説明

圧縮成形型浴用剤組成物

【課題】浴用剤成分の溶け残りがなく、成形性が良好でかつ十分な安定性を有する圧縮成形型浴用剤組成物を提供する。
【解決手段】次の成分(A)〜(C)
(A)グリシン1.2〜18質量%、
(B)アミノ基を有しない有機酸、及び
(C)炭酸塩
を含有する圧縮成形型浴用剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮成形型浴用剤組成物に関し、特に、炭酸塩と有機酸を含有する圧縮成形型浴用剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、炭酸塩と有機酸を配合した浴用剤組成物は、浴水投入時に発泡による入浴の楽しみ、炭酸ガスによる温浴効果等を提案できるものとして知られており、各種の製品が上市されている。そのうち、錠剤やブリケット等の圧縮成形型浴用剤は、浴水に投入すると炭酸ガスを発泡しながら溶解し、炭酸ガスが十分に浴水中に溶解することから、広く使用されている。
【0003】
しかし、炭酸塩と有機酸を配合した圧縮成形型浴用剤組成物は、一般的に成形性が悪いため、成形不良が発生しやすい傾向がある。特に、炭酸塩と有機酸を配合した浴用剤組成物の圧縮成形における製造障害としては、粉体がプレス打錠機の金型(臼杵)やブリケットマシーンのロールに付着しやすいことから、スティッキングやバインディングなどが問題となる。このような錠剤やブリケットの成形障害を抑制するため、タルク、ステアリン酸マグネシウム、多孔性軽質無水ケイ酸などの滑沢剤を用いることで成形性を改善することが行われている(特許文献1)。
【0004】
一方、各種のアミノ酸を薬用成分として浴用剤に配合する技術は知られている(特許文献2〜4)が、固形浴用剤の成形性にどのような作用を及ぼすかについては全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−95916号公報
【特許文献2】特開平11−292751号公報
【特許文献3】特開2004−67588号公報
【特許文献4】特開平3−58919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記のような滑沢剤は、一般に水に不溶性であり、これを配合した浴用剤を浴水に投入すると、水面や浴槽の底に不溶物が残存し、ざらつくなどの問題が生じることがあった。
従って、本発明の課題は、浴用剤成分の溶け残りがなく、成形性が良好でかつ十分な安定性を有する圧縮成形型浴用剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者は、炭酸塩と有機酸を含有する浴用剤の圧縮成形性を改善すべく種々検討した結果、全く意外にもアミノ酸の一種であるグリシンを一定量配合して圧縮成形すれば、スティッキングやバインディングなどの成形障害を防止し且つ安定して圧縮成形型浴用剤が得られ、得られた成形物の硬度が高いことから製造時及び流通時に壊れることがなく、かつ溶け残りが生じないことを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の成分(A)〜(C)、
(A)グリシン1.2〜18質量%、
(B)アミノ基を有しない有機酸、及び
(C)炭酸塩
を含有する圧縮成形型浴用剤組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の圧縮成形型浴用剤組成物は、圧縮成形時の成形性に優れており、プレス打錠、ブリケットなど様々な圧縮成形においても成形障害が発生しない。また成形品の硬度が高いためハンドリング性にも優れる。さらに、浴水に投入したときに良好な発泡性を有するとともに溶け残りが生じない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の圧縮成形型浴用剤組成物は(A)グリシンを1.2〜18質量%含有する。グリシンを1.2質量%以上含有させることにより有機酸及び炭酸塩を含有する浴用剤の圧縮成形性が著しく改善され、圧縮成形時のスティッキングやバインディングを防止でき、かつ得られる浴用剤の硬度が上昇することから、製造時及び流通時の壊れが防止できる。より好ましいグリシンの含有量は1.5〜17質量%であり、さらに好ましくは2〜15質量%であり、特に好ましくは3〜9質量%である。
