圧力依存性を低下させてガス濃度を検出するための方法および装置
【課題】本発明は、ガス圧力の変化およびに気圧変化に対して不変の、あるいは、少なくとも影響が少ない微量ガス濃度測定を可能にする方法に関するものである。
【解決手段】この方法は、圧力センサおよび圧力のキャリブレーションを必要としない。さらに、この方法は、背景ガス中に存在する他のガス種、あるいは、対象ガスに相互干渉する背景ガス自体にも適用可能である。これにより、他のガス種および/または背景ガスの相互干渉パラメータの圧力依存性を除去することができる。ガス濃度を正確に測定する新規の方法は、レーザーの波長変調振幅を圧力依存性が最小になるように最適化することに基づいている。
【解決手段】この方法は、圧力センサおよび圧力のキャリブレーションを必要としない。さらに、この方法は、背景ガス中に存在する他のガス種、あるいは、対象ガスに相互干渉する背景ガス自体にも適用可能である。これにより、他のガス種および/または背景ガスの相互干渉パラメータの圧力依存性を除去することができる。ガス濃度を正確に測定する新規の方法は、レーザーの波長変調振幅を圧力依存性が最小になるように最適化することに基づいている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量ガス濃度測定の、そのガスの圧力変化および気圧変化に対する依存性を低下させた方法に関するものであり、背景ガス中の対象の微量ガスおよび対象ガスに相互干渉する他のガス種にも適用可能である。本発明は、また、上述した方法を適用するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業および商業では、しばしば、微量ガスの濃度を正確に測定し、この微量ガスが許容範囲内に確実に存在することが要求される。これらの制限に関する法律によって、送出されたガスが所定の純度の制限を満足するか否か、および/または、このようなガスの放出が環境規制を順守しているか否か、のような項目が検証される。プロセス制御、放射および環境監視、安全性、空調のような典型的な用途では、正確な濃度測定が要求される。波長変調分光法(WMS)は、ガス測定の感度を上昇させる方法であり、低濃度の測定時に特に重要である。例えば、NOx除去装置内のNH3スリップの監視は、選択的触媒還元(SCR)に基づいて行われる。発電では、NH3を排ガスに注入するSCRを用いてNOxを99%まで除去することができる。このプロセスは、トラックおよび自動車のディーゼルエンジンの排ガス規制に用いられる。この用途では、アンモニアスリップが発生しうる。排ガス中で測定される際、センサは1ppmのNH3またはより良い感度が要求される。しかしながら、ガスの圧力変化は高調波信号の測定に影響を及ぼし、したがって、濃度測定の不正確性につながる。
【0003】
波形変調分光法(WMS)では、レーザー光源の波長は、対象ガスの吸収特性をカバーする所定の波長範囲で変調される。ダイオードレーザーを用いる場合、放射光の波長および強度の変調につながるレーザー電流を変更することによって、変調を達成する。ガスボリューム後、光は検出器に入射し、電気信号は基本変調周波数で、あるいは、高調波周波数でロックイン増幅器によって変調される。以下の説明は、基本変調周波数fの第2高調波周波数2fに着目しているが、整数の倍数nを用いてその他の高調波nfにも同様に適用される。
【0004】
復調信号から、例えば、波長に対する復調信号のピーク高さあるいはピーク・バレー高さとして濃度等価値が導出される。レーザー出力の変動に無関係にするために、復調信号を検出器のdc値によって割り算することができる。このdc値のために、検出器信号はロックイン検出器の前で平均化される、あるいは、ロックインのdc成分を用いることができる。
【0005】
信号対雑音比を増加するために、従来の方法では、最大信号に対する波長変調振幅を最適化している。最大信号は所定の1つの変調指数に対してもたらされ、変調指数は吸収線の半値での全幅(FWHM)の倍数として定義されている。波長変調分光法(WMS)は変調指数の変化に非常に敏感である。ガスのFWHMは圧力に反比例するので、圧力の変化は変調指数の変化につながり(固定波長変調振幅で動作させることによって)、その結果、測定ガス濃度の不正確性につながる。
【0006】
従来技術では、対象ガスのガス濃度をほぼ正確に測定する多数の装置および方法が提案されている。例えば、シャン等による特許文献1では、圧力が変化する条件で正確な測定をするための装置および方法が開示されている。上述した発明は、サンプルガス中の微量の対象ガスの濃度を検出するための装置を提案し、この装置は、対象ガスの吸収線に対応する波長で光を放射するための光源、例えば、波長可変ダイオードレーザーと、上述した光源に動作可能に接続され、放射光の波長を変調するための手段と、光源から放出され、光源の変調周波数の倍数でサンプルガスを通過する光の強度を検出するために配置された光検出器と、を具えている。さらに、この装置は、サンプルガスの圧力を検出するための圧力センサと、検出器、圧力センサおよび光源に接続されるとともに、検出された圧力に基づいて光源の変調振幅を調節するように構成された制御装置と、を具えている。光検出信号の分析は、例えば、変調周波数の第2高調波にて行われる。提案されているように圧力を測定し、変調振幅を適応させることによって、測定信号の圧力依存性を補償することができる。しかしながら、この方法では、圧力センサを使用し、圧力のキャリブレーションを行わなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2008/112955号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来技術を鑑みて、本発明の目的は、対象ガスの圧力変化または気圧変化を補償することなく、対象ガスの濃度を正確に測定するための改良された方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、この目的は請求項1に記載の方法によって、そして、この方法を適用した請求項10に記載の装置によって解決される。追加の有利な実施形態は従属項によって提供される。
【0010】
本発明の方法は、レーザーの波長変調振幅を最適化して、圧力依存性を最小化することに基づいている。本発明の装置は、本発明の方法に従って、対象ガスの濃度を検出するように構成されている。
【0011】
詳細には、対象ガスの濃度を検出するための本発明の方法は、以下の工程を含む。
【0012】
波長範囲が対象ガスの吸収線をカバーするような波長変調光をレーザー光源から放射し、光が対象ガスを通過した後、複数の圧力でレーザー光の強度を検出し、次に、レーザー光の波長変調振幅に関して、光検出器で測定した信号の濃度等価信号、好適には、ピーク高さをあるいはピーク・バレー高さの圧力依存性が最小の点を決定し、濃度等価信号の圧力依存性が最小であると決定された点に基づいて、選択された圧力範囲に対する波長変調振幅の作用点を、測定信号の圧力依存性が最小になるように調節し、その後、対象ガスの下で、圧力依存性が減少した波長振幅変調光の強度を検出し、測定信号を対象ガスの濃度を計算するために復調する。これにより、fが変調周波数、nが自然数であるとき、好適には2であるとき、測定周波数nfが用いられる。
