説明

圧力調整ネジ機構、および、圧力制御弁

【課題】弁の最低調整圧力を上げることなく、調整ネジの操作トルクを低減できる圧力調整ネジ機構を提供する。
【解決手段】調整ネジ6の頭部6aが筒体51の内部に進入するとき、頭部6aはネジ側スプリング受け3の中空部31に当接可能となる。一方、頭部6aが筒体51の内部から退出するとき、係止溝6bの壁面は、中空部31の段差面35に係止可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば減圧弁などの圧力調整ネジ機構、および、圧力制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧力調整ネジ機構としては、図6に示すように、ケーシング105と、このケーシング105内に配置されるスプリング108と、このケーシング105内でスプリング108の両端に配置される第1スプリング受け101および第2スプリング受け102と、この第1スプリング受け101に固定される調整ネジ103とを備えたものがある(特開平8−253125号公報:特許文献1参照)。
【0003】
上記調整ネジ103は、上記ケーシング105のネジ孔105aに螺合しており、調整ネジ103をケーシング105内に螺進または螺退させることで、第1スプリング受け101を介してスプリング108の圧縮力を調整していた。このスプリング108の圧縮力は、第2スプリング受け102を介して、スプール104に伝達されていた。つまり、調整ネジ103は、スプリング108のスプール104に対する付勢力を調整していた。
【0004】
しかしながら、上記従来の圧力調整ネジ機構では、調整ネジ103と第1スプリング受け101とは、固定されていたので、調整ネジ103を締め付けまたは緩めるとき、第1スプリング受け101は、調整ネジ103の回転に追従して、回転していた。
【0005】
このとき、上記第1スプリング受け101の座面と上記スプリング108の端面との接触によって摩擦力が発生し、さらに、第1スプリング受け101の外周面に嵌め込まれたOリング106とケーシング105の内周面との接触によって摩擦力が発生していた。
【0006】
そして、これらの摩擦力に逆らって調整ネジ103を回転させるのに必要な力のモーメントが、調整ネジ103の操作トルクとなっていた。このため、調整ネジ103の操作トルクが大きくなる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−253125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明の課題は、弁の最低調整圧力を上げることなく、調整ネジの操作トルクを低減できる圧力調整ネジ機構、および、圧力制御弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、この発明の圧力調整ネジ機構は、
軸方向の一方にネジを有する筒体と、
上記筒体のネジに螺合すると共に、中心にネジ孔を有するキャップと、
上記筒体内に配置されたスプリングと、
上記スプリングの一端を上記軸方向に進退可能に支持すると共に、外周に上記筒体の内周面との間をシールするシール部材を有するスプリング受けと、
上記キャップのネジ孔に螺合すると共に、上記スプリング受けを上記軸方向に進退させて上記スプリングのバネ力を調整する調整ネジと
を備え、
上記調整ネジは、
上記キャップのネジ孔に螺合するネジ本体と、
頭部と、
上記頭部と上記ネジ本体との間に位置する係止溝と
を有し、
上記スプリング受けは、
上記頭部が回転自在に挿入されると共に、上記頭部が上記軸方向の他方に移動したとき当接可能である一方、上記頭部が上記軸方向の一方に移動したとき上記係止溝の壁面が係止可能である中空部と、
上記中空部と外部とを連通すると共に、上記係止溝が挿入される挿入孔と
を有することを特徴としている。
【0010】
