説明

圧電トランス素子およびそれを用いたインバータ

【課題】 素子が駆動する際の応力影響および分極状態の不均一に起因する素子内部での絶縁抵抗、耐電圧、放電などの寿命に関わる信頼性を低下する要因を取り除くことで、高性能な積層型の圧電トランス素子およびそれを用いたインバータを提供する。
【解決手段】 圧電セラミック層と、同一層内に一次側内部電極7,8及び二次側内部電極6となる2つのパターンが形成された内部電極層とを交互に積層した積層体の長手方向に平行な対向する両側面に、一次側内部電極7,8を互いに異極となるように取り出し、一次側外部電極2と接続するとともに、二次側内部電極6を互いに同極となるように取り出し、二次側外部電極9と接続してなり、一次側外部電極2から入力された電圧を振動に変換し、二次側外部電極9から電圧として出力する圧電トランス素子であって、二次側内部電極6の形状を凹型に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇圧用もしくは降圧用の圧電トランス素子およびそれを用いたインバータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電トランスは、励振部(一次側または入力側)に入力電圧を印加することにより機械的振動を発生させ、この振動を利用し発電部(二次側または出力側)において電圧に変換して出力するという構造で、圧電セラミック内部および外部に一次側電極、二次側電極を有している。
【0003】
現在普及している圧電トランスの大半は、ローゼン型と呼ばれる構造のもので、具体的には、図4(a)に示すような構造を有している。このローゼン型の圧電トランスが普及しているのは、特徴として、長さ、幅、厚みの選択範囲が広く、床面積を大きくすれば薄型化を達成でき、携帯テレビやノート型パーソナルコンピュータ等の薄型の携帯機器に適しているためである。
【0004】
ところで、ローゼン型構造の圧電トランス素子の一次側内部電極パターンについては、図4(b)、図4(c)に示すような、圧電セラミックグリーンシート4に一次側内部電極5を印刷したものがある。従来の圧電トランス素子では、これを用い、積層セラミックコンデンサーに代表されるような複数の内部電極が圧電セラミックを介して積層されており、各内部電極は交互に圧電セラミック積層体の第1の側面とこの第1の側面に対向する第2の側面に取り出され、一次側外部電極と接続して構成するのが一般的である。
【0005】
また、二次側外部電極は、図4の符号3に示す幅−厚み端部(長さ方向の片側半分における厚さ方向に平行な端面)に設けられるものが多い。しかし、一部には、特許文献1に示すような二次側の幅−厚み端部近傍に複数の内部電極を積層し、その内部電極に通ずる外部電極を側面に形成するものもある。例えば、図5に示すような構造である。図5において、11は、矩形状の圧電セラミック積層体、12、12aは、一次側(入力用表面)外部電極、13、13aは、二次側(グランド表面)外部電極、14、14aは、二次側(出力用表面)外部電極、15、16は、二次側(出力用側面)外部電極である。
【0006】
後者の構造のメリットとしては、一次側内部電極と二次側内部電極が、内部電極の印刷パターンで同時に印刷でき、各層の一次、二次側内部電極の間隔を一様にできるため、出力特性が安定化できることと、一次側と二次側外部電極の形成が両方を一度に可能であることである。
【0007】
【特許文献1】特開2003−17771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、一次側内部電極と二次側内部電極の距離が一定に形成されている場合は、使用中において素子が駆動する際に内部電極の端部に大きな応力が作用して、この応力の集中点と、セラミックの部分と内部電極の部分の焼結収縮差による収縮応力が集中する領域と、内部電極のひけなどの空孔が生成しやすい端部とが一致してしまい、素子が割れ易くなってしまうという欠点があった。
【0009】
また、非分極時には一次側内部電極と二次側内部電極の距離が一定に形成されていても、分極の際には素子が圧電効果で変形するため、一次側内部電極と二次側内部電極の距離が一定にならず、素子内部に分極状態の不均一が発生し、絶縁抵抗、耐電圧、放電などの寿命に関わる信頼性が低下することがあった。
【0010】
本発明は、上記の点に鑑みて、内部電極の端部での応力の集中による割れが発生せず、かつ、分極状態の不均一に起因する素子内部での絶縁抵抗、耐電圧、放電などの寿命に関わる信頼性が低下しない、高性能な圧電トランス素子およびそれを用いたインバータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、圧電セラミック層と、同一層内に一次側及び二次側内部電極となる2つのパターンが形成された内部電極層とを交互に積層した積層体の長手方向に平行な対向する両側面に、前記一次側内部電極を互いに異極となるように取り出し、一次側外部電極と接続するとともに、前記二次側内部電極を互いに同極となるように取り出し、一次側外部電極と接続してなり、前記一次側外部電極から入力された電圧を振動に変換し、前記二次側外部電極から電圧として出力する圧電トランス素子であって、前記二次側内部電極の形状を凹型に形成したことを特徴とする圧電トランス素子である。
【0012】
また、本発明は、前記一次側内部電極の長さが素子全体の長さの1/2よりも長く、かつ前記一次側内部電極における前記二次側内部電極のある側の端部の形状を凸型に形成したことを特徴とする上記の圧電トランス素子である。
