説明

圧縮応力値の推定方法、圧縮応力値推定装置およびレーザ加工装置

【課題】コモンレールのような開口部を有する被処理部材に対して付与された圧縮応力の大きさを、より正確に推定することが可能な、圧縮応力値の推定方法、圧縮応力値推定装置およびレーザ加工装置を提供すること。
【解決手段】本発明は、開口部を有する被処理部材に対してパルスレーザビームを照射し、当該被処理部材に対して圧縮応力を付与するレーザピーニング処理において、被処理部材に付与された圧縮応力を推定する方法であって、被処理部材の開口周辺部に複数のパルスレーザビームを照射されることで発生した光の発光量の測定結果を取得するステップと、開口部の直径の両端近傍で発生した光の発光強度を、発光量の測定結果に基づいて算出するステップと、発光強度と圧縮応力との相関を示す予め設定したデータベースを参照し、算出した発光強度に基づいて、付与された圧縮応力の大きさを推定するステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザピーニング処理する際の圧縮応力値の推定方法、圧縮応力値推定装置およびレーザ加工装置に関し、特に、コモンレール等の構造を有する部材のレーザピーニング処理に好適な技術である。
【背景技術】
【0002】
コモンレールは、ディーゼルエンジンの蓄圧式燃料噴射システムにおいて燃料の軽油を圧送するポンプとインジェクターとの間に位置し、軽油を蓄圧するパイプ状の部品である。コモンレールのパイプ状の部分(以下、レール穴と称する。)は、軽油を蓄圧する役割を有しており、パイプ状の部分に設けられた開口部(以下、分岐穴と称する。)を通って、パイプ内に蓄えられた軽油が各インジェクターに圧送される。ここで、エンジンの作動に伴い、軽油が周期的に圧送され、コモンレール内の軽油の圧力は、周期的に変動することとなる。この際、コモンレールのレール穴および分岐穴には、周期的に周方向の引張応力に変動が生じる。ここで、分岐穴の開口周辺部の中でも、特に、分岐穴のレール穴の長手方向に平行となる直径の両端近傍では、パイプ状の部分および開口部の引張応力が合成されるため、他の部分よりも大きな引張応力が発生し、内圧の変動により疲労破壊しやすいという問題がある。内圧の変動に対する疲労強度(内圧疲労強度)を向上させれば、燃料の高圧噴射が可能となり、排気ガスのクリーン化や燃費の向上につながるため、疲労強度の向上が希求されている。
【0003】
従来、このような疲労強度の向上に向けたアプローチとしては、一般的に高強度の鋼材を用いることでコモンレールの疲労強度を高める方法が採られているが、素材の高強度化による成形性や加工性の低下、高性能化に伴うコストの増大といった問題が発生している。そこで、疲労強度が問題となる部位にのみ局部的に圧縮応力を付与することで、部品全体の疲労強度を向上させる方法が検討されている。近年開発が進められているレーザピーニング処理は、金属物体の表面に液体等の透明媒質を置いた状態で、その表面へ高いピークパワー密度を持つパルスレーザビームを照射し、発生するプラズマの膨張反力を利用して、金属物体の表面近傍に非接触処理で残留圧縮応力を付与する技術であり、例えば以下の特許文献1にその方法が開示されている。レーザビームは、コモンレールのレール穴内面、分岐穴内面といった狭隘部へも伝送可能であり、レーザピーニングはコモンレールの分岐穴開口部近傍へ高い圧縮応力を付与するための現状唯一の方法である。そこで、以下の特許文献2に開示されたように、レーザピーニングをコモンレールへ適用するにあたり、分岐穴の、レール穴の長手方向に平行となる直径の両端近傍における分岐穴の周方向の圧縮応力を高める方法が検討されている。
【0004】
以上のコモンレールの分岐穴開口部へのレーザピーニング処理においては、圧縮応力が所望の値まで付与されているかどうかを判定する予測技術が重要となる。そこで、レール穴の内面にある分岐穴の開口周辺部に付与された圧縮応力を非破壊で推定する技術が求められている。一般的な機械部品に対しては、例えば、X線残留応力測定技術を用いて処理域の圧縮応力を直接的に測定することが行われている。しかしながら、コモンレールにおいては、レール穴の内面にあたる部分を測定しなければならず、X線を入射させると同時に回折してきたX線を検出する事は不可能である。
【0005】
他方、圧縮応力値の推定に対しては、加工中の何らかの情報をリアルタイムに測定することで圧縮応力値を推定するというアプローチがある。レーザピーニング処理におけるリアルタイムの品質予測については、以下の方法が知られている。
【0006】
例えば以下の特許文献3には、原子炉圧力容器にある細管内面へのレーザピーニング処理において、細管の内面に可視光レーザを照射して超高圧が発生した際に生じる超音波またはレーザ光が照射された部分から発生した赤外線を検出し、検出された超音波や赤外線を、予め測定された超音波や赤外線と表面改質の状態との関係を表すデータと比較することで、レーザ照射による表面改質の作業状態の監視をする方法が開示されている。
【0007】
また、レーザ光が照射された部分から発生するプラズマからのスペクトル光強度を解析する方法も開示されている。例えば以下の特許文献4には、ガスタービンの動翼などの対象物に対するレーザピーニング処理において、プラズマの持続時間にわたり短時間で瞬間的スペクトル光強度を測定および記録し、記録したスペクトルの経時データからプラズマ温度を解析し、予めデータとして取っておいたプラズマ温度と疲労試験結果との相関から品質を予測する方法が開示されている。また以下の特許文献5には、スペクトル光強度の一部分である線スペクトルの形状をもとに、レーザピーニング処理が適切に動作しているかを判定する方法が開示されている。さらに以下の特許文献6には、ピーニング処理において品質不良の原因となる事象に対応した線スペクトルの強度変化を測定することで、品質不良の発見だけでなく、その原因までを含めて決定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3373638号公報
【特許文献2】特開2006−322446号公報
【特許文献3】特開平11−285868号公報
【特許文献4】特開2001−124697号公報
【特許文献5】特開2006−82222号公報
【特許文献6】特開2007−155743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
コモンレールのような開口部を有する被処理部材の分岐穴開口部へのレーザピーニング処理においては、以下の2点が特徴的である。
【0010】
第1に形状である。強化したい部位は、分岐穴のレール穴の長手方向に平行となる直径の両端近傍であり、レーザ処理域は、分岐穴という、レール穴から材料が欠落した領域を含むことになる。また、分岐穴の開口周辺部には、応力集中を緩和することでコモンレールの疲労強度を高めるために電解研磨が施されており、レーザ処理域は、分岐穴に落ち込んでゆく傾斜面を含むことになる。以上から、分岐穴開口部のレーザ処理域は、連続的につながった平面や曲面ではなく、分岐穴という切り欠きと、分岐穴につながる傾斜面とを含む。従って、レーザ処理域がこのような切り欠きおよび傾斜面を含む特殊な領域であることを踏まえた品質予測手法が希求されている。
【0011】
第2に、望ましい圧縮応力分布についても特徴的である。
圧縮応力を付与したい領域は、直径の両端に位置する各々1mm程度の非常に限定された領域である。かつ、圧縮応力は、分岐穴の周方向という特定の方向である。従って、このような局所性や方向性を踏まえた品質予測手法が希求されている。
【0012】
特許文献3〜6にて開示された品質予測方法は、いずれも切り欠き等のない連続的につながった面へのレーザピーニング処理を前提としており、上記のような特徴を持つ、コモンレールの分岐穴開口部に対して圧縮応力が付与されたかどうかを判定するには、用いることができなかった。例えば、上述の形状という観点からは、通常の連続的につながった面への処理を前提とした判定ルールに則っていると、レーザビームの照射スポットが分岐穴と重なるパルスレーザビームに対してはプラズマの発光量が不十分となるため、処理自体は正常であっても不良と判定してしまうことになる。また、圧縮応力分布の観点からも、特許文献3〜6にて開示された品質予測方法は、いずれもパルスレーザビームの一発一発の照射毎の加工品質の良否を判定するという技術思想であり、多数のパルスレーザビームの照射が重畳された結果として生ずる圧縮応力を予測するには不十分であった。
【0013】
そこで、本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、コモンレールのような開口部等の構造を有する被処理部材に対して、レーザピーニング処理により付与された圧縮応力の大きさを、より正確に推定することが可能な、圧縮応力値の推定方法、圧縮応力値推定装置およびレーザ加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、開口部を有する被処理部材に対してパルスレーザビームを照射し、当該被処理部材に対して圧縮応力を付与するレーザピーニング処理において、前記被処理部材に付与された圧縮応力を推定する方法であって、前記被処理部材の開口周辺部に複数のパルスレーザビームを照射されることで発生した光の発光量の測定結果を取得するステップと、前記開口部の直径の両端近傍で発生した光の発光強度を、前記発光量の測定結果に基づいて算出するステップと、発光強度と圧縮応力との相関を示す予め設定したデータベースを参照し、算出した前記発光強度に基づいて、付与された圧縮応力の大きさを推定するステップと、を含む圧縮応力値の推定方法が提供される。
【0015】
前記発光強度を算出するステップでは、前記発光量の測定結果の中から、前記開口部の直径の端部を中心とした領域内における発光の発光量を特定し、当該領域内について発光強度の総和を算出してもよい。
【0016】
前記発光強度を算出するステップでは、前記発光量の測定結果の中から、前記開口部の直径の端部を中心とした楕円形状の領域内における発光の発光量を特定し、当該領域内について発光強度の総和を算出することが好ましい。
