説明

圧着端子

【課題】圧着後の状態におけるセレーション角度の変化を抑制する。
【解決手段】電線の端末の導体に圧着して接続される導体圧着部が、底板と、底板の左右両側縁から上方に延設されて該底板の内面上に配された導体を包むように加締める一対の導体加締片とで断面略U字状に形成されると共に、導体圧着部の内面に凹状のセレーションが設けられた圧着端子において、導体圧着部の内面に凹状のセレーションとして、多数の円形の凹部20が互いに離間した状態で点在するように設けられ、各円形の凹部20の内底面21の直径dが0.15±0.04mm〜0.8±0.04mmに設定され、各円形の凹部20の内底面21の延長面21aと内側面22とのなすセレーション角度θが60°〜90°に設定され、互いに隣接する円形の凹部20の周縁と周縁の間の平面部の最短距離bが0.17±0.09mmに設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断面U字状の導体圧着部の内面に凹状のセレーションを有したオープンバレルタイプの圧着端子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来一般の圧着端子は、例えば、特許文献1に示されるように、端子の長手方向(接続する電線の導体の長手方向と同じ方向)の前部に、相手コネクタ側の端子に接続される電気接続部を備え、この電気接続部の後部に電線の端末にて露出した導体に加締められる導体圧着部を備え、さらに導体圧着部の後部に、電線の絶縁被覆の付いた部分に加締められる被覆加締部を備えている。
【0003】
導体圧着部は、底板と、この底板の左右両側縁から上方に延設されて該底板の内面上に配された電線の導体を包むように加締める一対の導体加締片とで断面略U字状に形成されている。また、被覆加締部も同様に、底板と、この底板の左右両側縁から上方に延設されて該底板の内面上に配された電線(絶縁被覆の付いた部分)を包むように加締める一対の被覆加締片と、で断面略U字状に形成されている。また、導体圧着部の内面には、電線の導体の延びる方向(端子長手方向)と直交する方向に延びる複数本の凹溝状のセレーションが設けられている。
【0004】
図10(a)は、従来例の圧着端子の導体圧着部の展開形状を示している。この圧着端子200の導体圧着部213は、底板215と、この底板215の左右両側縁から上方に延設されて該底板215の内面上に配された電線の導体を包むように加締める一対の導体加締片213a,213aとで形成されている。図10(a)は展開形状を示しているが、実際には、圧着前の状態において導体圧着部213は、断面略U字状に曲げられている。そして、導体圧着部213の内面に、電線の導体の延びる方向と直交する方向に延びる複数本の凹溝状のセレーション220が設けられている。
【0005】
図10(b)は図10(a)のB−B矢視断面図である。凹溝状のセレーション220の断面形状は、通常は矩形状か逆台形状になっている。この明細書では、セレーション220の内底面の延長面と内側面とのなす角度θをセレーション角度と呼ぶ。このセレーション角度θは一般的に45°〜90°の範囲に設定されている。
【0006】
このように構成された圧着端子200の導体圧着部213を図示しない電線の端末の導体に圧着するには、図示しない下型(アンビル)の載置面(上面)上に圧着端子200を載せると共に、電線の導体を導体圧着部213の一対の導体加締片213a,213a間に挿入し、底板215の上面に載せる。そして、上型(クランパ)を下型に対して相対的に下降させることにより、上型の案内斜面で導体加締片213aの先端側を徐々に内側に倒して行く。この後さらに上型(クランパ)を下型に対して相対的に下降させることにより、最終的に、上型の案内斜面から中央の山形部に連なる湾曲面で、導体加締片213aの先端を導体側に折り返すように丸めて、導体加締片213aの先端同士を擦り合わせながら導体に食い込ませることにより、導体を包み込むように導体加締片213aを加締める。以上の操作により、圧着端子200の導体圧着部213を電線の導体に圧着によって接続することができる。この圧着の際、加圧力により電線の導体は、導体圧着部213の内面のセレーション220の中に塑性変形しながら入り込み、これにより、端子200と電線の電気的および機械的な接合が強化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−198776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、圧着時の加圧力により、凹状のセレーション220の形状、特にセレーション角度θが大幅に減少(ここでは、このセレーション角度の変化を「角度変形」ともいう)すると、導体の素線へ伝わる応力が低下してセレーション機能が十分に発揮されなくなったり、端子と導体の間の相対摺動距離が減少して圧着性能を十分に確保するだけの凝着量(分子や原子のレベルの金属の結合量)を得ることができなくなったりし、その結果、圧着性能の低下につながるという問題がある。
