圧しながら盛っていく。溝22が完全に埋まったらシートパイル23を引き抜く。そして、舗装を行う(図5f)。
【0004】
上記のようなシートパイルを用いた工事に関連して、特許文献1には、シートパイルを整然と真直に押込み、建設公害を生じない土留めユニットが記載されている。
【特許文献1】特開平4−200481号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、シートパイルを用いた従来の工法において、工事の後半においてシートパイルの引き抜きが行われる。こうして回収されたシートパイルは次の工事で再利用されることになる。しかし、溝内に砂や土を盛った後にシートパイルを引く抜くことにより、地中にはシートパイルの体積分の空隙が生じることになる。この空隙の問題はこれまでほとんど検討されていない。この空隙を埋めるために周囲の土砂が移動し、さまざまな問題が生じうる。例えば、時間とともに溝内に充填した砂や土砂が空隙を埋めるために移動し、溝の上に敷かれた舗装面が沈下して、道路表面にくぼみを生じる。また、溝の外の土砂が移動することにより、溝の両側の地盤状態に変動をきたし、近くの建造物に影響を与えうる。さらに、周囲の地下水の状態が変われば、広範囲での影響も発生する。地下水は最も通りやすいところに水路を形成するので、シートパイルの引き抜きによって生じた空隙や、それを埋めるために移動した土砂によってできた水の通りやすい場所に新たな水路を形成し、周囲の地下水の流れが大きく変動する。この地下水の状態の変動によってそれまで保たれていた周囲の地盤の地圧のバランスがくずれ、地盤沈下等の地盤変動が生じ、そこに建造されている塀や建物等を変形させることになる。
【0006】
そこで、シートパイルによる空隙を生じさせないために、シートパイルを引き抜かず、施工後も地中へ残すことが考えられる。しかし、地中に残されたシートパイルは時間とともに酸化・腐食により消失し、いずれは上述のような問題が生じることに変わりがない。また、シートパイルの素材である金属が土壌や地下水等を汚染することになる。シートパイルを使い捨てにすることは資源としても無駄な消費である。
【0007】
この発明は、施工後にも周囲の地盤や地下水の流れに変動を与えることがなく、環境問題を生させない施工方法、そのための土留め部材および土留め工事プラントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するため、この発明の土留め部材は、硬化剤注入管取り付け手段を有するものである。さらに、この発明の土留め部材は、硬化剤注入管を有するものであってもよい。硬化剤注入管を、土留め部材本体部の高さより長い管本体部と、管本体部の先端付近に設けられた噴出口と、管本体部の先端付近に設けられた栓と、この栓を付勢する付勢手段とを有し、付勢手段に栓は噴出口をふさぐ位置に付勢されており、硬化剤が管本体部に注入されたときにはその圧力によって栓が噴出口をふさがない位置に移動するものとすることもできる。
【0009】
この発明の硬化剤注入管は土留め部材への取り付け手段を有するものである。先端部の側面の少なくとも一部を平面状にしてもよく、先端部に軸方向に対して傾斜した面が設けられていてもよい。長さ方向に沿って異なる位置に概ね等間隔で噴射口を設けて、多段に噴射するようにもできる。
【0010】
この発明の別の硬化剤注入管は、硬化剤が通過する複数の独立した通路と、それぞれの通路を通る硬化剤を噴射する噴射口を有し、前記噴射口が長さ方向に沿って異なる位置に設けられているものである。概ね同心円状に複数の管が組み合わされた多重管の構造にしてもよい。
【0011】
この発明の土留め工事プラントは、硬化材の原材料を貯蔵する原料貯留部と、給水手段と、硬化材の原材料と水を混合するミキサーと、混合された硬化剤を送る注入ポンプと、土留め部材と、硬化剤注入管とを有するものである。
