説明

圧縮機の取付構造および該取付構造を有する空調システム

【課題】高温、高圧条件下における圧縮機筐体の過熱を防止することにより、圧縮機筐体をアルミニウム鋳造成形品とした場合においても、変形等を確実に防止でき、装置の小型化、軽量化、低コスト化の要請に対応可能な圧縮機の取付構造を提供するとともに、該取付構造を有する空調システムを提供する。
【解決手段】圧縮機筐体に設けられた固定用ボスを、原動機または原動機に装着されたブラケットに接続、固定する圧縮機の取付構造において、前記固定用ボスの原動機側の接続端面の面積を他端面の面積より大きく設定したことを特徴とする圧縮機の取付構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば車両用原動機(エンジン等)への圧縮機の取付構造および該取付構造を有する空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のエンジン等の原動機への圧縮機の取付構造としては、図5、図6に示すような取付構造が知られている。図5、図6において、100は圧縮機を示している。圧縮機100は、圧縮機構が収容される圧縮機筐体101と圧縮機構に外部駆動源(たとえば、エンジン)からの動力を圧縮機構に伝達するプーリ102とを有している。圧縮機筐体101には、エンジン103に装着されたブラケット104に接続される固定用ボス105が設けられている。固定用ボス105にはボルト106が挿通されるボルト孔107が設けられている。また、ブラケット104にはボルト106が螺合可能なボルト孔108が設けられている。
【0003】
このような圧縮機の取付構造においては、固定用ボス105の接続端面105aと該接続端面105aに接触するブラケット104の面104aを接触させ、ボルト孔107、108の位置を合わせ、ボルト孔107側からボルト106を挿入しボルト孔108にボルト106を螺合させることにより、圧縮機100がエンジン103に固定されるようになっている。
【0004】
上記圧縮機100においては、内部構造や圧縮機構の駆動に伴う摩擦熱、冷媒の圧縮に起因し熱が発生する。これら摩擦熱等は、ボス105からブラケット104を介して水冷箇所が一般に80℃程度に冷却されるエンジン103側に伝達され、圧縮機100の過熱が防止される。また、上記摩擦熱等はエンジンルーム内の空気中にも放熱されるが、この場合は同時に吸入冷媒も加熱されることになるため、圧縮冷媒の温度が高温になるおそれがある。とくに、二酸化炭素冷媒が使用される場合には、冷媒温度が150℃以上の高温、圧縮機筐体の内圧が12MPa以上の高圧になる。このような、高温、高圧の条件下においては、通常、アルミニウム合金の鋳造成形品からなる圧縮機筐体の耐熱性、耐圧性の低下に伴う耐久性の低下が懸念される。このような不具合を解消するため、たとえばアルミニウム合金の鍛造成形品や鉄系材料から圧縮機筐体を形成することも考えられるが、アルミニウム鍛造品とした場合には、成形上の自由度が低下するとともに、切削、表面処理等の後加工工程が増加し生産性が低下するおそれがある。また、鉄系材料を使用する場合においては、圧縮機の軽量化の要請に対応できなくなるおそれがある。
【0005】
また、圧縮機の過熱を防止する提案としては、たとえば、クラッチレスコンプレッサのプーリをファンとして利用し圧縮機を冷却するような提案もなされているが(たとえば、特許文献1、2)、冷却される部分が軸封装置の周辺等に限定されるため、圧縮機筐体の全体の過熱を効果的に防止できないおそれがある。
【特許文献1】特開平9−112419号公報
【特許文献2】特開平9−105382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の課題は、高温、高圧条件下における圧縮機筐体の過熱を防止することにより、圧縮機筐体をアルミニウム合金の鋳造成形品とした場合においても、変形等を確実に防止でき、装置の小型化、軽量化、低コスト化の要請に対応可能な圧縮機の取付構造を提供するとともに、該取付構造を有する空調システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る圧縮機の取付構造は、圧縮機筐体に設けられた固定用ボスを、原動機または原動機に装着されたブラケットに接続、固定する圧縮機の取付構造において、前記固定用ボスの原動機側の接続端面の面積を他端面の面積より大きく設定したことを特徴とするものからなる。このような構成においては、固定用ボスの原動機側の接続端面の面積は、他端面の面積より大きく設定されているので、他端面側に比べ接続端面側の方が熱容量が大きい。また、接続端面側と水冷されるエンジン等の原動機側には温度勾配が生じるので、圧縮機筐体の熱を接続端面側から原動機側に効率よく熱伝導させることができる。したがって、圧縮機筐体の過熱を効果的に防止できる。
