説明

圧縮機

【課題】表面に冷凍機油がよくなじみ、冷媒の漏れ損失を低減させることが可能な圧縮機を提供する。
【解決手段】スイング圧縮機1は、互いに協働して相対移動することにより冷媒を圧縮する揺動ピストン21とシリンダ27aを有している。スイング圧縮機1の駆動中に揺動ピストン21とシリンダ27aとが、近接する部分は、冷凍機油に対する接触角が25度以下であるコーティング層60a、60b、70aによって覆われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属製の基材の表面に対して摺動性(低摩擦性)および耐摩耗性を付与する目的で、樹脂塗膜が形成された摺動部材が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2003−42078号公報)に記載の摺動部材では、摺動性および耐摩耗性を確保するために、表面にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂をコーティングさせている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の摺動部材によると、表面の耐摩耗性は良好に維持することができるが、フッ素樹脂が撥油性を有するために、冷凍機油をはじいてしまう。このため、フッ素樹脂が表面に設けられた摺動部材を採用する圧縮機では、冷凍機油による隙間のシールを十分に確保することが困難であり、冷媒の漏れ損失を小さく抑えることが困難であった。
【0005】
本発明は、上述した点に鑑みて、表面に冷凍機油がよくなじみ、冷媒の漏れ損失を低減させることが可能な圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1観点に係る圧縮機は、第1部材と、第1部材に対して相対移動することにより、第1部材と協働して冷媒を圧縮する第2部材と、を備えている。第1部材と第2部材とが協働して、互いに冷媒圧力が異なる2つの空間に仕切っている状態で、少なくとも第1部材と第2部材の互いに近接している部分の表面が、冷凍機油に対する接触角が25度以下の樹脂のコーティング層で覆われている。
【0007】
この圧縮機では、第1部材と第2部材とが互いに近接している部分の表面において、冷凍機油に対する接触角が25度以下となる樹脂のコーティング層で覆われている。このため、圧縮機が駆動している状態においても、冷凍機油が第1部材と第2部材との間に入り込みやすく、冷媒の漏れ損失を低減させることで、圧縮機の運転効率を向上させることができる。
【0008】
本発明の第2観点に係る圧縮機は、第1観点に係る圧縮機において、コーティング層は、半径6.8mmの鋼球圧子、荷重15kgfにおけるHRLスケールで測定した硬度が125以下である。
【0009】
この圧縮機では、第1部材と第2部材とが互いに近接している部分に設けられたコーティング層において、冷凍機油に対する接触角を25度以下にしつつ、さらに、硬度が小さく抑えられている。このため、第1部材と第2部材との隙間が小さくなるように形成して、冷媒の漏れ損失を低減させた場合において、第1部材と第2部材とが互いに接触した場合であっても摩耗させることが可能になるため、摩擦損失を小さく抑えることが可能になる。
【0010】
本発明の第3観点に係る圧縮機は、第1観点または第2観点に係る圧縮機において、コーティング層は、熱硬化性樹脂と固体潤滑剤とを含有しており、ポリテトラフルオロエチレンの含有量が50wt%未満である。ここで、熱硬化性樹脂は、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、フェノール樹脂、および、エポキシ樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種である。また、固体潤滑剤は、グラファイト、カーボンおよび二硫化モリブデンよりなる群から選ばれる少なくとも一種である。
【0011】
この圧縮機では、コーティング層におけるポリテトラフルオロエチレンの含有量を少なく抑えることにより、接触角を低減させることが可能になるとともに、ポリテトラフルオロエチレンの含有量を低減させた場合であっても、所定の強度を確保することが可能になる。
【0012】
本発明の第4観点に係る圧縮機は、第1観点から第3観点のいずれかに係る圧縮機において、スイングピストン形、スイングシリンダ形、および、スクロール形のいずれかである。
【0013】
