説明

圧電/電歪素子

【課題】従来と同程度の所望の変位量を維持することができ、高湿環境下で使用しても絶縁抵抗値の低下が少ない圧電/電歪素子を提供すること。
【解決手段】PNN−PZT系三成分固溶系組成物を主成分として含有する圧電/電歪セラミック組成物からなる圧電/電歪体30と、電極(10,10’)と、を備える圧電/電歪素子1であって、PNN−PZT系三成分固溶系組成物が下記組成式で表される圧電/電歪素子1。
(Pb1−xSrα{(Ti1−yZr(Niβ/3Nb2/3(Alγ/2Nb1/2}O
(組成式中、0.005≦x≦0.03、0.45≦y≦0.54、0.58≦a≦0.91、0.07≦b≦0.36、0.02≦c≦0.08、0.97≦α≦1.03、0.97≦β≦1.03、0.97≦γ≦1.03である(但し、a+b+c=1.000である)。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電/電歪素子に関する。更に詳しくは、PNN−PZT系圧電/電歪セラミック組成物からなる圧電/電歪体を用いた圧電/電歪素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HD(ハードディスク)のヘッドの動力源、携帯電話やデジタルカメラのモーター、インクジェットプリンタのインクを吐出させる動力源等に小型の圧電/電歪素子が用いられている。
【0003】
膜型の圧電/電歪アクチュエータは、同一駆動電界で使用する場合、大きな変位を得るには膜厚を薄くすることが有効で、厚さを約10μm以下まで薄くすることができる。そして、このような膜型の圧電/電歪アクチュエータに使用される圧電/電歪セラミック組成物には、電界が高くなっても変位の増加割合が低下しないという特性が要求されている。
【0004】
これに対して、積層型の圧電/電歪アクチュエータは、厚さが約100μm程度のものもあり、駆動電界は膜型の圧電/電歪アクチュエータに比べて低い。このような積層型の圧電/電歪アクチュエータには、高い電界を印加した際に大きく変位する特性はさほど要求されない代わりに、低い電界を印加した際に大きく変位する特性が要求されている。
【0005】
従来、このような積層型の圧電/電歪素子に用いられる圧電/電歪セラミック組成物として、Pb(Mg1/3Nb2/3)O−PbTiO−PbZrO(PMN−PZT系ともいう)、Pb(Ni1/3Nb2/3)O−PbTiO−PbZrO(PNN−PZT系ともいう)、Pb(Zn1/3Nb2/3)O−PbTiO−PbZrO(PZN−PZT系ともいう)の組成式を有する組成物が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−302349号公報
【特許文献2】特開2004−115346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の圧電/電歪セラミック組成物を用いた圧電/電歪アクチュエータでは、製造初期の段階では要求される変位を満たし、高い絶縁抵抗値を示している。しかしながら、繰り返し使用する場合、圧電/電歪アクチュエータの絶縁抵抗値が低下する場合があった。特に、高湿環境下で使用した場合、絶縁抵抗値が顕著に低下する場合があった。このように高湿環境下で絶縁抵抗値が顕著に低下することは、近年の高信頼性の観点からは改善すべき問題である。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。そして、その課題とするところは、従来と同程度の所望の変位量を維持することができ、高湿環境下で使用しても絶縁抵抗値の低下が少ない圧電/電歪素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、Pb原子のごく一部をSr原子で置換するとともに、(Niβ/3Nb2/3)で表される組成の一部を(Alγ/2Nb1/2)で表される組成に置換したPNN−PZT系の圧電/電歪セラミック組成物を用いることによって、上記課題を解決することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明によれば、以下に示す圧電/電歪素子が提供される。
【0011】
