圧電素子の製造方法及び液体噴射ヘッドの製造方法
【課題】厚さ方向に亘って結晶が連続する圧電体層を形成することができる圧電素子の製造方法及び液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に下電極膜60を形成する工程と、下電極膜上に過剰鉛を含有する圧電体前駆体膜を形成し、圧電体前駆体膜を乾燥、脱脂及び焼成することで圧電体膜71を形成する圧電体膜形成工程を複数回繰り返して複数の圧電体膜からなる圧電体層70を形成する工程と、圧電体層上に上電極膜80を形成する工程とを有し、且つ圧電体層を形成する工程では、各圧電体膜形成工程の間に、圧電体膜のそれぞれの焼成表面を洗浄する洗浄工程を実施する。
【解決手段】基板上に下電極膜60を形成する工程と、下電極膜上に過剰鉛を含有する圧電体前駆体膜を形成し、圧電体前駆体膜を乾燥、脱脂及び焼成することで圧電体膜71を形成する圧電体膜形成工程を複数回繰り返して複数の圧電体膜からなる圧電体層70を形成する工程と、圧電体層上に上電極膜80を形成する工程とを有し、且つ圧電体層を形成する工程では、各圧電体膜形成工程の間に、圧電体膜のそれぞれの焼成表面を洗浄する洗浄工程を実施する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体層を具備する圧電素子の製造方法、及び圧電素子を具備するインクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッド等に用いられる圧電素子は、電気機械変換機能を呈する圧電材料等の強誘電材料からなる圧電体層を2つの電極で挟んだ素子であり、圧電体層は、例えば、結晶化した圧電性セラミックスにより構成されている。
【0003】
このような圧電素子を用いた液体噴射ヘッドとしては、例えば、インク滴を吐出するノズルと連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズルからインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。また、インクジェット式記録ヘッドとしては、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードのアクチュエータ装置を使用したものと、たわみ振動モードのアクチュエータ装置を使用したものの2種類が実用化されている。たわみ振動モードのアクチュエータを使用したものとしては、例えば、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電体膜を形成し、この圧電体層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けることによって圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものが知られている。
【0004】
ここで、圧電素子を構成する圧電体層としては、例えば、複数の強誘電体膜を積層することによって形成されたものがある。その製造方法としては、次のようなものがある。まず、基板上に設けられた下電極膜上に有機金属化合物のゾルを塗布して乾燥および脱脂して強誘電体前駆体膜を形成し、その後、高温で熱処理して結晶化させて最下層の強誘電体膜(第1の強誘電体膜)を形成する。次に、第1の強誘電体膜及び下電極膜をエッチングすることによってこれら第1の強誘電体膜及び下電極膜を所定形状に形成する。その後、再び、有機金属化合物のゾルを塗布して乾燥及び脱脂する工程を少なくとも一回以上実施し、高温で熱処理して結晶化させる。そして、これらの工程をさらに複数回繰り返し実施することで所定厚さの圧電体層を形成する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−014265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
圧電体層の結晶は、一般的に柱状結晶であり、この結晶は圧電体層の厚さ方向に亘って連続的に形成されていることが好ましい。これにより、圧電体層の物理的特性や、圧電特性が向上するからである。しかしながら、上述のように強誘電体膜(圧電体膜)を複数積層して圧電体層を形成すると、良好な結晶性を有する圧電体層が得られない場合がある。つまり、各圧電体膜の結晶が、圧電体層の厚さ方向に亘って連続することなく形成されてしまう場合がある。このように圧電体層の結晶が不連続であると、各圧電体膜間で層間剥離が生じる等の問題がある。なお、このような問題は、液体噴射ヘッドに用いられる圧電素子だけでなく、他の装置に用いられる圧電素子においても同様に生じる虞がある。
【0007】
ここで、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電材料で圧電体層を形成する場合、圧電体層中の鉛の欠けを防止するために、一般的に、過剰鉛(化学量論比を上回る鉛)を含有する圧電材料が用いられる。そして、本願発明者は、このような圧電材料によって圧電体層を形成した場合、各圧電体膜の表面には、過剰鉛が酸化した酸化鉛の微粒子が析出することを知見し、またこの酸化鉛の微粒子が圧電体層の結晶性に影響を及ぼすことを知見した。
【0008】
本発明はこのような知見に基づいてなされたものであり、厚さ方向に亘って結晶が連続する圧電体層を形成することができる圧電素子の製造方法及び液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、基板上に下電極膜を形成する工程と、該下電極膜上に過剰鉛を含有する圧電体前駆体膜を形成し、該圧電体前駆体膜を乾燥、脱脂及び焼成することで圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程を複数回繰り返して複数の前記圧電体膜からなる圧電体層を形成する工程と、該圧電体層上に上電極膜を形成する工程とを有し、且つ前記圧電体層を形成する工程では、各圧電体膜形成工程の間に、前記圧電体膜のそれぞれの焼成表面を洗浄する洗浄工程を実施することを特徴とする圧電素子の製造方法にある。
かかる本発明では、洗浄工程において、圧電体層の焼成表面に析出する酸化鉛の微粒子等の異物が除去される。これにより、圧電体層の結晶がその厚さ方向に亘って連続して形成される。したがって、各圧電体膜間での層間剥離が生じるのを防止することができる。また、圧電体層の圧電特性を向上することもできる。
【0010】
ここで、前記洗浄工程では、純水を用いて前記圧電体層の焼成表面を洗浄すればよい。また前記洗浄工程では、有機溶剤を用いて前記圧電体層の焼成表面を洗浄するようにしてもよい。特に、前記洗浄工程では、酢酸水溶液を用いることが好ましい。これにより、圧電体層に悪影響を及ぼすことなく圧電体層の焼成表面を良好に洗浄することができる。
【0011】
また、前記洗浄工程では、前記圧電体層の焼成表面を物理的に洗浄するようにしてもよい。具体的には、例えば、圧電体層に超音波や、ブラシを利用して圧電体層の焼成表面を洗浄するようにしてもよい。これにより、圧電体層の焼成表面をより確実に洗浄することができる。
【0012】
また、前記洗浄工程は、前記圧電体層の焼成表面に析出する酸化鉛の微粒子を除去する。これにより、圧電体層の焼成表面の異物としての酸化鉛を除去して良好な結晶成長を得られる。
【0013】
また本発明は、このような製造方法によって製造された圧電素子を用いることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。かかる本発明では、圧電素子を良好に形成することができ、信頼性を向上した液体噴射ヘッドを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明を一実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びA−A’断面図であり、図3は、圧電素子の層構造を示す概略図である。図示するように、インクジェット式記録ヘッドを構成する流路形成基板10は、例えば、面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、隔壁11によって区画された複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向一端部側には、隔壁11によって区画され各圧力発生室12に連通するインク供給路13と連通路14とが設けられている。連通路14の外側には、各連通路14と連通する連通部15が設けられている。この連通部15は、後述する保護基板30のリザーバ部32と連通して、各圧力発生室12の共通するリザーバ100の一部を構成する。
