説明

圧電素子

【課題】 製造が容易であって機械的強度を高めた圧電素子であって、且つ耐熱性を有し且つ出力効率の良い圧電素子を得る。
【解決手段】 圧電素子を、一単結晶からなる筒形状の圧電材料と、圧電材料の外周面に設けられた第一の電極と、圧電材料の内周面に設けられて該第一の電極に対しての対向電極として作用する第二の電極と、から構成し、該筒形状の軸方向を応力印加軸と一致させる。製造時においては第一及び第二の電極を同時に形成し、研削加工等によりこれらを分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電素子に関し、特に高温環境下での用途に適するように耐熱性を有し、圧力センサ、燃焼圧測定用センサ等に用いられる特定の構造からなる圧電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のエンジンといった内燃機関の燃焼室の内部圧力を知るためのセンサとして、圧電素子を用いた圧力センサが知られている。ここで、圧電素子に関しては所謂横軸効果と称呼される効果が知られている。これは特許文献1或いは2に述べられるように、圧電素子の電荷発生軸に対して直交する配置にある応力印加軸に沿って外力を作用させると、電荷発生軸方向の素子表面に電荷が発生する効果である。当該横軸効果は電荷発生軸方向の長さに対しての応力印加軸方向の長さの比に依存することから、圧電素子の構造を電荷発生軸方向について薄くし且つ応力印加軸方向に長くした形態とすることにより、素子として大きな出力が得られる。
【0003】
燃焼室向けの圧力センサを構築する場合、該センサは、小型であると共に、センサ自体の変位が少なく、応答速度が速く、且つ出力値が大きいことが求められる。このため、実際の圧力センサとしては、例えば特許文献1に示されるように薄く長い圧電材料を積層し且つ各々を接合して該圧力センサの検知部分を形成している。この様な構造を採用することにより、横軸効果による出力の向上と積層による素子の機械的強度の向上とが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3873040号公報
【特許文献2】特許第3256799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この様な薄く長い圧電材料を破損させずに張り合わせることは難しく、従って圧電素子としての形状が貼り合わせへの適合度に依存していた。また、この様な圧電素子材料の貼り合わせから得られた材料は抗折強度が低く、圧力印加時には貼り合わせた界面が破損し易いという課題も有していた。更に、実際の圧電センサの形成にはこの貼り合わせ後の圧電材料の所定面に対して一対の電極を形成する必要もある。当然ながら、こういった圧電素子材料の機械的強度の低さは、適切な電極形成も難しくしており、工程、材料選択等について種々の制限が存在していた。
【0006】
本発明は以上の状況に鑑みて為されたものであって、製造が容易であると共に機械的強度に優れた圧電素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る圧電素子は、一単結晶からなる筒形状の圧電材料と、圧電材料の外周面に設けられた第一の電極と、圧電材料の内周面に設けられて第一の電極の対向電極として作用する第二の電極と、を有し、筒形状の軸方向が応力印加軸と一致することを特徴としている。
【0008】
なお、前述した圧電素子において、圧電材料は引下げ方法により育成された単結晶からなり、単結晶の結晶方位は応力印加軸と一致することが好ましい。また、筒形状は軸方向に垂直な断面が多角形状であることが好ましい。更に、該多角形状は正六角形であることがより好ましい。或いは、圧電素子の筒形状は、軸方向に垂直な断面が環状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来の圧電材料の積層体からなる素子構造に対して、断面における素子の厚みが同じ場合で比較して機械的強度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】本発明の一実施形態に係る圧電素子の軸方向に沿った断面を示す概略構成図である。
【図1B】図1Aに示す圧電素子について軸方向に垂直な平面による断面を示す概略構成図である。
【図2A】第一の実施形態に用いた圧電素子における圧電材料の軸方向に垂直な平面での断面形状を示す図である。
【図2B】図2Aに示す圧電材料の斜視図である。
【図3A】本発明の更なる実施形態に係る圧電素子に用いる圧電材料の軸方向に垂直な平面での断面形状を示す図である。
【図3B】図3Aに示す圧電素子に用いられる圧電材料の斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る圧電素子の変形例について、軸方向に垂直な平面での断面形状を示す図である。
