圧縮機
【課題】スロットに配置される絶縁部材が融けるのを抑制する。
【解決手段】この圧縮機は、パイプ11とそのパイプ11の内部に配置されるモータとを複数の溶接位置P1〜P3で溶接により接合する圧縮機である。モータは、環状のバックヨーク部75、バックヨーク部75から径方向(X方向)の内側に突出する複数のティース部76、及び、隣接するティース部76の間に形成されるスロット77を有するコア71と、スロット77に配置されるコイル72と、スロット77に配置され、コイル72とコア71とを絶縁し、且つ、アラミド系樹脂であるスロットセル73とを備えている。バックヨーク部75とスロットセル73との間には、隙間S1が設けられる。
【解決手段】この圧縮機は、パイプ11とそのパイプ11の内部に配置されるモータとを複数の溶接位置P1〜P3で溶接により接合する圧縮機である。モータは、環状のバックヨーク部75、バックヨーク部75から径方向(X方向)の内側に突出する複数のティース部76、及び、隣接するティース部76の間に形成されるスロット77を有するコア71と、スロット77に配置されるコイル72と、スロット77に配置され、コイル72とコア71とを絶縁し、且つ、アラミド系樹脂であるスロットセル73とを備えている。バックヨーク部75とスロットセル73との間には、隙間S1が設けられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーシングとそのケーシングの内部に配置されるモータとを複数の溶接位置で溶接により接合する圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ケーシングに対するモータの固定方法として、ケーシングとそのケーシングの内部に配置されるモータとを溶接により接合する圧縮機が種々提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−262192号公報
【特許文献2】特開2007−255332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、バックヨーク部とケーシングとを溶接により接合する場合、溶接時の熱がバックヨーク部に伝達し、スロットに配置される絶縁部材を融かしてしまうという不都合がある。特に、集中巻きのモータでは、分布巻きのモータに比べて、バックヨーク部の厚みが小さく、溶接時の熱が絶縁部材に伝達し易いので、絶縁部材が融けるという問題が顕著に現れる。
【0005】
そこで、この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、スロットに配置される絶縁部材が融けるのを抑制することが可能な圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明にかかる圧縮機は、ケーシングとそのケーシングの内部に配置されるモータとを複数の溶接位置で溶接により接合する圧縮機において、モータは、環状のバックヨーク部、バックヨーク部から径方向の内側に突出する複数のティース部、及び、隣接するティース部の間に形成されるスロットを有するコアと、スロットに配置されるコイルと、スロットに配置され、コイルとコアとを絶縁する絶縁部材とを備え、バックヨーク部と絶縁部材との間には、隙間が設けられる。
【0007】
この圧縮機では、バックヨーク部と絶縁部材との間に隙間を設けることにより、溶接時の熱が絶縁部材に伝達するのを抑制することができる。その結果、絶縁部材が融けてしまうのを抑制することができる。
【0008】
第2の発明にかかる圧縮機は、第1の発明にかかる圧縮機において、バックヨーク部のスロットに面する部分は、略円弧状である。
【0009】
この圧縮機では、バックヨーク部のスロットに面する部分を略円弧状にすることによって、絶縁部材がバックヨーク部の当該面に沿って配置され難くなり、バックヨーク部と絶縁部材との間に隙間が形成しやすくなる。特に、ヤング率が高い絶縁部材ほど、バックヨーク部に沿って配置され難くなる。
【0010】
第3の発明にかかる圧縮機は、第1又は第2の発明にかかる圧縮機において、絶縁部材は、アラミド系樹脂である。
【0011】
この圧縮機では、絶縁部材として一般的な材料のPETに比べてヤング率の大きいアラミド系樹脂を用いることにより、絶縁部材が撓みにくくなる。これにより、絶縁部材がスロット内においてバックヨーク部に沿わなくなり、バックヨーク部と絶縁部材との間に隙間が形成されることになる。つまり、コアの形状を変更することなく、絶縁部材の材料を変更するだけで、容易に絶縁部材への伝熱を抑制する隙間を形成することができる。
【0012】
第4の発明にかかる圧縮機は、第1又は第2の発明にかかる圧縮機において、絶縁部材は、2枚以上重ねられており、最もコア側の絶縁部材はアラミド系樹脂である。
【0013】
この圧縮機では、最もコア側の絶縁部材に強度や耐久性に優れるアラミド系樹脂を用いることにより、圧縮機の信頼性が向上する。
また、複数枚の絶縁部材を重ねた状態で使用することにより、絶縁耐力を向上させることが可能となる。
また、絶縁部材として一般的な材料のPETに比べてヤング率の大きいアラミド系樹脂を最もコア側の絶縁部材に用いることにより、当該絶縁部材が撓みにくくなる。これにより、複数枚の絶縁部材がスロット内においてバックヨーク部に沿わなくなり、バックヨーク部と絶縁部材との間に隙間が形成されることになる。つまり、コアの形状を変更することなく、絶縁部材の材料を変更するだけで、容易に絶縁部材への伝熱を抑制する隙間を形成することができる。
【0014】
第5の発明にかかる圧縮機は、第4の発明にかかる圧縮機において、アラミド系樹脂の絶縁部材の内側に配置される少なくとも1枚の絶縁部材は、ポリエチレンテレフタレートフィルムである。
【0015】
アラミド系樹脂の絶縁部材を用いた圧縮機では、弾性率が高いアラミド系樹脂の絶縁部材がスロット形状に沿いにくくなりガタツキが大きくなって、巻線時に当該絶縁部材を巻き込むおそれがあるが、この圧縮機では、アラミド系樹脂の絶縁部材の内側に柔軟性が高くスロット形状に沿いやすいポリエチレンテレフタレートフィルムを配置することで、外側のアラミド系樹脂の絶縁部材を抑え込むことができるようになり、絶縁部材がガタツクのを抑制することができる。その結果、巻線時に絶縁部材が巻き込まれるのを抑制することができる。
また、ポリエチレンテレフタレートフィルムは、アラミド系樹脂の絶縁部材に比べて安価であるので、コスト面でもアラミド系樹脂の絶縁部材を重ねるよりメリットがある。
【0016】
第6の発明にかかる圧縮機は、第1〜第5のいずれかの発明にかかる圧縮機において、バックヨーク部のスロットに面する部分には、凹部が形成されている。
【0017】
(1)この圧縮機では、凹部を設けることにより、溶接時の熱膨張や収縮応力による歪みを当該凹部において吸収することができるので、コアの変形を軽減することができる。これにより、コアの内部に配置される回転子とコアとの間のエアギャップが均一になり、磁束がアンバランスになるのを抑制することができる。その結果、電磁加振力が発生するのを抑制することができ、振動及びその振動による騒音が発生するのを抑制することができる。
(2)また、当該凹部が油や冷媒の通路となる場合、コイルが冷却されるため圧縮機の効率が向上すると共にコイルの信頼性が向上する。
(3)また、モータの電磁振動を当該凹部によって吸収することができるので、ケーシングに伝達される振動を抑えることが可能となり、低騒音及び低振動を実現できる。
【0018】
第7の発明にかかる圧縮機は、第6の発明にかかる圧縮機において、凹部は、上下方向に関して溶接位置に対応する部分にのみに設けられる。
【0019】
凹部を設けることで磁束の流れを妨げるという影響が生じてしまうが、この圧縮機では、凹部を設ける範囲を限定することにより、その影響を最小限に抑えることができる。
【0020】
第8の発明にかかる圧縮機は、第6又は第7の発明にかかる圧縮機において、平面視において、凹部は、径方向に交差する方向に延在し、径方向に交差する方向の端部が先細形状又は円形状である。
【0021】
凹部を設けることで磁束の流れを妨げるという影響が生じてしまうが、この圧縮機では、凹部の端部を先細形状又は円形状にすることで磁束が円滑に流れるようになり、その影響を抑えることができる。
【0022】
第9の発明にかかる圧縮機は、第6〜第8のいずれかの発明にかかる圧縮機において、ケーシングには、溶接位置において溶接孔が設けられ、平面視において、凹部の径方向に交差する方向の幅は、溶接孔の径方向に交差する方向の幅より大きい。
【0023】
この圧縮機では、溶接に係る熱の放射範囲を当該凹部で覆うことができるので、絶縁部材が融ける可能性がある箇所を広範囲にカバーすることができる。
【0024】
第10の発明にかかる圧縮機は、第6〜第9のいずれかの発明にかかる圧縮機において、凹部は、一のスロットに対して複数設けられる。
【0025】
この圧縮機では、隣接する凹部の間に設けられる部分でスロットに配置される絶縁部材を支持することができるので、凹部を設けたとしても絶縁部材が撓んだ状態で配置されるのを防止することができる。
【0026】
第11の発明にかかる圧縮機は、第1〜第10のいずれかの発明にかかる圧縮機において、コイルの巻線方式が集中巻きである。
【0027】
分布巻きのモータに比べて集中巻きのモータではバックヨーク部の径方向の幅が小さく絶縁部材が融けてしまうという問題が顕著に現れるため、絶縁部材への伝熱抑制を図る本発明は、コイルの巻線方式が集中巻きの圧縮機に特に有効となる。
【0028】
第12の発明にかかる圧縮機は、第1〜第11のいずれかの発明に係る圧縮機において、CO2冷媒を用いている。
【0029】
CO2冷媒を用いた圧縮機では、ケーシングとモータとを複数の溶接位置で溶接により接合することが一般的であるので、絶縁部材への伝熱抑制を図る本発明は、CO2冷媒を用いた圧縮機に特に有効となる。
【発明の効果】
【0030】
以上の説明に述べたように、本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0031】
第1の発明では、バックヨーク部と絶縁部材との間に隙間を設けることにより、溶接時の熱が絶縁部材に伝達するのを抑制することができる。その結果、絶縁部材が融けてしまうのを抑制することができる。
【0032】
また、第2の発明では、バックヨーク部のスロットに面する部分を略円弧状にすることによって、絶縁部材がバックヨーク部の当該面に沿って配置され難くなり、バックヨーク部と絶縁部材との間に隙間を形成しやすくなる。特に、ヤング率が高い絶縁部材ほど、バックヨーク部に沿って配置され難くなる。
【0033】
また、第3の発明では、絶縁部材として一般的な材料のPETに比べてヤング率の大きいアラミド系樹脂を用いることにより、絶縁部材が撓みにくくなる。これにより、絶縁部材がスロット内においてバックヨーク部に沿わなくなり、バックヨーク部と絶縁部材との間に隙間が形成されることになる。つまり、コアの形状を変更することなく、絶縁部材の材料を変更するだけで、容易に絶縁部材への伝熱を抑制する隙間を形成することができる。
【0034】
また、第4の発明では、最もコア側の絶縁部材に強度や耐久性に優れるアラミド系樹脂を用いることにより、圧縮機の信頼性が向上する。
また、複数枚の絶縁部材を重ねた状態で使用することにより、絶縁耐力を向上させることが可能となる。
