説明

圧力測定装置

【課題】100Paから大気圧までの圧力領域において圧力を測定可能な圧力測定装置を提供する。
【解決手段】弾道電子面放出型電子源(BSD)1と、BSD1に対向配置されるアノード電極20と、アノード電極20に流れる電子電流を検出する電子電流検出手段たる第1の電流センサ25と、アノード電極20にBSD1とは反対側で対向配置されるコレクタ電極30と、アノード電極20に流れる電子電流を検出する電子電流検出手段たる第1の電流センサ25と、コレクタ電極30に流れるイオン電流を検出するイオン電流検出手段たる第2の電流センサ35と、イオン電流に基づいて求めた圧力が100Pa以下のときには当該圧力を測定値としイオン電流に基づいて求めた圧力が100Paよりも高いときには電子電流に基づいて求めた圧力を測定値とする演算部40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、中真空から超高真空領域の圧力を測定する代表的な圧力測定装置として、熱陰極電離真空計が知られている。熱陰極電離真空計は、図6に示すように、熱電子を放出するフィラメント(熱陰極)Fと、電子を加速し捕集するグリッドGと、イオンを捕集するコレクタCとを備えており、フィラメントFから放出された熱電子を加速して気体を電離させることによって生じるイオン電流を測定し、イオン電流量に基づいて圧力を求めるものであるが、測定圧力範囲の上限を高めたシュルツ型電離真空計でも100Pa以下でしか使用できなかった。
【0003】
これに対して、熱陰極電離真空計の基本構成要素を備え、熱電子により生成されたイオンをコレクタで捕集しコレクタに流れるイオン電流に基づいて圧力を求める電離真空計動作と、電離真空計動作を行うときよりもフィラメントの温度を下げフィラメントが気体分子によって奪われた熱量に基づいて圧力を求めるピラニ真空計動作とを切り替えるように構成することにより、従来の熱陰極電離真空計よりも高い圧力領域まで使用できるようにした圧力測定装置が提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平10−213509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示された圧力測定装置では、ピラニ真空計動作により測定圧力範囲の上限を高めているので、測定圧力範囲の上限はピラニ真空計と同様に10Paであり、測定圧力範囲の上限を大気圧まで広げることはできなかった。また、従来の熱陰極電離真空計や上記特許文献1に記載された圧力測定装置においては、フィラメントを通電加熱する必要があるので、消費電力が大きく、また、脱ガスの影響を受けてしまうという不具合があった。
【0005】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、100Paから大気圧までの圧力領域において圧力を測定可能な圧力測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、表面電極と下部電極との間に表面電極を高電位側とする駆動電圧が印加されたときに電子が通過する電子通過層を有し表面電極を通して電子を放出する電子源であって電子通過層が多数のナノメータオーダの半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成され半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜を有する弾道電子面放出型電子源と、弾道電子面放出型電子源の表面電極に対向配置され弾道電子面放出型電子源との間に弾道電子面放出型電子源の表面電極を低電位側として表面電極との間にアノード電圧が印加され電子を加速し捕集するアノード電極と、アノード電極に流れる電子電流を検出する電子電流検出手段と、電子電流検出手段により検出された電子電流に基づいて圧力を求める機能を有する演算手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、電子を放出する電子源として弾道電子面放出型電子源を用いており、弾道電子面放出型電子源に対向配置されたアノード電極に流れる電子電流を検出する電子電流検出手段により検出された電子電流に基づいて圧力を求めるので、100Paから大気圧までの圧力領域において圧力の測定が可能となる。