この圧縮機は、冷媒圧力が高い空間から低い空間に向けて漏れ出す冷媒流れを抑制して、運転効率を上げることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1観点に係る圧縮機では、冷媒の漏れ損失を低減させることで、圧縮機の運転効率を向上させることができる。
【0015】
本発明の第2観点に係る圧縮機では、冷媒の漏れ損失を低減させた場合において、摩擦損失を小さく抑えることが可能になる。
【0016】
本発明の第3観点に係る圧縮機では、接触角を低減させることが可能になるとともに、所定の強度を確保することが可能になる。
【0017】
本発明の第4観点に係る圧縮機では、冷媒圧力が高い空間から低い空間に向けて漏れ出す冷媒流れを抑制して、運転効率を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る揺動ピストン型のスイング圧縮機の側面視概略断面構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る揺動ピストン型のスイング圧縮機の軸方向視概略断面構成図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るスクロール圧縮機の側面視概略断面構成図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るスクロール圧縮機の可動スクロール周辺の側面視概略断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るスクロール圧縮機の可動スクロール周辺の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の圧縮機は、第1部材と、第1部材に対して相対移動することにより、第1部材と協働して冷媒を圧縮する第2部材と、を備えている。第1部材と第2部材とが協働して、互いに冷媒圧力が異なる2つの空間に仕切っている状態で、少なくとも第1部材と第2部材の互いに近接している部分の表面が、冷凍機油に対する接触角が25度以下の樹脂のコーティング層で覆われている。
【0020】
(1)第1部材および第2部材
第1部材および第2部材の材質は、特に限定されないが、金属製であることが好ましく、このような基材として、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄系の合金を挙げることができる。
【0021】
また、第1部材と第2部材とは互いに同じ素材で構成されていてもよいし、異なる素材で構成されていてもよい。
【0022】
第1部材と第2部材との関係は、互いに相対移動することで、冷媒圧力が異なる2つの空間に仕切っている関係であれば特に限定されるものではないが、例えば、揺動ピストン型のスイング圧縮機におけるピストンとシリンダの関係、スクロール圧縮機におけるピストンとシリンダの関係等が挙げられる。
【0023】
(2)コーティング層
コーティング層は、第1部材と第2部材とが協働して、互いに冷媒圧力が異なる2つの空間に仕切っている状態で、少なくとも第1部材と第2部材の互いに近接している部分の表面に設けられる。コーティング層は、第1部材と第2部材のいずれか一方のみに形成されていてもよいし、この両方に形成されていてもよい。コーティング層は、第1部材のうち、第2部材と協働して圧縮室を形成する空間を向いた面のみ、もしくは、第2部材のうち、第1部材と協働して圧縮室を形成する空間を向いた面のみ、または、これらの両方、さらには、第1部材と第2部材のいずれかまたは両方の表面全体を覆っていてもよい。
【0024】
ここで、「近接している」状態には、互いの表面が接している状態を含み、具体的には、第1部材と第2部材とが相対移動している際に最も近接した状態では、第1部材と第2部材との最近接距離が0.1mm以下であることが、冷媒の漏れ損失を低減させる観点から好ましい。
【0025】
コーティング層は、冷凍機油に対する接触角が25度以下の樹脂によって表面が構成されている。このたえ、冷凍機油がコーティング層の表面に馴染み、第1部材と第2部材との間に入り込みやすく、冷媒の漏れ損失を低減させることで、圧縮機の運転効率を向上させることができている。なお、この接触角は、20度以下であることが好ましく、15度以下であることがより好ましく、10度以下であることが最も好ましい。
【0026】