【0017】
前記開口部は、前記被処理部材の長手方向に沿って複数設けられており、前記楕円形状の領域の長軸方向を、前記被処理部材の長手方向に対して直交する方向とすることが好ましい。
【0018】
前記発光強度を算出するステップでは、前記領域内に含まれる発光強度のそれぞれに対し、前記開口部の直径の端部からの距離に応じた重み付け係数を積算して、発光強度の総和を算出してもよい。
【0019】
前記重み付け係数は、前記開口部の直径の端部からの距離を変数とするガウス分布から得られる値であってもよい。
【0020】
前記発光強度を算出するステップと前記圧縮応力の大きさを推定するステップとの間に、発光強度の分布に基づいて前記開口部の中心位置を特定し、当該中心位置の特定結果に基づいて前記パルスレーザビームが照射された位置を表す情報を補正するステップを更に含んでもよい。
【0021】
前記パルスレーザビームが照射された位置を表す情報を補正するステップでは、前記発光強度の分布において発光強度の最小値を与える位置を、前記開口部の中心位置と特定してもよい。
【0022】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、開口部を有する被処理部材に対してパルスレーザビームを照射し、当該被処理部材に対して圧縮応力を付与するレーザピーニング処理において、前記被処理部材に付与された圧縮応力を推定する圧縮応力値推定装置であって、前記被処理部材の開口周辺部に複数のパルスレーザビームが照射されることで発生した光の発光量に関する測定データを取得する測定データ取得部と、前記発光量に関する測定データに基づいて、当該発光量から発光強度を算出する強度算出部と、前記開口部の直径の両端近傍で発生した光の発光強度の総和を、前記強度算出部により算出された発光強度に基づいて算出する総和算出部と、発光強度と圧縮応力との相関を示す予め設定したデータベースを参照し、前記総和算出部により算出された発光強度の総和に基づいて、付与された圧縮応力の大きさを推定する応力値推定部と、を備える圧縮応力値推定装置が提供される。
【0023】
前記圧縮応力値推定装置は、前記パルスレーザビームの照射位置を表すデータである座標データを取得する座標データ取得部を更に備え、前記総和算出部は、前記座標データに基づいて、前記開口部の直径の両端近傍で発生した光の発光強度の総和を算出することが好ましい。
【0024】
前記総和算出部は、前記開口部の直径の端部を中心とした領域内における発光強度の総和を算出してもよい。
【0025】
前記総和算出部は、前記開口部の直径の端部を中心とした楕円形状の領域内における発光強度の総和を算出することが好ましい。
【0026】
前記開口部は、前記被処理部材の長手方向に沿って複数設けられており、前記総和算出部は、前記楕円形状の領域の長軸方向を、前記被処理部材の長手方向に対して直交する方向とすることが好ましい。
【0027】
前記総和算出部は、前記領域内に含まれる発光強度のそれぞれに対し、前記開口部の直径の端部からの距離に応じた重み付け係数を積算して、発光強度の総和を算出してもよい。
【0028】
前記総和算出部は、前記重み付け係数として、前記開口部の直径の端部からの距離を変数とするガウス分布から得られる値を使用してもよい。
【0029】
前記圧縮応力値推定装置は、前記強度算出部が算出した発光強度の分布に基づいて、前記開口部の中心位置を特定し、当該中心位置の特定結果に基づいて前記パルスレーザビームが照射された位置を表す座標データを補正する位置補正部を更に備えてもよい。
【0030】
前記位置補正部は、前記発光強度の分布において発光強度の最小値を与える位置を、前記開口部の中心位置と特定してもよい。
【0031】
また、上記課題を解決するために、本発明の更に別の観点によれば、開口部を有する被処理部材に対してパルスレーザビームを照射し、当該被処理部材に対して圧縮応力を付与するレーザピーニング処理を実行可能なレーザ加工装置であって、前記被処理部材に対して所定波長のパルスレーザビームを照射するレーザビーム発振器と、前記被処理部材の開口周辺部に複数のパルスレーザビームを照射するとともに、当該パルスレーザビームの照射によって発生した光を集光する照射ヘッドと、前記パルスレーザビームの照射によって発生した光を検出する検出素子と、を備えるレーザ照射装置と、上述の圧縮応力値推定装置と、を備えるレーザ加工装置が提供される。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように本発明によれば、多数のパルスレーザビームの照射によって生じた発光の発光強度をより正確に算出することで、コモンレールのような開口部等の複雑な構造を有する被処理部材に対して付与された圧縮応力の大きさを正確に推定することが可能となる。これにより、レーザピーニング処理の品質判定をより正確に行うことが可能となり、レーザピーニング処理の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】コモンレールについて説明するための説明図である。
【図2】コモンレールについて説明するための説明図である。
【図3】コモンレールについて説明するための説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係るレーザ加工装置について説明するための説明図である。
【図5A】照射ヘッドについて説明するための説明図である。
【図5B】照射ヘッドについて説明するための説明図である。
【図6】レーザの照射方法について説明するための説明図である。
【図7】同実施形態に係る照射位置制御装置の構成について説明するためのブロック図である。
【図8】同実施形態に係る圧縮応力値推定装置の構成を説明するためのブロック図である。
【図9】同実施形態に係る圧縮応力値推定装置が取得するデータについて説明するための説明図である。
【図10】プラズマに起因する発光について説明するための説明図である。
【図11】発光強度の総和の算出に用いる範囲を説明するための説明図である。
【図12】発光強度の総和の算出に用いる範囲を説明するための説明図である。
【図13】応力値の異方性について説明するためのグラフ図である。
【図14】同実施形態に係る圧縮応力値の推定方法を説明するための流れ図である。
【図15】本発明の第2の実施形態に係る圧縮応力値推定装置の構成を説明するためのブロック図である。
【図16】同実施形態に係る圧縮応力値の推定方法を説明するための流れ図である。
【図17】本発明の実施形態に係る圧縮応力値推定装置のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
【図18】実施例1における発光強度の総和と周方向応力との関係を示したグラフ図である。
【図19】実施例2における発光強度の総和と周方向応力との関係を示したグラフ図である。
【図20】実施例3における発光強度の総和と周方向応力との関係を示したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0035】
なお、以下では、開口部を有する被処理部材の一例として、コモンレールを例にとって詳細に説明する。
【0036】
(コモンレールについて)
まず、本発明の実施形態に係る圧縮応力値推定装置および圧縮応力値の推定方法を説明するに先立ち、図1〜図3を参照しながら、被処理部材であるコモンレールについて簡単に説明する。図1〜図3は、コモンレールについて説明するための説明図である。
【0037】
例えば図1(a)および図1(b)に示したように、コモンレール1は、パイプ状の筒壁部2と、筒壁部2の長手方向に沿って設けられる複数の分岐管3と、を備える。図1(c)は、図1(a)に示したコモンレール1を、A−A切断線に沿って切断した断面図である。図1(c)に示したように、筒壁部2の内部には、当該筒壁部2の長手方向に沿って、レール穴4が形成されている。このレール穴4が、コモンレール1の主なるパイプであり、軽油を蓄圧する役割を有する。
【0038】
また、図1(c)に示したように、レール穴4には、垂直に開口する分岐穴5が複数個配設されている。この分岐穴5を介して、レール穴4に蓄えられている軽油は、分岐管3へと圧送される。レール穴4の内径dは、10mm程度であり、分岐穴5の内径dは、1mm程度である。エンジンの作動に伴い軽油が周期的に圧送され、コモンレール1内の軽油の圧力が周期的に変動するため、コモンレール1の素材としては、引張強度が600MPa程度以上の鋼材を用いることが好ましい。
【0039】
先に説明したように、レール穴4および分岐穴5には、周期的に周方向の引張応力に変動が生じる。図2は、分岐穴5の開口周辺部である分岐穴5とレール穴4の内面との境界周辺部を拡大して示している。分岐穴5の開口周辺部の中でも、特に、分岐穴5のレール穴4の長手方向に平行となる直径の両端近傍6では、レール穴4および分岐穴5の引張応力が合成されるため、他の部分よりも大きな引張応力が発生する。その結果、この直径の両端近傍6は、内圧の変動が大きくなり、疲労破壊が生じやすい。そこで、このような部分の疲労強度を向上させるために、例えば、レール穴4の軸方向と分岐穴5の軸方向とを含む面を切断面とする断面図である図3に示したように、レール穴4の内壁7と、分岐穴5の内壁8との接続部分に対して電解研磨を行って傾斜面を形成し、開口周辺部の応力集中を緩和することが従来からなされている。
【0040】
レーザピーニング処理を用いて分岐穴5の周方向に圧縮応力を付与する際に、レーザ処理がなされる領域(以下、レーザ処理域と称する。)は、図3の領域9に示したような傾斜面を含む領域である。この領域では、電解研磨による傾斜面が形成されているため、照射されるレーザによる影響は傾斜面に応じて変化することとなり、平坦な面に対してレーザピーニング処理を行う場合に比べて、レーザピーニング処理の品質判定が困難となる。
【0041】
