説明

圧延油組成物及び冷間圧延方法

【課題】脱脂性、酸化安定性、潤滑性、付着性に優れ、ミル汚れの発生し難い圧延油組成物及び直接給油式冷間圧延油組成物、これを使用した冷間圧延方法を提供すること。
【解決手段】下記の成分(a)及び(b)を含む圧延油組成物。
(a)ヨウ素価が56〜72及び上昇融点が24℃以下であるパームオレイン油。
(b)アミン系酸化防止剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼などの鉄系金属、ステンレス鋼などの鉄合金等を圧延する時に用いる圧延油組成物に関し、特に、冷間圧延時に、効率良く圧延ロールや被圧延材料に付着し、圧延効率を向上させることができる鋼板の直接式供給用冷間圧延油組成物及びこれを用いた鋼板の冷間圧延方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼のブリキ板等の薄板を圧延する際、圧延油は、直接給油式(ダイレクト給油)又は循環給油式(リサーキュレーション給油)により給油される。特に直接給油式の圧延方法においては、牛脂やパーム油の天然油脂を水に強制的に分散してなる圧延油組成物が、被圧延材料や圧延ロールに給油される。この圧延油に、高分子添加剤を含有させ、圧延油が給油された後、被圧延材料に付着し易い状態にするなどの工夫がなされている(特許文献1)。
しかし、圧延ロールバイト内の被圧延材料温度は、圧延速度が早くなるに連れて高くなり、150℃以上の高温に達する場合が多い。この様な場合、被圧延材料の表面に残存した圧延油は、熱安定性の悪い天然油脂であるため、発生した磨耗粉を触媒として、酸化劣化を起こし劣化物が生成される。この劣化物は、次工程での脱脂処理において洗浄されず、被圧延材料の品質を低下させる原因となるなどの問題があった。
さらに、天然油脂は、産地の気候や精製状態によりその品質がばらつき、水に対する乳化性が変わるため、天然油脂を基油とする圧延油は、被圧延材料や圧延ロールに対する付着量(プレートアウト量)が変化し、圧延状態を常に安定な状態に維持することが困難であり、また、ミルの汚れも発生し易かった。
【0003】
このような問題を軽減するものとして、特許文献2には、カチオン性高分子化合物を用いた直接給油式冷間圧延油が開示されている。また、特許文献3には、オキシアルキレンアルキルアミン脂肪酸エステルを含有する直接式供給用冷間圧延油が開示されている。しかし、これら従来の圧延油は、油水分離性が劣り、また、単独で用いた場合には高速圧延時に必要な油分を十分に付着させることができず、脂肪酸等の極性物質を添加する必要があった。
また、特許文献4には、特定のカチオン性高分子化合物を使用することにより油水分離性を向上させた直接式供給用冷間圧延油が開示されている。しかし、この圧延油組成物は、鋼板への付着性が十分とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平3−13279号報
【特許文献2】特開昭63−46298号公報
【特許文献3】特開平11−80768号公報
【特許文献4】特開2000−328088公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、圧延油組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、直接給油式冷間圧延油組成物を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、ミル汚れの発生し難い圧延油組成物及び直接給油式冷間圧延油組成物を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、被圧延材料や圧延ロールに対する付着量を向上させた圧延油組成物及び直接給油式冷間圧延油組成物を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、圧延潤滑性能を変化させずに、圧延油の酸化劣化を防止して、脱脂性、酸化安定性を改善した圧延油組成物及び直接給油式冷間圧延油組成物を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、上記圧延油組成物又は直接給油式冷間圧延油組成物を用いた冷間圧延方法を提供することである。
本発明のさらに他の目的は、上記冷間圧延方法で生産される圧延鋼板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討した結果、特定の油脂、及び特定のアミン系酸化防止剤を使用することにより、従来の圧延油組成物及び直接給油式冷間圧延油組成物と比較して付着量を向上させ、ミル汚れを改善し、脱脂性、酸化安定性を改善することができることを見出した。本発明は上記知見に基づいて完成されたものである。
本発明は以下に示す圧延油組成物、直接給油式冷間圧延油組成物、上記圧延油組成物又は直接給油式冷間圧延油組成物を用いた冷間圧延方法、上記冷間圧延方法で生産される圧延鋼板を提供するものである。
1.下記の成分(a)及び(b)を含む圧延油組成物。
(a)ヨウ素価が56〜72及び上昇融点が24℃以下であるパームオレイン油。
(b)アミン系酸化防止剤。
