説明

圧入装置

【課題】 外形にバラツキがあるような圧入部材を扱う場合にも、より高精度に圧入できる圧入装置を提供する。
【解決手段】 圧入部材を保持する圧入部材保持機構10を有する圧入装置において、圧入部材保持機構10は、圧入部材を保持する保持部材20と、圧入部材の被加圧面に当接して圧入部材を加圧する加圧部材30を備え、保持部材20と加圧部材30は、コンプライアンス機構40を介して結合されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被圧入部材に圧入部材を圧入するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばモータの軸受ハウジングに軸受を圧入するための装置として、図6に示すようなカップリング材100(コンプライアンス機構)を備えるものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このカップリング材100は、上部接合板101と下部接合板102を弾性体103で接合したものであり、上部接合板101は不図示の上下移動機構に保持され、下部接合板102には軸受保持部材110(図7参照)が取り付けられる。
【0004】
上記のようなカップリング材100を取り付けることにより、図7(a)に示すように、軸受保持部材110に保持された軸受111の中心線Xと軸受ハウジング112の中心線Yに水平誤差δが生じていた場合、この水平誤差δを解消する方向に軸受保持部材110を変位させることができる。また、図7(b)に示すように、軸受保持部材110に保持された軸受111の中心線Xと軸受ハウジング112の中心線Yに角度誤差Δθが生じていた場合も、この角度誤差Δθを解消する方向に軸受保持部材110を変位させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭61−54429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の圧入装置によれば、軸受保持部材110に対して軸受ハウジング112がある程度偏位している場合にも、その偏位量がカップリング材100により吸収され、軸受111を軸受ハウジング112にスムーズに圧入することができる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の圧入装置では、寸法や垂直度が極めて高精度に管理されている高価なころがり軸受を扱う場合には十分な効果を期待できるものの、より低価格な焼結含油軸受や樹脂軸受などの滑り軸受のように、少なからず寸法や形状にバラツキがあるような圧入部材を扱う場合には、次のような問題がある。
【0008】
一般に軸受は、軸孔の中心線に対して上下端面が垂直になるように設計されている。しかしながら、例えば焼結含油軸受や樹脂軸受では、図8(a)に示すように、軸受111の軸孔111aの中心線Xに対して、上端面111b(もしくは下端面111c)が垂直ではなく僅かに傾いて成形される場合がある。
このような軸受を特許文献1に記載の圧入装置にセットすると、図8(b)のように、軸受保持部材110の下面(加圧面)と軸受111の上面(被加圧面)との間に隙間120が生じる。
そして、カップリング材100の作用によって軸受111の中心線Xと軸受ハウジング112の中心線Yが一致した状態で圧入されたとしても、図8(c)のように、軸受111は軸受ハウジング112に傾いた状態で圧入されてしまう。
このため、軸孔111aの中心線Xが、軸受ハウジング112の中心線Yに対して傾き、軸孔111aに挿入されるモータの回転軸も傾いてしまい、要求される軸垂度や回転精度が得られなくなる。
【0009】
そこで本発明は、上述のような従来技術が抱える問題を解消し、外形にバラツキがあるような圧入部材を扱う場合にも、より高精度に圧入できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成すべく為された本発明は、圧入部材を保持する圧入部材保持機構を有する圧入装置において、
前記圧入部材保持機構は、前記圧入部材を保持する保持部材と、前記圧入部材の被加圧面に当接して前記圧入部材を加圧する加圧部材を備え、
前記保持部材と前記加圧部材は、コンプライアンス機構を介して結合されていることを特徴としているものである。
【0011】
本発明の圧入装置は、更なる好ましい特徴として、
「前記加圧部材は、加圧時に、前記圧入部材の被加圧面に追従するように変位すること」、
「前記圧入部材は、前記保持部材が挿嵌される孔を有すること」、
「前記圧入部材は軸受であること」、
を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の圧入装置によれば、圧入部材を保持する保持部材と、圧入部材を加圧する加圧部材は、コンプライアンス機構を介して結合されているため、加圧部材は保持部材から独立した動きが可能になる。このため、加圧部材の加圧面は、保持部材に保持された圧入部材の被加圧面に追従するように変位することができ、外形にバラツキがあるような圧入部材をより高精度に圧入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態例に係る圧入装置の圧入部材保持機構を示す断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態例に係る圧入装置の基本的な圧入動作を説明するための断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態例に係る圧入装置による特有の動作を説明するための断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態例に係る圧入装置の圧入部材保持機構を示す断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態例に係る圧入装置による特有の動作を説明するための断面図である。
