説明

圧電素子、圧電アクチュエーター、液滴噴射ヘッド及び液滴噴射装置

【課題】電極材料の選択の自由度を大きくできる、圧電素子、並びに、この圧電素子を含む圧電アクチュエーター、液滴噴射ヘッド及び液滴噴射装置を提供すること。
【解決手段】基板10の上に形成された第1電極層20と、第1電極層20に対向して配置された第2電極層40と、第1電極層20及び第2電極層40の間に配置された圧電体層30と、を含み、第1電極層20は、導電層22とバリア層24とを有し、バリア層24は、導電層22と圧電体層30とが接しないように、導電層22と圧電体層30との間に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子、圧電アクチュエーター、液滴噴射ヘッド及び液滴噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子の厚みを薄くし高速駆動を可能にするため、薄膜技術を用いて製造できる圧電アクチュエーターやインクジェット式記録ヘッドが知られている。例えば、特許文献1には、薄膜技術を用いて製造できるインクジェット式記録ヘッドが記載されている。
【0003】
特許文献1に記載のインクジェット式記録ヘッドでは、圧電素子の下電極の上面及び側面を圧電体層で覆う構成となっている。また、圧電体層の形成工程において下電極が酸化しにくいように、下電極の材質としては白金が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−326503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
下電極として酸化しやすい材料を用いると、圧電体層の形成工程において下電極が酸化して体積が膨張し、下電極の剥離やクラックの発生の原因となる恐れがある。そのため、下電極に用いることができる材料は、選択の自由度が小さかった。
【0006】
本発明のいくつかの態様によれば、電極材料の選択の自由度を大きくできる、圧電素子、並びに、この圧電素子を含む圧電アクチュエーター、液滴噴射ヘッド及び液滴噴射装置を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の態様の1つである圧電素子は、
基板の上に形成された第1電極層と、
前記第1電極層に対向して配置された第2電極層と、
前記第1電極層及び前記第2電極層の間に配置された圧電体層と、
を含み、
前記第1電極層は、導電層とバリア層とを有し、
前記バリア層は、前記導電層と前記圧電体層とが接しないように、前記導電層と前記圧電体層との間に形成されている。
【0008】
本発明において、「上」という文言を、例えば、「特定のもの(以下「A」という)の「上」に他の特定のもの(以下「B」という)を形成する」などと用いている。本発明において、この例のような場合に、A上に直接Bを形成するような場合と、A上に他のものを介してBを形成するような場合とが含まれるものとして、「上」という文言を用いている。同様に、「下」という文言は、A下に直接Bを形成するような場合と、A下に他のものを介してBを形成するような場合とが含まれるものとする。
【0009】
本発明によれば、第1電極の導電層と圧電体層とが接しないように、導電層と圧電体層との間にバリア層が形成されているため、導電層が酸化しにくい。したがって、第1電極の導電層に用いる材料の選択の自由度を大きくできる。
【0010】
(2)本発明の態様の1つである圧電素子は、
前記バリア層は、前記導電層の上面及び側面を覆って形成されていてもよい。
【0011】
本発明によれば、導電層の上面及び側面を覆ってバリア層が形成されているため、電極材料の選択の自由度を大きくできる。
【0012】
(3)本発明の態様の1つである圧電素子は、
前記導電層は、W、Ta、Hf、Mo、Nb、Zr、Cu、Ni、Co、Fe、Cr、V、Ti、Ir及びPdからなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【0013】
(4)本発明の態様の1つである圧電素子は、
前記バリア層は、導電性を有する窒化膜からなってもよい。
【0014】
これにより、第1電極層全体としての抵抗値を下げることができる。
【0015】
(5)本発明の態様の1つである圧電素子は、
前記第1電極層は、前記基板と前記導電層との間に密着層を有し、
前記バリア層は、前記密着層の側面を覆って形成されていてもよい。
【0016】
これにより、基板と導電層との密着性を高めることができる。また、密着層の酸化も防止することができる。
【0017】
(6)本発明の態様の1つである圧電素子は、