また、絶縁部材として一般的な材料のPETに比べてヤング率の大きいアラミド系樹脂の絶縁部材を最もコア側の絶縁部材に用いることにより、当該絶縁部材が撓みにくくなる。これにより、複数枚の絶縁部材がスロット内においてバックヨーク部に沿わなくなり、バックヨーク部と絶縁部材との間に隙間が形成されることになる。つまり、コアの形状を変更することなく、絶縁部材の材料を変更するだけで、容易に絶縁部材への伝熱を抑制する隙間を形成することができる。
【0035】
また、第5の発明では、アラミド系樹脂の絶縁部材の内側に柔軟性が高くスロット形状に沿いやすいポリエチレンテレフタレートフィルムを配置することで、外側のアラミド系樹脂の絶縁部材を抑え込むことができるようになり、絶縁部材がガタツクのを抑制することができる。その結果、巻線時に絶縁部材が巻き込まれるのを抑制することができる。
また、ポリエチレンテレフタレートフィルムは、アラミド系樹脂の絶縁部材に比べて安価であるので、コスト面でもアラミド系樹脂の絶縁部材を重ねるよりメリットがある。
【0036】
また、第6の発明では、(1)凹部を設けることにより、溶接時の熱膨張や収縮応力による歪みを当該凹部において吸収することができるので、コアの変形を軽減することができる。これにより、コアの内部に配置される回転子とコアとの間のエアギャップが均一になり、磁束がアンバランスになるのを抑制することができる。その結果、電磁加振力が発生するのを抑制することができ、振動及びその振動による騒音が発生するのを抑制することができる。(2)また、当該凹部が油や冷媒の通路となる場合、コイルが冷却されるため圧縮機の効率が向上すると共にコイルの信頼性が向上する。(3)また、モータの電磁振動を当該凹部によって吸収することができるので、ケーシングに伝達される振動を抑えることが可能となり、低騒音及び低振動を実現できる。
【0037】
また、第7の発明では、凹部を設ける範囲を限定することにより、磁束の流れを妨げるという影響を最小限に抑えることができる。
【0038】
また、第8の発明では、凹部の端部を先細形状又は円形状にすることで磁束が円滑に流れるようになり、磁束の流れを妨げるという影響を抑えることができる。
【0039】
また、第9の発明では、溶接に係る熱の放射範囲を当該凹部で覆うことができるので、絶縁部材が融ける可能性がある箇所を広範囲にカバーすることができる。
【0040】
また、第10の発明では、隣接する凹部の間に設けられる部分でスロットに配置される絶縁部材を支持することができるので、凹部を設けたとしても絶縁部材が撓んだ状態で配置されるのを防止することができる。
【0041】
また、第11の発明に係る集中巻きのモータでは、バックヨーク部の径方向の幅が小さく絶縁部材が融けてしまうという問題が顕著に現れるため、絶縁部材への伝熱抑制を図る本発明は、コイルの巻線方式が集中巻きの圧縮機に特に有効となる。
【0042】
また、第12の発明のCO2冷媒を用いた圧縮機では、ケーシングとモータとを複数の溶接位置で溶接により接合することが一般的であるので、絶縁部材への伝熱抑制を図る本発明は、CO2冷媒を用いた圧縮機に特に有効となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態に係るCO2冷媒用ロータリー圧縮機の内部構造を示した断面図である。
【図2】圧縮機の水平断面図である。
【図3】モータの平面図である。
【図4】固定子の部分拡大図である。
【図5】コアの平面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る固定子の部分拡大図である。
【図7】溶接位置と凹部との位置関係を示したモータ及びパイプの模式側面図である。
【図8】本発明の第2実施形態の第1変形例に係る固定子の部分拡大図である。
【図9】本発明の第2実施形態の第2変形例に係る固定子の部分拡大図である。
【図10】本発明の第2実施形態の第3変形例に係る固定子の部分拡大図である。
【図11】本発明の第3実施形態に係る固定子の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、図面に基づいて、本発明に係るCO2冷媒用ロータリー圧縮機の実施形態について説明する。
【0045】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るCO2冷媒用ロータリー圧縮機の内部構造を示した断面図である。図2は、圧縮機の水平断面図である。図3は、モータの平面図である。図4は、固定子の部分拡大図である。図5は、コアの平面図である。以下、図1〜図5を参照して、本発明の第1実施形態に係る圧縮機1について詳細に説明する。
【0046】
<ロータリー圧縮機の全体構成>
第1実施形態に係るロータリー圧縮機1は、図1に示すように、2シリンダ型ロータリー圧縮機であって、密閉ケーシング10と、密閉ケーシング10内に配置されるモータ20及び圧縮機構30と、密閉ケーシング10の側方に配置されるアキュームレータ40とを備えている。このロータリー圧縮機1は、いわゆる高圧ドーム型の圧縮機であって、CO2冷媒(以下、冷媒と略記する)を利用している。そして、このロータリー圧縮機1は、密閉ケーシング10内において、圧縮機構30がモータ20の下側に配置される。また、密閉ケーシング10の下部には、圧縮機構30の各摺動部に供給される潤滑油50が貯留されている。
【0047】
<密閉ケーシング>
密閉ケーシング10は、パイプ11、トップ12及びボトム13によって構成されている。パイプ11は、上下方向に延びた略円筒状の部材であり、その上下端が開口している。また、パイプ11の側面には後述するインレットチューブ43a及び43bを密閉ケーシング10の内部に導入するための接続口11a及び11bが上下方向に並んで2つ形成されている。そして、この接続口11a及び11bの内周面には、インレットチューブ43a及び43bを保持する円筒形状の継手管14a及び14bがそれぞれ接合されている。トップ12は、パイプ11の上端の開口を塞ぐ部材である。このトップ12には、圧縮機構30によって圧縮された高温高圧の冷媒を密閉ケーシング10の外部に吐出するための吐出管15が取り付けられている。また、トップ12には、モータ20に接続されるターミナル端子16が設けられている。ボトム13はパイプ11の下端の開口を塞ぐ部材である。上記した構成の密閉ケーシング10には、パイプ11、トップ12及びボトム13によって囲まれた密閉空間が形成されている。
【0048】
本実施形態では、パイプ11の内部にモータ20が配置されており、図2に示すように、パイプ11とモータ20とは3箇所の溶接位置P1〜P3においてスポット溶接により接合される。パイプ11には、当該3箇所の溶接位置P1〜P3に対応するそれぞれの部分に溶接孔10a〜10cが設けられている。この溶接位置P1〜P3及び溶接孔10a〜10cは、周方向(R方向)に約120度の間隔を隔てて設けられる。CO2冷媒を利用する圧縮機1では、パイプ11とモータ20との固定を溶接により行うのが一般的である。
【0049】
<モータ>
モータ20は、各相(U相、V相、W相)のコイル72をコア71のティース部76に巻回した巻線方式が集中巻きのモータである。このモータ20は、その下方に配置される圧縮機構30を駆動するために設けられており、図3に示すように、回転子60と、この回転子60の径方向外側にエアギャップを介して配置される固定子70とを有している。
【0050】
<回転子>
回転子60は、コア61及び複数の永久磁石62を有している。コア61は、金属材料からなる複数の薄板が互いに積層されるとともに、溶接などによって互いに接合されることによって形成されている。また、コア61には、その略中央部に、平面視で略円形の貫通孔63が形成されている。貫通孔63には、シャフト80の上端部が挿入されており、シャフト80がコア61に固定されている。
【0051】
<固定子>
固定子70は、図2及び図3に示すように、コア71、コイル72、スロットセル(絶縁部材)73、及び、インシュレータ74a及び74b(図1参照)を有している。
【0052】
<コア>
コア71は、金属材料からなる複数の薄板が互いに積層されると共に、溶接などによって互いに接合されることによって形成されている。このコア71は、図4及び図5に示すように、環状のバックヨーク部75と、そのバックヨーク部75から径方向(X方向)の内側に突出する9個のティース部76と、隣接するティース部76の間に形成される9個のスロット77とを有している。コア71の略中央部分には、上下方向に延びた貫通孔Hが形成されている。この貫通孔Hの内部には、上記した回転子60(図3参照)が配置される。なお、コイル72の巻線方式が集中巻きのモータ20では、上記したバックヨーク部75は、コイルの巻線方式が分布巻のモータに比べて、その径方向(X方向)の幅が小さくなっている。
【0053】
バックヨーク部75の外周面には、パイプ11の内周面に当接する円弧部75aと、パイプ11の内周面に当接しないコアカット部75bとが周方向(R方向)に沿って交互に配置される。この円弧部75aは、パイプ11の内周面に沿うように曲面状に形成されており、コアカット部75bは、平坦面状に形成されている。本実施形態では、円弧部75aの径方向(X方向)の内側にスロット77が設けられると共に、コアカット部75bの径方向(X方向)の内側にティース部76が設けられる。そして、パイプ11の内周面に当接する円弧部75aに上記した溶接位置P1〜P3が配置される。これに対して、コアカット部75bとパイプ11の内周面との間には、隙間Q(図4参照)が形成される。また、バックヨーク部75の内周面であって、スロット77に面する部分は、円弧状に形成されている。
【0054】
9個のティース部76の各々には、図2に示すように、各相(U相、V相、W相)のコイル72が巻き回される。具体的には、U相、V相及びW相の各相のコイル72が、周方向(R方向)に沿って順番にティース部76に巻き回される。
【0055】
9個のスロット77の各々は、コア71を上下方向(Z方向)に貫通している。また、9個のスロット77の各々は、隣接するティース部76の先端の間に形成される開口77a(図4参照)を介して、貫通孔Hに連通している。上記したコイル72は、この開口77aを介してスロット77の内部に挿入される巻線機のノズル(図示せず)によって、各ティース部76に巻き回される。
【0056】
ここで、本実施形態では、スロット77には、図4に示すように、ティース部76とコイル72とを絶縁するためのスロットセル73(厚み:0.1mm〜0.5mm)が挿入されている。このスロットセル73は、スロットセルの材料として一般的なPET(ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate))よりヤング率が大きいアラミド系樹脂からなる。このため、スロットセル73のバックヨーク部75の内周面に対向する部分は、円弧状のバックヨーク部75の内周面に沿わずに、径方向(X方向)に直交する方向(Y方向)に沿って直線状に配置される。これにより、バックヨーク部75の内周面と、スロットセル73のその内周面に対向する部分との間に、隙間S1が設けられる。この隙間S1は、径方向(X方向)に直交する方向(Y方向)の両端部が先細形状になっている。従って、スロットセル73は、ティース部76には接触した状態で配置されるのに対して、バックヨーク部75には非接触の状態で配置される。
