説明

地上状況観測方法および地上状況観測システム

【課題】 高額な設備や機器を必要とすることなく、地上の観測エリアの状況を常時観測することができる地上状況観測方法を提供する。
【解決手段】 地上の観測エリアOAの一部を空中から撮影することができる撮影装置7と、撮影装置7により得た撮影データを無線通信により伝送する機能を有する無線通信装置9とを搭載した複数の気球1を、観測エリアOA全域をカバーするように分散して配置する。複数の気球1にそれぞれ搭載された撮影装置7で撮影した撮影データを無線で受信する受信設備13を観測エリアOA内または観測エリアOA外に配置する。複数の気球1にそれぞれ搭載された複数の無線通信装置9間に通信ネットワークを構築する。通信ネットワーク中にある1つの無線通信装置9aと受信設備13との間で通信を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上の状況を観測する地上状況観測方法および地上状況観測システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
災害時において、特定のエリアを観測する必要がある場合や、大規模な集会やイベントを上空から監視する場合には、ヘリコプタ等の空中移動装置を利用して、地上の状況を撮影し、撮影データを地上の受信設備に送信している。しかしながら、ヘリコプタ等は、燃料の補給が必要になるために、24時間または何日間にも亘って連続して観測または監視を続けることができない。また同時に広いエリアを観測または監視することができない。
【0003】
そこで、上空に飛行船を常時配置することにより、観測または監視を連続して行うことも考えられる。飛行船を利用した技術として、従来以下の2つの技術が知られている。
【0004】
例えば、特開2000−203491号公報には、飛行船を地上の所定の点から成層圏まで上昇させる打上手段と、飛行船を所定の点から別の所定の点まで移動させる移動手段と、飛行船を成層圏の所定の点に停留させる停留手段と、(飛行船を成層圏の所定の点から地上まで下降させる回収手段と)、飛行船を指定された方向に回頭させる制御手段とを備える観測システムにより、上空に滞留する飛行船と地上の各種施設又は携帯端末との間で通信を行う技術が開示されている。
【0005】
また特開2000−357986号公報には、飛行船に自機位置を測定するGPS受信装置と位置信号を補正するDGPS受信装置を搭載し、管制局と飛行船間での信号通信による位置測定機能を省略し、管制局、観測衛星と飛行船間に設定された通信回線および飛行船間の通信回線を利用して、管制局、観測衛星と飛行船間の管制情報の授受とデータ伝送する観測システムにより、1局の管制局での複数の飛行船の管制と観測衛星の情報収集を行う技術が開示されている。
【特許文献1】特開2000−203491号公報
【特許文献2】特開2000−357986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術を活用しようとすると、観測用の空中浮遊体として、一般に1機の飛行船を使用し、この1機の飛行船により地上の観測エリア全体を観測することになる。そのため、高感度の撮影機器および撮影データの遠距離伝送が可能な通信機器と大容量の電源を使用しなければならない。その結果、飛行船に搭載する通信装置等の機器の重量はかなり重くなる。また重量の重い機器を搭載することができる大型で高価な飛行船を使用しなければならない。そのため、各自治体がこのような飛行船を独自に準備しておくことはできない。
【0007】
また、1機の飛行船を用いて地上状況を観測するシステムでは、飛行船にガス抜けや故障が発生した場合には、観測を続行できなくなるおそれがある。
【0008】
また、災害時において広い観測エリアが多数カ所発生した場合には、一カ所の観測エリアを常時観測または監視することは不可能である。
【0009】
本発明の目的は、高額な設備や機器を必要とすることなく、地上の観測エリアの状況を常時観測することができる地上状況観測方法およびシステムを提供することにある。
【0010】
本発明の目的は、高性能で重量の重い撮影機器および通信機器を使用することなく、広い観測エリアを観測することができる地上状況観測方法およびシステムを提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、観測用空中浮遊体に搭載する撮影機器および通信機器として軽量で且つ使用電力が少ない簡易ものを用いても、広い観測エリアを常時観測することができる地上状況観測方法を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、観測用空中浮遊体の空中浮遊用ガスの使用量が少ない小型の観測用空中浮遊体を用いて観測エリアを観測できる地上状況観測方法を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、観測用空中浮遊体にガス抜けや故障が発生しても観測を続行することが可能な地上状況観測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の地上状況観測方法では、地上の観測エリアの一部を空中から撮影することができる撮影装置と、この撮影装置により得た撮影データを無線通信により伝送する機能を有する無線通信装置とを搭載した複数の観測用空中浮遊体を、観測エリア全域をカバーするように分散して配置する。