説明

圧電アクチュエータ装置及びそれを備えた液滴噴射装置

【課題】マイグレーションの発生を防ぐことができる圧電アクチュエータ装置及びそれを備えた液滴噴射装置を提供すること。
【解決手段】圧電アクチュエータ装置90は、圧電層71と、圧電層71の両面にそれぞれ設けられ、圧電層71を挟んで相対向する共通電極73及び個別電極72とを備えた圧電アクチュエータ32と、個別電極72に共通電極73よりも高い電位を付与して、個別電極72から共通電極73に向かう方向に電界を発生させるドライバIC80とを備えている。そして、個別電極72は、共通電極73に比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイグレーションの発生を防ぐことができる圧電アクチュエータ装置及びそれを備えた液滴噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電界が作用したときの圧電層の変形(圧電歪)を利用して、様々な対象を駆動する圧電アクチュエータが知られている。例えば、特許文献1には、ノズルからインクの液滴を噴射するインクジェットヘッド用の圧電アクチュエータが開示されている。この特許文献1の圧電アクチュエータは、圧力室を含むインク流路が形成されたインク流路基板に設けられており、圧電層と、この圧電層の一方の面において圧力室と対向するように配置された個別電極と、個別電極との間で圧電層を挟むように、圧電層の他方の面に設けられた共通電極とを有する。
【0003】
そして、個別電極に共通電極の電位よりも高い電位が付与されて、両電極間に所定の電位が付与されたときには、これらの電極に挟まれる圧電層に厚み方向の電界が作用する。このとき、圧電層が面方向に収縮することによって、振動板が撓むことになり、圧力室の容積が変化して、圧力室内のインクに圧力が付与される。
【0004】
【特許文献1】特開2001−38899公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、圧電層に設けられた2つの電極に異なる電位が付与されたときには、2つの電極間でマイグレーションが生じる。なお、この場合のマイグレーションとは、高い電位が付与される電極から、低い電位が付与される電極へ、圧電層中を電極材料が電界方向に沿って移動し、結晶として析出される現象のことを指す。このマイグレーションが進行すると、圧電層の絶縁抵抗が低下し、絶縁不良や、さらには、2つの電極間でのショートを引き起こすことになる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、マイグレーションの発生を防ぐことができる圧電アクチュエータ装置及びそれを備えた液滴噴射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明の圧電アクチュエータ装置は、圧電層と、前記圧電層の両面にそれぞれ設けられ、前記圧電層を挟んで相対向する第1電極及び第2電極とを備えた圧電アクチュエータと、前記第2電極に前記第1電極よりも高い電位を付与して、前記第2電極から前記第1電極に向かう方向に電界を発生させる電位付与手段とを備え、前記第2電極は、前記第1電極に比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
圧電層及びその圧電層を挟む2つの電極を持つ圧電アクチュエータ装置において、電位を付与し電界を発生させた場合、高電位が付与される電極に使用された材料が電界方向に沿って電離し、両電極間に挟まれた圧電層の中を電界方向に移動し、結晶として析出されることにより、絶縁不良を起こす場合がある(マイグレーション)。そこで、上記発明により、高電位が付与される第2電極に低電位が付与される第1電極よりも相対的にマイグレーションしにくい材料を使用することで、両電極への電位の付与の際、高電位が付与される第2電極に使用されたマイグレーションしにくい材料が、電界方向に電離するのを防ぎ、マイグレーションを起こすことを防止することができる。
【0009】
また、第2の発明の圧電アクチュエータ装置は、上記の第1の発明において、前記第2電極は、前記圧電層の一方の面に設けられた表面電極と、この表面電極に導通するとともに前記電位付与手段と接続される接合電極とを有するものであり、前記接合電極は、前記圧電層の一方の面の前記第1電極と対向する領域に設けられるとともに、前記第1電極に比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成されていることを特徴とするものである。
【0010】
一般に、圧電アクチュエータ装置において、圧電アクチュエータの電極に電位を付与する電位付与手段と接続される接合電極が設けられることがある。そして、係る接合電極も、第2電極への電位付与の際に前述した第1電極との間でマイグレーションを引き起こす場合がある。そこで、上記発明により、圧電層を挟んで第1電極に対向する領域に設けられた接合電極を、第1電極に比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成することにより、接合電極のマイグレーションを防止することができる。
【0011】
また、第3の発明の圧電アクチュエータ装置は、上記の第2の発明において、前記第2電極のうちの前記接合電極と導通する前記表面電極と、前記第1電極とが、同じ材料で形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
上記発明によれば、電気的特性・コスト削減の面等で、第2電極のうちの接合電極と導通する表面電極及び第1電極に使用される材料と接合電極に使用する材料とが異なる場合でも、接合電極に使用された材料がマイグレーションを起こすことを防止することができる。
【0013】