【図5A】本発明の他の実施形態に係る圧電素子の軸方向に沿った断面を示す概略構成図である。
【図5B】図5Aに示す圧電素子について軸方向に垂直な平面による断面を示す概略構成図である。
【図5C】図5Aに示す圧電素子に用いられる圧電材料の斜視図である。
【図6】図1Aに示す圧電素子の形成方法を模式的に示す図である。
【図7】図5Aに示す圧電素子の形成方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。図1Aは、本発明の一実施形態に係る圧電素子の応力印加軸に沿った断面図であり、図1Bは、該応力印加軸に垂直な平面で該圧電素子を切断した断面図を、各々模式的に示している。これら図に示すように、本実施形態に係る圧電素子1は、応力印加軸と一致する延在軸方向(以下軸方向と称する。)に中空な孔を有する筒形状を有し、断面が多角形状を有している。図2Aに該圧電素子1に用いた圧電材料3の軸方向に垂直な断面を、図2Bに該圧電材料の斜視図を示す。
【0012】
本実施形態では、軸方向に垂直な断面の外形部3aの形状が六角形であって且つ中空部3bの断面形状が外形部3aと対応した相似な六角形となっている。即ち、圧電材料3の外周側の一平面である外周平面3cには、常にこれと対向する中空部内、即ち内周側の対向面である内周平面3dが存在している。また、本形態では、軸方向に延在する際にこれら外形部3aの形状と中空部3bとは変化せず、該軸方向に一様な形状となっている。なお、本発明では圧電材料3として筒形状を有した一単結晶からなる、所謂一体物からなる材料を用いている。筒形状の単結晶の育成には、本出願人が提唱する引下げ法を用いている。該引下げ法では、坩堝下端から溶融材料を漏出させ、この漏出溶融材料に対して結晶方位を規定するシードと称呼される種結晶を接触させ、該シードから結晶の成長を促す。また、このシードの形状と溶融材料の漏出形態を制御することによって、筒形状の単結晶を得ることが可能となる。
【0013】
特許文献2に記載した積層構造ではなく本形態の如く筒形状とすることによって、前述した引下げ法による断面多角形状とした所謂一体物の単結晶を用いることを可能としている。即ち、引下げ法による結晶育成時より筒形状の単結晶が得られるように形状制御を行うことで、貼り合わせ工程の必要性を無くしている。当該構造とすることによって、多角の一辺を構成する個々の平面部分の厚さを薄くし、且つこれら平面部分を一体的に組み合わせることによって個々の平面部分を長くすることが可能となる。従って、単一の結晶体からなる圧電材料であっても、積層構造からなる圧電材料と同等以上の出力を得ることが可能となっている。なお、本実施形態では、横軸特性を好適に得るという観点から、一単結晶からなる圧電材料を用いることとしている。また、同様の理由から該単結晶の結晶方位を、軸方向(応力印加軸方向)と一致させている。しかし、例えば他の圧電特性等の観点から、単結晶以外の構造からなり、接合構造を有さない一体物の結晶体を圧電材料として用いても良い。
【0014】
圧電素子1は、前述した圧電材料3と、圧電材料3の外周平面3cに対して形成される第一の電極5と、内周平面3dに対して形成される第二の電極7と、を有する。本実施形態では、第一の電極5はプラス側電極として作用し、且つ圧電材料3に対する受圧側電極として用いられる。また、第二の電極7はマイナス側電極として作用し、且つ圧電材料3からの出力を引出す引出し側電極として用いられる。しかし、これら電極は、使用状況に応じてその役割を各々変えることも可能である。圧電素子1における軸方向の一方の端部には、受圧部材9が配置される。該受圧部材9は、例えばエンジンの燃焼室内の圧力を直接受ける部材であり、圧電素子1は該受圧部材9を介してこの圧力による押圧作用を受ける。このように、筒形状の最も外力に強い方向に沿って応力を作用させながら先の横軸効果が得られることから、素子として最も大きな出力を得ることが可能となる。
【0015】
なお、前述したエンジンの燃焼室内の圧力を測定する場合、この圧力変化は非常に短いサイクルで且つ長時間に亘り継続される。圧電素子に対してこの様な連続動作を与えた場合には、該動作に伴った発熱、更には蓄熱が生じ、蓄熱量の大きさによっては素子の伸びが生じて出力低下が生じることも考えられる。本発明の如く、圧電材料3を筒形状とした場合、中空部3bを介して発生した熱を放出すること、或いは中空部3bを用いて圧電材料1の冷却を行うこと、も可能となり、より長時間、好適な出力の発生状態を維持できるという効果も得られる。
【0016】
