説明

圧力式均一直径ベシクル生成装置

【課題】
従来技術のベシクル生成装置より廉価な圧力発生手段を用いて、より簡便に生体細胞とほぼ同じ寸法の二分子膜ベシクルを生成することができる技術を開発する。
【解決手段】
本発明は二分子膜ベシクルの生成装置を提供する。本発明の二分子膜ベシクルの生成装置は、主流路と、該主流路に開口する複数の微小憩室と、変形可能な隔壁を介して前記微小憩室に隣接する房室とを含む構造体を複数含む。本発明は二分子膜ベシクルの生成方法を提供する。本発明のベシクルの生成方法は、前記相分離流体の層が前記微小憩室の側壁面に懸架された状態で、前記房室に圧力を加えることにより、前記変形可能な隔壁が前記微小憩室内に突出するように変形して第1の水性溶液を押し流して、前記相分離流体層の先端が前記微小憩室の開口から前記主流路に入るように前記相分離流体層を伸張させるステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二分子膜ベシクルの生成装置及び生成方法に関し、より具体的には、圧力によって弾性変形する隔壁を備えたマイクロ流路を用いる二分子膜ベシクルの生成装置及び生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
所望の高分子化合物を含む所望の体積が完全に封入された、単一層の両親媒性分子膜からなるベシクルは、顕微鏡スケールの化学リアクタとして、医薬品の送達ビークルとして、あるいは、さまざまな環境刺激に応答するバイオセンサーとしての用途が期待される。特に1μmないし100μmの範囲でサイズが均一な単一層のリン脂質ベシクルは、実際の生体細胞とほぼ同じ寸法を有し、生体膜の複雑な機能のモデル系として需要が大きい。そして生体細胞を構成している要素の機能を一つ一つ組み合わせて人工細胞を作成することによって、さらに高度な生命現象及びその分子機序を理解し応用することが可能になる。
【0003】
特許文献1に示すとおり、本発明の発明者らは、1μmないし100μmの範囲のサイズで均一な単一層の二分子膜ベシクルを大量に生成する装置を開発した。特許文献1のベシクル生成装置は、マイクロ流体デバイスを含み、該マイクロ流体デバイスは1個又は2個以上の構造体を含む。前記構造体は、ガラス面にマウントされたポリジメチルシロキサン(PDMS)でできており、主流路と、該主流路に開口する複数の微小憩室とを含む微細構造が微細加工により設けられる。前記マイクロ流体デバイスには、ポンプ及び流路スイッチが連結され、前記主流路に流す液体の種類と、流速と、均一流か、脈流その他の不均一流かのような流し方とを自由に設定することができる。図1は特許文献1に記載のベシクル生成装置の構造体の模式図である。主流路1に面して微小憩室2が開口し、微小憩室2は連通細路3を介して房室4と連絡する。房室4には圧力発生部5が設けられる。特許文献1に記載の発明の1つの実施態様では、圧力発生部5は、房室4の底面にパターン状に配置されたアルミニウム薄膜6に合焦したレーザ光7によって発生した微細気泡8の膨張のために圧力を発生する。前記圧力によって房室4から連通細路3に液体が押し出される。しかし、連通細路3は狭く長いため流動抵抗を生じさせる。そのため、連通細路3は、房室4から微小憩室2に向かう液流を緩徐化する。主流路1の液流に関して微小憩室2の開口の下流側の主流路の壁面には剪断部9が設けられる。特許文献1の1つの実施態様では、主流路、微小憩室、その他全てのポリジメチルシロキサン構造のガラス面にマウントされた深さ(図1の平面と垂直な方向の寸法)は17μmである。微小憩室2の主流路1の壁面への開口の幅は20μmである。連通細路3の幅は6μmで、連通細路3の微小憩室2への開口面と、連通細路3の房室4への開口面との距離、すなわち、連通細路3の長さは100μmである。剪断部9の主流路壁面からの高さは10μmである。
【0004】
図2は特許文献1に記載のベシクル生成方法の1つの実施態様を示す模式図である。まず、第1の水性溶液と、ベシクル膜を構成する両親媒性分子を含む水不溶性の有機溶液と、第2の水性溶液とをこの順序で特許文献1のベシクル生成装置に通過させる(図2AないしH)。第1の水性溶液はベシクル内液となる。主流路を流れる第1の水性溶液は、特許文献1の構造体のそれぞれの微小憩室の開口から微小憩室に侵入し、連通細路を通って房室を満たす(図2A)。つぎに、有機溶液を主流路に流す。ここで有機溶液として、例えば、ヘキサデカン17で脂質を溶解した有機溶液を用いる場合には、ポリジメチルシロキサンを溶解しないが、ポリジメチルシロキサン表面で濡れる性質を有し、ポリジメチルシロキサン樹脂に当該有機溶液が吸収され、ポリジメチルシロキサン樹脂が膨潤変形する。これにより、特許文献1の構造体の微小憩室2の内部に、前記有機溶液が侵入する(図2B)。前記有機溶液はポリジメチルシロキサン表面で濡れるので、有機溶液層は微小憩室2の相対する側壁面に懸架されて微小憩室を封止する。なお、ポリジメチルシロキサンが膨潤変形するため、連通細路もさらに狭くなるので、前記有機溶液は連通細路内には侵入しない。最後に、第2の水性溶液を主流路に流すことによって主流路内の有機溶液を押し流して除去する。前記有機溶液は、第1及び第2の水性溶液との間で相分離し界面で隔てられた有機溶液層を形成する(図2C)。その後、房室内の圧力発生部で圧力を発生させて、微小憩室内の第1の水性溶液が有機溶液層を微小憩室の開口に向けて押す。房室内の圧力発生部で発生した圧力は連通細路によって緩徐化されているので有機溶液層は微小憩室の側壁面に懸架されたまま微小憩室の開口の外に向けて断面が凸状に変形する(図2D)。このとき凸状に変形した有機溶液層の先端部では層が薄くなる。主流路では第2の水性溶液が一定速度で流れている(図2では左から右への向き)ので、有機溶液層の先端がさらに伸張して微小憩室の開口から主流路に入ると、該先端部が主流路の液流に押されて主流路の下流(図2では右)向きに屈曲する(図2E)。第1の水性溶液によって押された有機溶液層の先端が剪断手段を越えて伸張すると、主流路の液流により前記有機溶液層が前記剪断手段に押しつけられる(図2F)。そして、有機溶液層の先端が括れて切断される(図2G)。その後も第1の水性溶液によって前記有機溶液層の先端が前記剪断手段を越えて伸張して、順次前記先端が括れてベシクルとして切断される(図2H)。その結果、第1の水性溶液を内部に含むベシクルが第2の水性溶液を主流路の下流に向かって流れる。