【0013】
本発明の一実施形態に係る方法によれば、圧力依存性が最小の点は第1の装置にて測定され、次に、同様のガス混合物を測定する他の装置に供給される。また、他の実施形態によれば、圧力依存性が最小の点は、直接測定値の代わりにデータベースあるいは文献内の実験データに基づいて、シミュレーションにより見出される。
【0014】
本発明の好適実施形態に係る方法によれば、光源を制御するとともに光検出器の測定信号を処理するための通常の電子制御装置が用いられる。制御装置は、ロックイン増幅器と、特殊なプログラムを有するマイクロプロセッサと、を具えている。このプログラムによって、他のパラメータに加えて波長変調振幅を調節するとともに対象ガスの濃度レベルを計算することができる。
【0015】
他の実施形態によれば、レーザー光の波長変調振幅を、最大感度に対する作用点と最小圧力依存性に対する作用点の間で変化させるための電子制御装置を設けることが好適であると判明している。
【0016】
さらに、他の実施形態では、制御装置に接続された温度センサによって、圧力依存性が最小の波長変調振幅の作用点に影響を与えることが特に好適である。
【0017】
信号は圧力によって影響を受けるだけでなく、背景ガスによっても影響を受ける。背景ガスは、干渉によって対象ガスの信号に作用しうる(背景ガスの変調ピークは対象ガスに近接し、ピークの形状は互いに干渉する)、および/または、衝突広がりによって線幅を広げうる。これは、他のガスに対するクロス感度および干渉を考慮する適切なキャリブレーションによって補償可能である。しかしながら、両方の影響は圧力変化に敏感である。本発明の方法は、背景ガスにも適用可能であり、これにより、背景ガスの相互干渉パラメータの圧力依存性を除去する(あるいは少なくとも低減する)ことができる。
【0018】
さらに、複数の圧力範囲に対する作用点をデータ記憶装置に記憶することは理にかなっており、推定あるいは測定したガス圧力を考慮して対象ガスの濃度を検出するために前記データを呼び出すことができる。
【0019】
概して、上述した方法は、十分なスペクトル純度を有する任意のコヒーレント光源(例えば、波長可変ダイオードレーザー、ガスレーザー、固体レーザー、量子カスケードレーザー、インターバンドカスケードレーザー、光パラメトリック周波数変換に基づく光源)および十分に高い感度と時間分解能を有する光検出器(例えば、Si検出器、Ge検出器、InGaAs検出器、InAs検出器、あるいは、水銀カドミウムテルル検出器)を用いることができる。さらに、ヘリオットセル、ホワイトセル、少なくとも1つの反射面を有するセル、あるいは、光源と光検出器との間に反射面が配置されていないセルを用いることによって、光源と光検出器との間の実効光路長を増加することができる。
【0020】
本発明の装置は、本発明の方法を実行するように構成されている。したがって、本発明の装置は、対象ガスの吸収線にわたって走査可能な変調波長可変レーザーと、ガスの間を通過するレーザー光線の強度を(dcおよび変調周波数の倍数で)検出する光検出器と、電子制御装置と、を利用する。レーザー光源は、例えば、波長可変ダイオードレーザー、ガスレーザー、固体レーザー、量子カスケードレーザー、インターバンドカスケードレーザー、光パラメトリック周波数変換に基づく光源とすることができる。検出器は、例えば、Si検出器、Ge検出器、InGaAs検出器、InAs検出器、水銀カドミウムテルル検出器とすることができる。サンプルセルを用いて、光源と光検出器との間の実効光路長を増加することができ、サンプルセルは、例えば、ヘリオットセル、ホワイトセル、少なくとも1つの反射面を有するセル、あるいは、いかなる反射面をも有さないセルとすることができる。電子制御装置は、ロックイン増幅器と、変調振幅を調節するとともに対象ガスの濃度レベルを計算可能なプログラムを有するマイクロプロセッサと、を含む。
【0021】
用途に応じて、ガス圧力は作用点の周りで大きく変化し、測定濃度レベルに影響を与えうる。本発明の目的は、このような圧力変化および気圧変化の濃度レベル精度への依存を減少することでる。新規の方法では、複数の利点、例えば、キャリブレーションがより簡単であること、圧力補正が不要なこと、流水式の測定セル内の流速の影響が低減すること、気圧変化の影響が低減すること、仕様における作用高度範囲が増加することが挙げられる。
【0022】
以下、図面に示した実施形態を参照して本発明を詳細に説明する。本明細書に記載の構成要件の他の特徴および利点は、明細書、図面、および、特許請求の範囲から明らかである。本発明の複数の実施形態では、個々の特徴を、単体で、あるいは、複数組み合わせて記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ガス濃度を測定するための2つの可能な装置構成の概略図である。
【図2】図4の吸収ピークに対応する、複数の圧力での第2高調波変調周波数における計算信号のグラフである。
【図3】変調指数に対する第2高調波の周波数2fのピーク高さ、バレー・ピーク高さ、および、ピーク・バレー高さに関する計算信号のグラフである。
【図4】ローレンツ型曲線形を想定し、HITRAN 2008データベースで与えられるパラメータを用いて、複数の圧力での空気中の1000ppmのCH4の計算吸収のグラフである。
【図5】固定した変調指数で複数の圧力に対応する第2高調波の周波数における計算信号のグラフである。
【図6】ガス圧力に対する第2高調波の周波数における計算信号のグラフである。
【図7】700hPaから1100hPaの複数の圧力で変調振幅に対する第2高調波の周波数における計算信号のグラフである。
【図8】700hPaから1100hPaの複数の圧力で変調振幅に対する第2高調波の周波数におけるdc信号で正規化された測定信号のグラフである。
【図9】波長変調振幅の複数の作用点について、複数の圧力でのCH4の測定濃度のグラフである。
【図10】複数の圧力でのNH3の測定濃度プロファイルのグラフである。
【図11】自己拡大の線幅への影響を計算したグラフである。
【図12】複数の圧力での固定濃度を測定したグラフである。
【図13】温度65℃における複数の圧力での濃度を測定したグラフである。
【図14】高い湿度レベルを有する場合と有さない場合とで、複数の圧力での固定濃度を測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、ガス濃度を測定するための装置の2つの可能な構成の概略図である。図中上部の装置は、dc電流源18およびac電流源20により駆動される波長可変レーザー光源10と、ガス14と、検出器12と、ロックイン増幅器24およびプログラムを有するマイクロプロセッサ26を具える制御装置16と、を含む。図中下部の第2の装置は、上部の装置と同一の要素に加えて、光反射素子22を有する。ac電流源20は関数発生器を具え、この関数発生器において、変調振幅は電子制御装置16によって調節可能である。レーザー光源10は、波長可変ダイオードレーザー、ガスレーザー、固体レーザー、量子カスケードレーザー、インターバンドカスケードレーザー、光パラメトリック周波数変換に基づく光源とすることができる。検出器12は、Si検出器、Ge検出器、InGaAs検出器、InAs検出器、あるいは、水銀カドミウムテルル検出器とすることができる。サンプルセルを用いて、光源と光検出器との間の実効光路長を増加することができ、サンプルセルは、例えば、ヘリオットセル、ホワイトセル、少なくとも1つの反射面を有するセル、あるいは、いかなる反射面をも有さないセルとすることができる。電子制御装置16は、ロックイン増幅器と、他のパラメータに加えて波長変調振幅を調節するとともに対象ガスの濃度レベルを計算可能なプログラムを有するマイクロプロセッサと、を含む。図示を省略するが、レンズのような光ビーム成形素子をこれらの装置に用いることができる。
