説明

圧電トランス駆動装置

【課題】1次側に印加される電圧と電流の位相差が0になるように制御されるので、必ずしも最大効率点で動作させることができず、かつスプリアスへの収束を回避することが難しかった。本発明はこれらの課題を解決することを目的にする。
【解決手段】圧電トランスの1次側に印加される電圧と電流の位相差を小さくする制御信号を発生する位相差検出部の出力と位相オフセット発生部の出力を加算部で加算し、この加算部の出力を電圧制御発振器に入力するようにした。また、加算部の出力が設定範囲から外れると、電圧制御発振器の入力信号を強制的に固定するようにした。最大効率点で動作させることができ、かつスプリアスへの収束を回避できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最大効率点で動作させることができ、かつスプリアスへの収束を回避することができる圧電トランスの駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電トランスは圧電セラミックを用いたトランスであり、1次側に交流を印加して圧電セラミックを振動させてこの振動を2次側に伝搬させ、2次側でこの振動を電気エネルギーに変換して取り出すものである。このような圧電トランスは、直流的に絶縁された電源を作成する用途に用いられ、レコーダ等の絶縁電源に用いられる。
【0003】
特許文献1には、常時共振周波数の近辺で動作させることができる圧電トランスコンバータの発明が記載されている。以下、図2に基づいてこの発明の概要を説明する。
【0004】
図2において、10は圧電トランスであり、等価インダクタンス11、等価コンデンサ12、15、16、等価抵抗13、等価トランス14で構成される。
【0005】
駆動回路21は、直流入力電源20が出力する直流電圧を交流電圧に変換して、圧電トランス10の1次側に供給する。V/Fコンバータ25は、駆動回路21に発振信号を供給する。圧電トランス10の2次側に発生した交流電圧は整流平滑回路26で整流、平滑されて直流に変換され、負荷27に供給される。
【0006】
圧電トランス10の1次側に流れる電流は電流検出回路23で検出され、その電圧は電圧検出回路22で検出される。位相検出回路24は、電流検出回路23で検出された電流と電圧検出回路22で検出された電圧の位相差が0になるように、V/Fコンバータ25を制御する。
【0007】
このようにすることにより、圧電トランス10をその共振周波数近辺で駆動することができるので、力率100%の状態で動作させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平4−58085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このような圧電トランスコンバータには、次のような課題があった。
図3に、圧電トランスのより詳細な等価回路を示す。なお、図2と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。
【0010】
図3において、17、17a、17bは直列共振部である。直列共振部17は等価インダクタンス11、等価コンデンサ12、等価抵抗13の直列回路で構成され、直列共振部17a、17bも同様に等価インダクタンス、等価コンデンサ、等価抵抗の直列回路で構成される。直列共振部17、17a、17bは異なった共振点を有している。
【0011】
このように、圧電トランス10は複数の共振点を有しており、これらの共振点は振動モードが異なっている。圧電トランスコンバータを安定に動作させるためには最適な共振点で動作させなければならないが、共振点が複数あるので、最適な共振点以外の共振点(スプリアス)に収束してしまい、安定に動作させることが困難であるという課題があった。
【0012】
また、等価コンデンサ15の影響によって電圧と電流の位相がずれるので、圧電トランス10が最大効率で動作する点は、圧電トランス10の1次側の電圧と電流の位相差が0になる点であるとは限らない。このため、図2の構成では最大効率点で動作させることができないという課題もあった。
【0013】
本発明の目的は、圧電トランスに入力する電圧と電流の位相差を任意に設定できるようにし、かつ圧電トランスの駆動周波数を限定することにより、圧電トランスを最大効率で動作させながらスプリアスへの収束を回避することができる圧電トランス駆動装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
圧電トランスを駆動する圧電トランス駆動装置において、
入力された発振信号に基づいて前記圧電トランスの1次側を駆動する駆動信号を生成する駆動部と、
前記圧電トランスの1次側に流れる電流を検出する電流検出部と、
前記圧電トランスの1次側に印加される電圧、および前記電流検出部の出力信号が入力され、これらの信号から前記圧電トランスの1次側の電圧と電流の位相差が小さくなるような制御信号を出力する位相差検出部と、
位相オフセット信号を出力する位相オフセット発生部と、
前記位相オフセット信号と前記位相差検出部の出力信号を加算する加算部と、
前記加算部の出力信号が入力され、この入力された信号に応じた周波数の発振信号を、前記駆動部に出力する電圧制御発振器と、
を備えたものである。圧電トランスの1次側に印加される電圧と電流の位相差を設定できるので、圧電トランスを最大効率で駆動できる。
