説明

圧電アクチュエータ及び圧電アクチュエータの製造方法

【課題】生産性を向上させた圧電アクチュエータ及び圧電アクチュエータの製造方法を提供する。
【解決手段】圧電素子20を収容する収容部Sを、キャビティと対向するようにシリコン基板11の上方に凹設した。圧電素子20は、収容部Sの深さ方向に積層された一対の電極膜である下部電極21と上部電極23と、この一対の電極膜に挟まれた圧電膜22とを有する。そして、圧電膜22は、収容部Sに埋め込まれて、収容部Sの開口における圧電加工面22aが研磨抑止面14aと面一になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエータ及び圧電アクチュエータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット式の記録装置には、インクを液滴にして吐出する圧電アクチュエータとしての液滴吐出ヘッドが利用されている。圧電アクチュエータに用いられる圧電素子は、一般的に、駆動信号を受けて伸張及び収縮する圧電膜と、圧電膜を挟む一対の電極膜とを含む積層体からなる。この種の積層体を化学的なエッチング法で形成する場合、各層間におけるエッチングの選択比が構成材料で大きく制約されることから、積層体の形状に関して加工精度を得難い問題がある。そこで、圧電アクチュエータの製造工程では、上記加工精度の向上を図るため、積層体のエッチング法としてイオンミリング法等の物理的エッチング法が利用されている。
【0003】
例えば、上記圧電アクチュエータの製造工程では、まず、図6(a)において、基板51の表面に酸化物膜52が成膜され、次に、図6(b)において、配向膜53と下部電極膜54と圧電膜55と上部電極膜56とが順に前記酸化物膜52へ積層される。続いて、図6(c)において、圧電素子の領域を覆うレジスト膜PRが形成され、図6(d)において、前記レジスト膜PRをマスクにした積層体へのイオンミリング加工が施される。そして、図6(e)において、前記レジスト膜PRが剥離されることにより、配向膜53と圧電膜55と一対の電極膜54,56とを含む圧電素子が所望の形状で形成される。
【0004】
一方、上記イオンミリングを用いる場合には、積層体からの被エッチング物の一部がレジスト膜の側面に堆積し、レジスト膜を剥離した後であっても、圧電素子の側面に被エッチング物が残存してしまう。そこで、上記イオンミリング工程では、被エッチング物の堆積を抑制するため、図6(d)の矢印で示すように、イオンビームの入射角度(イオンミリング角度)を基板の法線方向に対して傾斜させ、被エッチング物からなる堆積物をイオンビームで除去している(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】再公表特許公報WO01/047716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、イオンミリング角度を高い精度の下で制御する必要があることから、イオンビームの方向や積層体の配置位置に高い精度が求められて、圧電素子の製造工程に煩雑化を招いてしまう。さらに、イオンミリング法では、積層体からの被エッチング物がミリング装置の内壁に残膜として堆積し続けることから、上記イオンミリング角度やエッチング量の維持を図るため、こうした残膜を装置内壁から頻繁に除去しなければならない。この結果、製造装置のメンテナンス頻度の増大を招き、圧電アクチュエータの生産性を大幅に損なってしまう。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、生産性を向上させる圧電アクチュエータ及び圧電アクチュエータの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の圧電アクチュエータは、圧電素子が形成された基体に前記圧電素子の変位によって作動する作動部を備えた圧電アクチュエータであって、前記基体の表面には前記圧電素子を収容する凹状の収容部が前記作動部と対向するように設けられ、前記圧電素子は、前記収容部の深さ方向に積層された一対の電極膜と、前記一対の電極膜の間に挟まれて前
記一対の電極膜間に印加される駆動信号によって前記深さ方向に変位する圧電膜とを有し、前記圧電膜は、前記収容部内に埋め込まれて、前記収容部の開口における表面が基体表面と面一である。
