土留壁
【課題】鋼矢板からなる土留壁を傾斜させる場合であっても、コーナー部において鋼矢板が干渉しないようにする。
【解決手段】鋼矢板21、31が横方向に連結されてなり、下方が掘削空間2側へ進出するように傾斜する土留壁10は、コーナー部30が下方に向かって横幅が狭まるような形状のコーナー部鋼矢板31が連結されてなる。
【解決手段】鋼矢板21、31が横方向に連結されてなり、下方が掘削空間2側へ進出するように傾斜する土留壁10は、コーナー部30が下方に向かって横幅が狭まるような形状のコーナー部鋼矢板31が連結されてなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼矢板を連結してなる傾斜した土留壁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、立孔や地下構造物を構築する際には、周囲の地盤を支持するため、土留壁を構築するが、土留壁のみでは自立することができないので、土留壁内に切梁支保工を架け渡す必要がある。このような切梁支保工を設けると、切梁支保工が土留壁内側における作業の障害となって作業性が損なわれるという問題がある。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、切梁支保工を省略するべく、土留壁の後方の地盤に鋼管杭を打設し、この鋼管杭により土留壁を支持する方法が記載されている。さらに、同文献には、土留壁を下方が掘削空間側へ進出するように傾斜させることにより、土圧を軽減できること(同文献図4参照)や、土留壁として鋼矢板を用いることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003―213669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のように土留壁を傾斜させる場合には、土留壁が湾曲するコーナー部において長方形状の鋼矢板を用いると、横方向に隣接する鋼矢板の下部同士が干渉してしまう。このため、土留壁を環状に閉合することができないので、止水性が要求される土留壁に適用することができない。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、鋼矢板からなる土留壁を傾斜させる場合であっても、コーナー部において鋼矢板が干渉しないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の土留壁は、鋼矢板が横方向に連結されてなり、下方が掘削空間側へ進出するように傾斜する土留壁であって、当該土留壁のコーナー部は、正面視において下方に向かって横幅が狭まるような形状の鋼矢板が連結されてなることを特徴とする。
【0008】
上記の土留壁において、前記コーナー部を構成する鋼矢板は、長方形状の本体部と、当該本体部の両側から平面視においてハの字型に広がるように延びる側部とを備えた一対の長方形の鋼矢板を、夫々前記本体部において互いに異なる方向に斜めに切断し、前記異なる方向に切断した鋼矢板を、切断面同士を溶接することで接続することで製造されていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、土留壁のコーナー部を構成する鋼矢板として、下方に向かって横幅が狭まるような形状のものを用いているため、コーナー部においても鋼矢板が干渉することがなく、連続的に土留壁を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態の土留壁のコーナー部を含む部分の斜視図である。
【図2】図1におけるI−I断面図である。
【図3】図1におけるII部の拡大平面図である。
【図4】直線部を構成する鋼矢板を示し、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は上面図である。
【図5】コーナー部を構成する鋼矢板を示し、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は上面図、(D)は底面図である。
【図6】コーナー部を構成する鋼矢板を製造する方法を説明するための図である。
【図7】コーナー部における鋼矢板の配置を模式的に示す斜視図である。