この接触角を特定するために用いられる冷凍機油は、エーテル油(具体的には、出光興産社製エーテル油FVC50K)であってよい。接触角の測定においては、基材上に形成された塗膜の表面粗さRaが0.5μmとなるように研磨された表面に、滴下された冷凍機油が形成する接触角を測定する。コーティング層に含有されるフッ素樹脂の重量比率が高いほど、上記接触角が小さくなる傾向にあるため、コーティング層におけるフッ素樹脂の重量比率が50wt%未満であることが好ましい。フッ素樹脂のなかでも、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の重量比率が50wt%未満であることが好ましく、ポリテトラフルオロエチレンの重量比率が40wt%以下であることがより好ましく、30wt%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
なお、上記エーテル油の種類は、接触角を特定するためのものであり、本発明の圧縮機が採用される冷媒回路では、冷凍機油として同じエーテル油が用いられてもよいし、異なる冷凍機油が用いられてもよい。
【0028】
コーティング層の硬度(ロックウェル硬さ:Rockwell hardness)は、半径6.8mmの鋼球圧子、荷重15kgfにおけるHRLスケールで測定した硬度が125以下であることが好ましい。なお、ここでの硬度は、株式会社アカシ製のロックウェル硬度測定機(型式:ATK−F2000)を用いた実測値をいう。冷媒の漏れ損失を低減させるために第1部材と第2部材との隙間を小さくした圧縮機を製造する場合に、上述のようにコーティング層の硬度を小さく調節することで、駆動中に第1部材と第2部材とが接触してしまうことがあっても、コーティング層を摩耗させることにより、摩擦損失を小さく抑えることが可能になる。なお、このコーティング層の硬度は、上記条件下において123以下であることがより好ましい。
【0029】
コーティング層は、好ましくは熱硬化性樹脂を含有している。この熱硬化性樹脂は、特に限定されないが、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、フェノール樹脂、および、エポキシ樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種とすることができる。
【0030】
コーティング層は、好ましくは固体潤滑剤を含有している。この固体潤滑剤は、特に限定されないが、グラファイト、カーボンおよび二硫化モリブデンよりなる群から選ばれる少なくとも一種とすることができる。グラファイト、カーボンおよび二硫化モリブデンの平均粒径については、特に限定されないが、平均粒径50μm以下であることが望ましい。平均粒径50μm以下のものを用いることでコーティング層の中(例えば、熱硬化性樹脂の中)における分散状態をより均一にすることが可能になり、摩擦係数のバラツキを小さく抑制できる場合がある。
【0031】
なお、コーティング層は、熱硬化性樹脂および固体潤滑剤を含有しつつ、ポリテトラフルオロエチレンの含有率が50wt%未満であることが好ましい。この場合には、ポリテトラフルオロエチレンの含有量を低減させた場合であっても、所定の強度を確保することが可能になる。なお、特に限定されるものではないが、ポリテトラフルオロエチレンの平均粒径は50〜350nmであることが好ましい。なお、平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径とすることができる。
【0032】
コーティング層の膜厚は、特に限定されるものではないが、例えば、3μm以上30μm以下であることが好ましく、5μm以上20μm以下であることがより好ましい。特に、圧縮機の駆動時に摺接する部分同士を、他の部分よりも厚めに形成することが好ましい。
【0033】
(3)用途の例
本発明の圧縮機は、特に限定されるものではなく、蒸発器、凝縮器、膨張弁などと共に冷媒回路を構成し、その冷媒回路中のガス冷媒を圧縮する役割を担うものであり、例えば、上述したように、揺動ピストン型のスイング圧縮機やスクロール圧縮機とすることができる。なお、いずれも、作動冷媒として410Aや二酸化炭素を用いることができる。作動冷媒として410Aを採用した場合の冷凍機油としては、例えば、エーテル油(FVC50K)が挙げられる。また、作動冷媒として二酸化炭素を採用した場合の冷凍機油としては、例えば、PAG(ポリアルキレングリコール)が挙げられる。なお、作動冷媒として二酸化炭素を採用する場合であっても、接触角については、エーテル油を用いて評価している。
【0034】
(3−1)揺動ピストン型のスイング圧縮機