なお、本実施例では筒形状の断面が六角形の場合について述べた、しかし本発明において該断面形状はこれに限定されない。図3Aに該断面形状を他の多角形状とした場合の断面形状を、図3Bにその場合の圧電材料3の斜視図を示す。同図に示すように、断面を四角形とすることも可能である。なお、図示した形態は一例であり、単結晶としての筒形状が構成可能な種々の多角形状を用いることが可能である。また、多角形状において各辺の長さについても特に規定されず、例えば前述した熱、結晶の育成条件等を考慮して不等辺とすることも可能である。しかし、圧電材料3の受圧時の耐圧性を考慮した場合、該断面は正方形等、等辺の多角形状が好ましく、正六角形状とすることが最も好ましい。更に、圧電体としての出力を考慮した場合、前述したように、単結晶である筒状圧電材料3のY軸と称呼される結晶方位は軸方向と一致することが好ましい。
【0017】
ここで、更に他の断面形状からなる圧電材料3を用いた場合の形態を示す。上述した形態では断面多角形状の場合を例示したが、正多角形の角を無限に増大させた断面環状の材料を用いた態様も本形態に含まれる。当該形態の圧電材料3を用いた圧電素子1について、該圧電素子1の軸方向に沿った断面を図5Aに、圧電素子1の軸方向に垂直な平面による断面を図5Bに、該圧電素子1に用いられた圧電材料3の斜視図を図5Cに各々示す。円筒形状の圧電材料3の外周面3e表面に第一の電極5が、内周面3fの表面に第二の電極7が形成されている。前述した断面正多角形状の圧電材料を用いた場合、外周面に対して加えられる圧力に対して強い反面、角部等に応力の集中が生じてこれが圧電特性に影響を及ぼす可能性も存在する。本形態によれば、外周面に対しての圧力に対しては特に強度の高い方向等が存在しない反面、応力の集中する場所が存在しなくなり、外周面の全てにおいて安定的な圧電特性が得られる。
【0018】
ここで、圧電素子において、互いに対向する一対の電極は各々通常同じ面積とされている。しかし、本発明の如く筒形状の内周面と外周面とに対向電極を形成した場合、各々の面積が異なってしまう。この面積の相違は、例えば圧電素子の厚さが厚い等、圧電材料の形状や材質等によっては、圧電素子としての出力特性に影響を及ぼす可能性がある。そこで、更なる実施形態として圧電素子1に対して電極面積調整部を設けることとした。当該実施形態に係る圧電素子1の軸方向に垂直な断面の概略構成を図4に示す。当該圧電素子1は、図1A及び1Bに示した圧電素子1に対して電極面積調整部11aを加えたことを特徴としている。具体的には、断面の六角形状における角部分を削り取る所謂面取り加工を施すことによって、第一の電極5の一外周平面3cの両側部を削除し、対向する一内周平面3d上の第二の電極7との面積を一致させている。なお、本実施形態では、内周平面3d同士の接続部分では本来対向電極には当たらない外周平面3c上の第一の電極5と干渉しあうことも考えられることから、内周平面3dの接続部分に対しても電極面積調整部11bを形成することとしている。
【0019】
本実施形態によれば、筒形状の圧電材料の内周面と外周面とに互いに対向する一対の電極を設けたにも拘らず、各々の電極間に生じる電荷の分布にアンバランスが生じることが無くなる。従って、横軸効果画の出力を極大化することが可能となり、良好な電気出力特性が得られる。また、一個の単結晶からなる筒形状の圧電材料を用いることから、角部の研削等の加工を施した場合であっても材料の損壊が生じる可能性が低く、所謂製造歩留まりも高く維持することが可能となる。
【0020】
以上に述べた圧電素子1について、その製造方法について説明する。当該圧電素子1では、用いる圧電材料3が筒形状を有した単結晶からなることが特徴である。従って、該圧電材料3は、前述した引下げ方法を用いて製造することが好ましい。当該方法によれば、該圧電材料3の結晶方位を応力付加軸に沿った所定の軸に配向させることも容易である。続いて、例えば蒸着、ディッピング等の公知の方法により筒形状の内周面と外周面とに第一及び第二の電極を形成する。最後に研削加工とうによって多角の角部分と共に余計な電極を除去して電極面積調整部11aを設ける。以上の工程によって本発明の圧電素子1が得られる。
【0021】
なお、電極面積の調整は、予め除去パターン等を圧電材料1表面に形成し、その上で電極形成を行い、その後除去パターン上の電極材料を除去することで電極面積調整部11a(11b)の形成と実際の電極面積の調整を行うこととしても良い。当該製造方法の場合、多角形状の角部分が電極面積調整部11a内に存在することとなる。又、この用に除去パターンを用いる場合には、該除去パターンの正確な形成の観点から、予め多角の角部を除去し、この除去部分に除去パターンを形成することとしても良い。
【0022】