【図6】コンプライアンス機構の一例を示す斜視図である。
【図7】従来例の圧入装置を説明するための断面図である。
【図8】従来例の圧入装置による圧入状態を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を例示的に説明する。
【0015】
(第1の実施形態例)
図1は本発明の第1の実施形態例に係る圧入装置の圧入部材保持機構10を示す図である。
本例の圧入装置は、圧入部材である焼結含油軸受を、被圧入部材である軸受ハウジングに所定の深さ圧入するように構成されているものである。
【0016】
圧入部材保持機構10は、焼結含油軸受を保持する保持部材20と、焼結含油軸受を加圧する加圧部材30と、コンプライアンス機構40を備えている。
【0017】
なお、本例の圧入装置は、圧入部材保持機構10を上下動可能に支持する不図示の加圧機構を含む上下移動機構の他、圧入荷重を検知するロードセル、基準位置に対する焼結含油軸受の位置を検知する位置センサ、ロードセルおよび位置センサの出力信号等を受信し圧入装置を制御する制御装置などを備えることができる。
【0018】
保持部材20は、基端部21と、基端部21の中央から下方に突設された円柱状の保持部22と、基端部21の外縁から下方に突設された円筒状の垂下部23を有している。この保持部材20は、保持部22の先端部分が焼結含油軸受の軸孔に挿嵌され、焼結含油軸受を保持するものである。
【0019】
加圧部材30は、円筒状の基部31と、基部31から下方に突設された円筒状の加圧部32を有している。加圧部32の外径D1は、軸受ハウジング60の軸受孔61の直径D2(図2参照)より小さい。
また、加圧部材30の中心には、基部31と加圧部32を貫くように、保持部22の外径D3より若干大きい挿通孔33が設けられている。
【0020】
保持部材20の垂下部23と加圧部材30の基部31は、コンプライアンス機構40を介して結合されている。この結合状態において、保持部材20の保持部22は、加圧部材30の挿通孔33に挿され、保持部22と加圧部材30との間には所定の間隙が形成されている。
【0021】
コンプライアンス機構40は、垂下部23の内側部23aと基部31の外側部31aの間に挟み込まれた弾性体からなる複数の球体41を有して構成されている。このコンプライアンス機構40により、垂下部23の内側部23aと基部31の外側部31aとは間隙42をもって配設され、垂下部23と基部31は球体41によって連結されている。
【0022】
垂下部23の内側部23aと基部31の外側部31aには、それぞれ対向する部分に円錐台の溝23b,31bが形成され、この溝23b,31bに跨って球体41が収納されている。本実施例では、3個の球体41を120度ピッチで等間隔に配置している(ただし、図1の断面図には球体41は2個だけ示されている。)。
なお、球体41の弾性係数及び個数や溝23b,31bの形状などは、所定のコンプライアンス性が得られるように適宜設計することができる。
【0023】
このようにコンプライアンス機構40を介して保持部材20と加圧部材30を結合しているため、保持部材20を固定した状態で加圧部32に力を加えると、各球体41が任意に弾性変形して加圧部32はすべての方向にコンプライアンス性を持つことができる。
【0024】
図2は、本例の圧入装置による基本的な圧入動作を説明するための図である。
被圧入部材である軸受ハウジング60は、上部開口の周縁に形成された面取部62によって上端が拡開された形状を有しており、不図示の固定装置によって固定されている。一方、圧入部材である焼結含油軸受50は保持部材20に保持されている(図2(a)参照。)
まず、不図示の上下移動機構により圧入部材保持機構10が下降すると、保持部22に保持されている焼結含油軸受50は、加圧部材30の加圧部32によって加圧され、軸受ハウジング60に圧入される(図2(b)参照)。
次に、圧入部材保持機構10が上昇すると、焼結含油軸受50が保持部22から抜け、圧入動作が完了する(図2(c)参照)。
【0025】
次に、本例の圧入装置による特有の作用について図3を用いて説明する。
被加圧面51が軸孔52の中心線Xに対して垂直ではなく僅かに傾いて成形されている焼結含油軸受50(図3(a)参照)を、圧入部材保持機構10の保持部材20に保持させると、図3(b)のように、加圧部32の下面(加圧面)と焼結含油軸受50の被加圧面51との間に隙間53が生じる。
このため、従来の圧入装置では、図8(c)に示したように、焼結含油軸受は軸受ハウジングに傾いた状態で圧入されてしまう。
【0026】
一方、本例の圧入装置では、焼結含油軸受50を保持する保持部材20と、焼結含油軸受50を加圧する加圧部材30は、コンプライアンス機構40を介して結合されており、加圧部材30は保持部材20とは独立した動きが可能である。このため、図3(c)のように、加圧部32の下面(加圧面)は、焼結含油軸受50の被加圧面51に追従するように変位し、被加圧面51との隙間を無くすることができる。