この発明の圧力調整ネジ機構によれば、上記スプリングの弁体に対する付勢力を増大する場合、調整ネジを上記軸方向の他方に移動させ筒体の内部に螺進させて、この調整ネジによりスプリング受けを押圧し、このスプリング受けによりスプリングを押圧する。このとき、調整ネジの頭部は、スプリング受けの中空部に対して回転自在に接触しながらスプリング受けを押圧するので、スプリング受けは、調整ネジの回転に追従して、回転しない。これによって、調整ネジを締め付けるときに、スプリング受けに過大な回転モーメントは発生せず、調整ネジを回転する操作トルクを低減できる。
【0011】
一方、上記スプリングの弁体に対する付勢力を減少する場合、調整ネジを上記軸方向の一方に移動させ筒体の内部から螺退させて、スプリング受けによるスプリングの押圧力を低減する。このとき、調整ネジの係止溝の壁面は、スプリング受けの中空部に係止して、スプリング受けは、調整ネジに追従するので、スプリング受けを、調整ネジとともに、引き戻すことができる。これによって、調整ネジを緩めるときに、スプリング受けを摩擦力に抗して引き戻し、スプリング荷重を完全に開放できて、弁の最低調整圧力を十分に下げることができる。
【0012】
また、一実施形態の圧力調整ネジ機構では、
上記中空部は、上記筒体の内周面と同心の円板状の空間を形成し、
上記挿入孔は、上記中空部に対して偏心した円孔である。
【0013】
この実施形態の圧力調整ネジ機構によれば、上記中空部は、上記筒体の内周面と同心の円板状の空間を形成し、上記挿入孔は、上記中空部に対して偏心した円孔であるので、中空部の内周面と挿入孔の内周面との段差により、調整ネジの係止溝が係止する中空部の段差面を構成する。このように、調整ネジの係止溝に対する中空部の係止構造を簡単に作製できる。
【0014】
また、上記調整ネジの上記係止溝の壁面を上記中空部に係止させる場合、頭部を挿入孔から中空部に挿入し、頭部を中空部内で反偏心側へ移動させて、係止溝の壁面を中空部に係止させることができ、係止溝の中空部への係止作業が容易となる。
【0015】
また、一実施形態の圧力調整ネジ機構では、
上記中空部は、上記スプリング受けの外周から中心を超えて延在する空間を形成し、
上記挿入孔は、上記スプリング受けの外周から中心を超えて延在するスリットである。
【0016】
この実施形態の圧力調整ネジ機構によれば、上記中空部は、上記スプリング受けの外周から中心を超えて延在する空間を形成し、上記挿入孔は、上記スプリング受けの外周から中心を超えて延在するスリットであるので、中空部の内周面と挿入孔の内周面との段差により、調整ネジの係止溝が係止する中空部の段差面を構成する。このように、調整ネジの係止溝に対する中空部の係止構造を簡単に作製できる。
【0017】
また、上記調整ネジの上記係止溝の壁面を上記中空部に係止させる場合、頭部および係止溝をスプリング受けの外周から中空部および挿入孔に挿入して、係止溝の壁面を中空部に係止させることができ、係止溝の壁面の中空部への係止作業が容易となる。
【0018】
また、一実施形態の圧力制御弁では、
弁体と、
この弁体が制御する圧力を調整する上記圧力調整ネジ機構と
を備える。
【0019】
この実施形態の圧力制御弁によれば、上記圧力調整ネジ機構を有するので、弁の最低調整圧力を上げることなく、調整ネジの操作トルクを低減できる。
【発明の効果】
【0020】
この発明の圧力調整ネジ機構によれば、上記スプリング受けは、上記中空部と上記挿入孔とを有するので、弁の最低調整圧力を上げることなく、調整ネジの操作トルクを低減できる。
【0021】
この発明の圧力制御弁によれば、上記圧力調整ネジ機構を有するので、弁の最低調整圧力を上げることなく、調整ネジの操作トルクを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の圧力調整ネジ機構を含む圧力制御弁の断面図である。
【図2】調整ネジの正面図である。
【図3A】スプリング受けの側面図である。