なお、ここで言う“アラミド系”とは、芳香族ポリアミド繊維をいう。
【0057】
<シャフト>
図1に示すように、シャフト80は、上記した回転子60と共に回転することによって、圧縮機構30のピストン34及び37を回転させる。このシャフト80には、後述するフロントシリンダ33のシリンダ室T1内に位置するように偏心部81が設けられると共に、リアシリンダ36のシリンダ室T2内に位置するように偏心部82が設けられている。これらの偏心部81及び82には、ピストン34及び37がそれぞれ装着されており、シャフト80の回転に伴って、偏心部81に装着されるピストン34がシリンダ室T1で回転すると共に、偏心部82に装着されるピストン37がシリンダ室T2で回転する。なお、偏心部81と偏心部82とは、シャフト80の回転方向に180°ずれた位置に配置されている。
【0058】
<圧縮機構>
圧縮機構30は、図1に示すように、モータ20のシャフト80の回転軸に沿って上から下に向かって、2重構造となっているフロントマフラ31と、フロントヘッド32と、フロントシリンダ33及びピストン34と、ミドルプレート35と、リアシリンダ36及びピストン37と、リアヘッド38と、リアマフラ39とを有している。
【0059】
フロントマフラ31は、フロントヘッド32に設けられる吐出ポート(図示せず)から吐出された冷媒を消音して1次空間に吐出する。このフロントマフラ31は、フロントヘッド32に取り付けられる。
【0060】
フロントヘッド32は、フロントシリンダ33の上面に接合されており、シリンダ室T1の上端の開口を塞いでいる。このフロントヘッド32には、シリンダ室T1において圧縮された冷媒を、上記したフロントマフラ31によって形成されるマフラ空間Aに吐出するための吐出ポート(図示せず)が設けられている。
【0061】
フロントシリンダ33には、その中央部分にシリンダ室T1が設けられる。シリンダ室T1には、シャフト80の回転に伴って偏心回転運動するピストン34が配置されている。このシリンダ室T1は、上記した吐出ポートを介してマフラ空間Aに連通している。したがって、シャフト80の偏心部81に装着されるピストン34の偏心回転運動によって圧縮された冷媒は、シリンダ室T1からマフラ空間Aに導かれる。
【0062】
ピストン34は、シリンダ室T1の内周面に沿って偏心回転運動を行い、アキュームレータ40から吸入される冷媒を圧縮する。
【0063】
ミドルプレート35は、フロントシリンダ33とリアシリンダ36との間に配置される。このミドルプレート35は、フロントシリンダ33のシリンダ室T1の下方の開口を閉塞し、且つ、リアシリンダ36のシリンダ室T2の上方の開口を閉塞している。
【0064】
そして、リアシリンダ36、ピストン37、リアヘッド38、リアマフラ39は、それぞれその機能からみて、上記したフロントシリンダ33、ピストン34、フロントヘッド32、フロントマフラ31と同様であるので、その説明を省略する。なお、リアシリンダ36のシリンダ室T2において圧縮された冷媒は、リアヘッド38とリアマフラ39とにより形成されるマフラ空間(図示せず)を通過した後、リアヘッド38とリアシリンダ36とミドルプレート35とフロントシリンダ33とに連通する連通孔(図示せず)、及び、フロントヘッド32に形成される導入ポート(図示せず)を介して、マフラ空間Aに導かれる。
【0065】
<アキュームレータ>
アキュームレータ40は、密閉ケーシング10の外部からその内部に配置されるフロントシリンダ33のシリンダ室T1及びリアシリンダ36のシリンダ室T2のそれぞれに冷媒を供給するために設けられている。このアキュームレータ40は、図1に示すように、鉛直方向に延びる入口管41と、略L字状に屈曲する2つの出口管42a及び42bとを備えている。これにより、入口管41から流入する冷媒は、各出口管42a及び42bを通過して、シリンダ室T1及びT2のそれぞれに供給される。
【0066】
そして、出口管42a及び42bのそれぞれの先端には、略筒形状のインレットチューブ43a及び43bが接続されている。このインレットチューブ43a及び43bは、それぞれ、密閉ケーシング10に接合される継手管14a及び14bを介して、シリンダ33及び36に接続される。
【0067】
[本実施形態の圧縮機の特徴]
本実施形態の圧縮機1には、以下のような特徴がある。
【0068】
本実施形態の圧縮機1では、バックヨーク部75とスロットセル73との間に隙間S1を設けることにより、溶接時の熱がスロットセル73に伝達するのを抑制することができる。その結果、スロットセル73が融けてしまうのを抑制することができる。
【0069】
また、本実施形態の圧縮機1では、スロットセル73として一般的な材料のPETに比べてヤング率の大きいアラミド系樹脂を用いることにより、スロットセル73が撓みにくくなる。これにより、スロットセル73がスロット77内においてバックヨーク部75に沿わなくなり、バックヨーク部75とスロットセル73との間に隙間S1が形成されることになる。つまり、コア71の形状を変更することなく、スロットセル73の材料を変更するだけで、容易にスロットセル73への伝熱を抑制する隙間S1を形成することができる。
【0070】
また、本実施形態の圧縮機1では、バックヨーク部75のスロット77に面する部分を略円弧状にすることによって、スロットセル73がバックヨーク部75の当該面に沿って配置され難くなり、バックヨーク部75とスロットセル73との間に隙間S1を形成し易くなる。特に、ヤング率が高いスロットセル73ほど、バックヨーク部75に沿って配置され難くなる。
【0071】
また、コイルの巻線方式が集中巻きの圧縮機では、分布巻きのモータに比べてバックヨーク部75の径方向(X方向)の幅が小さくスロットセル73が融けてしまうという問題が顕著に現れるため、スロットセル73への伝熱抑制を図るこの圧縮機1は特に有効となる。
【0072】
また、CO2冷媒を用いた圧縮機では、ケーシングとモータとを溶接により接合するのが一般的であるので、スロットセル73への伝熱抑制を図るこの圧縮機1は特に有効となる。
【0073】
(第2実施形態)
図6は、本発明の第2実施形態に係る固定子の部分拡大図である。図7は、溶接位置と凹部との位置関係を示したモータ及びパイプの模式側面図である。次に、図6及び図7を参照して、本発明の第2実施形態に係る圧縮機について詳細に説明する。なお、上記第1実施形態では、スロットセル73の材料をアラミド系にすることによってバックヨーク部75とスロットセル73との間に隙間を設けたが、この第2実施形態では、バックヨーク部175のスロット177に面する部分に凹部S11を形成することによってスロットセル173とバックヨーク部175との間に隙間を設ける。この第2実施形態では、固定子170以外の構成は、第1実施形態と同様であるのでその説明を適宜省略する。
【0074】
<コア>
コア171は、金属材料からなる複数の薄板が互いに積層されると共に、溶接などによって互いに接合されることによって形成されている。このコア171は、図6に示すように、環状のバックヨーク部175と、そのバックヨーク部175から径方向(X方向)の内側に突出する複数のティース部176と、隣接するティース部176の間に形成されるスロット177とを有している。
【0075】
バックヨーク部175の外周面には、パイプ11の内周面に当接する円弧部175aと、パイプ11の内周面に当接しないコアカット部175bとが周方向(R方向)に沿って交互に配置される。本実施形態では、円弧部175aの径方向(X方向)の内側にスロット177が設けられると共に、コアカット部175bの径方向(X方向)の内側にティース部176が設けられる。そして、パイプ11の内周面に当接する円弧部175aに溶接位置P11が配置される。これに対して、コアカット部175bとパイプ11の内周面との間には、隙間Qが形成される。
【0076】
ここで、本実施形態では、バックヨーク部175の溶接位置P11に対応する部分であって、当該バックヨーク部175のスロット177に面する部分には、凹部S11が形成されている。この凹部S11は、溶接位置P11とその溶接位置P11に近接するスロット177との間に設けられる。この凹部S11は、平面視において、径方向(X方向)に直交する方向(Y方向)に延在しており、凹部S11の長手方向(Y方向)の幅L11は、溶接孔10aのY方向の開口幅L2より大きくなっている。
【0077】
また、本実施形態では、上記した凹部S11は、図7に示すように、上下方向(Z方向)に関して溶接位置P11に対応する部分にのみに設けられている。つまり、凹部S11は、溶接位置P11と同じ高さ位置に設けられている。
【0078】
スロット177には、ティース部176とコイル172とを絶縁するためのスロットセル173が挿入されている。このスロットセル173(厚み:0.1mm〜0.5mm)は、第1実施形態のアラミド系樹脂からなるスロットセル73とは異なり、アラミド系樹脂よりヤング率が小さいPETからなる。このため、スロットセル173のバックヨーク部175の内周面に対向する部分は、バックヨーク部175の内周面に沿って配置されるが、本実施形態では、当該バックヨーク部175の内周面に凹部S11が形成されるので、バックヨーク部175の内周面とスロットセル173のその内周面に対向する部分との間に、隙間S12が設けられる。
【0079】
[本実施形態の圧縮機の特徴]
本実施形態の圧縮機には、以下のような特徴がある。
【0080】
本実施形態の圧縮機では、凹部S11を設けることにより、溶接時の熱膨張や収縮応力による歪みを隙間S12において吸収することができるので、コア171の変形を軽減することができる。これにより、コア171の内部に配置される回転子(図3参照)とコア171との間のエアギャップが均一になり、磁束がアンバランスになるのを抑制することができる。その結果、電磁加振力が発生するのを抑制することができ、振動及びその振動による騒音が発生するのを抑制することができる。
【0081】
また、本実施形態の圧縮機では、凹部S11が油や冷媒の通路となる場合、コイル172が冷却されるため圧縮機の効率が向上すると共にコイル172の信頼性が向上する。
【0082】
また、本実施形態の圧縮機では、モータの電磁振動を隙間S12によって吸収することができるので、パイプ11に伝達される振動を抑えることが可能となり、低騒音及び低振動を実現できる。
【0083】
また、本実施形態の圧縮機では、凹部S11を上下方向(Z方向)に関して溶接位置P11に対応する部分にのみに設けて、凹部S11を設ける範囲を限定することにより、凹部S11を設けることで磁束の流れを妨げるという影響を最小限に抑えることができる。
【0084】
また、本実施形態の圧縮機では、平面視において、凹部S11の径方向(X方向)に直交する方向(Y方向)の幅L11を溶接孔10aの径方向(X方向)に直交する方向(Y方向)の幅L2より大きくすることによって、溶接に係る熱の放射範囲を当該凹部S11で覆うことができるので、スロットセル73が融ける可能性がある箇所を広範囲にカバーすることができる。
【0085】
(変形例)