例えば、揺動ピストン型のスイング圧縮機におけるピストンとシリンダの両方にコーティング層が形成される場合の例として、側面視概略断面構成図である図1および軸方向視概略断面構成図である図2に示す圧縮機を挙げて説明する。
【0035】
圧縮装置1は、揺動ピストン型であり密閉型のスイング圧縮機であり、ケーシング2、モータ3、圧縮機構4、シャフト6を備えている。
【0036】
モータ3、圧縮機構4およびシャフト6は、ケーシング2の内部に収納されている。圧縮機構4は、単シリンダのスイング圧縮機であり、揺動ピストン21、ブッシュ23、およびシリンダ27aを有している。
【0037】
ケーシング2は、筒状部2aと、筒状部2aの上下の開口端を閉じる一対の鏡板2b、2cとを有している。ケーシング2の筒状部2aは、モータ3のモータステータ8およびモータロータ9を収納している。また、ケーシング2は、圧縮機構4の下部に冷凍機油Aを貯める貯油空間32を有する。冷凍機油Aは、圧縮機構4の潤滑に用いられ、冷媒とともにケーシング2の内部に充填される。
【0038】
モータ3は、環状のモータステータ8と、モータステータ8の内部空間8aに回転自在に配置されたモータロータ9とを有している。モータロータ9は、シャフト6に連結され、シャフト6とともに回転することが可能である。
【0039】
モータステータ8は、複数の点接合部7によって筒状部2aに固定されている。点接合部7は、具体的には、筒状部2aに貫通孔2dを形成し、その貫通孔2dを通してモータステータ8をスポット溶接することにより形成されている。
【0040】
圧縮機構4は、ブレード22を有する揺動ピストン21と、ブレード22を揺動可能に支持するブッシュ23と、シリンダ27aと、シリンダ27aの両端に位置するフロントヘッド27bおよびリアヘッド27cとを有している。シリンダ27aは、揺動ピストン21を収納するシリンダ室24、ブッシュ23が回転自在に挿入されたブッシュ孔25を有している。リアヘッド27cは、ブッシュ孔25に連通するブッシュ給油路26を有している。
【0041】
揺動ピストン21は、モータ3の回転駆動力を受けてシャフト6の偏心部6aが偏心して回転することによって、シリンダ室24の内部で揺動する。これにより、吸入管28から吸入された冷媒が、シリンダ室24内部で圧縮される。圧縮された冷媒は、ケーシング2の内部を通って上昇し、吐出管29から吐出される。
【0042】
フロントヘッド27bは、マウンティングプレート30にネジ止めされている。マウンティングプレート30は、マウンティングプレート接合部31によってケーシング2の筒状部2aに固定されている。マウンティングプレート接合部31は、スポット溶接により形成されている。
【0043】
このスイング圧縮機1では、シリンダ室24と揺動ピストン21とが、第1部材と第2部材の関係を有しており、それぞれ摺接する表面に上述のコーティング層60a、60b、70aが形成されている。これにより、冷媒圧力が高い空間から低い空間に向けて漏れ出す冷媒流れを抑制できる。なお、揺動ピストン21の径方向(揺動軸方向に垂直な方向)に形成されるコーティング層60aやシリンダ27aの径方向に形成されるコーティング層の膜厚は、揺動ピストン21の高さ方向(揺動軸方向)に形成されるコーティング層60bの膜厚よりも厚いことが好ましい。
【0044】
(3−2)スクロール圧縮機
また、例えば、スクロール圧縮機におけるピストンとシリンダの両方にコーティング層が形成される場合の例として、側面視概略断面構成図である図3、可動スクロール周辺の側面視概略断面図である図4、および、可動スクロール周辺の概略斜視図である図5に示す圧縮機を挙げて説明する。
【0045】
スクロール圧縮機201は、主に、縦長円筒状の密閉ドーム型のケーシング210、スクロール圧縮機構215、オルダムリング239、駆動モータ216、下部主軸受260、吸入管219、および吐出管220から構成されている。
【0046】
ケーシング210は、略円筒状の胴部ケーシング部211と、胴部ケーシング部211の上端部に気密状に溶接される椀状の上壁部212と、胴部ケーシング部211の下端部に気密状に溶接される椀状の底壁部213とを有する。そして、このケーシング210には、主に、ガス冷媒を圧縮するスクロール圧縮機構215と、スクロール圧縮機構215の下方に配置される駆動モータ216とが収容されている。このスクロール圧縮機構215と駆動モータ216とは、ケーシング210内を上下方向に延びるように配置される駆動軸217によって連結されている。
【0047】