また、第4の発明の圧電アクチュエータ装置は、積層された2枚の圧電層と、前記2枚の圧電層をそれぞれ挟むように配置された所定の高電位が付与される高電位電極と、前記高電位よりも低い所定の低電位が付与される低電位電極と、前記高電位と前記低電位との間で電位が切り替えられる駆動電極とを備えた圧電アクチュエータと、前記高電位電極、前記低電位電極及び前記駆動電極の3つの電極にそれぞれ前記所定の電位を付与して、高電位が付与される電極から低電位が付与される電極に向かう方向に電界を発生させる電位付与手段とを備え、前記3つの電極のうちの少なくとも2つの電極間において発生させた電界方向の上流側に位置する電極は、前記電界方向の下流側に位置する電極と比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
高電位電極と低電位電極と駆動電極を含む3層構造の圧電アクチュエータにおいても上述したマイグレーションが発生する場合がある。そこで、本発明によれば、高電位電極と低電位電極と駆動電極の3つの電極のうちの少なくとも2つの電極間において発生させた電界方向の上流側に位置する電極は、電界方向の下流側に位置する電極と比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成することにより、電界方向の上流側に位置する電極が、マイグレーションを起こすのを防止することができる。
【0015】
また、第5の発明の圧電アクチュエータ装置は、上記の第4の発明において、前記高電位電極は、前記低電位電極と比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
第4の発明に示す3層構造の圧電アクチュエータでは、高電位電極が、常時高い電位に維持されているため、高電位電極のマイグレーションが常時進行する状態にある。そこで、本発明により、高電位電極と低電位電極との関係で、高電位電極を、マイグレーションしにくい材料にすることで、高電位電極がマイグレーションを起こすことを防ぐことができる。
【0017】
また、第6の発明の圧電アクチュエータ装置は、上記の第4又は第5の発明において、前記高電位電極は、前記駆動電極と比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成されていることを特徴とするものである。
【0018】
上記の発明によれば、高電位電極が、常時高い電位に維持されているため、高電位電極から駆動電極へのマイグレーションが進行するおそれがある。そこで、高電位電極と駆動電極との関係で、高電位電極を、マイグレーションしにくい材料にして、高電位電極がマイグレーションを起こすことを防ぐことができる。
【0019】
また、第7の発明の圧電アクチュエータ装置は、上記の第4〜第6の発明のいずれかにおいて、前記駆動電極は、前記低電位電極と比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成されていることを特徴とするものである。
【0020】
上記の発明によれば、駆動電極が、高電位に切り替えられたときに、駆動電極から低電位電極へのマイグレーションが進行するおそれがある。そこで、駆動電極と低電位電極との関係で、高電位に切り替えられる駆動電極を、マイグレーションしにくい材料にして、駆動電極がマイグレーションを起こすことを防ぐことができる。
【0021】
また、第8の発明の圧電アクチュエータ装置は、上記の第4の発明において、前記駆動電極は、前記積層された圧電層の表面に設けられた表面電極と、この表面電極に導通するとともに前記電位付与手段と接続される接合電極とを有するものであり、前記接合電極は、前記高電位電極及び低電位電極に比べて相対的にマイグレーションしやすい材料により形成されるとともに、前記圧電層の表面の前記高電位電極と対向する領域に設けられていることを特徴とするものである。
【0022】
上記の発明によれば、接合電極は、高電位電極及び低電位電極に比べて相対的にマイグレーションしやすい材料により形成される場合に、圧電層の表面の高電位電極と対向する領域に設けられることにより、接合電極がマイグレーションを起こすのを防止することができる。
【0023】
また、第9の発明の液滴噴射装置は、液滴を噴射する複数のノズルと、前記複数のノズルにそれぞれ連通する複数の圧力室を含む液体流路が形成された流路ユニットと、前記流路ユニットに、前記圧力室を覆うように設けられた第1〜第8の発明のいずれかに係る圧電アクチュエータ装置と、を備えたことを特徴とするものである。
【0024】
上記の発明によれば、液滴噴射装置に第1〜第8の発明のいずれかに係る圧電アクチュエータ装置を備えることで、マイグレーションを防止することができる液滴噴射装置を提供することができる。
【0025】
また、第10の発明の圧電アクチュエータは、圧電層と、前記圧電層の両面にそれぞれ設けられ、前記圧電層を挟んで相対向する第1電極及び第2電極を備え、前記圧電層は、第2電極から第1電極に向かう方向に分極されており、前記第2電極は、前記第1電極に比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成されていることを特徴とするものである。
【0026】
圧電層に施される分極処理による分極方向と同じ方向に電界が作用するように電位を付与するのが一般的である。そこで、第1の発明を分極方向によって説明した上記の発明によれば、分極された圧電層の分極方向上流側に配置された電極に分極方向下流側に配置された電極よりも相対的にマイグレーションしにくい材料を使用し、分極方向下流側に配置された電極に分極方向上流側に配置された電極よりも相対的にマイグレーションしやすい材料を使用することで、両電極への電位付与の際、分極方向上流側に配置されたマイグレーションしにくい材料がマイグレーションを起こすのを防止し、分極方向下流側に配置されたマイグレーションしやすい材料が、電界によるマイグレーションの影響を受けることを防止することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、圧電層及びその圧電層を挟む2つの電極を持つ圧電アクチュエータ装置において、高電位が付与される第2電極に低電位が付与される第1電極よりも相対的にマイグレーションしにくい材料を使用することで、2つの電極への電位の付与の際、高電位が付与される第2電極に使用されたマイグレーションしにくい材料が、電界方向に電離するのを防ぎ、マイグレーションを起こすことを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