【0009】
例えば、図11(a)に示すように、従来の凹溝状のセレーション220の場合、圧縮率が大きくなるに従いセレーション角度が大幅に減少していくことが確認されている。また、図11(b)に示すように、圧縮率が大きくなるに従い導体に加わる応力は増えていくのであるが、角度変形がない場合に比べて角度変形がある場合は、応力の増加率がかなり低下することが確認されている。
【0010】
従って、圧着性能向上のためには、圧着によって、導体に働く応力を高くすることと、端子と導体の間の凝着量を増やすことが重要であるが、このように導体の応力を高くしたり、凝着量を増やしたりするためには、セレーションの角度変形を抑えて、セレーション機能を十分に発揮させたり、端子と導体の間の相対摺動距離を増加させたりすることが必要である。
【0011】
本発明は、上記事情を考慮し、圧着後の状態におけるセレーション角度(凹状のセレーションの内底面の延長面と内側面とのなす角度)の変化を抑制することができ、それにより、電線の導体に加わる応力を増加させることができる共に、端子と導体の間の相対摺動距離を大きくすることができて、圧着性能の向上を図ることができる圧着端子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、端子長手方向の前部に電気接続部が設けられ、この電気接続部の後部に電線の端末の導体に圧着して接続される導体圧着部が設けられ、この導体圧着部が、底板と、この底板の左右両側縁から上方に延設されて該底板の内面上に配された前記導体を包むように加締める一対の導体加締片とで断面略U字状に形成されると共に、前記導体圧着部の内面に凹状のセレーションが設けられた圧着端子において、前記凹状のセレーションとして、前記導体圧着部が前記電線の導体に圧着される前の状態において、前記導体圧着部の内面に、多数の円形の凹部が互いに離間した状態で点在するように設けられ、前記各円形の凹部の内底面の直径が0.15±0.04mm〜0.8±0.04mmに設定され、前記各円形の凹部の内底面の延長面と内側面とのなすセレーション角度が60°〜90°に設定され、前記互いに隣接する円形の凹部の周縁と周縁の間の平面部の最短距離が0.17±0.09mmに設定されていることを特徴とする。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1に記載の圧着端子であって、前記各円形の凹部の内底面の直径が0.3±0.04mmに設定され、前記円形の凹部の内底面の延長面と内側面とのなすセレーション角度が70°に設定され、前記互いに隣接する円形の凹部の周縁と周縁の間の平面部の最短距離が0.15mmに設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明の圧着端子によれば、導体圧着部の内面に凹状のセレーションとして、多数の円形の凹部が互いに離間した状態で点在するように設けられており、これら各円形の凹部の直径が0.15±0.04mm〜0.8±0.04mmに設定され、各円形の凹部の内底面の延長面と内側面とのなすセレーション角度が60°〜90°に設定され、互いに隣接する円形の凹部の周縁と周縁の間の平面部の最短距離が0.17±0.09mmに設定されているので、セレーションを形成した部分の断面二次モーメントを、矩形状の凹部でセレーションが構成されている場合や矩形断面の溝としてセレーションが構成されている場合に比べて格段に大きくすることができる。従って、断面二次モーメントが高くなることにより、圧着時の円形の凹部の内側面の倒れ変形、つまり圧着後の状態におけるセレーション角度(各円形の凹部の内底面の延長面と内側面とのなす角度)の減少を小さく抑えることがてきて、円形の凹部の周縁や内側面と塑性変形する導体との引っ掛かりを強めることができる。その結果、端子側の変形が小さくなる分、電線の導体(素線)に作用する応力を増加させることができると共に、端子と導体の間の相対摺動距離を大きくすることができて端子と導体の凝着量を増大させることができ、圧着性能(電気的および機械的な結合性能)を向上させることができる。
【0015】
請求項2の発明の圧着端子によれば、各円形の凹部の直径が0.3±0.04mmに設定され、各円形の凹部の内底面の延長面と内側面とのなすセレーション角度が70°に設定され、互いに隣接する円形の凹部の周縁と周縁の間の平面部の最短距離が0.15mmに設定されているので、セレーション部分の断面二次モーメントを効果的に大きくすることができ、圧着後の状態におけるセレーション角度の変形を可及的に小さく抑えることができる。その結果、電線の導体(素線)に作用する応力を増加させることができると共に、端子と導体の間の相対摺動距離を大きくすることができて、圧着性能をより一段と向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態の圧着端子の外観斜視図である。