スクロール圧縮機構215は、主に、ハウジング223と、ハウジング223の上方に密着して配置される固定スクロール224と、固定スクロール224に噛合する可動スクロール226とから構成されている。
【0048】
スクロール圧縮機構215は、可動スクロール226の鏡板226a下面からスラスト力を受ける正スラスト構造である。固定スクロール224の渦巻き部224bの側面には軸方向に広がったコーティング層224b1が形成されている。可動スクロール226の渦巻き部226bの側面には、固定スクロール224のコーティング層224b1に対面するようにして軸方向に広がった、コーティング層226b1が形成されている。また、固定スクロール224の渦巻き部224bの上面には径方向に広がったコーティング層224b2が形成されている。可動スクロール226の渦巻き部226bの下面には、固定スクロール224に対面するようにして径方向に広がった、コーティング層226b2が形成されている。これらのコーティング層224b1、224b2、226b1、226b2には、上述したコーティング層が形成されているため、冷凍機油がよくなじみ、冷媒漏れを低減させつつ、摩擦損失も低減可能となっている。
【0049】
固定スクロール224は、図3〜6に示されるように、主に、平板状の鏡板224aと、鏡板224aの下面に形成された渦巻き状(インボリュート状)の渦巻き部224bとから構成されている。吐出口241およびそれに連通する吐出通路は、鏡板224aの中央部分において上下方向に延びるように形成されている。固定スクロール224の渦巻き部224bは、軸方向に延びるように形成されている。鏡板224aには、圧縮室240に連通する吐出口241が鏡板224aの略中心に貫通して形成されている。吐出口241は、鏡板224aの中央部分において上下方向に延びるように形成されている。
【0050】
可動スクロール226は、主に、鏡板226aと、鏡板226aの上面に形成された渦巻き状(インボリュート状)の渦巻き部226bと、鏡板226aの下面に形成された軸受部226cと、鏡板226aの両端部に形成される溝部226dとから構成されている。可動スクロール226の渦巻き部226bは、固定スクロール224の渦巻き部224bの内部の隙間に配置され、軸方向に延びるように形成されている。可動スクロール226は、アウタードライブの可動スクロールである。すなわち、可動スクロール226は、駆動軸217の外側に嵌合する軸受部226cを有している。可動スクロール226は、溝部226dにオルダムリング239が嵌め込まれることによりハウジング223に支持される。また、軸受部226cには駆動軸217の上端が嵌入される。可動スクロール226は、このようにスクロール圧縮機構215に組み込まれることによって駆動軸217の回転により自転することなくハウジング223内を公転する。そして、可動スクロール226の渦巻き部226bは固定スクロール224の渦巻き部224bに噛合させられており、両渦巻き部224b,226bの接触部の間には圧縮室240が形成されている。そして、この圧縮室240では、可動スクロール226の公転に伴い、両渦巻き部224b,226b間の容積が中心に向かって収縮する。スクロール圧縮機201では、このようにしてガス冷媒を圧縮するようになっている。圧縮室240は、可動スクロール226の公転する位置によって容積変化し、ガス冷媒が吐出され、冷媒流れが吐出口241へ流れる。
【0051】
ハウジング223は、胴部ケーシング部211に圧入固定されている。そして、このハウジング223には、上端面が固定スクロール224の下端面と密着するように、固定スクロール224がボルト(図示せず)により締結固定されている。また、このハウジング223には、上面中央に凹設されたハウジング凹部231と、下面中央から下方に延設された軸受部232とが形成されている。そして、この軸受部232には、上下方向に貫通する軸受孔232aが形成されており、この軸受孔232aにクランク軸17が回転自在に嵌入されている。
【0052】
オルダムリング239は、上述したように、可動スクロール226の自転運動を防止するための部材であって、ハウジング223に形成されるオルダム溝(図示せず)に嵌め込まれている。なお、このオルダム溝は、長円形状の溝であって、ハウジング223において互いに対向する位置に配設されている。
【0053】