図8は、本発明の第2実施形態の第1変形例に係る固定子の部分拡大図であり、図9は、本発明の第2実施形態の第2変形例に係る固定子の部分拡大図であり、図10は、本発明の第2実施形態の第3変形例に係る固定子の部分拡大図である。上記した第2実施形態では、略直方体形状の凹部S11をバックヨーク部175に設ける例について説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0086】
具体的には、図8に示した第1変形例に係る固定子270のように、バックヨーク部275のスロット277に面する部分に形成される凹部S21を、そのY方向の両端部が先細形状になるように形成してもよいし、図9に示した第2変形例に係る固定子370のように、バックヨーク部375のスロット377に面する部分に形成される凹部S31を、そのY方向の両端部が円形状になるように形成してもよい。凹部S21及びS31を設けることで磁束の流れを妨げるという影響が生じてしまうが、このように凹部S21及びS31のY方向の両端部を先細形状又は円形状にすることで磁束が円滑に流れるようになり、その影響を抑えることができる。
【0087】
また、図10に示した第2実施形態の第3変形例に係る固定子470のように、一のスロット477に対して2つの凹部S41a及びS41bを設けてもよい。この場合、凹部S41aとS41bとをY方向に所定の間隔を隔てて配置することによって、凹部S41aとS41bとの間に凸部S41cが形成される。これにより、当該凸部S41cによって、スロット477に配置されるスロットセル73が撓まないように支持することができる。その結果、バックヨーク部475のスロット477に面する部分に凹部S41a及びS41bを設けたとしてもスロットセル73が撓んだ状態で配置されるのを防止することができる。スロットセル73の材料としてアラミド系樹脂よりヤング率が小さいPET等を用いた場合、スロットセル73が撓み易くなるので、この第3変形例は特に有効である。
【0088】
(第3実施形態)
次に、図11を参照して、本発明の第3実施形態に係る圧縮機について詳細に説明する。なお、上記第1及び第2実施形態では、1枚のスロットセル(絶縁部材)によりコイルとコアとを絶縁しているが、この第3実施形態では、2枚のスロットセルによりコイルとコアとを絶縁している。この第3実施形態では、固定子570以外の構成は、第1実施形態と同様であるのでその説明を適宜省略する。
【0089】
<コア>
コア71は、第1実施形態と同様のコアを利用しており、金属材料からなる複数の薄板が互いに積層されると共に、溶接などによって互いに接合されることによって形成されている。このコア71は、図11に示すように、環状のバックヨーク部75と、そのバックヨーク部75から径方向(X方向)の内側に突出する複数のティース部76と、隣接するティース部76の間に形成されるスロット77とを有している。
【0090】
ここで、本実施形態では、スロット77には、コア71とコイル72とを絶縁するための2枚のスロットセル573A,573Bが重ねられた状態で挿入されている。本実施形態では、コイル72側(以下、内側とする)に配置されるスロットセル573A(厚み:0.1mm〜0.5mm)がPETフィルムであり、コア71側(以下、外側とする)に配置されるスロットセル573B(厚み:0.1mm〜0.5mm)がアラミド系の不織布である。
なお、ここで言う“アラミド系”とは、芳香族ポリアミド繊維をいう。
【0091】
つまり、内側のスロットセル573Aよりヤング率が大きく、且つ、強度や耐久性に優れるアラミド系の不織布からなるスロットセル573Bが、外側に配置されている。このように、外側にヤング率の大きいスロットセル573Bを配置することによって、スロットセル573Bのバックヨーク部75の内周面に対向する部分は、円弧状のバックヨーク部75の内周面に沿わずに、径方向(X方向)に直交する方向(Y方向)に沿って直線状に配置される。これにより、バックヨーク部75の内周面と、スロットセル573Bのその内周面に対向する部分との間に、隙間S5が設けられる。
【0092】
[本実施形態の圧縮機の特徴]
本実施形態の圧縮機には、以下のような特徴がある。
【0093】
本実施形態の圧縮機では、バックヨーク部75とスロットセル573Bとの間に隙間S5を設けることにより、溶接時の熱がスロットセル573Bに伝達するのを抑制することができる。その結果、スロットセル573B及び573Aが融けてしまうのを抑制することができる。
【0094】
また、本実施形態の圧縮機では、外側のスロットセル573Bに、スロットセルの材料として一般的な材料のPETに比べてヤング率の大きいアラミド系の不織布を用いることにより、当該外側のスロットセル573Bが撓みにくくなる。これにより、スロットセル573B及びその内側のスロットセル573Aが、スロット77内においてバックヨーク部75に沿わなくなり、バックヨーク部75とスロットセル573との間に隙間S5が形成されることになる。つまり、コア71の形状を変更することなく、外側のスロットセル573Bの材料を変更するだけで、容易にスロットセル573Bへの伝熱を抑制する隙間S5を形成することができる。
【0095】
また、本実施形態の圧縮機では、2枚のスロットセル573A及び573Bを重ねた状態で使用することにより、同等の厚みを1枚のスロットセルで実現する場合に比べて、絶縁耐力を向上させることが可能となる。
【0096】
また、本実施形態の圧縮機では、強度や耐久性に優れるアラミド系の不織布のスロットセル573Bを用いることにより、圧縮機の信頼性が向上する。特に、溶接時の熱の影響を受けやすい外側のスロットセル573Bにアラミド系の不織布を利用することにより、圧縮機の信頼性が向上する。
【0097】
また、弾性率が高いアラミド系の不織布からなるスロットセル573Bを用いる圧縮機では、アラミド系の不織布からなるスロットセル573Bの内側に柔軟性が高くスロット形状に沿いやすいPETフィルムのスロットセル573Aを配置することで、当該スロットセル573Aで外側のスロットセル573Bを抑え込むことができるようになり、スロットセル573Bがガタツクのを抑制することができる。その結果、巻線時にスロットセル573Bが巻き込まれるのを抑制することができる。
また、PETフィルムは、アラミド系樹脂に比べて安価であるので、コスト面でもアラミド系の不織布からなるスロットセルを重ねるよりメリットがある。
【0098】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0099】
例えば、上記実施形態では、2シリンダ型の圧縮機について本発明を適用した例について説明したが、本発明はこれに限らず、1シリンダ型の圧縮機にも、3シリンダ以上の圧縮機にも本発明が適用可能である。
【0100】
また、上記実施形態では、CO2冷媒を利用する圧縮機について説明したが、本発明はこれに限らず、CO2冷媒以外の冷媒を利用する圧縮機にも本発明を適用することができる。
【0101】
また、上記第2実施形態では、PETフィルムのスロットセルを用いる例を示したが、本発明はこれに限らず、バックヨーク部とスロットセルとの間に隙間を設けることができれば、スロットセルの材料はPETに限定されない。
【0102】
また、上記実施形態では、コイルの巻線方式が集中巻きのモータを用いる例について説明したが、本発明はこれに限らず、コイルの巻線方式が分布巻きのモータにも適用可能である。
【0103】
また、上記実施形態では、平面視において、凹部S11が径方向(X方向)に直交する方向(Y方向)に延在する例について説明したが、本発明はこれに限らず、当該凹部S11は、径方向(X方向)に交差する方向に延在していればよい。
【0104】
また、上記第3実施形態では、2枚のスロットセルを用いたが、本発明はこれに限らず、3枚以上のスロットセルを用いてもよい。この際、最もコイル側のスロットセルはPETであり、且つ、最もコア側のスロットセルはアラミド系樹脂であることが、好ましい。
【0105】
また、上記第3実施形態では、第1実施形態の圧縮機で用いたコアを用いたが、本発明はこれに限らず、第2実施形態及びその変形例で説明した凹部を有するコアのスロットに複数枚のスロットセルを配置してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明を利用すれば、スロットに配置される絶縁部材が融けるのを抑制することが可能な圧縮機を得ることができる。
【符号の説明】
【0107】
1 圧縮機
11 パイプ(ケーシング)
20 モータ
70,170,270,370,470,570 固定子
71,171 コア
72 コイル
73、573A、573B スロットセル(絶縁部材)
75,175,275,375,475 バックヨーク部
76,176 ティース部
77,177,277,377,477 スロット
S1,S5 隙間
S11,S21,S31 凹部
P1,P2,P3,P11 溶接位置
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーシングとそのケーシングの内部に配置されるモータとを複数の溶接位置で溶接により接合する圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ケーシングに対するモータの固定方法として、ケーシングとそのケーシングの内部に配置されるモータとを溶接により接合する圧縮機が種々提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−262192号公報
【特許文献2】特開2007−255332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、バックヨーク部とケーシングとを溶接により接合する場合、溶接時の熱がバックヨーク部に伝達し、スロットに配置される絶縁部材を融かしてしまうという不都合がある。特に、集中巻きのモータでは、分布巻きのモータに比べて、バックヨーク部の厚みが小さく、溶接時の熱が絶縁部材に伝達し易いので、絶縁部材が融けるという問題が顕著に現れる。
【0005】
そこで、この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、スロットに配置される絶縁部材が融けるのを抑制することが可能な圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明にかかる圧縮機は、ケーシングとそのケーシングの内部に配置されるモータとを複数の溶接位置で溶接により接合する圧縮機において、モータは、環状のバックヨーク部、バックヨーク部から径方向の内側に突出する複数のティース部、及び、隣接するティース部の間に形成されるスロットを有するコアと、スロットに配置されるコイルと、スロットに配置され、コイルとコアとを絶縁する絶縁部材とを備え、バックヨーク部と絶縁部材との間には、隙間が設けられる。
【0007】
この圧縮機では、バックヨーク部と絶縁部材との間に隙間を設けることにより、溶接時の熱が絶縁部材に伝達するのを抑制することができる。その結果、絶縁部材が融けてしまうのを抑制することができる。
【0008】
第2の発明にかかる圧縮機は、第1の発明にかかる圧縮機において、バックヨーク部のスロットに面する部分は、略円弧状である。
【0009】
この圧縮機では、バックヨーク部のスロットに面する部分を略円弧状にすることによって、絶縁部材がバックヨーク部の当該面に沿って配置され難くなり、バックヨーク部と絶縁部材との間に隙間が形成しやすくなる。特に、ヤング率が高い絶縁部材ほど、バックヨーク部に沿って配置され難くなる。