【図2】同圧着端子の導体圧着部の展開形状を示す平面図である。
【図3】同導体圧着部の圧着前の状態における小円形の凹部(セレーション角度θ=90°の場合)の拡大断面図である。
【図4】(a)〜(d)は、圧着時に、導体圧着部の小円形の凹部に導体が塑性変形しながら入り込む様子を模式的に順を追って示す拡大断面図である。
【図5】同導体圧着部のセレーション部分の断面二次モーメントの計算要領を説明するための図で、(a)は小円形の凹部のある部分を示す斜視図、(b)はその断面図、(c)は断面二次モーメントの計算モデルの斜視図である。
【図6】本発明の第1実施形態との比較のために示す矩形状の凹部の説明図で、(a)は矩形状の凹部のある部分を示す斜視図、(b)は断面二次モーメントの計算モデルの斜視図である。
【図7】円形の凹部と矩形の凹部に働く応力の比較図で、(a)は円形の凹部の周縁に全周にわたり均等に応力が作用していることを示す図、(b)は矩形の凹部の周縁に不均等に応力が作用していることを示す図である。
【図8】本発明の第2実施形態の圧着端子における小円形の凹部(セレーション角度θ=70°の場合)の拡大断面図である。
【図9】本発明の第3実施形態の圧着端子の説明図で、(a)は導体圧着部の展開形状を示す平面図、(b)は(a)のA−A矢視断面図である。
【図10】従来の圧着端子の導体圧着部の説明図で、(a)は展開形状を示す平面図、(b)は(a)のB−B矢視断面図である。
【図11】圧着時にセレーション角度が変化する場合と変化しない場合を比較した図で、(a)は圧縮率とセレーション角度の関係を示す特性図、(b)は圧縮率と導体に働く応力との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0018】
図1は第1実施形態の圧着端子の外観斜視図、図2は同圧着端子の導体圧着部の展開形状を示す平面図、図3は同導体圧着部の圧着前の状態における小円形の凹部の拡大断面図、図4(a)〜(d)は、圧着時に、導体圧着部の小円形の凹部に導体が塑性変形しながら入り込む様子を模式的に順を追って示す拡大断面図である。
【0019】
図1に示すように、この圧着端子10は、雌型のもので、端子の長手方向(接続する電線の導体の長手方向つまり電線の延びる方向でもある)の前部に、相手コネクタ側の雄端子に接続されるボックス型の電気接続部11を備え、この電気接続部11の後部に、電線(図示略)の端末にて露出した導体Wa(図4参照)に加締められる導体圧着部13を備え、さらに導体圧着部13の後部に、電線の絶縁被覆の付いた部分に加締められる被覆加締部14を備えている。また、電気接続部11と導体圧着部13との間に、それらの間を繋ぐ繋ぎ部12を備えている。
【0020】
導体圧着部13は、電気接続部11から被覆加締部14まで共通の底板15と、この底板15の左右両側縁から上方に延設されて該底板15の内面上に配された電線の導体を包むように加締める一対の導体加締片13a,13aとで断面略U字状に形成されている。また、被覆加締部14は、前記共通の底板15と、この底板15の左右両側縁から上方に延設されて該底板15の内面上に配された電線(絶縁被覆の付いた部分)を包むように加締める一対の被覆加締片14a,14aとで断面略U字状に形成されている。
【0021】
また、図2に示すように、導体圧着部13が電線の導体Waに圧着される前の状態において、導体圧着部13の内面(電線の導体に接する側の面)には、凹状のセレーションとして、多数の小円形の凹部20が互いに離間した状態で千鳥状に点在するように設けられている。
【0022】
図3に示すように、各小円形の凹部20の断面形状は矩形状になっており、凹部20の内底面21は、導体圧着部13の凹部20を形成していない表面とほぼ平行に形成されている。この導体圧着部13のセレーション(小円形の凹部20)は、凹部20に対応した多数の円柱状の凸部を有した金型でプレス加工することにより製作されており、セレーションとしての凹部20の内側面22と内底面21の交わる内周隅部や凹部20の周縁には適当な大きさのアールが設けられている。なお、圧着端子10の素材は銅合金等であり、素材の表面にはメッキ処理等が施されている。
【0023】