【0008】
また、上記課題を解決するために、もう一つの本発明に係る圧縮機の取付構造は、圧縮機筐体に設けられた固定用ボスを、原動機に装着されたブラケットに接続、固定する圧縮機の取付構造において、前記ブラケットに放熱フィンを設けたことを特徴とするものからなる。このような構成においては、ブラケットには放熱用フィンが設けられ、ブラケットからの放熱の促進により該ブラケットの温度が低下し、固定用ボス側との温度勾配が生じるので、圧縮機筐体側からの熱伝導を促進することができる。したがって、圧縮機筐体の過熱を効果的に防止することができる。
【0009】
また、上記課題を解決するために、もう一つ別の本発明に係る圧縮機の取付構造は、圧縮機筐体に設けられた固定用ボスを、原動機に装着されたブラケットに接続、固定する圧縮機の取付構造において、前記固定用ボスの原動機側の接続端面の面積を他端面の面積より大きく設定するとともに、前記ブラケットに放熱フィンを設けたことを特徴とするものからなる。このような構成においては、固定用ボスの原動機側の接続端面の面積は、他端面の面積より大きく設定されているので、接続端面側の熱容量が大きくなるとともに、水冷されるエンジン等の原動機側に効率よく熱伝導させることができる。さらに、放熱フィンによりブラケットからの放熱が促進されるので、圧縮機筐体側からの熱伝導を一層促進することができる。したがって、圧縮機筐体の過熱をより一層効果的に防止することができる。
【0010】
本発明に係る圧縮機の取付構造によれば、圧縮機筐体の過熱が効果的に防止されるので、圧縮機筐体はアルミニウム合金、とくにアルミニウム合金の鋳造成形品から形成することができる。また、上記原動機に装着されるブラケットもアルミニウム合金から形成されることが好ましい。このような構成によれば、圧縮機筐体およびブラケットの双方が等しい熱伝導率を有するアルミニウム合金から形成されるので、圧縮機筐体側からブラケット側へ円滑に熱伝導させることができる。
【0011】
上記固定用ボスの原動機側の接続端面または該端面が接する原動機側の面(たとえば、ブラケットの接続端面)、または原動機側の接続端面および該端面が接する原動機側の面には、金属を基本組成とする表面処理が施されることが好ましい。このような構成によれば、圧縮機筐体側から原動機側へ効率よく熱伝導させることができる。また、金属を基本組成とする表面処理としては、たとえば金属メッキ等を挙げることができる。
【0012】
また、本発明に係る圧縮機の取付構造によれば、圧縮機筐体の過熱が効果的に防止されるので、とくに高温、高圧条件下において運転される二酸化炭素冷媒が使用される圧縮機の取付構造に最適である。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明に係る空調システムは、上記本発明に係る圧縮機の取付構造を有するものからなり、空調システムとしてはとくに車両用空調システムを挙げることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る圧縮機の取付構造によれば、圧縮機筐体側から原動機側に効率よく熱伝導させることができるので、圧縮機筐体の過熱を確実に防止でき、とくに高温、高圧の条件下において運転される二酸化炭素冷媒を使用する場合においても圧縮機筐体をアルミニウム合金の鋳造成形品から形成することができる。したがって、圧縮機の小型化、軽量化、低コスト化の要請に機動的に対応できる。
【0015】
また、圧縮機筐体およびブラケットの双方を等しい熱伝導度を有するアルミニウム合金から形成すれば、圧縮機筐体側からブラケット側へ円滑に熱伝導させることができ、圧縮機筐体の過熱を防止できる。
【0016】
固定用ボスの原動機側の接続端面または該端面が接する原動機側の面(たとえば、ブラケットの接続端面)、または原動機側の接続端面および該端面が接する原動機側の面に、金属を基本組成とする表面処理を施せば、圧縮機筐体側から原動機側へ効率よく熱伝導させることができ、圧縮機筐体の過熱を防止できる。
【0017】