次に、電極面積調整部11a、11bを有さない、簡便な圧電素子1の製造工程について、次に図を参照して説明する。図6及び図7は図1A或いは図5Aと同様の様式にて圧電素子1の製造工程における各段階での構造を示している。図6は図1A等に例示した断面六角形状の圧電素子1の製造工程を示す。断面六角形状の筒状圧電材料3の全周囲にディッピング等によって金属膜を付着させ、外周平面3c、内周平面3d、一方の端面3g、及び他方の端面3hを電極材料13にて被覆する。続いて、一方の端面3gについては内周平面3d側のエッジ部を研削し、内周平面3d表面の電極材料13と一方の端面3g表面の電極材料13とを分離する。同時に他方の端面3hについては、外周平面3c側のエッジ部を研削し、外周平面3c表面の電極材料13と他方の端面3h表面の電極材料13とを分離する。以上の操作により圧電材料3の全面を覆った電極材料13は、第一の電極5と第二の電極7とに分離される。
【0023】
図7は図5A等に例示した断面環状の圧電素子1の製造工程を示す。環状の筒状圧電材料3の全周囲にディッピング等によって金属膜を付着させ、外周面3e、内周面3f、一方の端面3g、及び他方の端面3hを電極材料13にて被覆する。続いて、一方の端面3gについては内周面3f側のエッジ部を研削し、内周面3f表面の電極材料13と一方の端面3g表面の電極材料13とを分離する。同時に他方の端面3hについては、外周面3e側のエッジ部を研削し、外周面3e表面の電極材料13と他方の端面3h表面の電極材料13とを分離する。以上の操作により圧電材料3の全面を覆った電極材料13は、第一の電極5と第二の電極7とに分離される。以上の製造方法によれば、第一及び第二の電極形成を容易に形成することが可能となり、圧電素子1の製造工程の簡略化やこれに伴う製造コストの削減が見込まれる。又、等該方法によれば第一及び第二の電極を同一工程にて同時に得ていることから、これら電極の厚さ、膜質等が等しくなり、電極膜の膜室の均質化が図られるという効果も得られる。
【0024】
以上述べたように、本発明によれば、圧力印加方向に対して機械的強度に優れ、且つ横軸効果を好適に得ることができる圧電素子を提供することが可能となる。また、特許文献1に示す積層構造を用いないことから、積層に伴う種々の工程と、当該工程に起因した圧電材料の破損の可能性が無くなり、素子製造時の歩留まりの向上も図ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
なお、本発明は高温環境下にて用いる圧電素子について述べている。しかし、本発明で述べた圧電素子構造は当該用途での構造に限定されず、印加応力に応じた出力を発信する種々のセンサに対しても適用可能である。
【符号の説明】
【0026】
1:圧電素子、 3:圧電材料、 3a:外形部、 3b:中空部、 3c:外周平面、 3d:内周平面、 3e:外周面、 3f:内周面、 3g:一方の端面、 3h:他方の端面、 5:第一の電極、 7:第二の電極、 9:受圧部材、 11a、11b:電極面積調整部、 13:電極材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一単結晶からなる筒形状の圧電材料と、
前記圧電材料の外周面に設けられた第一の電極と、
前記圧電材料の内周面に設けられて前記第一の電極の対向電極として作用する第二の電極と、を有し、
前記筒形状の軸方向が応力印加軸と一致することを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
前記圧電材料は引下げ方法により育成された単結晶からなり、
前記単結晶の結晶方位は前記応力印加軸と一致することを特徴とする請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
前記筒形状は前記軸方向に垂直な断面が多角形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電素子。
【請求項4】
前記多角形状は正六角形であることを特徴とする請求項3に記載の圧電素子。
【請求項5】
前記筒形状は前記軸方向に垂直な断面が環状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧電素子。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−33926(P2013−33926A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−102322(P2012−102322)
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【特許番号】特許第5093415号(P5093415)
【特許公報発行日】平成24年12月12日(2012.12.12)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】