【図8】JKP平面を示す図である。
【図9】コーナー部の鋼矢板と平行な面を示す図である。
【図10】コーナー部を構成する鋼矢板を設計する別の方法を説明するための図である。
【図11】切断した鋼矢板を屈曲された状態に接続したコーナー部の鋼矢板を用いた実施形態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の土留壁の一実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の土留壁10のコーナー部を含む部分の斜視図、図2は図1におけるI−I断面図、図3は図1におけるII部の拡大平面図である。図1〜図3に示すように、本実施形態の土留壁10は、下方が掘削空間2側へ進出するように傾斜した状態で設けられた複数の鋼矢板21、31が横方向に連結されてなる。また、図1及び図3に示すように、土留壁10は、平面視において鋼矢板21が直線状に連結されてなる直線部20と、平面視において鋼矢板31が略円弧状に連結されてなるコーナー部30とが組み合わされて構成されており、敷地形状に合わせて環状に閉合されている。
【0012】
このように本実施形態の土留壁10は、下方が掘削空間2に側へ進出するように傾斜することにより、主働滑り崩壊面と土留壁10との間の土砂の体積が減り、土留壁10に作用する土圧が低減されるため、掘削空間2内に支保工を設けることなく、自立可能となる。なお、本実施形態では、山留壁を傾斜させることにより自立可能とした場合について説明するが、これに限らず、控え杭などの他の支持構造を設けてもよい。
【0013】
図4は、直線部20を構成する鋼矢板21を示し、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は上面図である。同図(A)に示すように、直線部20を構成する鋼矢板21は、正面視において長方形状を呈しており、正面視長方形状の本体部22と、本体部22の両端の縁から水平断面においてハの字型に延びる側部23と、側部23の縁に設けられ、端部が折り返されてなる連結部24とを備える。図3に示すように、土留壁10の直線部20は、隣接する鋼矢板21の連結部24同士を嵌合させることにより、複数の鋼矢板21が水平方向に連結されることで構成されている。
【0014】
図5は、コーナー部30を構成する鋼矢板31を示し、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は上面図、(D)は底面図である。同図(A)に示すように、コーナー部30を構成する鋼矢板31は、正面視において下方に向かって横幅が狭くなるような略台形状を呈しており、正面視において下方に向かって幅が狭まるような形状の本体部32と、本体部32の両端の縁から水平断面においてハの字型に延びる側部33と、側部33の縁に設けられ、端部が折り返されてなる連結部34とを備える。図3に示すように、土留壁10のコーナー部30は、直線部20を構成する鋼矢板21と同様に、隣接する鋼矢板31の連結部34同士を嵌合させることにより、複数の鋼矢板31が横方向に連結されることで構成されている。
【0015】
コーナー部30を構成する鋼矢板31は、以下に説明するように直線部20に用いられている長方形状の鋼矢板21を用いて製造することができる。
まず、図6に示すように、直線部20を構成する鋼矢板21と同様に正面視において長方形状の鋼矢板41A,41Bの本体部42を、長尺方向に互いに異なる方向に斜めに(すなわち、同図(A)では右上方から左下方に向かって、同図(B)では左上方から右下方に向かって)切断する。これにより、本体部42が異なる方向に斜めに切断された鋼矢板を夫々2枚ずつ製造することができる。
そして、同図(C)に示すように、これら異なる方向に斜めに切断された鋼矢板44A、44Bと,鋼矢板44C、44Dを、本体部42が平板状になるように切断面同士を溶接する。これにより、同図(C)に示すように、正面視において下方に向かって横幅が狭くなるような略台形状の2つの鋼矢板31を製造できる。
【0016】
以上説明したように、本実施形態によれば、コーナー部30を構成する鋼矢板31を下方に向かって横幅が狭まるような形状とすることで、コーナー部30においても隣接する鋼矢板31の下部が干渉することなく連続的に土留壁10を構築することができる。これにより、下部が掘削空間2側へ進出するような土留壁10であっても、環状に閉合させることができる。