【0008】
本発明の圧電アクチュエータによれば、圧電素子を形成する際、基板表面に成膜した圧電膜のパターニングに、基板表面の面方向に沿う研磨加工を利用できる。したがって、圧電膜のパターニングにエッチング加工を利用する場合に比べて、量産性に優れた製造方法を適用することができ、ひいては圧電アクチュエータの生産性を向上できる。
【0009】
この圧電アクチュエータにおいて、前記一対の電極膜は、前記収容部の内面全体を被覆する凹状の第1電極膜と、前記収容部の開口における前記圧電膜の表面に積層された第2電極膜とを有し、前記圧電膜は、前記凹状の第1電極膜内に埋め込まれて、前記第1電極膜は、前記収容部の開口において前記圧電膜を囲う端面が前記基体表面と面一である構成が好ましい。
【0010】
この圧電アクチュエータによれば、圧電素子を形成する際、基板表面に成膜した第1電極膜のパターニングに、圧電膜のパターニングと共通する研磨加工を利用できる。したがって、第1電極膜と圧電膜とを同時にパターニングできることから、より量産性に優れた製造方法を適用することができ、ひいては圧電アクチュエータの生産性を、より一層に向上できる。
【0011】
この圧電アクチュエータにおいて、前記基体は、前記基体表面が絶縁膜からなるシリコン基板であり、前記収容部の内面は、前記基体表面から連続する前記絶縁膜であり、前記作動部は、前記収容部に接続されて液状体を貯留するキャビティであって、前記圧電素子の変位によって前記液状体を振動させる構成でもよい。
【0012】
この圧電アクチュエータによれば、シリコンキャビティを有する圧電アクチュエータに関して、その生産性を向上できる。
本発明の圧電アクチュエータの製造方法は、圧電素子が形成された基体に前記圧電素子の変位によって作動する作動部を備えた圧電アクチュエータの製造方法であって、前記作動部と対向した凹状の収容部を基体表面に形成する工程と、前記収容部の底面に第1電極膜を形成する工程と、前記基体表面に圧電膜を成膜して前記収容部内に圧電膜を埋め込む工程と、前記基体表面の面方向に沿って前記圧電膜を前記基体表面まで研磨して前記基体表面を平坦化し、前記収容部内に前記圧電膜をパターニングする工程と、前記収容部の開口から露出する前記圧電膜の表面に第2電極膜を形成する工程とを備えた。
【0013】
本発明の圧電アクチュエータの製造方法によれば、基体表面に成膜した圧電膜のパターニングに、基体表面の面方向に沿う研磨加工を利用する。したがって、圧電膜のパターニングにエッチング加工を利用する場合に比べて、量産性に優れた製造方法を適用することができ、ひいては圧電アクチュエータの生産性を向上できる。
【0014】
この圧電アクチュエータの製造方法において、前記第1電極膜を形成する工程は、前記基体表面と前記収容部の内面全体とを被覆するように前記第1電極膜を成膜し、前記圧電膜を埋め込む工程は、前記第1電極膜を被覆するように前記圧電膜を成膜して前記第1電極膜で被覆された前記収容部内に前記圧電膜を埋め込み、前記圧電膜をパターニングする工程は、前記圧電膜と前記第1電極膜とを前記基体表面まで研磨して前記基体表面を平坦化し、前記収容部内に前記圧電膜と前記第1電極膜とをパターニングする構成が好ましい。
【0015】
この圧電アクチュエータの製造方法は、基体表面に成膜した第1電極膜のパターニング
に、圧電膜のパターニングと共通する研磨加工を利用する。したがって、第1電極膜と圧電膜とを同時にパターニングできることから、より量産性に優れた製造方法を適用することができ、ひいては圧電アクチュエータの生産性を、より一層に向上できる。
【0016】
この圧電アクチュエータの製造方法において、前記収容部を凹設する工程は、前記研磨を抑止する研磨抑止膜を前記基体に成膜して前記研磨抑止膜からなる前記基体表面を形成し、前記圧電膜をパターニングする工程は、前記研磨を前記研磨抑止膜によって抑止する構成が好ましい。
【0017】
この圧電アクチュエータの製造方法は、圧電膜に対する研磨を基板表面で抑止することから、圧電膜への過剰な研磨を確実に抑えることができ、より高い形状精度の下で圧電膜をパターニングできる。したがって、圧電素子に関わる形状のバラツキを抑えられることから、圧電アクチュエータの生産性を、さらに向上できる。
【0018】
この圧電アクチュエータの製造方法において、前記収容部を凹設する工程は、前記圧電膜を配向させる配向材料を前記研磨抑止膜に用いる構成が、より好ましい。