【0015】
インク供給路13は、圧力発生室12よりも狭い断面積となるように形成されており、連通部15から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。このインク供給路13は、具体的には、リザーバ100と各圧力発生室12との間の圧力発生室12側の流路を幅方向に絞ることで、圧力発生室12の幅より小さい幅で形成されている。各連通路14は、圧力発生室12の幅方向両側の隔壁11を連通部15側に延設してインク供給路13と連通部15との間の空間を区画することで形成されている。
【0016】
なお、インク供給路13は、上述した構成に限定されず、例えば、流路の幅が両側から絞られていてもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。
【0017】
流路形成基板10の材料として、上述したようにシリコン単結晶基板が好適に用いられるが、勿論これに限定されず、例えば、ガラスセラミックス、ステンレス鋼等を用いてもよい。
【0018】
流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路13とは反対側の端部近傍に連通するノズル21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼(SUS)などからなる。
【0019】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、下電極膜60と、厚さが1.0〜5.0μm程度の圧電体層70と、上電極膜80とからなる圧電素子300が形成されている。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極を圧電体層70と共に圧力発生室12毎にパターニングして個別電極とする。本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び下電極膜60が実質的に振動板として作用するが、弾性膜50、絶縁体膜55を設けずに、下電極膜60のみを残して下電極膜60を振動板としてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0020】
ここで、圧電素子300を構成する下電極膜60は、圧力発生室12の両端部近傍でそれぞれパターニングされ、圧力発生室12の並設方向に沿って連続的に設けられている。また、本実施形態では、各圧力発生室12に対向する領域の下電極膜60の端面は、絶縁体膜55に対して所定角度で傾斜する傾斜面となっている。なお、下電極膜60の端面は、必ずしも傾斜面となっている必要はなく、絶縁体膜55に対して略垂直な面であってもよい。
【0021】
圧電体層70は、圧力発生室12毎に独立して設けられ、図3に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電材料からなる複数層の圧電体膜71(71a〜71d)で構成され、それらのうちの最下層である第1の圧電体膜71aは下電極膜60上のみに設けられている。そして、この第1の圧電体膜71aの端面は、下電極膜60の端面から連続する傾斜面となっている。また、この第1の圧電体膜71a上に形成される第2〜4の圧電体膜71b〜71dは、第1の圧電体膜71a上から絶縁体膜55上まで、第1の圧電体膜71a及び下電極膜60の傾斜した端面を覆って設けられている。そして、第1の圧電体膜71aと下電極膜60とは、圧力発生室12の長手方向に対向する領域内に形成され、また、第2〜4の圧電体膜71b〜71dは、圧力発生室12の長手方向端部に対向する領域から当該領域外にまで延設されている。
【0022】
なお、上電極膜80は、圧電体層70と同様に圧力発生室12毎に独立して設けられている。そして、各上電極膜80には、例えば、金(Au)等からなるリード電極90の一端側が接続され、このリード電極90の他端側は絶縁体膜55上まで延設されている。
【0023】
また流路形成基板10上には、圧電素子300を保護するための圧電素子保持部31を有する保護基板30が接合されている。なお、この圧電素子保持部31は密封されていてもよいが、密封されていなくてもよい。また保護基板30には、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部32が設けられている。さらに、保護基板30上には、剛性が低く可撓性を有する材料で形成される封止膜41と金属等の硬質の材料で形成される固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。なお、固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっており、リザーバ100の一方面は封止膜41のみで封止されている。
【0024】
このようなインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル21に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない駆動回路からの記録信号に従い、外部配線を介して圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、圧電素子300及び振動板をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル21からインク滴が吐出する。
【0025】
以下、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法、特に、圧電素子の形成方法について図4〜図9を参照して説明する。まず、図4(a)に示すように、流路形成基板10となるシリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110に弾性膜50となる二酸化シリコン膜51を形成する。次いで、図4(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜55を形成する。次いで、図4(c)に示すように、絶縁体膜55上に下電極膜60を形成する。この下電極膜60の材料は、特に限定されないが、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ない材料であることが望ましい。このため、下電極膜60の材料としては白金、イリジウム等が好適に用いられる。
【0026】
次いで、下電極膜60上に圧電体層70を形成する。圧電体層70は、上述したように複数層の圧電体膜71a〜71dを積層することによって形成され、本実施形態では、これらの圧電体膜71をいわゆるゾル−ゲル法を用いて形成している。すなわち、金属有機物を溶媒に溶解・分散しゾルを塗布・乾燥しゲル化して圧電体前駆体膜72を形成し、さらにこの圧電体前駆体膜72を脱脂して有機成分を離脱させた後、焼成して結晶化させることで各圧電体膜71を得ている。
【0027】
なお、圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電材料が用いられる。また焼成によって形成される圧電体層70中の鉛の欠けを防止するために過剰鉛(化学量論比を上回る鉛)を含有する圧電材料が用いられる。勿論、圧電体層70の材料は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)に限定されるものではない。例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)にニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等を用いてもよい。その組成は、圧電素子300の特性、用途等を考慮して適宜選択すればよいが、例えば、PbTiO3(PT)、PbZrO3(PZ)、Pb(ZrxTi1−x)O3(PZT)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PMN−PT)、Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PZN−PT)、Pb(Ni1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PNN−PT)、Pb(In1/2Nb1/2)O3−PbTiO3(PIN−PT)、Pb(Sc1/2Ta1/2)O3−PbTiO3(PST−PT)、Pb(Sc1/2Nb1/2)O3−PbTiO3(PSN−PT)、BiScO3−PbTiO3(BS−PT)、BiYbO3−PbTiO3(BY−PT)等が挙げられる。また、本実施形態では、圧電体層70を構成する各圧電体膜71を、ゾル−ゲル法によって形成したが、これに限定されず、例えば、金属アルコキシド等の有機金属化合物をアルコールに溶解し、これに加水分解抑制剤等を加えて得たコロイド溶液を被対象物上に塗布した後、これを乾燥して焼成することで成膜する、いわゆるMOD(Metal-Organic Decomposition)法によって形成してもよい。