【図3B】スプリング受けの断面図である。
【図4】圧力調整ネジ機構の要部拡大図である。
【図5A】他のスプリング受けの側面図である。
【図5B】他のスプリング受けの断面図である。
【図6】従来の圧力調整ネジ機構の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0024】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の圧力調整ネジ機構を含む圧力制御弁の断面図を示している。この圧力制御弁の一例として、直動形減圧弁を示す。図1に示すように、圧力制御弁は、1次ポートP1および2次ポートP2を有する本体部1と、上記本体部1に収容されて1次ポートP1と2次ポートP2との間を開閉する弁体17と、上記弁体17が制御する圧力を調整する圧力調整ネジ機構Zとを備える。以下、圧力調整ネジ機構Z側(図中、左側)を前方側または一方側とし、本体部1側(図中、右側)を後方側または他方側とする。
【0025】
上記本体部1の内部には、弁室12とパイロット室14とを有する。この弁室12は、1次ポートP1に連通する第1環状溝15と、2次ポートP2に連通する第2環状溝16とを有する。弁室12の一方側(前方側)に、圧力調整ネジ機構Zのスプリング室13が連通し、弁室12の他方側(後方側)に、上記パイロット室14が連通する。
【0026】
上記パイロット室14は、本体部1の後端の円孔20をプラグ21で密閉して形成される空間21aと、プラグ21の先端の円孔21bとから構成されている。上記空間21aと上記円孔21bとは、プラグ21に設けられた径方向通路21cを介して、連通している。上記空間21aは、上記本体部1内の軸方向通路22を介して、2次ポートP2に連通している。
【0027】
上記弁体17は、一例としてスプールであり、前端に第1ランド17aと、後端に第2ランド17dと、上記第1ランド17aと上記第2ランド17dとの間に第1中間ランド17bおよび第2中間ランド17cとを有する。第1中間ランド17bは、第2中間ランド17cの前方に位置する。
【0028】
上記第1ランド17aおよび上記第2ランド17dは、弁室12に摺動自在に嵌合されている。上記第1中間ランド17bは、1次ポートP1と2次ポートP2との間を開閉する。弁体17の後端がプラグ21の先端に当接するとき、第1中間ランド17bによる1次、2次ポートP1,P2間の開度は、最大開度となる。
【0029】
上記弁体17は、この中心軸上に延在するドレン通路29を有する。このドレン通路29は、第1ランド17aの前方に第1開口29aと、第2中間ランド17cと第2ランド17dとの間に第2開口29bとを有する。第1開口29aは、スプリング室13に連通し、スプリング室13は、図示しない通路を介して、上記本体部1に設けられたタンクポートTに連通している。
【0030】
上記圧力調整ネジ機構Zは、軸方向の一方にネジを有する筒体51と、筒体51のネジに螺合するキャップ52と、筒体51の内部に配置された第1スプリング41および第2スプリング42と、筒体51の内部に配置された弁側スプリング受け2およびネジ側スプリング受け3と、キャップ52のネジ孔52aに螺合する調整ネジ6とを有する。
【0031】
上記筒体51は、一例としてリテーナであり、筒体51の一端(前端)に、キャップ52が螺合し、筒体51の他端(後端)に、本体部1の前端が螺合している。筒体51の内部は、上記スプリング室13を構成する。キャップ52は、一例として袋ナットであり、キャップ52の中心に、ネジ孔52aを有する。
【0032】
上記弁側スプリング受け2および上記ネジ側スプリング受け3は、筒体51の軸に沿って移動自在に、筒体51の内部に配置されている。弁側スプリング受け2は、ネジ側スプリング受け3よりも、本体部1側(後方)に配置されている。弁側スプリング受け2の後面には、ボール24が嵌合しており、弁側スプリング受け2は、このボール24を介して、弁体17の前端に当接する。