また、電子を放出する電子源としてフィラメントを用いる従来の熱陰極電離真空計や圧力測定装置に比べて低消費電力化を図れるとともに、脱ガスの影響を少なくできるという利点もある。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記アノード電極が少なくともイオンを通過させるための通路を有しており、前記アノード電極に前記弾道電子面放出型電子源とは反対側で対向配置され前記アノード電極を高電位側として前記アノード電極との間にコレクタ電圧が印加されるコレクタ電極であって前記弾道電子面放出型電子源から放出され前記アノード電極へ向う電子により電離されたイオンを収集するコレクタ電極と、コレクタ電極に流れるイオン電流を検出するイオン電流検出手段とを備え、前記演算手段は、イオン電流検出手段により検出されたイオン電流に基づいて圧力を求める機能を有し、イオン電流に基づいて求めた圧力が100Pa以下のときには当該圧力を測定値とし、イオン電流に基づいて求めた圧力が100Paよりも高いときには電子電流に基づいて求めた圧力を測定値とすることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、圧力が100Paよりも高いときには前記アノード電極に流れる電子電流に基づいて求めた圧力を測定値として採用し、圧力が100Pa以下のときには前記コレクタ電極に流れる電流に基づいて電離真空計と同じ測定原理で求めた圧力を測定値として採用するので、大気圧から高真空まで広い圧力範囲に亘って圧力を測定することが可能となる。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記弾道電子面放出型電子源における電子放出面および前記アノード電極は、面状であることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、前記アノード電極での電子の捕集効率を高めることができるので、100Paから大気圧までの圧力領域における圧力の測定感度の高感度化を図れる。
【0012】
請求項4の発明は、請求項2または請求項3の発明において、前記コレクタ電極は、線状であることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、前記弾道電子面放出型電子源から放出された電子が前記アノード電極に入射したときに軟X線が発生しても、当該軟X線が前記コレクタ電極に入射する可能性が低くなり、軟X線が前記コレクタ電極に入射したときに発生する光電子による光電子電流がイオン電流に重畳されるのを抑制できて、より低い圧力まで精度良く測定することが可能となる。
【0014】
請求項5の発明は、請求項2ないし請求項4の発明において、前記コレクタ電極の両側それぞれに、前記アノード電極と前記弾道電子面放出型電子源との組が配置されてなることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、前記演算手段が前記コレクタ電極の両側の前記アノード電極それぞれに流れる電子電流を加算した加算値に基づいて圧力を求めるように構成することにより、100Paから大気圧までの圧力領域における圧力の測定感度の高感度化を図れ、また、前記コレクタ電極に捕集されるイオンの量が増えて、100Pa以下の圧力領域における圧力の測定感度の高感度化も図れるので、大気圧から高真空まで広い圧力範囲に亘って測定感度の高感度化を図れる。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明では、100Paから大気圧までの圧力領域において圧力の測定が可能になるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本実施形態の圧力測定装置は、図1(a)に示すように、電界放射により電子を放出する弾道電子面放出型電子源(Ballistic electron Surface-emitting Device:BSD)1と、BSD1の表面電極7と下部電極5との間に表面電極7を高電位側として駆動電圧を印加する駆動用電圧源Vpsと、BSD1の表面電極7に対向配置されBSD1との間にBSD1の表面電極7を低電位側として表面電極7との間にアノード電圧が印加され電子を加速し捕集するアノード電極20と、アノード電極20と表面電極7との間に上述のアノード電圧を印加するアノード用電圧源Vaと、アノード電極20に流れる電子電流を検出する電子電流検出手段たる第1の電流センサ25と、第1の電流センサ25により検出された電子電流に基づいて圧力を求める機能を有する演算手段たる演算部40とを備える。