【0028】
圧電体層70の形成手順としては、具体的にはまず、図5(a)に示すように、下電極膜60上に、チタン又は酸化チタンからなる結晶種(層)65を、例えば、スパッタ法により形成する。次いで、図5(b)に示すように、例えば、スピンコート法等の塗布法により未結晶状態の圧電体前駆体膜72aを所定の厚さとなるように形成する。この圧電体前駆体膜72aを乾燥させて溶媒を蒸発させる。圧電体前駆体膜72aを乾燥させる温度は、例えば、150℃以上200℃以下であることが好ましく、好適には180℃程度である。また、乾燥させる時間は、例えば、5分以上15分以下であることが好ましく、好適には10分程度である。
【0029】
そして、乾燥した圧電体前駆体膜72aを所定温度で脱脂する。なお、ここで言う脱脂とは、圧電体前駆体膜72aの有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることである。なお、脱脂時の流路形成基板用ウェハ110の加熱温度は300℃〜500℃程度であることが好ましい。温度が高すぎると圧電体前駆体膜72aの結晶化が始まってしまい、温度が低すぎると十分な脱脂が行えないためである。本実施形態では、ホットプレートによって流路形成基板用ウェハ110を400℃程度に加熱して、圧電体前駆体膜72aの脱脂を行った。
【0030】
このように圧電体前駆体膜72aの脱脂を行った後、流路形成基板用ウェハ110を、例えば、RTA(Rapid Thermal Annealing)装置等に投入し、圧電体前駆体膜72aを約700℃の高温で焼成して結晶化することにより、最下層の圧電体膜である第1の圧電体膜71aを形成する。
【0031】
次に、下電極膜60と第1の圧電体膜71aとを同時にパターニングする。まず図5(c)に示すように、第1の圧電体膜71a上にレジストを塗布し、露光及び現像することにより所定パターンのレジスト膜200を形成する。ここで、レジストは、例えば、ネガレジストをスピンコート法等により塗布して形成し、レジスト膜200は、その後、所定のマスクを用いて露光・現像・ベークを行うことにより形成する。勿論、ネガレジストの代わりにポジレジストを用いてもよい。なお、本実施形態では、レジスト膜200の端面が所定角度で傾斜するように形成している。
【0032】
そして、図6(a)に示すように、このようなレジスト膜200を介して下電極膜60及び第1の圧電体膜71aをイオンミリングすることによってパターニングする。このとき、これら下電極膜60及び第1の圧電体膜71aは、レジスト膜200の傾斜した端面に沿ってパターニングされ、これらの端面は、振動板に対して所定角度で傾斜する傾斜面となる。
【0033】
次に、図6(b)に示すように第1の圧電体膜71a上のレジスト膜200を剥離させた後、図6(c)に示すように、この第1の圧電体膜71aの表面を、例えば、有機溶剤等の洗浄液210によって洗浄する洗浄工程を実施する。ここで、第1の圧電体膜71aの表面には、圧電体前駆体膜72aを焼成する際に圧電材料に含まれる過剰鉛が酸化した酸化鉛の微粒子が析出する。洗浄工程では、このように第1の圧電体膜71aの表面に析出した酸化鉛の微粒子等の異物を除去する。本実施形態では、例えば、10重量%以下の酢酸水溶液である洗浄液210に第1の圧電体膜71aを浸漬させることで、その焼成後の表面を洗浄するようにした。なお、洗浄工程における洗浄液210の温度は特に限定されないが、例えば、常温〜80℃程度であることが好ましい。このような洗浄工程を実施することで、第1の圧電体膜71aの焼成後の表面を良好に洗浄することができる。つまり、上述した酸化鉛の微粒子等の異物を確実に除去することができる。
【0034】
なお、本実施形態では、洗浄液210として酢酸水溶液を用いたが、例えば、エタノール、メタノール等のアルコール系の有機溶剤を用いてもよい。また、このときの洗浄液210の温度は、常温〜50℃とするのが好ましい。また、洗浄液210としては、有機溶剤以外に、例えば、純水を用いるようにしてもよい。このような洗浄液210を用いても、第1の圧電体膜71aの焼成後の表面を良好に洗浄することができる。
【0035】
また、洗浄工程では、例えば、洗浄液210中で第1の圧電体膜71aに超音波振動を与えたり、或いは第1の圧電体膜71aの表面をブラシ等で擦ったりすることで、第1の圧電体膜71aの焼成表面の異物を物理的に除去するようにしてもよい。これにより、第1の圧電体膜71aの焼成表面をさらに良好に洗浄することができる。
【0036】
また、洗浄工程では、上述したように洗浄液210中に第1の圧電体膜71aを浸漬するようにしてもよいが、例えば、いわゆるスピン洗浄によって第1の圧電体膜71aの焼成表面を洗浄するようにしてもよい。
【0037】
このような洗浄工程を実施した後は、流路形成基板用ウェハ110に付着している洗浄液210を取り除く。具体的には、例えば、約150℃の温度で20分程度の間、流路形成基板用ウェハ110を乾燥させることで洗浄液210を取り除く。
【0038】
次に、図6(d)に示すように、この第1の圧電体膜71a上に、スピンコート法等により圧電体前駆体膜72bを所定の厚さとなるように形成する。本実施形態では、3回の塗布により所望の厚さの圧電体前駆体膜72bを得ている。次いで、この圧電体前駆体膜72bを乾燥・脱脂後、焼成して結晶化させて第2の圧電体膜71bとする。次に、上述した洗浄工程を再び実施して、第1の圧電体膜71aの焼成表面と同様に、この第2の圧電体膜71bの焼成表面を洗浄する。
【0039】
その後、このような工程を繰り返すことによって、残りの圧電体膜を形成する。つまり、三度の塗布によって圧電体前駆体膜を形成する工程と、その圧電体前駆体膜を乾燥・脱脂後、焼成して圧電体膜を形成する工程と、各圧電体膜の焼成表面を洗浄する洗浄工程とを複数回繰り返すことにより、残りの圧電体膜である第3及び第4の圧電体膜71c,71dを形成する。これにより、複数層の圧電体膜71a〜71dからなる圧電体層70が形成される(図7(a))。
【0040】
その後、図7(b)に示すように、例えば、イリジウム(Ir)からなる上電極膜80を積層形成し、圧電体層70及び上電極膜80を各圧力発生室12に対向する領域内にパターニングして圧電素子300を形成する(図7(c))。
【0041】
次いで、図8(a)に示すように、金(Au)からなる金属層91を流路形成基板10の全面に亘って形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介してこの金属層91を圧電素子300毎にパターニングすることによってリード電極90を形成する。
【0042】
次に、図8(b)に示すように、複数の保護基板30が一体的に形成される保護基板用ウェハ130を、流路形成基板用ウェハ110上に接着剤35によって接着する。ここで、保護基板用ウェハ130には、圧電素子保持部31、リザーバ部32等が予め形成されている。
【0043】
次いで、図8(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110をある程度の厚さとなるまで研磨した後、さらにフッ硝酸によってウェットエッチングすることにより流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みにする。次いで、図9(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上に、例えば、窒化シリコン(SiN)からなる保護膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図9(b)に示すように、この保護膜52を介して流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチング(ウェットエッチング)して、流路形成基板用ウェハ110に、圧力発生室12、インク供給路13、連通路14及び連通部15を形成する。