【0017】
また、図6を参照して説明したように、一対の正面視長方形状の鋼矢板41A,41Bを、本体部42において長尺方向に互いに異なる方向に斜めに切断し、これら異なる方向に斜めに切断された一対の鋼矢板44A〜44Dの切断面同士を溶接することでコーナー部30を構成する鋼矢板31を製造することができる。すなわち、市販されている正面視において長方形状の鋼矢板を用いて、コーナー部30を構成する鋼矢板31を製造することができる。
【0018】
<設計式について>
以下、コーナー部30を構成する鋼矢板31の形状を設計するための設計式について説明する。
図6を参照して説明したように、コーナー部30を構成する鋼矢板31は、平面視長方形状な一対の鋼矢板41A,41Bを本体部42において互いに異なる方向に斜めに切断し、切断された鋼矢板44A,44Bと、鋼板44C,44Dを切断面同士で溶接接続して製造する。この長方形状の鋼矢板41A,41Bの長さをLとし、本体部42の上下の縁における側部から切断位置までの距離を夫々a、b(a>b)とし、切断面の鉛直方向に対する角度をφとする。なお、本実施形態では、鋼矢板41A、41Bとして、正面視において本体部の幅が200mm、側部の幅が100mmであるものを用いているが、鋼矢板41A、41Bの寸法はこれに限られない。本実施形態と異なる寸法の鋼矢板を用いる場合には、対応する数値に適宜置換することで、本実施形態の設計方法を用いることができる。
【0019】
図6(C)に示すように、コーナー部の鋼矢板31は、正面視において下方に向かって幅が狭まるような形状に形成されており、AD、BCの長さはΔAED、ΔBFCに着目することで以下の式(1)、(2)により算出することができる。
AD=2×(100+a)×cosφ …(1)
BC=2×(100+b)×cosφ …(2)
また、tanφ=(a―b)/Lより、cosφは以下の式(3)により算出できる。
【数1】
【0020】
図7は、コーナー部における鋼矢板の配置を模式的に示す斜視図である。同図において、点O、P、及び、Lの定義は次の通りである。
点O:各鋼矢板の側辺を延長した直線の交点
点P:円弧JKの中心、すなわち、点Oの直上で、鋼矢板の上端と同じ高さの点
点L:点Jから、点Oを含む水平面へ下ろした垂線の脚
同図に示すように、コーナー部を構成する鋼矢板は円錐台の外周面に沿うように配置されている。ここで、平面視におけるコーナー部の角度(すなわち、コーナー部を挟む直線部の角度)をεとし、鋼矢板の鉛直方向に対する角度(すなわち、土留壁の傾斜確度)をθとし、コーナー部を構成する鋼矢板31の枚数をnとする。
【0021】
図8は、JKP平面を示す図である。同図におけるΔPADは、AP=DP(=r1)の二等辺三角形である。このΔPADにおいて、PからADにおろした垂線の足をH´とすると、以下の式(4)が導かれる。
AH´=r1×sin(ε/2n) …(4)
【0022】
また、AH´=AD/2であるので、以下の式(5)、(6)が導かれる。
(100+a)cosφ=r1×sin(ε/2n) …(5)
r1=(100+a)cosφ/sin(ε/2n) …(6)
【0023】
次に、直角三角形JLOに着目すると、以下の式(7)が導かれる。
JO=r2=r1/sinθ
=(100+a)cosφ/{sinθ×sin(ε/2n)} …(7)
【0024】
図9は、コーナー部の鋼矢板と平行な面を示す図である。同図に示すように、ΔOADはAO=DOの二等辺三角形である。ΔOADとΔOBCとは相似形であるため、以下の式(8)が成立する。
AD/BC=AO/BO …(8)
【0025】
よって以下の式(9)が成立する。
【数2】
【0026】
上記の式においてsinθsin(ε/2n)=αとすると、上記の式(9)は、以下(10)に置きかえられる。
【数3】
【0027】
よって、(100+a)cosφ−αL=(100+b)cosφとなり、以下の式(11)が導かれる。
(a−b)cosφ=αL …(11)
【0028】
<計算例>
以下、上記の設計式に基づき、コーナー部の鋼矢板を設計する計算例を示す。