【0005】
図3の(A)は特許文献1に記載のベシクル生成装置の主流路に第1の水性溶液(薄いハッチングの「Water」と表記)と、有機溶液(「Oil」と表記)と、第2の水性溶液(濃いハッチングの「Water」と表記)とを順次流す様子を示す斜視図であり、(B)ないし(H)は特許文献1のベシクル生成装置の構造体の1つの実施態様における微小憩室の開口付近での有機溶液層の変形の様子を示す部分拡大模式図である。第1の水性溶液は空気を押し出して微細憩室の中に侵入し、導入される(図3B)。有機溶液が前記微細憩室の中に導入された後(図C)、第2の水性溶液が前記微細憩室の中に侵入し、該微細憩室の中に前記有機溶液の層が形成される(図3D)。前記有機溶液層に溶けた両親媒性分子の分子は棒状の疎水性原子団と球状の親水性原子団とからなり、第1及び第2の水性溶液と前記有機溶液層との界面では親水性原子団が水性溶液に接するように配向する(図3C、D)。主流路の液流に関して微小憩室の開口の下流側の主流路の壁面には剪断部9が設けられる。微小憩室が主流路に面する開口周縁には憩室の壁面が張り出して内径を狭くする張出部10が設けられる場合がある。張出部10は憩室の内面の表面積を局所的に増大させるため、より大きい体積の有機溶液の層を微小憩室の開口に懸架することができる。有機溶液層は伸張に伴って微小憩室の壁面及び/又は張出部の周辺から伸張の先端に向かって薄くなり、最終的には全ての両親媒性分子が第1又は第2の水性溶液に接するように配向した二分子膜が形成される(図3E)。
【0006】
特許文献1に詳しく説明されるとおり、特許文献1に記載のベシクル生成装置は、1μmないし100μmの範囲のサイズで均一な単一層の二分子膜ベシクルを大量に生成することができた。しかし、特許文献1に記載の装置では、房室内で圧力を発生させるために、レーザ光をベシクル生成装置の各房室に次々と移動させて、アルミニウム薄膜にレーザ光を合焦させなければならない。このように正確にレーザ光束を操作する高度な技術は非常に高価であり、均一な単一層の二分子膜ベシクル生成技術を普及するうえで障害となる。また、同時に複数の房室のアルミニウム薄膜にレーザ光を合焦させることはできないので、多数のベシクルを生成することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際出願PCT/JP2009/064427号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、より廉価な圧力発生手段を用いて、より多くのベシクルを生成することができる技術を開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は二分子膜ベシクルの生成装置を提供する。本発明の二分子膜ベシクルの生成装置は、主流路と、該主流路に開口する複数の微小憩室と、変形可能な隔壁を介して前記微小憩室に隣接する房室とを含む構造体を複数含む。
【0010】
本発明の二分子膜ベシクルの生成装置において、前記変形可能な隔壁は弾性隔壁の場合がある。
【0011】
本発明の二分子膜ベシクルの生成装置において、前記変形可能な隔壁は変位可能な隔壁の場合がある。
【0012】
本発明の二分子膜ベシクルの生成装置において、前記構造体は剪断手段を含む場合がある。
【0013】
本発明の二分子膜ベシクルの生成装置において、前記微小憩室の壁面には相分離流体リザーバーが設けられ、該相分離流体リザーバーは相分離流体の層を懸架し、該相分離流体の層は、前記主流路と前記微小憩室との間を封止する場合がある。
【0014】
本発明の二分子膜ベシクルの生成装置において、前記微小憩室の壁面には複数の相分離流体リザーバーが設けられ、該複数の相分離流体リザーバーは複数の相分離流体の層を懸架し、該複数の相分離流体の層は、前記主流路と前記微小憩室との間を封止する場合がある。
【0015】
本発明の二分子膜ベシクルの生成装置において、前記相分離流体リザーバーは前記微小憩室の側壁面から該微小憩室内に伸びる張出部の場合がある。
【0016】
本発明の二分子膜ベシクルの生成装置において、前記房室には圧力発生部が設けられる場合がある。
【0017】
本発明の二分子膜ベシクルの生成装置において、前記房室は外部圧力源に接続される場合がある。
【0018】
本発明の二分子膜ベシクルの生成装置において、前記外部圧力源はシリンジポンプの場合がある。
【0019】
本発明の二分子膜ベシクルの生成装置において、前記外部圧力源は高圧ガスボンベの場合がある。
【0020】
本発明の二分子膜ベシクルの生成装置において、前記主流路を通過する相分離流体は1つの向きに流れ、前記剪断手段は前記微小憩室の開口の下流側に設けられる場合がある。
【0021】
本発明の二分子膜ベシクルの生成装置において、前記主流路を通過する液体は順逆2つの向きに流れ、前記剪断手段は前記2つの向きの流れのそれぞれの下流側に設けられる場合がある。
【0022】
本発明の二分子膜ベシクルの生成装置において、前記房室は水性溶液の外部供給源に接続され、該水性溶液は前記連通細路を介して前記微小憩室に供給される場合がある。
【0023】
本発明の二分子膜ベシクルの生成装置において、前記構造体は1個又は2個以上の水性溶液の流路を含み、該水性溶液の流路は、前記複数の相分離流体リザーバーのうち少なくとも2個の間に設けられた前記微小憩室の壁面の開口と、前記複数の水性溶液のそれぞれの外部供給源とを連絡する場合がある。
【0024】
本発明の二分子膜ベシクルの生成装置において、前記構造体は副流路を含み、該副流路は相分離流体の外部供給源に接続され、該相分離流体は前記副流路を介して前記相分離流体リザーバーに供給される場合がある。
【0025】
本発明の二分子膜ベシクルの生成装置において、前記微小憩室は2次元的に配置される場合がある。
【0026】
本発明の二分子膜ベシクルの生成装置において、前記微小憩室は3次元的に配置される場合がある。
【0027】
本発明の二分子膜ベシクルの生成装置において、前記相分離流体の層は水性溶液との間で界面を形成する場合がある。