【0044】
その後、流路形成基板用ウェハ110の保護基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、これら流路形成基板用ウェハ110等を、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって上述した構造のインクジェット式記録ヘッドが製造される。
【0045】
以上説明したように本発明では、各圧電体膜71a〜71dを形成する工程の間に、それらの表面を洗浄する洗浄工程を実施するようにした。例えば、本実施形態では、第1〜第3の圧電体膜71a〜71cの表面を洗浄する洗浄工程を実施するようにし、表面に析出している酸化鉛の微粒子等の異物を除去するようにした。これにより、圧電体層の結晶性が大幅に向上する。具体的には、(100)に優先配向する柱状結晶を有する圧電体層が得られ、またこの柱状結晶が厚さ方向に亘って連続するものとなる。したがって、各圧電体膜71a〜71d間での層間剥離を防止することができる。さらに圧電素子の圧電特性を向上することもできる。よって、信頼性に優れたインクジェット式記録ヘッドを実現することができる。
【0046】
なお、優先配向とは、結晶の配向方向が無秩序ではなく、特定の結晶面がほぼ一定の方向に向いている状態をいう。また、結晶が柱状の薄膜とは、略円柱体の結晶が中心軸を厚さ方向に略一致させた状態で面方向に亘って集合して薄膜を形成している状態をいう。
【0047】
図10は、洗浄工程を実施した場合の圧電体層の断面を示すSEM像である。また、図11は、洗浄工程を実施しなかった場合の圧電体層の断面を示すSEM像である。図10に示すように、洗浄工程を実施した場合には、圧電体層70を構成する各圧電体膜71の境界は視認できない。つまり、圧電体層70の結晶は、その厚さ方向に亘って連続していることが分かる。このように圧電体層70の結晶が、その厚さ方向に亘って連続していれば、上述したように層間剥離が発生することはない。
【0048】
一方、図11に示すように、洗浄工程を実施しなかった場合には、圧電体層70を構成する圧電体膜71の境界部分に、黒い点状に見える空洞部が複数確認された(図中矢印で示す)。なお、この空洞部は、酸化鉛(PbO)の微粒子が存在すると発生するものである。そして、このような空洞部が存在すると、この空洞部を起点として層間剥離や、圧電体層70の割れ等が発生してしまう虞がある。
【0049】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、第1の圧電体膜71aの焼成表面を洗浄する洗浄工程を、第1の圧電体膜71aをパターニング後に実施するようにしたが、勿論、パターニング前に実施するようにしてもよい。また、上述の実施形態では、第1〜第3の圧電体膜71a〜71cの表面を洗浄するようにしたが、勿論、第4の圧電体膜71dの焼成表面をさらに洗浄するようにしてもよい。これにより、圧電体層70と上電極膜80との密着性が向上する。
【0050】
さらに、例えば、上述の実施形態では、洗浄工程後、第1の圧電体膜71aの焼成表面に第2の圧電体膜71bを直接形成するようにしたが、第1の圧電体膜71a及び絶縁体膜55上に、チタン(Ti)からなるチタン層を、例えば、1〜6nm程度の厚さでさらに形成し、このチタン層を介して第1の圧電体膜71a上に第2の圧電体膜71bを形成するようにしてもよい。洗浄工程後にチタン層を形成することで、チタン層が均一な厚みで形成されるため、圧電体層70の結晶性をさらに向上することができる。チタン層の厚みを均一に形成することは、圧電体層の配向及び柱状結晶を形成する上で重要となる。つまり、チタン層の厚みは、圧電体層の配向を決定付ける要因になるので、チタン層の厚みがばらつくことは配向を低下させることになる。また、圧電体層を構成する結晶粒はチタン層を核として成長するため、膜厚がばらつくことによって核として良好に形成されていないチタン層が存在することになり、その領域の結晶粒は所望の柱状結晶をなさない場合がある。
【0051】
また例えば、上述の実施形態では、第1の圧電体膜上の圧電体膜(第2〜第4の圧電体膜)は、それぞれ三度の塗布により圧電体前駆体膜を形成後、この圧電体前駆体膜を焼成することによって形成されているが、勿論、各圧電体膜は、一度の塗布により形成した圧電体前駆体膜をそれぞれ焼成することよって形成するようにしてもよい。この場合、一度の塗布によって形成された各圧電体膜の焼成表面を洗浄工程によって洗浄する。
【0052】
また、液体噴射ヘッドとしてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドを一例として説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることができる。さらに、本発明は、液体噴射ヘッドに利用される圧電素子だけでなく、他のあらゆる装置、例えば、マイクロホン、発音体、各種振動子、発信子等に搭載される圧電素子の製造方法にも適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】実施形態1に係る圧電素子の層構造を示す概略図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図7】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図8】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図9】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図10】本発明に係る圧電体層の断面を示すSEM像である。
【図11】従来技術に係る圧電体膜の断面を示すSEM像である。
【符号の説明】
【0054】
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 20 ノズルプレート、 21 ノズル、 30 保護基板、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 71 圧電体膜、 72 圧電体前駆体膜、 80 上電極膜、 90 リード電極、 200 レジスト膜、 210 洗浄液、 300 圧電素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体層を具備する圧電素子の製造方法、及び圧電素子を具備するインクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッド等に用いられる圧電素子は、電気機械変換機能を呈する圧電材料等の強誘電材料からなる圧電体層を2つの電極で挟んだ素子であり、圧電体層は、例えば、結晶化した圧電性セラミックスにより構成されている。
【0003】
このような圧電素子を用いた液体噴射ヘッドとしては、例えば、インク滴を吐出するノズルと連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズルからインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。また、インクジェット式記録ヘッドとしては、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードのアクチュエータ装置を使用したものと、たわみ振動モードのアクチュエータ装置を使用したものの2種類が実用化されている。たわみ振動モードのアクチュエータを使用したものとしては、例えば、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電体膜を形成し、この圧電体層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けることによって圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものが知られている。