駆動モータ216は、本実施形態において直流モータであって、主に、ケーシング210の内壁面に固定された環状のステータ251と、ステータ251の内側に僅かな隙間(エアギャップ通路)をもって回転自在に収容されたロータ252とから構成されている。そして、この駆動モータ216は、ステータ251の上側に形成されているコイルエンド253の上端がハウジング223の軸受部232の下端とほぼ同じ高さ位置になるように配置されている。ステータ251には、ティース部に銅線が巻回されており、上方および下方にコイルエンド253が形成されている。ロータ252は、上下方向に延びるように胴部ケーシング部211の軸心に配置された駆動軸217を介してスクロール圧縮機構215の可動スクロール226に駆動連結されている。
【0054】
下部主軸受260は、駆動モータ216の下方の下部空間に配設されている。この下部主軸受260は、胴部ケーシング部211に固定されるとともに駆動軸217の下端側軸受を構成し、駆動軸217を支持している。
【0055】
吸入管219は、冷媒回路の冷媒をスクロール圧縮機構215に導くためのものであって、ケーシング210の胴部ケーシング部211に気密状に嵌入されている。
【0056】
吐出管220は、ケーシング210内の冷媒をケーシング210外に吐出させるためのものであって、ケーシング210の上壁部212に気密状に嵌入されている。
【実施例】
【0057】
以下、上述したコーティング層の塗膜形成成分を変更しながら、実施例1−3、比較例1の各サンプルを用意し、それぞれの接触角、硬度、摩耗量、圧縮機効率を評価した。
【0058】
なお、各サンプルは、いずれも同じ種類の基材である多孔質焼結金属(三菱マテリアルPMG製のF112)の表面に対して塗布することで用意した。
【0059】
(実施例1)
実施例1では、ポリアミドイミド(日立化成社製、商品名:HI-600)と、グラファイト(日本黒鉛社製、商品名:J−CPB)と、を40:60の重量比率となるように混合して得られた塗料から、基材にスプレー塗装し、雰囲気温度280℃下で30分間焼成させた。なお、焼成後に得られる塗膜が100μmとなるように塗装の程度を調節した。
【0060】
(実施例2)
実施例2では、ポリアミドイミド(日立化成社製、商品名:HI-600)と、二硫化モリブデン(住鉱潤滑剤社製造、商品名:モリパウダーPB)、グラファイト(日本黒鉛社製、商品名:J−CPB)と、ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業社製造、商品名:ルブロンL5)と、を50:25:20:5の重量比率となるように混合して得られた塗料から、基材にスプレー塗装し、雰囲気温度280℃下で30分間焼成させた。なお、焼成後に得られる塗膜が100μmとなるように塗装の程度を調節した。
【0061】
(実施例3)
実施例3では、エポキシ樹脂(ハンツマンジャパン社製造、商品名:アラルダイト(主剤PZ−985、硬化剤HZ−985E))と、グラファイト(日本黒鉛社製、商品名:J−CPB)と、を40:60の重量比率となるように混合して得られた塗料から、基材にスプレー塗装し、雰囲気温度280℃下で30分間焼成させた。なお、焼成後に得られる塗膜が100μmとなるように塗装の程度を調節した。
【0062】
(比較例1)
比較例1では、ポリアミドイミド(日立化成社製、商品名:HI-600)と、ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業社製造、商品名:ルブロンL5)と、を50:50の重量比率となるように混合して得られた塗料から、基材にスプレー塗装し、雰囲気温度280℃下で30分間焼成させた。なお、焼成後に得られる塗膜が100μmとなるように塗装の程度を調節した。
【0063】
(接触角)
接触角は、実施例1−3、比較例1の各サンプルについて、基材上に形成された塗膜の表面粗さRaが0.5μmとなるように研磨し、研磨後の表面に滴下された冷凍機油(出光興産社製エーテル油FVC50K)が形成する接触角を測定した。
【0064】
接触角の測定には、協和界面科学株式会社の自動接触角計CA−VPを用いて、液適法で測定した。
【0065】
(硬度)
硬度は、実施例1−3、比較例1の各サンプルについて、半径6.8mmの鋼球圧子を用いて、荷重15kgfにおけるHRLスケールでロックウェル硬さを測定した。
【0066】
(摩耗量)
摩耗量は、実施例1−3、比較例1の各サンプルについて、冷凍機油(出光興産社製エーテル油FVC50K)中に浸漬させた状態で、表面粗さRaが0.4μmの鉄系焼結材料(住友電工社製、商品名:D40)を相手材料として、面圧7MPa、速度3m/sの条件下で1時間摺動させた場合のコーティング層側の摩耗量(摩耗膜厚)を測定した。
【0067】
(圧縮機効率)
