説明

圧電アクチュエータおよびそれを用いた液体噴射ヘッド

【課題】複数の駆動部分を持つ圧電アクチュエータにおいて、その複数の駆動部分での振動を減衰させ、それらの相互干渉を防止する。
【解決手段】圧電層11に圧電材料製の拘束層21A,21Bを積層し、その拘束層21Bの、圧電層11とは反対側の面に、拘束層21B側の駆動電極12Aとで拘束層21Bを挟む検出電極22,23を設ける。検出電極22,23およびそれと拘束層21Bを挟んで対向する駆動電極12Aに、圧電層11の変位にともない拘束層21Bに発生する放電する放電回路31A,31Bを電気的に接続する。圧電層11の変位によって発生した起電力を放電回路で消費させることで、圧電層11の振動を減衰させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエータおよびそれによって駆動される液体噴射ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電アクチュエータでは、特許文献1に示されるように、圧電材料からなる圧電層を電極で挟んだものが知られている。この構造では、複数の個別電極を平面方向に間隔をあけて形成した圧電層と、コモン電極を形成した圧電層とを交互に積層した構造で、積層方向に対向する個別電極とコモン電極との間の各圧電層が駆動部分として機能し、両電極間に電圧を印加することにより各駆動部分が積層方向に変位する。そして、この圧電アクチュエータを液体噴射ヘッドなどに適用し、各駆動部分の変位により液体に吐出圧力を与えるようにしている。
【0003】
さらに特許文献1に示される構造では、液体に圧力を与える方向への駆動部分の変位を大きくするために、その方向と反対側の圧電層に積層して拘束層を設けている。この拘束層は、また、積層面と平行な方向の変形を防止して隣り合う駆動部分の変位を抑えクロストークを防止する作用も有している。
【0004】
しかし、上記構造においては、複数の駆動部分が、圧電層の面方向(積層方向と直交する方向)で圧電層によって相互につながっており、小型化、高密度化を実現しようとすると、隣り合う駆動部分間の間隔が狭くなるので、隣の駆動部分が相互に影響を及ぼすクロストークが発生しやすくなる。
【0005】
そこで、インクジェット式記録ヘッドにおいては、複数の圧力発生室に連通する共通のリザーバの少なくとも一方面側に可撓性を有する可撓性膜を設け、圧力発生室から共通のリザーバに伝播した圧力波による可撓性膜の変形を電気エネルギーに変えて放電することで、リザーバの圧力変化を効果的に吸収し、クロストークをなくするものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−162796号公報(段落0052および図5乃至図7)
【特許文献2】特許第3695509号公報(段落0057および図2(b))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2記載の技術はリザーバにおいて圧力変化を吸収するものであり、圧電アクチュエータ自体の振動を抑制するものではないので、リザーバに可撓性膜を置けないヘッド、あるいはリザーバを持たない機器においては、前記特許文献2記載の技術をそのまま適用することができない。
【0007】
圧電アクチュエータをインクジェットヘッドに用いる場合だけでなく、圧電アクチュエータが複数の駆動部分を持つものであれば、その複数の駆動部分での相互干渉を防止することが求められる。
【0008】
この発明は、複数の駆動部分を持つ場合において、その複数の駆動部分での振動を減衰させ、それらの相互干渉を防止する圧電アクチュエータおよびそれを用いた液体噴射ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、偏平状に形成された圧電材料製の圧電層の偏平な方向に沿う複数箇所に、その圧電層を厚さ方向に挟む複数組の駆動電極が配置され、各組の駆動電極間に選択的に電圧が印加されることで、その組の駆動電極間に挟まれた圧電層が変位される圧電アクチュエータにおいて、前記圧電層に、前記複数箇所にわたって延びる偏平な圧電材料製の拘束層が積層され、その拘束層の前記圧電層とは反対側の面に、前記各組の駆動電極のうち前記拘束層側の電極とで前記拘束層を挟む検出電極が設けられ、前記検出電極に、前記圧電層の変位にともない前記拘束層に発生する起電力を放電する放電回路が電気的に接続されていることを特徴とする。
【0010】