【0028】
本発明の二分子膜ベシクルの生成装置において、前記相分離流体は両親媒性分子を含む有機溶液の場合がある。
【0029】
本発明の二分子膜ベシクルの生成装置において、前記相分離流体は気体か、両親媒性分子を含まない有機溶液かであり、前記水性溶液は両親媒性分子を含む場合がある。
【0030】
本発明の二分子膜ベシクルの生成装置において、前記構造体はポリジメチルシロキサンでできており、前記有機溶液はポリジメチルシロキサンを膨潤変形させる場合がある。
【0031】
本発明は二分子膜ベシクルの生成方法を提供する。本発明の二分子膜ベシクルの生成方法は、主流路と、該主流路に開口する複数の微小憩室と、該微小憩室と弾性隔壁を介して隣接する房室とを含む構造体と、第1及び第2の水性溶液と、相分離流体とを用意するステップと、前記構造体の主流路に第1の水性溶液を流して、第1の水性溶液を前記微小憩室に導入するステップと、前記構造体の主流路に前記相分離流体を流して、該相分離流体を前記微小憩室の少なくとも一部に導入するステップと、前記構造体の主流路に第2の水性溶液を流して、前記主流路内の前記相分離流体を除去し、前記相分離流体が相分離流体層を形成し、該相分離流体層は前記微小憩室の側壁面に懸架されるステップと、前記相分離流体層が前記微小憩室の側壁面に懸架された状態で、前記房室に圧力を加えることにより、前記弾性隔壁が前記微小憩室内に突出するように変形して第1の水性溶液を押し流して、前記相分離流体層の先端が前記微小憩室の開口から前記主流路に入るように前記相分離流体層を伸張させるステップと、前記主流路内の第2の水性溶液の液流が前記相分離流体層を剪断することによって、前記相分離流体層と、該相分離流体層に包囲された第1の水性溶液とが括れてベシクルとして切断されるステップとを含む。
【0032】
本発明の二分子膜ベシクルの生成方法において、前記変形可能な隔壁は弾性隔壁の場合がある。
【0033】
本発明の二分子膜ベシクルの生成方法において、前記変形可能な隔壁は変位可能な隔壁の場合がある。
【0034】
本発明の二分子膜ベシクルの生成方法において、前記相分離流体は両親媒性分子を含む有機溶液の場合がある。
【0035】
本発明の二分子膜ベシクルの生成方法において、第1及び第2の水性溶液は両親媒性分子を含み、前記相分離流体は気体か、両親媒性分子を含まない有機溶液かの場合がある。
【0036】
本発明の二分子膜ベシクルの生成方法において、第1の水性溶液が含む両親媒性分子は第2の水性溶液が含む両親媒性分子と異なる組成の場合がある。
【0037】
本発明の二分子膜ベシクルの生成方法において、前記構造体は剪断手段を含み、該剪断手段は前記主流路内の第2の水性溶液の液流とともに前記相分離流体層を剪断する場合がある。
【0038】
本発明の二分子膜ベシクルの生成方法において、前記微小憩室の壁面には相分離流体リザーバーが設けられ、前記相分離流体リザーバーは相分離流体の層を懸架し、該相分離流体の層は、前記主流路と前記微小憩室との間を封止する場合がある。
【0039】
本発明の二分子膜ベシクルの生成方法において、前記相分離流体リザーバーは前記微小憩室の側壁面から該微小憩室内に伸びる張出部の場合がある。
【0040】
本発明の二分子膜ベシクルの生成方法において、前記房室に圧力を加えることは、マイクロアクチュエータによって実行される場合がある。
【0041】
本発明の二分子膜ベシクルの生成方法において、前記房室に圧力を加えることは、外部圧力源に接続されることによって実行される場合がある。
【0042】
本発明の二分子膜ベシクルの生成方法において、前記外部圧力源はシリンジポンプの場合がある。
【0043】
本発明の二分子膜ベシクルの生成方法において、前記外部圧力源は高圧ガスボンベの場合がある。
【0044】
本発明の二分子膜ベシクルの生成方法において、前記主流路を通過する液体は1つの向きに流れ、前記剪断手段は前記微小憩室の開口の下流側に設けられる場合がある。
【0045】
本発明の二分子膜ベシクルの生成方法において、前記主流路を通過する液体は順逆2つの向きに流れ、前記剪断手段は前記2つの向きの流れのそれぞれの下流側に設けられる場合がある。
【0046】
本発明の二分子膜ベシクルの生成方法において、前記構造体は副流路を含み、該副流路は相分離流体の外部供給源に接続され、該相分離流体は前記副流路を介して前記相分離流体リザーバーに供給される場合がある。
【0047】
本発明はN層(Nは2又は3以上の整数)の二分子膜ベシクルの生成方法を提供する。特許文献1のN層の二分子膜ベシクルの生成方法において、主流路と、該主流路に開口する複数の微小憩室と、該微小憩室と弾性隔壁を介して隣接する房室とを含む構造体と、第1ないし第N+1番目の水性溶液と、第1ないし第N番目の相分離流体とを用意するステップと、前記構造体の主流路に第1の水性溶液を流して、第1の水性溶液を前記微小憩室に導入するステップと、前記構造体の主流路に第1の相分離流体を流して、第1の相分離流体を前記微小憩室の少なくとも一部に導入するステップと、前記構造体の主流路に第2の水性溶液を流して、前記主流路内の第1の相分離流体を除去し、第1の相分離流体が第1及び第2の水性溶液で挟まれた第1の相分離流体層を形成し、第1の相分離流体層は前記微小憩室の側壁面に懸架されるステップと、前記構造体の主流路に第m番目(mは2からN−1までの整数)の相分離流体を流して、第m番目の相分離流体を前記微小憩室の少なくとも一部に導入するステップと、前記構造体の主流路に第m+1番目の水性溶液を流して、前記主流路内の第m番目の相分離流体を除去し、第m番目の相分離流体が第m番目及び第m+1番目の水性溶液で挟まれた第m番目の相分離流体層を形成し、第m番目の相分離流体層は前記微小憩室の側壁面に懸架されるステップと、前記構造体の主流路に第N番目の相分離流体を流して、第N番目の相分離流体を前記微小憩室の少なくとも一部に導入するステップと、前記構造体の主流路に第N+1番目の水性溶液を流して、前記主流路内の第N番目の相分離流体を除去し、前記相分離流体が第N番目及び第N+1番目の水性溶液で挟まれた第N番目の相分離流体層を形成し、第N番目の相分離流体層は前記微小憩室の側壁面に懸架されるステップと、前記N個の相分離流体層が前記微小憩室の側壁面に懸架された状態で、前記房室に圧力を加えることにより、前記房室を経て前記微小憩室に第1の水性溶液が押し流されて、前記N個の相分離流体層の先端が前記微小憩室の開口から前記主流路に入るように前記N個の相分離流体層を伸張させるステップと、前記主流路内の第N+1番目の水性溶液の液流が前記N個の相分離流体層を剪断することによって、前記N個の相分離流体層と、該N個の相分離流体層に包囲された第1ないし第N番目の水性溶液とが括れてベシクルとして切断されるステップとを含む。