実施例1−3、比較例1については、基材に塗布して得られた上記各サンプルとは別に、スイング圧縮機(ダイキン工業社製、商品名:1YC23GXD)のピストンの両面側と外周部にスプレー塗装して得られるものを、実施例1−3および比較例1についてそれぞれ用意した。ここで、ピストンの外周については、径方向の膜厚が20μmとなるように、高さ方向については膜厚が5μmとなるように、それぞれコーティング層を形成した。ここで、コーティング層が形成されたピストンの半径方向の隙間が10μm、高さ方向の隙間が4μmとなるように調節した。冷媒としては、R410Aを用い、凝縮温度Tcが27℃、蒸発温度Teが3℃の条件下で、スイング圧縮機を周波数が25rpsとなるように運転し、入力に対する圧縮機の能力を測定した。この条件下で算出される冷媒物性上の理論COP(理論成績係数)=(理論能力)/(理論入力)を100%とした場合の各サンプルの実測COPについて、それぞれ比率で示した。なお、ピストンにコーティング層が設けられておらず、半径方向の隙間が20μm、高さ方向の隙間が10μmであるスイング圧縮機を用いて圧縮機効率の基準を求めた。
【0068】
以上に基づいて得られた結果を以下の表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
以上より、コーティング層の冷凍機油に対する接触角が小さい場合には、冷凍機油のシール性が高く、冷媒のもれ損失を減少することができ、圧縮機効率を向上させることができることが確認された。
【0071】
また、コーティング層の硬度が低い場合には、摩耗量が大きくなること、および、硬度が高い場合には、接触しても摩耗しにくいことが確認された。
【0072】
このため、コーティング層の硬度が高い場合には摩擦損失が大きくなってしまうが、コーティング層の硬度が低い場合には接触しても摩耗が生じることで、摩擦損失が大きくならないことが確認された。
【0073】
以上より、接触角が小さく硬度の低いコーティング層を設けることで、冷媒の漏れ損失を抑制しつつ、摩擦損失も低減されることで、圧縮機効率を向上させることができることが確認された。
【符号の説明】
【0074】
1 スイング圧縮機(圧縮機)
21 揺動ピストン(第1部材)
27a シリンダ(第2部材)
60a、60b、70a、224b1、224b2、226b1、226b2 コーティング層
201 スクロール圧縮機(圧縮機)
224 (第2部材)
226 (第1部材)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0075】
【特許文献1】特開2003−42078号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材(21、226)と、
前記第1部材に対して相対移動することにより、前記第1部材と協働して冷媒を圧縮する第2部材(27a、224)と、
を備え、
前記第1部材と前記第2部材とが協働して、互いに冷媒圧力が異なる2つの空間に仕切っている状態で、少なくとも前記第1部材と前記第2部材の互いに近接している部分の表面が、冷凍機油に対する接触角が25度以下の樹脂のコーティング層(60a、60b、70a、224b1、226b1、224b2、226b2)で覆われている、
圧縮機(1、201)。
【請求項2】
前記コーティング層は、半径6.8mmの鋼球圧子、荷重15kgfにおけるHRLスケールで測定した硬度が125以下である、
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記コーティング層は、
ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、フェノール樹脂、および、エポキシ樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも一種の熱硬化性樹脂と、
グラファイト、カーボンおよび二硫化モリブデンよりなる群から選ばれる少なくとも一種の固体潤滑剤と、
を含有しており、
ポリテトラフルオロエチレンの含有量が50wt%未満である、
請求項1または2に記載の圧縮機。
【請求項4】
スイングピストン形、スイングシリンダ形、および、スクロール形のいずれかである、
請求項1から3のいずれか1項に記載の圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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