2.成分(b)のアミン系酸化防止剤が、4,4′−テトラメチル−ジ−アミノジフェニルメタン、α−ナフチルアミン、及びN−フェニル−α−ナフチルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1記載の圧延油組成物。
3.成分(b)のアミン系酸化防止剤が、圧延油組成物中に0.1〜40質量%含まれている、上記1又は2記載の圧延油組成物。
4.上記1〜3のいずれか1項記載の圧延油組成物0.5〜100質量%と動植物油脂0〜99.5質量%からなる直接式供給用冷間圧延油組成物。
5.上記1〜4のいずれか1項記載の圧延油組成物を、被圧延材料表面及び/又は圧延ロール表面に直接給油することを特徴とする鋼板の冷間圧延方法。
6.上記5記載の冷間圧延方法で生産される圧延鋼板。
【発明の効果】
【0007】
本発明の圧延油組成物は、パームオレイン油、及び特定のアミン系酸化防止剤を使用することにより、従来の圧延油組成物と比較し、著しく脱脂性、酸化安定性が向上し、従って、次工程でのメッキ不良の低減がはかれる。また、付着量を増加させることにより潤滑性が向上し、鋼板表面品質及び生産性の向上がはかれる。さらに、ミル汚れを改善したことによりボタ落ちによる鋼板表面キズの減少及び作業環境の改善がはかれる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の成分(a)に使用するパームオレイン油(パームオレインとも呼ぶ、palm olein oil)は、一般的にアブラヤシの果肉(油脂含量16〜20%)から圧搾によって得られる油脂を分別し、必要な性状をもつ油脂分に分けたパーム分別油の中の一つであり、潤滑作用に有効である。
パーム分別油には、高融点画分のパームステアリンとパームオレインがあり、パームオレインはさらに中融点画分と曇り点の低い低融点画分に分別することが行われている。パームオレイン油は低融点画分の油であり、JAS規格で酸価0.20以下、水分夾雑物0.1%以下、ヨウ素価56〜72、上昇融点24℃以下と規定されている。
本発明の油剤に使用するパームオレイン油は、ヨウ素価が56〜72及び上昇融点が24℃以下のものである。好ましくはヨウ素価が56〜65及び上昇融点が20℃以下のものである。
【0009】
本発明の成分(b)のアミン系酸化防止剤の具体例としては、4,4′−テトラメチル−ジ−アミノジフェニルメタン、α−ナフチルアミン、N−フェニル−α−ナフチルアミン等が挙げられる。
本発明の圧延油組成物中の成分(b) のアミン系酸化防止剤の含有量は、好ましくは0.1〜40質量%、さらに好ましくは0.1〜30質量%である。0.1質量%より少ないと効果が発現しにくくなり、40質量%より多いと、酸化安定効果が飽和し経済性が低下する。
【0010】
本発明の圧延油組成物は、そのまま使用しても良いし、水及び/又は動植物油脂で希釈して使用しても良い。動植物油脂としては、パーム油、牛脂、ナタネ油等を用いる事ができる。
本発明の直接式供給用冷間圧延油組成物は、圧延油組成物0.5〜100質量%と動植物油脂0〜99.5質量%からなる。本発明の圧延油組成物及び直接式供給用冷間圧延油組成物を水に希釈して使用する場合は、好ましくは、4.0〜20.0質量%に希釈して使用する。
【0011】
本発明の圧延油組成物は、任意の給油方法により被圧延材料表面に給油することができ、本発明はその給油方法に何ら限定されるものではない。例えば、圧延油組成物の原液と水をアジテータ等により強制的に分散させ、ノズルを用いて圧延機入り側で被圧延材料に給油してもよいし、特開平5-84508 号公報に開示されたノズルヘッダーを用いた給油方法により給油してもよい。
例えば、被圧延材料表面、圧延ロール表面に希釈液を適量、通常は、スタンド当り0.1〜15.0 L/min 程度供給する。本発明の圧延油組成物は、直接給油式の圧延油として特に優れている。
【0012】
実施例1〜17、比較例1〜8
成分(a)のパームオレイン油、成分(b) のアミン系酸化防止剤を含有する本発明の圧延油組成物を調製した。また、比較例として成分(a)、成分(b)の内いずれか一方の成分を含まない圧延油組成物を調製した。
【0013】
付着性試験
圧延油組成物を水で10質量%に希釈し、振り子式瞬間付着試験器により、鋼板表面に吹き付け、鋼板表面への付着量を調べた。この振り子式瞬間付着試験器は、垂直な支柱の下部に、水平な支持枠を設け、圧延油組成物ノズルを下向きに設け、支柱上部に取り付けた振り子(長さ1.2 m)の先端に鋼板を水平に取り付け、振り子を振ると鋼板表面がノズルの下面を通過し、その際ノズルからの液体が鋼板表面に付着するように構成されている。
圧延油組成物ノズルから圧延油組成物を下向きに噴射しながら、振り子を90度の角度(振り速度4.8m/s)で振って、ノズル下面を1往復させ、振り子先端に取り付けた鋼板表面に圧延油組成物を吹き付け、鋼板を裏返して鋼板裏面にも同様の吹き付け操作を行った。次いで鋼板表面の圧延油組成物の付着状態を観察した。また、圧延油組成物の付着量を重量法により測定した。振り子式瞬間付着試験の条件は以下のとおりである。
【0014】
圧延油組成物濃度:10質量%、圧延油組成物圧力:3kg/cm2
圧延油組成物ノズル:1/4KB00880(共立金属(株)製)
イオン交換水温度:70℃、
振り子角度:90度(鋼板通過速度:4.8m/s)
振り子回数:1回
鋼板:100×100×1.0mm
鋼板温度:100℃
