説明

圧電素子

【課題】圧電性能が更に優れた圧電素子を提供する。
【解決手段】圧電素子10は、圧電体20と、圧電体20の一方の面20bに設けられた第1の導電性エラストマー基材22と、圧電体20の他方の面20aに設けられた第2の導電性エラストマー基材24とを有する。また、圧電体20と第1の導電性エラストマー基材22との間、および圧電体20と第2の導電性エラストマー基材24との間のうち、少なくとも一方の間に電極26を設けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ、超音波探触子、発電素子、振動発電器等の利用に好適な圧電素子に関し、特に、圧電体が導電性ゴムで挟まれた圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、圧電材料で構成される圧電体は、アクチュエーター、センサ、超音波探触子、発電素子、振動発電器等に使用されている。この圧電体は、無機圧電材料、高分子圧電材料、高分子複合圧電体材料等により構成される。
無機圧電材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O:PZT)をはじめとする鉛系圧電材料が主に用いられている。
【0003】
高分子圧電材料は、可撓性、耐衝撃性、易加工性、大面積化が可能等の高分子材料特有の特性を備えた圧電材料であり、無機圧電材料に比して、電力出力定数(圧電g定数)が高く、また、音響インピーダンスが人体または水に近いため、各種センサ、または超音波探触子もしくはハイドロホン等の超音波トランスデューサ、制振材(ダンパー)、または振動発電への応用が期待されている。これらの応用分野においては、単位電界あたりの歪量(発信能)の指標である圧電歪み定数(d定数)および単位応力あたりの発生電界強度(受信能)の指標であるg定数の双方の大きさ、またはそのバランスの優れた圧電材料が求められている。
高分子圧電材料としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)に代表される高分子物質自身に圧電性を有する圧電高分子が知られているが、無機圧電材料に比してd定数が低いため、高分子圧電材料を上記用途に用いる場合には充分な性能が得られない。
【0004】
高分子複合圧電体材料は、高分子材料をマトリックスとして、この高分子マトリックス中に無機圧電体材料を複合化して圧電性を付与するものである。この高分子複合圧電体材料は、上記高分子材料特有の長所と、無機圧電体材料の優れた圧電性能(d定数)が活かされた圧電体である。高分子複合圧電体材料は、マトリックスとなる高分子材料の種類、無機圧電体材料の種類もしくは組成、コネクティビティ、または形状、そして配合比を変化させることによって、様々な用途に応じた材料設計が可能な圧電体材料として注目されている。このため、高分子複合圧電体材料については、種々のものが提案されている(例えば、特許文献1)。
なお、高分子複合圧電体材料に用いる圧電体材料としては、言うまでもなく高い圧電性能を有するものを用いることが好ましく、d定数の格段に高い、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O:PZT)をはじめとする鉛系圧電材料が主に用いられている。
【0005】
特許文献1には、シアノエチル化セルロースおよび/又はシアノエチル化プルランからなる誘電性バインダーに、ぺロブスカイト型結晶構造を有するセラミックス多結晶体からなる強誘電性物質を均一に分散混合して形成した複合物に所定電圧を印加してなる良好な高誘電性、焦電性、圧電性を有する電子部品材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−157413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、上述のように、圧電材料として用いられる無機圧電材料、高分子圧電材料および高分子複合圧電体材料、ならびに特許文献1に開示された電子部品材料に対して、更なる圧電性能の向上が要求されているのが現状である。
【0008】
本発明の目的は、前記従来技術に基づく問題点を解消し、圧電性能が更に優れた圧電素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、圧電体と、前記圧電体の一方の面に設けられた第1の導電性エラストマー基材と、前記圧電体の他方の面に設けられた第2の導電性エラストマー基材とを有することを特徴とする圧電素子を提供するものである。