本計算例では、L=9000[mm]、ε=90°、θ=10°とする。また、隣接する鋼矢板の折角度は6°以下とする必要があるため、n=16とする。切断、溶接によるロスを考慮した本体部の縁の長さをDとし、鋼矢板を切断、溶接する際の加工によるロスが10[mm]あるものとすると以下の式(12)が導かれる。
a+b=D=200−10=190 …(12)
【0029】
また、上記の式(3)、(6)、(11)を連立させることで以下の式(13)が算出される。
a−b=76.77 …(13)
さらに、この式(13)と式(12)とを連立させることで、a=133.386[mm]、b=56.614[mm]と求めることができる。
【0030】
なお、上記の鋼矢板の設計方法では、計算によりコーナー部を構成する鋼矢板を設計していたが、鋼矢板の設計方法はこれに限られない。土留壁のコーナー部を構成する鋼矢板が略台形状を呈しているとともに、円錐台の表面の一部に沿うように配置されている場合には、以下に説明するようにして鋼矢板の形状を設計することができる。以下の説明では、コーナー部の角度が90°である場合について説明する。
【0031】
まず、土留壁の上端高さでのコーナー部における鋼矢板の配置を決定する。隣接する鋼矢板の折角度は6°以下とする必要があるため、配置する枚数をn=16枚とする。これにより、隣接する鋼矢板の折角度は90°/16=5.625°となる。なお、コーナー部の端部の鋼矢板と直線部の端部の鋼矢板との折角度は5.625°/2=2.8125°とする。
【0032】
次に、図10(A)に示すように、直線部の端部から、直線部に対して、2.8125°傾いた直線をひき、この直線とコーナー部の上端部の形状を示す線との交点を求める。この交点が1枚目の鋼矢板と2枚目の鋼矢板との連結位置となる。同様に、1枚目の鋼矢板に対して、5.625°傾いた直線をひき、この直線とコーナー部の上端部の形状を示す線との交点を求める。この交点が2枚目の鋼矢板と3枚目の鋼矢板の連結位置となる。このようにして、コーナー部を構成する鋼矢板の連結位置を順次求めていく。そして、隣接する鋼矢板の連結位置間の距離が鋼矢板の上辺の長さとなる。
【0033】
次に、鋼矢板の平面視における長さを算出する。例えば、鋼矢板の長さL=9000[mm]、鋼矢板の傾きが鉛直から10°である場合には、9000×sin10°で算出できる。そして、図10(B)に示すように、コーナー部の上端部を示す円弧と同心の、半径がコーナー部の円弧の半径よりも上記算出した鋼矢板の平面視における長さ分短い円弧を描く。この円弧が、コーナー部の下端部の形状を示す。そして、このコーナー部の下端部の形状を示す円弧と、鋼矢板の端部と円弧の中心とを結ぶ線分との交点が、平面視におけるコーナー部の下端部の鋼矢板の連結位置となる。すなわち、隣接する下端部の鋼矢板の連結位置の長さを求めることで、鋼矢板の形状が決定される。
本実施形態のように、コーナー部を構成する鋼矢板を幾何的に設計することも可能である。
【0034】
なお、上記の実施形態では、切断した鋼矢板を本体部が平板状になるように溶接してコーナー部の鋼矢板を製造したが、これに限らず、図11に示すように、切断した鋼矢板を屈曲された状態に接続したコーナー部の鋼矢板131を用いてもよい。かかる場合には、コーナー部を構成するために必要な鋼矢板の枚数を減らすことができ、また、コーナー部の径を小さくすることができるため、デッドスペースを削減することができる。
【符号の説明】
【0035】
2 掘削空間
10 土留壁
20 直線部
21、31、41A,41B 鋼矢板
22、32、42 本体部
23、33 側部
24、34、44A、44B、44C、44D 連結部
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼矢板を連結してなる傾斜した土留壁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、立孔や地下構造物を構築する際には、周囲の地盤を支持するため、土留壁を構築するが、土留壁のみでは自立することができないので、土留壁内に切梁支保工を架け渡す必要がある。このような切梁支保工を設けると、切梁支保工が土留壁内側における作業の障害となって作業性が損なわれるという問題がある。