本発明に係る圧縮機の取付構造によれば、圧縮機筐体の過熱が効果的に防止されるので、とくに高温、高圧条件下において運転される二酸化炭素冷媒が使用される圧縮機の取付構造に最適である。
【0018】
本発明に係る圧縮機の取付構造は、空調システム、とくに車両用空調システムの圧縮機の取付構造に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明に係る圧縮機の取付構造および該取付構造を有する空調システム(車両空調システム)の望ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1、図2は本発明の第1実施態様に係る圧縮機の取付構造が採用された車両用空調システムの原動機(エンジン)への圧縮機の取付状態を示しいている。図1、図2において、1は圧縮機を示している。圧縮機1は、二酸化炭素冷媒を被圧縮流体とする圧縮機に構成されており、圧縮機構(図示略)が収容される圧縮機筐体2と、圧縮機構へ外部駆動源(エンジン等)からの動力を伝達するプーリ3とを有している。
【0020】
圧縮機筐体2には、エンジン4に装着されたブラケット5に接続される固定用ボス6が一体に設けられている。圧縮機筐体2はアルミニウム合金の鋳造成形品からなっており、本実施態様においては、固定用ボス6およびブラケット5はともにアルミニウム合金からなっている。固定用ボス6にはボルト7が挿通されるボルト孔8が設けられている。また、ブラケット5にはボルト7が螺合可能なボルト孔9が設けられている。
【0021】
固定用ボス6のエンジン側の接続端面6aの面積は、ボルト7の挿入側の他端面6bの面積よりも大きくなるように設定されている。接続端面6aはブラケット5の面5aに接するように構成されており、本実施態様においては、接続端面6aおよび面5aには金属を基本組成とする表面処理(本実施態様においては、金属メッキ)が施されている。
【0022】
本実施態様においては、固定用ボス6の原動機側の接続端面6aの面積は、他端面6bの面積より大きく設定されているので、他端面6b側に比べ接続端面6a側の方が熱容量が大きい。また、接続端面6a側と、該面6aと接する水冷されるエンジン側のブラケット5の面5aとの間には温度勾配が生じるので、接続端面6a側からエンジン側のブラケット5側に効率よく熱伝導させることができる。したがって、圧縮機筐体2の過熱を効果的に防止できる。
【0023】
本実施態様に係る圧縮機の取付構造によれば、圧縮機筐体2の過熱が効果的に防止されるので、圧縮機筐体2はアルミニウム合金、とくにアルミニウム合金の鋳造成形品から形成することができるので、鍛造成形品を使用する場合に比べ、成形上の自由度を維持しつつ、生産性を向上することができる。また、エンジン4に装着されるブラケット5もアルミニウム合金から形成され、固定用ボス6およびブラケット5の双方が等しい熱伝導率を有するアルミニウム合金から形成されるので、圧縮機筐体2側からブラケット5側へ円滑に熱伝導させることができる。
【0024】
固定用ボス6の原動機側の接続端面6aおよび該端面6aが接するブラケット5の面5aには、金属メッキが施されるので、固定用ボス6からブラケット5側、換言すれば圧縮機筐体2側からエンジン4側へ効率よく熱伝導させることができる。なお、本実施態様においては、接続端面6aおよび該端面6aが接するブラケット5の面5aの双方に金属メッキが施されているが、いずれか一方の面に金属メッキを施す態様においても圧縮機筐体2側からエンジン4側へ熱伝導性を向上することができる。
【0025】
図3、図4は本発明の第2実施態様に係る圧縮機の取付構造が採用された車両用空調システムの原動機(エンジン)への圧縮機の取付状態を示しいている。なお、上記第1実施態様と同一の部材には同一の番号を付しその説明を省略する。圧縮機筐体2には、エンジン4に装着されたブラケット10に接続される固定用ボス6が一体に設けられている。圧縮機筐体2はアルミニウム合金の鋳造成形品からなっており、本実施態様においては、固定用ボス6およびブラケット10はともにアルミニウム合金からなっている。固定用ボス6にはボルト7が挿通されるボルト孔8が設けられている。また、ブラケット10にはボルト7が螺合可能なボルト孔9が設けられている。固定用ボス6のエンジン側の接続端面6aの面積は、ボルト7の挿入側の他端面6bの面積よりも大きくなるように設定されている。接続端面6aはブラケット10の面10aに接するように構成されており、本実施態様においては、接続端面6aおよび面10aには金属を基本組成とする表面処理(本実施態様においては、金属メッキ)が施されている。