前記圧電体と前記第1の導電性エラストマー基材との間、および前記圧電体と前記第2の導電性エラストマー基材との間のうち、少なくとも一方の間に電極が設けられていることが好ましい。
【0010】
前記圧電体は、例えば、高分子マトリックス中に圧電体粒子が均一に分散混合された複合体が分極処理されてなる圧電コンポジット、圧電性単結晶、圧電セラミックス、または圧電性高分子により構成される。
【0011】
また、例えば、前記高分子マトリックスは、シアノエチル化ポリビニルアルコールに対してシアノエチル化プルランおよびシアノエチル化サッカロースの内の少なくとも1つが添加されたものである。
例えば、前記圧電体粒子は、ペロブスカイト型結晶構造を有するセラミックス粒子からなる。この場合、前記セラミックス粒子は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン酸鉛、チタン酸バリウム、またはチタン酸バリウムとビスマスフェライトの固溶体により構成される。
【0012】
また、前記圧電セラミックスは、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン酸鉛、チタン酸バリウム、またはチタン酸バリウムとビスマスフェライトの固溶体により構成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、圧電体を第1の導電性エラストマー基材および第2の導電性エラストマー基材で挟む構成とすることにより、圧電性能が更に優れた圧電素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)は、本発明の実施形態の圧電素子の第1の例を示す模式的斜視図であり、(b)は、本発明の実施形態の圧電素子の第2の例を示す模式的斜視図であり、(c)は、本発明の実施形態の圧電素子の第3の例を示す模式的斜視図である。
【図2】本発明の実施形態の圧電素子の第1の例を用いた電子部品を示す模式図である。
【図3】本発明の実施形態の圧電素子の高分子複合圧電体の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の実施形態の圧電素子の高分子複合圧電体の製造に用いられる分極処理方法の一例を示す模式図である。
【図5】(a)は、本発明の実施形態の圧電素子の高分子複合圧電体の製造に用いられる分極処理方法の他の例を示す模式図であり、(b)は、分極処理方法の他の例を示す模式的斜視図である。
【図6】(a)は、金属基材を有する圧電素子の構成を示す模式的斜視図であり、(b)は、片面だけに導電性ゴム基材を有する圧電素子の構成を示す模式的斜視図であり、(c)は、両面に導電性ゴム基材を有する圧電素子の構成を示す模式的斜視図である。
【図7】(a)は、実施例1の圧電素子の構成を示す模式的断面図であり、(b)は、実施例2の圧電素子の構成を示す模式的断面図であり、(c)は、実施例3の圧電素子の構成を示す模式的断面図である。
【図8】(a)は、比較例1の圧電素子の構成を示す模式的断面図であり、(b)は、比較例2の圧電素子の構成を示す模式的断面図であり、(c)は、比較例3の圧電素子の構成を示す模式的断面図である。
【図9】実施例1〜実施例3および比較例1〜比較例3の相対発電量の測定に用いられる測定装置を示す模式図である。
【図10】実施例1および比較例1の相対発電量の結果を示すグラフである。
【図11】実施例2および比較例2の相対発電量の結果を示すグラフである。
【図12】実施例3および比較例3の相対発電量の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の圧電素子を詳細に説明する。
図1(a)は、本発明の実施形態の圧電素子の第1の例を示す模式的斜視図であり、(b)は、本発明の実施形態の圧電素子の第2の例を示す模式的斜視図であり、(c)は、本発明の実施形態の圧電素子の第3の例を示す模式的斜視図である。
【0016】
図1(a)に示す圧電素子10は、圧電体20と、この圧電体20の裏面20bに設けられた第1の導電性エラストマー基材22と、圧電体20の表面20aに設けられた第2の導電性エラストマー基材24とを有する。
このように、圧電体20を第1の導電性エラストマー基材22、第2の導電性エラストマー基材24で挟む構成とすることにより、d33定数の値が高くなり、更に優れた圧電特性を得ることができる。
【0017】
また、本実施形態においては、図1(b)に示す圧電素子12のように、圧電体20と第1の導電性エラストマー基材22との間に、電極として機能する金属層26を設けてもよい。この場合、金属層26の表面26aに第1の導電性エラストマー基材22が設けられる。