そこで、本発明の実施形態では、以下で説明するような圧縮応力値の推定方法を用いることにより、コモンレールのような開口部を有する複雑な形状の部材に対してレーザピーニング処理を行った場合であっても、レーザピーニング処理の品質判定を正確に行うことが可能となる。
【0042】
(第1の実施形態)
<レーザ加工装置について>
続いて、図4を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る圧縮応力値推定装置を含み、コモンレール1に対してレーザピーニング処理を実施することが可能なレーザ加工装置の一例について説明する。図4は、本実施形態に係るレーザ加工装置10の構成を説明するための説明図である。
【0043】
本実施形態に係るレーザ加工装置10は、例えば図4に示したように、レーザ照射装置100と、圧縮応力値推定装置200と、照射位置制御装置300と、給水ポンプ400と、を主に備える。
【0044】
[レーザ照射装置について]
レーザ照射装置100は、パルスレーザビームLを、処理対象物であるコモンレール1まで伝送し、コモンレール1の処理するべき所望の箇所に、パルスレーザビームLを照射する装置である。このレーザ照射装置100は、レーザビーム発振器101と、パルスレーザビームLを伝送する光学系と、パルスレーザビームLを照射する照射ヘッド111と、照射ヘッドの位置を制御する回転駆動装置113および平行駆動装置115と、を主に備える。
【0045】
レーザビーム発振器101は、レーザピーニング処理に用いられる所定波長のパルスレーザビームLを発振する装置である。レーザピーニング処理は、後述のように水の存在下で行われるため、レーザビームの所定波長は、水中透過性の良いものが好ましい。このようなレーザビームとして、例えば、Nd:YAGレーザの第二高調波(波長532nm)、または、Nd:YVOレーザの第二高調波(波長532nm)を挙げることができる。パルスレーザビームのピークパワー密度は、処理中のプラズマの圧力、ひいては処理後の圧縮応力のレベルを定める重要なパラメータであり、10〜1000TW/m程度が適した範囲である。その他のパラメータの典型的な範囲として、パルスエネルギーは1mJ〜10J程度であり、パルス時間幅は100ps〜100ns程度である。
【0046】
レーザビーム発振器101から発振されたパルスレーザビームLは、集光レンズ103により集光され、結合口105を通って光ファイバ107に伝送される。この光ファイバ107は、支持棒109の内部を通って後述する照射ヘッド111に接続されている。パルスレーザビームLは、光ファイバ109中を進み、照射ヘッド111に伝送される。
【0047】
照射ヘッド111は、図4に示したように、コモンレール1のレール穴4に挿入され、照射ヘッド111から射出したパルスレーザビームLが、レール穴4の一部である分岐穴開口部周辺に照射される。
【0048】
ここで、照射ヘッド111が一端に接続されている支持棒109は、回転駆動装置113に接続され、回転駆動装置113は、光学実験台や生産ライン等の上に載置された平行駆動装置115上に載置されている。これらの駆動装置によって支持棒109(ひいては照射ヘッド111)の位置を制御することが可能であり、照射ヘッド111は、レール穴4の内部で、レール穴の長手方向への平行移動と、支持棒109を回転軸とした回転運動とが可能となっている。レーザピーニング処理の対象となる分岐穴5は複数存在するが、これら複数の分岐穴5が存在する位置への照射ヘッド111の移動は、平行駆動装置115によって行われる。
【0049】
図5Aおよび図5Bは、照射ヘッド111の構成を説明するための説明図である。照射ヘッド111は、中空の部材からなるケースを有し、その内部に、光ファイバ107を伝送されてきたパルスレーザビームLが出射されるファイバ端部131と、集光用レンズ133と、ミラー135とが取り付けられている。ミラー135は、円柱を斜めに切断した形状であり、いわゆるロッド型のミラーとなっている。このミラー135は、ミラー台座137に接着されている。ファイバ端部131から出射されたパルスレーザビームLは、集光レンズ133で屈曲された後、ミラー135によって反射され、集光点Fに至る。ここで、集光点Fにおけるレーザスポットの形状は、任意の形状であってよいが、光ファイバ107の端部の形状が射影されるため、ほぼ円形であることが多い。
【0050】
なお、集光点Fの近傍には、給水パイプ401を通って給水ポンプ400により供給される水によって水流が生じており、集光レンズ133のミラー135側には、水が存在することとなる。そのため、集光レンズ133は、十分な屈曲を得るために水と比べて屈折率が高い材質を用いて形成されることが好ましい。同時に、集光レンズ133は、高いピークパワー密度を持つパルスレーザビームLに耐久性を持った材質が好ましい。このような特性を有するレンズ素材の一例として、例えば、サファイアを挙げることができる。
【0051】
また、集光点Fでは、パルスレーザビームLが照射されることでコモンレール1から金属微粒子が発生するが、集光点Fの近傍には、先に説明したように水流が生じているため、発生した金属微粒子によってミラー135が汚染されることを防止することができる。
【0052】
なお、照射ヘッド111は、図5Aに示したような集光レンズ133とミラー135とを組み合わせたものに限定されるわけではなく、図5Bに示したように、コリメートレンズ139と放物面ミラー141とを組み合わせたものであってもよい。
【0053】
レーザピーニング処理は、分岐穴5が設けられた開口周辺部に対して、パルスレーザビームLのレーザビーム照射スポットを重畳させながら走査することで行う。レーザピーニング処理では、以下のメカニズムによって、レーザの照射表面近傍に残留圧縮応力を付与することができる。まず、高いピークパワー密度をもつパルスレーザビームの照射により、プラズマが発生する。ここで照射表面の近傍に水等の透明媒体が存在するため、プラズマの膨張が抑えられ、プラズマの圧力が高められる。高圧となったプラズマの反力によって、レーザ照射スポットの表面近傍に塑性変形を与え、この表面近傍に残留圧縮応力を付与することができる。
【0054】
レーザビーム照射スポットの位置の移動は、後述する照射位置制御装置300によって制御された平行駆動装置115および回転駆動装置113により、照射ヘッド111全体をレール穴4の内部で移動させることで実現される。
【0055】
開口周辺部のレール穴4の長手方向(すなわち、レール穴4の軸方向)に平行となる直径の両端近傍6におけるレール穴周方向の圧縮応力を高めるためには、例えば図6に示すように、レール穴4の軸方向に平行な方向にレーザビームの照射部分(以下、ビームスポットとも称する。)を走査し、このビームスポットの走査をレール穴4の周方向に位置をずらしながら複数回行う方法を用いることが好ましい。この際、同一点に対するパルスレーザビームの照射回数の平均値(以下、平均重畳回数と称する。)は、2回以上とすることが好ましい(例えば特許文献2を参照のこと)。
【0056】
ここで、パルスレーザビームの平均重畳回数とは、ビームスポットの面積がSであり、N回のパルスレーザビームの照射によって面積Sの領域を重畳照射した際における、同一点に対するパルスレーザビームの照射回数の平均値であり、(S×N)/Sで定義される。平均重畳回数を2回以上とすることで、表面の残留圧縮応力に異方性を生じさせることが可能となり、分岐穴5の周方向の圧縮応力を選択的に強化することができる。
【0057】
パルスレーザビームの集光点F(すなわち、レーザピーニング処理の加工点でもある。)近傍に生じるプラズマにより、この集光点近傍では、光が発生する。発生した光は、レーザピーニング処理用のレーザビームと異なる波長の光も含んでおり、当該レーザビームとちょうど反対向きの経路をたどり、光ファイバの端部131より入射した光ファイバ107を通じて、光ファイバの結合口105まで戻る。結合口105より射出した光は、レンズ103を経て、レーザビームの波長だけを透過するミラー117により反射する。このミラー117は干渉ミラーで構成してもよい。反射した光(以下では戻り光とも記す。)は、光路上に設けられた発光検出素子119に伝送される。これにより、集光点近傍で発生した光の一定部分である戻り光の発光量が、発光検出素子119にて検出されることとなる。
【0058】
後述する圧縮応力値推定装置200は、発光検出素子119にて検出された光の発光量を利用して、後述する方法により、被処理部材に付与された圧縮応力値を推定する。
【0059】
なお、プラズマの温度は瞬時的ではあるが数千Kにも到達することから、プラズマからの発光の主たるスペクトルは可視光帯〜近赤外波長域に属し、通常の可視光帯用の光ファイバ107を容易に通過することができる。また、発光検出素子119として、例えばフォトダイオードを用いることができる。また、必要に応じて、発光検出素子119の前に光学フィルター121を設置することができる。光学フィルター119として、例えば、レーザピーニング処理用のレーザビームの集光点からの反射光や迷光を遮断するためのレーザ光カットフィルターや、可視光帯全体の光量を調整するための減衰フィルター等を設置することが可能である。また、例えば、鉄イオンの発光スペクトルの一つである440nmを中心としたバンドパスフィルターを用いることで、素材である鋼材の主成分である鉄イオンの発光を抽出することも可能である。さらに、以上のフィルターを適宜組み合わせて用いることも可能である。
【0060】
[圧縮応力値推定装置について]
続いて、本実施形態に係る圧縮応力値推定装置200について説明する。
本実施形態に係る圧縮応力値推定装置200は、レーザ照射装置100の発光検出素子119から取得した発光量に関する測定データを取得して、レーザピーニング処理の被処理部材であるコモンレールに付与された圧縮応力値の大きさを推定する装置である。
【0061】
また、本実施形態に係る圧縮応力値推定装置200は、圧縮応力値の推定を行う際に、後述する照射位置制御装置300から取得した、レーザ照射を行った位置(レーザ照射位置)を表す座標データを取得して、圧縮応力値の推定処理に利用する。
【0062】