[1]Pb(Ni1/3Nb2/3)O−PbTiO−PbZrO三成分固溶系組成物を主成分として含有する圧電/電歪セラミック組成物からなる圧電/電歪体と、前記圧電/電歪体に配設される電極と、を備える圧電/電歪素子であって、前記三成分固溶系組成物が下記組成式で表される圧電/電歪素子。
(Pb1−xSrα{(Ti1−yZr(Niβ/3Nb2/3(Alγ/2Nb1/2}O
(前記組成式中、0.005≦x≦0.03、0.45≦y≦0.54、0.58≦a≦0.91、0.07≦b≦0.36、0.02≦c≦0.08、0.97≦α≦1.03、0.97≦β≦1.03、0.97≦γ≦1.03である(但し、a+b+c=1.000である)。)
【0012】
[2]前記圧電/電歪体、及び前記電極をそれぞれ複数備え、複数の前記圧電/電歪体が、前記複数の電極により交互に積層された積層構造を有する前記[1]に記載の圧電/電歪素子。
【0013】
[3]前記圧電/電歪体を構成する粒子の平均粒子径が0.5〜2μmである前記[1]又は[2]に記載の圧電/電歪素子。
【発明の効果】
【0014】
本発明の圧電/電歪素子は、従来と同程度の所望の変位量を維持することができ、高湿環境下で使用しても絶縁抵抗値の低下が少ないという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ペロブスカイト型構造の結晶構造を示す模式図である。
【図2】本発明の圧電/電歪素子の一実施形態の切断端面を示す模式図である。
【図3】本発明の圧電/電歪素子の他の実施形態の切断端面を示す模式図である。
【図4A】実施例1の圧電/電歪素子を構成する圧電/電歪体を示す電子顕微鏡写真である。
【図4B】実施例11の圧電/電歪素子を構成する圧電/電歪体を示す電子顕微鏡写真である。
【図5A】比較例5の圧電/電歪素子を構成する圧電/電歪体を示す電子顕微鏡写真である。
【図5B】比較例8の圧電/電歪素子を構成する圧電/電歪体を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に含まれることが理解されるべきである。
【0017】
1.定義:
「Pb(Ni1/3Nb2/3)O−PbTiO−PbZrO三成分固溶系組成物を主成分として含有し」というときの「主成分」とは、圧電/電歪セラミック組成物の全体に対する、PNN−PZT系組成物の割合が、95質量%以上、好ましくは98質量%以上であることをいう。
【0018】
ペロブスカイト型構造とは、ABOで表される理想的には立方晶系の結晶構造をいう。ただし、実際には正方晶、斜方晶、菱面体晶や単斜晶の構造も取り得る。より具体的には、図1に示すように、結晶構造の各頂点に配置される箇所にA(以下、「Aサイトイオン」ともいう)2が配置され、結晶構造の体心の位置にB(以下、「Bサイトイオン」ともいう)4が配置され、結晶構造の面心の位置にOイオン(酸素イオン)3が配置される構造をいう。
【0019】
本明細書中、「粒子」とは、圧電/電歪体を構成する粒子をいう。また、「圧電粉末粒子」とは、圧電/電歪体を構成する前の粉末の粒子をいう。即ち、仮焼後の粉末の粒子や、仮焼後の圧電粉末を粉砕して得られる粉末の粒子も含まれる。
【0020】
積層構造とは、図3に示すように、圧電/電歪体(30’,30”)を複数、及び内部電極(40,40’)を複数備え、複数の圧電/電歪体(30’,30”)が、複数の内部電極(40,40’)により交互に挟んで積層されてなる構造のものをいう。なお、図示はしないが、複数の圧電/電歪体(30’,30”)は、複数の内部電極(40,40’)により交互に複数ずつ挟んで積層されていてもよい。
【0021】
2.圧電/電歪素子:
本発明の圧電/電歪素子は、Pb(Ni1/3Nb2/3)O−PbTiO−PbZrO三成分固溶系組成物を主成分として含有する圧電/電歪セラミック組成物からなる圧電/電歪体と、圧電/電歪体に配設される電極と、を備えるものである。以下、詳細に説明する。
【0022】
2−1.圧電/電歪セラミック組成物:
圧電/電歪セラミック組成物は、Pb(Ni1/3Nb2/3)O−PbTiO−PbZrO三成分固溶系組成物を主成分として含有し、三成分固溶系組成物が下記組成式で表されるものである。
(Pb1−xSrα{(Ti1−yZr(Niβ/3Nb2/3(Alγ/2Nb1/2}O
(前記組成式中、0.005≦x≦0.03、0.45≦y≦0.54、0.58≦a≦0.91、0.07≦b≦0.36、0.02≦c≦0.08、0.97≦α≦1.03、0.97≦β≦1.03、0.97≦γ≦1.03である(但し、a+b+c=1.000である)。)