なお、金属層26は、圧電体20と第2の導電性エラストマー基材24との間に設けてもよい。
さらには、図1(c)に示す圧電素子14のように、金属層26を、圧電体20と第1の導電性エラストマー基材22との間および圧電体20と第2の導電性エラストマー基材24との間の両方に設けてもよい。この場合、第2の導電性エラストマー基材24は、金属層26の表面26aに設けられる。
【0018】
第1の導電性エラストマー基材22は、例えば、カーボンブラック、金属粒子等が添加された合成ゴム、合成樹脂等の導電性を有するものにより構成される。なお、導電性を有する合成ゴム、合成樹脂等であれば、その組成は特に限定されるものではない。
なお、第2の導電性エラストマー基材24は、第1の導電性エラストマー基材22と同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。
【0019】
例えば、図1(a)に示す圧電素子10は、図2に示すように、電子部品30に利用することができる。この場合、電子部品30は、支持体32の表面32aに圧電素子10が設けられている。この場合、圧電素子10が外力を受けて歪むことにより発生した電荷が一対の第1の導電性エラストマー基材22、第2の導電性エラストマー基材24により外部に取り出される。
【0020】
支持体32には、例えば、アルミニウム基板が用いられる。支持体32としては、アルミニウム基板以外にも、例えば、銅、ステンレス、ニッケル、タンタル等の金属基板を用いることができる。
さらには、支持体32として、圧電素子12がフレキシビリティなものであれば、フレキシビリティを損なわない膜厚200μm以下のフィルム状のフレキシブル基板を用いることができる。このようなフレキシブル基板としては、例えば、ポリイミド、PTFE、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリサルホン、ポリアリレート、ポリアミド等により構成することができ、電子部品30の使用環境に応じて耐熱性及び吸湿性等により適宜選択することができる。
【0021】
圧電体20は、圧電素子に利用することができるものであれば、特に限定されるものではない。圧電体20は、例えば、圧電性単結晶、圧電セラミックス、圧電性高分子、または高分子マトリックス中に圧電体粒子が均一に分散混合された複合体が分極処理されてなる圧電コンポジットにより構成される。
【0022】
圧電単結晶としては、例えば、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム等を用いることができる。
圧電セラミックスとしては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン酸鉛、チタン酸バリウム、またはチタン酸バリウムとビスマスフェライトの固溶体により構成されるものを用いることができる。
圧電性高分子としては、例えば、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、フッ化ビニリデン共重合体、ポリアミド、シアン化ビニリデン共重合体、蒸着重合ポリ尿酸膜圧電材料、ポリ−L−乳酸、セルラーポリプロピレンエレクトレット等が用いられる。
【0023】
ここで、図3に示すように、圧電コンポジット40は、例えば、シアノエチル化ポリビニルアルコール(以下、シアノエチル化PVAともいう。)からなる高分子マトリックス42中に強誘電体材料からなる圧電体粒子44が均一に分散されている複合体46が分極処理されてなるものである。
【0024】
高分子マトリックス42は、シアノエチル化PVA単体に限定されるものではなく、シアノエチル化PVAに、更にシアノエチル化プルランおよびシアノエチル化サッカロースの内の少なくとも1つが添加されたものであってもよい。
【0025】
圧電体粒子44は、ペロブスカイト型結晶構造を有するセラミックス粒子からなるものである。圧電体粒子44を構成するセラミックス粒子は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸ジルコン酸ランタン酸鉛(PLZT)、チタン酸バリウム(BaTiO)、またはチタン酸バリウムとビスマスフェライト(BiFe)の固溶体(BFBT)により構成される。
【0026】
圧電コンポジット40は、高分子マトリックス42を用いているため、可撓性に優れたものとなる。