【0015】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
第1および第2の基準電圧を出力する基準電圧源と、
前記第2の基準電圧を前記電圧制御発振器に入力し、また切り離すスイッチと、
前記加算部の出力信号、および前記第1、第2の基準電圧が入力され、これらの信号を比較して前記スイッチを制御する比較部と、
を備えたものである。スプリアスへの収束を回避できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば以下のような効果がある。
請求項1の発明によれば、圧電トランスの1次側に印加する電圧と電流の位相差が小さくなるような制御信号を出力する位相差検出部と位相オフセット発生部の出力を加算部で加算し、この加算値を電圧制御発振器に入力して、この電圧制御発振器の出力に基づいて圧電トランスの1次側を駆動するようにした。
【0017】
位相オフセット発生部の出力信号を可変することにより、圧電トランスの1次側に印加される電圧と電流の位相差を任意に設定することができる。このため、位相差が0のときが最大効率点にならないような圧電トランスであっても、最大効率で動作させることができるという効果がある。
【0018】
また、請求項2の発明によれば、加算部の出力と第1、第2の基準電圧の比較結果によって、第2の基準電圧を電圧制御発振器に入力するようにした。請求項1の効果に加えて、最適な共振点から外れると強制的に電圧制御発振器の入力信号を固定して最適な共振点に戻すので、スプリアスへの収束を回避することができるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例を示した構成図である。
【図2】従来の圧電トランスコンバータの構成図である。
【図3】圧電トランスの等価回路である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明に係る圧電トランス駆動装置の一実施例を示した構成図である。
【0021】
図1において、30は圧電トランス駆動装置、40は圧電トランス駆動装置30によって駆動される圧電トランス、41は圧電トランス40の2次側に接続された負荷である。
【0022】
圧電トランス駆動装置30は、圧電トランス40を駆動する駆動信号をその1次側に出力する駆動部31、圧電トランス40の1次側に流れる電流を検出する電流検出部32、電流検出部32の出力信号および圧電トランス40の1次側に印加される電圧信号が入力され、これらの信号の位相差を検出して制御信号を出力する位相差検出部33、位相オフセット信号を出力する位相オフセット発生部34、位相差検出部33と位相オフセット発生部34の出力信号を加算する加算部35、加算部35の出力信号によって制御され、駆動部31に発振信号を出力する電圧制御発振器(VCO)36、VREF1、VREF2の2つの基準電圧を発生する基準電圧源37、加算部35の出力信号と基準電圧VREF1、VREF2を比較する比較部38、および比較部38の出力信号でそのオンオフが制御され、基準電圧VREF2を電圧制御発振器36に入力し、また切り離すスイッチ39で構成される。なお、電圧制御発振器36の発振周波数範囲に、圧電トランス40の動作させたい共振周波数が含まれるようにする。
【0023】
次に、この実施例の動作を説明する。駆動部31は電圧制御発振器36の出力信号の周波数を有し、圧電トランス40を駆動する駆動信号を生成して、圧電トランス40の1次側に供給する。圧電トランス40はこの駆動信号によって振動を発生し、この振動を伝搬させて2次側に電力を発生する。この電力は負荷41に供給される。
【0024】
最初に電圧と電流の位相差を設定する構成の動作について説明する。なお、スイッチ39はオフであるとする。電流検出部32は、圧電トランス40の1次側に流れる電流を検出し、この電流値に比例する電流信号を生成して、位相差検出部33に出力する。位相差検出部33は、この電流信号と圧電トランス40の1次側に印加される電圧信号の位相差を検出し、この位相差が小さくなる(0になる)ような制御信号を出力する。
【0025】
加算部35は、位相差検出部33の出力信号と位相オフセット発生部34の出力信号を加算し、この加算信号を電圧制御発振器36に出力する。電圧制御発振器36は、入力された加算信号によって決まる周波数の発振信号を生成し、駆動部31に出力する。
【0026】
位相差検出部33は、圧電トランス40の1次側に印加される電圧と電流の位相差を小さくする制御信号を出力する。この制御信号と位相オフセット発生部34の出力信号は加算部35で加算されて電圧制御発振器36に印加されるので、圧電トランス40の1次側に印加される駆動信号の電圧と電流の位相差は、位相オフセット発生部34の出力信号で決まる一定値になる。
【0027】
例えば、位相オフセット発生部34が位相検出部33の出力を完全に打ち消す極性および大きさの出力信号を発生すると、加算部35の出力信号は0になり、オフセット設定が0でかつ電圧と電流の位相差が0になった場合と同じ出力が電圧制御発振器36に与えられる。このため、位相差がある状態でロックされる。
【0028】