このようにすれば、複数組の駆動電極間に挟まれた圧電層が変位される部分である、複数の駆動部分を持つ場合に、前記複数の駆動部分での振動が減衰され、それらの相互干渉が防止される。つまり、前記圧電層に拘束層が積層され、その拘束層の前記圧電層とは反対側の面に、前記各組の駆動電極のうち前記拘束層側の電極とで前記拘束層を挟む検出電極が設けられ、前記検出電極に、放電回路が電気的に接続されているので、前記圧電層の変位にともない前記拘束層に発生する起電力が放電回路に放電され、前記複数の駆動部分での振動が減衰される。
【0011】
請求項2に記載のように、請求項1の圧電アクチュエータにおいて、前記圧電層は、複数積層して形成され、前記各組の駆動電極は、積層方向に並んで各圧電層に対して設けられ、前記拘束層は、前記積層された圧電層の一方の外側に積層されており、前記積層された圧電層の前記駆動電極間部分が積層方向に変位するに際して、その変位が前記拘束層側にはその拘束層によって抑制され、主としてそれとは反対方向へ変位させられる構成とすることができる。
【0012】
このようにすれば、積層された圧電層の前記各組の駆動電極間部分が積層方向に変位するに際して、その変位が前記拘束層側にはその拘束層によって抑制され、主としてそれとは反対方向へ変位させられる。
【0013】
請求項3に記載のように、請求項1または2の圧電アクチュエータにおいて、前記圧電アクチュエータは、前記圧電層の変位時における前記圧電アクチュエータの固有の振動に対応して、複数の領域に分けられ、前記領域毎に、前記検出電極が配置されていることが望ましい。
【0014】
このようにすれば、圧電アクチュエータの固有の振動に対して複数の領域に対応して検出電極がそれぞれ設けられているので、前記領域毎に、前記複数の駆動部分での振動が効率よく減衰せしめられる。
【0015】
請求項4に記載のように、請求項3の圧電アクチュエータにおいて、前記放電回路は、前記固有の振動において互いに逆方向に変位する第1および第2の領域に対応して設けられていることが望ましい。
【0016】
このようにすれば、圧電アクチュエータの固有の振動において互いに逆方向に変位する第1および第2の領域に対応して放電回路がそれぞれ設けられているので、逆方向の変位にもとづいて発生する位相の異なる起電力が相殺されることなくそれぞれ放電回路に放電され、前記複数の駆動部分での振動が効率よく減衰せしめられる。
【0017】
請求項5に記載のように、請求項3または4の圧電アクチュエータにおいて、前記複数の領域は、3以上の領域であり、その3以上の領域のうち前記固有の振動において同じ方向に変位する複数の領域に配置された前記検出電極どうしは、接続電極部によって相互に接続されていることが望ましい。
【0018】
このようにすれば、同じ方向に変位する複数の領域に配置された各検出電極に対してそれぞれ放電回路を設けることなく、その各領域の起電力を共通の放電回路に放電することができる。
【0019】
請求項6に記載のように、請求項1〜5のいずれかの圧電アクチュエータにおいて、ある駆動周波数で前記圧電層を変位させたときの前記圧電アクチュエータの固有の振動に対応する1つの振動領域に配置される前記検出電極が、他の駆動周波数で前記圧電層を変位させたときの前記圧電アクチュエータの固有の振動に対応する振動領域に配置された前記検出電極の複数個で構成されることが望ましい。
【0020】
このようにすれば、異なる駆動周波数でそれぞれ圧電層を変位させたときの振動領域の数が整数倍の関係にあるとき、多い数の振動領域に合わせて検出電極を配置しておけば、振動領域の数が少ない駆動周波数の場合、その振動領域の振動を複数の検出電極で減衰させることができる。つまり、1つの検出電極の配置で複数の駆動周波数の振動に対応することができる。
【0021】
請求項7の発明は、液体噴射ヘッドであって、複数の圧力室が平面的に形成されたキャビティユニットに、請求項1〜4のいずれかの前記圧電アクチュエータが、前記圧力室毎に前記各組の駆動電極を対向させて接合されてなることを特徴とする。
【0022】
このようにすれば、圧電アクチュエータによって発生した振動が隣の圧力室に伝わるのが抑制され、クロストークが低減される。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、複数組の駆動電極間に挟まれた圧電層が変位される部分である、複数の駆動部分を持つ場合に、前記圧電層の変位にともない前記拘束層に発生する起電力を放電する放電回路を設けているので、前記複数の駆動部分での相互干渉を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。なお、この実施の形態は、複数の圧力室が平面的に形成されたキャビティユニットに、圧電アクチュエータが、前記圧力室毎に前記各組の駆動電極を対向させて接合されてなるインクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)に適用した例である。