この圧電アクチュエータの製造方法によれば、研磨抑止膜を配向膜で構成することから、研磨抑止膜と配向膜とを別途に成膜する場合に比べて、圧電アクチュエータの生産性を、さらに向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の圧電アクチュエータをインクジェット装置に利用される液滴吐出ヘッドに具体化した一実施例について図1〜図5を参照して説明する。図1は液滴吐出ヘッドを示す斜視図であり、図2は液滴吐出ヘッドに設けられた圧電素子を示す断面図である。
【0020】
図1において、液滴吐出ヘッド10が有するシリコン基板11には、基板の厚さ方向を貫通する複数の貫通溝11aが右斜め上に向けて延設され、シリコン基板11の左右方向に沿って所定のピッチで配列されている。各貫通溝11aの下側には、シリコン基板11の下面の全体に広がるノズルプレート12が貫通溝11aの下側を塞ぐように貼り付けられている。ノズルプレート12には、その厚さ方向を貫通して貫通溝11aと連通するノズル孔12aが貫通溝11aごとに配設されている。
【0021】
各貫通溝11aの上側には、シリコン基板11の上方へ拡開する凹部11bが貫通溝11aの長手方向の全幅にわたり凹設されている。シリコン基板11の上面には、各凹部11bの内面を被覆して貫通溝11aの上方を塞ぐシリコン酸化膜13が形成され、そのシリコン酸化膜13の上側には、シリコン酸化膜13の上側全体を被覆する配向膜14が積層されている。
【0022】
凹部11bの内部であって配向膜14で囲まれた空間には、該空間の全体にわたり圧電素子20が収容されている。本実施形態では、凹部11bの内部であって配向膜14で囲まれた空間、すなわち圧電素子20が収容される空間を、収容部Sと言う。圧電素子20は、外部からの駆動信号を受けるとき、上方及び下方に撓み、その一部を前記収容部Sの深さ方向に変位させる。配向膜14の表面においては、この圧電素子20が収容部Sを満すことにより、収容部Sを除いた表面のみが露出される。本実施形態では、配向膜14の表面であって、収容部Sの内面を除いて露出する面を、研磨抑止面14aと言う。
【0023】
なお、上記液滴吐出ヘッド10においては、上記シリコン基板11、シリコン酸化膜13、及び配向膜14によって基体が構成されている。また、貫通溝11aを囲う各部材(シリコン基板11、ノズルプレート12及びシリコン酸化膜13)により、作動部としてのキャビティが構成されている。
【0024】
前記各キャビティには、液状体Lを供給する図示しない供給タンクが連結され、供給タンクから供給される液状体Lが一旦貯留される。シリコン酸化膜13及び配向膜14は、圧電素子20が収容部Sの深さ方向へ変位するとき、その変位にともなう振動をキャビティ内へ伝播させる。圧電素子20からの振動を受けるキャビティは、貯留する液状体Lを振動させて、その液状体Lを液滴にしてノズル孔12aから吐出させる。
【0025】
上記シリコン酸化膜13としては、例えばシリコン基板11の熱酸化やCVD成膜によって形成した厚さが3μmの酸化膜を用いることができる。また、上記配向膜14としては、上記圧電素子20が有する圧電膜に優先的な配向性を与える配向材料を用いることができ、例えばTiO、BaTiO、MgOからなる膜厚が3μmの絶縁膜を用いることができる。さらに、本実施形態における配向膜14には、前記圧電膜の化学機械研磨(以下単に、CMPと言う。)に対して、その研磨を抑止する材料、すなわち前記圧電膜のCMP加工において、CMPストッパ膜として機能する材料が選択されている。
【0026】
なお、図1においては、説明の便宜上、キャビティの数量及びノズル孔12aの数量を省略して示すが、キャビティの数量及びノズル孔12aの数量は、液滴を用いて形成するパターンの解像度に応じて、数十個〜数百個の範囲で適宜選択される。また、ノズル孔12aの直径は、パターンの解像度に応じて、10μm〜100μmの範囲で適宜選択される。また、シリコン基板11の厚さは、特に限定されないものの、100〜1000μm程度とするのが好ましい。また、キャビティの容積は、特に限定されないものの、0.1〜100nLとするのが好ましく、0.1〜10nL程度とするのがより好ましい。
【0027】
図2において、圧電素子20は、収容部Sの深さ方向に積層された下部電極膜21と上部電極膜23とからなる一対の電極膜と、その一対の電極膜の間に挟まれた圧電膜22とを有している。