【0010】
第3の発明にかかる圧縮機は、第1又は第2の発明にかかる圧縮機において、絶縁部材は、アラミド系樹脂である。
【0011】
この圧縮機では、絶縁部材として一般的な材料のPETに比べてヤング率の大きいアラミド系樹脂を用いることにより、絶縁部材が撓みにくくなる。これにより、絶縁部材がスロット内においてバックヨーク部に沿わなくなり、バックヨーク部と絶縁部材との間に隙間が形成されることになる。つまり、コアの形状を変更することなく、絶縁部材の材料を変更するだけで、容易に絶縁部材への伝熱を抑制する隙間を形成することができる。
【0012】
第4の発明にかかる圧縮機は、第1又は第2の発明にかかる圧縮機において、絶縁部材は、2枚以上重ねられており、最もコア側の絶縁部材はアラミド系樹脂である。
【0013】
この圧縮機では、最もコア側の絶縁部材に強度や耐久性に優れるアラミド系樹脂を用いることにより、圧縮機の信頼性が向上する。
また、複数枚の絶縁部材を重ねた状態で使用することにより、絶縁耐力を向上させることが可能となる。
また、絶縁部材として一般的な材料のPETに比べてヤング率の大きいアラミド系樹脂を最もコア側の絶縁部材に用いることにより、当該絶縁部材が撓みにくくなる。これにより、複数枚の絶縁部材がスロット内においてバックヨーク部に沿わなくなり、バックヨーク部と絶縁部材との間に隙間が形成されることになる。つまり、コアの形状を変更することなく、絶縁部材の材料を変更するだけで、容易に絶縁部材への伝熱を抑制する隙間を形成することができる。
【0014】
第5の発明にかかる圧縮機は、第4の発明にかかる圧縮機において、アラミド系樹脂の絶縁部材の内側に配置される少なくとも1枚の絶縁部材は、ポリエチレンテレフタレートフィルムである。
【0015】
アラミド系樹脂の絶縁部材を用いた圧縮機では、弾性率が高いアラミド系樹脂の絶縁部材がスロット形状に沿いにくくなりガタツキが大きくなって、巻線時に当該絶縁部材を巻き込むおそれがあるが、この圧縮機では、アラミド系樹脂の絶縁部材の内側に柔軟性が高くスロット形状に沿いやすいポリエチレンテレフタレートフィルムを配置することで、外側のアラミド系樹脂の絶縁部材を抑え込むことができるようになり、絶縁部材がガタツクのを抑制することができる。その結果、巻線時に絶縁部材が巻き込まれるのを抑制することができる。
また、ポリエチレンテレフタレートフィルムは、アラミド系樹脂の絶縁部材に比べて安価であるので、コスト面でもアラミド系樹脂の絶縁部材を重ねるよりメリットがある。
【0016】
第6の発明にかかる圧縮機は、第1〜第5のいずれかの発明にかかる圧縮機において、バックヨーク部のスロットに面する部分には、凹部が形成されている。
【0017】
(1)この圧縮機では、凹部を設けることにより、溶接時の熱膨張や収縮応力による歪みを当該凹部において吸収することができるので、コアの変形を軽減することができる。これにより、コアの内部に配置される回転子とコアとの間のエアギャップが均一になり、磁束がアンバランスになるのを抑制することができる。その結果、電磁加振力が発生するのを抑制することができ、振動及びその振動による騒音が発生するのを抑制することができる。
(2)また、当該凹部が油や冷媒の通路となる場合、コイルが冷却されるため圧縮機の効率が向上すると共にコイルの信頼性が向上する。
(3)また、モータの電磁振動を当該凹部によって吸収することができるので、ケーシングに伝達される振動を抑えることが可能となり、低騒音及び低振動を実現できる。
【0018】
第7の発明にかかる圧縮機は、第6の発明にかかる圧縮機において、凹部は、上下方向に関して溶接位置に対応する部分にのみに設けられる。
【0019】
凹部を設けることで磁束の流れを妨げるという影響が生じてしまうが、この圧縮機では、凹部を設ける範囲を限定することにより、その影響を最小限に抑えることができる。
【0020】
第8の発明にかかる圧縮機は、第6又は第7の発明にかかる圧縮機において、平面視において、凹部は、径方向に交差する方向に延在し、径方向に交差する方向の端部が先細形状又は円形状である。
【0021】
凹部を設けることで磁束の流れを妨げるという影響が生じてしまうが、この圧縮機では、凹部の端部を先細形状又は円形状にすることで磁束が円滑に流れるようになり、その影響を抑えることができる。
【0022】
第9の発明にかかる圧縮機は、第6〜第8のいずれかの発明にかかる圧縮機において、ケーシングには、溶接位置において溶接孔が設けられ、平面視において、凹部の径方向に交差する方向の幅は、溶接孔の径方向に交差する方向の幅より大きい。
【0023】
この圧縮機では、溶接に係る熱の放射範囲を当該凹部で覆うことができるので、絶縁部材が融ける可能性がある箇所を広範囲にカバーすることができる。
【0024】
第10の発明にかかる圧縮機は、第6〜第9のいずれかの発明にかかる圧縮機において、凹部は、一のスロットに対して複数設けられる。
【0025】
この圧縮機では、隣接する凹部の間に設けられる部分でスロットに配置される絶縁部材を支持することができるので、凹部を設けたとしても絶縁部材が撓んだ状態で配置されるのを防止することができる。
【0026】
第11の発明にかかる圧縮機は、第1〜第10のいずれかの発明にかかる圧縮機において、コイルの巻線方式が集中巻きである。
【0027】
分布巻きのモータに比べて集中巻きのモータではバックヨーク部の径方向の幅が小さく絶縁部材が融けてしまうという問題が顕著に現れるため、絶縁部材への伝熱抑制を図る本発明は、コイルの巻線方式が集中巻きの圧縮機に特に有効となる。
【0028】
第12の発明にかかる圧縮機は、第1〜第11のいずれかの発明に係る圧縮機において、CO2冷媒を用いている。
【0029】
CO2冷媒を用いた圧縮機では、ケーシングとモータとを複数の溶接位置で溶接により接合することが一般的であるので、絶縁部材への伝熱抑制を図る本発明は、CO2冷媒を用いた圧縮機に特に有効となる。
【発明の効果】
【0030】
以上の説明に述べたように、本発明によれば、以下の効果が得られる。
【0031】
第1の発明では、バックヨーク部と絶縁部材との間に隙間を設けることにより、溶接時の熱が絶縁部材に伝達するのを抑制することができる。その結果、絶縁部材が融けてしまうのを抑制することができる。
【0032】
また、第2の発明では、バックヨーク部のスロットに面する部分を略円弧状にすることによって、絶縁部材がバックヨーク部の当該面に沿って配置され難くなり、バックヨーク部と絶縁部材との間に隙間を形成しやすくなる。特に、ヤング率が高い絶縁部材ほど、バックヨーク部に沿って配置され難くなる。
【0033】
また、第3の発明では、絶縁部材として一般的な材料のPETに比べてヤング率の大きいアラミド系樹脂を用いることにより、絶縁部材が撓みにくくなる。これにより、絶縁部材がスロット内においてバックヨーク部に沿わなくなり、バックヨーク部と絶縁部材との間に隙間が形成されることになる。つまり、コアの形状を変更することなく、絶縁部材の材料を変更するだけで、容易に絶縁部材への伝熱を抑制する隙間を形成することができる。
【0034】
また、第4の発明では、最もコア側の絶縁部材に強度や耐久性に優れるアラミド系樹脂を用いることにより、圧縮機の信頼性が向上する。
また、複数枚の絶縁部材を重ねた状態で使用することにより、絶縁耐力を向上させることが可能となる。
また、絶縁部材として一般的な材料のPETに比べてヤング率の大きいアラミド系樹脂の絶縁部材を最もコア側の絶縁部材に用いることにより、当該絶縁部材が撓みにくくなる。これにより、複数枚の絶縁部材がスロット内においてバックヨーク部に沿わなくなり、バックヨーク部と絶縁部材との間に隙間が形成されることになる。つまり、コアの形状を変更することなく、絶縁部材の材料を変更するだけで、容易に絶縁部材への伝熱を抑制する隙間を形成することができる。
【0035】
また、第5の発明では、アラミド系樹脂の絶縁部材の内側に柔軟性が高くスロット形状に沿いやすいポリエチレンテレフタレートフィルムを配置することで、外側のアラミド系樹脂の絶縁部材を抑え込むことができるようになり、絶縁部材がガタツクのを抑制することができる。その結果、巻線時に絶縁部材が巻き込まれるのを抑制することができる。
また、ポリエチレンテレフタレートフィルムは、アラミド系樹脂の絶縁部材に比べて安価であるので、コスト面でもアラミド系樹脂の絶縁部材を重ねるよりメリットがある。
【0036】
また、第6の発明では、(1)凹部を設けることにより、溶接時の熱膨張や収縮応力による歪みを当該凹部において吸収することができるので、コアの変形を軽減することができる。これにより、コアの内部に配置される回転子とコアとの間のエアギャップが均一になり、磁束がアンバランスになるのを抑制することができる。その結果、電磁加振力が発生するのを抑制することができ、振動及びその振動による騒音が発生するのを抑制することができる。(2)また、当該凹部が油や冷媒の通路となる場合、コイルが冷却されるため圧縮機の効率が向上すると共にコイルの信頼性が向上する。(3)また、モータの電磁振動を当該凹部によって吸収することができるので、ケーシングに伝達される振動を抑えることが可能となり、低騒音及び低振動を実現できる。
【0037】
また、第7の発明では、凹部を設ける範囲を限定することにより、磁束の流れを妨げるという影響を最小限に抑えることができる。
【0038】
また、第8の発明では、凹部の端部を先細形状又は円形状にすることで磁束が円滑に流れるようになり、磁束の流れを妨げるという影響を抑えることができる。
【0039】
また、第9の発明では、溶接に係る熱の放射範囲を当該凹部で覆うことができるので、絶縁部材が融ける可能性がある箇所を広範囲にカバーすることができる。
【0040】
また、第10の発明では、隣接する凹部の間に設けられる部分でスロットに配置される絶縁部材を支持することができるので、凹部を設けたとしても絶縁部材が撓んだ状態で配置されるのを防止することができる。
【0041】
また、第11の発明に係る集中巻きのモータでは、バックヨーク部の径方向の幅が小さく絶縁部材が融けてしまうという問題が顕著に現れるため、絶縁部材への伝熱抑制を図る本発明は、コイルの巻線方式が集中巻きの圧縮機に特に有効となる。
【0042】
また、第12の発明のCO2冷媒を用いた圧縮機では、ケーシングとモータとを複数の溶接位置で溶接により接合することが一般的であるので、絶縁部材への伝熱抑制を図る本発明は、CO2冷媒を用いた圧縮機に特に有効となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態に係るCO2冷媒用ロータリー圧縮機の内部構造を示した断面図である。
【図2】圧縮機の水平断面図である。
【図3】モータの平面図である。
【図4】固定子の部分拡大図である。
【図5】コアの平面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る固定子の部分拡大図である。
【図7】溶接位置と凹部との位置関係を示したモータ及びパイプの模式側面図である。
【図8】本発明の第2実施形態の第1変形例に係る固定子の部分拡大図である。
【図9】本発明の第2実施形態の第2変形例に係る固定子の部分拡大図である。
【図10】本発明の第2実施形態の第3変形例に係る固定子の部分拡大図である。