なお、この圧縮応力値推定装置200については、以下で改めて詳細に説明する。
【0063】
[照射位置制御装置について]
続いて、本実施形態に係る照射位置制御装置300について説明する。
本実施形態に係る照射位置制御装置300は、照射ヘッド111が接続されている支持棒109を、その軸を回転軸として回転させる回転駆動装置113、および、支持棒109を、その軸方向すなわちレール穴4の奥行き方向に平行移動させる平行駆動装置115の駆動制御を行い、レーザピーニング処理に用いられるパルスレーザビームの照射位置を制御する装置である。以下では、この照射位置制御装置300について、図7を参照しながら説明する。図7は、本実施形態に係る照射位置制御装置300の構成について説明するためのブロック図である。
【0064】
本実施形態に係る照射位置制御装置300は、例えば図7に一例を示したように、駆動制御部301と、座標データ取得部303と、座標データ送信部305と、記憶部307と、を主に備える。
【0065】
駆動制御部301は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、通信装置等により実現される。駆動制御部301は、レーザ加工装置10のユーザにより指定された駆動制御パターンや、後述する記憶部307等に予め登録されている駆動制御パターン等に基づいて、回転駆動装置113および平行駆動装置115の駆動制御を行う。これにより、本実施形態に係るレーザ加工装置10では、レーザビーム発振器101から射出されるパルスレーザビームLの被処理部材への照射位置を制御することができる。
【0066】
座標データ取得部303は、例えば、CPU、ROM、RAM、通信装置等により実現される。座標データ取得部303は、回転駆動装置113から、支持棒109(ひいては照射ヘッド111)の回転量を表す座標データを取得する。また、座標データ取得部303は、平行駆動装置115から、支持棒109(ひいては照射ヘッド111)の平行移動量を表す座標データを取得する。これらの座標データの取得にあたって、座標データ取得部303は、レーザビーム発振器101からレーザビームの照射タイミングに関する制御信号を取得し、パルスレーザビームが照射されるタイミングと、これらの座標データを取得するタイミングとの同期を取ることが好ましい。パルスレーザビームの照射タイミングと同期を取ることで、座標データ取得部303は、照射された全てのパルスレーザビームについて、その照射位置を明らかにすることが可能となる。なお、回転量を表す座標データや平行移動量を表す座標データは、上記の構成以外に、別途ロータリーエンコーダやレーザ距離計等の位置センサを、別途設置して照射ヘッド111の位置等を測定して座標データ取得部303に入力するようにしてもよい。
【0067】
座標データ取得部303は、取得したこれら2種類の座標データを、後述する座標データ送信部305に伝送する。また、座標データ取得部303は、取得した座標データを、後述する記憶部307に格納してもよい。
【0068】
座標データ送信部305は、例えば、CPU、ROM、RAM、通信装置等により実現される。座標データ送信部305は、座標データ取得部303から伝送された、パルスレーザビームの照射位置を表す座標データを、圧縮応力値推定装置200に送信する。圧縮応力値推定装置200への座標データの送信は、座標データ取得部303から座標データが伝送される毎に行うことが好ましい。これにより、圧縮応力値推定装置200は、観測された発光の発光量に関する測定データと、この発光の原因となったパルスレーザビームとの対応関係を容易に把握することできる。
【0069】
記憶部307は、照射位置制御装置300が備える記憶装置の一例である。
記憶部307には、例えば、回転駆動装置113および平行駆動装置115の駆動制御パターンが格納される。また、記憶部307には、本実施形態に係る照射位置制御装置300が、何らかの処理を行う際に保存する必要が生じた様々なパラメータや処理の途中経過等、または、各種のデータベース等が、適宜記録される。この記憶部307は、駆動制御部301、座標データ取得部303、座標データ送信部305等が、自由に読み書きを行うことが可能である。
【0070】
以上、本実施形態に係る照射位置制御装置300の機能の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、各構成要素の機能を、CPU等が全て行ってもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
【0071】
なお、上述のような本実施形態に係る照射位置制御装置の各機能は、実現するためのコンピュータプログラム等を作製し、パーソナルコンピュータやPLC(Programmable Logic Contoller)等に実装するか、または、シーケンサーにより実現することが可能である。また、このようなコンピュータプログラム等が格納された、コンピュータ等で読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
【0072】
<圧縮応力値推定装置の構成について>
続いて、図8を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る圧縮応力値推定装置の構成について、詳細に説明する。図8は、本実施形態に係る圧縮応力値推定装置の構成を説明するためのブロック図である。
【0073】
本実施形態に係る圧縮応力値推定装置200は、例えば図8に示したように、測定データ取得部201と、座標データ取得部203と、強度算出部205と、総和算出部207と、応力値推定部209と、記憶部211と、を主に備える。
【0074】
測定データ取得部201は、例えば、CPU、ROM、RAM、通信装置等により実現される。測定データ取得部201は、レーザ照射装置100の発光検出素子119から、コモンレールの開口周辺部に複数のパルスレーザビームが照射されることで発生した光の発光量に関する測定データを取得する。測定データ取得部201は、発光量に関する測定データを、発光検出素子119からリアルタイムに取得することが好ましい。測定データ取得部201は、取得した測定データを、後述する強度算出部205に出力する。また、測定データ取得部201は、取得した測定データを、後述する記憶部211に一時的に記録してもよい。
【0075】
なお、測定データ取得部201が測定データを一時的に記憶部211に記録する際には、後述する座標データ取得部203により記憶部211に記録された照射位置を表す座標データと対応関係が明らかとなるように、測定データを記録することが好ましい。
【0076】
座標データ取得部203は、例えば、CPU、ROM、RAM、通信装置等により実現される。座標データ取得部203は、照射位置制御装置300から送信されたパルスレーザビームの照射位置を表す座標データを取得する。座標データ取得部203は、取得したパルスレーザビームの照射位置を表す座標データを、後述する記憶部211に記録する。
【0077】
照射位置制御装置300から入力される座標データは、例えば図9に示したように、照射ヘッド111の平行移動量に関する座標データrと、照射ヘッド111の回転量に関する座標データθとを含む。この2種類の座標データを用いることで、パルスレーザビームが照射された位置を表すことが可能となる。例えば図9に示したように、平行移動量に関する座標データrは、レール穴4の端部を基準(r=0)とした相対的な値として表されるデータであり、回転量に関する座標データθは、鉛直方向を基準(θ=0)とした相対的な値として表されるデータである。座標データ取得部203は、これらの座標データを取得したままの値で記憶部211に記録してもよい。また、座標データ取得部203は、取得した2種類のデータにより表される照射位置を、被処理部材であるコモンレール1の形状を示す上で利用されている座標系に変換した上で、記憶部211に記録してもよい。
【0078】
強度算出部205は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。強度算出部205は、測定データ取得部201から伝送された発光量に関する測定データに基づいて、レーザピーニング処理により発生した光の発光強度を算出する。
【0079】
本実施形態に係るレーザ照射装置100では、所定のパルス幅(例えば、100ps〜100ns程度)のパルスレーザビームが、所定のパルス間隔(例えば、10ms程度)で射出され、コモンレールの開口周辺部に照射される。その結果、開口周辺部では、照射されたパルスレーザビームによりプラズマが発生し、このプラズマにより可視光帯に属する光が発生する。プラズマの持続時間はパルスレーザビームのパルス幅に比べて長く、例えば1μs程度であるため、発光検出素子119で検出される発光量に関する測定データは、例えば図10に示したような波形からなるデータとなる。
【0080】
強度算出部205は、測定データ取得部201から入力された測定データを参照して、図10に示したような時間波形データのピーク値(Imax)を、該当する発光の発光強度としてもよい。また、強度算出部205は、時間波形データのピーク値ではなく、時間波形データの時間積分(図10で斜線で示した部分の面積)を、該当する発光の発光強度としてもよい。
【0081】
強度算出部205は、発光強度の算出が終了すると、算出した発光強度を記憶部211に記録する。この際、強度算出部205は、例えば図9に示したように、座標データ取得部203により記憶部211に記録された照射位置を表す座標データと対応関係が明らかとなるように紐付けて、発光強度に関するデータを記録することが好ましい。
【0082】
このようにして、後述する記憶部211には、1つの分岐穴5の開口周辺部への処理において照射された全てのパルスレーザビームの照射位置と、この照射位置に対応する発光強度値とからなるデータセットが格納されることとなる。
【0083】