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、切梁支保工を省略するべく、土留壁の後方の地盤に鋼管杭を打設し、この鋼管杭により土留壁を支持する方法が記載されている。さらに、同文献には、土留壁を下方が掘削空間側へ進出するように傾斜させることにより、土圧を軽減できること(同文献図4参照)や、土留壁として鋼矢板を用いることができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003―213669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のように土留壁を傾斜させる場合には、土留壁が湾曲するコーナー部において長方形状の鋼矢板を用いると、横方向に隣接する鋼矢板の下部同士が干渉してしまう。このため、土留壁を環状に閉合することができないので、止水性が要求される土留壁に適用することができない。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、鋼矢板からなる土留壁を傾斜させる場合であっても、コーナー部において鋼矢板が干渉しないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の土留壁は、鋼矢板が横方向に連結されてなり、下方が掘削空間側へ進出するように傾斜する土留壁であって、当該土留壁のコーナー部は、正面視において下方に向かって横幅が狭まるような形状の鋼矢板が連結されてなることを特徴とする。
【0008】
上記の土留壁において、前記コーナー部を構成する鋼矢板は、長方形状の本体部と、当該本体部の両側から平面視においてハの字型に広がるように延びる側部とを備えた一対の長方形の鋼矢板を、夫々前記本体部において互いに異なる方向に斜めに切断し、前記異なる方向に切断した鋼矢板を、切断面同士を溶接することで接続することで製造されていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、土留壁のコーナー部を構成する鋼矢板として、下方に向かって横幅が狭まるような形状のものを用いているため、コーナー部においても鋼矢板が干渉することがなく、連続的に土留壁を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態の土留壁のコーナー部を含む部分の斜視図である。
【図2】図1におけるI−I断面図である。
【図3】図1におけるII部の拡大平面図である。
【図4】直線部を構成する鋼矢板を示し、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は上面図である。
【図5】コーナー部を構成する鋼矢板を示し、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は上面図、(D)は底面図である。
【図6】コーナー部を構成する鋼矢板を製造する方法を説明するための図である。
【図7】コーナー部における鋼矢板の配置を模式的に示す斜視図である。
【図8】JKP平面を示す図である。
【図9】コーナー部の鋼矢板と平行な面を示す図である。
【図10】コーナー部を構成する鋼矢板を設計する別の方法を説明するための図である。
【図11】切断した鋼矢板を屈曲された状態に接続したコーナー部の鋼矢板を用いた実施形態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の土留壁の一実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の土留壁10のコーナー部を含む部分の斜視図、図2は図1におけるI−I断面図、図3は図1におけるII部の拡大平面図である。図1〜図3に示すように、本実施形態の土留壁10は、下方が掘削空間2側へ進出するように傾斜した状態で設けられた複数の鋼矢板21、31が横方向に連結されてなる。また、図1及び図3に示すように、土留壁10は、平面視において鋼矢板21が直線状に連結されてなる直線部20と、平面視において鋼矢板31が略円弧状に連結されてなるコーナー部30とが組み合わされて構成されており、敷地形状に合わせて環状に閉合されている。
【0012】