【図11】本発明の第3実施形態に係る固定子の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、図面に基づいて、本発明に係るCO2冷媒用ロータリー圧縮機の実施形態について説明する。
【0045】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るCO2冷媒用ロータリー圧縮機の内部構造を示した断面図である。図2は、圧縮機の水平断面図である。図3は、モータの平面図である。図4は、固定子の部分拡大図である。図5は、コアの平面図である。以下、図1〜図5を参照して、本発明の第1実施形態に係る圧縮機1について詳細に説明する。
【0046】
<ロータリー圧縮機の全体構成>
第1実施形態に係るロータリー圧縮機1は、図1に示すように、2シリンダ型ロータリー圧縮機であって、密閉ケーシング10と、密閉ケーシング10内に配置されるモータ20及び圧縮機構30と、密閉ケーシング10の側方に配置されるアキュームレータ40とを備えている。このロータリー圧縮機1は、いわゆる高圧ドーム型の圧縮機であって、CO2冷媒(以下、冷媒と略記する)を利用している。そして、このロータリー圧縮機1は、密閉ケーシング10内において、圧縮機構30がモータ20の下側に配置される。また、密閉ケーシング10の下部には、圧縮機構30の各摺動部に供給される潤滑油50が貯留されている。
【0047】
<密閉ケーシング>
密閉ケーシング10は、パイプ11、トップ12及びボトム13によって構成されている。パイプ11は、上下方向に延びた略円筒状の部材であり、その上下端が開口している。また、パイプ11の側面には後述するインレットチューブ43a及び43bを密閉ケーシング10の内部に導入するための接続口11a及び11bが上下方向に並んで2つ形成されている。そして、この接続口11a及び11bの内周面には、インレットチューブ43a及び43bを保持する円筒形状の継手管14a及び14bがそれぞれ接合されている。トップ12は、パイプ11の上端の開口を塞ぐ部材である。このトップ12には、圧縮機構30によって圧縮された高温高圧の冷媒を密閉ケーシング10の外部に吐出するための吐出管15が取り付けられている。また、トップ12には、モータ20に接続されるターミナル端子16が設けられている。ボトム13はパイプ11の下端の開口を塞ぐ部材である。上記した構成の密閉ケーシング10には、パイプ11、トップ12及びボトム13によって囲まれた密閉空間が形成されている。
【0048】
本実施形態では、パイプ11の内部にモータ20が配置されており、図2に示すように、パイプ11とモータ20とは3箇所の溶接位置P1〜P3においてスポット溶接により接合される。パイプ11には、当該3箇所の溶接位置P1〜P3に対応するそれぞれの部分に溶接孔10a〜10cが設けられている。この溶接位置P1〜P3及び溶接孔10a〜10cは、周方向(R方向)に約120度の間隔を隔てて設けられる。CO2冷媒を利用する圧縮機1では、パイプ11とモータ20との固定を溶接により行うのが一般的である。
【0049】
<モータ>
モータ20は、各相(U相、V相、W相)のコイル72をコア71のティース部76に巻回した巻線方式が集中巻きのモータである。このモータ20は、その下方に配置される圧縮機構30を駆動するために設けられており、図3に示すように、回転子60と、この回転子60の径方向外側にエアギャップを介して配置される固定子70とを有している。
【0050】
<回転子>
回転子60は、コア61及び複数の永久磁石62を有している。コア61は、金属材料からなる複数の薄板が互いに積層されるとともに、溶接などによって互いに接合されることによって形成されている。また、コア61には、その略中央部に、平面視で略円形の貫通孔63が形成されている。貫通孔63には、シャフト80の上端部が挿入されており、シャフト80がコア61に固定されている。
【0051】
<固定子>
固定子70は、図2及び図3に示すように、コア71、コイル72、スロットセル(絶縁部材)73、及び、インシュレータ74a及び74b(図1参照)を有している。
【0052】
<コア>
コア71は、金属材料からなる複数の薄板が互いに積層されると共に、溶接などによって互いに接合されることによって形成されている。このコア71は、図4及び図5に示すように、環状のバックヨーク部75と、そのバックヨーク部75から径方向(X方向)の内側に突出する9個のティース部76と、隣接するティース部76の間に形成される9個のスロット77とを有している。コア71の略中央部分には、上下方向に延びた貫通孔Hが形成されている。この貫通孔Hの内部には、上記した回転子60(図3参照)が配置される。なお、コイル72の巻線方式が集中巻きのモータ20では、上記したバックヨーク部75は、コイルの巻線方式が分布巻のモータに比べて、その径方向(X方向)の幅が小さくなっている。
【0053】
バックヨーク部75の外周面には、パイプ11の内周面に当接する円弧部75aと、パイプ11の内周面に当接しないコアカット部75bとが周方向(R方向)に沿って交互に配置される。この円弧部75aは、パイプ11の内周面に沿うように曲面状に形成されており、コアカット部75bは、平坦面状に形成されている。本実施形態では、円弧部75aの径方向(X方向)の内側にスロット77が設けられると共に、コアカット部75bの径方向(X方向)の内側にティース部76が設けられる。そして、パイプ11の内周面に当接する円弧部75aに上記した溶接位置P1〜P3が配置される。これに対して、コアカット部75bとパイプ11の内周面との間には、隙間Q(図4参照)が形成される。また、バックヨーク部75の内周面であって、スロット77に面する部分は、円弧状に形成されている。
【0054】
9個のティース部76の各々には、図2に示すように、各相(U相、V相、W相)のコイル72が巻き回される。具体的には、U相、V相及びW相の各相のコイル72が、周方向(R方向)に沿って順番にティース部76に巻き回される。
【0055】
9個のスロット77の各々は、コア71を上下方向(Z方向)に貫通している。また、9個のスロット77の各々は、隣接するティース部76の先端の間に形成される開口77a(図4参照)を介して、貫通孔Hに連通している。上記したコイル72は、この開口77aを介してスロット77の内部に挿入される巻線機のノズル(図示せず)によって、各ティース部76に巻き回される。
【0056】
ここで、本実施形態では、スロット77には、図4に示すように、ティース部76とコイル72とを絶縁するためのスロットセル73(厚み:0.1mm〜0.5mm)が挿入されている。このスロットセル73は、スロットセルの材料として一般的なPET(ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate))よりヤング率が大きいアラミド系樹脂からなる。このため、スロットセル73のバックヨーク部75の内周面に対向する部分は、円弧状のバックヨーク部75の内周面に沿わずに、径方向(X方向)に直交する方向(Y方向)に沿って直線状に配置される。これにより、バックヨーク部75の内周面と、スロットセル73のその内周面に対向する部分との間に、隙間S1が設けられる。この隙間S1は、径方向(X方向)に直交する方向(Y方向)の両端部が先細形状になっている。従って、スロットセル73は、ティース部76には接触した状態で配置されるのに対して、バックヨーク部75には非接触の状態で配置される。
なお、ここで言う“アラミド系”とは、芳香族ポリアミド繊維をいう。
【0057】
<シャフト>
図1に示すように、シャフト80は、上記した回転子60と共に回転することによって、圧縮機構30のピストン34及び37を回転させる。このシャフト80には、後述するフロントシリンダ33のシリンダ室T1内に位置するように偏心部81が設けられると共に、リアシリンダ36のシリンダ室T2内に位置するように偏心部82が設けられている。これらの偏心部81及び82には、ピストン34及び37がそれぞれ装着されており、シャフト80の回転に伴って、偏心部81に装着されるピストン34がシリンダ室T1で回転すると共に、偏心部82に装着されるピストン37がシリンダ室T2で回転する。なお、偏心部81と偏心部82とは、シャフト80の回転方向に180°ずれた位置に配置されている。
【0058】
<圧縮機構>
圧縮機構30は、図1に示すように、モータ20のシャフト80の回転軸に沿って上から下に向かって、2重構造となっているフロントマフラ31と、フロントヘッド32と、フロントシリンダ33及びピストン34と、ミドルプレート35と、リアシリンダ36及びピストン37と、リアヘッド38と、リアマフラ39とを有している。
【0059】
フロントマフラ31は、フロントヘッド32に設けられる吐出ポート(図示せず)から吐出された冷媒を消音して1次空間に吐出する。このフロントマフラ31は、フロントヘッド32に取り付けられる。
【0060】
フロントヘッド32は、フロントシリンダ33の上面に接合されており、シリンダ室T1の上端の開口を塞いでいる。このフロントヘッド32には、シリンダ室T1において圧縮された冷媒を、上記したフロントマフラ31によって形成されるマフラ空間Aに吐出するための吐出ポート(図示せず)が設けられている。
【0061】
フロントシリンダ33には、その中央部分にシリンダ室T1が設けられる。シリンダ室T1には、シャフト80の回転に伴って偏心回転運動するピストン34が配置されている。このシリンダ室T1は、上記した吐出ポートを介してマフラ空間Aに連通している。したがって、シャフト80の偏心部81に装着されるピストン34の偏心回転運動によって圧縮された冷媒は、シリンダ室T1からマフラ空間Aに導かれる。
【0062】
ピストン34は、シリンダ室T1の内周面に沿って偏心回転運動を行い、アキュームレータ40から吸入される冷媒を圧縮する。
【0063】
ミドルプレート35は、フロントシリンダ33とリアシリンダ36との間に配置される。このミドルプレート35は、フロントシリンダ33のシリンダ室T1の下方の開口を閉塞し、且つ、リアシリンダ36のシリンダ室T2の上方の開口を閉塞している。
【0064】
そして、リアシリンダ36、ピストン37、リアヘッド38、リアマフラ39は、それぞれその機能からみて、上記したフロントシリンダ33、ピストン34、フロントヘッド32、フロントマフラ31と同様であるので、その説明を省略する。なお、リアシリンダ36のシリンダ室T2において圧縮された冷媒は、リアヘッド38とリアマフラ39とにより形成されるマフラ空間(図示せず)を通過した後、リアヘッド38とリアシリンダ36とミドルプレート35とフロントシリンダ33とに連通する連通孔(図示せず)、及び、フロントヘッド32に形成される導入ポート(図示せず)を介して、マフラ空間Aに導かれる。
【0065】
<アキュームレータ>
アキュームレータ40は、密閉ケーシング10の外部からその内部に配置されるフロントシリンダ33のシリンダ室T1及びリアシリンダ36のシリンダ室T2のそれぞれに冷媒を供給するために設けられている。このアキュームレータ40は、図1に示すように、鉛直方向に延びる入口管41と、略L字状に屈曲する2つの出口管42a及び42bとを備えている。これにより、入口管41から流入する冷媒は、各出口管42a及び42bを通過して、シリンダ室T1及びT2のそれぞれに供給される。
【0066】