【0012】
この発明の土留め工法は、溝を掘削し、土留め部材で溝の両壁を土留めしながら溝内で作業をする土留め工法であって、溝を埋めた後に土留め部材を引き抜くとともに硬化剤を地中に注入して土留め部材が引き抜かれた後の空隙を埋めるものである。硬化剤注入管を有する土留め部材によって土留めを行ってもよく、また、硬化剤注入管を土留め部材に隣接させながら所定間隔で設置し、土留め部材を引く抜いた後に硬化剤注入管を引き抜きながら硬化剤を地中に注入して土留め部材が引き抜かれた後の空隙を埋めてもよい。さらに、土留め部材として所定間隔で並んだ親杭と親杭間に設けられた横矢板よりなるものを使用し、硬化剤注入管を親杭に隣接させて設置するものであって、横矢板を外しながら溝を埋める工程と、硬化剤注入管で硬化剤を地中に注入ながら親杭を引き抜く工程を有するものでもよい。
【0013】
さらに、この発明の土留め工法は、既に設置された土留め部材に隣接させながら硬化剤注入管を所定間隔で設置し、土留め部材と硬化剤注入管を相互に固定し、土留め部材と硬化剤注入管を引き抜きながら硬化剤を地中に注入して土留め部材が引き抜かれた後の空隙を埋めるとすることもできる。長さ方向に沿って異なる位置に概ね等間隔で噴射口を有する硬化剤注入管によって、複数の深さにおいて同時に硬化剤を注入してもよい。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、施工後にもシートパイル等の土留め部材の引き抜きによる地中の空隙を作らず、周囲の地盤や地下水の流れに変動を与えることがなく、環境問題を生じない施工方法、そのための土留め部材および土留め工事プラントを実現できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明を実施するための最良の形態について、図面に基づいて説明する。図1はシートパイルを示す斜視図で、図2は硬化剤注入管の詳細を示す断面図、図3は土留め工事プラントを示す説明図、図4は硬化剤注入管の別の例の詳細を示す断面図、図5はシートパイルによる土留め工事の手順の手順を示す説明図である。
【0016】
図1に示す例においては土留め部材として、シートパイル1を使用する。シートパイル1は、シートパイル本体部2(土留め部材本体部)と、硬化剤注入管3とを有する。シートパイル本体部2に取り付け孔等の取り付け手段4を設け、留金5等によって硬化剤注入管3を着脱自由な状態で取り付けている。取り付け孔や取り付け板などの取り付け手段は、硬化剤注入管3に設けてもよく、さらにシートパイル本体部2と硬化剤注入管3の双方に設けてもよい。これ以外に、硬化剤注入管3をシートパイル本体2に溶接して、一体に形成してもよい。シートパイル本体2は、シートパイルとして通常使用されているものでよい。硬化剤注入管3は、その先端部がシートパイル本体部2の下端より下に出るように取り付けられる。
【0017】
硬化剤注入管3の先端部は様々な形状に成形することができる。図9は硬化剤注入管の先端部形状の例を示す説明図である。図9(a−1)は第1の先端部の例を示す正面図、図9(a−2)は同右側面図である。円柱を斜めに切断したような形状をしており、先端部には硬化剤注入管3の長さ方向に対して傾斜した面3aが形成されている。この先端部で最も突き出た部分がシートバイル1に接するように配置し、留金5などの取り付け手段によって固定する。先端部に傾斜した面3aを設け、このような向きでシートバイル1に取り付けることにより、硬化剤注入管3を地中へ打ち込むときに、先端部はシートパール1に対して押し付けられるような力が生じ、シートバイル1と硬化剤注入管3は強く接合された状態で地中に設置される。
【0018】