観測対象となる地上の観測エリアは、市街地、山間部を問わず、場合によっては湖なども対象とすることができる。また屋内競技場、大型展示施設等の大規模施設の内部も観測対象とすることが可能である。撮影装置としては、デジタルカメラ等の撮影機器を利用することができる。デジタルカメラは、撮影した画像を通信可能な電子データに変換する機能を備えているので利用し易い。そして、本発明の地上状況観測方法では、複数の観測用空中浮遊体にそれぞれ搭載された撮影装置で撮影した撮影データを無線で受信する受信設備を、観測エリア内または観測エリア外に配置する。複数の観測用空中浮遊体にそれぞれ搭載された複数の無線通信装置間には、通信ネットワークを構築する。そして、本発明の地上状況観測方法では通信ネットワーク中にある1つの無線通信装置と受信設備との間で通信を行って、複数の観測用空中浮遊体にそれぞれ搭載された複数の撮影装置により得た撮影データを通信ネットワークを利用して収集する。したがって、受信設備は、無線通信装置と通信可能な範囲であればどこに配置してもよい。
【0015】
本発明の地上状況観測方法を用いると、空中では通信ネットワークを利用してデータの送信が行われるため、撮影装置によって決まる撮影範囲によって位置が定まる各観測用空中浮遊体間で通信を行うことができる程度に安価で低出力の無線通信装置を用いることで観測データを収集できる。そのため、使用する機器の重量を小さくすることが可能になり、観測用空中浮遊体に必要な浮力が小さくて済み、観測用空中浮遊体として小型で安価なものを用いることができる。その結果、価格が大幅に高くなることがなく、観測エリアを常時観測することができる。
【0016】
また撮影装置は、複数の撮像素子と、複数の撮像素子に対応する複数のレンズと、複数の撮像素子の出力信号を処理する信号処理回路とを備えた構成とすることができる。この場合、撮影装置は、複数の撮像素子を用いて予め定めた広さの領域を撮影することができるように構成する。このような撮影装置を用いると、複数の撮像素子からの信号を信号処理回路で処理することになり、観測用空中浮遊体が空中である程度の範囲内で常時移動していても、複数の撮像素子のいずれかに観察目標の画像が撮影されている可能性が高くなる。その結果、複数の撮像素子の出力を信号処理することによって、観察目標を見失うことなく、観測を行うことができる。
【0017】
無線通信装置として微弱電波で無線通信を行うものを用いると、本発明の方法を誰でも簡単に実施ができるようになる。これは日本では、微弱電波は、免許や技術適合証明を取得する必要がなく、また周波数、変調方式、通信方式の制約もないため、何人も自由な通信システムの設計が可能である。なお、この場合、隣り合う二つの観測用空中浮遊体間の距離は、微弱電波により通信が可能な距離に定めればよい。また、受信設備と通信ネットワーク中の1つの無線通信装置との間の距離も、微弱電波により通信が可能な距離になるように受信設備の位置を定めればよい。
【0018】
観測用空中浮遊体としては、地上にある錘にケーブルを介して係留された気球を用いることができる。地上にある錘にケーブルを介して係留された気球は、移動を目的としておらず、また風により移動しても移動範囲がごく狭小範囲に限られるため、観測用空中浮遊体の位置を制御するGPS等の大規模なシステムを用意しなくてもよいという利点がある。
【0019】
ここで錘としては、気球を膨らませる気体が充填されたボンベを用いることができる。この場合、ケーブルをボンベから気球に気体を送るパイプを含んだ複合ケーブルにより構成することができる。そして、膨らませない状態の気球と、ボンベと、気球とボンベとを連結する複合ケーブルとを組み合わせて未設置観測装置を構成する。ヘリコプターや飛行機等の空中移動機に複数の未設置観測装置を載せて、ボンベから気球に気体を供給する状態にした複数の未設置観測装置を、観測エリアの上空から、ケーブルが延びるように観測エリアに順次投入する。このようにすると、複数の観測用空中浮遊体を間隔をあけて観測エリアの上空に浮遊させることができる。その結果、簡単に入り込むことができないエリアにも観測用空中浮遊体を配置することが可能になる。
【0020】