【0033】
上記第1スプリング41および上記第2スプリング42は、弁側スプリング受け2とネジ側スプリング受け3との間に、配置されている。第1、第2スプリング41,42は、筒体51の第2の端部(後端部)側に配置される弁体17を付勢する。
【0034】
上記第1スプリング41は、弁体17をパイロット室14に向けて付勢するメインの調圧スプリングである。上記第2スプリング42は、第1スプリング41のばね定数よりも小さいばね定数を有するサブの補助スプリングである。第1、第2スプリング41,42の詳細な構成や動作は、特開平8−253125号公報に開示されている。
【0035】
上記第2スプリング42は、上記第1スプリング41の内側に配置されている。第2スプリング42は、弁側スプリング受け2における第1スプリング41が接触する座面部2aよりも一段高い小径部2bに接触する。第2スプリング42は、ネジ側スプリング受け3における第1スプリング41が接触する座面部3aよりも一段高い小径部3bに接触する。
【0036】
上記第2スプリング42は、弁側スプリング受け2の小径部2bとネジ側スプリング受け3の小径部3bとの間に、自然長で配置され、各ポートP1,P2,Tが大気に開放された圧力が作用していない状態で、弁体17をパイロット室14に向けて付勢して、第1中間ランド17bを1次、2次ポートP1,P2の間を最大開度に開放するようにしている。
【0037】
上記ネジ側スプリング受け3は、第1、第2スプリング41,42よりも筒体51の第1の端部側(前端部)に配置されて、第1、第2スプリング41,42の一端を軸方向に進退可能に支持する。ネジ側スプリング受け3の座面部3aの外周面には、シール部材8が嵌め込まれている。このシール部材8は、一例としてOリングであり、筒体51の内周面との間をシールして、スプリング室13を密閉する。
【0038】
上記調整ネジ6は、キャップ52のネジ孔52aに螺合して、筒体51の軸に沿って筒体51の内部に進退自在となる。調整ネジ6は、ネジ側スプリング受け3を軸方向に進退させて、第1、第2スプリング41,42のバネ力を調整する。つまり、調整ネジ6を筒体51の内部に螺進させることで、第1、第2スプリング41,42の付勢力を増大する一方、調整ネジ6を筒体51の内部から螺退させることで、第1、第2スプリング41,42の付勢力を低減する。調整ネジ6は、さらにナット28に螺合され、キャップ52との緩みが防止される。
【0039】
図1と図2に示すように、上記調整ネジ6は、キャップ52のネジ孔52aに螺合するネジ本体6cと、頭部6aと、頭部6aとネジ本体6cとの間に位置する係止溝6bとを有する。頭部6aの径とネジ本体6cの径とは、ほぼ同じであるが、頭部6aの径が、ネジ本体6cの径よりも小さくてもよい。係止溝6bの径は、頭部6aの径およびネジ本体6cの径よりも小さい。係止溝6bの軸方向の長さは、ネジ側スプリング受け3の挿入孔32の軸方向の長さよりも大きく、かつ、キャップ52のネジ孔52aの軸方向長さとスプリング受け3の挿入孔32の軸方向の長さとを足した長さよりも小さい。
【0040】
図3Aと図3Bに示すように、上記ネジ側スプリング受け3は、中空部31と、この中空部31に連通する挿入孔32とを有する。中空部31および挿入孔32は、座面部3aに設けられている。中空部31は、挿入孔32よりも、後方奥側に位置している。底面部3aの外周面には、シール部材8を嵌め込む周溝33を有する。
【0041】
上記中空部31は、円板状の空間を形成し、中空部31の中心31aは、筒体51の内周面の中心(つまり、スプリング受け3の中心)と同心である。上記挿入孔32は、円孔であり、挿入孔32の中心32aは、中空部31の中心31aに対して、偏心量eだけ偏心している。
【0042】