前記第1電極層は、前記バリア層と前記圧電体層との間に配向層を有してもよい。
【0018】
これにより、圧電体層の配向性を制御することができる。
【0019】
(7)本発明の態様の1つである圧電アクチュエーターは、
これらのいずれかの圧電素子を含む。
【0020】
本発明によれば、電極材料の選択の自由度を大きくできる圧電素子を含む圧電アクチュエーターを実現できる。
【0021】
(8)本発明の態様の1つである液滴噴射ヘッドは、
これらのいずれかの圧電アクチュエーターを含む。
【0022】
本発明によれば、電極材料の選択の自由度を大きくできる圧電素子を含む液滴噴射ヘッドを実現できる。
【0023】
(9)本発明の態様の1つである液滴噴射装置は、
これらのいずれかの液滴噴射ヘッドを含む。
【0024】
本発明によれば、電極材料の選択の自由度を大きくできる圧電素子を含む液滴噴射装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態の圧電素子を模式的に示す平面図。
【図2】図2(A)は、図1に示すA−A線における圧電素子の断面図、図2(B)は、図2(A)に示す圧電素子の要部の拡大図。
【図3】図3(A)は、図1に示すB−B線における圧電素子の断面図、図3(B)は、図3(A)に示す圧電素子の要部の拡大図。
【図4】変形例の圧電素子を模式的に示す平面図。
【図5】図5(A)は、図4に示すA−A線における圧電素子の断面図、図5(B)は、図5(A)に示す圧電素子の要部の拡大図。
【図6】図6(A)は、図4に示すB−B線における圧電素子の断面図、図6(B)は、図6(A)に示す圧電素子の要部の拡大図。
【図7】図7(A)〜図7(D)は、本実施形態の圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図8】図8(A)〜図8(C)は、本実施形態の圧電素子の製造工程を模式的に示す断面図。
【図9】本実施形態に係る液滴噴射ヘッドの要部を模式的に示す断面図。
【図10】本実施形態に係る液滴噴射ヘッドの分解斜視図。
【図11】本実施形態に係る液滴噴射装置を模式的に示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0027】
1.圧電素子及び圧電アクチュエーター
1−1.圧電素子及び圧電アクチュエーターの構造
図1は、本実施形態の圧電素子100を模式的に示す平面図である。図2(A)は、図1に示すA−A線における圧電素子100の断面図、図2(B)は、図2(A)に示す圧電素子100の要部200aの拡大図である。図3(A)は、図1に示すB−B線における圧電素子100の断面図、図3(B)は、図3(A)に示す圧電素子100の要部200bの拡大図である。
【0028】
本実施形態に係る圧電素子100は、基板10と、第1電極層20と、圧電体層30と、第2電極層40とを含む。
【0029】
基板10は、例えば、導電体、半導体、絶縁体で形成された平板とすることができる。基板10は、単層であっても、複数の層が積層された構造であってもよい。また、基板10は、上面が平面的な形状であれば内部の構造は限定されず、例えば、内部に空間等が形成された構造であってもよい。
【0030】
基板10が、圧電素子100を含む圧電アクチュエーターの振動板である場合には、圧電素子100が動作したときに機械的な出力を行う部材となる。基板10は、例えば、振動板を含んで構成され、圧電素子100を含む圧電アクチュエーターの可動部分となることができ、圧力発生室などの壁の一部を構成していてもよい。基板10の厚みは、用いる材質の弾性率などにしたがって最適に選ばれる。基板10が圧電素子100を含む圧電アクチュエーターの振動板である場合は、基板10の厚みは、例えば、200nm以上2000nm以下とすることができる。基板10の厚みが200nmよりも薄いと、振動等の機械的出力を取り出しにくくなることがあり、2000nmよりも厚いと、振動等が生じなくなる場合がある。基板10は、圧電体層30の動作により、たわんだり振動したりすることができる。
【0031】
基板10が、圧電素子100を含む圧電アクチュエーターの振動板である場合には、基板10の材質には、剛性および機械的強度の高い材料を含むことが望ましい。基板10の材質としては、例えば、酸化ジルコニウム、窒化シリコン、酸化シリコンなどの無機酸化物、ステンレス鋼などの合金を用いることができる。これらのうち、基板10の材質としては、化学的安定性および剛性の点で、酸化ジルコニウムが好適である。基板10は、例示した物質の2種以上の積層構造であってもよい。
【0032】