そして、出口管42a及び42bのそれぞれの先端には、略筒形状のインレットチューブ43a及び43bが接続されている。このインレットチューブ43a及び43bは、それぞれ、密閉ケーシング10に接合される継手管14a及び14bを介して、シリンダ33及び36に接続される。
【0067】
[本実施形態の圧縮機の特徴]
本実施形態の圧縮機1には、以下のような特徴がある。
【0068】
本実施形態の圧縮機1では、バックヨーク部75とスロットセル73との間に隙間S1を設けることにより、溶接時の熱がスロットセル73に伝達するのを抑制することができる。その結果、スロットセル73が融けてしまうのを抑制することができる。
【0069】
また、本実施形態の圧縮機1では、スロットセル73として一般的な材料のPETに比べてヤング率の大きいアラミド系樹脂を用いることにより、スロットセル73が撓みにくくなる。これにより、スロットセル73がスロット77内においてバックヨーク部75に沿わなくなり、バックヨーク部75とスロットセル73との間に隙間S1が形成されることになる。つまり、コア71の形状を変更することなく、スロットセル73の材料を変更するだけで、容易にスロットセル73への伝熱を抑制する隙間S1を形成することができる。
【0070】
また、本実施形態の圧縮機1では、バックヨーク部75のスロット77に面する部分を略円弧状にすることによって、スロットセル73がバックヨーク部75の当該面に沿って配置され難くなり、バックヨーク部75とスロットセル73との間に隙間S1を形成し易くなる。特に、ヤング率が高いスロットセル73ほど、バックヨーク部75に沿って配置され難くなる。
【0071】
また、コイルの巻線方式が集中巻きの圧縮機では、分布巻きのモータに比べてバックヨーク部75の径方向(X方向)の幅が小さくスロットセル73が融けてしまうという問題が顕著に現れるため、スロットセル73への伝熱抑制を図るこの圧縮機1は特に有効となる。
【0072】
また、CO2冷媒を用いた圧縮機では、ケーシングとモータとを溶接により接合するのが一般的であるので、スロットセル73への伝熱抑制を図るこの圧縮機1は特に有効となる。
【0073】
(第2実施形態)
図6は、本発明の第2実施形態に係る固定子の部分拡大図である。図7は、溶接位置と凹部との位置関係を示したモータ及びパイプの模式側面図である。次に、図6及び図7を参照して、本発明の第2実施形態に係る圧縮機について詳細に説明する。なお、上記第1実施形態では、スロットセル73の材料をアラミド系にすることによってバックヨーク部75とスロットセル73との間に隙間を設けたが、この第2実施形態では、バックヨーク部175のスロット177に面する部分に凹部S11を形成することによってスロットセル173とバックヨーク部175との間に隙間を設ける。この第2実施形態では、固定子170以外の構成は、第1実施形態と同様であるのでその説明を適宜省略する。
【0074】
<コア>
コア171は、金属材料からなる複数の薄板が互いに積層されると共に、溶接などによって互いに接合されることによって形成されている。このコア171は、図6に示すように、環状のバックヨーク部175と、そのバックヨーク部175から径方向(X方向)の内側に突出する複数のティース部176と、隣接するティース部176の間に形成されるスロット177とを有している。
【0075】
バックヨーク部175の外周面には、パイプ11の内周面に当接する円弧部175aと、パイプ11の内周面に当接しないコアカット部175bとが周方向(R方向)に沿って交互に配置される。本実施形態では、円弧部175aの径方向(X方向)の内側にスロット177が設けられると共に、コアカット部175bの径方向(X方向)の内側にティース部176が設けられる。そして、パイプ11の内周面に当接する円弧部175aに溶接位置P11が配置される。これに対して、コアカット部175bとパイプ11の内周面との間には、隙間Qが形成される。
【0076】
ここで、本実施形態では、バックヨーク部175の溶接位置P11に対応する部分であって、当該バックヨーク部175のスロット177に面する部分には、凹部S11が形成されている。この凹部S11は、溶接位置P11とその溶接位置P11に近接するスロット177との間に設けられる。この凹部S11は、平面視において、径方向(X方向)に直交する方向(Y方向)に延在しており、凹部S11の長手方向(Y方向)の幅L11は、溶接孔10aのY方向の開口幅L2より大きくなっている。
【0077】
また、本実施形態では、上記した凹部S11は、図7に示すように、上下方向(Z方向)に関して溶接位置P11に対応する部分にのみに設けられている。つまり、凹部S11は、溶接位置P11と同じ高さ位置に設けられている。
【0078】
スロット177には、ティース部176とコイル172とを絶縁するためのスロットセル173が挿入されている。このスロットセル173(厚み:0.1mm〜0.5mm)は、第1実施形態のアラミド系樹脂からなるスロットセル73とは異なり、アラミド系樹脂よりヤング率が小さいPETからなる。このため、スロットセル173のバックヨーク部175の内周面に対向する部分は、バックヨーク部175の内周面に沿って配置されるが、本実施形態では、当該バックヨーク部175の内周面に凹部S11が形成されるので、バックヨーク部175の内周面とスロットセル173のその内周面に対向する部分との間に、隙間S12が設けられる。
【0079】
[本実施形態の圧縮機の特徴]
本実施形態の圧縮機には、以下のような特徴がある。
【0080】
本実施形態の圧縮機では、凹部S11を設けることにより、溶接時の熱膨張や収縮応力による歪みを隙間S12において吸収することができるので、コア171の変形を軽減することができる。これにより、コア171の内部に配置される回転子(図3参照)とコア171との間のエアギャップが均一になり、磁束がアンバランスになるのを抑制することができる。その結果、電磁加振力が発生するのを抑制することができ、振動及びその振動による騒音が発生するのを抑制することができる。
【0081】
また、本実施形態の圧縮機では、凹部S11が油や冷媒の通路となる場合、コイル172が冷却されるため圧縮機の効率が向上すると共にコイル172の信頼性が向上する。
【0082】
また、本実施形態の圧縮機では、モータの電磁振動を隙間S12によって吸収することができるので、パイプ11に伝達される振動を抑えることが可能となり、低騒音及び低振動を実現できる。
【0083】
また、本実施形態の圧縮機では、凹部S11を上下方向(Z方向)に関して溶接位置P11に対応する部分にのみに設けて、凹部S11を設ける範囲を限定することにより、凹部S11を設けることで磁束の流れを妨げるという影響を最小限に抑えることができる。
【0084】
また、本実施形態の圧縮機では、平面視において、凹部S11の径方向(X方向)に直交する方向(Y方向)の幅L11を溶接孔10aの径方向(X方向)に直交する方向(Y方向)の幅L2より大きくすることによって、溶接に係る熱の放射範囲を当該凹部S11で覆うことができるので、スロットセル73が融ける可能性がある箇所を広範囲にカバーすることができる。
【0085】
(変形例)
図8は、本発明の第2実施形態の第1変形例に係る固定子の部分拡大図であり、図9は、本発明の第2実施形態の第2変形例に係る固定子の部分拡大図であり、図10は、本発明の第2実施形態の第3変形例に係る固定子の部分拡大図である。上記した第2実施形態では、略直方体形状の凹部S11をバックヨーク部175に設ける例について説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0086】
具体的には、図8に示した第1変形例に係る固定子270のように、バックヨーク部275のスロット277に面する部分に形成される凹部S21を、そのY方向の両端部が先細形状になるように形成してもよいし、図9に示した第2変形例に係る固定子370のように、バックヨーク部375のスロット377に面する部分に形成される凹部S31を、そのY方向の両端部が円形状になるように形成してもよい。凹部S21及びS31を設けることで磁束の流れを妨げるという影響が生じてしまうが、このように凹部S21及びS31のY方向の両端部を先細形状又は円形状にすることで磁束が円滑に流れるようになり、その影響を抑えることができる。
【0087】
また、図10に示した第2実施形態の第3変形例に係る固定子470のように、一のスロット477に対して2つの凹部S41a及びS41bを設けてもよい。この場合、凹部S41aとS41bとをY方向に所定の間隔を隔てて配置することによって、凹部S41aとS41bとの間に凸部S41cが形成される。これにより、当該凸部S41cによって、スロット477に配置されるスロットセル73が撓まないように支持することができる。その結果、バックヨーク部475のスロット477に面する部分に凹部S41a及びS41bを設けたとしてもスロットセル73が撓んだ状態で配置されるのを防止することができる。スロットセル73の材料としてアラミド系樹脂よりヤング率が小さいPET等を用いた場合、スロットセル73が撓み易くなるので、この第3変形例は特に有効である。
【0088】
(第3実施形態)
次に、図11を参照して、本発明の第3実施形態に係る圧縮機について詳細に説明する。なお、上記第1及び第2実施形態では、1枚のスロットセル(絶縁部材)によりコイルとコアとを絶縁しているが、この第3実施形態では、2枚のスロットセルによりコイルとコアとを絶縁している。この第3実施形態では、固定子570以外の構成は、第1実施形態と同様であるのでその説明を適宜省略する。
【0089】
<コア>
コア71は、第1実施形態と同様のコアを利用しており、金属材料からなる複数の薄板が互いに積層されると共に、溶接などによって互いに接合されることによって形成されている。このコア71は、図11に示すように、環状のバックヨーク部75と、そのバックヨーク部75から径方向(X方向)の内側に突出する複数のティース部76と、隣接するティース部76の間に形成されるスロット77とを有している。
【0090】
ここで、本実施形態では、スロット77には、コア71とコイル72とを絶縁するための2枚のスロットセル573A,573Bが重ねられた状態で挿入されている。本実施形態では、コイル72側(以下、内側とする)に配置されるスロットセル573A(厚み:0.1mm〜0.5mm)がPETフィルムであり、コア71側(以下、外側とする)に配置されるスロットセル573B(厚み:0.1mm〜0.5mm)がアラミド系の不織布である。
なお、ここで言う“アラミド系”とは、芳香族ポリアミド繊維をいう。
【0091】
つまり、内側のスロットセル573Aよりヤング率が大きく、且つ、強度や耐久性に優れるアラミド系の不織布からなるスロットセル573Bが、外側に配置されている。このように、外側にヤング率の大きいスロットセル573Bを配置することによって、スロットセル573Bのバックヨーク部75の内周面に対向する部分は、円弧状のバックヨーク部75の内周面に沿わずに、径方向(X方向)に直交する方向(Y方向)に沿って直線状に配置される。これにより、バックヨーク部75の内周面と、スロットセル573Bのその内周面に対向する部分との間に、隙間S5が設けられる。
【0092】
[本実施形態の圧縮機の特徴]
本実施形態の圧縮機には、以下のような特徴がある。
【0093】