これにより、焼結含油軸受50の被加圧面51の片側だけが局所的に押圧されることがなくなり、図3(d)のように、軸孔52の中心線Xが、軸受ハウジング60の中心線Yに対して傾くことなく焼結含油軸受50を圧入することができる。
したがって、焼結含油軸受50に挿入されるモータの回転軸は、要求される軸垂度を満足するものとなり、モータの回転精度を高めることができる。
【0027】
(第2の実施形態例)
図4は本発明の第2の実施形態例に係る圧入装置の圧入部材保持機構を示す図である。
本例の圧入装置と第1の実施形態例の圧入装置との違いは、本例の圧入装置では、更に第2のコンプライアンス機構70を備えている点である。
【0028】
第2のコンプライアンス機構70は、保持部材20の基端部21を下部接合板71とし、この下部接合板71と上部接合板72を3本の弾性体73で接合したものであり(ただし、図4の断面図には弾性体73は2本だけ示されている)、上部接合板72は不図示の上下移動機構に保持されている。
なお、弾性体73の長さ、本数、弾性係数などは、所定のコンプライアンス性が得られるように適宜設計することができる。
【0029】
図5は、本例の圧入装置による圧入動作を説明するための図である。
第2のコンプライアンス機構70を取り付けることにより、図5(a)に示すように、圧入部材保持機構10に保持された焼結含油軸受50の中心線Xと軸受ハウジング60の中心線Yに水平誤差δが生じていた場合、図5(b)に示すように、この水平誤差δを解消する方向に圧入部材保持機構10を変位させることができる。同様に、圧入部材保持機構10に保持された焼結含油軸受50のセンターと軸受ハウジング60のセンターに角度誤差が生じていた場合も、この角度誤差を解消する方向に圧入部材保持機構10を変位させることができる。
また、図5(b)に示すように、加圧部32の下面(加圧面)は、焼結含油軸受50の被加圧面に追従するように変位し、被加圧面との隙間を無くすることができる。
【0030】
したがって、本例の圧入装置によれば、第1の実施形態例の圧入装置が有する作用効果に加え、圧入部材保持機構10に対して軸受ハウジング60がある程度偏位している場合にも、その偏位をコンプライアンス機構70により吸収することができるため、精密な位置制御を必要とせずに、焼結含油軸受50を軸受ハウジング60に正確に圧入することができる。
【0031】
以上の2つの実施形態例では、球体41や弾性体73を有するコンプライアンス機構を用いた圧入装置を説明したが、本発明の圧入装置に用いるコンプライアンス機構の構造は特に限定されるものではなく、圧入時に加わる力に耐えられるものであれば公知の様々なコンプライアンス機構を用いることができる。なお、本発明では、互いに直交する3つの軸方向の変位をx、y、z、これらの軸方向まわりの回転をα、β、γとしたとき、x、y、z、α、β、γのすべての方向にコンプライアンス性を持つコンプライアンス機構が好適である。
【0032】
また、以上の2つの実施形態例では、軸受を軸受ハウジングに圧入する装置について説明したが、圧入部材と被圧入部材の組み合わせも特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0033】
10 圧入部材保持機構
20 保持部材
21 基端部
22 保持部
23 垂下部
23a 垂下部の内側部
23b 円錐台の溝
30 加圧部材
31 基部
31a 基部の外側部
31b 円錐台の溝
32 加圧部
33 挿通孔
40 コンプライアンス機構
41 球体
42 間隙
50 焼結含油軸受(圧入部材)
51 被加圧面
52 軸孔
53 隙間
60 軸受ハウジング(被圧入部材)
61 軸受孔
62 面取部
70 第2のコンプライアンス機構
71 下部接合板
72 上部接合板
73 弾性体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧入部材を保持する圧入部材保持機構を有する圧入装置において、
前記圧入部材保持機構は、前記圧入部材を保持する保持部材と、前記圧入部材の被加圧面に当接して前記圧入部材を加圧する加圧部材を備え、
前記保持部材と前記加圧部材は、コンプライアンス機構を介して結合されていることを特徴とする圧入装置。
【請求項2】
前記加圧部材は、加圧時に、前記圧入部材の被加圧面に追従するように変位することを特徴とする請求項1に記載の圧入装置。
【請求項3】
前記圧入部材は、前記保持部材が挿嵌される孔を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の圧入装置。
【請求項4】
前記圧入部材は軸受であることを特徴とする請求項3に記載の圧入装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−143481(P2011−143481A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3905(P2010−3905)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000220125)東京パーツ工業株式会社 (122)
【Fターム(参考)】