【0025】
レーザー波長は、対象ガスの1つまたは複数の吸収線にわたって調整され、この装置にて波長可変ダイオードレーザー分光法(TDLS)が実行可能になる。対象ガスの1つまたは複数の背景ガスに対する関連するクロス感度の場合、同一のレーザー光源を用いて、1つまたは複数の背景ガスの1つまたは複数の吸収線にわたって走査することができる。直接的な温度調整によって、あるいは、間接的にレーザーのdc駆動電流を変更することによって、レーザーの放射波長を変更することができる。さらに、レーザー波長は、所定の波形、例えば、サイン波あるいは三角波を生成するac電流源によって変調され、この所定の波形は、所定の周波数fおよび振幅において自身を復元する。振幅変調は強度変調と同時に起こり、端面発光レーザーと比べると、VCSEL(垂直キャビティ面発光レーザー)では通常弱い。波長変調および強度変調の両方は、検出器上で変調信号になる。ロックイン技術を用いると、複数の変調周波数fを抽出することができるので、波長変調分光法(WMS)として周知の非常に高感度の吸収分光測定技術を実現することができる。
【0026】
ロックインからの複数の変調周波数、例えば、1f、2f、3fの信号を用いて、所定のガス濃度に対する検出器のキャリブレーションを行う。あるいは、ロックイン後の高調波信号をdc成分によって正規化し、この割合をキャリブレーションに用いる。例えば、図2のシミュレーションした2f信号は、中央に最大値があり、その両側に2つの局所的な最小値がある。ピーク高さ、バレー高さ、あるいは、ピーク・バレー高さ(すなわち、ピーク・バレー間の距離であって、一方あるいは両方のバレー利用する)を、キャリブレーション用の濃度等価信号として用いることができる。ピーク高さ、バレー高さ、および、ピーク・バレー高さは、波長変調振幅Aによって変化する。最大信号(図3参照)に関する変調振幅Aは、最高の信号対雑音レベルを得るために最適化される。最大信号は、所定の1つの変調指数mに対してもたらされる。なお、変調指数mは、吸収線幅ΔνのFWHMの倍数として定義される。
【0027】
【数1】
【0028】
最大信号に到達する変調指数は、変調信号の波形に依存している。三角形状の波形に関して最大信号には、ピーク高さに対してm=2.8で到達し、ピーク・バレー高さに対してm=3.5で到達する。
【0029】
用途に応じて、ガス圧力は作用点の周りで大きく変化する可能性がある。図4は、複数の圧力に対して波数6046.9cm−1の周りのメタン(CH4)のシュミレーションした吸収線を示す。図示されているように、ピーク吸収の圧力依存性は比較的小さい。(振幅は同一ではないが)同一の変調指数を用いて計算した、対応する2f信号が図2に示されている。2f信号のバレー・ピーク高さはわずかに圧力に依存することがわかる。不運にも、WMSは変調指数自体の変化に非常に敏感である。これは、変調振幅が固定された(変調周波数は変化する)図5に示されている。圧力の変化は、結果として、信号の変化になる。ガスのFWHMは圧力に反比例するので、圧力の変化は変調指数の変化になり(固定された変調振幅で動作する際)、結果として、測定ガス濃度の不正確性につながる。図6は、圧力の関数として2f信号を、吸収ピークのローレンツ型曲線の形で示している。
【0030】
図7では、2f信号は複数の変調振幅および圧力に対して計算されている。所定の変調振幅において交点が存在することが分かり、この交点において複数の圧力に対する2f信号の偏差が最小となる。本発明は、圧力依存性が最小になるように変調振幅を最適化することを提案している。センサの変調振幅をこの交点に、あるいは、この点の近くに設定することにより、圧力変化に対して濃度が不変になる、あるいは、少なくとも影響が低下する。
【0031】
図8は、N2中の1000ppmのCH4を測定した実験データを示し、dc信号によって正規化された2f信号が、700hPaから1100hPaの複数の圧力で変調振幅に対してプロットされている。ロックイン前の検出器からの信号、あるいは、ロックイン動作後のdc信号を、dc信号として用いることができる。圧力依存性が最小になるところは、ピーク・バレー高さに対しては変調振幅が0.355mAのときに得られ、ピーク高さに対しては変調振幅が0.28mAのときに得られる。これは、わずかに2.4%から2.8%の圧力変化に変換される。図9は、2つの可能な測定モードの比較を示している。センサが最大信号に最適化される場合、11.4%の濃度変化に終わる。一方、最小圧力依存性に最適化された方法では、700hPaから1100hPaの同一の圧力範囲内で、わずかに2.4%の濃度変化になる。同一のセンサに対して両方の方法を使用することができるので、圧力が制御されている用途ではより良い信号対雑音比の利益を享受し、圧力が不明な場合の用途、および/または、ガスフローに変化が存在する場合の用途では圧力変化に敏感である必要なく動作させることができる。圧力依存性を減少させる方法は他のガスにも適用される。図10は、複数の圧力で記録された複数のNH3濃度の測定を示している。このデータから、濃度の温度依存性はわずか1.2%であると導くことができ、本発明の方法自体は作用点周りの圧力変化にほとんど影響を受けず、圧力センサを省略可能であるとわかる。さらに、複数の圧力に対して装置をキャリブレーションする必要はない。
【0032】
線幅拡大は、自己拡大と自分自身が濃度に依存する背景ガスによる拡大との線形結合であるため、最小の圧力依存性が存在する変調振幅は濃度Cに依存する。
【0033】
【数2】
【0034】
低濃度では、背景ガスによる拡大が支配的である。高濃度では、パーセント範囲では通常、自己拡大が線幅に影響を与える。幸運なことにこの影響は小さい。例えば、空気中でCH4の濃度が500ppmから4%に増加すると、線幅はわずか1.3%増加する。変調振幅は同一の倍数で高い値にシフトする。図11はN2中のCH4の実験データであり、対象ガスの濃度が数パーセントを超えない限り自己拡大の影響を無視できること示している。選択的に、高い濃度レベルに対しては、測定濃度レベルを使用して、変調振幅を最適な交点に調節することができる。
【0035】
ガス線幅は、自己拡大および背景拡大によってだけでなく、ガスの温度によってもまた決定される。
【0036】
【数3】
【0037】