【0011】
本発明に用いられる(B)アミノ基を有しない有機酸としては、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、安息香酸、サリチル酸等の室温(20〜30℃)で固体のアミノ基を有しない有機酸が好ましい。より好ましい有機酸の組み合せは、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、コハク酸及びフマル酸から選ばれる有機酸の1種又は2種以上の組み合せである。特に、当該(B)有機酸は、融点100℃〜140℃の有機酸を含有すると好ましい。このような有機酸としてはリンゴ酸、マレイン酸が挙げられる。これらの融点が100℃〜140℃の有機酸は、成分(B)の有機酸中に30質量%以上、特に50質量%以上含有するのが、圧縮成形型浴用剤の硬度上昇の点で好ましい。したがって、殊更好ましい有機酸の組み合せは、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、コハク酸及びフマル酸から選ばれる有機酸の1種又は2種以上の組み合せであって、この中にリンゴ酸及び/又はマレイン酸を30質量%〜100質量%、特に50質量%〜80質量%含有する組み合せである。
【0012】
(B)有機酸の本発明浴用剤中の含有量は、炭酸ガス発生効果の点から、10〜80質量%が好ましく、さらに15〜75質量%が好ましく、特に20〜65質量%が好ましく、殊更40〜53質量%が好ましい。
【0013】
本発明に用いられる(C)炭酸塩としては、炭酸水素塩及び炭酸塩が挙げられ、より具体的には炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、セスキ炭酸ナトリウム等が挙げられ、これら単独で又は混合して用いることができる。用いる炭酸塩の平均粒子径は30〜500μm、さらに40〜300μm、特に50〜200μmであるのが圧縮成形性の点で好ましい。なお、平均粒子径は、以下のように測定される。
篩:JIS 標準篩 φ200mm
目開き:上段より、それぞれ2000μm、1400μm、1000μm、710μm、500μm、355μm、250μm、180μm、125μm、90μm、63μm及び45μmの目開きを有する篩の下に受器を有する。
振盪機:篩振盪機Ro−TAP SHAKER DB型(HEIKO SEISAKUSHO)
方法:試料50gを2000μm篩上に載せ、篩振盪機にて5分間分級する。それぞれの篩及び受器上に残留した粒子の質量を測定し、各篩上の該粒子の質量割合(%)を算出する。受器から順に目開きの小さな篩上の該粒子の質量割合を積算していき合計が50%となる粒子径を平均粒子径とする。
また、炭酸ナトリウムには高比重の粒灰(見かけ比重1.0以上)と低比重の軽灰(見かけ比重1.0未満)が存在するが、軽灰を用いるのが成形性の点で特に好ましい。
(C)炭酸塩の本発明浴用剤中の含有量は、炭酸ガス発生効果の点から15〜70質量%が好ましく、さらに20〜60質量%、特に25〜40質量%が好ましい。
【0014】
本発明の浴用剤においては、更に(D)油性香料を含有すると、入浴効果及び成形性の点で特に好ましい。このような油性香料としては、水/オクタノール分配係数が1〜7の香料が挙げられ、好ましくは炭素数10のテルペン系炭化水素、炭素数5〜20のアルコールのギ酸エステル、酢酸エステルもしくはプロピオン酸エステル、及び炭素数10〜15のケトンから選ばれる1種又は2種以上を含有する香料成分が挙げられる。
【0015】
炭素数10のテルペン系炭化水素としては、α−ピネン、β−ピネン、カンフエン、リモネン、テルピノーレン、ミルセン、p−サイメン等が挙げられる。
また、炭素数5〜20のアルコールのギ酸エステル、酢酸エステルもしくはプロピオン酸エステルとしては、ギ酸ゲラニル、ギ酸ベンジル、ギ酸フェニルエチル等;酢酸イソアミル、酢酸シトロネリル、酢酸ゲラニル、酢酸ベンジル、酢酸リナリル、酢酸フェニルエチル、酢酸メンチル、酢酸ボルニル、酢酸テルピニル、酢酸シンナミル、酢酸アニシル、酢酸ミルセニル等;プロピオン酸リナリル、プロピオン酸シトロネリル、プロピオン酸ゲラニル、プロピオン酸ベンジル、プロピオン酸テルピニル、プロピオン酸シンナミル等が挙げられる。