圧電コンポジット40においては、例えば、複合体46の下面46aおよび上面46bに、それぞれ第1の導電性エラストマー基材22、第2の導電性エラストマー基材24が圧電コンポジット40の高分子マトリックス42(誘電性バインダー)の軟化温度以上の温度で圧着される。
【0027】
次に、圧電コンポジット40の製造方法について、図4に基づいて説明する。
まず、導電性の下部基板47を用意する。この下部基板47は、別の基板(図示せず)上に、スパッタリング法等により形成した導電性を有する膜であってもよい。
【0028】
次に、下部基板47の表面47aに複合体46を形成する。
複合体46の形成方法としては、高分子マトリックス42となるシアノエチル化PVAからなる誘電性バインダーを溶媒に溶かして溶液を得る。その後、溶液に、圧電体粒子44を所定量、均一に分散させてペーストを得る。そして、このペーストを用い、キャスティング法等の溶液成膜法により下部基板47の表面47aに複合体46を形成する。
複合体46の形成方法は、上述の溶液成膜法以外にも、Tダイ成膜等の溶融成膜法を用いることもできる。
また、本実施形態においては、シアノエチル化PVA単体を誘電性バインダーにするものに限定されるものではなく、シアノエチル化PVAに対して、更にシアノエチル化プルランおよびシアノエチル化サッカロースの内の少なくとも1つが添加された誘電性バインダーを用いることもできる。
【0029】
次に、複合体46の表面46aに上部電極48を、例えば、スパッタリング法を用いて形成する。
次に、下部基板47と上部電極48とを直流の電源49に接続する。さらに、複合体46を加熱保持する加熱手段、例えば、ホットプレートを用意する。そして、複合体46を、例えば、温度100℃に加熱保持しつつ、電源49から下部基板47と上部電極48との間に、数kV、例えば、2kVの直流の電圧を所定時間印加し、分極処理する。
この分極処理では、圧電体粒子44に対して、下部基板47と上部電極48が向き合う複合体46の厚さ方向の直流電界がかけられて分極処理され、これにより、圧電コンポジット40が得られる。
【0030】
下部基板47および上部電極48は、分極処理の際に複合体46に所定の電圧を印加することができる導電性のものであり、例えば、Sn、Al、Ni、Pt、Au、Ag、Cu、Cr、Mo等またはこれらの合金により構成することができる。
下部基板47および上部電極48は、例えば、真空蒸着法およびスパッタリング法等の気相成膜法、ならびにスクリーン印刷およびインクジェット法等の印刷法により形成することができる。また、下部基板47は、形成することなく上述の金属または合金からなるフィルム状または箔状のものであってよい。
さらには、下部基板47は絶縁体で構成することもでき、この場合、絶縁体に下部電極となる導電性の膜等を形成する必要がある。このようなものとして、例えば、アルミニウム/PETフィルムの積層体を用いることができる。
【0031】
なお、圧電コンポジット40において、上部基板48および下部基板47は分極処理後、そのままであってもよい。圧電コンポジット40を用いる態様等に応じて、圧電コンポジット40を用いる態様等に応じて除去してもよい。例えば、下部基板47に第1の導電性エラストマー基材22を、上部基板48に第2の導電性エラストマー基材24を、例えば、圧電コンポジット40の高分子マトリックス42(誘電性バインダー)の軟化温度以上の温度で熱圧着により接続してもよい。また、複合体46から上部基板48および下部基板47を除去して、この複合体46の下面46bに第1の導電性エラストマー基材22を、上面46aに第2の導電性エラストマー基材24を、例えば、上述の軟化温度以上の温度で熱圧着により接続してもよい。
【0032】
なお、本実施形態においては、図5(a)、(b)に示すようにして分極処理をすることもできる。この場合、図5(a)、(b)に示すように、下部基板47の表面47aに複合体46を形成した後、この複合体46の表面46aから、間隔δを数mm、例えば、1mmあけて複合体46の表面46a上に、この表面46aに沿って移動可能な棒状電極45を設ける。そして、この棒状電極45と下部基板47とを直流の電源49に接続する。さらに、複合体46を加熱保持する加熱手段、例えば、ホットプレートを用意する。
そして、複合体46を、例えば、温度100℃に加熱保持した状態で、電源49から下部基板47と棒状電極45との間に、数kV、例えば、6kVの直流の電圧を印加してコロナ放電を生じさせ、棒状電極45を複合体46の表面46aの上を、その表面46aに沿って移動させて分極処理をする。なお、以下、コロナ放電を用いた分極処理をコロナポーリング処理ともいう。
【0033】