第1電極層20は、基板10の上に形成される。第1電極層20は、第2電極層40と対になり、圧電体層30を挟む一方の電極として機能する。第1電極層20は、例えば、同一の基板10の上に形成された隣の圧電素子の第1導電層と共通して構成することができる。第1電極層20は、図示せぬ外部回路と電気的に接続されている。
【0033】
第1電極層20は、導電層22とバリア層24とを有する。また、第1電極層20は、密着層26や配向層28を有してもよい。
【0034】
導電層22は、層状又は薄膜状の形状を有することができる。導電層22の機能の1つとしては、第1電極層20の導電性を担うことが挙げられる。
【0035】
導電層22の材質としては、例えば、圧電体層30の焼成温度(例えば800℃)以上の融点を持ち、導電性が高い(例えば、抵抗率が60μΩ・cm以下の)金属から選択される少なくとも1種を含んでもよい。より具体的には、導電層22の材質としては、例えば、W、Ta、Hf、Mo、Nb、Zr、Cu、Ni、Co、Fe、Cr、V、Ti、Ir及びPdからなる群より選択される少なくとも1種を含む金属や合金を挙げることができる。
【0036】
バリア層24は、導電層22と圧電体層30とが接しないように、導電層22と圧電体層30との間に形成されている。バリア層24は、導電層22の上面及び側面を覆って形成されてもよい。例えば、図2(B)に示す断面図では、バリア層24は、導電層22と圧電体層30とが接しないように、導電層22の上面及び側面を覆って形成されている。また例えば、図3(B)に示す断面図では、バリア層24は、導電層22と圧電体層30とが接しないように、導電層22の上面を覆って形成されている。
【0037】
バリア層24の機能の1つとしては、導電層22が酸化されるのを防ぐことが挙げられる。また、バリア層24は、導電性を有し、第1電極層20の導電性の一部を担ってもよい。
【0038】
バリア層24の材質としては、例えば、導電性を有する窒化膜を挙げることができる。より具体的には、バリア層24の材質としては、例えば、TiN、CrN、NbN、TaN、ZrN、TiAlN、TiCrN、TiZrN、TiHfN、TiNbN、AlCrNなどを挙げることができる。
【0039】
このように、本実施形態に係る圧電素子100においては、導電層22と圧電体層30とが接しないように、導電層22と圧電体層30との間にバリア層24が形成されているため、導電層22が酸化しにくい。したがって、導電層22に用いる材料の選択の自由度を大きくできる。
【0040】
密着層26は、基板10と導電層22との間に形成されている。図2(B)及び図3(B)に示す断面図では、密着層26は、基板10と導電層22の下面全面との間に形成されている。密着層26の機能の1つとしては、基板10と導電層22との密着性を高めることが挙げられる。
【0041】
密着層26の材質としては、例えば、Ti、Cr、Ni、Ta、Zr、Wからなる群より選択される少なくとも1種を含む金属や合金を挙げることができる。
【0042】
第1電極層20が密着層26を有する構成の場合、バリア層24は、密着層26の側面を覆うように形成されていてもよい。図2(B)に示す断面図では、バリア層24は、密着層26の側面を覆うように形成されている。これにより、密着層26の酸化も防止することができる。
【0043】
配向層28は、バリア層24と圧電体層30との間に形成されている。図2(B)及び図3(B)に示す断面図では、配向層28は、バリア層24の上面と圧電体層30との間に形成されている。配向層28の機能の1つとしては、圧電体層30の結晶配向性を所望の配向に制御することが挙げられる。
【0044】
配向層28の材質としては、例えば、導電性を有するペロブスカイト酸化物を挙げることができる。より具体的には、配向層28の材質としては、例えば、LaNiO、LaNiO、LaNi、LaNi10、LaNi等のランタンニッケル酸化物や、ReO、SrReO、BaReO、LaTiO、LaAlO、SrVO、CaCrO、SrCr、SrFeO、La1−XSrCoO(0<X<0.5)、CaRuO、SrRuO、SrTiO、BaPbOなどを挙げることができる。
【0045】
圧電体層30は、第1電極層20及び第2電極層40との間に配置されている。図1、図2(A)及び図3(A)に示す例では、圧電体層30は、第1導電層20の上に設けられている。また、図1及び図2(B)に示す例では、圧電体層30は、基板10の上にも設けられている。圧電体層30の厚みは、400nm以上1500nm以下とすることができる。圧電体層30の厚みが上記の範囲を外れると、基板10を変形させるのに十分な変形が得られなくなる場合がある。圧電体層30は、第1導電層20及び第2導電層40によって電界が印加されることで伸縮変形し、これにより基板10をたわませたり振動させたりする。圧電体層30には、圧電性を有する材料を用いることができる。