また、図3に示すように、各小円形の凹部20の直径dは0.3±0.04mm(つまり、直径0.26〜0.34mmであり、半径r1は0.13〜0.17mmである)に設定され、深さhは0.05±0.02mmに設定され、各小円形の凹部20の内底面21の延長面21aと内側面22とのなすセレーション角度θは60°〜90°(本第1実施形態の場合は90°)に設定されている。また、互いに隣接する小円形の凹部20の周縁と周縁の間の平面部の最短距離bは0.17±0.09mm(つまり0.08〜0.26mm)に設定され、小円形の凹部20のピッチP(隣接する凹部20の中心線間の距離)は0.47±0.05mm(つまり0.42〜0.52mm)に設定されている。
【0024】
この圧着端子10の導体圧着部13を電線の端末の導体Wa(図4参照)に圧着するには、図示しない下型(アンビル)の載置面(上面)上に圧着端子10を載せると共に、電線の端末の導体Waを導体圧着部13の導体加締片13a間に挿入し、底板15の上面(丸めたときに内側になる内面)に載せる。この場合の電線の導体Waは、多数本の素線Wtを撚り合わせて線材として形成したもので、材質は銅またはアルミ(合金を含む)等である。
【0025】
そして、導体Waをセットした上で上型(クランパ)を下型に対して相対的に下降させることにより、上型の案内斜面で一対の導体加締片13a,13aの先端側を徐々に内側に倒して行く。その後さらに上型(クランパ)を下型に対して相対的に下降させることにより、最終的に、上型の案内斜面から中央の山形部に連なる湾曲面で、導体加締片13aの先端を導体側に折り返すように丸めて、導体加締片13aの先端同士を擦り合わせながら導体に食い込ませることにより、導体Waを包み込むように導体加締片13aを加締める。
【0026】
以上の操作により、圧着端子10の導体圧着部13を電線の導体Waに圧着によって接続することができる。なお、被覆加締部14についても同様に、下型と上型を用いて被覆加締片14aを内側に徐々に曲げて行き、被覆加締片14aを電線の絶縁被覆の付いた部分に加締める。これにより、圧着端子10を電線に電気的および機械的に接続することができる。
【0027】
ところで、導体圧着部13の圧着の過程において、図4(a)〜(d)に示すように、小円形の凹部20の中に徐々に導体Waが塑性変形しながら入り込んで行き、凹部20の内面に沿ってスムーズに導体Waが流動しながら凹部20を埋めていく。その際、加圧力が導体Waと端子10の両方に加わることにより、凹部20の周縁に対する導体Waによる接触圧が、加圧力が増加するに従い徐々に高まって行き、その力が凹部20の周縁を外側に変形させようとする。この力によって凹部20の周縁が外側に大きく変形していくと、凹部20の内側面22が外側に倒れてセレーション角度θが大きく減少することになる。そうなると、圧縮率(圧着による圧着部の断面積の減少率)に応じた導体Waに加わる応力の増加率が低下する上、導体Waと端子10の間の相対摺動距離が小さくなってしまう。
【0028】
この点、本第1実施形態のように、凹部20が平面視円形をなしていること、また、凹部20の寸法やその周辺の寸法が前記のように設定されていることによって、凹部20をを設けた部分の剛性が従来の凹溝状のセレーションと比べて格段に高まっており、それによって、凹部20の変形、特にセレーション角度θの変形が抑えられる。
【0029】
以下において、その点について検討してみる。図5(a)に示すように、円形の凹部20(円形セレーションまたは丸形セレーションと呼ぶこともある)には、圧着時の加圧力によって、例えば、凹部20のセレーション角度θを減少させる方向に力Fが作用する。このような力Fが働いたときの凹部20の周壁部分の剛性について考えてみると、凹部20の周壁部分は、半円筒のモデルM1とみることができる。そこで、このモデルM1での断面二次モーメントを計算してみる。
【0030】
半円筒状の部材の断面二次モーメントIは、次の公式(数式1)から求めることができる。
【0031】
[数式1]
I=0.1098(r2−r1)−0.283r2・r1(r2−r1)/(r2+r1)
ただし、r1は円形の凹部20の半径で、断面半円弧状部材の内径である。また、r2はr1に平面部の長さbを加えた寸法で、半円筒状の部材の外径である。
【0032】
断面二次モーメントを幾つかの寸法例について計算してみた結果は、次の表1のようになった。評価を○にしたものが本発明に含まれるもので、評価を×にしたものは本発明の範囲外のものである。
【0033】
[表1]
評価 平面部長さ(mm) 半径(mm) 断面二次モーメント(mm
○ 0.26 0.13 2.15×10−3
○ 0.18 0.17 1.21×10−3
○ 0.16 0.13 5.92×10−4
◎ 0.15 0.15 6.43×10−4
○ 0.08 0.17 2.40×10−4
× 0.05 0.18 1.33×10−4