【0023】
上記組成式で表されるPNN−PZT系組成物は、ペロブスカイト型構造を有する。即ち、(Pb1−xSr)がAサイトイオンとして配置され、{(Ti1−yZr(Niβ/3Nb2/3(Alγ/2Nb1/2}がBサイトイオンとして配置される。そして、Aサイトイオンを構成するPbイオンのごく一部がSrイオンで置換されており、Bサイトイオンを構成する(Niβ/3Nb2/3)の一部が(Alγ/2Nb1/2)で置換されている。
【0024】
つまり、圧電/電歪セラミック組成物は、Bサイトイオンの一部をAlイオンで置換したものである。Bサイトイオンを構成する元素の中ではAlが最もイオン半径が小さい。そのため、Aサイトイオンで、Pbイオンよりもイオン半径の小さなSrイオンを置換することで結晶構造の安定性が増したものである。このようにAサイトイオン及びBサイトイオンを置換することで、圧電/電歪セラミック組成物は、従来と同程度の所望の変位量を維持することができ、高湿環境下で使用しても絶縁抵抗値の低下が少ない圧電/電歪素子を製造することができる。
【0025】
上記組成式において、αの値は1.00に限定されるものではない。そのため、PNN−PZT系組成物は、AサイトイオンとBサイトイオンが1:1の割合に特定されたストイキオメトリーのものだけではなく、ノンストイキオメトリーのものも含まれる。
【0026】
上記組成式において、AサイトイオンとBサイトイオンの割合を示すαの範囲は、0.97≦α≦1.03である。αの値がこの範囲にあることで、従来と同程度の変位量を維持することができ、高湿環境下で使用しても絶縁抵抗値の低下が少ない圧電/電歪素子を製造することができる。
【0027】
また、Pbイオンを置換するSrイオンの割合を示すxの範囲は、0.005≦x≦0.03であり、0.005≦x≦0.02であることが好ましい。xがこの範囲にあることで、圧電/電歪セラミック組成物からなる圧電/電歪体を構成する粒子の平均粒子径の値を小さく設計することができ、高湿環境下で使用しても絶縁抵抗値の低下がより少ない圧電/電歪素子を製造することができる。
【0028】
更に、TiイオンとZrイオンの割合を示すyの範囲は、0.45≦y≦0.54であり、0.47≦y≦0.52であることが好ましく、0.48≦y≦0.50であることが更に好ましい。yがこの範囲にあることで、従来と同程度の所望の変位量を維持することができる圧電/電歪素子を製造することができる。
【0029】
また、Bサイトイオンにおける(Ti1−yZr)で表される組成の割合を示すaの範囲は、0.58≦a≦0.91であり、0.58≦a≦0.86であることが好ましい。更に、Bサイトイオンにおける(Niβ/3Nb2/3)で表される組成の割合を示すbの範囲は、0.07≦b≦0.36であり、0.07≦b≦0.20であることが好ましい。bの範囲がこの範囲にあることで、圧電/電歪素子を高湿環境下で使用しても、絶縁抵抗値の低下を抑制することができる。b<0.07であると、圧電/電歪素子を高湿環境下で使用した場合、絶縁抵抗値が低下する場合がある。
【0030】
更に、Bサイトイオンにおける(Alγ/2Nb1/2)で表される組成の割合を示すcの範囲は、0.02≦c≦0.08である。cの範囲がこの範囲にあることで、圧電/電歪セラミック組成物からなる圧電/電歪体を構成する粒子の平均粒子径の値を小さく設計することができ、圧電/電歪素子を高湿環境下で使用しても、絶縁抵抗値の低下を抑制することができる。c<0.02であると、圧電/電歪素子を高湿環境下で使用した場合、絶縁抵抗値が低下する場合がある。一方、0.08<cであると、圧電/電歪素子の変位量が低下する場合がある。
【0031】
また、Nbイオンに対するNiイオンの割合を示すβの範囲と、Nbに対するAlの割合を示すγの範囲は、それぞれ、0.97≦β≦1.03、0.97≦γ≦1.03である。
【0032】
上記組成式における各パラメータは、次のようにして算出した値である。先ず、圧電/電歪セラミック組成物を蛍光X線装置にて解析し、各元素の重量割合を測定する。その結果を酸化物換算した後、組成式に変換して算出した値である。
【0033】
(圧電/電歪セラミック組成物の調製方法)