(実施の形態1)
次に、本発明の実施の形態1について説明する。
【0029】
図1は、実施の形態1に係るプリンタ1の概略構成図である。図1に示すように、プリンタ1は、キャリッジ2、インクジェットヘッド3(液滴噴射装置)、搬送ローラ4などを備えている。
【0030】
キャリッジ2は走査方向(図1の左右方向)に往復移動する。インクジェットヘッド3はキャリッジ2の下面に取り付けられており、その下面に形成されたノズル15(図3及び図4参照)からインクを吐出する。搬送ローラ4は、印刷用紙Pを紙送り方向(図1の手前方向)に搬送する。そして、プリンタ1においては、キャリッジ2とともに走査方向に往復移動するインクジェットヘッド3のノズル15から、印刷用紙Pにインクが吐出されることにより、印刷用紙Pに印刷が行われる。また、印刷が完了した印刷用紙Pは、搬送ローラ4によって紙送り方向に排出される。
【0031】
(インクジェットヘッド3の構成)
次にインクジェットヘッド3について詳細に説明する。図2は、図1のインクジェットヘッド3の分解斜視図である。図3は、図2のインクジェットヘッド3の平面図である。図4は、圧電アクチュエータ32の図3のV−V’線断面図である。図5は、圧電アクチュエータ32の分極方向を示す説明図である。
【0032】
図2〜図4に示すように、インクジェットヘッド3は、流路ユニット31と圧電アクチュエータ装置90とを備えている。流路ユニット31は、複数のプレート21〜27が互いに積層されることによって、インク供給口9からインクが供給されるマニホールド流路11、及び、マニホールド流路11の出口からアパーチャ流路12を経て圧力室10に至り、さらに、圧力室10からディセンダ流路14を経てノズル15に至る複数の個別インク流路を有するインク流路(液体流路)が形成されている。そして、後述するように、圧電アクチュエータ32により、圧力室10内のインクに圧力が付与されると、圧力室10に連通するノズル15からインクが吐出される。
【0033】
複数の圧力室10は、走査方向(図3の左右方向)を長手方向とする略楕円形の平面形状を有しており、紙送り方向(図3の上下方向)に沿って配列されて1つの圧力室列8を構成しており、このような圧力室列8が、走査方向に2列に配列されることによって1つの圧力室群7を構成している。さらに、このような圧力室群7が走査方向に沿って5つ配列されている。ここで、1つの圧力室列群7に含まれる2列の圧力室列8を構成する圧力室10同士は、紙送り方向に関して互いにずれて配置されている。また、複数のノズル15も、複数の圧力室10と同様に配置されている。
【0034】
次に、圧電アクチュエータ装置90について説明する。図2に示すように、圧電アクチュエータ装置90は、圧電アクチュエータ32(圧電アクチュエータ)と、圧電アクチュエータ32と電気的且つ機械的に接合されたフレキシブル配線基板(FPC)81と、フレキシブル配線基板81に実装されたドライバIC80(電位付与手段)とを備えている。
【0035】
(圧電アクチュエータ32の構成)
圧電アクチュエータ32は、図3及び図4に示すように、複数の圧力室10を覆うように流路ユニット31の上面に接合された振動板70と、振動板70の上面に配置された共通電極73(第1電極)と、共通電極73の上面に配置された圧電層71(圧電層)と、圧電層71の上面に配置された複数の個別電極72(第2電極)とを備えている。
【0036】
振動板70と圧電層71は、共に、圧電材料(例えば、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする圧電材料)により、略矩形の平面形状を有するシート状に形成されている。そして、振動板70と圧電層71は、互いに積層された状態で、流路ユニット31上面に複数の圧力室10を覆うように連続的に配置されている。また、図5に示すように、上層に位置する圧電層71は、予め個別電極72から共通電極73に向かって下向きに分極されている(分極方向75)。
【0037】
複数の個別電極72は、それぞれ、圧力室10よりも一回り小さい略矩形の平面形状を有し、圧電層71の上面の、複数の圧力室10の略中央部と対向する領域に配置されている。また、共通電極73は、振動板70と圧電層71の間に、それらの表面のほぼ全域にわたって形成されている。即ち、共通電極73及び個別電極72は、圧電層71の両面に相対向するように配置されている。
【0038】
圧電アクチュエータ32における2つの電極(個別電極72、共通電極73)は、その電極を形成する材料を異ならせることが好ましい場合がある。例えば、圧電アクチュエータ32の製造過程において、振動板40の上面に共通電極73を接着する際に焼成処理により接着をするが、この焼成処理の熱による形状変化の影響を受けにくい金属材料を共通電極73に使用するのが好ましい。そこで、本実施例では、共通電極73には、焼成処理の熱による形状変化の影響を受けにくい銀とパラジウムの合金(Ag−Pd)を使用している。また、個別電極72には、圧電アクチュエータ32の構造上、外部の大気と接するため、防錆性がある金属材料を使用するのが好ましい。そして、防錆性がある材料として、例えば、銀(Ag)、金(Au)などが上げられるが、銀(Ag)は、銀とパラジウムの合金(Ag−Pd)よりも、マイグレーションしやすく、金(Au)は、銀とパラジウムの合金(Ag−Pd)よりも、マイグレーションしにくい金属材料である。このため、本実施例では、個別電極72に、銀とパラジウムの合金(Ag−Pd)よりもマイグレーションしにくい金属材料である金(Au)を使用している。
【0039】