【0018】
また、本実施形態の圧力測定装置では、上述のアノード電極20が少なくともイオンを通過させるための通路を有しており、アノード電極20に弾道電子面放出型電子源10とは反対側で対向配置されアノード電極20を高電位側としてアノード電極20との間にコレクタ電圧が印加されるコレクタ電極30であってBSD1から放出されアノード電極20へ向う電子により電離されたイオンを収集するコレクタ電極30と、コレクタ電極30とアノード電極20との間に上述のコレクタ電圧を印加するコレクタ用電圧源Vcと、コレクタ電極30に流れるイオン電流を検出するイオン電流検出手段たる第2の電流センサ35とを備え、上述の演算部40は、第2の電流センサ35により検出されたイオン電流に基づいて圧力を求める機能も有し、イオン電流に基づいて求めた圧力が100Pa以下のときには当該圧力を測定値とし、イオン電流に基づいて求めた圧力が100Paよりも高いときには電子電流に基づいて求めた圧力を測定値として図示しない表示部に表示させるようになっている。なお、演算部40は、マイクロコンピュータを主構成とし、当該マイクロコンピュータに適宜のプログラムを搭載することにより上記各機能を実現することができる。また、アノード電極20の上記通路はイオンの他に電子も通過できるので、コレクタ電極30には、アノード電極20の上記通路を通過した電子により電離されたイオンも収集される。
【0019】
BSD1は、矩形板状の絶縁性基板(例えば、絶縁性を有するガラス基板、絶縁性を有するセラミック基板など)3の一表面上に金属膜(例えば、タングステン膜など)からなる下部電極5が形成され、下部電極5上に強電界ドリフト層6が形成され、強電界ドリフト層6上に金属薄膜(例えば、金薄膜)よりなる表面電極7が形成されている。なお、本実施形態におけるBSD1では、強電界ドリフト層6が電子通過層を構成している。
【0020】
BSD1の強電界ドリフト層6は、後述のナノ結晶化プロセスおよび酸化プロセスを行うことにより形成されており、図1(b)に示すように、少なくとも、下部電極5の表面側に列設された柱状の多結晶シリコンのグレイン(半導体結晶)51と、グレイン51の表面に形成された薄いシリコン酸化膜52と、グレイン51間に介在する多数のナノメータオーダのシリコン微結晶(半導体微結晶)63と、各シリコン微結晶63の表面に形成され当該シリコン微結晶63の結晶粒径よりも小さな膜厚の酸化膜である多数のシリコン酸化膜(絶縁膜)64とから構成されると考えられる。ここに、各グレイン51は、下部電極5の厚み方向に延びている(つまり、絶縁性基板3の厚み方向に延びている)。
【0021】
上述のBSD1から電子を放出させるには、表面電極7が下部電極5に対して高電位側となるように表面電極7と下部電極5との間に上記駆動電圧を駆動用電圧源Vpsにより印加すれば、下部電極5から強電界ドリフト層6へ注入された電子が強電界ドリフト層6をドリフトし表面電極7を通して放出される(図1(b)中の一点鎖線は表面電極7を通して放出された電子eの流れを示す)。ここに、強電界ドリフト層6の表面に到達した電子はホットエレクトロンであると考えられ、表面電極7を容易にトンネルし大気中に放出される。また、BSD1に駆動電圧を印加するとともに、アノード電極20が表面電極7に対して高電位側となるようにアノード電極20と表面電極7との間にアノード電圧をアノード用電源Vaにより印加しておけば、BSD1が駆動電圧により駆動されて表面電極7を通して電子が放出され、表面電極7を通して放出された電子がアノード電圧により加速される。要するに、BSD1は、表面電極7と下部電極5との間に表面電極を高電位側とする駆動電圧が印加されたときに電子が通過する電子通過層たる強電界ドリフト層6を有し表面電極7を通して電子を放出する電子源である。
【0022】