【0013】
また、本発明は、前記一次側内部電極の長さが素子全体の長さの1/2よりも短く、かつ前記一次側内部電極における前記二次側内部電極のある側の端部の形状を凹型に形成したことを特徴とする上記の圧電トランス素子である。
【0014】
また、本発明は、上記の圧電トランス素子を用いたことを特徴とする圧電トランス素子を用いたインバータである。
【0015】
即ち、本発明では、3層以上の圧電セラミック層と、同一層面に第1及び第2の内部電極が構成された2層以上の内部電極層を積層した積層体で、第1の内部電極層は交互にセラミック積層体の1側面に構成された第1の一次側外部電極と1側面に対向する他の側面に構成された第2の一次側外部電極に接続され、一次側内部電極を構成するとともに、第2の内部電極は一次側内部電極とは反対側の幅−厚み部近傍に配置され、積層体の側面に構成された二次側外部電極に同極となるように接続され、二次側内部電極を構成するとともに、一次側外部電極から入力された電圧を振動に変換し二次側外部電極から電圧として出力する圧電トランスにおいて、二次側内部電極の形状を凹型にし、そして一次側内部電極の形状を、一次側内部電極の長さが素子全体の長さの1/2よりも長い場合に凸型、短い場合に凹型とする。また、本発明では、これらの圧電トランス素子を用い、インバータを構成する。
【発明の効果】
【0016】
上記のように構成することにより、本発明によれば、内部電極の端部での応力の集中による割れが発生せず、かつ、分極状態の不均一に起因する素子内部での絶縁抵抗、耐電圧、放電などの寿命に関わる信頼性が低下しない、高性能な圧電トランス素子およびそれを用いたインバータを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施の形態における圧電トランス素子を示す図であり、図1(a)は、圧電トランス素子の外観斜視図、図1(b)は、一次側内部電極が凸型の圧電セラミックグリーンシートの平面図、図1(c)は、一次側内部電極が凹型の圧電セラミックグリーンシートの平面図である。また、図2は、本発明の一実施の形態における圧電トランス素子の二次側内部電極パターンの拡大平面図である。
【0018】
図1に示すように、本発明の積層型圧電セラミックス素子1は、例えば、ジルコン酸チタン酸鉛Pb(Zr、Ti)O2を成分として含む圧電セラミックグリーンシート4にAgとPdの混合粉末、セルロース、および複数の溶剤などから構成されたペーストを印刷し、圧電体と一次側内部電極7または8および二次側内部電極6とを交互に積層して同時焼成し形成した、3層以上の圧電セラミックス層と2層以上の内部電極層とからなる圧電セラミック積層体の少なくとも2つの側面において、一次側内部電極7,8の端部を対向電極となるように一次側内部電極と一次側外部電極の距離(内部電極非形成部)を形成し、露出している一次側内部電極7,8および二次側内部電極6の端部はAg粉末ペーストなどを焼付けて形成した一次側外部電極2および二次側外部電極9とそれぞれ接続され、構成されている。また、内部電極と外部電極の接続については、一次側内部電極7,8は、異極となるように積層体の長手方向に平行な対向する両側面に交互に取り出され、一次側外部電極2と接続され、二次側内部電極6は、同極となるように取り出され、二次側外部電極9と接続されている。
【0019】
本発明では、一次側内部電極7,8と二次側内部電極6のそれぞれの形状に工夫をしている。図1(b)に示すように、一次側内部電極7の長さを、素子全体の長さの1/2よりも長く形成した場合、一次側内部電極7の二次側端部の内部電極パターンを凸型としている。また、図1(c)に示すように、一次側内部電極8の長さを、素子全体の長さの1/2よりも短く形成した場合、一次側内部電極8の二次側端部の内部電極パターンを凹型としている。
【0020】
また、図2に示すように、二次側内部電極6の一次側端部の内部電極パターンを凹型としている。
【0021】
次に、本発明に係る圧電トランス素子を用いたインバータの構成を図3に示す。図3は、例えば液晶ディスプレイのバックライト用の冷陰極管を点灯するインバータのブロック図である。本発明に係る圧電トランス素子を用いたインバータは、発振回路部21、駆動回路部22、制御回路部23、電流検出部24及び圧電トランス25とで構成されている。発振回路部21から出力される信号により駆動回路部22を動作させ、圧電トランス25を駆動し、圧電トランス25の二次側(出力電極)に生じた昇圧された電圧を冷陰極管26に印加して冷陰極管26を点灯させる。さらに、冷陰極管26を流れる電流を電流検出部24で検出し、冷陰極管の電流が一定となるように制御回路部23から発振回路部21に制御信号をフィードバックするように構成されている。これら各回路部は実装基板に形成されて圧電インバータユニットが構成される。図5に示す圧電トランス25として、上記実施の形態で説明した圧電トランス素子を用いることができる。本発明に係る圧電トランスを用いることにより、特性が良好で信頼性に優れたインバータを実現することができる。
【実施例1】
【0022】