【0046】
圧電体層30の材質としては、一般式ABOで示されるペロブスカイト型酸化物が好適に用いられる。このような材質の具体的な例としては、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)(以下、本明細書において「PZT」と略すことがある。)、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O)(以下、本明細書において「PZTN」と略すことがある。)、チタン酸バリウム(BaTiO)、ニオブ酸カリウムナトリウム((K,Na)NbO)などが挙げられる。
【0047】
第2電極層40は、第1電極層20に対向して配置されている。図1、図2(A)及び図3(A)に示す例では、第2電極層40は、圧電体層30の上に形成されている。第2電極層40の厚みは、圧電体層30の動作に悪影響を与えない範囲であれば限定されない。第2電極層40の厚みは、例えば20nm以上200nm以下とすることができる。第2電極層40の厚みが20nmよりも薄いと、電気抵抗が増大してしまうことがあり、200nmよりも大きいと、圧電体層30の変形を阻害してしまう場合がある。第2電極層40は、第1導電層20と対になり、圧電体層30を挟む一方の電極として機能する。
【0048】
第2電極層40の材質は、前記機能を満足する導電性を有する物質である限り特に限定されない。第2導電層40の材質として、例えば、ニッケル、イリジウム、金、白金、タングステン、チタン、タンタル、モリブデン、クロムなどの各種の金属及びこれらの金属の合金、それらの導電性酸化物(例えば酸化イリジウムなど)、ストロンチウムとルテニウムの複合酸化物、ランタンとニッケルの複合酸化物などを用いることができる。また、第2電極層40は、例示した材料の単層でもよいし、複数の材料を積層した構造であってもよい。
【0049】
なお、基板10を、振動板を含むように構成することにより、圧電素子100を含む圧電アクチュエーターの構成とすることができる。これにより、電極材料の選択の自由度を大きくできる圧電素子を含む圧電アクチュエーターを実現できる。
【0050】
1−2.圧電素子及び圧電アクチュエーターの構造の変形例
図4は、変形例の圧電素子100aを模式的に示す平面図である。図5(A)は、図4に示すA−A線における圧電素子100aの断面図、図5(B)は、図5(A)に示す圧電素子100aの要部200cの拡大図である。図6(A)は、図4に示すB−B線における圧電素子100aの断面図、図6(B)は、図6(A)に示す圧電素子100aの要部200dの拡大図である。以下、図1〜図3を用いて説明した圧電素子100との相違点を中心に説明する。なお、各部材の材質や主たる機能については、図1〜図3を用いて説明した圧電素子100と同一である。
【0051】
第1電極層20は、基板10の上に形成される。第1電極層20は、第2電極層40と対になり、圧電体層30を挟む一方の電極として機能する。第1電極層20は、図示せぬ外部回路と電気的に接続されている。
【0052】
第1電極層20は、導電層22とバリア層24とを有する。また、第1電極層20は、密着層26や配向層28を有してもよい。
【0053】
導電層22は、層状又は薄膜状の形状を有することができる。導電層22の機能の1つとしては、第1電極層20の導電性を担うことが挙げられる。
【0054】
バリア層24は、導電層22と圧電体層30とが接しないように、導電層22と圧電体層30との間に形成されている。バリア層24は、導電層22の上面及び側面を覆って形成されてもよい。例えば、図5(B)及び図6(B)に示す断面図では、バリア層24は、導電層22と圧電体層30とが接しないように、導電層22の上面及び側面を覆って形成されている。
【0055】
このように、本実施形態に係る圧電素子100aにおいては、導電層22と圧電体層30とが接しないように、導電層22と圧電体層30との間にバリア層24が形成されているため、導電層22に用いる材料の選択の自由度を大きくできる。
【0056】
密着層26は、基板10と導電層22との間に形成されている。図5(B)及び図6(B)に示す断面図では、密着層26は、基板10と導電層22の下面全面との間に形成されている。
【0057】
第1電極層20が密着層26を有する構成の場合、バリア層24は、密着層26の側面を覆うように形成されていてもよい。図5(B)及び図6(B)に示す断面図では、バリア層24は、密着層26の側面を覆うように形成されている。これにより、密着層26の酸化も防止することができる。
【0058】