この場合、棒状電極45の移動は、公知の移動手段を用いることができる。また、棒状電極45が移動するものに限定されるものではなく、複合体46を移動させる移動機構を設け、この複合体46を移動させて分極処理をしてもよい。
なお、下部基板47は、分極処理後、そのままであってもよい。圧電コンポジット40を用いる態様等に応じて、下部基板47を除去してもよい。また、棒状電極45の数は、1本に限定されるものではなく、複数本であってもよい。
【0034】
図5(a)、(b)に示す分極処理方法では、上側電極を不要とすることができるため、製造コストを低くすることができ、かつ分極処理に要する時間も短縮できる。
また、図5(a)、(b)に示す分極処理方法のように棒状電極45を用いる場合、ロールトゥロール方式を用い、複合体46の搬送路において、その表面46aに対向して棒状電極45を複数設け、複合体46を長手方向に搬送しつつ分極処理をすることもできる。これにより、大面積の圧電コンポジット40を製造することもできる。
【0035】
圧電コンポジット40において、高分子マトリックス42をシアノエチル化PVAで構成することにより、シアノエチル化PVAはシアノエチル化プルランに比して密着性が優れるため、高分子マトリックス42と下部基板47、上部電極48、圧電体粒子44との密着性が高くなり、分極処理時においても剥離等がなく、高い歩留まりで製造することができるとともに、強度が優れた圧電コンポジット40を得ることができる。
【0036】
本実施形態の圧電素子10、12、14および電子部品30は、例えば、超音波センサ,圧力センサ,触覚センサ,歪みセンサ等の各種センサ、超音波探触子、ハイドロホン等の超音波トランスデューサ、乗り物や建物又はスキーやラケット等のスポーツ用具に用いる制振材(ダンパー)、更には、発電素子として用いることもできる。この場合、床、靴、タイヤ等に適用して用いる振動発電装置として好適に使用することができる。
【0037】
本発明は、基本的に以上のように構成されるものである。以上、本発明の圧電素子について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良または変更をしてもよいのはもちろんである。
【実施例1】
【0038】
以下、本発明の圧電素子の効果について詳細に説明する。
本実施例においては、以下に示す圧電体に圧電コンポジット、圧電高分子、圧電セラミックスを用い、それぞれ3形態、合計9種類のサンプルを作製し、各サンプルの圧電定数(d33定数)を測定して、本発明の圧電素子の効果を確認した。
【0039】
初めに、圧電体に圧電コンポジットを用いた第1のサンプル50a(図6(a)参照)について説明する。
まず、溶媒(DMF)にシアノエチル化PVA(CR−V 信越化学工業社製)を60質量%の割合で溶かし、混合溶液(CR−V溶液)を得る。
次に、混合溶液1gに対して、市販のPZT原料粉(平均粒径5μm)を3gの割合で撹拌混合してペースト状にし、PZTペーストを得る。
次に、PZTペーストを、厚さが0.3mmの18mm角のアルミニウム基板上にキャスト法で、厚さ150μmにシート形成する。
次に、PZTペーストがシート形成されたアルミニウム基板54をホットプレート上で、温度120℃で加熱乾燥してDMFを揮発させる。これにより、厚さが70μmの圧電コンポジット52(図6(a)参照)がアルミニウム基板54(図6(a)参照)上に形成される。
【0040】
次に、真空蒸着法にて直径15mm、厚さが1μmのアルミニウムからなる上部電極56(図6(a)参照)を圧電コンポジット52(図6(a)参照)上に形成する。次に、温度100℃、直流電圧で100kV/cm、保持時間3分の分極処理条件で分極処理する。これにより、図6(a)に示す第1のサンプル50aを得る。
【0041】
また、図6(b)に示すように、第2のサンプル50bは、図6(a)のアルミニウム基板54に変えて、厚さが1.0mmの18mm角の導電性ゴム基材58に圧電コンポジット52を形成したものである。
なお、第2のサンプル50bは、導電性ゴム基材58上に圧電コンポジット52を形成した以外は、第1のサンプル50aと同様に作製したものであり、その詳細な説明は省略する。
導電性ゴム基材58としては、例えば、導電性シリコーンシートを用いることができる。この導電性シリコーンシートとしては、例えば、タイガースポリマー社製のESR(型番)が用いられる。このESRは、体積抵抗率が5Ω・cmである。
【0042】