以下に、本発明の圧電トランス素子を実施例により詳細に説明する。一般的な製造方法に従い、圧電体1がジルコン酸チタン酸鉛Pb(Zr、Ti)Oからなり、一次側内部電極7,8、二次側内部電極6がAg、Pdの混合粉末ペースト、一次側外部電極2、二次側外部電極9がAg粉末ペーストからなる、図1に示す構造の29mm×6mm×3mmのサイズの積層型圧電トランス素子を作製した。なお、一次側内部電極、二次側内部電極のパターンにおいては、一次側内部電極7,8、二次側内部電極6のパターンだけでなく、従来の形状(図4の符号5)のパターンも使用して、これらを組み合わせて、7種類の素子を各1000個作製した。
【0023】
また、従来例として、上記と同様の寸法、製造方法により、図4に示す構造で、端部のみに二次側内部電極を設けて側面から取り出し外部電極に接続した積層型圧電トランス素子を作製した。
【0024】
評価は、分極後の素子の動作中の耐久性を加速試験にて行った。一次側への負荷は電圧信号であり印加の結果、素子が振動する時の振動速度を測定し、それを素子の割れ耐久性の加速性の指標とした。なお、振動速度は、素子にとって厳しい条件である2.0m/sとした。表1に、その結果を示す。表1中、◎は、全く割れが発生しない場合、○は、ほとんど割れが発生しない良好な場合、△は、○に比べ良好とはいえないが割れの発生率が著しく低い場合を示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1において、実施条件1は、従来例である。本来ppm程度の素子割れではあるが、加速により2.3%の素子割れを起こしている。判定の欄では、従来例ということで記号の記入をしていない。
【0027】
実施条件2、4、6において、素子の割れ発生率が低くなったことから、図2に示すような二次側内部電極の形状を凹型にした効果は大きいことが判る。これは、一次側内部電極と二次側内部電極の距離が一定に形成されている場合は、使用中において素子が駆動する際に内部電極の端部に大きな応力が作用するのであるが、この応力の集中点と、セラミックの部分と内部電極の部分の焼結収縮差による収縮応力の集中領域および内部電極のひけなどの空孔が生成しやすい内部電極の端部とが一致してしまい、素子が割れ易くなってしまうという欠点が改善されたからである。
【0028】
その他の実施条件においても、従来例である実施条件1に対して、素子割れの改善がある程度見られた。
【0029】
実施条件8は、本発明のすべての構成を盛り込んだ場合であるが、本実験においては素子割れは発生しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施の形態における圧電トランス素子を示す図。図1(a)は、圧電トランス素子の外観斜視図。図1(b)は、一次側内部電極が凸型の圧電セラミックグリーンシートの平面図。図1(c)は、一次側内部電極が凹型の圧電セラミックグリーンシートの平面図。
【図2】本発明の一実施の形態における圧電トランス素子の二次側内部電極パターンの拡大平面図。
【図3】本発明の圧電トランス素子を用いたインバータのブロック図である。
【図4】従来のローゼン型の圧電トランス素子を示す図。図4(a)は、圧電トランス素子の外観斜視図。図4(b)は、圧電セラミックグリーンシートの平面図。図4(c)は、図4(b)とは一次側内部電極の取り出し位置が異なっている圧電セラミックグリーンシートの平面図。
【図5】従来の他の例のローゼン型の圧電トランス素子を示す図。
【符号の説明】
【0031】
1 圧電セラミックス素子
2,12,12a 一次側外部電極
3,9,13,13a,14,14a,15,16 二次側外部電極
4 圧電セラミックグリーンシート
5,7,8 一次側内部電極
6 二次側内部電極
11 圧電セラミック積層体
21 発振回路部
22 駆動回路部
23 制御回路部
24 電流検出部
25 圧電トランス
26 冷陰極管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電セラミック層と、同一層内に一次側及び二次側内部電極となる2つのパターンが形成された内部電極層とを交互に積層した積層体の長手方向に平行な対向する両側面に、前記一次側内部電極を互いに異極となるように取り出し、一次側外部電極と接続するとともに、前記二次側内部電極を互いに同極となるように取り出し、二次側外部電極と接続してなり、前記一次側外部電極から入力された電圧を振動に変換し、前記二次側外部電極から電圧として出力する圧電トランス素子であって、前記二次側内部電極の形状を凹型に形成したことを特徴とする圧電トランス素子。
【請求項2】
前記一次側内部電極の長さが素子全体の長さの1/2よりも長く、かつ前記一次側内部電極における前記二次側内部電極のある側の端部の形状を凸型に形成したことを特徴とする請求項1記載の圧電トランス素子。
【請求項3】
前記一次側内部電極の長さが素子全体の長さの1/2よりも短く、かつ前記一次側内部電極における前記二次側内部電極のある側の端部の形状を凹型に形成したことを特徴とする請求項1記載の圧電トランス素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の圧電トランス素子を用いたことを特徴とする圧電トランス素子を用いたインバータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−32467(P2006−32467A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205884(P2004−205884)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】