ここで、多くの場合、係数nairは約0.5〜0.8である。キャリブレーション温度からの温度が上昇すると、ガス線の線幅は狭く、したがって、最適な交点は低い変調振幅にシフトする。それに応じて、温度の低下は、最適な変調振幅が広くなる。このシフトの影響は、例えば図8に見られるような曲線の傾きに依存する。図12は、濃度2.2%の圧力依存性を示すキャリブレーションプロファイルを示し、これは変調振幅が最適化された温度で測定されている。図13に示すように、温度が25℃から65℃に上昇したとき、濃度の圧力依存性はわずか4%しか上昇していない。有利には、温度センサを用いて、変調振幅を最適な交点に調節し、それゆえ、濃度の圧力依存性を最小にすることができる。
【0038】
信号は圧力変化、温度変化、および、自己拡大によってのみ影響されるわけではなく、背景ガス中に存在する1つまたは複数の他のガス種あるいは背景ガス自体によってもまた影響される。ここで、他のガス種あるいは背景ガスは、干渉によって対象ガスの信号に作用しうる(他のガス種/背景ガスの変調信号は対象ガスに近接し、ピークの形状は互いに干渉する)、および/または、衝突広がりによって線幅を広げうる。これは、他のガスに対するクロス感度および干渉を考慮する適切なキャリブレーションによって補償可能である。しかしながら、両方の影響は圧力変化に敏感である。対象ガスを圧力変化に不感にする同一の方法は背景ガスにも適用可能であり、複数の背景ガスの相互干渉パラメータの圧力依存性を除去する(あるいは少なくとも低減する)ことができる。図14は、背景ガスに多量の湿気が存在するが、圧力変動が濃度にほとんど影響しないことを示している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量ガス濃度測定の、そのガスの圧力変化および気圧変化に対する依存性を低下させた方法に関するものであり、背景ガス中の対象の微量ガスおよび対象ガスに相互干渉する他のガス種にも適用可能である。本発明は、また、上述した方法を適用するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業および商業では、しばしば、微量ガスの濃度を正確に測定し、この微量ガスが許容範囲内に確実に存在することが要求される。これらの制限に関する法律によって、送出されたガスが所定の純度の制限を満足するか否か、および/または、このようなガスの放出が環境規制を順守しているか否か、のような項目が検証される。プロセス制御、放射および環境監視、安全性、空調のような典型的な用途では、正確な濃度測定が要求される。波長変調分光法(WMS)は、ガス測定の感度を上昇させる方法であり、低濃度の測定時に特に重要である。例えば、NOx除去装置内のNH3スリップの監視は、選択的触媒還元(SCR)に基づいて行われる。発電では、NH3を排ガスに注入するSCRを用いてNOxを99%まで除去することができる。このプロセスは、トラックおよび自動車のディーゼルエンジンの排ガス規制に用いられる。この用途では、アンモニアスリップが発生しうる。排ガス中で測定される際、センサは1ppmのNH3またはより良い感度が要求される。しかしながら、ガスの圧力変化は高調波信号の測定に影響を及ぼし、したがって、濃度測定の不正確性につながる。
【0003】
波形変調分光法(WMS)では、レーザー光源の波長は、対象ガスの吸収特性をカバーする所定の波長範囲で変調される。ダイオードレーザーを用いる場合、放射光の波長および強度の変調につながるレーザー電流を変更することによって、変調を達成する。ガスボリューム後、光は検出器に入射し、電気信号は基本変調周波数で、あるいは、高調波周波数でロックイン増幅器によって変調される。以下の説明は、基本変調周波数fの第2高調波周波数2fに着目しているが、整数の倍数nを用いてその他の高調波nfにも同様に適用される。
【0004】
復調信号から、例えば、波長に対する復調信号のピーク高さあるいはピーク・バレー高さとして濃度等価値が導出される。レーザー出力の変動に無関係にするために、復調信号を検出器のdc値によって割り算することができる。このdc値のために、検出器信号はロックイン検出器の前で平均化される、あるいは、ロックインのdc成分を用いることができる。
【0005】
信号対雑音比を増加するために、従来の方法では、最大信号に対する波長変調振幅を最適化している。最大信号は所定の1つの変調指数に対してもたらされ、変調指数は吸収線の半値での全幅(FWHM)の倍数として定義されている。波長変調分光法(WMS)は変調指数の変化に非常に敏感である。ガスのFWHMは圧力に反比例するので、圧力の変化は変調指数の変化につながり(固定波長変調振幅で動作させることによって)、その結果、測定ガス濃度の不正確性につながる。
【0006】
従来技術では、対象ガスのガス濃度をほぼ正確に測定する多数の装置および方法が提案されている。例えば、シャン等による特許文献1では、圧力が変化する条件で正確な測定をするための装置および方法が開示されている。上述した発明は、サンプルガス中の微量の対象ガスの濃度を検出するための装置を提案し、この装置は、対象ガスの吸収線に対応する波長で光を放射するための光源、例えば、波長可変ダイオードレーザーと、上述した光源に動作可能に接続され、放射光の波長を変調するための手段と、光源から放出され、光源の変調周波数の倍数でサンプルガスを通過する光の強度を検出するために配置された光検出器と、を具えている。さらに、この装置は、サンプルガスの圧力を検出するための圧力センサと、検出器、圧力センサおよび光源に接続されるとともに、検出された圧力に基づいて光源の変調振幅を調節するように構成された制御装置と、を具えている。光検出信号の分析は、例えば、変調周波数の第2高調波にて行われる。提案されているように圧力を測定し、変調振幅を適応させることによって、測定信号の圧力依存性を補償することができる。しかしながら、この方法では、圧力センサを使用し、圧力のキャリブレーションを行わなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2008/112955号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来技術を鑑みて、本発明の目的は、対象ガスの圧力変化または気圧変化を補償することなく、対象ガスの濃度を正確に測定するための改良された方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、この目的は請求項1に記載の方法によって、そして、この方法を適用した請求項10に記載の装置によって解決される。追加の有利な実施形態は従属項によって提供される。
【0010】
本発明の方法は、レーザーの波長変調振幅を最適化して、圧力依存性を最小化することに基づいている。本発明の装置は、本発明の方法に従って、対象ガスの濃度を検出するように構成されている。
【0011】
詳細には、対象ガスの濃度を検出するための本発明の方法は、以下の工程を含む。
【0012】
波長範囲が対象ガスの吸収線をカバーするような波長変調光をレーザー光源から放射し、光が対象ガスを通過した後、複数の圧力でレーザー光の強度を検出し、次に、レーザー光の波長変調振幅に関して、光検出器で測定した信号の濃度等価信号、好適には、ピーク高さをあるいはピーク・バレー高さの圧力依存性が最小の点を決定し、濃度等価信号の圧力依存性が最小であると決定された点に基づいて、選択された圧力範囲に対する波長変調振幅の作用点を、測定信号の圧力依存性が最小になるように調節し、その後、対象ガスの下で、圧力依存性が減少した波長振幅変調光の強度を検出し、測定信号を対象ガスの濃度を計算するために復調する。これにより、fが変調周波数、nが自然数であるとき、好適には2であるとき、測定周波数nfが用いられる。