なお、ケーブルとして単にボンベと気球とを接続する接続ケーブルを用いてもよい。この場合には、ボンベと膨らませない状態の気球とは、気体供給用コネクタで接続する。この気体供給用コネクタは、ボンベから気球に気体を供給する前は気球とボンベとを機械的に連結し、ボンベから気球に気体を供給する際には、ボンベから気球に気体の供給を可能にし、気球の内圧が予め定めた圧力以上になると気球から気体が抜け出るのを阻止した状態で、気球からボンベを切り離すことができるように構成されている。そしてこの場合には、気球とボンベと接続ケーブルとコネクタとを組み合わせて未設置観測装置を構成する。このような構成を採用すると、市販の安価なケーブルを用いることができるので未設置観測装置を安価に構成することが可能になる。また気球を膨らませる際のボンベと気球との間の距離が短くて済むため、気球を速く膨らませることが可能になる。
【0021】
なお、撮影装置、無線通信装置及びこれら装置の電源を含む観測設備の重量が、400g以下であれば、使用する気球として、ケーブルが延びた状態で観測設備を空中に浮遊させることができる小さい浮力を備えたものを用いることができる。この構成を用いることにより、観測用空中浮遊体として安価なものを用いることが可能になり、観測用空中浮遊体の数が多くなっても、本発明の方法を実施するために必要な価格が大幅に高くなることはない。
【0022】
なお、観測設備中で使用される演算装置は、書き換え可能なゲートアレイによって構成することができる。ゲートアレイは、セミカスタムLSI(顧客の要求に応じて、あらかじめ用意されたメニューをカスタマイズして作成するLSI)の一種であり、使用電力量が少なくて済み、しかもCPUを用いる場合よりも演算装置全体の重量を少なくすることができる。
【0023】
また、錘に蓄電装置または発電装置を設けてもよい。この場合、ケーブルとしては、撮影装置及び無線通信装置を含む観測設備に蓄電装置または発電装置から電力を供給する電力供給線を含んだ複合ケーブルとする。このように構成すると、錘側に蓄電装置または発電装置が存在するため、観測用空中浮遊体の浮力を大きくすることなく、しかも観測期間を大幅に延長することが可能になる。
【0024】
なお、観測用空中浮遊体として、移動制御可能な飛行船を用いてもよい。複数の飛行船を用いることにより、複数の飛行船によって一時に観測できるエリアの広さが、観測エリアの広さよりも狭いものであっても、観測エリアの上空を複数の飛行船を周回させることにより、観測エリア全体を観測することができる。このような構成により、複数の観測用空中浮遊体を停留された状態では観測エリアの一部しか撮影できないが、複数の飛行船を移動させることにより、広い観測エリアの全域をカバーすることが可能になる。
【0025】
また、本発明の地上状況観測システムでは、地上の観測エリアの一部を空中から撮影することができる撮影装置と、撮影装置により得た撮影データを無線通信により伝送する機能を有する無線通信装置とを搭載し、観測エリア全域をカバーするように分散して配置された複数の観測用空中浮遊体と、複数の観測用空中浮遊体にそれぞれ搭載された撮影装置で撮影した撮影データを無線で受信するように観測エリア内または観測エリア外に配置された受信設備と、複数の観測用空中浮遊体にそれぞれ搭載された複数の無線通信装置間に構築された通信ネットワークとから構成されている。そして、通信ネットワーク中にある1つの無線通信装置と受信設備との間の通信により、複数の観測用空中浮遊体にそれぞれ搭載された複数の撮影装置により得た撮影データが通信ネットワークを介して受信設備に収集される。このような本発明の地上状況観測システムを用いると、観測用空中浮遊体に搭載する通信装置等の機器の規模及び重量を小さくすることができるため、個々の観測用空中浮遊体における使用電力を小さくすることができる。また、観測用空中浮遊体の空中浮遊用ガスの使用量を少なくすることができるため、個々の観測用空中浮遊体の重量を小さくすることができる。さらに、一部の観測用空中浮遊体にガス抜けや故障が発生しても、他の観測用空中浮遊体により観測を続行することが可能になる。さらに、本発明の方法では、複数の観測用空中浮遊体をを用いてもGPS等の大規模な制御システムを用いることないため、複数の観測用空中浮遊体を用いることによるコストの増加を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、地上状況観測システムにおいて、観測用空中浮遊体に搭載する通信装置等の機器の規模及び重量を小さくすることができるため、個々の観測用空中浮遊体における使用電力を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明に係る地上状況観測方法に係る実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の方法を実施する本発明の地上状況観測システムの実施の形態の一例の構成を概略的に示す図である。図1において、符号1で示した部材は、観測用空中浮遊体として用いられる気球である。気球1は、地上に置かれた錘3にケーブル5を介して係留されている。係留する気球1は、移動を目的としておらず、また風により移動しても移動範囲はごく狭い範囲に限られるため、気球1の位置を制御するGPS等の大規模なシステムを用意しなくてよい。気球1には、撮影装置7と無線通信装置9が搭載されている。そして後に説明するように、複数の気球1にそれぞれ搭載した無線通信装置9間には、通信ネットワークNWが構築されている。また地上には、アンテナ11を備えた受信設備13が接地されている。