【0004】
ここで、圧電素子を構成する圧電体層としては、例えば、複数の強誘電体膜を積層することによって形成されたものがある。その製造方法としては、次のようなものがある。まず、基板上に設けられた下電極膜上に有機金属化合物のゾルを塗布して乾燥および脱脂して強誘電体前駆体膜を形成し、その後、高温で熱処理して結晶化させて最下層の強誘電体膜(第1の強誘電体膜)を形成する。次に、第1の強誘電体膜及び下電極膜をエッチングすることによってこれら第1の強誘電体膜及び下電極膜を所定形状に形成する。その後、再び、有機金属化合物のゾルを塗布して乾燥及び脱脂する工程を少なくとも一回以上実施し、高温で熱処理して結晶化させる。そして、これらの工程をさらに複数回繰り返し実施することで所定厚さの圧電体層を形成する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−014265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
圧電体層の結晶は、一般的に柱状結晶であり、この結晶は圧電体層の厚さ方向に亘って連続的に形成されていることが好ましい。これにより、圧電体層の物理的特性や、圧電特性が向上するからである。しかしながら、上述のように強誘電体膜(圧電体膜)を複数積層して圧電体層を形成すると、良好な結晶性を有する圧電体層が得られない場合がある。つまり、各圧電体膜の結晶が、圧電体層の厚さ方向に亘って連続することなく形成されてしまう場合がある。このように圧電体層の結晶が不連続であると、各圧電体膜間で層間剥離が生じる等の問題がある。なお、このような問題は、液体噴射ヘッドに用いられる圧電素子だけでなく、他の装置に用いられる圧電素子においても同様に生じる虞がある。
【0007】
ここで、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電材料で圧電体層を形成する場合、圧電体層中の鉛の欠けを防止するために、一般的に、過剰鉛(化学量論比を上回る鉛)を含有する圧電材料が用いられる。そして、本願発明者は、このような圧電材料によって圧電体層を形成した場合、各圧電体膜の表面には、過剰鉛が酸化した酸化鉛の微粒子が析出することを知見し、またこの酸化鉛の微粒子が圧電体層の結晶性に影響を及ぼすことを知見した。
【0008】
本発明はこのような知見に基づいてなされたものであり、厚さ方向に亘って結晶が連続する圧電体層を形成することができる圧電素子の製造方法及び液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、基板上に下電極膜を形成する工程と、該下電極膜上に過剰鉛を含有する圧電体前駆体膜を形成し、該圧電体前駆体膜を乾燥、脱脂及び焼成することで圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程を複数回繰り返して複数の前記圧電体膜からなる圧電体層を形成する工程と、該圧電体層上に上電極膜を形成する工程とを有し、且つ前記圧電体層を形成する工程では、各圧電体膜形成工程の間に、前記圧電体膜のそれぞれの焼成表面を洗浄する洗浄工程を実施することを特徴とする圧電素子の製造方法にある。
かかる本発明では、洗浄工程において、圧電体層の焼成表面に析出する酸化鉛の微粒子等の異物が除去される。これにより、圧電体層の結晶がその厚さ方向に亘って連続して形成される。したがって、各圧電体膜間での層間剥離が生じるのを防止することができる。また、圧電体層の圧電特性を向上することもできる。
【0010】
ここで、前記洗浄工程では、純水を用いて前記圧電体層の焼成表面を洗浄すればよい。また前記洗浄工程では、有機溶剤を用いて前記圧電体層の焼成表面を洗浄するようにしてもよい。特に、前記洗浄工程では、酢酸水溶液を用いることが好ましい。これにより、圧電体層に悪影響を及ぼすことなく圧電体層の焼成表面を良好に洗浄することができる。
【0011】
また、前記洗浄工程では、前記圧電体層の焼成表面を物理的に洗浄するようにしてもよい。具体的には、例えば、圧電体層に超音波や、ブラシを利用して圧電体層の焼成表面を洗浄するようにしてもよい。これにより、圧電体層の焼成表面をより確実に洗浄することができる。
【0012】
また、前記洗浄工程は、前記圧電体層の焼成表面に析出する酸化鉛の微粒子を除去する。これにより、圧電体層の焼成表面の異物としての酸化鉛を除去して良好な結晶成長を得られる。
【0013】
また本発明は、このような製造方法によって製造された圧電素子を用いることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。かかる本発明では、圧電素子を良好に形成することができ、信頼性を向上した液体噴射ヘッドを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明を一実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びA−A’断面図であり、図3は、圧電素子の層構造を示す概略図である。図示するように、インクジェット式記録ヘッドを構成する流路形成基板10は、例えば、面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。流路形成基板10には、隔壁11によって区画された複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向一端部側には、隔壁11によって区画され各圧力発生室12に連通するインク供給路13と連通路14とが設けられている。連通路14の外側には、各連通路14と連通する連通部15が設けられている。この連通部15は、後述する保護基板30のリザーバ部32と連通して、各圧力発生室12の共通するリザーバ100の一部を構成する。
【0015】
インク供給路13は、圧力発生室12よりも狭い断面積となるように形成されており、連通部15から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。このインク供給路13は、具体的には、リザーバ100と各圧力発生室12との間の圧力発生室12側の流路を幅方向に絞ることで、圧力発生室12の幅より小さい幅で形成されている。各連通路14は、圧力発生室12の幅方向両側の隔壁11を連通部15側に延設してインク供給路13と連通部15との間の空間を区画することで形成されている。
【0016】
なお、インク供給路13は、上述した構成に限定されず、例えば、流路の幅が両側から絞られていてもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。
【0017】
流路形成基板10の材料として、上述したようにシリコン単結晶基板が好適に用いられるが、勿論これに限定されず、例えば、ガラスセラミックス、ステンレス鋼等を用いてもよい。
【0018】
流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路13とは反対側の端部近傍に連通するノズル21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼(SUS)などからなる。
【0019】
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、下電極膜60と、厚さが1.0〜5.0μm程度の圧電体層70と、上電極膜80とからなる圧電素子300が形成されている。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極を圧電体層70と共に圧力発生室12毎にパターニングして個別電極とする。本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び下電極膜60が実質的に振動板として作用するが、弾性膜50、絶縁体膜55を設けずに、下電極膜60のみを残して下電極膜60を振動板としてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0020】
ここで、圧電素子300を構成する下電極膜60は、圧力発生室12の両端部近傍でそれぞれパターニングされ、圧力発生室12の並設方向に沿って連続的に設けられている。また、本実施形態では、各圧力発生室12に対向する領域の下電極膜60の端面は、絶縁体膜55に対して所定角度で傾斜する傾斜面となっている。なお、下電極膜60の端面は、必ずしも傾斜面となっている必要はなく、絶縁体膜55に対して略垂直な面であってもよい。