上記挿入孔32の内径は、上記調整ネジ6の頭部6aの外径よりも若干大きく、上記中空部31の内径よりも小さい。挿入孔32の偏心側の内周面は、中空部31の内周面に一致している。中空部31の内周面と、挿入孔32の反偏心側の内周面との間には、段差面35が設けられ、この段差面35は、中空部31の内壁を構成する。
【0043】
図4に示すように、上記ネジ側スプリング受け3の中空部31は、上記調整ネジ6の頭部6aが回転自在に挿入される。そして、頭部6aが軸方向の他方に移動し筒体51の内部に進入するとき、頭部6aは、中空部31に当接可能となる。一方、頭部6aが軸方向の一方に移動し筒体51の内部から退出するとき、係止溝6bの壁面は、中空部31の段差面35に係止可能となる。また、ネジ側スプリング受け3の挿入孔32は、中空部31,31Aと外部とを連通すると共に、係止溝6bが挿入される。
【0044】
言い換えると、上記調整ネジ6を上記ネジ側スプリング受け3に回転自在に連結したとき、調整ネジ6の頭部6aは、スプリング受け3の中空部31内に位置し、かつ、調整ネジ6の係止溝6bの壁面は、スプリング受け3の中空部31の段差面35に係止する。そして、調整ネジ6が筒体51の内部に進入するときに、頭部6aは、スプリング受け3に対して回転自在に接触しながらスプリング受け3を押圧する。一方、調整ネジ6が筒体51の内部から退出するときに、係止溝6bの壁面は、中空部31の段差面35に係止して、スプリング受け3は、調整ネジ6に追従する。
【0045】
次に、上記調整ネジ6と上記ネジ側スプリング受け3との連結方法を説明すると、まず、調整ネジ6をキャップ52に螺合させて、頭部6aおよび係止溝6bをキャップ52から突出させる。この状態で、頭部6aを挿入孔32から中空部31に挿入する。そして、頭部6aを中空部31内で段差面35側へ移動させて、係止溝6bの壁面を中空部31の段差面35に係止させる。その後、係止溝6bを中空部31に係止させた状態で、スプリング受け3を筒体51の内部に挿入しつつ、キャップ52を筒体51に螺合させる。
【0046】
上記構成の圧力調整ネジ機構Zによれば、上記スプリング41,42の弁体17に対する付勢力を増大する場合、調整ネジ6を筒体51の内部に螺進させ、この調整ネジ6によりネジ側スプリング受け3を押圧し、このスプリング受け3によりスプリング41,42を押圧する。このとき、調整ネジ6の頭部6aは、スプリング受け3に対して回転自在に接触しながらスプリング受け3を押圧するので、スプリング受け3は、調整ネジ6の回転に追従して、回転しない。
【0047】
これによって、上記調整ネジ6を締め付けるときに、ネジ側スプリング受け3に過大な回転モーメントは発生せず、調整ネジ6を回転する操作トルクを低減できる。具体的に述べると、本願発明では、図4に示すように、調整ネジ6の操作トルクは、調整ネジ6とスプリング受け3との接触部Pにおける摩擦力に、調整ネジ6の軸からの距離Aを掛けたモーメントとなる。このため、調整ネジ6の操作トルクは、小さいものとなる。
【0048】
これに対して、従来では、図6に示すように、第1スプリング受け101の座面とスプリング108の端面との接触によって摩擦力が発生し、さらに、第1スプリング受け101の外周面に嵌め込まれたOリング106とケーシング105の内周面との接触によって摩擦力が発生しており、しかも、調整ネジ103の軸からこれらの摩擦力が発生する場所までの距離は、本願発明の上記距離Aよりも、大きくなっていた。このため、従来では、調整ネジ103の操作トルクは、非常に大きいものとなっていた。
【0049】
一方、本願発明において、上記スプリング41,42の弁体17に対する付勢力を減少する場合、調整ネジ6を筒体51の内部から螺退させ、ネジ側スプリング受け3によるスプリング41,42の押圧力を低減する。このとき、調整ネジ6の係止溝6bの壁面は、スプリング受け3の中空部31の段差面35に係止して、スプリング受け3は、調整ネジ6に追従するので、スプリング受け3を、調整ネジ6とともに、引き戻すことができる。
【0050】