【0028】
下部電極膜21は、凹部11bに形成された配向膜14の表面、すなわち収容部Sの内面の全体を被覆する導電膜であって、前記研磨抑止面14aと面一の端面(以下単に、電極加工面21aと言う。)を有する。下部電極膜21の材料としては、導電性を有し、かつ、配向膜14が有する配向を維持あるいは増幅する材料を用いることができ、この種の材料としてはPt、Pd、Ru、Ir、Ti、RuO、IrO等が挙げられる。
【0029】
圧電膜22は、前記下部電極膜21で覆われた収容部S内を充填する膜であって、前記研磨抑止面14a及び前記電極加工面21aと面一の上面(以下単に、圧電加工面22aと言う。)を有する。すなわち、圧電膜22は、研磨抑止面14a及び電極加工面21aと協働して、シリコン基板11の上側の全体にわたる1つの平坦面を形成している。この圧電膜22は、配向膜14及び下部電極膜21の配向力によって、収容部Sの深さ方向に変位するように優先的に配向している。所定の駆動信号がこの圧電膜22に印加されるとき、圧電膜22の結晶格子は、収容部Sの深さ方向、すなわち上下方向に引き伸ばされ、同時に水平方向に圧縮される。この際、圧電加工面22aの面内に引っ張り応力が加えられ、この応力によって、圧電素子20が上方及び下方に撓む。圧電材料としては、高い圧電特性を示すジルコン酸チタン酸鉛(PZT)系やLaNiO等のペロブスカイト構造を有した複合酸化物を用いることができる。
【0030】
上部電極膜23は、前記圧電加工面22aの一部を被覆する導電膜であって、下部電極膜21から離間することによって下部電極膜21と電気的に絶縁されている。上部電極膜23の材料としては、導電性を有する材料、例えばPt、Ir、Au、Ag、Cu、Alなどを用いることができる。
【0031】
液滴吐出ヘッド10は、上記下部電極膜21と上部電極膜23との間に所定の駆動信号が入力されるとき、圧電膜22を収容部Sの深さ方向に変位させてキャビティに貯留された液状体Lを振動させる。圧電膜22からの振動を受けるキャビティは、貯留する液状体Lを振動させて、その液状体Lを液滴にしてノズル孔12aから吐出させる。
【0032】
次に、上記液滴吐出ヘッド10の製造方法について図3及び図4を参照して説明する。図3(a)〜(e)及び図4(a)〜(d)は、それぞれ液滴吐出ヘッド10の製造工程を示す断面図である。
【0033】
まず、図3(a)に示すように、シリコン基板11の上面にエッチング処理が施され、圧電素子20を収容するための凹部11bがシリコン基板11にパターニングされる。次いで、図3(b)に示すように、凹部11bを有するシリコン基板11に熱酸化法やCVD法等を用いた成膜処理が施され、凹部11bを含むシリコン基板11の上面全体にシリコン酸化膜13が形成される。続いて、図3(c)に示すように、シリコン酸化膜13で覆われたシリコン基板11にCVD法やPVD法等を用いた成膜処理が施され、シリコン酸化膜13の全体を覆う配向膜14が形成される。これによって、配向膜14の一部をなす研磨抑止面14aと、配向膜14で囲まれた前記収容部Sとがシリコン基板11上に形成される。
【0034】
収容部Sが形成されると、図3(d)に示すように、収容部Sを有するシリコン基板11にCVD法やPVD法等を用いた成膜処理が施され、配向膜14の全体を覆う下部電極膜21が形成される。次いで、図3(e)に示すように、下部電極膜21で覆われたシリコン基板11にゾルゲル法、CVD法、PVD法等を用いた成膜処理と熱処理とが順に施され、上記の配向を有する圧電膜22が収容部S内の全体を充填して研磨抑止面14aの全体を覆うように形成される。
【0035】
収容部Sに圧電膜22が充填されると、図4(a)に示すように、圧電膜22で覆われたシリコン基板11に化学機械研磨(CMP)を用いた研磨処理が施され、シリコン基板11の上方が平坦化される。この際、シリコン基板11上に研磨抑止面14aが形成されていることから、上記の研磨処理では、この研磨抑止面14aがCMPストッパとして露出するときに抑止される。すなわち、この研磨処理においては、研磨抑止面14aの上側にある下部電極膜21及び圧電膜22が研磨されて、シリコン基板11の上方には、研磨抑止面14aを含む平坦面が自己整合的に形成される。これによって、研磨抑止面14aと面一の電極加工面21a及び研磨抑止面14aが同時に形成され、圧電素子20を構成する下部電極膜21と圧電膜22とが収容部S内に同時にパターニングされる。