一方、比較例として、凹状のセレーションとして円形の凹部20ではなく、図6(a)に示すように、矩形の凹部120を設けた場合について計算してみた。その場合は、図6(b)に示すように、加圧力を受ける部分が平面壁のモデルM2として見ることができる。このモデルM2においては、断面二次モーメントIが公式(数式2)から次のようになる。
【0034】
[数式2]
I=bh/12
ただし、bは平面壁の幅寸法、hは奥行き寸法である。
【0035】
例えば、上記の表1の◎評価のものと寸法的に近い値として、b=0.3mm、h=0.15mmの場合を計算してみると、I=8.44×10−5mmとなり、◎評価の円形の凹部20の場合と比べて1桁違う断面二次モーメントとなる。つまり、平面視矩形の凹部120の場合と比べると、円形の凹部20をセレーションとして設けることにより、かなり大きな断面二次モーメントを得ることができる。
【0036】
従って、この圧着端子10によれば、次の効果を得ることができる。
【0037】
即ち、導体圧着部13の内面に凹状のセレーションとして、多数の小円形の凹部20が互いに離間した状態で点在するように設けられており、それら各小円形の凹部20の直径が0.3±0.04mmに設定され、各小円形の凹部20の内底面21の延長面21aと内側面22とのなすセレーション角度θが60°〜90°に設定され、互いに隣接する小円形の凹部20の周縁と周縁の間の平面部の最短距離bが0.17±0.09mmに設定されているので、セレーションを形成した部分の断面二次モーメントを、矩形状の凹部でセレーションが構成されている場合や矩形断面の溝としてセレーションが構成されている場合に比べて格段に大きくすることができる。
【0038】
従って、断面二次モーメントが高くなることにより、圧着時の小円形の凹部20の内側面22の倒れ変形、つまり圧着後の状態におけるセレーション角度θ(各小円形の凹部の内底面の延長面と内側面とのなす角度)の減少を小さく抑えることがてきて、小円形の凹部20の周縁や内側面22と塑性変形する導体Waとの引っ掛かりを強めることができる。その結果、端子10側の変形が小さくなる分、電線の導体Wa(素線Wt)に作用する応力を増加させることができると共に、端子10と導体Waの間の相対摺動距離を大きくすることができて端子10と導体Waの凝着量を増大させることができ、圧着性能(電気的および機械的な結合性能)を向上させることができる。
【0039】
図7は円形の凹部と矩形の凹部に働く応力の比較図で、図7(a)は円形の凹部の周縁に全周にわたり均等に応力が作用していることを示す図、図7(b)は矩形の凹部の周縁に不均等に応力が作用していることを示す図である。この図7に示すように、円形の凹部20の場合は、凹部20の周辺の全周に均等に応力が作用するので、全周で応力に抵抗することができて、変形を少なくすることができるが、矩形の凹部120の場合は、矩形の凹部120の各辺の中央に強く応力が集中することになるので、それらの部分が変形しやすくなる。
【0040】
次に、導体圧着部13の内面に凹状のセレーションとして複数列配置できる小円形の凹部20の最大径(最大直径)と最小径(最小直径)について検討する。
【0041】
次の表2には、各小円形の凹部20の直径が1(±0.04)mm〜0.05(±0.04)mmの場合の断面二次モーメントの数値を表し、表3はそれらに対応する平面視矩形の凹部120の場合の断面二次モーメントの数値を表す。
【0042】
[表2]
評価 平面部長さ(mm) 半径(mm) 断面二次モーメント(mm
× 0.15 0.5 8.84×10−3
○ 0.15 0.4 5.07×10−3
○ 0.15 0.25 1.73×10−3
○ 0.15 0.2 1.09×10−3
◎ 0.15 0.15 6.43×10−4
○ 0.15 0.12 4.46×10−4
○ 0.15 0.1 3.42×10−4
○ 0.15 0.075 2.38×10−4
× 0.15 0.07 2.20×10−4
× 0.15 0.05 1.58×10−4
× 0.15 0.025 9.89×10−5
[表3]
平面部長さ(mm) 半径(mm) 断面二次モーメント(mm
0.15 0.5 2.81×10−4
0.15 0.4 2.25×10−4
0.15 0.25 1.41×10−4
0.15 0.2 1.13×10−4
0.15 0.15 8.44×10−5
0.15 0.12 6.75×10−5
0.15 0.1 5.63×10−5
0.15 0.075 4.22×10−5
0.15 0.07 3.94×10−5
0.15 0.05 2.81×10−5
0.15 0.025 1.41×10−5
その結果、導体圧着部13の内面に凹状のセレーションとして多数配置できる小円形の凹部20の最大径(d)は0.8±0.04mmの範囲までが適用可能であり、また、最小径(d)は0.15±0.04mmの範囲までが適用可能である。