ここで、前記構造体の主流路に第m番目(mは2からN−1までの整数)の相分離流体を流して、第m番目の相分離流体を前記微小憩室の少なくとも一部に導入するステップと、前記構造体の主流路に第m+1番目の水性溶液を流して、前記主流路内の第m番目の相分離流体を除去し、第m番目の相分離流体が第m番目及び第m+1番目の水性溶液で挟まれた第m番目の相分離流体層を形成し、第m番目の相分離流体層は前記微小憩室の側壁面に懸架されるステップとは、mの値を2、3、4、・・・、N−1としてN−2回繰り返して実施される。
【0048】
本発明は、本発明の二分子膜ベシクルの生成装置によって生成される、二分子膜ベシクルを提供する。
【0049】
本発明は、本発明の二分子膜ベシクルの生成方法によって生成される単一層の二分子膜ベシクルを提供する。
【0050】
本発明は、本発明のN層の二分子膜ベシクルの生成方法によって生成されるN層の二分子膜ベシクルを提供する。
【0051】
本発明の二分子膜ベシクルは、同一の膜タンパク質が埋め込まれている場合がある。
【0052】
本発明は、本発明の二分子膜ベシクルを含む医薬品組成物を提供する。
【0053】
本発明は、本発明の二分子膜ベシクルを含む化粧料組成物を提供する。
【0054】
本発明は、本発明の二分子膜ベシクルを含む食品組成物を提供する。
【0055】
本発明において、ベシクルとは、流体を内封した二分子膜をいう。二分子膜とは両親媒性分子2個からなる膜をいう。二分子膜ベシクルは光学顕微鏡で観察することができ、マイクロ流路技術によって取り扱うことができることを条件にいかなる形状及び大きさのベシクルであってもかまわないが、球形又はパンケーキ状の形状をとり、直径が1μmないし100μmで、内部が完全に封入されたベシクルであることが好ましく、直径が5μmないし40μmのベシクルであることがより好ましい。
【0056】
本発明においてベシクルのサイズとは、ほぼ球形のベシクルについては、マイクロメータで較正された光学顕微鏡で測定されたベシクルの表面の1点からもっとも離れた別の点までの距離をいう。パンケーキ状のベシクルについては顕微鏡下で撮影された画像の蛍光標識された面積の平方根をいう。
【0057】
本発明において相分離流体は、有機溶液又は気体である。特許文献1の相分離流体が有機溶液のとき、該有機溶液は二分子膜の構成成分である両親媒性分子を含む。特許文献1の相分離流体が気体の場合には、特許文献1の第1及び第2の水性溶液は両親媒性分子を含む。特許文献1の第1及び第2の水性溶液に含まれる両親媒性分子は同じ組成の場合と、異なる組成の場合がある。特許文献1の両親媒性分子は、水と油のいずれにも溶解することができる分子であって、分子内に親水性原子団と疎水性原子団とが共存する分子をいう。特許文献1の両親媒性分子は、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン等のリン脂質と、セレブロシド、ガングリオシド等の糖脂質と、長鎖アルコールと、長鎖カルボン酸と、石鹸と、合成洗剤とを含むがこれらに限られない。
【0058】
本発明において第1の水性溶液はベシクル内に封入される。したがって、第1の水性溶液は所望のベシクル内液と同じ組成の溶液を選択できる。例えば、転写、翻訳、呼吸、同化、異化、情報伝達その他の反応系を構成する酵素、補酵素、基質、高エネルギーリン酸化合物、電子供与体等を単独又は任意の組み合わせで選択することができる。以下の実施例に示すとおり、転写及び翻訳に必要なRNAポリメラーゼ及び転写因子と、アミノアシルtRNA及びリボソームとを含む無細胞発現系と、プロモーター及び構造遺伝子を含む転写ユニットをコーディングしたDNAとが第1液に含まれる場合がある。生成されたベシクルを識別するために蛍光標識を行うことが好ましい。
【0059】
第1の水性溶液にポリビニルピロリドンやアルギン酸ナトリウムのような粘稠性ポリマーを添加する場合もある。前記ポリマーがアルギン酸ナトリウムのような可逆的にゲル化するポリマーの場合もある。アルギン酸ナトリウムはカルシウムイオン存在下でゲル化する。カルシウムのようにポリマーを可逆的にゲル化させる因子を、第2の水性溶液か、生成されたベシクルを回収した後のベシクル外液かに添加することにより、ベシクル内部をゲル化させることができる。ベシクル外液から前記ゲル化させる因子を除去することによって、自在にベシクル内液を可逆的にゲル化することができる。前記ゲル化させる因子の除去は、例えば、希釈か、カルシウムイオンに対する特異的キレート剤であるEDTAやGEDTA(EGTA)の添加かによって行うことができる。ベシクル内部に粘稠なポリマー又はゲルが存在すると、ベシクル内での化学反応系が分子クラウディング又は排除体積効果によって効率よく進行する。また、ベシクルの形状を安定に保持するため、生成したベシクルを輸送したり、長期保存する際に有用である。
【0060】
本発明において有機溶液は、二分子膜の構成成分である、リン脂質、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン等と、糖脂質、例えば、セレブロシド、ガングリオシド等と、コレステロールその他の化合物と、膜タンパク質と、これらを溶解させることのできる有機溶媒、例えば、ヘキサデカセン、スクアレン等を含むのが好ましい。本発明の構造体がポリジメチルシロキサンでできている場合には、ポリジメチルシロキサンに吸収され、膨潤変形させることができるヘキサデカセンを溶媒として用いることが好ましい。
【0061】