【0025】
図1は本発明の一実施の形態に係る圧電アクチュエータを用いたインクジェットヘッドの概略構成を示す説明図、図2は同断面図、図3は圧電アクチュエータの分解斜視図である。
【0026】
図1において、1はインクジェットヘッドで、複数の圧力室2Aが平面的に規則的に形成されたキャビティユニット2に、積層型の圧電アクチュエータ3が接合されてなる。
【0027】
キャビティユニット2は、公知のように複数のノズル(図示しない)を外部に開口して有し、インクタンクから供給されたインクを共通の流路(リザーバ)から複数の圧力室2Aに分配し、圧電アクチュエータ3により圧力室2A内のインクに圧力を付与することで、圧力室2Aに連通するノズルからインクを噴射する。ノズルおよび圧力室2Aは、複数個からなる列を、複数列備えている。
【0028】
圧電アクチュエータ3は、図2および図3に示すように、全圧力室2Aを覆う偏平な複数の圧電層11A,11B,11C,11D(以下、これらを総称するときは圧電層11という)と、その圧電層11の上面に2層の拘束層21A,21Bと、圧電層11の下面にベース層14とを積層して備え、それらの層間に電極を備えている。これらの各層は、圧電材料(例えばPZT)によって形成され一体に焼成されるが、最上面の拘束層21Aとベース層14とは、他の絶縁材料でもよい。
【0029】
圧力室2Aと平面視重なる位置において各圧電層11A〜11Dを厚さ方向に挟むように複数組の駆動電極12A,12B,12C,13A,13Bが配置される。1つの圧力室2Aに対してその上方に積層方向に並ぶ駆動電極12A〜12C,13A,13Bが一組の駆動電極を構成し、これら駆動電極に挟まれた圧電層が圧力室2A毎の駆動部分を構成する。つまり、圧力室2Aの位置と対応してこの圧電層11の偏平な方向に沿う複数箇所に、それぞれ駆動電極12A〜12C,13A,13Bが配置されている。
【0030】
駆動電極12A〜12C,13A,13Bのうち積層方向に1つ置きの第1の駆動電極12A〜12Cは、圧電層11の偏平な方向に延びて他の組の駆動電極と共通に形成され、共通電位(例えば接地)に接続される。残りの1つ置きの第2の駆動電極13A,13Bは、圧力室2Aに対応して位置し、積層方向のもの同士相互に接続されて、それぞれスイッチング回路4を介して駆動パルス源に接続される。駆動電極12A〜12Cと駆動電極13A,13Bとの間に挟まれる各圧電層11は、それぞれ駆動電極13A,13Bから駆動電極12A〜12Cへ向かう方向に分極されている。なお、第1の駆動電極12A〜12Cは、第2の駆動電極と同様に、各圧力室2Aに対応して個別に設けられてもよい。
【0031】
拘束層21A,21Bのうち圧電層11側の拘束層21Bの、前記圧電層11とは反対側の面に、各組の駆動電極12A〜12C,13A,13Bのうち拘束層21B側の電極12Aとで拘束層21Bを挟む検出電極22,23が設けられている。この検出電極22,23およびそれと拘束層21Bを挟んで対向する駆動電極12Aに、圧電層11の変位にともない拘束層21Bに発生する起電力を放電する放電回路31A,31Bが電気的に接続されている。一端が接地された放電回路31A,31Bの他端が検出電極22,23に接続され、この検出電極22,23とで拘束層21Bを挟む第1の駆動電極12Aが接地されることで、閉回路が構成される。なお、各放電回路31A,31Bは、同じ構成で、コイルLと抵抗Rとが直列に接続されてなる。起電力を放電するための構成は、コイルLと抵抗Rとの直列回路だけでなく、抵抗Rのみあるいは他の回路素子など、起電力を熱など他のエネルギーに変換して消費するものであればよい。また、拘束層21Aを挟んで、一対の検出電極を設け、その一対の検出電極に対して閉回路を形成して放電回路を接続して、拘束層21Aに発生する起電力を放電するように構成することもできる。
【0032】
インクを噴射しようとする圧力室2Aに対応する組の駆動電極13A,13Bに駆動パルス電圧を印加し、駆動電極12A〜12Cを接地すると、駆動電極12A〜12C,13A,13B間に挟まれた圧電層11A〜11D(駆動部分)が、圧電縦効果により、積層方向に伸長する。その結果、圧電層11は、ベース層14を押して圧力室2A側に凸となるように変形し、インクに圧力を加え、そのインクをノズルから噴射させる。
【0033】