総和算出部207は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。総和算出部207は、被処理部材に設けられた開口部の直径の両端近傍で発生した光の発光強度の総和を、強度算出部205により算出された発光強度に基づいて算出する。この発光強度の総和の算出処理は、ある1つの分岐穴5の開口周辺部へのレーザピーニング処理が終了した時点で行われる。
【0084】
コモンレール1に対するレーザピーニング処理では、分岐穴開口周辺部のレール穴軸方向に平行となる直径の両端が、強化対象点となる。以下では、分岐穴5のレール穴4の軸方向に直交する直径の両端を、それぞれA点、B点と称することとする。総和算出部207は、強化対象点であるA点およびB点近傍の所定の範囲に照射されたパルスレーザビームに対する発光強度Iの総和を、以下の式1に基づいて算出する。
【0085】
【数1】

・・・(式1)
【0086】
なお、上記式1において、Sは、A点近傍の所定の範囲における発光強度Iの総和であり、Sは、B点近傍の所定の範囲における発光強度Iの総和である。また、Rは、発光強度Iの総和を算出する際に考慮すべきA点近傍の領域を表し、Rは、発光強度Iの総和を算出する際に考慮すべきB点近傍の領域を表す。
【0087】
ここで、上記式1における総和を考慮する範囲RおよびRについて説明する。
レーザピーニング処理においては、1つのパルスレーザビームによって、そのパルスレーザビームの照射スポットの範囲だけでなく、周辺部にまで圧縮応力付与の影響が及ぶ。圧縮応力付与の影響が及ぶ範囲は略円形であり、照射スポットの中心から、所定の半径以内にある領域となる。
【0088】
圧縮応力の強化対象点であるA点、B点の圧縮応力値は、それぞれの点の周辺に照射される1つ1つのパルスレーザビームによる圧縮応力付与効果が重畳された結果として生ずる。よって、A点、B点の圧縮応力に相関のある総和S、Sを算出するために、考慮すべき領域R、Rは、例えば図11に示したように、1つ1つのパルスレーザビームの照射によってA点、B点の圧縮応力値に影響が及ぶ範囲、すなわち、A点、B点を中心として、半径U以内の領域とすることが好ましい。半径Uの大きさは、パルスレーザビームの照射条件等にも依存するが、A点、B点を中心として、ビームスポットの直径の2倍程度とすればよいことが多い。
【0089】
総和算出部207は、まず、記憶部211に格納されている照射位置と発光強度とからなるデータセットを参照して、着目している強化対象点から半径U以内に含まれる照射位置を特定する。その後、総和算出部207は、半径U以内に含まれる照射位置に対応する発光強度Iの大きさをデータセットから取得し、上記式1に基づいて発光強度Iの総和を算出する。
【0090】
なお、図11に示した例では、考慮すべき領域は、半径がUである円形状であったが、図12に示したように半径Uを非等方とし、考慮すべき領域を略楕円形状とすると更に好ましい。より詳細には、総和算出部207は、例えば図12に示したように、レール穴4の軸方向に平行な方向の半径Uと、レール穴4の周方向に平行な方向の半径Uとを異なる大きさとし、略楕円形状の領域を考慮することが更に好ましい。以下、楕円形状の領域を考慮することがより好ましい理由を説明する。
【0091】
強化対象点であるA点、B点において、圧縮応力を強化すべき方向は、レール穴4の周方向である。一方で、1つ1つのパルスレーザビームによって圧縮応力の影響が及ぶ範囲は、完全に等方的ではなく、方向性がある。以下に、例を示しながら、圧縮応力の影響が及ぶ範囲の方向性について説明する。
【0092】
図13は、コモンレールの作製に用いられる鋼材を用いて平板を作製し、1つだけのパルスレーザビームを平板に照射した際の応力付与特性を示したグラフ図である。この例では、レーザビームとして、水中透過性の高いNd:YAGレーザの2倍波(波長532nm)を用い、パルスエネルギーは100mJ、パルスの時間幅は10ns、レーザビームのスポット径は0.6mm、パルスの繰り返し周波数は100Hzとした。上記平板に対して、かかるレーザビーム照射条件のパルスを1つ照射し、照射した領域の周辺にできる応力分布を、X線残留応力測定装置を用いて測定した。なお、図13では、レーザビームスポットの径方向の応力をσで表し、レーザビームスポットの周方向の応力をσθで表している。
【0093】
図13から明らかなように、レーザビームのスポット径0.6mmよりも広い領域に圧縮応力が付与されていることがわかる。圧縮応力の影響は、径方向σでは1.5mm程度にまで及んでおり、周方向σθでは1.0mm程度にまで及んでいる。
【0094】
この結果からも明らかなように、圧縮応力の影響は、周方向よりも径方向の方がより遠方まで及ぶ。以上を踏まえると、図12において、A点およびB点における周方向の圧縮応力に相関がある総和を得るために、総和算出部207は、U>Uとすることがより好ましい。
【0095】
なお、上記式1は、総和を算出する際に考慮すべき領域中に含まれる全ての照射位置を、互いに等価に扱って総和を算出するものであるが、総和算出部207は、考慮すべき領域中に含まれる照射位置について、強化対象点に近い位置に照射されたものほどより大きな寄与を与えるものとして、総和を算出してもよい。すなわち、上記式1の代わりに以下に示す式2を用いて、重み付け係数を積算しながら発光強度の総和を算出してもよい。
【0096】
【数2】

・・・(式2)
【0097】
なお、上記式2において、wが重み付け係数である。この重み付け係数は、例えば図13に示したような応力分布の形状の広がりの大きさを反映したものであれば、任意のものを利用可能である。総和算出部207は、重み付け係数として、例えば、開口部の直径の端部からの距離を変数とするガウス分布やローレンツ分布から得られる値を用いることができる。
【0098】
重み付け係数を用いて発光強度の総和を算出することで、本実施形態に係る圧縮応力値推定装置は、圧縮応力の付与に関与する発光強度の大きさを、より正確に算出することができる。その結果、本実施形態に係る圧縮応力値推定装置は、付与された圧縮応力の大きさを、より正確に推定することが可能となる。
【0099】
総和算出部207は、上記式1または上記式2を用いて算出した発光強度の総和を、後述する応力値推定部209に入力する。
【0100】
応力値推定部209は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。応力値推定部209は、発光強度と圧縮応力との相関を示すデータベースを参照し、総和算出部207により算出された発光強度の総和に基づいて、付与された圧縮応力の大きさを推定する。より詳細には、応力値推定部209は、ある1つの分岐穴の開口周辺部について、総和算出部207から強化対象点であるA点およびB点での発光強度の総和SおよびSが伝送されると、取得した総和SおよびSを予め登録されている応力値推定データベースの内容と比較して、付与された圧縮応力値σおよびσの大きさを推定する。
【0101】
ここで、応力値推定部209による応力値の推定処理について説明するに先立ち、応力値の推定に用いられる応力値推定データベースについて、説明する。
【0102】
この応力値推定データベースを作成するには、予め、実際のコモンレールに対して、レーザピーニング処理に用いるのと同じ装置(すなわち、本実施形態に係るレーザ加工装置10)を用いてレーザピーニング処理を行い、コモンレールの複数の分岐穴に対して圧縮応力を付与する。この際、圧縮応力推定装置200は、先に説明した方法で発光量を測定し、各分岐穴近傍のA点、B点に対するS、Sを算出しておく。次に、実際にレーザピーニング処理されたコモンレールを切断分割し、X線残留応力測定装置を用いて、各分岐穴のA点、B点近傍に付与された圧縮応力値σ、σの大きさを測定する。以上の測定データから、発光量の総和S、Sと圧縮応力σ、σとの相関関係を表す回帰線を得る。
【0103】
圧縮応力推定装置200は、このようにして予め作成された応力値推定データベースを、後述する記憶部211等に記録して設定しておく。
【0104】
実際のコモンレールに対するレーザピーニング処理においては、応力値推定部209は、総和算出部207から伝送された発光強度の総和S、Sと、以上のようにして予め作成され記憶部211に記録されているデータベースに基づいて、実際に付与された応力値σ、σの大きさを推定する。
【0105】
応力値推定部209は、圧縮応力値σ、σの大きさの推定結果が得られると、得られた推定結果を、圧縮応力値推定装置200に設けられたディスプレイ等の表示部(図示せず。)に表示させる。これにより、圧縮応力値推定装置200の使用者(ひいては、レーザ加工装置10の使用者)は、コモンレールの製造現場において、非破壊でレーザピーニング処理によって付与された応力値の大きさを推定することができる。
【0106】
再び図8に戻って、本実施形態に係る記憶部211について詳細に説明する。
記憶部211は、発光強度と圧縮応力との相関を示すデータベースが格納される。また、記憶部211には、実施したレーザピーニング処理に関する様々な履歴情報など、各種の履歴情報が記録されていてもよい。さらに、記憶部211には、本実施形態に係る圧縮応力値推定装置200が、何らかの処理を行う際に保存する必要が生じた様々なパラメータや処理の途中経過等、または、各種のデータベース等が、適宜記録される。この記憶部211は、測定データ取得部201、座標データ取得部203、強度算出部205、総和算出部207、応力値推定部209等が、自由に読み書きを行うことが可能である。
【0107】
以上、本実施形態に係る圧縮応力値推定装置200の機能の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、各構成要素の機能を、CPU等が全て行ってもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
【0108】
なお、上述のような本実施形態に係る圧縮応力値推定装置の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
【0109】
<圧縮応力値の推定方法について>