これによって、上記調整ネジ6を緩めるときに、ネジ側スプリング受け3をシール部材8の摩擦力に抗して引き戻し、スプリング荷重を完全に開放できて、弁の最低調整圧力を十分に下げることができる。
【0051】
これに対して、比較例として、図6に示す従来例での第1スプリング受け101と調整ネジ103とを単に分離した場合を考える。調整ネジ103を緩めたとき、第1スプリング受け101の外周面に嵌め込まれたOリング106とケーシング105の内周面との接触によって摩擦力が発生しているため、第1スプリング受け101は、調整ネジ103に追従しない。このため、スプリング荷重は、完全に開放されずに、一部が残留することになって、弁の最低調整圧力を十分に下げることができない不具合がある。
【0052】
また、本願発明によれば、上記ネジ側スプリング受け3に、中空部31と、この中空部31に対して偏心した挿入孔32とを設け、中空部31の内周面と挿入孔32の内周面との段差により、調整ネジ6の係止溝6bが係止する中空部31の段差面35を構成するので、調整ネジ6の係止溝6bに対する中空部31の係止構造を簡単に作製できる。
【0053】
また、上記調整ネジ6の上記係止溝6bの壁面を上記中空部31に係止させる場合、頭部6aを挿入孔32から中空部31に挿入し、頭部6aを中空部31内で反偏心側へ移動させて、係止溝6bの壁面を中空部31に係止させることができ、係止溝6bの中空部31への係止作業が容易となる。
【0054】
また、上記構成の圧力制御弁によれば、上記圧力調整ネジ機構Zを有するので、弁の最低調整圧力を上げることなく、調整ネジ6の操作トルクを低減できる。
【0055】
(第2の実施形態)
図5Aと図5Bは、この発明の圧力調整ネジ機構のスプリング受けの第2の実施形態を示している。上記第1の実施形態と相違する点を説明すると、この第2の実施形態では、ネジ側スプリング受けの中空部と挿入孔の形状が相違する。
【0056】
図5Aと図5Bに示すように、ネジ側スプリング受け3Aは、U字切り込み状の中空部31Aと、この中空部31Aに連通するU字切り込み状の挿入孔32Aとを有する。中空部31Aは、スプリング受け3Aの外周から中心を超えて延在する空間を形成し、挿入孔32Aは、スプリング受け3Aの外周から中心を超えて延在するスリットである。また、スプリング受け3Aは、(図1の)シール部材8を嵌め込む周溝33Aを有する。
【0057】
上記中空部31Aの幅は、調整ネジ6の頭部6aの外径よりも若干大きく、上記挿入孔32Aの幅は、調整ネジ6の係止溝6bの外径よりも若干大きい。中空部31Aの内面と、挿入孔32Aの内面との間には、段差面35Aが設けられ、この段差面35Aは、中空部31Aの内壁を構成する。
【0058】
そして、上記調整ネジ6と上記ネジ側スプリング受け3Aとの連結方法を説明すると、頭部6aを中空部31Aの切り込み側から挿入しつつ、係止溝6bを挿入孔32Aの切り込み側から挿入して、係止溝6bの壁面を中空部31Aの段差面35Aに係止させて、調整ネジ6とスプリング受け3Aとを連結する。このように、調整ネジ6とスプリング受け3Aとの係止作業が容易となる。
【0059】
上記構成の圧力調整ネジ機構によれば、ネジ側スプリング受け3Aに、スリット状の中空部31Aおよび挿入孔32Aを設け、中空部31Aの内周面と挿入孔32Aの内周面との段差により、調整ネジ6の係止溝6bが係止する中空部31Aの段差面35Aを構成するので、調整ネジ6の係止溝6bに対する中空部31Aの係止構造を簡単に作製できる。
【0060】
なお、この発明は上述の実施形態に限定されない。例えば、上記第1、上記第2の実施形態のそれぞれの特徴点を様々に組み合わせてもよい。
【0061】
また、圧力制御弁として、減圧弁以外に、リリーフ弁(安全弁)、シーケンス弁、カウンタバランス弁、アンロード弁などであってもよい。
【0062】