このように、個別電極72と共通電極73に使用される金属材料が異なる場合、マイグレーションのしにくさが異なる場合がある。この場合、高電位が付与される個別電極72には、低電位が付与される共通電極73よりもマイグレーションしにくい材料が使用される。ここで、マイグレーションしにくい材料とは、個別電極72の使用される金属材料と共通電極73に使用される金属材料との間で相対的に決定されるものである。そして、この相対的にマイグレーションしにくい金属材料の順序としては、金(Au)>すず(Sn)>銅(Cu)>鉛(Pb)>銀(Ag)や、金(Au)>銀とパラジウムの合金(Ag−Pd)>銀(Ag)や、銀と銅の合金(Ag−Cu)>銅(Cu)などが上げられる。
【0040】
次に、図2に示すように、圧電アクチュエータ32の圧電層71の上面には、本体側の基板から送信された印字データに従って圧電アクチュエータ32を駆動するドライバIC80が、フレキシブル配線基板81に実装され、フレキシブル配線基板81が圧電アクチュエータ32と電気的かつ機械的に接合されて、本体側と接続されている。そして、ドライバIC80から、複数の個別電極72のそれぞれに対して、高電位と低電位(グランド電位)の一方が選択的に付与されるようになっている。一方、共通電極73は、ドライバIC80内のグランド線に接続されることにより、常に低電位(グランド電位)に保持されている。即ち、ドライバIC80は、個別電極72に共通電極73よりも高い電位を付与して、個別電極72から共通電極73に向かう方向に電界を発生させるものである。
【0041】
このように、振動板70と圧電層71は、共に、全ての圧力室10を共通に覆うように配置された、圧電材料からなる層であるが、上層に位置する圧電層71は、圧力室10と対向する領域において個別電極72と共通電極73に上下両側から挟まれた構成となっている。即ち、この圧電層71は、個別電極72に所定の高電位が付与されたときに、分極方向75と同じ方向に電界が印加されて圧電歪みが生じる活性層として働く。一方、下層に位置する振動板70は、個別電極72と共通電極73に挟まれた構成となっておらず、この振動板70は、圧電材料で構成されているものの、実際には圧電歪みが生じない非活性層である。
【0042】
(圧電アクチュエータ32の動作)
以上の圧電アクチュエータ32の、インクの吐出時における動作について図6を参照して説明する。図6の(a)は、圧電アクチュエータ32の動作前の状態を示す説明図である。また、図6の(b)は、圧電アクチュエータ32の動作時の状態を示す説明図である。
【0043】
圧電アクチュエータ32がインクを吐出させる動作を行う前の待機状態においては、図6の(a)に示すように、共通電極73には、常時グランド電位が付与されている。また、個別電極72には、待機状態において、グランド電位が付与されている。そして、インクを吐出させるべく圧電アクチュエータ32を駆動させる際に、ドライバIC80から、個別電極72に対して高電位(例えば、20V)が付与されると、この高電位が付与された個別電極72と、グランド電位に保持されている共通電極73との間に電位差が生じ、図6の(b)に示すように、これらの個別電極72と共通電極73との間に挟まれた圧電層71に個別電極72から共通電極73の方向(分極方向75と同じ方向)に電界が印加される(電界方向76)。この電界方向76は圧電層71の分極方向75と平行であるので、この圧電層71は、電界が印加された部分において厚み方向に伸びて面方向に収縮する。一方、非活性層である振動板70は、圧力室10の周囲領域においてキャビティプレート21に固定されていることから、上層の圧電層71が面方向に収縮することによって、下層の振動板70は、圧力室10と対向する領域において、圧力室10側に凸となるように変形する(ユニモルフ変形)。このとき、圧力室10の容積が減少することから、その内部のインクの圧力が上昇し、圧力室10に連通するノズル15からインクの液滴が噴射される。
【0044】
インクを吐出させるべく圧電アクチュエータ32を駆動させる際に、ドライバIC80から、個別電極72に対して高電位(20V)が付与されると、この高電位が付与された個別電極72と、グランド電位が付与されている共通電極73との間に電位差が生じ、これらの個別電極72と共通電極73との間に挟まれた圧電層71に個別電極72から共通電極73の方向に電界が発生する(電界方向76)。そして、高電位が付与された個別電極72に使用された材料が電界方向76に沿って電離し、個別電極72と共通電極73との間に挟まれた圧電層71の中を電界方向76に移動し、結晶として析出されることにより、絶縁不良を起こす場合がある(マイグレーション)。
【0045】
そこで、上記の構成によれば、高電位が付与される個別電極72に低電位(グランド電位)が付与される共通電極73よりも相対的にマイグレーションしにくい材料を使用し、低電位が付与される共通電極73に高電位が付与される個別電極72よりも相対的にマイグレーションしやすい材料を使用することで、個別電極72及び共通電極73への電位付与の際、高電位が付与される個別電極72に使用されたマイグレーションしにくい材料が、電界方向76に電離するのを防ぎ、マイグレーションを起こすことを防止することができる。
【0046】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2に係る圧電アクチュエータ装置190について説明する。この圧電アクチュエータ装置190は、実施の形態1における圧電アクチュエータ装置90の圧電アクチュエータ32を3つの電極を持つ圧電アクチュエータ132に置き換えたものであるため圧電アクチュエータ132について詳しく説明する。なお、実施の形態1と同様の構成を有するものについては同じ符号を付し、適宜その説明を省略する。図7は、実施の形態2に係る圧電アクチュエータ132の図3のV−V’線断面図である。図8は、実施の形態2に係る圧電アクチュエータ132の分極方向を示す説明図である。
【0047】
(圧電アクチュエータ132の構成)