さらに、図6(c)に示すように、第3のサンプル50cは、図6(a)のアルミニウム基板54に変えて厚さが1.0mmの18mm角の導電性ゴム基材58に圧電コンポジット52を形成し、上部電極56に変えて厚さが1.0mmの18mm角の導電性ゴム基材58を、圧電コンポジット52上に形成したものである。
この第3のサンプル50cは、第2のサンプル50bと同じく導電性ゴム基材58上に圧電コンポジット52を形成し、圧電コンポジット52の高分子マトリックス(誘電性バインダー)の軟化温度以上の温度で熱圧着により圧電コンポジット52に導電性ゴム基材58を熱圧着した以外は、第1のサンプル50aと同様に作製したものであり、その詳細な説明は省略する。
【0043】
また、圧電コンポジットに変えて、圧電高分子として、東京センサ社製のPVDFを用いた、上述の第1のサンプル〜第3のサンプルを用意する。なお、圧電高分子を用いた形態においては、第2のサンプルおよび第3のサンプルは、導電性ゴム基材を熱圧着等により接合することなく、圧電定数(d33定数)の測定時に、積層して単に接触させたものである。
【0044】
さらには、圧電コンポジットに変えて、圧電セラミックスとして、モルガンエレクトロセラミックス(Morgan Electro Ceramics)社製 PZT−5Aを用いた、上述の第1のサンプル〜第3のサンプルを用意する。なお、圧電セラミックスを用いた形態においては、第2のサンプルおよび第3のサンプルは、導電性ゴム基材を熱圧着等により接合することなく、圧電定数(d33定数)の測定時に、積層して単に接触させたものである。
【0045】
以上のようにして作製された9種類のサンプルについて、それぞれd33定数をPIEZO TEST社の圧電評価装置PM−300を用いて測定した。その測定の結果を下記表1に示す。
なお、圧電定数(d33定数)の測定条件は、周波数を110Hzとし、クランピングフォースを10Nとし、ダイナミックフォースを0.25Nとした。
【0046】
【表1】

【0047】
上記表1に示すように、両面に導電性ゴム基材を設けた第3のサンプルは、導電性ゴムを設けていない第1のサンプル、下面のみに導電性ゴム基材を設けた第2のサンプルに比して、圧電定数(d33定数)が高くなっている。特に、圧電コンポジットおよび圧電高分子(PVDF)を用いたものでは圧電定数(d33定数)が飛躍的に高くなっている。
【実施例2】
【0048】
さらに、本発明の圧電素子の効果について詳細に説明する。
本実施例においては、図7(a)〜(c)に示す実施例1〜実施例3および図8(a)〜(c)に示す比較例1〜比較例3について、図9に示す測定装置100を用いて相対発電量を測定し、本発明の圧電素子の効果を確認した。
【0049】
図7(a)に示す実施例1の圧電素子60aは、モルガンエレクトロセラミックス(Morgan Electro Ceramics)社製 PZT−5Aの圧電セラミックスを圧電体62に用い、この圧電体62の両面に銀製の電極64が形成されている。各電極64に導電性ゴム基材72が設けられている。
【0050】
図7(b)に示す実施例2の圧電素子60bは、圧電体66が東京センサ社製のPVDFである点以外は、図7(a)に示す圧電素子60aと同様の構成であるため、その詳細な説明は省略する。なお、この圧電体66の両面には電極64が形成されている。
図7(c)に示す実施例3の圧電素子60cは、圧電体68に第1実施例の圧電コンポジット52(図6(c)参照)を用い、この圧電体68に電極を形成することなく直接導電性ゴム基材72を、熱圧着を用いて接合したものである。
【0051】
図8(a)に示す比較例1の圧電素子70aは、図7(a)に示す実施例1の圧電素子60aに比して、導電性ゴム基材72が設けられていない点以外は、図7(a)に示す実施例1の圧電素子60aと同じ構成である。このため、その詳細な説明は省略する。
図8(b)に示す比較例2の圧電素子70bは、図7(b)に示す実施例2の圧電素子60bに比して、導電性ゴム基材72が設けられていない点以外は、図7(b)に示す実施例2の圧電素子60bと同じ構成である。このため、その詳細な説明は省略する。
図8(c)に示す比較例3の圧電素子70cは、図7(c)に示す実施例3の圧電素子60cに比して、導電性ゴム基材72に変えて、アルミニウム基材74と電極76とが形成されたものである。
【0052】
次に、相対発電量の測定に用いる測定装置100について説明する。
図9に示す測定装置100においては、絶縁製基板102上に導電性を有する剛体板104が設けられている。この剛体板104とともに測定サンプル105を挟む、導電性を有する剛体板106が設けられている。剛体板104と剛体板106とは測定部110に接続されている。この測定部110は、インパクトハンマ108に接続されている。