このように、この圧電トランス駆動装置30は、位相オフセット発生部34の出力信号を可変することにより、圧電トランス40の1次側に供給する電圧と電流の位相差を変化させることができる。このため、圧電トランス40の等価コンデンサの影響によって電圧と電流の位相がずれ、それらの位相差が0でない点が最大効率で動作する点である場合でも、位相オフセット発生部34の出力信号を調整して電圧と電流の位相差を最大効率点の位相差にすることにより、圧電トランス40を最大効率で動作させることができる。
【0029】
次に、スプリアスへの収束を回避する構成の動作を説明する。圧電トランス40を安定に動作させるためには、複数ある共振点のうち最適な共振点で動作させなければならないが、最適でない共振点(スプリアス)への収束を回避することが難しいという課題があった。本実施例では、加算部35の出力が所定の範囲を越えると、電圧制御発振器36の入力信号の大きさを固定することにより、スプリアスへの収束を回避するようにする。
【0030】
比較部38には加算部35の出力信号、および基準電圧源37が生成する基準電圧VREF1、VREF2が入力される。比較部38はこれらの入力信号を比較して、スイッチ39のオンオフを制御する。スイッチ39の一端には基準電圧VREF2が入力され、他端は電圧制御発振器36の入力端子に接続される。なお、VREF1>VREF2とする。また、VREF1、VREF2はそれぞれ第1、第2の基準電圧に相当する。
【0031】
比較部38は、加算部35の出力信号VCが下記(1)式を満たすときは、スイッチ39をオフにする。基準電圧VREF2は電圧制御発振器36とは切り離されるので、電圧制御発振器36は加算部35の出力信号で制御される。
VREF2≦VC≦VREF1 ・・・・・・ (1)
【0032】
加算部35の出力信号VCが下記(2)式を満たすと、比較部38はスイッチ39をオンにする。基準電圧VREF2が電圧制御発振器36に入力されるので、加算部35の出力値に拘わらず、電圧制御発振器36の入力信号は基準電圧VREF2に固定される。
VREF2>VC または VC>VREF1 ・・・・・・ (2)
【0033】
圧電トランス40を駆動させたい周波数における電圧制御発振器36の入力信号の値をVCo、スプリアス周波数における電圧制御発振器36の入力信号の値をVCsとすると、基準電圧VREF1、VREF2は、下記(3)、(4)式の両方を満足するように設定する。
VREF2≦VCo≦VREF1 ・・・・・・・・・・・ (3)
VCs>VREF1 または VCs<VREF2 ・・・ (4)
【0034】
初期状態、あるいは外乱などによって駆動させたい周波数から外れ、加算部35の出力値が前記(2)式を満たすと、スイッチ39がオンになって電圧制御発振器36に入力される信号の大きさはVREF2に固定される。このため、前記(1)式が成立してスイッチ39がオフになり、電圧制御発振器36は加算部35の出力信号で制御される。このように、所望の発振周波数から外れて前記(2)式を満たすようになっても、すぐに元に戻すことができるので、スプリアスへの収束を回避することができる。
【0035】
なお、この実施例ではスイッチ39を介して基準電圧VREF2を電圧制御発振器36に入力するようにしたが、基準電圧VREF1を入力するようにしてもよい。
【0036】
また、スイッチ39は半導体スイッチ、トランジスタ、メカニカルスイッチ等を使用することができる。要は、基準電圧を電圧制御発振器36に入力し、また切り離すことができるものであればよい。
【符号の説明】
【0037】
30 圧電トランス駆動装置
31 駆動部
32 電流検出部
33 位相差検出部
34 位相オフセット発生部
35 加算部
36 電圧制御発振器
37 基準電圧源
38 比較部
39 スイッチ
40 圧電トランス
41 負荷
VREF1、VREF2 基準電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電トランスを駆動する圧電トランス駆動装置において、
入力された発振信号に基づいて前記圧電トランスの1次側を駆動する駆動信号を生成する駆動部と、
前記圧電トランスの1次側に流れる電流を検出する電流検出部と、
前記圧電トランスの1次側に印加される電圧、および前記電流検出部の出力信号が入力され、これらの信号から前記圧電トランスの1次側の電圧と電流の位相差が小さくなるような制御信号を出力する位相差検出部と、
位相オフセット信号を出力する位相オフセット発生部と、
前記位相オフセット信号と前記位相差検出部の出力信号を加算する加算部と、
前記加算部の出力信号が入力され、この入力された信号に応じた周波数の発振信号を、前記駆動部に出力する電圧制御発振器と、
を備えたことを特徴とする圧電トランス駆動装置。
【請求項2】
第1および第2の基準電圧を出力する基準電圧源と、
前記第2の基準電圧を前記電圧制御発振器に入力し、また切り離すスイッチと、
前記加算部の出力信号、および前記第1、第2の基準電圧が入力され、これらの信号を比較して前記スイッチを制御する比較部と、
を備えたことを特徴とする請求項1記載の圧電トランス駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−9484(P2013−9484A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139379(P2011−139379)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】