次に、圧電/電歪セラミック組成物を調製する方法について説明する。圧電/電歪セラミック組成物を調製するに際しては、先ず、上記組成式(Pb1−xSrα{(Ti1−yZr(Niβ/3Nb2/3(Alγ/2Nb1/2}Oとなるよう各種原料化合物を混合して混合原料を得る。原料化合物の具体例としては、Pb、Ni、Nb、Zr、Ti、Al若しくはSrの各元素単体、これら各元素の酸化物(PbO、Pb、NiO、Nb、TiO、ZrO、Al、SrO等)、炭酸塩(SrCO等)、又はこれら各元素を複数種含有する化合物(NiNb等)等を挙げることができる。
【0034】
原料化合物の混合方法としては、一般的な方法を用いればよい。例えばボールミルを挙げることができる。具体的には、ボールミル装置内に所定量の各種原料化合物、玉石、水を入れ、所定時間回転させて混合スラリーを調製する。次いで、調製した混合スラリーを、乾燥器を使用するか、又は濾過等の操作によって乾燥することにより、混合原料を得ることができる。
【0035】
得られた混合原料を750〜1100℃で仮焼した後、950℃以上、1300℃未満で焼成することにより、圧電/電歪セラミック組成物を得ることができる。
【0036】
得られた圧電/電歪セラミック組成物を、必要に応じて粉砕してもよい。粉砕はボールミル等の方法により行うことができる。粉砕して得られる圧電/電歪セラミック組成物の圧電粉末粒子の平均粒子径は0.1〜1.0μmであることが好ましく、0.2〜0.7μmであることが更に好ましい。なお、圧電粉末粒子の平均粒子径の調整は、粉砕して得られた圧電/電歪セラミック組成物の粉末を400〜750℃で熱処理することにより行ってもよい。この際には、微細な粉末粒子ほど他の粉末粒子と一体化して圧電粉末粒子の平均粒子径が揃った粉末となり、粒子の平均粒子径が揃った圧電/電歪体とすることができるため好ましい。また、圧電/電歪セラミック組成物は、例えば、アルコキシド法や共沈法等によって調製してもよい。
【0037】
なお、Al成分は圧電/電歪体中に固溶され難く、異相として残存する場合がある。そのため、圧電/電歪セラミック組成物を調製する際に、予めNbとAlを混合、仮焼、粉砕したものを用いることが好ましい。
【0038】
2−2.圧電/電歪体:
圧電/電歪体は、上記圧電/電歪セラミック組成物からなるものである。また、圧電/電歪体を構成する粒子の平均粒子径は、0.5〜2μmであることが好ましく、1〜1.7μmであることが更に好ましい。粒子の平均粒子径がこの範囲にあることで、従来と同程度の所望の変位量を維持しつつ、高湿環境下で使用しても絶縁抵抗値の低下を抑制することができる圧電/電歪素子を製造することができる。圧電/電歪体を構成する粒子の平均粒子径が0.5μm未満であると、圧電/電歪素子の変位量が低下する場合がある。一方、2μm超であると、高湿環境下で使用した場合に、圧電/電歪素子の絶縁抵抗値が低下する場合がある。
【0039】
通常、セラミックスは、粒子の平均粒子径が小さいほど強度に優れるものである。しかしながら、圧電/電歪体は、粒子の平均粒子径が小さい場合、「サイズ効果」と呼ばれるように、変位量が低下する傾向にある。しかしながら、上記圧電/電歪セラミック組成物からなる圧電/電歪体は、粒子の平均粒子径が0.5〜2μmと小さくても、従来と同程度の変位量を発揮することができる。
【0040】
即ち、上記圧電/電歪セラミック組成物からなる圧電/電歪体は、所望の変位量を維持しつつ、強度の向上を図ることができるものである。なお、上記圧電/電歪セラミック組成物において、Bサイトイオンの一部を(Alγ/2Nb1/2)で置換することで、圧電/電歪体を構成する粒子の平均粒子径を小さく設計することができる。粒子の平均粒子径が小さいので、粒界に生じる微細な隙間に水分が浸入し難く、高湿環境下で使用しても絶縁抵抗値の低下が少ない圧電/電歪素子を製造することができる。
【0041】
また、Aサイトイオンの一部をSrで置換することでも、圧電/電歪体を構成する粒子の平均粒子径を小さく設計することができる。更に、Aサイトイオンの一部をSrで置換するとともに、Bサイトイオンの一部を(Alγ/2Nb1/2)で置換することで、容易に圧電/電歪体を構成する粒子の平均粒子径を小さく設計することができる。
【0042】
粒子の平均粒子径は次のようにして算出した値をいう。先ず、走査型電子顕微鏡を用いて、粒子の粒子径が5〜10mm程度で観察できるように、約8000倍の倍率で圧電/電歪体を観測する。次いで、観測した圧電/電歪体の電子顕微鏡写真の中で、100個以上の粒子の粒子径を測定する。そして、それらの粒子径の平均値を粒子の平均粒子径とする。