【0036】
下部電極膜21と圧電膜22とがパターニングされると、図4(b)に示すように、電極加工面21aと圧電加工面22aとを有するシリコン基板11にPVD法やCVD法等を用いた成膜処理が施され、これら電極加工面21a、圧電加工面22a及び研磨抑止面14aの全体を覆う上部電極膜23が形成される。次いで、図4(c)に示すように、上部電極膜23で覆われたシリコン基板11に、スピンコート法を用いた成膜処理と、フォトリソグラフィー法を用いたパターニング処理とが施され、圧電加工面22a上に積層された上部電極膜23の一部を覆うレジスト膜PRが形成される。レジスト膜PRが形成されると、図4(d)に示すように、レジスト膜PRを有するシリコン基板11にレジスト膜PRをマスクとしたエッチング処理とレジスト膜PRの除去処理とが順に施され、圧電素子20を構成する上部電極膜23がパターニングされる。これによって、下部電極膜21と圧電膜22と上部電極膜23とからなる圧電素子20が収容部Sに形成される。
【0037】
圧電素子20が形成されると、シリコン基板11の下面にエッチング処理が施され、その下面から凹部11bにまで延びる貫通溝11aがパターニングされる。そして、貫通溝
11aを有するシリコン基板11の下面に上記ノズルプレート12が貼り付けられることによって、液滴吐出ヘッド10が形成される。
【0038】
上記実施形態によれば以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、下部電極膜21と上部電極膜23とからなる一対の電極膜と、一対の電極膜に挟まれる圧電膜22とからなる圧電素子20を収容部Sに収容し、圧電膜22の圧電加工面22aと研磨抑止面14aとを面一に構成した。これによって、圧電膜22をパターニングする工程では、化学機械研磨法を利用できるようになり、液滴吐出ヘッド10の製造工程における煩雑化の要因となっていたイオンミリングによる加工の工程を削減できる。したがって、液滴吐出ヘッド10の生産性の向上を図ることができる。
【0039】
(2)上記実施形態では、収容部Sの内面の全体を下部電極膜21で被覆し、その下部電極膜21の電極加工面21aと研磨抑止面14aとを面一に構成した。これによって、下部電極膜21をパターニングと、圧電膜22のパターニングとを、共通する一つの研磨工程で具現化できる。したがって、下部電極膜21と圧電膜22とを同時にパターニングできることから、液滴吐出ヘッド10の製造に、より量産性に優れた製造方法を適用することができ、ひいては液滴吐出ヘッド10の生産性を、より一層に向上させることができる。
【0040】
(3)上記実施形態では、配向膜14の表面の一部を研磨抑止面14aとして構成し、下部電極膜21及び圧電膜22に関する研磨処理を、その研磨抑止面14aで抑止させる。したがって、下部電極膜21及び圧電膜22に関して過剰な研磨を抑止でき、研磨抑止面14aを含む平坦面として、電極加工面21a及び圧電加工面22aを自己整合的に形成できる。この結果、より高い形状精度の下で圧電素子20を形成でき、ひいては液滴吐出ヘッド10の生産性を、より一層に向上させることができる。
【0041】
(4)また、配向膜14の一部を研磨抑止面14aとして利用することから、研磨抑止膜を別途形成する場合に比べて、液滴吐出ヘッド10の生産性を、さらに向上させることができる。
【0042】
(5)上記実施形態では、圧電膜22のパターニングを研磨加工で具現化することから、製造工程における圧電膜22への荷電粒子の照射を軽減できる。さらに、圧電膜22を収容部S内に充填したことで、上部電極膜23のパターニングに際し、圧電膜22の露出する面積を最小限に抑えることができる。したがって、荷電粒子の衝撃に起因する圧電膜22の損傷を抑制できることから、圧電素子20の歩留まりを向上させることができ、ひいては液滴吐出ヘッド10の生産性を、より一層に向上させることができる。
【0043】
(6)また、圧電膜22の露出する面積を最小限に抑えることができることから、圧電体材料と外気との接触を抑制することができ、圧電膜22の変質を、より確実に抑制することができる。したがって、圧電素子20の歩留まりを向上させることができ、ひいては液滴吐出ヘッド10の生産性を、より一層に向上させることができる。