このとき拘束層21A,21Bには電圧が印加されないから、拘束層は積極的には変位しない。上記のように圧電層11が積層方向に変位するに際して、その圧電層11の変位は、圧力室2Aと反対側には拘束層21A,21Bによって抑制され、圧力室2A側へより多く向けられ、上記のインクの噴射に有効に利用される。
【0034】
一方、このような圧電層11の変位にともなう拘束層21Bの変位によって圧電材料である拘束層21Bに起電力が発生する。検出電極22,23およびそれと拘束層21Bを挟んで対向する駆動電極12Aに放電回路31A,31Bが接続されているので、前記起電力は放電回路31A,31Bに放電、つまり抵抗Rで熱エネルギーに変換され消費される。その結果、圧電層11の変位による残留振動が前記放電によって早期に減衰され、他の圧力室2Aに対応する駆動部分どうしの相互干渉が防止される。
【0035】
上記検出電極22,23は、2つに分けて図示されているが、1つの連続した電極であっても差し支えない。圧電層11の振動を効果的に減衰させるためには、駆動周波数に応じて圧電アクチュエータが示す固有の振動に対応して分けられた領域毎に、検出電極を配置することが好ましい。
【0036】
この点についてさらに説明すると、圧電アクチュエータ3は、各種の駆動周波数(前記駆動パルスを印加する周波数、すなわち噴射周波数)に対して、図5(a)〜(l)に示すように、それぞれ固有の振動態様を示す。図5(a)〜(l)は、それぞれ、駆動周波数が12,730Hz,23,520Hz,28,879Hz,38,652Hz,40,774Hz,53,510Hz、54,825Hz,62,504Hz,63,745Hz,76,839Hz,77,570Hz,85,455Hzの場合での変形の態様を示す。図5は、噴射にともなうインクジェットヘッド全体の振動のうち圧電アクチュエータ3の変形のみを示す。
図6は、それを模式化して示す。図において「凸」「凹」は、ある時点において圧電アクチュエータ3表面のある領域が外部に対して「凸」または「凹」となっていることを示すが、これが所定周期で反転するようになっている。図6(a)〜(l)はそれぞれ図5(a)〜(l)に対応する
それらのうち図5(a)(図6(a))(駆動周波数が12,730Hz)では、圧電アクチュエータ3は全体を一体にして凹凸を繰り返す振動を示す。この振動を減衰させるためには、検出電極22,23を1つの連続した電極とし、放電回路31A,31Bは1つでよい。
【0037】
図5(e)(図6(e))(駆動周波数が40,774Hz)では、圧電アクチュエータ3は、その長手方向に3分割して中央に位置する第1の領域と両端に位置する第2および第3の領域とが互いに逆方向に交互に凹凸を繰り返す振動を示す。この3つの領域は、圧電アクチュエータ3の短手方向いっぱいにわたっている。この振動を減衰させるため、図4に示すように、それら各領域に対応して、長手方向の中央に位置する矩形状の第1の検出電極22と、その両側に配置される矩形状の第2および第3の検出電極23A,23Bとを設けている。第2および第3の検出電極23A,23B同士は、第1の検出電極22の一方の側に沿って延びる接続電極部23Cによって接続されている。そして、第1の検出電極22に対し第1の放電回路31Aが、第2および第3の検出電極23A,23Bに対し第2の放電回路31Bがそれぞれ接続されている。検出電極23A,23Bは、接続電極部23Cによって接続せずに、それぞれ独立させて、それぞれに放電回路を設けることもできる。
【0038】
圧電アクチュエータ3の中央部分(第1の領域)と両側部分(第2および第3の領域)とでは、駆動周波数40,774Hzにおいて互いに逆方向に変位するように振動するので、それらの振動によって拘束層21Bに発生するそれぞれの起電力は、位相を異にする。3つの領域に検出電極22,23A,23Bをそれぞれ別々に設けることで、それらの起電力を相殺することなく、放電回路31A,31Bによってそれぞれ熱エネルギーに変換して消費することができ、効率よく前記振動を減衰することができる。よって、複数の駆動部分での振動の相互干渉が防止され、インクジェットヘッドにおいては、隣の圧力室の噴射速度に影響を及ぼすクロストークが抑制される。
【0039】
また、図5(l)(図6(l))(駆動周波数:85,455Hz)では、圧電アクチュエータ3は、その短手方向に4分割してその方向に1つおきに位置する2つの領域と、残りの1つおきに位置する2つの領域とが、互いに逆方向に交互に凹凸を繰り返す振動を示す。この4つの領域は、圧電アクチュエータ3の長手方向いっぱいにわたっている。これを抑制する場合には、図7(a)に示すように、各領域それぞれに対応して、検出電極24A,24B,25A,25Bが設けられ、同じ方向に変位する領域に対応する検出電極どうしが接続電極部24C,25Cで接続されている。それらに別々に放電回路31A,31Bが接続されている。これにより、前述した場合と同様に、互いに逆方向に変位する、2つの領域にそれぞれにおいて発生しようとする振動が放電回路31A,31Bへの起電力の放電によって減衰され、複数の駆動部分間でのクロストークの抑制効果が発揮される。接続電極部24C,25Cを廃して4つの検出電極を独立させ、それぞれの電極に放電回路を接続してもよい。