【0043】
圧電/電歪体の厚みは、1〜200μmであることが好ましく、3〜100μmであることが更に好ましい。圧電/電歪体の厚みが1μm未満であると、上記圧電/電歪セラミック組成物からなる圧電/電歪体であっても、緻密化が不十分となる場合がある。なお、圧電/電歪素子が積層構造である場合、複数の圧電/電歪体のそれぞれの厚みについても、同じことがいえる。
【0044】
圧電/電歪素子が積層構造の場合、圧電/電歪体の合計の厚みは20μm〜5mmであることが好ましく、40μm〜1mmであることが更に好ましい。圧電/電歪体の合計の厚みが20μm未満であると、強度が低いために取り扱いが困難になる場合がある。一方、5mmを越える場合には、脱脂や焼成が困難になる場合がある。
【0045】
(圧電/電歪体の調製方法)
圧電/電歪体を調製する方法について説明する。圧電/電歪体は、圧電/電歪セラミック組成物を仮焼し、粉砕した後、焼成することで調製することができる。なお、仮焼温度は、通常、750〜1100℃であり、焼成温度は、通常、950℃以上、1300℃未満である。
【0046】
2−3.圧電/電歪素子:
圧電/電歪素子1は、図2に例示するように、上記圧電/電歪体30と、圧電/電歪体30に配設される電極(10,10’)と、を備えるものである。圧電/電歪体が所定の組成式を有する圧電/電歪セラミック組成物からなるものであるので、高湿環境下で使用しても、絶縁抵抗値の低下を抑制することができる。
【0047】
また、図3に示すように、圧電/電歪素子1’は、複数の圧電/電歪体(30’,30”)と複数の内部電極(40,40’)を更に有し、圧電/電歪体(30’,30”)と内部電極(40,40’)が交互に積層された積層構造を有することが好ましい。圧電/電歪素子が積層構造を有すると、小さな電界を印加した場合であっても、大きな変位量を得ることができる。
【0048】
2−4.電極:
電極は、圧電/電歪体に配設されるものである。図3の形態においては、便宜上、複数の圧電/電歪体(30’,30”)を交互に挟んでなる複数の電極(40,40’)を内部電極と称する。また、圧電/電歪素子1’の表面に配設され、その上部及び下部に配設された電極をそれぞれ、上部電極50及び下部電極50’と称する。更に、圧電/電歪素子1’の表面に配設され、その側面に配設された電極を側面電極(20,20’)と称する。なお、図2の形態のように、圧電/電歪体30が1つの場合は、一対の電極(10,10’)が、圧電/電歪体30の上部及び下部の表面に配設される。
【0049】
電極の材質としては、Pt、Pd、Rh、Au、Ag、Cu、Ni及びこれらの合金からなる群より選択される少なくとも一種の金属を挙げることができる。中でも、圧電/電歪体を焼成する際の耐熱性が高い点で、白金、又は白金を主成分とする合金が好ましい。また、コストの観点からは電極の材質としてAg−Pd等の合金や、Cu、Niを好適に用いることができる。
【0050】
本発明の圧電/電歪素子1’は、図3に示すように、柱状の積層構造を有する場合、その側面に配設される、上部電極50及び下部電極50’と内部電極(40,40’)を電気的に接続する側面電極(20,20’)を更に備えることが好ましい。これにより、上部電極50及び下部電極50’に電圧をかけた場合、内部電極(40,40’)にも交互に異なる電圧が加えられることになり、容易に所望とする電界を内部電極(40,40’)に加えることができる。
【0051】
(内部電極)
内部電極は圧電/電歪体に電気的に接続されるものであり、それぞれの圧電/電歪体の間に配設されることが好ましい。また、内部電極は、圧電/電歪体の変位等に実質的に寄与する領域を含んだ状態で配設されることが好ましい。具体的には、図3に示すように、複数の圧電/電歪体(30’,30”)の、それぞれ中央部分付近を含む80面積%以上の領域に、内部電極(40,40’)が配設されていることが好ましい。
【0052】
内部電極の厚みは、5μm以下であることが好ましく、2μm以下であることが更に好ましい。5μmを超えると内部電極が緩和層として作用し、変位が小さくなる場合がある。なお、内部電極としての実質的な機能を発揮させるといった観点からは、内部電極の厚みは0.05μm以上であればよい。
【0053】