配向層28は、バリア層24と圧電体層30との間に形成されている。図5(B)及び図6(B)に示す断面図では、配向層28は、バリア層24の上面と圧電体層30との間に形成されている。
【0059】
圧電体層30は、第1電極層20及び第2電極層40との間に配置されている。図4、図5(A)及び図6(A)に示す例では、圧電体層30は、第1導電層20の上に設けられている。また、図4、図5(A)及び図6(A)に示す例では、圧電体層30は、基板10の上にも設けられている。
【0060】
第2電極層40は、第1電極層20に対向して配置されている。図4、図5(A)及び図6(A)に示す例では、第2電極層40は、圧電体層30の上に形成されている。また、図4、図5(A)及び図6(A)に示す例では、第2電極層40は、基板10の上にも形成されている。第2電極層40は、例えば、同一の基板10の上に形成された隣の圧電素子の第2導電層と共通して構成することができる。
【0061】
なお、基板10を、振動板を含むように構成することにより、圧電素子100aを含む圧電アクチュエーターの構成とすることができる。これにより、電極材料の選択の自由度を大きくできる圧電素子を含む圧電アクチュエーターを実現できる。
【0062】
1−3.圧電素子の製造方法
次に、本実施形態に係る圧電素子100の製造方法について説明する。図7(A)〜図7(D)及び図8(A)〜図8(C)は、本実施形態の圧電素子100の製造工程を模式的に示す断面図である。図7(A)〜図7(D)及び図8(A)は、図1のA−A線に相当する断面の要部の拡大図を示している。図8(B)〜図8(C)は、図1のA−A線に相当する断面図を示している。
【0063】
まず、図7(A)に示すように、基板10の上に密着層26aを形成する。例えば、スパッタ法、真空蒸着法、めっき法、印刷法などにより密着層26aを形成することができる。
【0064】
次に、密着層26aの上に導電層22aを形成する。例えば、スパッタ法、真空蒸着法、めっき法、印刷法などにより導電層22aを形成することができる。
【0065】
次に、図7(B)に示すように、密着層26a及び導電層22aをパターニングして密着層26及び導電層22を形成する。例えば、フォトリソグラフィーなどの方法で密着層26a及び導電層22aの不要部分をエッチングすることにより、密着層26a及び導電層22aをパターニングして密着層26及び導電層22を形成することができる。
【0066】
次に、図7(C)に示すように、基板10及び導電層22の上にバリア層24aを形成する。例えば、スパッタ法、印刷法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法(MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法)などによりバリア層24aを形成することができる。
【0067】
次に、バリア層24aの上に配向層28aを形成する。例えば、スパッタ法、真空蒸着法、めっき法、印刷法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、ゾルゲル法などにより配向層28aを形成することができる。
【0068】
次に、配向層28aの上に圧電体層30aを形成する。例えば、ゾルゲル法などによって圧電体層30aを形成することができる。ゾルゲル法においては、原料溶液塗布、予備加熱、結晶化アニール(焼成)の一連の作業を行う。焼成温度は、例えば550℃以上900℃以下の範囲で設定することができる。
【0069】
次に、図7(D)に示すように、バリア層24a、配向層28a及び圧電体層30aをパターニングしてバリア層24、配向層28及び圧電体層30bを形成する。例えば、フォトリソグラフィーなどの方法でバリア層24a、配向層28a及び圧電体層30aの不要部分をエッチングすることにより、バリア層24a、配向層28a及び圧電体層30aをパターニングしてバリア層24、配向層28及び圧電体層30bを形成することができる。これにより、第1電極層20が形成される。
【0070】
次に、図8(A)に示すように、圧電体層30bと一体となるように圧電体層30cを形成する。例えば、ゾルゲル法において、原料溶液塗布、予備加熱、結晶化アニール(焼成)の一連の作業を行うことにより、圧電体層30bと一体となるように圧電体層30cを形成することができる。
【0071】
次に、図8(B)に示すように、圧電体層30cの上に第2導電層40aを形成する。例えば、スパッタ法、真空蒸着、CVD法などの方法で第2導電層40aを形成することができる。
【0072】