このように本実施形態の土留壁10は、下方が掘削空間2に側へ進出するように傾斜することにより、主働滑り崩壊面と土留壁10との間の土砂の体積が減り、土留壁10に作用する土圧が低減されるため、掘削空間2内に支保工を設けることなく、自立可能となる。なお、本実施形態では、山留壁を傾斜させることにより自立可能とした場合について説明するが、これに限らず、控え杭などの他の支持構造を設けてもよい。
【0013】
図4は、直線部20を構成する鋼矢板21を示し、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は上面図である。同図(A)に示すように、直線部20を構成する鋼矢板21は、正面視において長方形状を呈しており、正面視長方形状の本体部22と、本体部22の両端の縁から水平断面においてハの字型に延びる側部23と、側部23の縁に設けられ、端部が折り返されてなる連結部24とを備える。図3に示すように、土留壁10の直線部20は、隣接する鋼矢板21の連結部24同士を嵌合させることにより、複数の鋼矢板21が水平方向に連結されることで構成されている。
【0014】
図5は、コーナー部30を構成する鋼矢板31を示し、(A)は正面図、(B)は側面図、(C)は上面図、(D)は底面図である。同図(A)に示すように、コーナー部30を構成する鋼矢板31は、正面視において下方に向かって横幅が狭くなるような略台形状を呈しており、正面視において下方に向かって幅が狭まるような形状の本体部32と、本体部32の両端の縁から水平断面においてハの字型に延びる側部33と、側部33の縁に設けられ、端部が折り返されてなる連結部34とを備える。図3に示すように、土留壁10のコーナー部30は、直線部20を構成する鋼矢板21と同様に、隣接する鋼矢板31の連結部34同士を嵌合させることにより、複数の鋼矢板31が横方向に連結されることで構成されている。
【0015】
コーナー部30を構成する鋼矢板31は、以下に説明するように直線部20に用いられている長方形状の鋼矢板21を用いて製造することができる。
まず、図6に示すように、直線部20を構成する鋼矢板21と同様に正面視において長方形状の鋼矢板41A,41Bの本体部42を、長尺方向に互いに異なる方向に斜めに(すなわち、同図(A)では右上方から左下方に向かって、同図(B)では左上方から右下方に向かって)切断する。これにより、本体部42が異なる方向に斜めに切断された鋼矢板を夫々2枚ずつ製造することができる。
そして、同図(C)に示すように、これら異なる方向に斜めに切断された鋼矢板44A、44Bと,鋼矢板44C、44Dを、本体部42が平板状になるように切断面同士を溶接する。これにより、同図(C)に示すように、正面視において下方に向かって横幅が狭くなるような略台形状の2つの鋼矢板31を製造できる。
【0016】
以上説明したように、本実施形態によれば、コーナー部30を構成する鋼矢板31を下方に向かって横幅が狭まるような形状とすることで、コーナー部30においても隣接する鋼矢板31の下部が干渉することなく連続的に土留壁10を構築することができる。これにより、下部が掘削空間2側へ進出するような土留壁10であっても、環状に閉合させることができる。
【0017】
また、図6を参照して説明したように、一対の正面視長方形状の鋼矢板41A,41Bを、本体部42において長尺方向に互いに異なる方向に斜めに切断し、これら異なる方向に斜めに切断された一対の鋼矢板44A〜44Dの切断面同士を溶接することでコーナー部30を構成する鋼矢板31を製造することができる。すなわち、市販されている正面視において長方形状の鋼矢板を用いて、コーナー部30を構成する鋼矢板31を製造することができる。
【0018】
<設計式について>
以下、コーナー部30を構成する鋼矢板31の形状を設計するための設計式について説明する。
図6を参照して説明したように、コーナー部30を構成する鋼矢板31は、平面視長方形状な一対の鋼矢板41A,41Bを本体部42において互いに異なる方向に斜めに切断し、切断された鋼矢板44A,44Bと、鋼板44C,44Dを切断面同士で溶接接続して製造する。この長方形状の鋼矢板41A,41Bの長さをLとし、本体部42の上下の縁における側部から切断位置までの距離を夫々a、b(a>b)とし、切断面の鉛直方向に対する角度をφとする。なお、本実施形態では、鋼矢板41A、41Bとして、正面視において本体部の幅が200mm、側部の幅が100mmであるものを用いているが、鋼矢板41A、41Bの寸法はこれに限られない。本実施形態と異なる寸法の鋼矢板を用いる場合には、対応する数値に適宜置換することで、本実施形態の設計方法を用いることができる。