【0044】
尚、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、配向膜14の表面の一部を研磨抑止面14aとして利用したが、これに限らず、研磨加工を所望の位置で抑止する上では、配向膜14の上層に研磨抑止膜を別途積層する構成であってもよい。
【0045】
・上記実施形態では、配向膜14が有する配向によって、圧電膜22に優先的な配向を与える構成にしたが、これに限らず、圧電膜22がその成膜過程において所望の配向を有する場合には、この配向膜14を省略する構成であってもよい。あるいは、配向膜14を
研磨抑止膜に変更する構成であってもよい。
【0046】
・上記実施形態では、配向膜14の表面の一部に研磨抑止面14aを設けたが、これに限らず、下部電極膜21や圧電膜22の研磨量を加工時間等によって十分に再現できる場合には、この研磨抑止面14aを割愛する構成であってもよい。
【0047】
・上記実施形態では、シリコン基板11の表面全体をシリコン酸化膜13で被覆する構成にしたが、これに限らず、シリコン基板11と下部電極膜21との間の電気的絶縁性を得る上では、このシリコン酸化膜13をシリコン窒化膜などの他の絶縁膜に変更してもよい。さらに、絶縁性の基体を用いる場合には、下部電極膜21と基体との間の電気的絶縁性を得られることから、上記シリコン酸化膜13を省略する構成であってもよい。
【0048】
・上記実施形態では、収容部Sの内面全体を下部電極膜21で被覆する構成にしたが、これに限らず、圧電素子20を収容部Sの深さ方向に沿って伸張及び収縮させる上では、収容部Sの底面のみに下部電極膜21を被覆する構成であってもよい。
【0049】
・上記実施形態では、電極加工面21a及び圧電加工面22aが、基板表面(研磨抑止面14a)と平行の水平面をなす。これに限らず、下部電極膜21及び圧電膜22は、研磨加工によって形成される構成上、基板表面(研磨抑止面14a)と同一の平面に略収まる、すなわち実質的に面一となる面であればよく、研磨パッドの押圧によってディッシングされた微視的な凹曲面を有する構成であってもよい。
【0050】
・上記実施形態では、収容部S内に圧電素子20を収容する上において、凹部11bの形状が、図5(a)に示すように、基板表面に向けて拡開した形状であってもよく、あるいは、図5(b)に示すように、基板表面に向けて狭窄した形状であってもよい。拡開した形状の場合、収容部Sの内面に対して、下部電極膜21の被覆性を向上させることができ、また圧電膜22の充填性を向上させることができる。狭窄した形状の場合、収容部Sの内周面に対して、配向膜14や下部電極膜21の堆積を抑制させることができ、圧電膜22へ印加する電場を収容部Sの深さ方向へ揃えることができる。
【0051】
・上記実施形態では、作動部をキャビティに具体化し、圧電アクチュエータを液滴吐出ヘッド10に具体化した。これに限らず、例えば圧電アクチュエータは、MEMS(Micro-Electro-Mechanical-System)技術を利用した可変容量素子であってもよく、この際、
作動部は、圧電素子20の下部電極膜21と対向して該下部電極膜21との間の静電容量を可変にする対向電極であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】液滴吐出ヘッドを示す斜視図。
【図2】圧電素子を示す断面図。
【図3】(a)〜(e)は、それぞれ液滴吐出ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図4】(a)〜(d)は、それぞれ液滴吐出ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図5】(a)、(b)は、それぞれ液滴吐出ヘッドの変更例を示す断面図。
【図6】(a)〜(e)は、それぞれ液滴吐出ヘッドの製造工程の従来例を示す断面図。
【符号の説明】
【0053】
10…圧電アクチュエータとして液滴吐出ヘッド、11…基体を構成するシリコン基板、11a…キャビティを構成する貫通溝、12…キャビティを構成するノズルプレート、13…キャビティを構成する絶縁膜としてのシリコン酸化膜、14…研磨抑止膜としての配向膜、14a…研磨抑止面、20…圧電素子、21…第1電極膜としての下部電極膜、