【0013】
本発明の一実施形態に係る方法によれば、圧力依存性が最小の点は第1の装置にて測定され、次に、同様のガス混合物を測定する他の装置に供給される。また、他の実施形態によれば、圧力依存性が最小の点は、直接測定値の代わりにデータベースあるいは文献内の実験データに基づいて、シミュレーションにより見出される。
【0014】
本発明の好適実施形態に係る方法によれば、光源を制御するとともに光検出器の測定信号を処理するための通常の電子制御装置が用いられる。制御装置は、ロックイン増幅器と、特殊なプログラムを有するマイクロプロセッサと、を具えている。このプログラムによって、他のパラメータに加えて波長変調振幅を調節するとともに対象ガスの濃度レベルを計算することができる。
【0015】
他の実施形態によれば、レーザー光の波長変調振幅を、最大感度に対する作用点と最小圧力依存性に対する作用点の間で変化させるための電子制御装置を設けることが好適であると判明している。
【0016】
さらに、他の実施形態では、制御装置に接続された温度センサによって、圧力依存性が最小の波長変調振幅の作用点に影響を与えることが特に好適である。
【0017】
信号は圧力によって影響を受けるだけでなく、背景ガスによっても影響を受ける。背景ガスは、干渉によって対象ガスの信号に作用しうる(背景ガスの変調ピークは対象ガスに近接し、ピークの形状は互いに干渉する)、および/または、衝突広がりによって線幅を広げうる。これは、他のガスに対するクロス感度および干渉を考慮する適切なキャリブレーションによって補償可能である。しかしながら、両方の影響は圧力変化に敏感である。本発明の方法は、背景ガスにも適用可能であり、これにより、背景ガスの相互干渉パラメータの圧力依存性を除去する(あるいは少なくとも低減する)ことができる。
【0018】
さらに、複数の圧力範囲に対する作用点をデータ記憶装置に記憶することは理にかなっており、推定あるいは測定したガス圧力を考慮して対象ガスの濃度を検出するために前記データを呼び出すことができる。
【0019】
概して、上述した方法は、十分なスペクトル純度を有する任意のコヒーレント光源(例えば、波長可変ダイオードレーザー、ガスレーザー、固体レーザー、量子カスケードレーザー、インターバンドカスケードレーザー、光パラメトリック周波数変換に基づく光源)および十分に高い感度と時間分解能を有する光検出器(例えば、Si検出器、Ge検出器、InGaAs検出器、InAs検出器、あるいは、水銀カドミウムテルル検出器)を用いることができる。さらに、ヘリオットセル、ホワイトセル、少なくとも1つの反射面を有するセル、あるいは、光源と光検出器との間に反射面が配置されていないセルを用いることによって、光源と光検出器との間の実効光路長を増加することができる。
【0020】
本発明の装置は、本発明の方法を実行するように構成されている。したがって、本発明の装置は、対象ガスの吸収線にわたって走査可能な変調波長可変レーザーと、ガスの間を通過するレーザー光線の強度を(dcおよび変調周波数の倍数で)検出する光検出器と、電子制御装置と、を利用する。レーザー光源は、例えば、波長可変ダイオードレーザー、ガスレーザー、固体レーザー、量子カスケードレーザー、インターバンドカスケードレーザー、光パラメトリック周波数変換に基づく光源とすることができる。検出器は、例えば、Si検出器、Ge検出器、InGaAs検出器、InAs検出器、水銀カドミウムテルル検出器とすることができる。サンプルセルを用いて、光源と光検出器との間の実効光路長を増加することができ、サンプルセルは、例えば、ヘリオットセル、ホワイトセル、少なくとも1つの反射面を有するセル、あるいは、いかなる反射面をも有さないセルとすることができる。電子制御装置は、ロックイン増幅器と、変調振幅を調節するとともに対象ガスの濃度レベルを計算可能なプログラムを有するマイクロプロセッサと、を含む。
【0021】
用途に応じて、ガス圧力は作用点の周りで大きく変化し、測定濃度レベルに影響を与えうる。本発明の目的は、このような圧力変化および気圧変化の濃度レベル精度への依存を減少することでる。新規の方法では、複数の利点、例えば、キャリブレーションがより簡単であること、圧力補正が不要なこと、流水式の測定セル内の流速の影響が低減すること、気圧変化の影響が低減すること、仕様における作用高度範囲が増加することが挙げられる。
【0022】
以下、図面に示した実施形態を参照して本発明を詳細に説明する。本明細書に記載の構成要件の他の特徴および利点は、明細書、図面、および、特許請求の範囲から明らかである。本発明の複数の実施形態では、個々の特徴を、単体で、あるいは、複数組み合わせて記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ガス濃度を測定するための2つの可能な装置構成の概略図である。
【図2】図4の吸収ピークに対応する、複数の圧力での第2高調波変調周波数における計算信号のグラフである。
【図3】変調指数に対する第2高調波の周波数2fのピーク高さ、バレー・ピーク高さ、および、ピーク・バレー高さに関する計算信号のグラフである。
【図4】ローレンツ型曲線形を想定し、HITRAN 2008データベースで与えられるパラメータを用いて、複数の圧力での空気中の1000ppmのCH4の計算吸収のグラフである。
【図5】固定した変調指数で複数の圧力に対応する第2高調波の周波数における計算信号のグラフである。
【図6】ガス圧力に対する第2高調波の周波数における計算信号のグラフである。
【図7】700hPaから1100hPaの複数の圧力で変調振幅に対する第2高調波の周波数における計算信号のグラフである。
【図8】700hPaから1100hPaの複数の圧力で変調振幅に対する第2高調波の周波数におけるdc信号で正規化された測定信号のグラフである。
【図9】波長変調振幅の複数の作用点について、複数の圧力でのCH4の測定濃度のグラフである。
【図10】複数の圧力でのNH3の測定濃度プロファイルのグラフである。
【図11】自己拡大の線幅への影響を計算したグラフである。
【図12】複数の圧力での固定濃度を測定したグラフである。
【図13】温度65℃における複数の圧力での濃度を測定したグラフである。