ここにおいて、BSD1では、次のようなモデルで電子放出が起こると考えらている。すなわち、表面電極7と下部電極5との間に表面電極7を高電位側として電圧を印加することにより、下部電極5から強電界ドリフト層6へ電子eが注入される。一方、強電界ドリフト層6に印加された電界の大部分はシリコン酸化膜64にかかるから、注入された電子eはシリコン酸化膜64にかかっている強電界により加速され、強電界ドリフト層6におけるグレイン51の間の領域を表面に向かって図1(b)中の矢印の向き(図1(b)における上向き)へドリフトし、表面電極7をトンネルし放出される。しかして、強電界ドリフト層6では下部電極5から注入された電子がシリコン微結晶63でほとんど散乱されることなくシリコン酸化膜64にかかっている電界で加速されてドリフトし、表面電極7を通して放出され(弾道型電子放出現象)、強電界ドリフト層6で発生した熱がグレイン51を通して放熱されるから、電子放出時にポッピング現象が発生せず、安定して電子を放出することができる。
【0023】
上述の強電界ドリフト層6の形成方法の一例について説明する。
【0024】
強電界ドリフト層6の形成にあたっては、まず、絶縁性基板3上に形成した下部電極5上にノンドープの多結晶シリコン層を例えばLPCVD法などにより形成した後、上述のナノ結晶化プロセスを行うことにより、多結晶シリコンの多数のグレイン51(図1(b)参照)と多数のシリコン微結晶63(図1(b)参照)とが混在する複合ナノ結晶層(以下、第1の複合ナノ結晶層と称す)を形成する。ここにおいて、ナノ結晶化プロセスでは、例えば、55wt%のフッ化水素水溶液とエタノールとを略1:1で混合した混合液よりなる電解液を用い、下部電極5を陽極とし、電解液中において多結晶シリコン層に白金電極よりなる陰極を対向配置して、500Wのタングステンランプからなる光源により多結晶シリコン層の主表面に光照射を行いながら、電源から陽極と陰極との間に定電流(例えば、電流密度が12mA/cmの電流)を所定時間(例えば、10秒)だけ流すことによって、多結晶シリコンのグレイン51およびシリコン微結晶63を含む第1の複合ナノ結晶層を形成する。
【0025】
ナノ結晶化プロセスが終了した後に、第1の複合ナノ結晶層を電気化学的に酸化する上述の酸化プロセスを行うことで、図1(b)のような構成の複合ナノ結晶層(以下、第2の複合ナノ結晶層と称す)からなる強電界ドリフト層6を形成する。酸化プロセスでは、例えば、エチレングリコールからなる有機溶媒中に0.04mol/lの硝酸カリウムからなる溶質を溶かした溶液よりなる電解液を用い、下部電極5を陽極とし、電解液中において第1の複合ナノ結晶層に白金電極よりなる陰極を対向配置して、電源から陽極と陰極との間に定電流(例えば、電流密度が0.1mA/cmの電流)を流し陽極と陰極との間の電圧が20Vだけ上昇するまで第1の複合ナノ結晶層を電気化学的に酸化することによって、上述のグレイン51、シリコン微結晶63、各シリコン酸化膜52,64を含む第2の複合ナノ結晶層からなる強電界ドリフト層6を形成するようになっている。なお、本実施形態では、上述のナノ結晶化プロセスを行うことによって形成される第1の複合ナノ結晶層においてグレイン51、シリコン微結晶63以外の領域はアモルファスシリコンからなるアモルファス領域となっており、強電界ドリフト層6においてグレイン51、シリコン微結晶63、各シリコン酸化膜52,64以外の領域がアモルファスシリコン若しくは一部が酸化したアモルファスシリコンからなるアモルファス領域65となっているが、ナノ結晶化プロセスの条件によってはアモルファス領域65が孔となり、このような場合の第1の複合ナノ結晶層は多孔質多結晶シリコン層とみなすことができる。
【0026】
なお、上述の強電界ドリフト層6では、シリコン酸化膜64が絶縁膜を構成しており絶縁膜の形成に酸化プロセスを採用しているが、酸化プロセスの代わりに窒化プロセスないし酸窒化プロセスを採用してもよく、窒化プロセスを採用した場合には各シリコン酸化膜52,64がいずれもシリコン窒化膜となり、酸窒化プロセスを採用した場合には各シリコン酸化膜52,64がいずれもシリコン酸窒化膜となる。
【0027】
以上説明したBSD1では、表面電極7と下部電極5との間に印加する駆動電圧を10〜20V程度の低電圧としても電子を放出させることができる。また、BSD1は、電子放出時にポッピング現象が発生せず安定して電子を高い電子放出効率で放出することができ、高真空に限らず大気圧中でも電子を放出することができる。ここにおいて、アノード電極20に流れる電子電流をアノード電流と呼ぶことにすれば、例えば、BSD1とアノード電極20との間の距離を2mm、BSD1の駆動電圧を20V、アノード電圧を100Vとしたときの圧力とアノード電流の電流密度との関係は図2に示すようになる。図2から分かるように、アノード電流は、圧力が100Pa以下の圧力では圧力依存性が小さいのに対して、100Paから大気圧までの圧力領域では圧力の増加とともに減少する傾向にある。