【0021】
圧電体層70は、圧力発生室12毎に独立して設けられ、図3に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電材料からなる複数層の圧電体膜71(71a〜71d)で構成され、それらのうちの最下層である第1の圧電体膜71aは下電極膜60上のみに設けられている。そして、この第1の圧電体膜71aの端面は、下電極膜60の端面から連続する傾斜面となっている。また、この第1の圧電体膜71a上に形成される第2〜4の圧電体膜71b〜71dは、第1の圧電体膜71a上から絶縁体膜55上まで、第1の圧電体膜71a及び下電極膜60の傾斜した端面を覆って設けられている。そして、第1の圧電体膜71aと下電極膜60とは、圧力発生室12の長手方向に対向する領域内に形成され、また、第2〜4の圧電体膜71b〜71dは、圧力発生室12の長手方向端部に対向する領域から当該領域外にまで延設されている。
【0022】
なお、上電極膜80は、圧電体層70と同様に圧力発生室12毎に独立して設けられている。そして、各上電極膜80には、例えば、金(Au)等からなるリード電極90の一端側が接続され、このリード電極90の他端側は絶縁体膜55上まで延設されている。
【0023】
また流路形成基板10上には、圧電素子300を保護するための圧電素子保持部31を有する保護基板30が接合されている。なお、この圧電素子保持部31は密封されていてもよいが、密封されていなくてもよい。また保護基板30には、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部32が設けられている。さらに、保護基板30上には、剛性が低く可撓性を有する材料で形成される封止膜41と金属等の硬質の材料で形成される固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。なお、固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっており、リザーバ100の一方面は封止膜41のみで封止されている。
【0024】
このようなインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル21に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない駆動回路からの記録信号に従い、外部配線を介して圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、圧電素子300及び振動板をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル21からインク滴が吐出する。
【0025】
以下、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの製造方法、特に、圧電素子の形成方法について図4〜図9を参照して説明する。まず、図4(a)に示すように、流路形成基板10となるシリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110に弾性膜50となる二酸化シリコン膜51を形成する。次いで、図4(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜55を形成する。次いで、図4(c)に示すように、絶縁体膜55上に下電極膜60を形成する。この下電極膜60の材料は、特に限定されないが、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いる場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ない材料であることが望ましい。このため、下電極膜60の材料としては白金、イリジウム等が好適に用いられる。
【0026】
次いで、下電極膜60上に圧電体層70を形成する。圧電体層70は、上述したように複数層の圧電体膜71a〜71dを積層することによって形成され、本実施形態では、これらの圧電体膜71をいわゆるゾル−ゲル法を用いて形成している。すなわち、金属有機物を溶媒に溶解・分散しゾルを塗布・乾燥しゲル化して圧電体前駆体膜72を形成し、さらにこの圧電体前駆体膜72を脱脂して有機成分を離脱させた後、焼成して結晶化させることで各圧電体膜71を得ている。
【0027】
なお、圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の圧電材料が用いられる。また焼成によって形成される圧電体層70中の鉛の欠けを防止するために過剰鉛(化学量論比を上回る鉛)を含有する圧電材料が用いられる。勿論、圧電体層70の材料は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)に限定されるものではない。例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)にニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等を用いてもよい。その組成は、圧電素子300の特性、用途等を考慮して適宜選択すればよいが、例えば、PbTiO3(PT)、PbZrO3(PZ)、Pb(ZrxTi1−x)O3(PZT)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PMN−PT)、Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PZN−PT)、Pb(Ni1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PNN−PT)、Pb(In1/2Nb1/2)O3−PbTiO3(PIN−PT)、Pb(Sc1/2Ta1/2)O3−PbTiO3(PST−PT)、Pb(Sc1/2Nb1/2)O3−PbTiO3(PSN−PT)、BiScO3−PbTiO3(BS−PT)、BiYbO3−PbTiO3(BY−PT)等が挙げられる。また、本実施形態では、圧電体層70を構成する各圧電体膜71を、ゾル−ゲル法によって形成したが、これに限定されず、例えば、金属アルコキシド等の有機金属化合物をアルコールに溶解し、これに加水分解抑制剤等を加えて得たコロイド溶液を被対象物上に塗布した後、これを乾燥して焼成することで成膜する、いわゆるMOD(Metal-Organic Decomposition)法によって形成してもよい。
【0028】
圧電体層70の形成手順としては、具体的にはまず、図5(a)に示すように、下電極膜60上に、チタン又は酸化チタンからなる結晶種(層)65を、例えば、スパッタ法により形成する。次いで、図5(b)に示すように、例えば、スピンコート法等の塗布法により未結晶状態の圧電体前駆体膜72aを所定の厚さとなるように形成する。この圧電体前駆体膜72aを乾燥させて溶媒を蒸発させる。圧電体前駆体膜72aを乾燥させる温度は、例えば、150℃以上200℃以下であることが好ましく、好適には180℃程度である。また、乾燥させる時間は、例えば、5分以上15分以下であることが好ましく、好適には10分程度である。
【0029】
そして、乾燥した圧電体前駆体膜72aを所定温度で脱脂する。なお、ここで言う脱脂とは、圧電体前駆体膜72aの有機成分を、例えば、NO2、CO2、H2O等として離脱させることである。なお、脱脂時の流路形成基板用ウェハ110の加熱温度は300℃〜500℃程度であることが好ましい。温度が高すぎると圧電体前駆体膜72aの結晶化が始まってしまい、温度が低すぎると十分な脱脂が行えないためである。本実施形態では、ホットプレートによって流路形成基板用ウェハ110を400℃程度に加熱して、圧電体前駆体膜72aの脱脂を行った。
【0030】
このように圧電体前駆体膜72aの脱脂を行った後、流路形成基板用ウェハ110を、例えば、RTA(Rapid Thermal Annealing)装置等に投入し、圧電体前駆体膜72aを約700℃の高温で焼成して結晶化することにより、最下層の圧電体膜である第1の圧電体膜71aを形成する。
【0031】