【0028】
撮影装置7は、地上の観測エリアOAの一部OA´(図2)を空中から撮影することができるように気球1の下側部分に搭載されている。撮影装置7としては、デジタルカメラ等の図示しない撮影機器を利用することができる。特にデジタルカメラは、撮影した画像を通信可能な電子データに変換する機能を備えているので、撮影装置7に利用する撮影機記として好ましい。
【0029】
また本実施の形態で用いる無線通信装置9は、撮影装置7により得た撮影データを微弱電波による無線通信により伝送する機能を有している。そのため隣り合う二つの気球間1,1の距離は、微弱電波により双方通信が可能で且つ複数の無線通信装置9間で通信ネットワークNWの構築が可能な距離となるように定められている。微弱電波は、免許や技術適合証明を取得する必要がなく、また周波数、変調方式、通信方式の制約もないため自由な通信システムの設計が可能である。また微弱電波は使用電力が僅かで済むため、無線通信装置9に含まれるバッテリ等の蓄電手段として小型軽量のものを用いることができる。さらに本実施の形態のように、無線通信装置9として微弱電波で無線通信を行うものを用いると、特別な資格や届出を必要とすることなく、誰でも簡単に実施ができる。そのため、市町村レベルでも、簡単に本発明のシステムを容易に導入することができる。なお本発明の方法を実施するにあたって、微弱電波よりも強い電波を用いてもよいのは勿論である。
【0030】
図1のシステムでは、受信設備13は、上空に浮遊する複数の気球1に設けられた複数の無線通信装置9間に形成される通信ネットワークNWと接続可能に設けられている。すなわち受信設備13は、通信ネットワークNWに含まれる1つの無線通信装置9から、通信ネットワークNWを介して他の無線通信装置9からのデータを受信する。そのため受信設備13の設置位置は、通信ネットワークNW中の1つの無線通信装置9a(複数の気球1,1・・・のうち気球1aに搭載された無線受信装置9a)との間の距離が、微弱電波により通信が可能な距離になるように定められている。このように受信設備13の位置が定められる限り、受信設備13は観測エリア内または観測エリア外のいずれに配置されていてもよい。なお受信設備13のうちアンテナ11だけを、微弱電波により通信可能な位置に配置してもよいのは勿論である。なお図1の例では、受信設備13を、観測エリアOAの外側に配置している。
【0031】
図2は、図1のシステムにおいて複数の気球1にそれぞれ搭載された複数の無線通信装置9間に構築された通信ネットワークNWの例を示す図である。図2に示すように、本実施の形態で用いる無線通信装置9は、隣接する他の気球に搭載されている無線通信装置通信との間で自動的に最適なネットワークNWを構築し、さらに受信設備13との間で通信路を形成する機能を有している。したがって適当に監視エリアOAに、複数の気球1を配置しても、隣接する気球1間の距離が、微弱電波の到達範囲内の距離であれば、自動的に通信ネットワークNWが構成される。なお予め決めた無線通信装置どうしの間に通信路を形成して、予め定めた通信ネットワークを構築するようにしてもよいのは勿論である。なお受信設備13では、受信した撮影データに基いて、所定の観測目標の追跡観測や、観測エリア全体の監視を行うことができる。
【0032】
図3(A)及び(B)は、図1に示すような気球1を用いた地上状況観測システムにおいて、複数の気球1に搭載した複数の撮影装置7で、観測エリアOAを撮影する態様を示す図である。なお観測エリアOAとしては、市街地、山間部を問わず、場合によっては湖なども対象とすることができる。図3(A)に示す例では、1台の撮影装置7により観測できるエリアを一辺がLの長さの正方形観測エリアとする場合の例を示している。この例では、各撮影装置7により観測できる正方形観測エリアを部分的に重ねて、観測できないエリアが発生しないようにしている。また図3(B)に示す例では、1台の撮影装置7により観測できるエリアを半径がRの長さの円形観測エリアとする場合の例を示している。この例でも、各撮影装置7により観測できる円形観測エリアを部分的に重ねて、観測できないエリアが発生しないようにしている。