図9(b−1)は第2の先端部の例を示す正面図、図9(b−2)は同右側面図である。先端部には硬化剤注入管3の長さ方向に対して傾斜した面3aが形成されており、さらに側面でシートパイル1と接する側は平面状に形成されている。このように硬化剤注入管3の先端部の側面に平面を設けることにより、先端部においてシートバイル1と硬化剤注入管3は隙間なく密着させることができるので、打ち込む際にシートバイル1と硬化剤注入管3の間に土砂が入り込まなくなる。
【0019】
図9(c−1)は第3の先端部の例を示す正面図、図9(c−2)は同右側面図である。第2の先端部の例と同様に、先端部には硬化剤注入管3の長さ方向に対して傾斜した面3aが形成されており、さらに側面でシートパイル1と接する側は平面状に形成されている。そして、最先端の部分が尖った形に形成されており、第2の先端部の例のをさらに左右から切り取ったような形状になっている。このように先端を尖った形にすることにより、地中へ打ち込みやすくなる。
【0020】
図9(d−1)は第4の先端部の例を示す正面図、図9(d−2)は同右側面図である。側面でシートパイル1と接する側は平面状に形成されている。シートパイル1と接する側の先端部はには硬化剤注入管3の長さ方向に対して傾斜した面3aが形成されており、その逆側の先端部は概ね円錐状に形成されている。
【0021】
図9(e−1)は第5の先端部の例を示す正面図、図9(e−2)は同右側面図である。第4の先端部の例と同様に、側面でシートパイル1と接する側は平面状に形成されていて、シートパイル1と接する側の先端部はには硬化剤注入管3の長さ方向に対して傾斜した面3aが形成されており、その逆側の先端部は概ね円錐状に形成されている。そして、傾斜した面3aがさらに左右から切り取られて尖った先端が形成されている。
【0022】
図A(f−1)は第6の先端部の例を示す正面図、図9(f−2)は同右側面図である。先端部は円錐状に形成されており、鉛筆を削ったような形状になっている。硬化剤注入管3は打ち込む際にまっすぐ進行し、硬化剤注入管3を曲げるような力がかからない。
【0023】
図9(g−1)は第7の先端部の例を示す正面図、図9(g−2)は同右側面図である。先端は、軸方向に垂直な円形の面に形成されている。なお、図9に示されているの先端部の形状は例に過ぎず、これ以外の形状に加工してもよい。
【0024】
硬化剤注入管3は、中空となっている管本体部6を有し、上端部には注入口7が設けられており、先端部には噴出口8が複数設けられている。また、管本体部6の内部で先端部付近には円柱状の栓9が設けられ、この栓9は付勢手段10によって上向きに付勢されている。この付勢手段10の付勢力によって栓9は噴出口8をふさぐ位置に保持されている(図2a)。しかし、注入口7より管本体部6に硬化剤が注入されるとその圧力によって栓9は下へ押し下げられ、噴射口8を塞がない位置に移動する(図2a)。なお、栓9は上部の外周部が斜めに切り取られている。この傾斜した切り取り面に沿って硬化剤は横向きに導かれ、噴射口8から横に向いて地中に噴射される。
【0025】
硬化剤注入管3は、先端に切削用の噴出口を有するものでもよい。図10は切削用の噴出口を有する硬化剤注入管を示す断面図である。先端部には下方向に空気や水を噴出するための切削用の噴出口5cが設けられている。また、栓9にも穴9aが貫通している。硬化剤注入管3を打ち込むときは、図10(a)に示すように栓9の穴9aが塞がれていない状態である。上部から空気、水、または空気と水の双方を供給すると、これらの流体は穴9aを通過し、切削用の噴出口5cから下向きに地中に噴出される。このようにして、空気や水を噴出して土砂や切削しながら硬化剤注入管3を進行させることができる。
【0026】
硬化剤を注入するときには図10(b)に示すように穴9aの径より少し大きいスティールボールXを上部より硬化剤注入管3の中に投入する。スティールボールXは穴9aを塞ぐ。ついで、上部より硬化剤を注入すると、栓9は下へ押し下げられ、噴射口8が開放される。この噴射口8より、硬化剤が地中へ注入される。この例の硬化剤注入管3の先端もさまざまな形状に形成することができ、図9に示された形状やそれ以外の形状を自由に選択できる。