次に、下電極膜60と第1の圧電体膜71aとを同時にパターニングする。まず図5(c)に示すように、第1の圧電体膜71a上にレジストを塗布し、露光及び現像することにより所定パターンのレジスト膜200を形成する。ここで、レジストは、例えば、ネガレジストをスピンコート法等により塗布して形成し、レジスト膜200は、その後、所定のマスクを用いて露光・現像・ベークを行うことにより形成する。勿論、ネガレジストの代わりにポジレジストを用いてもよい。なお、本実施形態では、レジスト膜200の端面が所定角度で傾斜するように形成している。
【0032】
そして、図6(a)に示すように、このようなレジスト膜200を介して下電極膜60及び第1の圧電体膜71aをイオンミリングすることによってパターニングする。このとき、これら下電極膜60及び第1の圧電体膜71aは、レジスト膜200の傾斜した端面に沿ってパターニングされ、これらの端面は、振動板に対して所定角度で傾斜する傾斜面となる。
【0033】
次に、図6(b)に示すように第1の圧電体膜71a上のレジスト膜200を剥離させた後、図6(c)に示すように、この第1の圧電体膜71aの表面を、例えば、有機溶剤等の洗浄液210によって洗浄する洗浄工程を実施する。ここで、第1の圧電体膜71aの表面には、圧電体前駆体膜72aを焼成する際に圧電材料に含まれる過剰鉛が酸化した酸化鉛の微粒子が析出する。洗浄工程では、このように第1の圧電体膜71aの表面に析出した酸化鉛の微粒子等の異物を除去する。本実施形態では、例えば、10重量%以下の酢酸水溶液である洗浄液210に第1の圧電体膜71aを浸漬させることで、その焼成後の表面を洗浄するようにした。なお、洗浄工程における洗浄液210の温度は特に限定されないが、例えば、常温〜80℃程度であることが好ましい。このような洗浄工程を実施することで、第1の圧電体膜71aの焼成後の表面を良好に洗浄することができる。つまり、上述した酸化鉛の微粒子等の異物を確実に除去することができる。
【0034】
なお、本実施形態では、洗浄液210として酢酸水溶液を用いたが、例えば、エタノール、メタノール等のアルコール系の有機溶剤を用いてもよい。また、このときの洗浄液210の温度は、常温〜50℃とするのが好ましい。また、洗浄液210としては、有機溶剤以外に、例えば、純水を用いるようにしてもよい。このような洗浄液210を用いても、第1の圧電体膜71aの焼成後の表面を良好に洗浄することができる。
【0035】
また、洗浄工程では、例えば、洗浄液210中で第1の圧電体膜71aに超音波振動を与えたり、或いは第1の圧電体膜71aの表面をブラシ等で擦ったりすることで、第1の圧電体膜71aの焼成表面の異物を物理的に除去するようにしてもよい。これにより、第1の圧電体膜71aの焼成表面をさらに良好に洗浄することができる。
【0036】
また、洗浄工程では、上述したように洗浄液210中に第1の圧電体膜71aを浸漬するようにしてもよいが、例えば、いわゆるスピン洗浄によって第1の圧電体膜71aの焼成表面を洗浄するようにしてもよい。
【0037】
このような洗浄工程を実施した後は、流路形成基板用ウェハ110に付着している洗浄液210を取り除く。具体的には、例えば、約150℃の温度で20分程度の間、流路形成基板用ウェハ110を乾燥させることで洗浄液210を取り除く。
【0038】
次に、図6(d)に示すように、この第1の圧電体膜71a上に、スピンコート法等により圧電体前駆体膜72bを所定の厚さとなるように形成する。本実施形態では、3回の塗布により所望の厚さの圧電体前駆体膜72bを得ている。次いで、この圧電体前駆体膜72bを乾燥・脱脂後、焼成して結晶化させて第2の圧電体膜71bとする。次に、上述した洗浄工程を再び実施して、第1の圧電体膜71aの焼成表面と同様に、この第2の圧電体膜71bの焼成表面を洗浄する。
【0039】
その後、このような工程を繰り返すことによって、残りの圧電体膜を形成する。つまり、三度の塗布によって圧電体前駆体膜を形成する工程と、その圧電体前駆体膜を乾燥・脱脂後、焼成して圧電体膜を形成する工程と、各圧電体膜の焼成表面を洗浄する洗浄工程とを複数回繰り返すことにより、残りの圧電体膜である第3及び第4の圧電体膜71c,71dを形成する。これにより、複数層の圧電体膜71a〜71dからなる圧電体層70が形成される(図7(a))。
【0040】
その後、図7(b)に示すように、例えば、イリジウム(Ir)からなる上電極膜80を積層形成し、圧電体層70及び上電極膜80を各圧力発生室12に対向する領域内にパターニングして圧電素子300を形成する(図7(c))。
【0041】
次いで、図8(a)に示すように、金(Au)からなる金属層91を流路形成基板10の全面に亘って形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介してこの金属層91を圧電素子300毎にパターニングすることによってリード電極90を形成する。
【0042】
次に、図8(b)に示すように、複数の保護基板30が一体的に形成される保護基板用ウェハ130を、流路形成基板用ウェハ110上に接着剤35によって接着する。ここで、保護基板用ウェハ130には、圧電素子保持部31、リザーバ部32等が予め形成されている。
【0043】
次いで、図8(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110をある程度の厚さとなるまで研磨した後、さらにフッ硝酸によってウェットエッチングすることにより流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みにする。次いで、図9(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上に、例えば、窒化シリコン(SiN)からなる保護膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図9(b)に示すように、この保護膜52を介して流路形成基板用ウェハ110を異方性エッチング(ウェットエッチング)して、流路形成基板用ウェハ110に、圧力発生室12、インク供給路13、連通路14及び連通部15を形成する。
【0044】
その後、流路形成基板用ウェハ110の保護基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、これら流路形成基板用ウェハ110等を、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって上述した構造のインクジェット式記録ヘッドが製造される。
【0045】
以上説明したように本発明では、各圧電体膜71a〜71dを形成する工程の間に、それらの表面を洗浄する洗浄工程を実施するようにした。例えば、本実施形態では、第1〜第3の圧電体膜71a〜71cの表面を洗浄する洗浄工程を実施するようにし、表面に析出している酸化鉛の微粒子等の異物を除去するようにした。これにより、圧電体層の結晶性が大幅に向上する。具体的には、(100)に優先配向する柱状結晶を有する圧電体層が得られ、またこの柱状結晶が厚さ方向に亘って連続するものとなる。したがって、各圧電体膜71a〜71d間での層間剥離を防止することができる。さらに圧電素子の圧電特性を向上することもできる。よって、信頼性に優れたインクジェット式記録ヘッドを実現することができる。
【0046】
なお、優先配向とは、結晶の配向方向が無秩序ではなく、特定の結晶面がほぼ一定の方向に向いている状態をいう。また、結晶が柱状の薄膜とは、略円柱体の結晶が中心軸を厚さ方向に略一致させた状態で面方向に亘って集合して薄膜を形成している状態をいう。
【0047】
図10は、洗浄工程を実施した場合の圧電体層の断面を示すSEM像である。また、図11は、洗浄工程を実施しなかった場合の圧電体層の断面を示すSEM像である。図10に示すように、洗浄工程を実施した場合には、圧電体層70を構成する各圧電体膜71の境界は視認できない。つまり、圧電体層70の結晶は、その厚さ方向に亘って連続していることが分かる。このように圧電体層70の結晶が、その厚さ方向に亘って連続していれば、上述したように層間剥離が発生することはない。
【0048】
一方、図11に示すように、洗浄工程を実施しなかった場合には、圧電体層70を構成する圧電体膜71の境界部分に、黒い点状に見える空洞部が複数確認された(図中矢印で示す)。なお、この空洞部は、酸化鉛(PbO)の微粒子が存在すると発生するものである。そして、このような空洞部が存在すると、この空洞部を起点として層間剥離や、圧電体層70の割れ等が発生してしまう虞がある。