測定装置100においては、インパクトハンマ108で剛体板106を打撃することにより、剛体板104と剛体板106とで挟まれた測定サンプル105に、荷重を加えて、そのときに発生する電圧を測定部110で測定する。このとき、インパクトハンマ108による荷重は測定部110で測定される。測定部110で、荷重と発生電圧とにより相対発電量が算出される。その結果を図10〜図12に示す。
【0053】
測定部110には、アジレント・テクノロジー社製 4294A プレシジョン インピーダンス・アナライザが設けられている。この場合、測定部110においては、測定サンプル105で発生した電圧波形に基づいてインピーダンスマッチングを行っている。このインピーダンスマッチングについては、例えば、Japanese Jornal of Applied Physics Vol.45,No.7,2006,pp.5836−5840に開示された方法を用いることができる。
【0054】
なお、測定サンプル105とは、図7(a)〜(c)に示す実施例1〜実施例3の圧電素子60a〜60c、および図8(a)〜(c)に示す比較例1〜比較例3の圧電素子70a〜70cのことである。
【0055】
図10〜図12に示すように、導電性ゴム基材を両面に設けた構成である実施例1〜実施例3は、いずれも比較例1〜比較例3に比して、相対発電量が高い。このように導電性ゴム基材を両面に設けることにより、高い発電量を得ることができることが確認された。
特に、圧電体に、PVDFを用いた実施例2および圧電コンポジットを用いた実施例3は、相対発電量が飛躍的に高くなっている。これは、第1実施例の結果と同じ傾向を示している。
【符号の説明】
【0056】
10、12、14 圧電素子
20、62、66、68 圧電体
22 第1の導電性エラストマー基材
24 第2の導電性エラストマー基材
26 金属層
30 電子部品
32 支持体
40、52 圧電コンポジット
42 高分子マトリックス
44 圧電体粒子
47 下部基板
48 上部電極
49 電源
64 電極
72 導電性ゴム基材
100 測定装置
105 測定サンプル
108 インパクトハンマ
110 測定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体と、
前記圧電体の一方の面に設けられた第1の導電性エラストマー基材と、
前記圧電体の他方の面に設けられた第2の導電性エラストマー基材とを有することを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
前記圧電体と前記第1の導電性エラストマー基材との間、および前記圧電体と前記第2の導電性エラストマー基材との間のうち、少なくとも一方の間に電極が設けられている請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
前記圧電体は、高分子マトリックス中に圧電体粒子が均一に分散混合された複合体が分極処理されてなる圧電コンポジット、圧電性単結晶、圧電セラミックス、または圧電性高分子により構成される請求項1または2に記載の圧電素子。
【請求項4】
前記高分子マトリックスは、シアノエチル化ポリビニルアルコールに対してシアノエチル化プルランおよびシアノエチル化サッカロースの内の少なくとも1つが添加されたものである請求項3に記載の圧電素子。
【請求項5】
前記圧電体粒子は、ペロブスカイト型結晶構造を有するセラミックス粒子からなる請求項3または4に記載の圧電素子。
【請求項6】
前記セラミックス粒子は、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン酸鉛、チタン酸バリウム、またはチタン酸バリウムとビスマスフェライトの固溶体により構成される請求項5に記載の圧電素子。
【請求項7】
前記圧電セラミックスは、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸ランタン酸鉛、チタン酸バリウム、またはチタン酸バリウムとビスマスフェライトの固溶体により構成される請求項3に記載の圧電素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−21176(P2013−21176A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154007(P2011−154007)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】