【0027】
次に、比較的浅い場所でこのシートパイル1を使用した埋設工事の施工方法について図5に基づいて説明する。舗装21をカッターで切って取り除き、溝の両壁を構成すべき位置にシートパイル1を設置して溝壁が崩れるのを防止した上で、掘削を開始する。(図5a)。左右のシートパイル1間に横梁28を設置しながら所定の深さまで掘り進めて溝22を形成する(図5b)。左右のシートパイル1間に設けられた突っ張りのための横梁によりシートパイルの転倒を防止し、シートパイルが溝の両壁を確実に押さえるようにする。
【0028】
ここで、シートパイルの配置について説明する。土留めとして設置するシートパイルの全てを硬化剤注入管が取り付けられたシートパイル1にすることは必ずしも必要ではなく、硬化剤注入管付きシートパイル1と硬化剤注入管が取り付けられていない通常のシートパイル23を併用してもよい。この実施の形態においては、図4に示すように硬化剤注入管が取り付けられたシートパイル1に続いて硬化剤注入管が取り付けられていない通常のシートパイル23が2基又は3基設置され、また硬化剤注入管が取り付けられたシートパイル1が設置されるという繰り返しで配置される。シートパイル1の硬化剤注入管3から注入された硬化剤が到達する距離の範囲内で次の硬化剤注入管付きシートパイル1が設置されるように配置すればよい。
【0029】
このシートパイル1によって溝22の壁が崩れるのを防止し、その後の作業を溝内で安全に支障なく行えるようにする。溝22の底盤部を整地し、グリ24とよばれる小石を所定の厚さだけ敷き点圧を行う(図5c)。このグリ24の層の上に砂26と埋設物25を入れる(図5d)。砂26は埋設物25の上をある程度の厚さで覆う程度に入れる。さらに砂26の層の上に土27を盛って溝22を完全に埋める(図5e)。ここで、砂26および土27は十分な強度に固められるように25cm程度の厚さずつ入れては点圧器で点圧しながら盛っていく。
【0030】
溝22が全て埋まるまで土27を盛ったら、シートパイルの引抜きを行う。シートパイルは端から順次引き抜くが、硬化剤注入管付きシートパイル1の引き抜きは硬化剤注入管3より地中に硬化剤を注入しながら行う。
【0031】
ここで、硬化剤の注入について説明する。土留め工事プラント11には水タンク12(給水手段)と材料貯留部13が設けられている。材料貯留部13にはセメント、ベントナイト、ケイ酸などの硬化剤の原材料が貯留されている。ミキサー14はホース15によって水タンク12および材料貯留部13と結ばれている。ミキサー14に送られた硬化剤の原料と水は混ぜ合わされ、硬化剤が調製される。注入ポンプ16から続いているホース15を硬化剤注入を行うべき位置のシートパイル1の硬化剤注入管3の注入口7に接続し、注入ポンプ16を作動させて、ミキサー14で混ぜ合わされた硬化剤を硬化剤注入管3へ送り、地中へ硬化剤を注入する。
【0032】
注入する硬化剤は、施工場所の土質に合わせて適宜選択すればよいが、比較的ゲルタイムが長く強度の高い材料を選定することが好ましい。本例ではゲルタイムが10〜20分程度のセメント系の硬化剤を使用している。この硬化剤は地中に均一に行き渡り、一時的な体積膨張を起こさないので、周辺の地面を持ち上げるようなことが起こらない。一方、地下水が通っている場所の近くや土圧がかかっている場所などでは、ゲルタイムの短い硬化剤を使うこともできる。
【0033】
硬化剤注入管3より地中に注入された硬化剤は、先に引き抜かれたシートパイル23および硬化剤注入管付きシートパイル1自体によってできる空隙を埋める。したがって、空隙に起因する地中の土壌の移動や地下水の水路の変化に伴う地盤状態の変動が発生しない。また、硬化剤は溝22内のグリ・砂・土にも浸透し、粒子間にある小さな空隙を埋めるとともに、溝内の強度を高める。