本実施形態の圧縮機では、バックヨーク部75とスロットセル573Bとの間に隙間S5を設けることにより、溶接時の熱がスロットセル573Bに伝達するのを抑制することができる。その結果、スロットセル573B及び573Aが融けてしまうのを抑制することができる。
【0094】
また、本実施形態の圧縮機では、外側のスロットセル573Bに、スロットセルの材料として一般的な材料のPETに比べてヤング率の大きいアラミド系の不織布を用いることにより、当該外側のスロットセル573Bが撓みにくくなる。これにより、スロットセル573B及びその内側のスロットセル573Aが、スロット77内においてバックヨーク部75に沿わなくなり、バックヨーク部75とスロットセル573との間に隙間S5が形成されることになる。つまり、コア71の形状を変更することなく、外側のスロットセル573Bの材料を変更するだけで、容易にスロットセル573Bへの伝熱を抑制する隙間S5を形成することができる。
【0095】
また、本実施形態の圧縮機では、2枚のスロットセル573A及び573Bを重ねた状態で使用することにより、同等の厚みを1枚のスロットセルで実現する場合に比べて、絶縁耐力を向上させることが可能となる。
【0096】
また、本実施形態の圧縮機では、強度や耐久性に優れるアラミド系の不織布のスロットセル573Bを用いることにより、圧縮機の信頼性が向上する。特に、溶接時の熱の影響を受けやすい外側のスロットセル573Bにアラミド系の不織布を利用することにより、圧縮機の信頼性が向上する。
【0097】
また、弾性率が高いアラミド系の不織布からなるスロットセル573Bを用いる圧縮機では、アラミド系の不織布からなるスロットセル573Bの内側に柔軟性が高くスロット形状に沿いやすいPETフィルムのスロットセル573Aを配置することで、当該スロットセル573Aで外側のスロットセル573Bを抑え込むことができるようになり、スロットセル573Bがガタツクのを抑制することができる。その結果、巻線時にスロットセル573Bが巻き込まれるのを抑制することができる。
また、PETフィルムは、アラミド系樹脂に比べて安価であるので、コスト面でもアラミド系の不織布からなるスロットセルを重ねるよりメリットがある。
【0098】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0099】
例えば、上記実施形態では、2シリンダ型の圧縮機について本発明を適用した例について説明したが、本発明はこれに限らず、1シリンダ型の圧縮機にも、3シリンダ以上の圧縮機にも本発明が適用可能である。
【0100】
また、上記実施形態では、CO2冷媒を利用する圧縮機について説明したが、本発明はこれに限らず、CO2冷媒以外の冷媒を利用する圧縮機にも本発明を適用することができる。
【0101】
また、上記第2実施形態では、PETフィルムのスロットセルを用いる例を示したが、本発明はこれに限らず、バックヨーク部とスロットセルとの間に隙間を設けることができれば、スロットセルの材料はPETに限定されない。
【0102】
また、上記実施形態では、コイルの巻線方式が集中巻きのモータを用いる例について説明したが、本発明はこれに限らず、コイルの巻線方式が分布巻きのモータにも適用可能である。
【0103】
また、上記実施形態では、平面視において、凹部S11が径方向(X方向)に直交する方向(Y方向)に延在する例について説明したが、本発明はこれに限らず、当該凹部S11は、径方向(X方向)に交差する方向に延在していればよい。
【0104】
また、上記第3実施形態では、2枚のスロットセルを用いたが、本発明はこれに限らず、3枚以上のスロットセルを用いてもよい。この際、最もコイル側のスロットセルはPETであり、且つ、最もコア側のスロットセルはアラミド系樹脂であることが、好ましい。
【0105】
また、上記第3実施形態では、第1実施形態の圧縮機で用いたコアを用いたが、本発明はこれに限らず、第2実施形態及びその変形例で説明した凹部を有するコアのスロットに複数枚のスロットセルを配置してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明を利用すれば、スロットに配置される絶縁部材が融けるのを抑制することが可能な圧縮機を得ることができる。
【符号の説明】
【0107】
1 圧縮機
11 パイプ(ケーシング)
20 モータ
70,170,270,370,470,570 固定子
71,171 コア
72 コイル
73、573A、573B スロットセル(絶縁部材)
75,175,275,375,475 バックヨーク部
76,176 ティース部
77,177,277,377,477 スロット
S1,S5 隙間
S11,S21,S31 凹部
P1,P2,P3,P11 溶接位置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングとそのケーシングの内部に配置されるモータとを複数の溶接位置で溶接により接合する圧縮機において、
前記モータは、
環状のバックヨーク部、前記バックヨーク部から径方向の内側に突出する複数のティース部、及び、隣接する前記ティース部の間に形成されるスロットを有するコアと、
前記スロットに配置されるコイルと、
前記スロットに配置され、前記コイルと前記コアとを絶縁する絶縁部材とを備え、
前記バックヨーク部と前記絶縁部材との間には、隙間が設けられることを特徴とする、圧縮機。
【請求項2】
前記バックヨーク部の前記スロットに面する部分は、略円弧状であることを特徴とする、請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記絶縁部材は、アラミド系樹脂であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記絶縁部材は、2枚以上重ねられており、
最も前記コア側の絶縁部材はアラミド系樹脂であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記アラミド系樹脂の絶縁部材の内側に配置される少なくとも1枚の絶縁部材は、ポリエチレンテレフタレートフィルムであることを特徴とする、請求項4に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記バックヨーク部の前記スロットに面する部分には、凹部が形成されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項7】
前記凹部は、上下方向に関して前記溶接位置に対応する部分にのみに設けられることを特徴とする、請求項6に記載の圧縮機。
【請求項8】
平面視において、前記凹部は、前記径方向に交差する方向に延在し、前記径方向に交差する方向の端部が先細形状又は円形状であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の圧縮機。
【請求項9】
前記ケーシングには、前記溶接位置において溶接孔が設けられ、
平面視において、前記凹部の前記径方向に交差する方向の幅は、前記溶接孔の前記径方向に交差する方向の幅より大きいことを特徴とする、請求項6〜8のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項10】
前記凹部は、一の前記スロットに対して複数設けられることを特徴とする、請求項6〜9のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項11】
前記コイルの巻線方式が集中巻きであることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項12】
CO2冷媒を用いたことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項1】
ケーシングとそのケーシングの内部に配置されるモータとを複数の溶接位置で溶接により接合する圧縮機において、
前記モータは、
環状のバックヨーク部、前記バックヨーク部から径方向の内側に突出する複数のティース部、及び、隣接する前記ティース部の間に形成されるスロットを有するコアと、
前記スロットに配置されるコイルと、
前記スロットに配置され、前記コイルと前記コアとを絶縁する絶縁部材とを備え、
前記バックヨーク部と前記絶縁部材との間には、隙間が設けられることを特徴とする、圧縮機。
【請求項2】
前記バックヨーク部の前記スロットに面する部分は、略円弧状であることを特徴とする、請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記絶縁部材は、アラミド系樹脂であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記絶縁部材は、2枚以上重ねられており、
最も前記コア側の絶縁部材はアラミド系樹脂であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記アラミド系樹脂の絶縁部材の内側に配置される少なくとも1枚の絶縁部材は、ポリエチレンテレフタレートフィルムであることを特徴とする、請求項4に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記バックヨーク部の前記スロットに面する部分には、凹部が形成されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項7】
前記凹部は、上下方向に関して前記溶接位置に対応する部分にのみに設けられることを特徴とする、請求項6に記載の圧縮機。
【請求項8】
平面視において、前記凹部は、前記径方向に交差する方向に延在し、前記径方向に交差する方向の端部が先細形状又は円形状であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の圧縮機。
【請求項9】
前記ケーシングには、前記溶接位置において溶接孔が設けられ、
平面視において、前記凹部の前記径方向に交差する方向の幅は、前記溶接孔の前記径方向に交差する方向の幅より大きいことを特徴とする、請求項6〜8のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項10】
前記凹部は、一の前記スロットに対して複数設けられることを特徴とする、請求項6〜9のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項11】
前記コイルの巻線方式が集中巻きであることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項12】
CO2冷媒を用いたことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の圧縮機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−12667(P2011−12667A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203972(P2009−203972)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】
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