次に、図8(C)に示すように、第2導電層40a及び圧電体層30cをパターニングして第1導電層20、圧電体層30及び第2導電層40からなるキャパシタ構造の圧電素子100を形成する。例えば、フォトリソグラフィーなどの方法で第2導電層40a及び圧電体層30cの不要部分をエッチングすることにより、第2導電層40a及び圧電体層30cをパターニングすることができる。
【0073】
以上のようにして圧電素子100が製造されるが、本実施形態の製造方法は、各工程の間に適宜他の部材を形成する工程や表面処理を行う工程を有することができる。
【0074】
なお、上記においては本実施形態に係る圧電素子100を例にとり説明したが、変形例に係る圧電素子100aについても、同様の方法で製造できる。
【0075】
2.液滴噴射ヘッド
次に、本実施形態に係る圧電素子100が圧電アクチュエーターとして機能する液滴噴射ヘッド600について、図面を参照しながら説明する。図9は、本実施形態に係る液滴噴射ヘッド600の要部を模式的に示す断面図である。図10は、本実施形態に係る液滴噴射ヘッド600の分解斜視図であり、通常使用される状態とは上下を逆に示したものである。
【0076】
液滴噴射ヘッド600は、上述の圧電素子(圧電アクチュエーター)を有することができる。以下の例では、基板10の上部に振動板10aを含む構造体として形成され、圧電素子100が圧電アクチュエーターとして構成されている液滴噴射ヘッド600について説明する。
【0077】
液滴噴射ヘッド600は、図9及び図10に示すように、ノズル孔612を有するノズル板610と、圧力室622を形成するための圧力室基板620と、圧電素子100と、を含む。さらに、液滴噴射ヘッド600は、図10に示すように、筐体630を有することができる。なお、図10では、圧電素子100を簡略化して図示している。
【0078】
ノズル板610は、図9及び図10に示すように、ノズル孔612を有する。ノズル孔612からは、インクなどの液体等(液体のみならず、各種の機能性材料を溶媒や分散媒によって適当な粘度に調整したもの、又は、メタルフレーク等を含むものなどを含む。以下同じ。)を液滴として吐出されることができる。ノズル板610には、例えば、多数のノズル孔612が一列に設けられている。ノズル板620の材質としては、例えば、シリコン、ステンレス鋼(SUS)などを挙げることができる。
【0079】
圧力室基板620は、ノズル板610上(図10の例では下)に設けられている。圧力室基板620の材質としては、例えば、シリコンなどを例示することができる。圧力室基板620がノズル板610と振動板10aとの間の空間を区画することにより、図10に示すように、リザーバー(液体貯留部)624と、リザーバー624と連通する供給口626と、供給口626と連通する圧力室622と、が設けられている。この例では、リザーバー624と、供給口626と、圧力室622とを区別して説明するが、これらはいずれも液体等の流路であって、このような流路はどのように設計されても構わない。また例えば、供給口626は、図示の例では流路の一部が狭窄された形状を有しているが、設計にしたがって任意に形成することができ、必ずしも必須の構成ではない。リザーバー624、供給口626及び圧力室622は、ノズル板610と圧力室基板620と振動板10aとによって区画されている。リザーバー624は、外部(例えばインクカートリッジ)から、振動板10aに設けられた貫通孔628を通じて供給されるインクを一時貯留することができる。リザーバー624内のインクは、供給口626を介して、圧力室622に供給されることができる。圧力室622は、振動板10aの変形により容積が変化する。圧力室622はノズル孔612と連通しており、圧力室622の容積が変化することによって、ノズル孔612から液体等が吐出される。
【0080】
圧電素子100は、圧力室基板620上(図10の例では下)に設けられている。圧電素子100は、圧電素子駆動回路(図示せず)に電気的に接続され、圧電素子駆動回路の信号に基づいて動作(振動、変形)することができる。振動板10aは、積層構造(圧電体層30)の動作によって変形し、圧力室622の内部圧力を適宜変化させることができる。
【0081】
筐体630は、図10に示すように、ノズル板610、圧力室基板620及び圧電素子100を収納することができる。筐体630の材質としては、例えば、樹脂、金属などを挙げることができる。
【0082】
液滴噴射ヘッド600は、上述した電極材料の選択の自由度を大きくできる圧電アクチュエーターを含んでいる。したがって、電極材料の選択の自由度を大きくできる圧電素子を含む液滴噴射ヘッドを実現できる。
【0083】
なお、ここでは、液滴噴射ヘッド600がインクジェット式記録ヘッドである場合について説明した。しかしながら、本発明の液滴噴射ヘッドは、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドなどとして用いられることもできる。