【0026】
ブラケット10には、放熱フィン11が設けられている。本実施態様においては放熱フィン11はブラケット10に一体に設けられている。
【0027】
本実施態様においても、固定用ボス6の原動機側の接続端面6aの面積は、他端面6bの面積より大きく設定されているので、上記第1実施態様の作用に準じ圧縮機筐体2の過熱を効果的に防止できる。さらに、本実施態様においてはブラケット10には放熱フィン11が向けられているので、ブラケット10側に伝導された熱は放熱フィン11を介して、たとえばエンジンルーム内に放熱されるので、固定用ボス6側からのブラケット10側への熱伝導を一層促進することができるので、圧縮機筐体2の過熱を効果的に防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明に係る圧縮機の取付構造は、エンジン等の原動機や該原動機に装着されるブラケットに接続、固定される圧縮機の取付構造として各分野において広く適用することができ、とくに空調システム、とくに車両用空調システムの圧縮機の取付構造に好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施態様に係る圧縮機の取付構造が採用された車両用空調システムの原動機(エンジン)への圧縮機の取付状態を示す上面図である。
【図2】図1のII矢視図である。
【図3】本発明の第2実施態様に係る圧縮機の取付構造が採用された車両用空調システムの原動機(エンジン)への圧縮機の取付状態を示す上面図である。
【図4】図3のIV矢視図である。
【図5】従来の圧縮機の取付構造が採用された車両用空調システムの原動機(エンジン)への圧縮機の取付状態を示す上面図である。
【図6】図5のVI矢視図である。
【符号の説明】
【0030】
1 圧縮機
2 圧縮機筐体
3 プーリ
4 固定用ボス
5、10 ブラケット
6 固定用ボス
7 ボルト
8、9 ボルト孔
11 放熱フィン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機筐体に設けられた固定用ボスを、原動機または原動機に装着されたブラケットに接続、固定する圧縮機の取付構造において、前記固定用ボスの原動機側の接続端面の面積を他端面の面積より大きく設定したことを特徴とする圧縮機の取付構造。
【請求項2】
圧縮機筐体に設けられた固定用ボスを、原動機に装着されたブラケットに接続、固定する圧縮機の取付構造において、前記ブラケットに放熱フィンを設けたことを特徴とする圧縮機の取付構造。
【請求項3】
圧縮機筐体に設けられた固定用ボスを、原動機に装着されたブラケットに接続、固定する圧縮機の取付構造において、前記固定用ボスの原動機側の接続端面の面積を他端面の面積より大きく設定するとともに、前記ブラケットに放熱フィンを設けたことを特徴とする圧縮機の取付構造。
【請求項4】
前記圧縮機筐体がアルミニウム合金からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の圧縮機の取付構造。
【請求項5】
前記原動機に装着されたブラケットがアルミニウム合金からなる、請求項1〜4のいずれかに記載の圧縮機の取付構造。
【請求項6】
前記固定用ボスの原動機側の接続端面または該端面が接する原動機側の面、または固定用ボスの原動機側の接続端面および該端面が接する原動機側の面に金属を基本組成とする表面処理が施されている、請求項1〜5のいずれかに記載の圧縮機の取付構造。
【請求項7】
被圧縮流体が二酸化炭素冷媒である、請求項1〜6のいずれかに記載の圧縮機の取付構造。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の圧縮機の取付構造を有することを特徴とする空調システム。
【請求項9】
車両用空調システムからなる、請求項8に記載の空調システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−2201(P2009−2201A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162701(P2007−162701)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】