また、炭素数10〜15のケトンとしては、ダマセノン、ダイナスコン、ダマスコン、ヨノン、メチルヨノン等が挙げられる。
これらの香料は、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、他の香料と調合して含有させることもできる。
【0016】
本発明の浴用剤中、成分(D)の含有量は、入浴効果及び成形性を高める点から、0.001〜5質量%であることが好ましく、特に0.005〜3質量%、さらに0.01〜2質量%、殊更0.1〜1質量%であることが好ましい。
【0017】
本発明の浴用剤においては、成分(A)と成分(B)の質量比(A/B)は、圧縮成形性と成形品の硬度の両者が良好となる点から、0.015〜1.8が好ましく、更に0.02〜0.5が好ましく、特に0.04〜0.2が好ましい。
【0018】
さらに、本発明の浴用剤中には上記以外の成分、例えば、炭酸塩以外の無機塩類、生薬類、油脂類、アルコール類、多価アルコール類、糖類、保湿剤、冷感剤、水溶性高分子等を任意成分として含有させてもよい。
【0019】
本発明の圧縮成形型浴用剤は、圧縮して固形に成形したものであり、例えば、錠剤やブリケットなどが挙げられる。またこれらの浴用剤は、1錠又は1粒子当たり0.1〜100gのもの、特に2〜80gのものが好ましい。これらは一般的には、プレス打錠機やブリケットマシーンを用いた圧縮成形法により製造されるが、その他の製造方法、たとえば、成分を溶解して固形に成形したもの等であっても良い。
【実施例】
【0020】
表1に示した組成を常法により混合しプレス打錠機にて圧縮成形することにより、45g/錠の錠剤型浴用剤を製造した。なお、炭酸ナトリウムは軽灰を使用した。
【0021】
[評価方法]
(1)成形性
連続成形した際のバインディング、キャッピング、スティッキング、ひび割れなどの打錠障害を目視評価し、打錠障害を認めるまでの錠数(連続成形が可能であった錠数)から以下の基準で評価した。
(評価基準)
◎:20錠以上の連続成形が可能
○:10〜19錠の連続成形が可能
×:9錠以下の連続成形で打錠障害が発生
【0022】
(2)成形品の硬度(ハンドリング性)
成形直後の錠剤硬度を木屋式硬度計を用いて測定し、成形品のハンドリング性を以下の基準で評価した。
◎:10kgf以上(ハンドリング性良好)
○:8kgf以上(ハンドリング性問題なし)
×:8kgf未満(ハンドリング性不良)
【0023】
[結果]
結果を表1に示す。表1から明らかなように、比較例1−3の浴用剤では、バインディングとキャッピング又は錠剤のヒビ割れが認められ、成形品の硬度も低く、成形性とハンドリング性共に悪かった。一方、実施例1〜5の浴用剤では成形性とハンドリング性共に良好であった。
このことから、本発明の圧縮成形型浴用剤組成物は、成形性に優れ、成形品のハンドリング性も良好であることが明らかとなった。
また、本発明の浴用剤を40℃、150Lの浴水に投入し、発泡させて入浴したところ、炭酸ガスによるあたたまり感に優れるとともに、浴槽中に溶け残りが見られなかった。
【0024】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)〜(C)
(A)グリシン1.2〜18質量%、
(B)アミノ基を有しない有機酸、及び
(C)炭酸塩
を含有する圧縮成形型浴用剤組成物。
【請求項2】
成分(B)が、融点140℃以下の有機酸を含有する請求項1記載の圧縮成形型浴用剤組成物。
【請求項3】
成分(A)と成分(B)の質量比(A)/(B)が0.015〜1.8である請求項1又は2記載の圧縮成形型浴用剤組成物。
【請求項4】
炭酸塩が、炭酸水素ナトリウム及び炭酸ナトリウムから選ばれる1種又は2種以上である請求項1〜3の何れか1項に記載の圧縮成形型浴用剤組成物。
【請求項5】
更に(D)油性香料を含有する請求項1〜4の何れか1項に記載の圧縮成形型浴用剤組成物。

【公開番号】特開2011−190189(P2011−190189A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55908(P2010−55908)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】