実施の形態2に係る圧電アクチュエータ132は、図7に示すように、振動板40及び下部圧電層41(2枚の圧電層の1つ)、上部圧電層42(2枚の圧電層の1つ)、下部電極43(低電位電極)、中間電極44(高電位電極)及び上部電極45(駆動電極)を備えている。振動板40は、圧電材料からなり、複数の圧力室10を覆うように、流路ユニット31の上面に配置されている。
【0048】
下部圧電層41及び上部圧電層42は、振動板40と同様の圧電材料からなり、互いに積層されて振動板40の上面に配置されている。
【0049】
下部電極43は、振動板40と下部圧電層41との間に配置されており、各圧力室群7に対応して、各圧力室群7を構成する2列の圧力室列8に沿って紙送り方向に延びており、これら2列の圧力室列8を構成する複数の圧力室10と対向している。また、下部電極43は、圧電アクチュエータ132の上方に配置されたフレキシブル配線基板81を介してドライバIC80(電位付与手段)に接続されており、ドライバIC80により常に低電位に保持されている。
【0050】
中間電極44は、下部圧電層41と上部圧電層42との間に配置されており、圧力室群7毎に、それぞれ、複数の対向部分を有している。複数の対向部分は、紙送り方向に関する長さが圧力室10よりも短い略矩形の平面形状を有しており、複数の圧力室10の紙送り方向に関する略中央部と対向するように配置されている。また、中間電極44は、フレキシブル配線基板81を介してドライバIC80に接続されており、ドライバIC80により、常に高電位(例えば、20V程度)に保持されている。
【0051】
複数の上部電極45は、上部圧電層42の上面に、複数の圧力室10に対応して、複数の圧力室10のほぼ全域と対向するように配置されており、紙送り方向に関する長さが中間電極44の対向部44aよりも長い、略矩形の平面形状を有している。また、上部電極45は、フレキシブル配線基板81を介してドライバIC80に接続されており、低電位(グランド電位)と高電位(例えば、20V)との間でその電位が切り替えられる。
【0052】
そして、このように下部電極43、中間電極44及び上部電極45が配置されることにより、上部圧電層42の圧力室10の略中央部と対向する部分(第1活性部R1)が上部電極45と中間電極44とに挟まれることとなる。この第1活性部R1は、図8に示すように、中間電極44から上部電極45に向かって上向きに分極されている(分極方向93)。
【0053】
さらに、上部圧電層42及び下部圧電層41の圧力室10と対向する部分が、上部電極45と下部電極43とに挟まれることとなる。そして、この部分のうち、中間電極44と対向する部分の除いた部分(第2活性部R2)が、図8に示すように、上部電極45から下部電極43に向かって下向きに分極されている(分極方向96)。
【0054】
なお、下部圧電層41のうち、中間電極44と下部電極43とに挟まれた部分は、中間電極44から下部電極43に向かって下向きに分極されている(分極方向97)(図8参照)。
【0055】
(圧電アクチュエータ132の動作)
ここで、図9に基づいて、圧電アクチュエータ132のインク吐出時の動作について説明する。図9の(a)は、圧電アクチュエータ132の待機状態の電位及び電界方向を示す説明図である。図9の(b)は、圧電アクチュエータ132の動作時の電位及び電界方向を示す説明図である。
【0056】
まず、圧電アクチュエータ132がインクを吐出させる動作を行う前の待機状態においては、図9の(a)に示すように、下部電極43及び中間電極44が、それぞれ、常に低電位(グランド電位)及び高電位(例えば、20V)に保持されているとともに、上部電極45の電位が予め低電位(グランド電位)に保持されている。この状態では、上部電極45が中間電極44よりも低電位になっているとともに、下部電極43と同電位となっている。
【0057】
これにより、上部電極45と中間電極44との間の電位差が生じ、第1活性部R1にはその分極方向93と同じ上向きの電界が発生する(電界方向94)。このため、第1活性部R1がこの電界と直交する水平方向に収縮する。これにより所謂ユニモルフ変形が生じ、上部圧電層42、下部圧電層41及び振動板40の圧力室10と対向する部分が全体として圧力室10に向かって凸となるように変形する。この状態では、上部圧電層42、下部圧電層41及び振動板40が変形していない場合と比較して、圧力室10の容積が小さくなっている。
【0058】
そして、インクを吐出させるべく圧電アクチュエータ132を駆動させる際には、上部電極45の電位を、一旦、図9の(b)に示すように、高電位(例えば、20V)に切り替えた後、図9の(a)に示すように、グランド電位に戻す。図9の(b)に示すように、上部電極45の電位を高電位に切り替えると、上部電極45が中間電極44と同電位となるとともに、下部電極43よりも高電位となる。これにより、第1活性部R1の上記収縮が元に戻る。そしてこれと同時に、上部電極45と下部電極43との間に電位差が生じ、第2活性部2Rにはその分極方向96と同じ下向きの電界が発生し(電界方向95)、第2活性部R2が水平方向に収縮する。これにより、上部圧電層42、下部圧電層41及び振動板40が全体として、圧力室10と反対側に凸となるように変形し、圧力室10の容積が増加する。
【0059】
この後、図9の(a)に示すように、上部電極45の電位をグランド電位に戻すと、前述したのと同様、上部圧電層42、下部圧電層41及び振動板40の圧力室10と対向する部分が全体として圧力室10に向かって凸となるように変形し、圧力室10の容積が小さくなる。これにより、圧力室10内のインクの圧力が上昇し、圧力室10に連通するノズル15からインクが吐出される。
【0060】
なお、上述した待機状態及び圧電アクチュエータ132が駆動されている間においては、下部圧電層41の中間電極44と下部電極43との間の部分には常に電位差が生じており、下部圧電層41のこの部分には、その分極方向97と同じ方向の電界が発生している(電界方向98)。これにより、下部圧電層41のこの部分は常に収縮した状態となっている。
【0061】