【図14】高い湿度レベルを有する場合と有さない場合とで、複数の圧力での固定濃度を測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、ガス濃度を測定するための装置の2つの可能な構成の概略図である。図中上部の装置は、dc電流源18およびac電流源20により駆動される波長可変レーザー光源10と、ガス14と、検出器12と、ロックイン増幅器24およびプログラムを有するマイクロプロセッサ26を具える制御装置16と、を含む。図中下部の第2の装置は、上部の装置と同一の要素に加えて、光反射素子22を有する。ac電流源20は関数発生器を具え、この関数発生器において、変調振幅は電子制御装置16によって調節可能である。レーザー光源10は、波長可変ダイオードレーザー、ガスレーザー、固体レーザー、量子カスケードレーザー、インターバンドカスケードレーザー、光パラメトリック周波数変換に基づく光源とすることができる。検出器12は、Si検出器、Ge検出器、InGaAs検出器、InAs検出器、あるいは、水銀カドミウムテルル検出器とすることができる。サンプルセルを用いて、光源と光検出器との間の実効光路長を増加することができ、サンプルセルは、例えば、ヘリオットセル、ホワイトセル、少なくとも1つの反射面を有するセル、あるいは、いかなる反射面をも有さないセルとすることができる。電子制御装置16は、ロックイン増幅器と、他のパラメータに加えて波長変調振幅を調節するとともに対象ガスの濃度レベルを計算可能なプログラムを有するマイクロプロセッサと、を含む。図示を省略するが、レンズのような光ビーム成形素子をこれらの装置に用いることができる。
【0025】
レーザー波長は、対象ガスの1つまたは複数の吸収線にわたって調整され、この装置にて波長可変ダイオードレーザー分光法(TDLS)が実行可能になる。対象ガスの1つまたは複数の背景ガスに対する関連するクロス感度の場合、同一のレーザー光源を用いて、1つまたは複数の背景ガスの1つまたは複数の吸収線にわたって走査することができる。直接的な温度調整によって、あるいは、間接的にレーザーのdc駆動電流を変更することによって、レーザーの放射波長を変更することができる。さらに、レーザー波長は、所定の波形、例えば、サイン波あるいは三角波を生成するac電流源によって変調され、この所定の波形は、所定の周波数fおよび振幅において自身を復元する。振幅変調は強度変調と同時に起こり、端面発光レーザーと比べると、VCSEL(垂直キャビティ面発光レーザー)では通常弱い。波長変調および強度変調の両方は、検出器上で変調信号になる。ロックイン技術を用いると、複数の変調周波数fを抽出することができるので、波長変調分光法(WMS)として周知の非常に高感度の吸収分光測定技術を実現することができる。
【0026】
ロックインからの複数の変調周波数、例えば、1f、2f、3fの信号を用いて、所定のガス濃度に対する検出器のキャリブレーションを行う。あるいは、ロックイン後の高調波信号をdc成分によって正規化し、この割合をキャリブレーションに用いる。例えば、図2のシミュレーションした2f信号は、中央に最大値があり、その両側に2つの局所的な最小値がある。ピーク高さ、バレー高さ、あるいは、ピーク・バレー高さ(すなわち、ピーク・バレー間の距離であって、一方あるいは両方のバレー利用する)を、キャリブレーション用の濃度等価信号として用いることができる。ピーク高さ、バレー高さ、および、ピーク・バレー高さは、波長変調振幅Aによって変化する。最大信号(図3参照)に関する変調振幅Aは、最高の信号対雑音レベルを得るために最適化される。最大信号は、所定の1つの変調指数mに対してもたらされる。なお、変調指数mは、吸収線幅ΔνのFWHMの倍数として定義される。
【0027】
【数1】
【0028】
最大信号に到達する変調指数は、変調信号の波形に依存している。三角形状の波形に関して最大信号には、ピーク高さに対してm=2.8で到達し、ピーク・バレー高さに対してm=3.5で到達する。
【0029】
用途に応じて、ガス圧力は作用点の周りで大きく変化する可能性がある。図4は、複数の圧力に対して波数6046.9cm−1の周りのメタン(CH4)のシュミレーションした吸収線を示す。図示されているように、ピーク吸収の圧力依存性は比較的小さい。(振幅は同一ではないが)同一の変調指数を用いて計算した、対応する2f信号が図2に示されている。2f信号のバレー・ピーク高さはわずかに圧力に依存することがわかる。不運にも、WMSは変調指数自体の変化に非常に敏感である。これは、変調振幅が固定された(変調周波数は変化する)図5に示されている。圧力の変化は、結果として、信号の変化になる。ガスのFWHMは圧力に反比例するので、圧力の変化は変調指数の変化になり(固定された変調振幅で動作する際)、結果として、測定ガス濃度の不正確性につながる。図6は、圧力の関数として2f信号を、吸収ピークのローレンツ型曲線の形で示している。
【0030】
図7では、2f信号は複数の変調振幅および圧力に対して計算されている。所定の変調振幅において交点が存在することが分かり、この交点において複数の圧力に対する2f信号の偏差が最小となる。本発明は、圧力依存性が最小になるように変調振幅を最適化することを提案している。センサの変調振幅をこの交点に、あるいは、この点の近くに設定することにより、圧力変化に対して濃度が不変になる、あるいは、少なくとも影響が低下する。
【0031】
図8は、N2中の1000ppmのCH4を測定した実験データを示し、dc信号によって正規化された2f信号が、700hPaから1100hPaの複数の圧力で変調振幅に対してプロットされている。ロックイン前の検出器からの信号、あるいは、ロックイン動作後のdc信号を、dc信号として用いることができる。圧力依存性が最小になるところは、ピーク・バレー高さに対しては変調振幅が0.355mAのときに得られ、ピーク高さに対しては変調振幅が0.28mAのときに得られる。これは、わずかに2.4%から2.8%の圧力変化に変換される。図9は、2つの可能な測定モードの比較を示している。センサが最大信号に最適化される場合、11.4%の濃度変化に終わる。一方、最小圧力依存性に最適化された方法では、700hPaから1100hPaの同一の圧力範囲内で、わずかに2.4%の濃度変化になる。同一のセンサに対して両方の方法を使用することができるので、圧力が制御されている用途ではより良い信号対雑音比の利益を享受し、圧力が不明な場合の用途、および/または、ガスフローに変化が存在する場合の用途では圧力変化に敏感である必要なく動作させることができる。圧力依存性を減少させる方法は他のガスにも適用される。図10は、複数の圧力で記録された複数のNH3濃度の測定を示している。このデータから、濃度の温度依存性はわずか1.2%であると導くことができ、本発明の方法自体は作用点周りの圧力変化にほとんど影響を受けず、圧力センサを省略可能であるとわかる。さらに、複数の圧力に対して装置をキャリブレーションする必要はない。
【0032】
線幅拡大は、自己拡大と自分自身が濃度に依存する背景ガスによる拡大との線形結合であるため、最小の圧力依存性が存在する変調振幅は濃度Cに依存する。
【0033】
【数2】
【0034】
低濃度では、背景ガスによる拡大が支配的である。高濃度では、パーセント範囲では通常、自己拡大が線幅に影響を与える。幸運なことにこの影響は小さい。例えば、空気中でCH4の濃度が500ppmから4%に増加すると、線幅はわずか1.3%増加する。変調振幅は同一の倍数で高い値にシフトする。図11はN2中のCH4の実験データであり、対象ガスの濃度が数パーセントを超えない限り自己拡大の影響を無視できること示している。選択的に、高い濃度レベルに対しては、測定濃度レベルを使用して、変調振幅を最適な交点に調節することができる。
【0035】
ガス線幅は、自己拡大および背景拡大によってだけでなく、ガスの温度によってもまた決定される。
【0036】
【数3】
【0037】