【0028】
また、本実施形態の圧力測定装置においてコレクタ電極30にイオン電流が流れる原理は従来の電離真空計と同様の原理であり、コレクタ電極30に流れるイオン電流は、圧力の減少につれて減少する。
【0029】
ここにおいて、本実施形態の圧力測定装置では、上述のように、演算部40が、イオン電流に基づいて求めた圧力が100Pa以下のときには当該圧力を測定値とし、イオン電流に基づいて求めた圧力が100Paよりも高いときには電子電流(アノード電流)に基づいて求めた圧力を測定値とするように構成されているので、圧力が100Paよりも高いときにはアノード電極20に流れる電子電流に基づいて求めた圧力を測定値として採用し、圧力が100Pa以下のときにはコレクタ電極30に流れる電流に基づいて電離真空計と同じ測定原理で求めた圧力を測定値として採用されることとなるから、大気圧から高真空まで広い圧力範囲に亘って圧力を測定することが可能となる。要するに、本実施形態の圧力測定装置では、電子を放出する電子源としてBSD1を用いており、演算部40がBSD1に対向配置されたアノード電極20に流れる電子電流に基づいて圧力を求める機能を有しているので、100Paから大気圧までの圧力領域において圧力の測定が可能となる。また、電子を放出する電子源としてフィラメントを用いる従来の熱陰極電離真空計や圧力測定装置に比べて低消費電力化を図れるとともに、脱ガスの影響を少なくできるという利点もある。また、BSD1における電子放出面を面状にするとともに、アノード電極20を全体として面状としておけば、アノード電極20での電子の捕集効率を高めることができるので、100Paから大気圧までの圧力領域における圧力の測定感度の高感度化を図れる。なお、アノード電極20は、少なくともイオンを通過させるための通路を設けつつも電子の捕集面積を大きくできるように全体として面状の形状とすることが望ましく、例えば、メッシュ状の形状としてもよいし、多数の微小な穴が開いた板状の形状としてもよい。
【0030】
ところで、上述のようにアノード電流の電流密度は圧力が100Paから大気圧に近づくにつれて減少するが、アノード電流の電流密度はアノード電極20とBSD1との間の距離によって変化し大気圧中では図3に示すように変化するので、100Paから大気圧の圧力領域における圧力の測定感度を高めるには、アノード電極20とBSD1との間の距離を5mm以下に設定して、BSD1から放出された電子がアノード電極20に到達する前にトラップされるのを防止することでアノード電極20での電子の捕集効率を高めることが望ましい。ここで、BSD1とアノード電極20との間の距離を短くすることにより、アノード電圧を低減できて低消費電力化を図れるという利点もある。
【0031】
また、上述のコレクタ電極30を図4に示すように線状の形状としておけば、BSD1から放出された電子がアノード電極20に入射したときに軟X線が発生しても、当該軟X線がコレクタ電極30に入射する可能性が低くなり、軟X線がコレクタ電極30に入射したときに発生する光電子による光電子電流がイオン電流に重畳されるのを抑制できて、ノイズが低減されるので、より低い圧力(10−8Pa程度)まで精度良く測定することが可能となる。ここにおいて、コレクタ電極30とアノード電極20との間の距離は5mm以下に設定することが望ましく、コレクタ電極30とアノード電極20との間の距離を5mm以下に設定することにより、コレクタ電極30におけるイオンの捕集効率を高めることができ、比較的高い圧力(100Pa程度)の圧力まで電離真空計と同様の原理で圧力を測定することができる。なお、図4に示した例では、線状のコレクタ電極30を3本設けてあるが、コレクタ電極30の数は特に限定するものではなく、1本でもよい。また、コレクタ電極30の形状は線状に限らず、例えば、メッシュ状の形状でもよい。
【0032】
また、図5に示すように、コレクタ電極30の両側それぞれに、アノード電極20とBSD1との組が配置された構成を採用し、上述の演算部40がコレクタ電極30の両側のアノード電極20それぞれに流れる電子電流を加算した加算値に基づいて圧力を求めるように構成することにより、100Paから大気圧までの圧力領域における圧力の測定感度の高感度化を図れ、また、コレクタ電極30に捕集されるイオンの量が増えて、100Pa以下の圧力領域における圧力の測定感度の高感度化も図れるので、大気圧から高真空まで広い圧力範囲に亘って測定感度の高感度化を図れる。