本発明の第2の水性溶液は、ベシクルの外液であるから、ベシクルの形状を安定に保持するためにはベシクル内液、すなわち、第1の水性溶液と等張性の溶液組成を有することが好ましい。また静電気的に容器にベシクルが吸着することを防いだり、ベシクルを安定化するために、ウシ血清アルブミン、ポリビニルピロリドンを添加する場合がある。
【0062】
本発明のベシクルの生成装置の構造体に含まれる、主流路、微小憩室、変形可能な隔壁、弾性隔壁、変位可能な隔壁、房室、剪断手段、剪断部、流体リザーバー、張出部及び副流路と、水性溶液の外部供給源及び/又は外部圧力源と前記構造体との接続は添付する図面に示された形状に限定されず、いかなる形状のものであってもかまわない。本発明のベシクル生成方法は、本明細書に開示された2分子膜の形成方法だけでなく、特願2005−220002号明細書をはじめとする他の方法で形成された2分子膜を用いて形成される場合がある。
【0063】
本発明の構造体の主流路は、構造体の外部から供給される水性溶液、有機溶液及び/又は気体を、構造体内部の全ての微小憩室に導入するように流す。最終的には構造体の外部に接続されたドレンに排出される。構造体を流れた水性溶液、有機溶液及び/又は気体は、主流路を流れた順に前記微小憩室内で層を形成する。
【0064】
本発明のベシクルの生成装置の構造体に含まれる剪断手段は、主流路の液流よって変形した有機溶液層と第1の水性溶液とを含む舌状の断面形状の物体(以下、「舌状体」という。)が接触することが可能なことを条件として、微小憩室の開口から離れた位置に設けてもかまわない。剪断手段は、主流路の流れとともに舌状体を括る剪断力を集中させる手段をいう。剪断手段は、本発明の構造体の物理的構造である剪断部の他、超音波、電気等によって剪断力を集中させるものであってもかまわない。剪断部の寸法及び開口からの距離は、開口の形状及び大きさ、用いる水性溶液及び有機溶液の粘弾性、表面張力等の物性や、有機溶液層を懸架する微小憩室の側壁面及び剪断部の濡れ特性等に応じて当業者が適切に設計することができる。剪断部は、主流路の壁面と連続した凸条、突起又は台の場合がある。剪断部が微小憩室の開口と連続した構造、例えば、微小憩室の開口の狭窄又はノズルや、主流路の下流側の開口が主流路内に伸びて、主流路に侵入した舌状体の下流側を支持する構造の場合がある。あるいは、1個又は2個以上の前記主流路の壁面からの突起、脚又は柱によって支持される橋、梁又は棒のような構造であってもかまわない。本発明の剪断部は主流路の液流に関して微小憩室の開口の下流側に設けられる場合がある。本発明の剪断部は微小憩室の開口と同側の主流路の壁面に設けられる場合があるが、微小憩室の開口に向き合う主流路の壁面に設けられる場合がある。本発明において、主流路を通過する液体は1つの向き(順方向)のみに流れる場合があるが、順方向と反対の向き(逆方向)にも流れる場合がある。その場合には本発明の剪断部は主流路の長手方向に沿って微小憩室の開口の両側に1個ずつ設けられる。2個の剪断部は位置及び/又は形状が異なる場合があり、主流路の液流の向きを切り替えることによって異なるサイズのベシクルを生成することができる。
【0065】
本発明の相分離流体、有機溶液又は気体は第1の水性溶液の次に主流路に流され、その後、第2の水性溶液を主流路に流すことによって、微小憩室のそれぞれに導入される。微小憩室に張出部その他の相分離流体リザーバーを微小憩室の開口付近に設けることによって、より大きい体積の有機溶液を懸架することが可能になる。本発明の相分離流体リザーバーは、より大きい体積の有機溶液又は気体が微小憩室の側壁面に付着することができることを条件としていかなる構造又は形状のものであってもかまわない。例えば、微小憩室の側壁面に有機溶液又は気体との親和性の高い化学的な表面処理を施す場合があり、あるいは、前記側壁面に凹部及び/又は凸部を設けて表面積を増大させるものであってもよく、図3に示される張出部に限定されない。本発明の相分離流体リザーバーは、光学的、電気的その他の手法によって本発明の相分離流体の微小憩室の側壁面との親和性を遠隔制御して、相分離流体リザーバーの機能の状態を切り替え可能であることが好ましい。
【0066】
本発明のベシクルの生成は前記舌状体の先端が剪断手段に押しつけられて括れて切断されることによって起こる。本発明のベシクルは単一層の二分子膜ベシクルであるから、舌状体からベシクルが分離してもすぐには有機溶液はなくならない。しかし、大量のベシクルが生成すると有機溶液は消費される。そこで、本発明では有機溶液を補給するために副流路を設ける場合がある。副流路は、主流路の壁面の一部を表面処理して第2の水性溶液を流した後でも主流路の壁面に沿って有機溶液の流路が形成される場合があり、あるいは、主流路とは別に立体的な流路を微細加工技術によって設ける場合がある。有機溶液の補給のための副流路を備えたベシクル生成装置は、長期安定的に同一品質のベシクルを生成しつづけることができる。同様に、本発明の第1の水性溶液も大量のベシクルが生成すると消費される。そこで、本発明では第1の水性溶液を外部供給源から補給する場合がある。N個の相分離流体リザーバーを備えたN層の二分子膜ベシクルの生成装置では、第m番目の相分離流体リザーバーと第m+1番目の相分離流体リザーバーとの間に第m+1番目の水性溶液を外部供給源から補給するための開口を設ける場合がある。各相分離流体リザーバーの機能状態を遠隔的に切り替えることによって、どの層がどの相分離流体リザーバーによって懸架されるかを制御することができる。すると、特定の層の間の水性溶液を外部から補給することができる。これにより、N層の二分子膜ベシクルの各層の中間の水性溶液の組成を制御することができる。
【0067】
本発明のベシクルの生成装置の構造体に含まれる微小憩室と房室とは、変形可能な隔壁を介して隣接する。すなわち前記変形可能な隔壁は、前記微小憩室と前記房室との間を気密及び液密に封止し、かつ、該房室内の圧力が上昇すると、前記微小憩室に向けて突出するように変形を起こす。
【0068】
本発明のベシクルの生成装置の構造体に含まれる変形可能な隔壁は、弾性隔壁か、変位可能な隔壁かの場合がある。前記弾性隔壁には、隔壁が構造体と連続した一体構造をなす場合と、微小憩室の側面、頂面及び底面のうち少なくとも1つの面が連続し、残りの面については微小憩室及び房室を液密かつ気密に密封することを条件として摺動する場合とがある。前記変位可能な隔壁は、微小憩室の側面、頂面及び底面の全てについて、微小憩室及び房室を液密かつ気密に密封することを条件として摺動する。