続いて、図14を参照しながら、圧縮応力値推定装置200が実施する応力値の推定方法について、詳細に説明する。図14は、本実施形態に係る圧縮応力値の推定方法を説明するための流れ図である。
【0110】
まず、圧縮応力値推定装置200の測定データ取得部201は、発光検出素子119から、コモンレール等の被処理部材に対して照射されたパルスレーザビームにより発生した発光の発光量に関する測定データを取得する(ステップS101)。測定データ取得部201は、取得した測定データを、強度算出部205に伝送する。
【0111】
続いて、強度算出部205は、測定データ取得部201から伝送された発光量の測定データに基づいて、パルスレーザビームにより発生した発光の発光強度を算出する(ステップS103)。強度算出部205は、算出した発光強度を、総和算出部207に伝送する。
【0112】
他方、圧縮応力値推定装置200の座標データ取得部203は、照射位置制御装置300から伝送された、パルスレーザビームの照射位置を表す座標データを取得し、総和算出部207に伝送する。総和算出部207は、強度算出部205から伝送された発光強度と、座標データ取得部203から伝送された座標データとに基づいて、強化対象点の周囲の所定の領域における発光強度の総和を算出する(ステップS105)。総和算出部207は、算出した発光強度の総和を、応力値推定部209に伝送する。
【0113】
続いて、応力値推定部209は、伝送された発光強度の総和と、記憶部211に格納された発光強度と圧縮応力との相関を示すデータベースと、に基づいて、強化対象点に付与された圧縮応力値の大きさを推定する(ステップS107)。
【0114】
分岐穴という切り欠き部と、この切り欠き部につながる傾斜面とを含む分岐穴の開口周辺部では、1つ1つのパルスレーザビームが照射された場合に、各パルスレーザビームによる発光量は変動することとなる。しかしながら、本実施形態に係る圧縮応力値推定装置200が実施する圧縮応力値の推定方法では、分岐穴の開口周辺部という強化対象点の周囲に所定の領域を設定し、この領域内の発光強度の総和を算出することにより、強化対象点の近傍に局所的に付与される圧縮応力の周方向成分を、精度よく推定することが可能となる。
【0115】
(第2の実施形態)
以下で説明する本発明の第2の実施形態に係る圧縮応力値推定装置200では、1つの分岐穴5の開口周辺部へのレーザピーニング処理が終了した時点で、発光量の演算過程に先立ち、分岐穴5の中心位置を予測する。各分岐穴5へのレーザピーニング処理においては、照射ヘッド111を回転駆動装置113および平行駆動装置115により分岐穴5の位置にまで動かすことで、パルスレーザビームの照射を行う。しかし、この支持棒109を介した外部からの駆動による照射位置設定の精度には限界があり、例えば基準となる分岐穴5の中心位置の設定座標の精度は、0.1mm程度ずれることがある。これにより、回転駆動装置113および平行駆動装置115の座標に基づいてデータセットとして記録される各パルスレーザビームの照射位置は、真の分岐穴の位置を基準としてみたときの位置から、0.1mm程度ずれることになる。
【0116】
そこで、本実施形態に係る圧縮応力値推定装置200では、以下で説明するようなパルスレーザビームの照射位置を補正する位置補正部を設けることで、かかる位置ズレによる精度の低下を防止する。
【0117】
<圧縮応力値推定装置の構成について>
以下では、図15を参照しながら、本実施形態に係る圧縮応力値推定装置200の構成について、詳細に説明する。図15は、本実施形態に係る圧縮応力値推定装置200の構成を説明するためのブロック図である。
【0118】
本実施形態に係る圧縮応力値推定装置200は、例えば図15に示したように、測定データ取得部201と、座標データ取得部203と、強度算出部205と、総和算出部207と、応力値推定部209と、記憶部211と、位置補正部251と、を主に備える。
【0119】
本実施形態に係る測定データ取得部201、応力値推定部209および記憶部211については、本発明の第1の実施形態に係る各処理部と同様の構成を有し、同様の効果を奏するものである。そのため、以下では、各処理部について、詳細な説明は省略する。
【0120】
本実施形態に係る座標データ取得部203は、取得した座標データを位置補正部251に伝送する以外は、本発明の第1の実施形態に係る座標データ取得部203と同様の構成を有し、同様の効果を奏するものである。そのため、以下では、座標データ取得部203について、詳細な説明は省略する。
【0121】
本実施形態に係る総和算出部207は、後述する位置補正部251から伝送された補正後の座標データと、強度算出部205から伝送された発光強度とに基づいて、発光強度の総和を算出する以外は、本発明の第1の実施形態に係る総和算出部207と同様の構成を有し、同様の効果を奏するものである。そのため、以下では、総和算出部207について、詳細な説明は省略する。
【0122】
位置補正部251は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。位置補正部251は、強度算出部205が算出した発光強度の分布に基づいて、分岐穴5の中心位置を特定し、当該中心位置の特定結果に基づいて、パルスレーザビームが照射された位置を表す座標データを補正する。
【0123】
より詳細には、位置補正部251は、各パルスレーザビームに対する発光量が分岐穴5の中心で最も弱くなることを利用して、分岐穴近傍に照射される複数のパルスレーザビームに対する発光量の分布から、分岐穴の中心位置座標を予測する。
【0124】
そのため、位置補正部251は、まず、強度算出部205から取得した発光強度と、座標データ取得部203から取得した座標データに基づいて、複数のパルスレーザビームの照射位置の互いの位置関係を考慮しながら、発光強度の分布を算出する。続いて、位置補正部251は、算出した発光強度の分布を参照して、発光強度の最小値を与える座標を特定する。位置補正部251は、特定した座標データから、真の分岐穴の中心位置とのズレ量を算出し、算出したズレ量に基づいて、座標データ取得部203から取得した座標データ全てを補正する。その後、位置補正部251は、補正後の座標データを、発光強度の応和とともに、総和算出部207に伝送する。
【0125】
本実施形態に係る総和算出部207は、位置補正部251が補正した座標データを用いて発光強度の総和を算出することで、算出する発光強度の総和SおよびSの精度向上を図ることが可能となる。これにより、本実施形態に係る応力値推定部209は、精度が向上した発光強度の総和SおよびSを用いて、圧縮応力値σ、σの推定精度を向上させることができる。
【0126】
以上、本実施形態に係る圧縮応力値推定装置200の機能の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、各構成要素の機能を、CPU等が全て行ってもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
【0127】
なお、上述のような本実施形態に係る圧縮応力値推定装置の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
【0128】
<圧縮応力値の推定方法について>
続いて、図16を参照しながら、本実施形態に係る圧縮応力値推定装置200が実施する圧縮応力値の推定方法について、詳細に説明する。図16は、本実施形態に係る圧縮応力値の推定方法を説明するための流れ図である。
【0129】
まず、圧縮応力値推定装置200の測定データ取得部201は、発光検出素子119から、コモンレール等の被処理部材に対して照射されたパルスレーザビームにより発生した発光の発光量に関する測定データを取得する(ステップS101)。測定データ取得部201は、取得した測定データを、強度算出部205に伝送する。
【0130】
続いて、強度算出部205は、測定データ取得部201から伝送された発光量の測定データに基づいて、パルスレーザビームにより発生した発光の発光強度を算出する(ステップS103)。強度算出部205は、算出した発光強度を、位置補正部251に伝送する。
【0131】
他方、圧縮応力値推定装置200の座標データ取得部203は、照射位置制御装置300から伝送された、パルスレーザビームの照射位置を表す座標データを取得し、位置補正部251に伝送する。位置補正部251は、強度算出部205から伝送された発光強度と、座標データ取得部203から伝送された座標データとに基づいて、複数のパルスレーザビームの照射位置の互いの位置関係を考慮しながら、発光強度の分布を算出し、発光強度の最小値を与える座標を特定する。位置補正部251は、特定した座標データから、真の分岐穴の中心位置とのズレ量を算出し、算出したズレ量に基づいて、座標データ取得部203から取得した座標データ全てを補正する(ステップS151)。
【0132】
位置補正部251は、座標データの補正が終了すると、補正後の座標データと発光強度の総和とを、総和算出部207に伝送する。総和算出部207は、伝送された発光強度および補正後の座標データに基づいて、強化対象点の周囲の所定の領域における発光強度の総和を算出する(ステップS105)。総和算出部207は、算出した発光強度の総和を、応力値推定部209に伝送する。
【0133】
続いて、応力値推定部209は、伝送された発光強度の総和と、記憶部211に格納された発光強度と圧縮応力との相関を示すデータベースと、に基づいて、強化対象点に付与された圧縮応力値の大きさを推定する(ステップS107)。
【0134】
本実施形態に係る圧縮応力値推定装置200が実施する応力値の推定方法では、発光強度の分布に基づいて正確な分岐穴5の中心位置を特定することで、発光強度の総和をより正確に算出することが可能となる。これにより、本実施形態に係る応力値の推定方法では、強化対象点の近傍に局所的に付与される圧縮応力の周方向成分を、より精度よく推定することが可能となる。
【0135】
(ハードウェア構成について)