【0034】
硬化剤を供給するプラント11内には流量計17が設けられており、注入した硬化剤の量が把握できるようになっている。必要量の硬化剤を注入したら注入をやめ、その硬化剤注入管付きシートパイル1とそれに続く通常のシートパイル23を引く抜く。ついで、次の硬化剤注入管付きシートパイル1により硬化剤を注入する。以上、この作業を繰り返し、全てのシートパイル1,23を引き抜いたら、溝22の上に舗装21を敷き、工事を終了する。
【0035】
なお、硬化剤注入管としては、図4に示す二重管を使うこともできる。管本体部が外管6aと内管6bの二重構造になっており、例えば2種類の薬液(A液、B液)を注入し、ゲルタイムを10秒以下にすることもできる。この例の硬化剤注入管は下方向に噴出口8を有する。したがって、地中に打ち込む際に、下方向に空気を噴出しながら掘り進むことができ、後述の簡易矢板等を用いた方法などに適用して、土留め部材の設置と独立して別途設置するような使用もできる。これ以外にも硬化剤注入管としては、二重管や三重管などの多重管を含め、さまざまなものを使用することができる。図6に硬化剤注入管の変形例を示す。図6a〜cは硬化剤を横方向に噴出するタイプのものであり、主にシートパイルやH鋼に取り付けた状態で地中に挿入する方法に適したものである。図6d〜fは硬化剤を下方向に噴出するタイプのものである。図6b、eの二重管や図6c、fの三重管などを使用すると、多種類の薬液を使用することができる。
【0036】
以上、溝内に水道管を埋設する工事の例で説明をしたが、本発明の適用はこれにとどまらない。シートパイルにより土留めを行いながら行う工事について広く適用できることは明らかである。これらの場合も、工事の終盤において土留めに使用したシートパイルを引き抜くことに変わりがないので、硬化剤注入管付きシートパイルを適宜配置しておき、上述の通り硬化剤注入管付きより硬化剤を注入して先のシートパイルによって生じた空隙を埋めながら、シートパイルを引き抜いていけば、地中に空隙を残すことなく施工ができる。硬化剤注入により周囲の地盤の強化が合わせて行われることはいうまでもない。
【0037】
次に本発明の別の実施形態について説明する。図7は、簡易矢板による土留め工事の手順を示す説明図である。舗装21をカッターで切って取り除き、溝の両壁となる位置に簡易矢板29を押し込みながら溝を掘削する(図7a)。溝の掘削を進めながら途中で簡易矢板29の転倒防止のため、横梁28を左右両壁の簡易矢板29間に設けながら、所定の深さまで溝を掘り進める(図7b)。掘削が完了したならば、簡易矢板29の側部に隣接するように硬化剤注入管3を所定間隔で設置する(図7c)。ここでは、1m程度の間隔で硬化剤注入管3を設置しているが、各硬化剤注入管3から硬化剤が到達する距離によってこの間隔を適宜決めればよい。
【0038】
ついで、底部を整地し、所定の厚さまでグリ24を敷き、点圧を行う(図7d)。溝内に埋設物25を設置し、砂26の充填・点圧を繰り返しながら、埋設物25を固定する(図7e)。砂26の充填および横梁28の除去を行ったら、上層部に土27を充填し、さらに点圧を行う(図7f)。溝22が完全に埋まるまで土27を充填したら、簡易矢板29を引き抜く(図7g)。簡易矢板29を引き抜いた後に、硬化剤注入管3を引き上げながら硬化剤を地中に注入する。ここでは硬化剤注入管3を25cmずつ引き上げながら硬化剤を注入していった。簡易矢板29の引き上げによってできた空隙は、注入された硬化剤によって埋められるので、その後に地盤変動が生じることはない。なお、簡易矢板の変わりに鉄板等の土留め部材を使用しても同様である。
【0039】