22…圧電膜、23…第2電極膜としての上部電極膜、51…基板、52…酸化物膜、53…配向膜、54…下部電極膜、55…圧電膜、56…上部電極膜、L…液状体、PR…レジスト膜、S…収容部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子が形成された基体に前記圧電素子の変位によって作動する作動部を備えた圧電アクチュエータであって、
前記基体の表面には前記圧電素子を収容する凹状の収容部が前記作動部と対向するように設けられ、
前記圧電素子は、前記収容部の深さ方向に積層された一対の電極膜と、前記一対の電極膜の間に挟まれて前記一対の電極膜間に印加される駆動信号によって前記深さ方向に変位する圧電膜とを有し、
前記圧電膜は、前記収容部内に埋め込まれて、前記収容部の開口における表面が基体表面と面一であることを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電アクチュエータであって、
前記一対の電極膜は、前記収容部の内面全体を被覆する凹状の第1電極膜と、前記収容部の開口における前記圧電膜の表面に積層された第2電極膜とを有し、
前記圧電膜は、前記凹状の第1電極膜内に埋め込まれて、
前記第1電極膜は、前記収容部の開口において前記圧電膜を囲う端面が前記基体表面と面一であることを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の圧電アクチュエータであって、
前記基体は、前記基体表面が絶縁膜からなるシリコン基板であり、
前記収容部の内面は、前記基体表面から連続する前記絶縁膜であり、
前記作動部は、前記収容部に接続されて液状体を貯留するキャビティであって、前記圧電素子の変位によって前記液状体を振動させることを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項4】
圧電素子が形成された基体に前記圧電素子の変位によって作動する作動部を備えた圧電アクチュエータの製造方法であって、
前記作動部と対向した凹状の収容部を基体表面に形成する工程と、
前記収容部の底面に第1電極膜を形成する工程と、
前記基体表面に圧電膜を成膜して前記収容部内に圧電膜を埋め込む工程と、
前記基体表面の面方向に沿って前記圧電膜を前記基体表面まで研磨して前記基体表面を平坦化し、前記収容部内に前記圧電膜をパターニングする工程と、
前記収容部の開口から露出する前記圧電膜の表面に第2電極膜を形成する工程とを備えたことを特徴とする圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載する圧電アクチュエータの製造方法であって、
前記第1電極膜を形成する工程は、前記基体表面と前記収容部の内面全体とを被覆するように前記第1電極膜を成膜し、
前記圧電膜を埋め込む工程は、前記第1電極膜を被覆するように前記圧電膜を成膜して前記第1電極膜で被覆された前記収容部内に前記圧電膜を埋め込み、
前記圧電膜をパターニングする工程は、前記圧電膜と前記第1電極膜とを前記基体表面まで研磨して前記基体表面を平坦化し、前記収容部内に前記圧電膜と前記第1電極膜とをパターニングすることを特徴とする圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載する圧電アクチュエータの製造方法であって、
前記収容部を凹設する工程は、前記研磨を抑止する研磨抑止膜を前記基体に成膜して前記研磨抑止膜からなる前記基体表面を形成し、
前記圧電膜をパターニングする工程は、前記研磨を前記研磨抑止膜によって抑止することを特徴とする圧電アクチュエータの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載する圧電アクチュエータの製造方法であって、
前記収容部を凹設する工程は、前記圧電膜を配向させる配向材料を前記研磨抑止膜に用いることを特徴とする圧電アクチュエータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−253027(P2009−253027A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99295(P2008−99295)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】