【0040】
同様に図5(図6)の各振動態様において、各振動の領域毎に電極を設けることで、振動を減衰させ、圧電アクチュエータにおける駆動部分間のクロストークを抑えることができる。
【0041】
さらに、圧電アクチュエータ3の複数の駆動周波数に対応して、検出電極を設けることも可能である。例えば図5(e)(k)(図6(e)(k))(駆動周波数:40,774Hz、77,570Hz)の振動態様は、一方の振動態様の各領域をさらに整数分の一に分割したものが他方の振動態様となる関係を有する。この場合、後者の他方の振動態様に合わせて検出電極を設ければよい。
【0042】
具体的には、図5(e)(図6(e))では、前述のとおり圧電アクチュエータ3は、その長手方向に3分割して振動するのに対し、図5(k)(図6(k))では、その図5(e)(図6(e))の各領域をさらに短手方向に3分割し、その隣接する各領域を相互に反対方向に変形させて振動する。図7(b)は、これらの駆動周波数での振動を抑制するための検出電極の配置状態を示すもので、図5(k)(図6(k))の3×3の領域に対応して3×3の検出電極が設けられている。さらに詳細には、図4の第1の領域に相当する中央領域は、さらに短手方向に3分割された3つの検出電極28A,26,28Bを有する。図4の第2および第3の領域に相当する両端領域も同様に3分割された3つの検出電極29A,27A,29Bおよび29C,27B,29Dを有する。
【0043】
これら検出電極のうち図5(e)(図6(e))および図5(k)(図6(k))の振動で、同方向に振動する部分の電極同士27Aと27B、28Aと28B、29A〜29Dは、接続電極27C,28C.29Eによって相互に接続され、それぞれ放電回路31B〜31Dに接続される。検出電極26は単独で放電回路31Aに接続される。これらすべての検出電極は、それぞれ単独に放電回路に接続しても差し支えない。
【0044】
この構成においては、図5(e)(図6(e))の振動に対し、図4の中央領域における検出電極22に相当する検出電極が、複数の検出電極28A,26,28Bで構成され、また図4の両端領域の検出電極23A、23Bに相当する検出電極が、複数の検出電極29A,27A,29Bおよび29C,27B,29Dで構成されることになる。各振動領域に生じた起電力は、それぞれ複数の検出電極をとおして放電され、振動を減衰させる。また、図5(k)の振動においては、3×3の領域のうち検出電極26および検出電極29A〜29Dに対応する部分は同じ方向に振動し、検出電極27A,27B,28A,28Bに対応する部分は前記部分とは逆方向に振動する。これらに発生した起電力を放電回路で消費し、振動を早期に減衰させることができる。
【0045】
また、図5(g)(駆動周波数:54,825Hz)では、長手方向と短手方向とで3×2の領域で分割して振動しているので、図4の検出電極を短手方向に2分割することで、図5(e)と図5(g)との両駆動周波数に対応できる。さらに、図5(a)(駆動周波数が12,730Hz)の振動態様は、圧電アクチュエータ全体が1つの領域として一体に振動するので、図5の他のどの振動態様とも検出電極を共通にできる。
【0046】
同様に、異なる駆動周波数でそれぞれ圧電層を変位させたときの振動領域が整数倍の関係にあるものは、多い数の振動領域のに合わせて検出電極を配置しておけば、振動領域の数が少ない駆動周波数の場合、その各振動領域に対応する複数の検出電極で振動を減衰させることができる。つまり、1つの検出電極の配置で複数の駆動周波数に対応できる。
【0047】
前記実施の形態では、拘束層21A,21Bを2層有する構成となっているが、下側の拘束層21Bに発生した起電力を、検出電極及び放電回路を利用して放電すればよいので、上側の拘束層21Aは必ずしも必要ではなく、省略することも可能である。
【0048】
また、圧電層は必ずしも複数の層を積層して形成する必要はなく、振動板14と拘束層21Bとの間に1層の圧電層が挟まれる構成とすることも可能である。
【0049】