【0019】
図6(C)に示すように、コーナー部の鋼矢板31は、正面視において下方に向かって幅が狭まるような形状に形成されており、AD、BCの長さはΔAED、ΔBFCに着目することで以下の式(1)、(2)により算出することができる。
AD=2×(100+a)×cosφ …(1)
BC=2×(100+b)×cosφ …(2)
また、tanφ=(a―b)/Lより、cosφは以下の式(3)により算出できる。
【数1】
【0020】
図7は、コーナー部における鋼矢板の配置を模式的に示す斜視図である。同図において、点O、P、及び、Lの定義は次の通りである。
点O:各鋼矢板の側辺を延長した直線の交点
点P:円弧JKの中心、すなわち、点Oの直上で、鋼矢板の上端と同じ高さの点
点L:点Jから、点Oを含む水平面へ下ろした垂線の脚
同図に示すように、コーナー部を構成する鋼矢板は円錐台の外周面に沿うように配置されている。ここで、平面視におけるコーナー部の角度(すなわち、コーナー部を挟む直線部の角度)をεとし、鋼矢板の鉛直方向に対する角度(すなわち、土留壁の傾斜確度)をθとし、コーナー部を構成する鋼矢板31の枚数をnとする。
【0021】
図8は、JKP平面を示す図である。同図におけるΔPADは、AP=DP(=r1)の二等辺三角形である。このΔPADにおいて、PからADにおろした垂線の足をH´とすると、以下の式(4)が導かれる。
AH´=r1×sin(ε/2n) …(4)
【0022】
また、AH´=AD/2であるので、以下の式(5)、(6)が導かれる。
(100+a)cosφ=r1×sin(ε/2n) …(5)
r1=(100+a)cosφ/sin(ε/2n) …(6)
【0023】
次に、直角三角形JLOに着目すると、以下の式(7)が導かれる。
JO=r2=r1/sinθ
=(100+a)cosφ/{sinθ×sin(ε/2n)} …(7)
【0024】
図9は、コーナー部の鋼矢板と平行な面を示す図である。同図に示すように、ΔOADはAO=DOの二等辺三角形である。ΔOADとΔOBCとは相似形であるため、以下の式(8)が成立する。
AD/BC=AO/BO …(8)
【0025】
よって以下の式(9)が成立する。
【数2】
【0026】
上記の式においてsinθsin(ε/2n)=αとすると、上記の式(9)は、以下(10)に置きかえられる。
【数3】
【0027】
よって、(100+a)cosφ−αL=(100+b)cosφとなり、以下の式(11)が導かれる。
(a−b)cosφ=αL …(11)
【0028】
<計算例>
以下、上記の設計式に基づき、コーナー部の鋼矢板を設計する計算例を示す。
本計算例では、L=9000[mm]、ε=90°、θ=10°とする。また、隣接する鋼矢板の折角度は6°以下とする必要があるため、n=16とする。切断、溶接によるロスを考慮した本体部の縁の長さをDとし、鋼矢板を切断、溶接する際の加工によるロスが10[mm]あるものとすると以下の式(12)が導かれる。
a+b=D=200−10=190 …(12)
【0029】
また、上記の式(3)、(6)、(11)を連立させることで以下の式(13)が算出される。
a−b=76.77 …(13)
さらに、この式(13)と式(12)とを連立させることで、a=133.386[mm]、b=56.614[mm]と求めることができる。
【0030】
なお、上記の鋼矢板の設計方法では、計算によりコーナー部を構成する鋼矢板を設計していたが、鋼矢板の設計方法はこれに限られない。土留壁のコーナー部を構成する鋼矢板が略台形状を呈しているとともに、円錐台の表面の一部に沿うように配置されている場合には、以下に説明するようにして鋼矢板の形状を設計することができる。以下の説明では、コーナー部の角度が90°である場合について説明する。
【0031】
まず、土留壁の上端高さでのコーナー部における鋼矢板の配置を決定する。隣接する鋼矢板の折角度は6°以下とする必要があるため、配置する枚数をn=16枚とする。これにより、隣接する鋼矢板の折角度は90°/16=5.625°となる。なお、コーナー部の端部の鋼矢板と直線部の端部の鋼矢板との折角度は5.625°/2=2.8125°とする。