次に、図17を参照しながら、本発明の実施形態に係る圧縮応力値推定装置200のハードウェア構成について、詳細に説明する。図17は、本発明の実施形態に係る圧縮応力値推定装置200のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
【0136】
圧縮応力値推定装置200は、主に、CPU901と、ROM903と、RAM905と、を備える。また、圧縮応力値推定装置200は、更に、バス907と、入力装置909と、出力装置911と、ストレージ装置913と、ドライブ915と、接続ポート917と、通信装置919とを備える。
【0137】
CPU901は、演算処理装置および制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置913、またはリムーバブル記録媒体921に記録された各種プログラムに従って、圧縮応力値推定装置200内の動作全般またはその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901の実行において使用するプログラムや、その実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるバス907により相互に接続されている。
【0138】
バス907は、ブリッジを介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バスに接続されている。
【0139】
入力装置909は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチおよびレバーなどユーザが操作する操作手段である。また、入力装置909は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、圧縮応力値推定装置200の操作に対応したPDA等の外部接続機器923であってもよい。さらに、入力装置909は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザにより入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路などから構成されている。圧縮応力値推定装置200のユーザは、この入力装置909を操作することにより、圧縮応力値推定装置200に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
【0140】
出力装置911は、取得した情報をユーザに対して視覚的または聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置およびランプなどの表示装置や、スピーカおよびヘッドホンなどの音声出力装置や、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリなどがある。出力装置911は、例えば、圧縮応力値推定装置200が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、圧縮応力値推定装置200が行った各種処理により得られた結果を、テキストまたはイメージで表示する。他方、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。
【0141】
ストレージ装置913は、圧縮応力値推定装置200の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置913は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶部デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、または光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置913は、CPU901が実行するプログラムや各種データ、および外部から取得した各種のデータなどを格納する。
【0142】
ドライブ915は、記録媒体用リーダライタであり、圧縮応力値推定装置200に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体921は、例えば、CDメディア、DVDメディア、Blu−rayメディア等である。また、リムーバブル記録媒体921は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、または、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体921は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)または電子機器等であってもよい。
【0143】
接続ポート917は、機器を圧縮応力値推定装置200に直接接続するためのポートである。接続ポート917の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS−232Cポート等がある。この接続ポート917に外部接続機器923を接続することで、圧縮応力値推定装置200は、外部接続機器923から直接各種のデータを取得したり、外部接続機器923に各種のデータを提供したりする。
【0144】
通信装置919は、例えば、通信網925に接続するための通信デバイス等で構成された通信インターフェースである。通信装置919は、例えば、有線または無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、またはWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置919は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、または、各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置919は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置919に接続される通信網925は、有線または無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信または衛星通信等であってもよい。
【0145】
以上、本発明の実施形態に係る圧縮応力値推定装置200の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
【0146】
なお、本発明の実施形態に係る照射位置制御装置300のハードウェア構成は、本発明の実施形態に係る圧縮応力値推定装置200のハードウェア構成と同様であり、同様の効果を奏するものであるため、説明は省略する。
【0147】
(実施例)
続いて、本発明の効果を検証するために、発光量の総和SおよびSと、圧縮応力値σおよびσの相関を調査した結果について、詳細に説明する。
【0148】
まず、図1に示したコモンレール1の5個ある分岐穴開口周辺部に対して、図4に示した本発明の実施形態に係る圧縮応力値推定装置200を含むレーザ加工装置10を用いて、レーザピーニング処理を行った。コモンレール1は、引張強度600MPa級の鋼材を用いて製造したものを使用した。レール穴4の内径dは10mmであり、分岐穴5の内径dは1mmであった。また、分岐穴5の開口周辺部の応力集中を緩和するために、図3に示すような電解研磨を施した。
【0149】
レーザビームとしては、水中透過性の高いNd:YAGレーザの2倍波(波長532nm)を用い、パルスエネルギーは100mJとし、パルスの時間幅は10nsとした。レーザビームのスポット径は0.6mmであり、パルスの繰り返し周波数は、100Hzとした。
【0150】
レーザピーニング処理は、分岐穴5の中心位置を中心として、4mm角の領域に対して行った。分岐穴開口周辺部のA点、B点近傍における分岐穴周方向の圧縮応力を高めるために、図6に示すようにレール穴4の軸方向に対して平行な方向にビームスポットを走査し、ビームスポットの走査をレール穴4の周方向に位置をずらしながら複数回行う方法で、処理を行った。同一点に対するパルスレーザビームの照射回数の平均値は、25回とした。
【0151】
また、発光検出素子119としてフォトダイオードを用い、このフォトダイオードにより処理中の各パルスレーザビームの照射に対する発光量を計測および記録した。また、光学フィルター121として、加工用のレーザビームの加工点からの反射光や迷光を遮断するためのレーザ光カットフィルターを用いた。発光量から発光強度への換算は、図10に示す発光の時間波形を、各レーザパルスについて時間積分することで行った。1つの分岐穴に対する処理が終了した後に、以下の実施例1〜実施例3に示したように、上述した複数の方法により総和を算出する演算を行った。
【0152】
さらに、以下の実施例1〜実施例3では、各分岐穴近傍のA点およびB点の分岐穴周方向応力σおよびσを測定した。A点およびB点における応力測定は、分岐穴5を含む一部分を切り出し、X線残留応力測定装置を用いて測定した。この切り出し加工においては、レーザピーニング処理により付与された残留応力が変化しないように、分岐穴5のレール穴4側の開口部から離れた位置で切断した。切り出した大きさは、レール穴4の軸方向の長さが40mmであり、分岐穴5の軸に垂直でレール穴4の軸を含む平面で切断した。X線応力測定におけるビーム径は、0.1mmとした。
【0153】
以上のようにして得られた発光強度の総和SおよびSと、残留応力σおよびσの関係をグラフ上にプロットし、2次曲線で近似した回帰線からのばらつきにより、推定精度を評価した。以下、各実施例における演算方法の詳細について、説明する。
【0154】
<実施例1>
実施例1では、強化対象点であるA点およびB点の近傍の所定の範囲に照射されるパルスレーザビームについて、対応する発光強度Iの総和を上記式1に基づいて算出する方法で、発光強度の総和SおよびSを算出した。総和を考慮する範囲は、上述した1つのパルスレーザビームで生ずる応力分布を踏まえて、図12の斜線部で示すように、A点およびB点を中心として長径U=1.5mm、短径U=1.0mmとする楕円形状とした。