さらに別の実施形態について図8に基づいて説明する。図8は、親杭30と横矢板31による土留め工事の手順を示す説明図である。溝22の両壁となる位置に沿ってH鋼等の親杭30を所定間隔で打設する(図8a)。あわせて、硬化剤注入管3を親杭30に隣接して設置する。硬化剤注入管3は予め親杭30に取り付けられた状態で設置してもよく、親杭30とは独立して設置してもよい。舗装21を取り除き、親杭30の間に溝の両壁となる横矢板31を設置しながら、溝を掘り進める(図8b)。溝の掘削を進めながら途中で横矢板31の転倒防止のため、横梁28を左右の横矢板31間に設けながら、所定の深さまで溝を掘り進める(図8c)。ついで、底部を整地し、所定の厚さまでグリ24を敷き、点圧を行う(図8d)。溝内に埋設物25を設置し、横矢板31を撤去しながら砂26の充填・点圧を繰り返して行い、埋設物25を固定する(図8e)。砂25の充填・点圧および横梁28・横矢板31の撤去を行ったら、上層部に土27を充填し、さらに点圧を行う(図8f)。溝22が完全に埋まるまで土27を充填したら、硬化剤注入管3で硬化剤を注入しながら親杭30を引き抜く。親杭30の引き上げによってできる空隙は、注入された硬化剤によって埋められる。親杭30の撤去が終了したら、溝22の上面に舗装の復旧を行う(図8g)。
【0040】
ここまでの例においては、硬化剤注入管の設置は土留め部材の設置時に行うものであった。しかし、既に埋設工事などのために設置された土留め部材であって、地中に残されたものもある。これらの土留め部材も単に引き抜けば地中に空隙を生じ、周囲に地盤沈下などの問題を発生させることに変わりがない。そこで、既に設置された土留め部材に隣接させながら硬化剤注入管3を所定間隔で設置し、土留め部材と硬化剤注入管をネジ止めや溶接などによって相互に固定して、土留め部材と硬化剤注入管を引き抜きながら硬化剤を地中に注入することもできる。このように硬化剤を地中に注入することによって土留め部材が引き抜かれた後の空隙を埋める。この場合、図9のa〜eの例のような先端部に軸方向に対して傾斜した面3bを有するものを使用すると、硬化剤注入管3を地中へ打ち込むときに、先端部はシートパイル1に対して押し付けられながら進行していく。このようにシートパイルの表面を滑りながら進行するほうが、土砂の抵抗を受けながら進行するよりも抵抗が少ないので、地中への設置が容易になる。
【0041】
硬化材の注入は先端部からだけでなく、硬化剤注入管3の途中からも注入することができる。図11は注入の方法を示す説明図である。図11(a)に示すように、噴出口を先端部のみに設け、硬化剤注入管がほぼ完全に引き抜かれるまで注入を行うこともできる。また、図11(b)に示すように、先端部のほか、地表から先端部までの約2分の1の深さに当たる位置にも噴出口を設け、2箇所の深さで同時に注入を行うこともできる。この場合、硬化剤注入管3を半分引き抜くまでの間だけ注入することにより、先端部から地表部付近までの全ての深さにおいて硬化剤を注入することができるので、注入時間を約半分に短縮することができる。
【0042】
図11(c)に示す例では、地表から先端部までの深さを約3等分し、それぞれの深さにほぼ等間隔で噴出口を設け、これらの噴出口から同時に硬化剤を注入する。注入する時間は、約3分の1に短縮することができる。
【0043】
図11(b)、(c)に示す多段式注入の例では、硬化剤注入管3は2重管または3重管になっており、2または3の通路が同心円状に形成されている。そして、各通路を通る硬化材の噴出口がそれぞれ異なる深さに設けられている。図11(b)、(c)の例では、上部から先端部まで外径は一定になっている。
【0044】
図12も多段式の硬化剤注入管の例を示す断面図であるが、変形例を示している。3重管構造になっているが、最も外の管は、地表から約3分の1の深さで終わっている。この約3分の1の深さの位置に噴出口が設けられており、最も外の通路を通る硬化剤が噴出される。その内側の管は地表から約3分の2の深さまで伸びでおり、その深さに噴出口が設けられいる。最も内側の管は最先端の深さ、すなわちシートパイルの下端の深さまで伸びでおり、やはり噴出口が設けられている。なお上部には専用のスイベル18が設けられており、それぞれの噴出口へつながる注入口が項けられている。