【0069】
さらに、本発明のベシクルの生成装置の構造体に含まれる微小憩室1個あたり複数の房室が配置され、1個の微小憩室を取り囲む複数の壁面が変形可能な隔壁であってもかまわない。1個の微小憩室を取り囲む複数の変形可能な隔壁のそれぞれを圧力変化で駆動する房室は、個別の送圧路で外部圧力源に接続されてもかまわないし、例えば側面の隔壁を駆動する房室はまとめて1本の送圧路に接続され、頂面及び底面の隔壁を駆動する房室はまとめて1本の送圧路に接続される、というようにグループ化して複数の面の側壁を駆動する房室が1本の送圧路に接続されてもかまわない。さらに、複数の微小憩室の特定の面の隔壁を駆動する房室が1本の送圧路に接続されてもかまわない。
【0070】
前記房室内の圧力は、当業者に周知のいかなる手段によって上昇させてもかまわない。前記房室内は、気体及び液体を含むいかなる流体によって与圧されてもかまわない。前記房室は送圧路を介して外部圧力源に接続されることが好ましいが、前記房室内に設けられたアクチュエータによって圧力を上昇させてもかまわない。前記外部圧力源は、シリンジポンプ及び高圧ガスボンベを含むが、これらに限定されない。
【0071】
前記微小憩室及び房室は、両者を隔てる前記弾性隔壁が弾性変形を起こすことによって前記微小憩室内の流体を主流路に向けて押し出すことができることを条件として、いかなる形状及び配置であってもかまわない。以下の実施例で説明される微小憩室及び房室の寸法と、圧力とは、構造体に用いられるポリジメチルシロキサンの組成及び製法との関係で定められる。本発明の原理を知る当業者は、構造体の材料に応じて、前記微小憩室及び房室の寸法と、圧力とを変更させることができる。
【0072】
本発明のベシクル生成装置と、構造体と、相分離流体と、空気と、有機溶液と、水性溶液とは、必要に応じて、無菌処理を施したり、生体毒性のない素材及び製造方法で製作又は調製される。
【0073】
本発明のベシクル生成装置は、レーザ光を操作したり、ベシクル生成過程を観察するための光学顕微鏡と、主流路を通過する液体を送液するためのポンプ、例えば、シリンジポンプと、流路を切り替えるためのバルブと、本発明の構造体のアクチュエータを駆動又は制御するための電気回路の制御装置と、温度制御装置とを含むが、これらに限られない付属設備を伴う場合がある。
【0074】
本発明の構造体は、例えば、光リソグラフィ、エッチング等の従来の微細加工技術を組合せて、犠牲層の除去により立体的な構造とすることができる(EE Text センサ・マイクロマシン工学、藤田博之編著、オーム社(2005))。代替策として、押印転写法(特願2007−10867号明細書及びOnoe, H.ら、Journal of Micromechanics and Microengineering, 17: 1818−1827 (2007))を利用する場合がある。また、従来の微細加工技術と前記押印転写法とを組み合わせて立体的な形状を有する構造体を作成することもできる。
【0075】
本発明の構造体は、従来の微細加工技術及び/又は前記押印転写法を、単独で、あるいは、組み合わせて作成された立体的な形状を有する鋳型を使って作成される成形品の場合がある。前記成形品は、プラスチック、セラミック及びハイドロゲルと、これらの複合材料とを含むが、これらに限定されない材料を用いて作成される場合がある。
【0076】
本発明において「微小憩室が2次元的に配置される」とは、主流路と微小憩室とが単一の平面上に配置されることをいう。例えば、単一のガラス基板上に作成され、主流路を挟んで相対するように複数の微小憩室が配置される場合をいう。
【0077】
本発明において「微小憩室が3次元的に配置される」とは、主流路と微小憩室とが配置される平面が2個又は3個以上あることをいう。例えば、微小憩室が主流路の流体の流れる方向軸に回転対称となるように配置される場合をいう。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】特許文献1のベシクル生成装置の1つの実施態様の構造体の模式図。
【図2】特許文献1のベシクル生成方法の1つの実施態様を示す模式図。
【図3】特許文献1のベシクル生成装置の構造体の1つの実施態様における微小憩室の開口付近での有機溶液層の変形の様子を示す部分拡大模式図。
【図4】本発明のベシクル生成装置の1つの実施態様の外観写真(a)と、本発明のベシクル生成装置の構造体の1つの実施態様の構成の模式図(b)。
【図5】本発明のベシクル生成装置の構造体の1つの実施態様における微小憩室及び房室の顕微鏡写真((a−1)及び(a−2))と、模式図((b−1)及び(b−2))と、送気容積と圧力との関係のグラフ(c)と、送圧と弾性隔壁の変形との関係のグラフ(d)。
【図6】本発明のベシクル生成装置の構造体の1つの実施態様における微小憩室及び房室の顕微鏡写真((a)、(b)及び(c))と、送圧と生成されたベシクルの容積との関係のグラフ(d)。
【図7】本発明のベシクル生成の時間経過を示す顕微鏡写真。
【符号の説明】
【0079】
1、21、31 主流路
2、22、33 微小憩室
3 連通細路
4、24、35 房室
5 圧力発生部
6 アルミニウム薄膜
7 レーザ光束
8 微細気泡
9 剪断部
10 張出部
11 副流路
12 第1の水性溶液の表面に配向した両親媒性分子
13 気体の層
14 第2の水性溶液の表面に配向した両親媒性分子
23、34 隔壁
25、36 送圧路
32 連通路
【発明を実施するための最良の形態】
【0080】
以下に実施例を示すが、これらは実施態様の例示を意図しており本発明の範囲を限定することは意図しない。
【実施例1】
【0081】
1.圧力変化によって弾性隔壁が変形する構造体の作製
本発明の1つの実施態様のベシクル生成装置はマイクロ流体デバイスを含み、該マイクロ流体デバイスは1個又は2個以上の本発明の構造体を含む。前記構造体は、ガラス面にマウントされたポリジメチルシロキサン(PDMS)でできており、主流路と、該主流路に開口する複数の微小憩室とを含む微細構造が微細加工により設けられる。前記マイクロ流体デバイスには、ポンプ及び流路スイッチが連結され、外部供給源から前記主流路に流す液体および/または気体の種類と、流速及び/又は圧力と、均一流か、脈流その他の不均一流かのような流し方とを自由に設定することができる。