【0032】
次に、図10(A)に示すように、直線部の端部から、直線部に対して、2.8125°傾いた直線をひき、この直線とコーナー部の上端部の形状を示す線との交点を求める。この交点が1枚目の鋼矢板と2枚目の鋼矢板との連結位置となる。同様に、1枚目の鋼矢板に対して、5.625°傾いた直線をひき、この直線とコーナー部の上端部の形状を示す線との交点を求める。この交点が2枚目の鋼矢板と3枚目の鋼矢板の連結位置となる。このようにして、コーナー部を構成する鋼矢板の連結位置を順次求めていく。そして、隣接する鋼矢板の連結位置間の距離が鋼矢板の上辺の長さとなる。
【0033】
次に、鋼矢板の平面視における長さを算出する。例えば、鋼矢板の長さL=9000[mm]、鋼矢板の傾きが鉛直から10°である場合には、9000×sin10°で算出できる。そして、図10(B)に示すように、コーナー部の上端部を示す円弧と同心の、半径がコーナー部の円弧の半径よりも上記算出した鋼矢板の平面視における長さ分短い円弧を描く。この円弧が、コーナー部の下端部の形状を示す。そして、このコーナー部の下端部の形状を示す円弧と、鋼矢板の端部と円弧の中心とを結ぶ線分との交点が、平面視におけるコーナー部の下端部の鋼矢板の連結位置となる。すなわち、隣接する下端部の鋼矢板の連結位置の長さを求めることで、鋼矢板の形状が決定される。
本実施形態のように、コーナー部を構成する鋼矢板を幾何的に設計することも可能である。
【0034】
なお、上記の実施形態では、切断した鋼矢板を本体部が平板状になるように溶接してコーナー部の鋼矢板を製造したが、これに限らず、図11に示すように、切断した鋼矢板を屈曲された状態に接続したコーナー部の鋼矢板131を用いてもよい。かかる場合には、コーナー部を構成するために必要な鋼矢板の枚数を減らすことができ、また、コーナー部の径を小さくすることができるため、デッドスペースを削減することができる。
【符号の説明】
【0035】
2 掘削空間
10 土留壁
20 直線部
21、31、41A,41B 鋼矢板
22、32、42 本体部
23、33 側部
24、34、44A、44B、44C、44D 連結部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼矢板が横方向に連結されてなり、下方が掘削空間側へ進出するように傾斜する土留壁であって、
当該土留壁のコーナー部は、正面視において下方に向かって横幅が狭まるような形状の鋼矢板が連結されてなることを特徴とする土留壁。
【請求項2】
請求項1記載の土留壁であって、
前記コーナー部を構成する鋼矢板は、
長方形状の本体部と、当該本体部の両側から平面視においてハの字型に広がるように延びる側部とを備えた一対の長方形の鋼矢板を、夫々前記本体部において互いに異なる方向に斜めに切断し、
前記異なる方向に切断した鋼矢板を、切断面同士を溶接することで接続することで製造されていることを特徴とする土留壁。
【請求項1】
鋼矢板が横方向に連結されてなり、下方が掘削空間側へ進出するように傾斜する土留壁であって、
当該土留壁のコーナー部は、正面視において下方に向かって横幅が狭まるような形状の鋼矢板が連結されてなることを特徴とする土留壁。
【請求項2】
請求項1記載の土留壁であって、
前記コーナー部を構成する鋼矢板は、
長方形状の本体部と、当該本体部の両側から平面視においてハの字型に広がるように延びる側部とを備えた一対の長方形の鋼矢板を、夫々前記本体部において互いに異なる方向に斜めに切断し、
前記異なる方向に切断した鋼矢板を、切断面同士を溶接することで接続することで製造されていることを特徴とする土留壁。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1】
【公開番号】特開2011−190618(P2011−190618A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58035(P2010−58035)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
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