【0045】
図13はスイベルの例を示す断面図である。図13(a)は2重管用、図13(b)は3重管用を示す。たとえば、2重管の硬化剤注入管用の場合、スイベルも2重管構造を有する。上部には、注入ホース取り付け部19が2つ設けられており、それぞれ、内側の硬化剤通路および外側の硬化剤通路に硬化剤を供給することができる。先端部にはネジ部18aが設けられていて、硬化剤注入管3の上端部に接続できるようになっていて、スイベル18と硬化剤注入管3の内側の硬化剤通路同士および外側の硬化剤通路同士がつながる。3重管の場合も同様であり、3つの注入ホース取り付け部19が設けられており、スイベル18の3つの通路を介して硬化剤注入管3の通路へ硬化剤を供給できるようになっている。
【0046】
図14は、硬化剤注入管の接続部材の例を示す断面図である。深いところへ硬化剤を注入する場合、硬化剤注入管を複数のロッドに分割し、接続部材20で接続することができる。図14は、2重管の場合を示している。接続部材20は硬化剤注入管3の内側の硬化剤通路同士をつなぐ中心部の通路20aと外側の硬化剤通路同士をつなぐ外側の通路20bを有する。図14(a)に示すように、接続部材20の上下にネジ部を設けてロッド同士をネジ部によって接続してもよく、一方をOリングを介した差込式の接続にしてもよい。
【0047】
また、硬化剤に空気を混合して注入し、砂質土など注入しにくい土質でも均一に硬化剤を行き渡せることができる。図17に示すようなエジェクト装置により空気を薬液に混入して硬化剤注入管3に送り込む。
【0048】
図12、図14、図15に示すような多段式硬化剤注入管は、複数の異なる深さにおいて同時に硬化剤を注入できるので、土留め部材が設けられた全深さについて短時間で注入作業を行うことができる。したがって、多段式硬化剤注入管は土留め部材の引き抜きの際に使用すると、特に効果的である。しかし、この多段式硬化剤注入管は、これ以外にも広い用途で地中への硬化剤注入に適用することができる。図16はエアランナー工法の例を示す説明図である。この例においては、ボーリングマシン41によって硬化剤注入管3を設置している。ここでは、A液・B液の2種類の薬剤をグラウトポンプ42によってエジェクト装置43へ送り込む。エジェクト装置43にはエアコンプレッサー44も接続されている。図17はエジェクト装置43の詳細を示す断面図である。エジェクト装置43によってA液・B液の混合液と空気が混ぜ合わされ、硬化剤注入ホース45とスイベルを介して硬化剤注入管3へ供給される。
【0049】
硬化剤に空気を混合して地中に注入するので、硬化剤は広範囲に均一に行き渡るが、この発明の多段式硬化剤注入管を使用することによって、最深部から地表までの深さの範囲を一回の注入作業で効率的に行うことができる。したがって、作業時管を短縮でき、深さ方向にも均一な注入作業が行える。
【0050】
エアランナー工法においては、硬化剤注入管をケーシングに入れ、予め掘られた孔に硬化剤注入管をケーシングとともに設置することもできる。設置後、ケーシングを取り出し、硬化剤を注入する。
【産業上の利用可能性】
【0051】
この発明のシートパイルは、地中に水道管やガス管等を埋設する工事の施工等シートパイル等の土留め部材により土留めを行いながら行う工事について広く利用できるものである。土留め部材の跡に生じる空隙を残さないので、空隙に起因する地中の土壌の移動や地下水の水路の変化に伴う地盤状態の変動を発生させなることがなく、安全で環境への影響が少ない土留め工事が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】シートパイルを示す斜視図である。
【図2】硬化剤注入管の詳細を示す断面図である。