【0084】
3.液滴噴射装置
次に、本実施形態に係る液滴噴射装置について、図面を参照しながら説明する。液滴噴射装置は、上述の液滴噴射ヘッドを有する。以下では、液滴噴射装置が上述の液滴噴射ヘッドを有するインクジェットプリンターである場合について説明する。図11は、本実施形態に係る液滴噴射装置700を模式的に示す斜視図である。
【0085】
液滴噴射装置700は、図11に示すように、ヘッドユニット730と、駆動部710と、制御部760と、を含む。さらに、液滴噴射装置700は、装置本体720と、給紙部750と、記録用紙Pを設置するトレイ721と、記録用紙Pを排出する排出口722と、装置本体720の上面に配置された操作パネル770と、を含むことができる。
【0086】
ヘッドユニット730は、上述した液滴噴射ヘッド600から構成されるインクジェット式記録ヘッド(以下単に「ヘッド」ともいう)を有する。ヘッドユニット730は、さらに、ヘッドにインクを供給するインクカートリッジ731と、ヘッド及びインクカートリッジ731を搭載した運搬部(キャリッジ)732と、を備える。
【0087】
駆動部710は、ヘッドユニット730を往復動させることができる。駆動部710は、ヘッドユニット730の駆動源となるキャリッジモーター741と、キャリッジモーター741の回転を受けて、ヘッドユニット730を往復動させる往復動機構742と、を有する。
【0088】
往復動機構742は、その両端がフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸744と、キャリッジガイド軸744と平行に延在するタイミングベルト743と、を備える。キャリッジガイド軸744は、キャリッジ732が自在に往復動できるようにしながら、キャリッジ732を支持している。さらに、キャリッジ732は、タイミングベルト743の一部に固定されている。キャリッジモーター741の作動により、タイミングベルト743を走行させると、キャリッジガイド軸744に導かれて、ヘッドユニット730が往復動する。この往復動の際に、ヘッドから適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
【0089】
なお、本実施形態では、液滴噴射ヘッド600および記録用紙Pがいずれも移動しながら印刷が行われる例を示しているが、本発明の液滴噴射装置は、液滴噴射ヘッド600および記録用紙Pが互いに相対的に位置を変えて記録用紙Pに印刷される機構であってもよい。また、本実施形態では、記録用紙Pに印刷が行われる例を示しているが、本発明の液滴噴射装置によって印刷を施すことができる記録媒体としては、紙に限定されず、布、フィルム、金属など、広範な媒体を挙げることができ、適宜構成を変更することができる。
【0090】
制御部760は、ヘッドユニット730、駆動部710および給紙部750を制御することができる。
【0091】
給紙部750は、記録用紙Pをトレイ721からヘッドユニット730側へ送り込むことができる。給紙部750は、その駆動源となる給紙モーター751と、給紙モーター751の作動により回転する給紙ローラー752と、を備える。給紙ローラー752は、記録用紙Pの送り経路を挟んで上下に対向する従動ローラー752a及び駆動ローラー752bを備える。駆動ローラー752bは、給紙モーター751に連結されている。制御部760によって供紙部750が駆動されると、記録用紙Pは、ヘッドユニット730の下方を通過するように送られる。
【0092】
ヘッドユニット730、駆動部710、制御部760および給紙部750は、装置本体720の内部に設けられている。
【0093】
液滴噴射装置700は、上述した電極材料の選択の自由度を大きくできる液滴噴射ヘッドを含んでいる。したがって、電極材料の選択の自由度を大きくできる圧電素子を含む液滴噴射装置を実現できる。
【0094】
なお、上記例示した液滴噴射装置は、1つの液滴噴射ヘッドを有し、この液滴噴射ヘッドによって、記録媒体に印刷を行うことができるものであるが、複数の液滴噴射ヘッドを有してもよい。液滴噴射装置が複数の液滴噴射ヘッドを有する場合には、複数の液滴噴射ヘッドは、それぞれ独立して上述のように動作されてもよいし、複数の液滴噴射ヘッドが互いに連結されて、1つの集合したヘッドとなっていてもよい。このような集合となったヘッドとしては、例えば、複数のヘッドのそれぞれのノズル孔が全体として均一な間隔を有するような、ライン型のヘッドを挙げることができる。
【0095】