上記のように高電位電極となる中間電極44と低電位電極となる下部電極43と駆動電極となる上部電極45を含む3層構造の圧電アクチュエータ装置190においても上述したマイグレーションが発生する場合がある。そこで、上記構成において、中間電極44と下部電極43と上部電極45の3つの電極のうちの少なくとも2つの電極間において発生させた電界方向の上流側に位置する電極は、電界方向の下流側に位置する電極と比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成することにより、電界方向の上流側に位置する電極が、マイグレーションを起こすのを防止することができる。
【0062】
具体的には、中間電極44を、下部電極43と比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成する。
【0063】
上記に示す3層構造の圧電アクチュエータ132では、待機時、中間電極44が、常時高電位(例えば、20V)に維持されているため、中間電極44のマイグレーションが常時進行する状態にある。そこで、中間電極44と下部電極43との関係で、中間電極44をマイグレーションしにくい材料にすることで、中間電極44が電界によるマイグレーションを起こすことを防ぎ、下部電極43を電界方向97の下流側に配置することで、下部電極43が電界によるマイグレーションの影響を受けることを防止することができる。
【0064】
あるいは、中間電極44を、上部電極45と比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成する。
【0065】
この場合、待機時、上部電極45は、グランド電位に維持され、中間電極44が、常時高電位(例えば、20V)に維持されているため、中間電極44から上部電極45へのマイグレーションが進行するおそれがある。そこで、中間電極44と上部電極45との関係で、中間電極44をマイグレーションしにくい材料にすることで、中間電極44が電界によるマイグレーションを起こすことを防ぎ、上部電極45を電界方向93の下流側に配置することで、上部電極45が電界によるマイグレーションの影響を受けることを防止することができる。
【0066】
あるいは、上部電極45を、下部電極43と比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成する。
【0067】
この場合、インクを吐出させるべく圧電アクチュエータ132を動作させる際には、上部電極45の電位を、高電位(例えば、20V)に切り替えた後、グランド電位に戻す。このように上部電極45の電位を高電位に切り替えると、上部電極45が下部電極43よりも高電位となるため、上部電極45から下部電極43への電界によるマイグレーションが進行するおそれがある。そこで、下部電極43と上部電極45との関係で、上部電極45をマイグレーションしにくい材料にすることで、上部電極45が電界によるマイグレーションを起こすことを防ぎ、下部電極43を電界方向96の下流側に配置することで、下部電極43が電界によるマイグレーションの影響を受けることを防止することができる。
【0068】
(変形例)
次に、実施の形態1又は2に種々の変更を加えた変形例1及び2について説明する。ただし、実施の形態1又は2と同様の構成を有するものについては同じ符号を付し、適宜その説明を省略する。図10は、変形例1における図5相当図である。図11は、変形例2において接合電極99に銀を使用した場合の図8相当図である。図12は、変形例2において接合電極99に金を使用した場合の図8相当図である。
【0069】
(変形例1)
図10に示すように、実施の形態1の圧電アクチュエータ32の個別電極72において、圧電層71の一方の面の共通電極73(第1電極)と対向する位置に接合電極74(接合電極)を設けてもよい。この場合、ドライバIC80が実装されたフレキシブル配線基板81と、圧電アクチュエータ32とが接合電極74を介して電気的かつ機械的に接合されることになる。なお、変形例1では、個別電極72は、表面電極に相当する。
【0070】
ここで、圧電アクチュエータ32の個別電極72の上面に接合電極74を設けた場合、フレキシブル配線基板81と圧電アクチュエータ32とを接続する際の電導性等の電気的特性の向上、加工のしやすさ、フレキシブル配線基板81と圧電アクチュエータ32との接地面積の確保、製造工程の簡易化等の観点から個別電極72及び共通電極73に使用される材料は同じものを使用し、接合電極74には、共通電極73に比べて相対的にマイグレーションしにくい材料を使用する。例えば、接合電極74には、伝導性が良好でマイグレーションしにくい材料として金を使用し、個別電極72及び共通電極73には、圧電アクチュエータ132の製造過程における焼成処理において、焼成に耐性がある銀とパラジウムの合金(Ag―Pd)を使用している。ここで、金は、銀とパラジウムの合金に比べてマイグレーションしにくい材料である。
【0071】
上記のように、圧電アクチュエータ装置90において、圧電アクチュエータ32の上面に、圧電アクチュエータ32に駆動信号を付与するドライバIC80が実装されたフレキシブル配線基板81と接続される接合電極74が設けられることがある。そして、係る接合電極74も、電位が付与された際に前述したマイグレーションを引き起こす場合がある。そこで、上記構成により、圧電層71を挟んで共通電極73に対向する領域に設けられた接合電極74を、共通電極73に比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成することにより、電界による接合電極74のマイグレーションを防止することができる。
【0072】
また、上記の構成によれば、電導性等の電気的特性の向上、加工のしやすさ、接面積の確保、製造工程の簡易化等の観点から、接合電極74と導通する個別電極72及び共通電極73に使用される材料と接合電極74に使用する材料とが異なる場合でも、接合電極74に使用された材料がマイグレーションを起こすことを防止することができる。
【0073】
(変形例2)