【0082】
図4は、本発明のベシクル生成装置の1つの実施態様の外観写真(a)と、本発明のベシクル生成装置の構造体の1つの実施態様の構成の模式図(b)とを示す。図4を参照して、前記ベシクル生成装置には、外部供給源から、ポンプ及び流路スイッチを介して水性溶液、有機溶液および/または気体を前記主流路に流して、構造体の全ての微小憩室に導入するためのチュービングと、主流路からドレンに排出するためのチュービングと、外部圧力源からの高圧気体を送圧路経由で房室に送るためのチュービングとが接続される(図4(a))。図4(b)は本発明の1つの実施態様のベシクル生成装置の構造体の模式図である。主流路21に面して微小憩室22が開口し、微小憩室22は弾性隔壁23を介して房室24と隣接する。房室24から送圧路25が伸びて、前記外部圧力源に接続される。弾性隔壁23は、微小憩室22と房室24との間を気密及び液密に封止し、かつ、前記外部圧力源からの気体で房室24内の圧力が上昇すると、微小憩室22に向けて突出するように弾性変形を起こす。弾性隔壁23は、房室24の圧力上昇により微小憩室22内の流体を主流路に向けて押し出す。本発明の1つの実施態様では、微小憩室22の奥行きは60μm、微小憩室22と房室24を隔てる弾性隔壁23の幅は100μmである。
【0083】
図5(a−1)及び(a−2)は、本発明のベシクル生成装置の構造体の1つの実施態様における微小憩室及び房室の顕微鏡写真である。破線は、主流路31からの連通路32と、微小憩室33との輪郭を示す。図5(a−1)に示すとおり、弾性隔壁34の厚さ、すなわち、微小憩室33と房室35との距離は30μmである。図5(b−1)は、図5(a−1)に示すA−A’直線を含み、図5(a−1)の面に垂直な断面の模式図である。図5(b−1)に示すとおり、微小憩室33、弾性隔壁34及び房室35の高さは100μmで、主流路31の高さは15μmで、主流路31と微小憩室33との連絡路32は、高さは主流路31と同じ15μmであるが、幅は、微小憩室33への開口部の幅100μmより主流路31への開口部の幅が狭いオリフィス状である。図5(a−2)及び(b−2)は、それぞれ、房室35の圧力を上昇させることにより、弾性隔壁34が微小憩室33に向けて突出するように弾性変形を起こしている様子を示す顕微鏡写真及び断面模式図である。本実施例では、主流路31と、連絡路32との高さは15μmで、微小憩室33及び房室35の高さ100μmに比べて低いため、房室35内の圧力変化が、連絡路32では大きく増幅される。
【0084】
図5(c)は、送気容積と圧力との関係のグラフである。グラフの縦軸は房室内の圧力(kPa)で、横軸は送気容積(mL)である。本実施例のベシクル生成装置には、42個の微小憩室及び房室が設けられ、前記装置内の全体積は、360nLであった。また、前記圧力は、シリンジで空気を送り込む際、該シリンジと、前記装置との間に圧力センサを挟んで測定された。図5(c)から明らかなとおり、圧力源として空気を0.5ないし2.5mL送り込むだけで、房室内の圧力を15ないし110kPaまで上昇させることができる。また、図5(d)は房室内の圧力と弾性隔壁の変形との関係のグラフである。グラフの縦軸は、加圧によって前記弾性隔壁が変形して前記微小憩室に突出した先端が、加圧前と比較した変位(単位μm)を表し、横軸は房室内の圧力(kPa)である。図5(c)及び(d)から、本実施例のベシクル生成装置では、1.0mLから2.5mLの空気を送り込むことによって、前記微小憩室の奥行き60μmに対して、10μmから30μmまで前記弾性隔壁を変形させることができた。
【実施例2】
【0085】
2.ベシクルの生成
実施例1に説明した本発明の1つの実施態様のベシクル生成装置において、微小憩室に加える圧力と、主流路を流れる第2の水性溶液の流速とを調整することにより、ベシクルの体積を制御することができた。第1の水性溶液にカルセインが添加された。有機溶液として、両親媒性分子ジフィタノールフォスファチジルコリン(DPhPC)を10mg/mL含むヘキサデカンが用いられた。第2の水性溶液には、0.05体積%のブロックコポリマー界面活性剤pluronic F88(商標、BASF)が添加された。図6(a)は、主流路に流された第1の水性溶液が微小憩室を満たした状態を示す顕微鏡写真である。図6(b)は、第1の水性溶液に続いて主流路に流された有機溶液が、主流路から微小憩室への連絡路を満たした状態を示す顕微鏡写真である。破線は、主流路からの連通路と、微小憩室との輪郭を示す。図6(c)は、前記有機溶液に続いて主流路に流された第2の水性溶液が主流路を満たして、前記有機溶液は前記連絡路内にあって、第1及び第2の水性溶液に挟まれた層をなしている状態を示す顕微鏡写真である。図6(a)ないし(c)のそれぞれの横には、第1及び第2の水性溶液と、前記有機溶液とを「water」と、「oil」とで表し、主流路の流れの向きを矢印で示した模式図を示す。図6(d)は、送圧と、房室より押し出された液体の容積との関係のグラフである。該グラフの横軸は房室内の圧力(kPa)を表し、縦軸は房室より押し出された液体の容積(μL)を表す。前記容積は、液体を押し出し、シリンジを戻した際に微小憩室に逆流した水量を、顕微鏡下で観察される流入した液体の面積と微小憩室の高さとの積で近似して算出された。図6(d)に示すとおり、約15ないし48kPaの圧力を房室に加えることによって、約1.5ないし6μLの容積を前記微小憩室から前記主流路へ押し出すことができる。すなわち、本実施例では、mLオーダーの空気の注入操作という比較的安価に実現可能な圧力発生手段によって、細胞とほぼ同じ大きさの多数のベシクルを生成することができた。
【0086】