【0033】
なお、上述のBSD1は、絶縁性基板3の上記一表面側に下部電極5を形成しているが、絶縁性基板3に代えてシリコン基板などの半導体基板を用い、半導体基板と当該半導体基板の裏面側に積層した導電性層(例えば、オーミック電極)とで下部電極を構成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施形態を示し、(a)は圧力測定装置の概略構成図、(b)は弾道電子面放出型電子源の動作説明図である。
【図2】同上におけるアノード電流の電流密度と圧力との関係説明図である。
【図3】同上におけるアノード電流の電流密度と、弾道電子面放出型電子源とアノード電極との距離との関係説明図である。
【図4】同上の他の構成例の概略構成図である。
【図5】同上の他の構成例の概略構成図である。
【図6】従来例を示す熱陰極電離真空計の模式図である。
【符号の説明】
【0035】
1 弾道電子面放出型電子源(BSD)
3 絶縁性基板
5 下部電極
6 強電界ドリフト層
7 表面電極
20 アノード電極
25 第1の電流センサ
30 コレクタ電極
35 第2の電流センサ
40 演算部
Vps 駆動用電源
Va アノード用電源
Vc コレクタ用電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面電極と下部電極との間に表面電極を高電位側とする駆動電圧が印加されたときに電子が通過する電子通過層を有し表面電極を通して電子を放出する電子源であって電子通過層が多数のナノメータオーダの半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成され半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜を有する弾道電子面放出型電子源と、弾道電子面放出型電子源の表面電極に対向配置され弾道電子面放出型電子源との間に弾道電子面放出型電子源の表面電極を低電位側として表面電極との間にアノード電圧が印加され電子を加速し捕集するアノード電極と、アノード電極に流れる電子電流を検出する電子電流検出手段と、電子電流検出手段により検出された電子電流に基づいて圧力を求める機能を有する演算手段とを備えることを特徴とする圧力測定装置。
【請求項2】
前記アノード電極が少なくともイオンを通過させるための通路を有しており、前記アノード電極に前記弾道電子面放出型電子源とは反対側で対向配置され前記アノード電極を高電位側として前記アノード電極との間にコレクタ電圧が印加されるコレクタ電極であって前記弾道電子面放出型電子源から放出され前記アノード電極へ向う電子により電離されたイオンを収集するコレクタ電極と、コレクタ電極に流れるイオン電流を検出するイオン電流検出手段とを備え、前記演算手段は、イオン電流検出手段により検出されたイオン電流に基づいて圧力を求める機能を有し、イオン電流に基づいて求めた圧力が100Pa以下のときには当該圧力を測定値とし、イオン電流に基づいて求めた圧力が100Paよりも高いときには電子電流に基づいて求めた圧力を測定値とすることを特徴とする請求項1記載の圧力測定装置。
【請求項3】
前記弾道電子面放出型電子源における電子放出面および前記アノード電極は、面状であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の圧力測定装置。
【請求項4】
前記コレクタ電極は、線状であることを特徴とする請求項2または請求項3記載の圧力測定装置。
【請求項5】
前記コレクタ電極の両側それぞれに、前記アノード電極と前記弾道電子面放出型電子源との組が配置されてなることを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれかに記載の圧力測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−329880(P2006−329880A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−156119(P2005−156119)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】