【0043】
即ち、導体圧着部13の多数の小円形の凹部20に例えばアルミ電線が入り込む最小径は、主な電線材料のヤング率がCu:130GPaに対し、アルミ:70GPaとなっており、小円形の凹部20からなるセレーションに入り易くなることが予想される。Cu電線での最適直径が0.275mm(約0.3mm)であり、アルミ電線のヤング率が約54%低減することから、最適直径も比例して縮小することが予測される。そのため、導体圧着部13の内面に凹状のセレーションとして複数列配置できる小円形の凹部20の最小径は、d=0.275×0.54=0.1485mm(約0.15mm)となる。
【0044】
図8は第2実施形態の圧着端子におけるセレーションとしての小円形の凹部20の断面図である。
【0045】
この第2実施形態の圧着端子においては、小円形の凹部20の内底面21の延長面21aと内側面22とのなすセレーション角度θが70°に設定されている。
【0046】
また、小円形の凹部20の内底面の直径dが0.3mmに設定され、互いに隣接する小円形の凹部20の周縁と周縁の間の平面部の最短距離bが0.15mmに設定されている。
【0047】
従って、断面二次モーメントを計算するモデルのr1=0.15mm、r2=0.3mmの場合である。この場合、凹部20の上面の半径は、周縁にアールがついていて測定が難しいため採用しない。
【0048】
このように構成することにより、セレーション部分の断面二次モーメントを効果的に大きくすることができ、圧着後の状態におけるセレーション角度の変形を可及的に小さく抑えることができる。その結果、電線の導体Wa(素線)に作用する応力を増加させることができると共に、端子10と導体Waの間の相対摺動距離を大きくすることができて、圧着性能をより一段と向上させることができる。
【0049】
図9は本発明の第3実施形態の圧着端子の説明図で、図9(a)は導体圧着部の展開形状を示す平面図、図9(b)は図9(a)のA−A矢視断面図である。
【0050】
この第3実施形態では、端子のサイズ縮小のため、セレーションとして設けた小円形の凹部20の個数が第1実施形態の場合よりも少なくなっている。
【0051】
また、セレーションとしての小円形の凹部20が点在する領域の前後に、圧着時の電線の導体の前後方向の延びを規制するための直線状の凸部25が端子幅方向に交差するように設けられている。それ以外の構成は第1実施形態と同様である。従って、小円形の凹部20が第1実施形態と同様に設けられていることにより、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0052】
10 圧着端子
11 電気接続部
13 導体圧着部
13a 導体加締片
15 底板
20 円形の凹部(凹状のセレーション)
21 内底面
21a 延長面
22 内側面
Wa 導体
d 直径
θ セレーション角度
b 平面部の最短距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子長手方向の前部に電気接続部が設けられ、この電気接続部の後部に電線の端末の導体に圧着して接続される導体圧着部が設けられ、この導体圧着部が、底板と、この底板の左右両側縁から上方に延設されて該底板の内面上に配された前記導体を包むように加締める一対の導体加締片と、で断面略U字状に形成されると共に、前記導体圧着部の内面に凹状のセレーションが設けられた圧着端子において、
前記凹状のセレーションとして、前記導体圧着部が前記電線の導体に圧着される前の状態において、前記導体圧着部の内面に、多数の円形の凹部が互いに離間した状態で点在するように設けられ、前記各円形の凹部の内底面の直径が0.15±0.04mm〜0.8±0.04mmに設定され、前記各円形の凹部の内底面の延長面と内側面とのなすセレーション角度が60°〜90°に設定され、前記互いに隣接する円形の凹部の周縁と周縁の間の平面部の最短距離が0.17±0.09mmに設定されていることを特徴とする圧着端子。
【請求項2】
請求項1に記載の圧着端子であって、
前記各円形の凹部の内底面の直径が0.3±0.04mmに設定され、前記円形の凹部の内底面の延長面と内側面とのなすセレーション角度が70°に設定され、前記互いに隣接する円形の凹部の周縁と周縁の間の平面部の最短距離が0.15mmに設定されていることを特徴とする圧着端子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−80651(P2013−80651A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220776(P2011−220776)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】