図7は本発明のベシクル生成の時間経過を示す顕微鏡写真である。ここではベシクルを可視化するために第1の水性溶液にカルセインが添加された。図7(a)ないし(d)の各コマの時間経過tが秒単位で表される。図7(a)の破線は、主流路からの連通路と、微小憩室との輪郭を示す。本実施例のベシクル生成装置では、約1.6秒で1個のベシクルが生成された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主流路と、該主流路に開口する複数の微小憩室と、変形可能な隔壁を介して前記微小憩室に隣接する房室とを含む構造体を複数含むことを特徴とする、両親媒性分子による二分子膜ベシクルの生成装置。
【請求項2】
前記変形可能な隔壁は弾性隔壁であることを特徴とする、請求項1に記載の二分子膜ベシクルの生成装置。
【請求項3】
前記変形可能な隔壁は変位可能な隔壁であることを特徴とする、請求項1に記載の二分子膜ベシクルの生成装置。
【請求項4】
前記構造体は剪断手段を含むことを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の二分子膜ベシクルの生成装置。
【請求項5】
前記微小憩室の壁面には相分離流体リザーバーが設けられ、該相分離流体リザーバーは相分離流体の層を懸架し、該相分離流体の層は、前記主流路と前記微小憩室との間を封止することを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の二分子膜ベシクルの生成装置。
【請求項6】
前記微小憩室の壁面には複数の相分離流体リザーバーが設けられ、該複数の相分離流体リザーバーは複数の相分離流体の層を懸架し、該複数の相分離流体の層は前記主流路と前記微小憩室との間を封止することを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の二分子膜ベシクルの生成装置。
【請求項7】
前記相分離流体リザーバーは前記微小憩室の側壁面から該微小憩室内に伸びる張出部であることを特徴とする、請求項5又は6に記載の二分子膜ベシクルの生成装置。
【請求項8】
前記房室には圧力発生部が設けられることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか1つに記載の二分子膜ベシクルの生成装置。
【請求項9】
前記房室は外部圧力源に接続されることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか1つに記載の二分子膜ベシクルの生成装置。
【請求項10】
前記主流路を通過する流体は1つの向きに流れ、前記剪断手段は前記微小憩室の開口の下流側に設けられることを特徴とする、請求項2ないし9のいずれか1つに記載の二分子膜ベシクルの生成装置。
【請求項11】
前記主流路を通過する流体は順逆2つの向きに流れ、前記剪断手段は前記2つの向きの流れのそれぞれの下流側に設けられることを特徴とする、請求項2ないし9のいずれか1つに記載の二分子膜ベシクルの生成装置。
【請求項12】
前記構造体は1個又は2個以上の水性溶液の流路を含み、該水性溶液の流路は、前記複数の相分離流体リザーバーのうち少なくとも2個の間に設けられた前記微小憩室の壁面の開口と、前記複数の水性溶液のそれぞれの外部供給源とを連絡することを特徴とする、請求項4ないし11のいずれか1つに記載の二分子膜ベシクルの生成装置。
【請求項13】
前記構造体は副流路を含み、該副流路は相分離流体の外部供給源に接続され、該相分離流体は前記副流路を介して前記相分離流体リザーバーに供給されることを特徴とする、請求項3ないし12のいずれか1つに記載の二分子膜ベシクルの生成装置。
【請求項14】
前記微小憩室は2次元的に配置されることを特徴とする、請求項1ないし13のいずれか1つに記載の二分子膜ベシクルの生成装置。
【請求項15】
前記微小憩室は3次元的に配置されることを特徴とする、請求項1ないし13のいずれか1つに記載の二分子膜ベシクルの生成装置。
【請求項16】
前記相分離流体の層は水性溶液との間で界面を形成することを特徴とする、請求項3ないし15のいずれか1つに記載の二分子膜ベシクルの生成装置。
【請求項17】
前記相分離流体は両親媒性分子を含む有機溶液であることを特徴とする、請求項3ないし16のいずれか1つに記載の二分子膜ベシクルの生成装置。
【請求項18】
前記相分離流体は、気体か、両親媒性分子を含まない有機溶液かであり、前記水性溶液は両親媒性分子を含むことを特徴とする、請求項16に記載の二分子膜ベシクルの生成装置。
【請求項19】
前記構造体はポリジメチルシロキサンでできており、前記有機溶液はポリジメチルシロキサンを膨潤変形させることを特徴とする、請求項1ないし18のいずれか1つに記載の二分子膜ベシクルの生成装置。
【請求項20】
二分子膜ベシクルの生成方法であって、
主流路と、該主流路に開口する複数の微小憩室と、変形可能な隔壁を介して前記微小憩室に房室とを含む構造体と、第1及び第2の水性溶液と、相分離流体とを用意するステップと、
前記構造体の主流路に第1の水性溶液を流して、第1の水性溶液を前記微小憩室に導入するステップと、
前記構造体の主流路に前記相分離流体を流して、該相分離流体を前記微小憩室の少なくとも一部に導入するステップと、
前記構造体の主流路に第2の水性溶液を流して、前記主流路内の前記相分離流体を除去し、前記相分離流体が相分離流体層を形成し、該相分離流体層は前記微小憩室の側壁面に懸架されるステップと、
前記相分離流体層が前記微小憩室の側壁面に懸架された状態で、前記房室に圧力を加えることにより、前記弾性隔壁が前記微小憩室内に突出するように変形して第1の水性溶液を押し流して、前記相分離流体層の先端が前記微小憩室の開口から前記主流路に入るように前記相分離流体層を伸張させるステップと、
前記主流路内の第2の水性溶液の液流が前記相分離流体層を剪断することによって、前記相分離流体層と、該相分離流体層に包囲された第1の水性溶液とが括れてベシクルとして切断されるステップとを含むことを特徴とする、二分子膜ベシクルの生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−92860(P2011−92860A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249506(P2009−249506)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】