図11に示すように、実施の形態2の圧電アクチュエータ132の上部電極45(表面電極)において、上部圧電層42の一方の面の中間電極44と対向する位置に接合電極99(接合電極)を設けてもよい。この場合、ドライバIC80(電位付与手段)が実装されたフレキシブル配線基板81と、圧電アクチュエータ132とが接合電極99を介して電気的かつ機械的に接合されることになる。なお、接合電極99を中間電極44と対向する位置に設けた場合における「対向」とは、他の電極を挟むことなく圧電層のみを介して対向している状態をいう。
【0074】
ここで、圧電アクチュエータ132の製造過程において、下部電極43、中間電極44及び上部電極45を下部圧電層41及び下部電極43に接着する際に焼成処理により接着をするが、この焼成処理の熱による形状変化の影響を受けにくい金属材料を下部電極43、中間電極44及び上部電極45に使用するのが好ましい。そこで、本変形例において、下部電極43、中間電極44及び上部電極45には、焼成処理の熱による形状変化の影響を受けにくい銀とパラジウムの合金(Ag−Pd)を使用している。また、接合電極99には、圧電アクチュエータ32とドライバIC80を備えたフレキシブル配線基板81とを接触させる際の接触性の良さ(軟性がある)、電気的伝導性の良い金属材料を使用するのが好ましい。そして、接触性の良さ・電気的伝導性の良い金属材料として、例えば、銀(Ag)、金(Au)などが上げられるが、銀(Ag)は、銀とパラジウムの合金(Ag−Pd)よりも、マイグレーションしやすく、金(Au)は、銀とパラジウムの合金(Ag−Pd)よりも、マイグレーションしにくい金属材料である。
【0075】
そこで、銀(相対的にマイグレーションしやすい材料)で形成された接合電極99を、銀とパラジウムの合金(相対的にマイグレーションしにくい材料)で形成された中間電極44と対向させて、圧電アクチュエータ132がインクを吐出させる動作を行う前の待機状態において、接合電極99に中間電極44よりも低電位が付与されるようにする(図11参照)。
【0076】
逆に、図12に示すように、接合電極99に相対的にマイグレーションしにくい材料である金を使用した場合は、接合電極99を銀とパラジウムの合金(相対的にマイグレーションしにくい材料)で形成された下部電極43と対向させて、圧電アクチュエータ132がインクを吐出させる動作を行う際において、接合電極99に下部電極43よりも高電位が付与されるようにする(図12参照)。
【0077】
上記のように、圧電アクチュエータ装置190において、圧電アクチュエータ132の上面に、圧電アクチュエータ132に駆動信号を付与するドライバIC80が実装されたフレキシブル配線基板81と接続される接合電極99が設けられることがある。そして、係る接合電極99も、電位付与の際に前述したマイグレーションを引き起こす場合がある。そこで、上記構成により、上部電極45において、上部圧電層42を挟んで中間電極44に対向する領域に設けられた接合電極99を、中間電極44に比べて相対的にマイグレーションしやすい材料により形成される場合に、電界により接合電極99がマイグレーションを起こすのを防止することができる。
【0078】
また、上記の構成によれば、電導性等の電気的特性の向上、加工のしやすさ、接面積の確保、製造工程の簡易化等の観点から、接合電極99と導通する上部電極45、中間電極44及び下部電極43に使用される材料と接合電極99に使用する材料とが異なる場合でも、接合電極99に使用された材料がマイグレーションを起こすことを防止することができる。
【0079】
また、上記の説明では、圧電アクチュエータ装置90及び圧電アクチュエータ装置190を中心に説明したが、上記の圧電アクチュエータ装置90及び圧電アクチュエータ装置190を備えたインクジェットヘッド3によれば、マイグレーションによる電極の絶縁抵抗が低下することによるショートや絶縁不良を防止することができるインクジェットヘッド3を提供することができる。
【0080】
また、上記の説明では、電極間のマイグレーションを防止するために、相対的にマイグレーションしにくい材料を使用する電極及び相対的にマイグレーションしやすい材料を使用する電極の位置関係を、電極間の高電位から低電位方向に発生する電界方向によって説明したが、一般に、圧電層に施される分極処理による分極方向と同じ方向に電界が作用するように電位を付与するのが一般的である。そこで、圧電層に施される分極処理による分極方向によっても本発明は、説明することができる。
【0081】
例えば、図5を参照して、圧電アクチュエータ32は、圧電層71と、圧電層71の両面にそれぞれ設けられ、圧電層71を挟んで相対向する共通電極73及び個別電極72を備えている。そして、圧電層71は、個別電極72から共通電極73に向かう方向に分極されており、個別電極72は、共通電極73に比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成されていてもよい。
【0082】
上記の構成によれば、分極された圧電層71の分極方向75上流側に配置された個別電極72に分極方向75下流側に配置された共通電極73よりも相対的にマイグレーションしにくい材料を使用し、分極方向75下流側に配置された共通電極73に分極方向75上流側に配置された個別電極72よりも相対的にマイグレーションしやすい材料を使用することで、個別電極72及び共通電極73への電位付与の際、分極方向上流側に配置されたマイグレーションしにくい材料がマイグレーションを起こすのを防止し、分極方向75下流側に配置されたマイグレーションしやすい材料が、マイグレーションを起こすことを防止することができる。
【0083】
以上説明した実施の形態及びその変形例は、インクの液滴を吐出して対象物に文字や画像等を印刷するインクジェットヘッド3に本発明を適用した例であるが、圧電アクチュエータ装置を備えた様々な分野で用いられる装置にも本発明を適用することももちろん可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】プリンタの概略構成図である。
【図2】図1のインクジェットヘッドの分解斜視図である。