また、スプリング受けの中空部形状は、調整ネジの頭部が筒体の内部に進入したとき当接可能である一方、頭部が筒体の内部から退出したとき係止溝の壁面が係止可能であれば、どのような形状であってもよい。また、スプリング受けの挿入孔の形状は、中空部と外部とを連通すると共に、係止溝が挿入されれば、どのような形状であってもよい。
【0063】
また、スプリングの数量を増減してもよい。つまり、第2スプリングを省略して第1スプリングの1本のみとしてもよく、または、スプリングを3本以上としてもよい。また、調整ネジにハンドルを設けてもよい。また、弁側スプリング受けの構成は、この実施形態に限定されない。また、弁側スプリング受けを省略し、弁側スプリング受けの代わりに、例えば、弁体の前端に一体に固定された鍔部を用いてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 本体部
3,3A スプリング受け
31,31A 中空部
32,32A 挿入孔
35,35A 段差面
51 筒体(リテーナ)
52 キャップ(袋ナット)
52a ネジ孔
6 調整ネジ
6a 頭部
6b 係止溝
6c ネジ本体
8 シール部材(Oリング)
17 弁体(スプール)
41 第1スプリング
42 第2スプリング
P1 1次ポート
P2 2次ポート
Z 圧力調整ネジ機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の一方にネジを有する筒体(51)と、
上記筒体(51)のネジに螺合すると共に、中心にネジ孔(52a)を有するキャップ(52)と、
上記筒体(51)内に配置されたスプリング(41,42)と、
上記スプリング(41,42)の一端を上記軸方向に進退可能に支持すると共に、外周に上記筒体(51)の内周面との間をシールするシール部材(8)を有するスプリング受け(3,3A)と、
上記キャップ(52)のネジ孔(52a)に螺合すると共に、上記スプリング受け(3,3A)を上記軸方向に進退させて上記スプリング(41,42)のバネ力を調整する調整ネジ(6)と
を備え、
上記調整ネジ(6)は、
上記キャップ(52)のネジ孔(52a)に螺合するネジ本体(6c)と、
頭部(6a)と、
上記頭部(6a)と上記ネジ本体(6c)との間に位置する係止溝(6b)と
を有し、
上記スプリング受け(3,3A)は、
上記頭部(6a)が回転自在に挿入されると共に、上記頭部(6a)が上記軸方向の他方に移動したとき当接可能である一方、上記頭部(6a)が上記軸方向の一方に移動したとき上記係止溝(6b)の壁面が係止可能である中空部(31,31A)と、
上記中空部(31,31A)と外部とを連通すると共に、上記係止溝(6b)が挿入される挿入孔(32,32A)と
を有することを特徴とする圧力調整ネジ機構。
【請求項2】
請求項1に記載の圧力調整ネジ機構において、
上記中空部(31)は、上記筒体(51)の内周面と同心の円板状の空間を形成し、
上記挿入孔(32)は、上記中空部(31)に対して偏心した円孔であることを特徴とする圧力調整ネジ機構。
【請求項3】
請求項1に記載の圧力調整ネジ機構において、
上記中空部(31A)は、上記スプリング受け(3A)の外周から中心を超えて延在する空間を形成し、
上記挿入孔(32A)は、上記スプリング受け(3A)の外周から中心を超えて延在するスリットであることを特徴とする圧力調整ネジ機構。
【請求項4】
弁体(17)と、
この弁体(17)が制御する圧力を調整する請求項1から3の何れか一つに記載の圧力調整ネジ機構(Z)と
を備えることを特徴とする圧力制御弁。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−89009(P2013−89009A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228675(P2011−228675)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】