【0049】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、第1の圧電体膜71aの焼成表面を洗浄する洗浄工程を、第1の圧電体膜71aをパターニング後に実施するようにしたが、勿論、パターニング前に実施するようにしてもよい。また、上述の実施形態では、第1〜第3の圧電体膜71a〜71cの表面を洗浄するようにしたが、勿論、第4の圧電体膜71dの焼成表面をさらに洗浄するようにしてもよい。これにより、圧電体層70と上電極膜80との密着性が向上する。
【0050】
さらに、例えば、上述の実施形態では、洗浄工程後、第1の圧電体膜71aの焼成表面に第2の圧電体膜71bを直接形成するようにしたが、第1の圧電体膜71a及び絶縁体膜55上に、チタン(Ti)からなるチタン層を、例えば、1〜6nm程度の厚さでさらに形成し、このチタン層を介して第1の圧電体膜71a上に第2の圧電体膜71bを形成するようにしてもよい。洗浄工程後にチタン層を形成することで、チタン層が均一な厚みで形成されるため、圧電体層70の結晶性をさらに向上することができる。チタン層の厚みを均一に形成することは、圧電体層の配向及び柱状結晶を形成する上で重要となる。つまり、チタン層の厚みは、圧電体層の配向を決定付ける要因になるので、チタン層の厚みがばらつくことは配向を低下させることになる。また、圧電体層を構成する結晶粒はチタン層を核として成長するため、膜厚がばらつくことによって核として良好に形成されていないチタン層が存在することになり、その領域の結晶粒は所望の柱状結晶をなさない場合がある。
【0051】
また例えば、上述の実施形態では、第1の圧電体膜上の圧電体膜(第2〜第4の圧電体膜)は、それぞれ三度の塗布により圧電体前駆体膜を形成後、この圧電体前駆体膜を焼成することによって形成されているが、勿論、各圧電体膜は、一度の塗布により形成した圧電体前駆体膜をそれぞれ焼成することよって形成するようにしてもよい。この場合、一度の塗布によって形成された各圧電体膜の焼成表面を洗浄工程によって洗浄する。
【0052】
また、液体噴射ヘッドとしてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドを一例として説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることができる。さらに、本発明は、液体噴射ヘッドに利用される圧電素子だけでなく、他のあらゆる装置、例えば、マイクロホン、発音体、各種振動子、発信子等に搭載される圧電素子の製造方法にも適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】実施形態1に係る圧電素子の層構造を示す概略図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図7】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図8】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図9】実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図10】本発明に係る圧電体層の断面を示すSEM像である。
【図11】従来技術に係る圧電体膜の断面を示すSEM像である。
【符号の説明】
【0054】
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 20 ノズルプレート、 21 ノズル、 30 保護基板、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 71 圧電体膜、 72 圧電体前駆体膜、 80 上電極膜、 90 リード電極、 200 レジスト膜、 210 洗浄液、 300 圧電素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に下電極膜を形成する工程と、該下電極膜上に過剰鉛を含有する圧電体前駆体膜を形成し、該圧電体前駆体膜を乾燥、脱脂及び焼成することで圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程を複数回繰り返して複数の前記圧電体膜からなる圧電体層を形成する工程と、該圧電体層上に上電極膜を形成する工程とを有し、
且つ前記圧電体層を形成する工程では、各圧電体膜形成工程の間に、前記圧電体膜のそれぞれの焼成表面を洗浄する洗浄工程を実施することを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項2】
前記洗浄工程では、純水を用いて前記圧電体層の焼成表面を洗浄することを特徴とする請求項1に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項3】
前記洗浄工程では、有機溶剤を用いて前記圧電体層の焼成表面を洗浄することを特徴とする請求項1に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項4】
前記洗浄工程では、酢酸水溶液を用いて前記圧電体層の焼成表面を洗浄することを特徴とする請求項3に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項5】
前記洗浄工程では、前記圧電体層の焼成表面を物理的に洗浄することを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項6】
前記洗浄工程は、前記圧電体層の焼成表面に析出する酸化鉛の微粒子を除去することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の製造方法により製造された圧電素子を用いることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項1】
基板上に下電極膜を形成する工程と、該下電極膜上に過剰鉛を含有する圧電体前駆体膜を形成し、該圧電体前駆体膜を乾燥、脱脂及び焼成することで圧電体膜を形成する圧電体膜形成工程を複数回繰り返して複数の前記圧電体膜からなる圧電体層を形成する工程と、該圧電体層上に上電極膜を形成する工程とを有し、
且つ前記圧電体層を形成する工程では、各圧電体膜形成工程の間に、前記圧電体膜のそれぞれの焼成表面を洗浄する洗浄工程を実施することを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項2】
前記洗浄工程では、純水を用いて前記圧電体層の焼成表面を洗浄することを特徴とする請求項1に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項3】
前記洗浄工程では、有機溶剤を用いて前記圧電体層の焼成表面を洗浄することを特徴とする請求項1に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項4】
前記洗浄工程では、酢酸水溶液を用いて前記圧電体層の焼成表面を洗浄することを特徴とする請求項3に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項5】
前記洗浄工程では、前記圧電体層の焼成表面を物理的に洗浄することを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項6】
前記洗浄工程は、前記圧電体層の焼成表面に析出する酸化鉛の微粒子を除去することを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の製造方法により製造された圧電素子を用いることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−244334(P2008−244334A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85760(P2007−85760)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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