【図3】埋設工事ための現場プラントを示す説明図である。
【図4】硬化剤注入管の別の例を示す断面図である。
【図5】シートパイルによる土留め工事の手順を示す説明図である。
【図6】硬化剤注入管の変形例を示す断面図である。
【図7】簡易矢板による土留め工事の手順を示す説明図である。
【図8】親杭と横矢板による土留め工事の手順を示す説明図である。
【図9】硬化剤注入管の先端部を示す説明図である。
【図10】硬化剤注入管の別の例を示す断面図である。
【図11】硬化剤の注入を示す説明図である。
【図12】多段式硬化剤注入管の例を示す説明図である。
【図13】スイベルの例を示す断面図である。
【図14】硬化剤注入管の接続部材の例を示す断面図である。
【図15】多段式硬化剤注入管の別の例を示す説明図である。
【図16】エアランナー工法の例を示す説明図である。
【図17】エジェクト装置の詳細を示す断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1.シートパイル(土止め部材)
2.シートパイル本体部(土止め部材本体部)
3.硬化剤注入管
4.硬化剤注入管取り付け手段
5.留め金
6.管本体部
7.注入口
8.噴出口
9.栓
10.付勢手段
11.土留め工事プラント
12.水タンク
13.材料貯留部
14.ミキサー
15.ホース
16.注入ポンプ
17.流量計
18.スイベル
19.注入ホース取り付け部
20.接続部材
21.舗装
22.溝
23.シートパイル
24.グリ(小石)
25.埋設物
26.砂
27.土
28.横梁
29.簡易矢板
30.親杭
31.横矢板
41.ボーリングマシン
42.グラウトポンプ
43.エジェクト装置
44.エアコンプレッサー
45.硬化剤注入ホース



【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝を掘削し、硬化剤注入管が取り付けられた土留め部材で溝の両壁を土留めしながら溝内で作業をする土留め工法であって、硬化剤注入管は多重管であり、硬化剤注入管の先端部には複数の噴出孔と栓と栓を上向きに付勢する付勢手段が設けられており、溝を埋めた後に土留め部材を引き抜くとともに土留め部材に設けられた硬化剤注入管にゲルタイムが10秒以下の硬化剤を注入し、その圧力によって栓を噴射口を塞がない位置に移動させ、硬化剤を横向きに地中に注入して土留め部材が引き抜かれた後の空隙を埋める土留め工法。
【請求項2】
硬化剤注入管が取り付けられた土留め部材に続いて硬化剤注入管が取り付けられていない土留め部材が設置され、また硬化剤注入管が取り付けられた土留め部材が設置されるという繰り返しで設置し、硬化剤注入管が取り付けられた土留め部材を引き抜くときに硬化剤注入管より硬化剤を地中に注入して土留め部材が引き抜かれた後の空隙を埋める請求項1に記載の土留め工法。
【請求項3】
土留め部材として所定間隔で並んだ親杭と親杭間に設けられた横矢板よりなるものを使用し、硬化剤注入管を親杭に隣接させて設置するものであって、横矢板を外しながら溝を埋める工程と、硬化剤注入管で硬化剤を地中に注入ながら親杭を引き抜く工程を有する請求項1に記載の土留め工法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−291701(P2006−291701A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−173512(P2006−173512)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【分割の表示】特願2004−167868(P2004−167868)の分割
【原出願日】平成16年6月7日(2004.6.7)
【出願人】(504091555)
【出願人】(504092552)
【出願人】(504092563)
【Fターム(参考)】