ここで、多くの場合、係数nairは約0.5〜0.8である。キャリブレーション温度からの温度が上昇すると、ガス線の線幅は狭く、したがって、最適な交点は低い変調振幅にシフトする。それに応じて、温度の低下は、最適な変調振幅が広くなる。このシフトの影響は、例えば図8に見られるような曲線の傾きに依存する。図12は、濃度2.2%の圧力依存性を示すキャリブレーションプロファイルを示し、これは変調振幅が最適化された温度で測定されている。図13に示すように、温度が25℃から65℃に上昇したとき、濃度の圧力依存性はわずか4%しか上昇していない。有利には、温度センサを用いて、変調振幅を最適な交点に調節し、それゆえ、濃度の圧力依存性を最小にすることができる。
【0038】
信号は圧力変化、温度変化、および、自己拡大によってのみ影響されるわけではなく、背景ガス中に存在する1つまたは複数の他のガス種あるいは背景ガス自体によってもまた影響される。ここで、他のガス種あるいは背景ガスは、干渉によって対象ガスの信号に作用しうる(他のガス種/背景ガスの変調信号は対象ガスに近接し、ピークの形状は互いに干渉する)、および/または、衝突広がりによって線幅を広げうる。これは、他のガスに対するクロス感度および干渉を考慮する適切なキャリブレーションによって補償可能である。しかしながら、両方の影響は圧力変化に敏感である。対象ガスを圧力変化に不感にする同一の方法は背景ガスにも適用可能であり、複数の背景ガスの相互干渉パラメータの圧力依存性を除去する(あるいは少なくとも低減する)ことができる。図14は、背景ガスに多量の湿気が存在するが、圧力変動が濃度にほとんど影響しないことを示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象ガス濃度を検出するための方法であって、
波長変調光をレーザー光源によって放射し、前記放射された波長範囲は前記対象ガスの少なくとも1つの吸収線をカバーし、
前記光が前記対象ガスを通過した後、ガス混合物の複数の圧力で、前記光の信号を検出し、
波長変調の基本周波数あるいは高調波周波数で、前記検出した信号を復調し、かつ、濃度等価信号、好適には、ピーク・バレー高さあるいはピーク高さを抽出し、
前記波長変調の振幅に関して、前記濃度等価信号の圧力依存性が最小の点を決定し、
以下のガス濃度測定のために、選択された圧力範囲に対する波長変調振幅の作用点を、圧力依存性が最小であると前記決定された点に調節し、
fが変調周波数、nが自然数であるとき、好適には2であるとき、測定周波数nfを用いることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記圧力依存性が最小の点は第1の装置にて測定され、次に、同様のガス混合物を測定する他の装置に供給されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記圧力依存性が最小の点は、直接測定値の代わりにデータベースあるいは文献内の実験データに基づいて、シミュレーションにより見出されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記光源を制御するとともに前記光検出器の前記測定信号を処理するための電子制御装置を使用し、
前記電子制御装置は、他のパラメータに加えて前記波長変調振幅を調節するとともに前記対象ガスの濃度レベルを計算するためのマイクロプロセッサを具えることを特徴とする 請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記変調信号を単一のdc値によって、あるいは、等差級数的に組み合わされた2以上のdc値によって正規化し、前記dc値はロックイン動作の前あるいは後のいずれかのdc値であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記制御装置に接続されている温度センサによって、圧力依存性が最小の前記波長変調振幅の作用点に影響を与えることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の圧力範囲に対する作用点を前記電子制御装置のデータ記憶装置に記憶し、推定あるいは測定されたガス濃度を考慮して所定の範囲を呼び出すことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記レーザー光の前記波長変調振幅を、最大感度と最小圧力依存性の間で変化させることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
第1のガス種と相互干渉する他のガス種に適用されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の方法によって対象ガス濃度を検出するための装置であって、前記装置は、
前記対象ガスの少なくとも1つの吸収線に実質的に等価な波長で、波長変調光をレーザー光源によって放射するように構成された手段と、
前記光が前記対象ガスを通過した後、前記対象ガスの複数の圧力で、前記光の強度を検出するように構成された手段と、
前記レーザー光の波長変調振幅に依存して、光検出器の測定信号の濃度等価信号、好適には、ピーク高さあるいはピーク・バレー高さの圧力依存性が最小の点を決定するように構成された手段と、
前記濃度等価信号の圧力依存性が最小であると前記決定された点に基づいて、選択された圧力範囲に対する、前記波長変調の振幅の作用点を、前記測定信号の最小の圧力依存性に調節するように構成された手段と、
前記対象ガスの下で、圧力依存性が減少した前記波長変調光の強度を検出し、前記測定信号を、前記対象ガスの濃度を計算するために復調するように構成された手段と、
を具え、
fが変調周波数、nが自然数であるとき、好適には2であるとき、測定周波数nfが用いられることを特徴とする装置。
【請求項11】
前記光源を制御するとともに前記光検出器の測定信号を処理するように構成された電子制御装置を具え、
前記電子制御装置は、ロックイン増幅器およびマイクロプロセッサを具え、
前記マイクロプロセッサは、他のパラメータに加えて前記波長変調振幅を調節するとともに前記対象ガスの濃度レベルを計算するように構成されていることを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記変調信号を単一のdc値によって、あるいは、等差級数的に組み合わされた2以上のdc値によって正規化するように構成された手段を具え、前記dc値はロックイン動作の前あるいは後のいずれかのdc値であることを特徴とする請求項10または11に記載の装置。
【請求項13】
前記制御装置に接続され、圧力依存性が最小の前記変調幅の作用点に影響を与えるように構成された温度センサを具えていることを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載の装置。
【請求項14】
複数の圧力範囲に対する作用点を記憶するデータ記憶装置を具え、
前記マイクロプロセッサは、前記作用点を記憶するとともに、推定あるいは測定されたガス濃度を考慮して所定の作用点を呼び出すように構成されていることを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載の装置。
【請求項15】