【図3】図2のインクジェットヘッドの平面図である。
【図4】実施の形態1に係る圧電アクチュエータの図3のV−V’線断面図である。
【図5】実施の形態1に係る圧電アクチュエータの分極方向を示す説明図である。
【図6】(a)実施の形態1に係る圧電アクチュエータの動作前の状態を示す説明図である。(b)実施の形態2に係る圧電アクチュエータの動作時の状態を示す説明図である。
【図7】実施の形態2に係る圧電アクチュエータの図3のV−V’線断面図である。
【図8】実施の形態2に係る圧電アクチュエータの分極方向を示す説明図である。
【図9】(a)実施の形態2に係る圧電アクチュエータの待機状態の電位及び電界方向を示す説明図である。(b)実施の形態2に係る圧電アクチュエータの動作時の電位及び電界方向を示す説明図である。
【図10】変形例1における図5相当図である。
【図11】変形例2において接合電極に銀を使用した場合の図8相当図である。
【図12】変形例2において接合電極に金を使用した場合の図8相当図である。
【符号の説明】
【0085】
3 インクジェットヘッド
10 圧力室
15 ノズル
31 流路ユニット
32 圧電アクチュエータ
41 下部圧電層
42 上部圧電層
43 下部電極
44 中間電極
45 上部電極
71 圧電層
72 個別電極
73 共通電極
74 接合電極
80 ドライバIC
90 圧電アクチュエータ装置
99 接合電極


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電層と、前記圧電層の両面にそれぞれ設けられ、前記圧電層を挟んで相対向する第1電極及び第2電極とを備えた圧電アクチュエータと、
前記第2電極に前記第1電極よりも高い電位を付与して、前記第2電極から前記第1電極に向かう方向に電界を発生させる電位付与手段とを備え、
前記第2電極は、前記第1電極に比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成されていることを特徴とする圧電アクチュエータ装置。
【請求項2】
前記第2電極は、前記圧電層の一方の面に設けられた表面電極と、この表面電極に導通するとともに前記電位付与手段と接続される接合電極とを有するものであり、
前記接合電極は、前記圧電層の一方の面の前記第1電極と対向する領域に設けられるとともに、前記第1電極に比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の圧電アクチュエータ装置。
【請求項3】
前記第2電極のうちの前記接合電極と導通する前記表面電極と、前記第1電極とが、同じ材料で形成されていることを特徴とする請求項2に記載の圧電アクチュエータ装置。
【請求項4】
積層された2枚の圧電層と、前記2枚の圧電層をそれぞれ挟むように配置された所定の高電位が付与される高電位電極と、前記高電位よりも低い所定の低電位が付与される低電位電極と、前記高電位と前記低電位との間で電位が切り替えられる駆動電極とを備えた圧電アクチュエータと、
前記高電位電極、前記低電位電極及び前記駆動電極の3つの電極にそれぞれ前記所定の電位を付与して、高電位が付与される電極から低電位が付与される電極に向かう方向に電界を発生させる電位付与手段とを備え、
前記3つの電極のうちの少なくとも2つの電極間において発生させた電界方向の上流側に位置する電極は、前記電界方向の下流側に位置する電極と比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成されていることを特徴とする圧電アクチュエータ装置。
【請求項5】
前記高電位電極は、前記低電位電極と比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成されていることを特徴とする請求項4に記載の圧電アクチュエータ装置。
【請求項6】
前記高電位電極は、前記駆動電極と比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成されていることを特徴とする請求項4又は5に記載の圧電アクチュエータ装置。
【請求項7】
前記駆動電極は、前記低電位電極と比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成されていることを特徴とする請求項4〜6の何れかに記載の圧電アクチュエータ装置。
【請求項8】
前記駆動電極は、前記積層された圧電層の表面に設けられた表面電極と、この表面電極に導通するとともに前記電位付与手段と接続される接合電極とを有するものであり、
前記接合電極は、前記高電位電極及び低電位電極に比べて相対的にマイグレーションしやすい材料により形成されるとともに、前記圧電層の表面の前記高電位電極と対向する領域に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の圧電アクチュエータ装置。
【請求項9】
液滴を噴射する複数のノズルと、前記複数のノズルにそれぞれ連通する複数の圧力室を含む液体流路が形成された流路ユニットと、
前記流路ユニットに、前記圧力室を覆うように設けられた請求項1〜8のいずれかに記載の圧電アクチュエータ装置と、
を備えたことを特徴とする液滴噴射装置。
【請求項10】
圧電層と、
前記圧電層の両面にそれぞれ設けられ、前記圧電層を挟んで相対向する第1電極及び第2電極を備え、
前記圧電層は、第2電極から第1電極に向かう方向に分極されており、
前記第2電極は、前記第1電極に比べて相対的にマイグレーションしにくい材料により形成されていることを特徴とする圧電アクチュエータ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−155383(P2010−155383A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334832(P2008−334832)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】