鋼板表面の圧延油組成物の付着状態評価は以下の規準に従って行った。
付着量の評価
○:2.5mg以上、×:2.5mg未満
付着状態の評価
○:均一付着、×:不均一付着
【0015】
潤滑性試験
付着性試験条件にて付着させた鋼板を、圧延ロール(Φ240mm、幅100mm)を用い、圧延速度1000m/分、圧下率30%で圧延した。この時の、板厚変化及び圧延荷重を測定し、摩擦係数(μ)を算出した。ただし、鋼板については、30×200×0.8mmを使用した。また、圧延後圧延鋼板の表面性状を観察し以下の規準に従って評価した。
摩擦係数の評価
○:0.050未満、×:0.050以上
圧延鋼板の表面性状
○:均一、×:不均一
【0016】
酸化安定性試験
JIS K−2514 潤滑油−酸化安定度試験方法のうち、タービン油酸化安定度試験により168時間後の酸価を測定し、その変化により評価した。
酸価の評価
○:5.0未満、×:5.0以上
【0017】
脱脂性試験
試験片(60×80×1.0mm)10枚を、圧延機を用いて各パス圧下率25%で2パス圧延した後、圧延後の試験片を重ね合わせて圧着し、100℃の恒温槽に48時間放置し、脱脂性試験に供した。圧延、脱脂性試験の条件は、以下のとおりである。評価は、脱脂後銅メッキ処理を行い銅メッキ面積で評価した。
圧延条件
圧延油組成物濃度:10質量%、圧延油組成物圧力:3kg/cm2
圧延油組成物ノズル:1/4KB00880(共立金属(株)製)
イオン交換水温度:70℃、
ロール径:150mm、ロール速度:30m/min
脱脂性試験条件
脱脂液:オルトケイ酸ソーダ 3%、75℃
脱脂時間:30秒浸漬
銅メッキ液:硫酸銅 3%、80℃
銅メッキ時間:3秒浸漬
銅メッキ面積の評価
○:銅メッキ面積100%、×:銅メッキ面積100%未満
【0018】
ミル汚れ性試験
試験片(60×80×1.0mm)30枚を、圧延機を用いて各パス圧下率25%で2パス圧延した後の、ハウジング及びロールチョックに飛散し付着した圧延油組成物、発生摩耗粉による汚れ状態を目視により確認する。ミル汚れ性試験の条件は、以下のとおりである。評価は、圧延油組成物、発生摩耗粉による汚れ状態により評価した。
試験片:60×80×1.0mm
圧延機:ロール径:Φ150×100mm、ロール速度:30m/min
圧延油組成物濃度:10質量%、圧延油組成物吐出圧力:3kg/cm2
圧延油組成物ノズル:1/4KB00880(共立金属(株)製)
イオン交換水温度:70℃
圧延油組成物、発生摩耗粉による汚れ状態の評価:□及び○を合格とした
○:固体状の汚れ付着物微量(極薄く微量付着)
□:固体状の汚れ付着物少量発生(狭い範囲に薄く付着)
×:固体状の汚れ付着物多量に発生(広範囲に厚みをもって付着)
結果を表1〜表3に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
パームオレイン油;ヨウ素価が60、上昇融点が20℃
パーム油;ヨウ素価が35、上昇融点が42℃
アミン系酸化防止剤A;N−フェニル−α−ナフチルアミン
アミン系酸化防止剤B;α−ナフチルアミン
フェノール系酸化防止剤A;N−n−ブチル−p−アミノフェノール
フェノール系酸化防止剤B;2,6−ジ−ターシャリーブチル−p−クレゾール
【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
本発明の成分 (a)及び(b)を含む実施例1〜17の圧延油組成物は、脱脂性、酸化安定性、付着性、潤滑性に優れ、ミル汚れも少ない。
これに対して、本発明の成分 (b)を含まない比較例1〜6は脱脂性、酸化安定性が劣り、本発明の成分 (a)を含まない比較例7及び8の圧延油組成物は、ミル汚れが多い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(a)及び(b)を含む圧延油組成物。
(a)ヨウ素価が56〜72及び上昇融点が24℃以下であるパームオレイン油。
(b)アミン系酸化防止剤。
【請求項2】
成分(b)のアミン系酸化防止剤が、4,4′−テトラメチル−ジ−アミノジフェニルメタン、α−ナフチルアミン、及びN−フェニル−α−ナフチルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の圧延油組成物。
【請求項3】
成分(b)のアミン系酸化防止剤が、圧延油組成物中に0.1〜40質量%含まれている、請求項1又は2記載の圧延油組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の圧延油組成物0.5〜100質量%と動植物油脂0〜99.5質量%からなる直接式供給用冷間圧延油組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の圧延油組成物を、被圧延材料表面及び/又は圧延ロール表面に直接給油することを特徴とする鋼板の冷間圧延方法。
【請求項6】
請求項5記載の冷間圧延方法で生産される圧延鋼板。

【公開番号】特開2010−275351(P2010−275351A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126429(P2009−126429)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】