前記レーザー光の前記波長変調振幅を、最大感度と最小圧力依存性の間で変化させるように構成された手段を具えていることを特徴とする請求項10〜14のいずれかに記載の装置。
【請求項1】
対象ガス濃度を検出するための方法であって、
波長変調光をレーザー光源によって放射し、前記放射された波長範囲は前記対象ガスの少なくとも1つの吸収線をカバーし、
前記光が前記対象ガスを通過した後、ガス混合物の複数の圧力で、前記光の信号を検出し、
波長変調の基本周波数あるいは高調波周波数で、前記検出した信号を復調し、かつ、濃度等価信号、好適には、ピーク・バレー高さあるいはピーク高さを抽出し、
前記波長変調の振幅に関して、前記濃度等価信号の圧力依存性が最小の点を決定し、
以下のガス濃度測定のために、選択された圧力範囲に対する波長変調振幅の作用点を、圧力依存性が最小であると前記決定された点に調節し、
fが変調周波数、nが自然数であるとき、好適には2であるとき、測定周波数nfを用いることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記圧力依存性が最小の点は第1の装置にて測定され、次に、同様のガス混合物を測定する他の装置に供給されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記圧力依存性が最小の点は、直接測定値の代わりにデータベースあるいは文献内の実験データに基づいて、シミュレーションにより見出されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記光源を制御するとともに前記光検出器の前記測定信号を処理するための電子制御装置を使用し、
前記電子制御装置は、他のパラメータに加えて前記波長変調振幅を調節するとともに前記対象ガスの濃度レベルを計算するためのマイクロプロセッサを具えることを特徴とする 請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記変調信号を単一のdc値によって、あるいは、等差級数的に組み合わされた2以上のdc値によって正規化し、前記dc値はロックイン動作の前あるいは後のいずれかのdc値であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記制御装置に接続されている温度センサによって、圧力依存性が最小の前記波長変調振幅の作用点に影響を与えることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の圧力範囲に対する作用点を前記電子制御装置のデータ記憶装置に記憶し、推定あるいは測定されたガス濃度を考慮して所定の範囲を呼び出すことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記レーザー光の前記波長変調振幅を、最大感度と最小圧力依存性の間で変化させることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
第1のガス種と相互干渉する他のガス種に適用されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の方法によって対象ガス濃度を検出するための装置であって、前記装置は、
前記対象ガスの少なくとも1つの吸収線に実質的に等価な波長で、波長変調光をレーザー光源によって放射するように構成された手段と、
前記光が前記対象ガスを通過した後、前記対象ガスの複数の圧力で、前記光の強度を検出するように構成された手段と、
前記レーザー光の波長変調振幅に依存して、光検出器の測定信号の濃度等価信号、好適には、ピーク高さあるいはピーク・バレー高さの圧力依存性が最小の点を決定するように構成された手段と、
前記濃度等価信号の圧力依存性が最小であると前記決定された点に基づいて、選択された圧力範囲に対する、前記波長変調の振幅の作用点を、前記測定信号の最小の圧力依存性に調節するように構成された手段と、
前記対象ガスの下で、圧力依存性が減少した前記波長変調光の強度を検出し、前記測定信号を、前記対象ガスの濃度を計算するために復調するように構成された手段と、
を具え、
fが変調周波数、nが自然数であるとき、好適には2であるとき、測定周波数nfが用いられることを特徴とする装置。
【請求項11】
前記光源を制御するとともに前記光検出器の測定信号を処理するように構成された電子制御装置を具え、
前記電子制御装置は、ロックイン増幅器およびマイクロプロセッサを具え、
前記マイクロプロセッサは、他のパラメータに加えて前記波長変調振幅を調節するとともに前記対象ガスの濃度レベルを計算するように構成されていることを特徴とする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記変調信号を単一のdc値によって、あるいは、等差級数的に組み合わされた2以上のdc値によって正規化するように構成された手段を具え、前記dc値はロックイン動作の前あるいは後のいずれかのdc値であることを特徴とする請求項10または11に記載の装置。
【請求項13】
前記制御装置に接続され、圧力依存性が最小の前記変調幅の作用点に影響を与えるように構成された温度センサを具えていることを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載の装置。
【請求項14】
複数の圧力範囲に対する作用点を記憶するデータ記憶装置を具え、
前記マイクロプロセッサは、前記作用点を記憶するとともに、推定あるいは測定されたガス濃度を考慮して所定の作用点を呼び出すように構成されていることを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載の装置。
【請求項15】
前記レーザー光の前記波長変調振幅を、最大感度と最小圧力依存性の間で変化させるように構成された手段を具えていることを特徴とする請求項10〜14のいずれかに記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−233900(P2012−233900A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−105844(P2012−105844)
【出願日】平成24年5月7日(2012.5.7)
【出願人】(512117214)アクセトリス アクチエンゲゼルシャフト (1)
【氏名又は名称原語表記】Axetris AG
【住所又は居所原語表記】Schwarzenbergstrasse 10, CH−6056 Kaegiswil, Switzerland
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−105844(P2012−105844)
【出願日】平成24年5月7日(2012.5.7)
【出願人】(512117214)アクセトリス アクチエンゲゼルシャフト (1)
【氏名又は名称原語表記】Axetris AG
【住所又は居所原語表記】Schwarzenbergstrasse 10, CH−6056 Kaegiswil, Switzerland
【Fターム(参考)】
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