以上、本発明に係る液滴噴射装置の一例として、インクジェットプリンターとしてのインクジェット記録装置700を説明したが、本発明に係る液滴噴射装置は、工業的にも利用することができる。この場合に吐出される液体等(液状材料)としては、各種の機能性材料を溶媒や分散媒によって適当な粘度に調整したものなどを用いることができる。本発明の液滴噴射装置は、例示したプリンター等の画像記録装置以外にも、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射装置、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)、電気泳動ディスプレイ等の電極やカラーフィルターの形成に用いられる液体材料噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機材料噴射装置としても好適に用いられることができる。
【0096】
なお、上述した実施形態および各種の変形は、それぞれ一例であって、本発明は、これらに限定されるわけではない。例えば実施形態および各変形は、複数を適宜組み合わせることが可能である。
【0097】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0098】
10 基板、10a 振動板、20 第1電極層、22,22a 導電層、24,24a バリア層、26,26a 密着層、28,28a 配向層、30,30a,30b,30c 圧電体層、40,40a 第2電極層、100,100a 圧電素子、200a,200b,200c,200d 要部、600 液滴噴射ヘッド、610 ノズル板、612 ノズル孔、620 圧力室基板、622 圧力室、624 リザーバー、626 供給口、628 貫通孔、630 筐体、700 液滴噴射装置、710 駆動部、720 装置本体、721 トレイ、722 排出口、730 ヘッドユニット、731 インクカートリッジ、732 キャリッジ、741 キャリッジモーター、742 往復動機構、743 タイミングベルト、744 キャリッジガイド軸、750 給紙部、751 給紙モーター、752 給紙ローラー、752a 従動ローラー、752b 駆動ローラー、760 制御部、770 操作パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に形成された第1電極層と、
前記第1電極層に対向して配置された第2電極層と、
前記第1電極層及び前記第2電極層の間に配置された圧電体層と、
を含み、
前記第1電極層は、導電層とバリア層とを有し、
前記バリア層は、前記導電層と前記圧電体層とが接しないように、前記導電層と前記圧電体層との間に形成された、圧電素子。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電素子において、
前記バリア層は、前記導電層の上面及び側面を覆って形成された、圧電素子。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれかに記載の圧電素子において、
前記導電層は、W、Ta、Hf、Mo、Nb、Zr、Cu、Ni、Co、Fe、Cr、V、Ti、Ir及びPdからなる群より選択される少なくとも1種を含む、圧電素子。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の圧電素子において、
前記バリア層は、導電性を有する窒化膜からなる、圧電素子。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の圧電素子において、
前記第1電極層は、前記基板と前記導電層との間に密着層を有し、
前記バリア層は、前記密着層の側面を覆って形成された、圧電素子。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の圧電素子において、
前記第1電極層は、前記バリア層と前記圧電体層との間に配向層を有する、圧電素子。
【請求項7】
請求項1ないし6に記載の圧電素子を含む、圧電アクチュエーター。
【請求項8】
請求項7に記載の圧電アクチュエーターを含む、液滴噴射ヘッド。
【請求項9】
請求項8に記載の液滴噴射ヘッドを含む、液滴噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−129555(P2011−129555A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283818(P2009−283818)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】