内部電極を形成する方法としては、例えば、イオンビーム、スパッタリング、真空蒸着、PVD、イオンプレーティング、CVD、メッキ、スクリーン印刷、スプレー、又はディッピング等の方法を挙げることができる。中でも、圧電/電歪体との接合性の点でスパッタリング法、又はスクリーン印刷法が好ましい。形成された内部電極は、600〜1400℃程度の焼成(熱処理)により、圧電/電歪体と一体化することができる。この焼成は内部電極を形成する毎に行ってもよいが、未焼成の圧電/電歪体についてする熱処理と一括して行ってもよい。
【0054】
3.圧電/電歪素子の製造方法:
上記圧電/電歪セラミック組成物の調製方法に記載した方法で得られた混合粉末を仮焼した後、粉砕して圧電/電歪セラミック組成物の粉末を調製する。この粉末を用いて、所望の厚みの圧電/電歪テープをドクターブレード法にて成形し、この圧電/電歪テープの片面に、焼成後に所望の厚みとなるよう内部電極を形成する。圧電/電歪テープと内部電極が交互に配置されるように所定の層数積層し、表面に露出した内部電極側に、内部電極を形成していない1層の圧電/電歪テープを更に積層して積層体を作製する。この積層体を焼成した後、所定の位置及び寸法で切断し、最後に、積層体の外部に一対の電極及び側面電極を形成することで、圧電/電歪素子を製造することができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、各種物性値の測定方法、及び諸特性の評価方法を以下に示す。
【0056】
[高湿絶縁性(Ω)]:湿度85%、温度85℃の環境下において、電界0−2.4kV/mmのサイン波(周波数1kHz)を500時間印加した。その後の絶縁抵抗値を測定した。なお、1.0×10Ω未満であった場合を「不良」と評価し、1.0×10〜9.5×10Ωであった場合を「良」と評価し、9.5×10Ω超であった場合を「優」と評価した。
【0057】
[変位(nm)]:2.4kV/mmの電界を印加した際の変位を、レーザードップラー(商品名「NLV−2500」、ポリテックジャパン社製)にて測定した。なお、200nm未満であった場合を「不良」と評価し、200〜230nmであった場合を「良」と評価し、230nm超であった場合を「優」と評価した。
【0058】
[平均粒子径(μm)]:走査型電子顕微鏡(JSM−7000F、日本電子社製)を用いて、8000倍の倍率で圧電/電歪体を観測した。そして、電子顕微鏡写真の中の100個の粒子の粒子径を測定し、その平均値として算出した。
【0059】
(実施例1)
組成式(Pb0.980Sr0.0201.000{(Ti0.512Zr0.4880.850(Ni1/3Nb2/30.070(Al1/2Nb1/20.080}Oとなるよう、PbO、TiO、ZrO、NiO、Nb、Al、NiO、SrCOのそれぞれの原料を計量した。これらを所定量の水とともにボールミルにて24時間の混合を行って調製スラリーを得た。得られた調製スラリーを熱風乾燥機内に入れて水分を蒸発させ、乾燥させることで原料粉末を得た。
【0060】
得られた混合粉末を仮焼した後、粉砕して圧電/電歪セラミック組成物の粉末を調製した。この粉末を用いて厚み12μmの圧電/電歪テープをドクターブレード法にて成形した。この圧電/電歪テープの片面に、焼成後に厚み1μmとなるようPt電極を形成した。これを3層積層して積層体を作製した後、露出した内部電極側に、内部電極を形成していない1層の圧電/電歪テープを更に積層して積層体を作製した。この積層体を、1170℃で焼成した。次いで、積層体の外部にAg電極を形成することで、積層型の圧電/電歪アクチュエータ(圧電/電歪素子)を作製した。なお、実施例1の圧電/電歪素子を構成する圧電/電歪体の電子顕微鏡写真を図4Aに示す。
【0061】
(実施例2〜10、比較例1〜7)
組成式におけるパラメータが表1となるよう原料の使用量を変更したこと以外は実施例1と同様にして積層型の圧電/電歪アクチュエータ(圧電/電歪素子)を作製した。なお、比較例5の圧電/電歪素子を構成する圧電/電歪体の電子顕微鏡写真を図5Aに示す。
【0062】
なお、表1においてそれぞれのパラメータは下記組成式のパラメータに対応する。
(Pb1−xSrα{(Ti1−yZr(Niβ/3Nb2/3(Alγ/2Nb1/2}O
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