圧電アクチュエータをインクジェットヘッドに用いるだけでなく、他の液体たとえば着色剤を噴射して塗布する装置、あるいは発音体の振動部を振動させる装置などにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施の形態に係る圧電アクチュエータを用いたインクジェットヘッドの概略構成を示す説明図である。
【図2】同断面図である。
【図3】圧電アクチュエータの分解斜視図である。
【図4】検出電極の配置状態の説明と、検出電極と放電回路との接続状態の説明図である。
【図5】(a)〜(i)はそれぞれ固有振動モードにおける変形の態様を示す説明図である。
【図6】(a)〜(i)は図5の(a)〜(i)を模式化して示す平面図である。
【図7】(a)(b)はそれぞれ他の実施の形態についての図4と同様の図である。
【符号の説明】
【0051】
1 インクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)
2 キャビティユニット
2A 圧力室
3 圧電アクチュエータ
11A〜11D 圧電層
12A〜12C,13A,13B 駆動電極
21A,21B 拘束層
22〜29 検出電極
31A,31B,31C,31D 放電回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏平状に形成された圧電材料製の圧電層の偏平な方向に沿う複数箇所に、その圧電層を厚さ方向に挟む複数組の駆動電極が配置され、各組の駆動電極間に選択的に電圧が印加されることで、その組の駆動電極間に挟まれた圧電層が変位される圧電アクチュエータにおいて、
前記圧電層に、前記複数箇所にわたって延びる偏平な圧電材料製の拘束層が積層され、その拘束層の前記圧電層とは反対側の面に、前記各組の駆動電極のうち前記拘束層側の電極とで前記拘束層を挟む検出電極が設けられ、
前記検出電極に、前記圧電層の変位にともない前記拘束層に発生する起電力を放電する放電回路が電気的に接続されていることを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項2】
前記圧電層は、複数積層して形成され、前記各組の駆動電極は、積層方向に並んで各圧電層に対して設けられ、前記拘束層は、前記積層された圧電層の一方の外側に積層されており、
前記積層された圧電層の前記駆動電極間部分が積層方向に変位するに際して、その変位が前記拘束層側にはその拘束層によって抑制され、主としてそれとは反対方向へ変位させられることを特徴とする請求項1に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項3】
前記圧電アクチュエータは、前記圧電層の変位時における前記圧電アクチュエータの固有の振動に対応して、複数の領域に分けられ、前記領域毎に、前記検出電極が配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項4】
前記放電回路は、前記固有の振動において互いに逆方向に変位する第1および第2の領域に対応して設けられていることを特徴とする請求項3に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項5】
前記複数の領域は、3以上の領域であり、その3以上の領域のうち前記固有の振動において同じ方向に変位する複数の領域に配置された前記検出電極どうしは、接続電極部によって相互に接続されていることを特徴とする請求項3または4に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項6】
ある駆動周波数で前記圧電層を変位させたときの前記圧電アクチュエータの固有の振動に対応する1つの振動領域に配置される前記検出電極が、他の駆動周波数で前記圧電層を変位させたときの前記圧電アクチュエータの固有の振動に対応する振動領域に配置された前記検出電極の複数個で構成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の圧電アクチュエータ。
【請求項7】
複数の圧力室が平面的に形成されたキャビティユニットに、請求項1〜6のいずれかの前記圧電アクチュエータが、前記圧力室毎に前記各組の駆動電極を対向させて接合されてなることを特徴とする液体噴射ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−94112(P2009−94112A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260470(P2007−260470)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】