【0155】
結果を図18に示す。図18では、1本のコモンレールに対して5個の分岐穴があり、それぞれの穴の両側にあるA点、B点に対するデータを示しており、データ数は計10点となっている。図18から明らかなように、発光強度の総和Sと付与された応力値σとの間には正の相関が見られること、および、発光強度の総和Sを算出することで、付与された応力値σが推定可能であること、が判る。実際に付与された応力値と、回帰線の値から予想される応力との差の平均値を以下の式3に基づき算出したところ、47MPaであった。
【0156】
【数3】

・・・(式3)
【0157】
<実施例2>
実施例2では、総和を考慮する範囲は、図12に示す上述の実施例1の場合と同一である。本実施例では、更に、強化対象点であるA点およびB点の近傍に照射されるパルスレーザビームほどより大きな寄与があるとして、上述した式2に基づく重み付け演算を行った。算出に用いた重み付け係数は、図13に示した応力分布の形状の広がりの大きさを踏まえて、以下の式4で表されるガウス分布から算出した値とした。
【0158】
【数4】

・・・(式4)
【0159】
ここで、上記式4において、パラメータrは、各パルスレーザビームの照射位置のA点またはB点からの離隔距離である。得られた結果を図19に示す。図19において、データ数が計10点となっているのは、上述の実施例1の場合と同様である。実際に付与された応力値と、回帰線の値から予想される応力との差の平均値を、上記式3に基づき算出したところ、33MPaであった。この結果は、かかる総和の算出方法を用いることで、応力値の推定誤差を、実施例1よりも小さくできることを示している。
【0160】
<実施例3>
実施例3は、総和を考慮する範囲および重み付け演算を用いる点では、実施例2と同様である。実施例3では、さらに、分岐穴近傍に照射される複数のパルスレーザビームに対する発光強度の分布から、分岐穴の中心位置座標を特定し、この特定結果をもとに各パルスレーザビームの照射位置を補正した上で発光強度の総和を算出する方法を用いた。
【0161】
分岐穴の中央位置の特定は、分岐穴の内部にスポット径の中心位置が入るパルスレーザビームの照射に対する発光強度の落ち込みを利用して、特定を行った。具体的には、レーザピーニング処理前に分岐穴の中心として設定した点を中心として半径0.5mm以下の領域に照射されるパルスレーザビームの発光強度の空間分布を、下に凸となる2次曲面で近似し、この結果得られる2次曲面の底となる点を分岐穴の中心として再定義した。この分岐穴の中心位置座標の再定義結果を基に、各パルスレーザビームの照射位置座標を補正後、発光強度の総和SおよびSを算出した。
【0162】
結果を図20に示す。実際に付与された応力値と、回帰線の値から予想される応力との差の平均値を、上記式3に基づき算出したところ、20MPaであった。この結果は、かかる総和の算出方法を用いることで、応力値の推定誤差を、実施例2よりも更に小さくできることを示している。
【0163】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0164】
10 レーザ加工装置
100 レーザ照射装置
200 圧縮応力値推定装置
201 測定データ取得部
203 座標データ取得部
205 強度算出部
207 総和算出部
209 応力値推定部
211 記憶部
251 位置補正部
300 照射位置制御装置
301 駆動制御部
303 座標データ取得部
305 座標データ送信部
400 給水ポンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する被処理部材に対してパルスレーザビームを照射し、当該被処理部材に対して圧縮応力を付与するレーザピーニング処理において、前記被処理部材に付与された圧縮応力を推定する方法であって、
前記被処理部材の開口周辺部に複数のパルスレーザビームを照射されることで発生した光の発光量の測定結果を取得するステップと、
前記開口部の直径の両端近傍で発生した光の発光強度を、前記発光量の測定結果に基づいて算出するステップと、
発光強度と圧縮応力との相関を示す予め設定したデータベースを参照し、算出した前記発光強度に基づいて、付与された圧縮応力の大きさを推定するステップと、
を含む、圧縮応力値の推定方法。
【請求項2】
前記発光強度を算出するステップでは、前記発光量の測定結果の中から、前記開口部の直径の端部を中心とした領域内における発光の発光量を特定し、当該領域内について発光強度の総和を算出する、請求項1に記載の圧縮応力値の推定方法。
【請求項3】
前記発光強度を算出するステップでは、前記発光量の測定結果の中から、前記開口部の直径の端部を中心とした楕円形状の領域内における発光の発光量を特定し、当該領域内について発光強度の総和を算出する、請求項2に記載の圧縮応力値の推定方法。
【請求項4】
前記開口部は、前記被処理部材の長手方向に沿って複数設けられており、
前記楕円形状の領域の長軸方向は、前記被処理部材の長手方向に対して直交する方向である、請求項3に記載の圧縮応力値の推定方法。
【請求項5】
前記発光強度を算出するステップでは、前記領域内に含まれる発光強度のそれぞれに対し、前記開口部の直径の端部からの距離に応じた重み付け係数を積算して、発光強度の総和を算出する、請求項2に記載の圧縮応力値の推定方法。
【請求項6】
前記重み付け係数は、前記開口部の直径の端部からの距離を変数とするガウス分布から得られる値である、請求項5に記載の圧縮応力の推定方法。
【請求項7】
前記発光強度を算出するステップと前記圧縮応力の大きさを推定するステップとの間に、発光強度の分布に基づいて前記開口部の中心位置を特定し、当該中心位置の特定結果に基づいて前記パルスレーザビームが照射された位置を表す情報を補正するステップを更に含む、請求項1に記載の圧縮応力の推定方法。
【請求項8】
前記パルスレーザビームが照射された位置を表す情報を補正するステップでは、前記発光強度の分布において発光強度の最小値を与える位置を、前記開口部の中心位置と特定する、請求項7に記載の圧縮応力の推定方法。
【請求項9】
開口部を有する被処理部材に対してパルスレーザビームを照射し、当該被処理部材に対して圧縮応力を付与するレーザピーニング処理において、前記被処理部材に付与された圧縮応力を推定する圧縮応力値推定装置であって、
前記被処理部材の開口周辺部に複数のパルスレーザビームが照射されることで発生した光の発光量に関する測定データを取得する測定データ取得部と、
前記発光量に関する測定データに基づいて、当該発光量から発光強度を算出する強度算出部と、
前記開口部の直径の両端近傍で発生した光の発光強度の総和を、前記強度算出部により算出された発光強度に基づいて算出する総和算出部と、
発光強度と圧縮応力との相関を示す予め設定したデータベースを参照し、前記総和算出部により算出された発光強度の総和に基づいて、付与された圧縮応力の大きさを推定する応力値推定部と、
を備える、圧縮応力値推定装置。
【請求項10】
前記圧縮応力値推定装置は、前記パルスレーザビームの照射位置を表すデータである座標データを取得する座標データ取得部を更に備え、
前記総和算出部は、前記座標データに基づいて、前記開口部の直径の両端近傍で発生した光の発光強度の総和を算出する、請求項9に記載の圧縮応力値推定装置。
【請求項11】
前記総和算出部は、前記開口部の直径の端部を中心とした領域内における発光強度の総和を算出する、請求項10に記載の圧縮応力値推定装置。
【請求項12】
前記総和算出部は、前記開口部の直径の端部を中心とした楕円形状の領域内における発光強度の総和を算出する、請求項11に記載の圧縮応力値推定装置。
【請求項13】
前記開口部は、前記被処理部材の長手方向に沿って複数設けられており、
前記総和算出部は、前記楕円形状の領域の長軸方向を、前記被処理部材の長手方向に対して直交する方向とする、請求項12に記載の圧縮応力値推定装置。
【請求項14】
前記総和算出部は、前記領域内に含まれる発光強度のそれぞれに対し、前記開口部の直径の端部からの距離に応じた重み付け係数を積算して、発光強度の総和を算出する、請求項11に記載の圧縮応力値推定装置。
【請求項15】
前記総和算出部は、前記重み付け係数として、前記開口部の直径の端部からの距離を変数とするガウス分布から得られる値を使用する、請求項14に記載の圧縮応力値推定装置。
【請求項16】
前記圧縮応力値推定装置は、前記強度算出部が算出した発光強度の分布に基づいて、前記開口部の中心位置を特定し、当該中心位置の特定結果に基づいて前記パルスレーザビームが照射された位置を表す座標データを補正する位置補正部を更に備える、請求項10に記載の圧縮応力値推定装置。
【請求項17】
前記位置補正部は、前記発光強度の分布において発光強度の最小値を与える位置を、前記開口部の中心位置と特定する、請求項16に記載の圧縮応力値推定装置。
【請求項18】
開口部を有する被処理部材に対してパルスレーザビームを照射し、当該被処理部材に対して圧縮応力を付与するレーザピーニング処理を実行可能なレーザ加工装置であって、
前記被処理部材に対して所定波長のパルスレーザビームを照射するレーザビーム発振器と、前記被処理部材の開口周辺部に複数のパルスレーザビームを照射するとともに、当該パルスレーザビームの照射によって発生した光を集光する照射ヘッドと、前記パルスレーザビームの照射によって発生した光を検出する検出素子と、を備えるレーザ照射装置と、
請求項9〜17のいずれか一項に記載の圧縮応力値推定装置と、
を備える、レーザ加工装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−64503(P2011−64503A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213487(P2009−213487)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】