表2の結果からわかるように、所定の組成式で表される圧電/電歪セラミック組成物からなる圧電/電歪体は、粒子の平均粒子径が小さいものであり、圧電/電歪素子は従来と同程度の所望の変位量を維持するとともに、高湿環境下での絶縁抵抗性に優れるものであった(実施例1〜10参照)。特に、粒子の平均粒子径が1.7μm以下であると、高湿環境下での絶縁抵抗性が特に優れるものであった(実施例1、2、4、6、8、10参照)。
【0066】
一方、所定の組成式で表されない圧電/電歪セラミック組成物からなる圧電/電歪体は、粒子の平均粒子径が小さいものである場合、圧電/電歪素子の変位量が大きく劣るものであるか、絶縁抵抗性に劣るものであった(比較例1〜4参照)。また、従来の圧電/電歪セラミック組成物からなる圧電/電歪体は、粒子の平均粒子径が大きく、圧電/電歪素子は高湿環境下での絶縁抵抗性に劣るものであった(比較例5参照)。更に、Aサイトイオンにおいて、Pbイオンの一部をSrイオンに置換していない圧電/電歪セラミック組成物からなる圧電/電歪体は、粒子の平均粒子径が大きくなり、圧電/電歪素子の高湿環境下での絶縁抵抗性に劣るものであった(比較例6参照)。
【0067】
(実施例11)
焼成温度を1100℃としたこと以外は実施例1と同様にして積層型の圧電/電歪アクチュエータ(圧電/電歪素子)を作製した。なお、実施例11の圧電/電歪素子を構成する圧電/電歪体の電子顕微鏡写真を図4Bに示す。
【0068】
(比較例8)
焼成温度を1100℃としたこと以外は比較例5と同様にして積層型の圧電/電歪アクチュエータ(圧電/電歪素子)を作製した。なお、比較例8の圧電/電歪素子を構成する圧電/電歪体の電子顕微鏡写真を図5Bに示す。
【0069】
図4A及び図4Bからわかるように、所定の組成式で表される圧電/電歪セラミック組成物からなる圧電/電歪体を構成する粒子の平均粒子径は、温度条件によらず、ほぼ同じ大きさであることがわかる。一方、従来の圧電/電歪セラミック組成物からなる圧電/電歪体を構成する粒子の平均粒子径は、図5A及び図5Bからわかるように、温度条件に大きく依存してしまうことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の圧電/電歪素子は、従来と同程度の所望の変位量を有し、高湿環境下で使用しても絶縁抵抗値の低下が少ないので、近年要求される高信頼性のある製品に使用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1,1’:圧電/電歪素子、2:Aサイトイオン、3:酸素イオン、4:Bサイトイオン、10,10’:電極、20,20’:側面電極、30,30’,30”:圧電/電歪体、40,40’:内部電極、50:上部電極、50’:下部電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pb(Ni1/3Nb2/3)O−PbTiO−PbZrO三成分固溶系組成物を主成分として含有する圧電/電歪セラミック組成物からなる圧電/電歪体と、
前記圧電/電歪体に配設される電極と、を備える圧電/電歪素子であって、
前記三成分固溶系組成物が下記組成式で表される圧電/電歪素子。
(Pb1−xSrα{(Ti1−yZr(Niβ/3Nb2/3(Alγ/2Nb1/2}O
(前記組成式中、0.005≦x≦0.03、0.45≦y≦0.54、0.58≦a≦0.91、0.07≦b≦0.36、0.02≦c≦0.08、0.97≦α≦1.03、0.97≦β≦1.03、0.97≦γ≦1.03である(但し、a+b+c=1.000である)。)
【請求項2】
前記圧電/電歪体、及び前記電極をそれぞれ複数備え、
複数の前記圧電/電歪体が、複数の前記電極により交互に積層された積層構造を有する請求項1に記載の圧電/電歪素子。
【請求項3】
前記圧電/電歪体を構成する粒子の平均粒子径が0.5〜2μmである請求項1又は2に記載の圧電/電歪素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2012−250885(P2012−250885A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125699(P2011−125699)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】