なお撮影装置7としては、1個のレンズと1台の撮像素子とを用いて、上記の1つの正方形観測エリアまたは1つの円形観測エリアを観測することができる機能を有しているものを用いてもよい。しかしながら気球1が移動することを考えると、図4に概念を図にして示すように、いわゆる複眼タイプの撮影装置7´を用いてもよい。この複眼タイプの撮影装置7´は、複数個のレンズ7´Aと、複数のレンズ7´Aに対応した複数の撮像素子7´Bと、複数の撮像素子7´Bの出力信号を処理する信号処理回路7´Cとを備えている。この場合、撮影装置7´は、複数の撮像素子7´Bを用いて予め定めた広さの領域を撮影することができるように構成する。具体的には、図3(B)に示した態様と同様に、複数の撮像素子7´Bで撮影するエリアを部分的に重ねる。このような撮影装置7´を用いると、複数の撮像素子7´Bからの信号を信号処理回路7´Cで処理することになり、気球1が空中である程度の範囲内で常時移動していても、複数の撮像素子7´Bのいずかに観察目標の画像が撮影されている可能性が高くなる。その結果、複数の撮像素子の出力を信号処理することによって、観察目標を見失うことなく、観測を行うことができる。
【0033】
このような設備を用いることにより、空中では通信ネットワークNMを利用してデータの送信が行われるため、撮影装置7によって決まる撮影範囲によって位置が定まる各気球間1で通信を行うことができる程度に安価で低出力の無線通信装置を用いることで観測データを収集できる。そのため、使用する機器の重量を小さくすることが可能になり、気球に必要な浮力が小さくて済み、気球として小型で安価のものを用いることができる。その結果、価格を大幅に高くすることなく、観測エリアOAを常時観測することが可能になる。
【0034】
図5は、気球1を観測エリアOAの上空に浮遊させる方法の一例を示す図である。この例では、錘3が、気球1を膨らませるヘリウムガス等の気体が充填されたボンベ3´で構成されている。また、ケーブル5は、ボンベ3´から気球1に気体を送る可撓性を有するパイプを含んだ複合ケーブル5´により構成している。そして、膨らませない状態の気球1´と、ボンベ3´と、気球1´とボンベ3´とを連結する複合ケーブル5´とを組み合わせて未設置観測装置15を構成する。そして自然災害等により、常時観測しなければならないエリアが発生した場合には、複数の未設置観測装置15をヘリコプター17や飛行機等の空中移動機に載せて、観測エリアOAの上空まで運ぶ。この例では、観測エリアOAにヘリコプター17が観測エリアの上空に達すると、ボンベ3´から気球1´に気体を供給するようにボンベ3´のバルブを開き、ヘリコプター17から地上に向かって未設置観測装置15を所定の間隔をあけて投入する。なお未設置観測装置15を投入した後、ボンベ3´が落下する過程でケーブル5´が延びるように、ケーブル5´は整然と巻回してある。この例では、空中移動機としてヘリコプター17を用いているが、飛行機や飛行船等の他の空中移動機を用いてもよいのは勿論である。図5の例では、未設置観測装置15がヘリコプター17から投入されると、ボンベ3´内に充填された気体がケーブル5を介して気球1に送られるため、未設置観測装置15が地上に着地する前に、確実に気球1が膨らみ、気球1を観測エリアの上空に確実に浮遊させることができる。また、観測エリアへの設置後であっても、ボンベ3´から気球1に気体を継続して供給することが可能になるため、気体の漏洩により気球1の内圧が下がるのを阻止することができる。
【0035】
また、図6は、図5を用いて説明した未設置観測装置15とは異なる他の未設置観測装置115の構成を示す図である。なお、図6においては、図5に示した部材と同様の部材に、図5に付した符号の数に100の数を加えた数の符号を付して、それらの部材についての説明を省略する。この例でも、錘として気球101を膨らませる気体が充填されたボンベ103´を用いている。そして、ケーブルを、単にボンベ103´と膨らませない状態の気球101とを接続するロープ等からなる接続ケーブル205から構成している。この例では、ボンベ103´と膨らませない状態の気球101´とを、ボンベ103´から気球101´に気体を送る気体供給用コネクタ8で接続している。この気体供給用コネクタ8は、ボンベ103´から気球101´に気体を供給する前は気球101´とボンベs03´とを機械的に連結する。そして気体供給用コネクタ8は、ボンベ103´から気球101´に気体を供給する際には、ボンベ103´から気球101´に気体の供給を可能にし、気球101´の内圧が予め定めた圧力以上になると気球101´から気体が抜け出るのを阻止した状態で、気球101´からボンベ103´を切り離すことができるように構成されている。この例では、気球101´とボンベ103´と接続ケーブル105´とコネクタ8とを組み合わせて未設置観測装置115´が構成されている。このような構成を採用すると、市販の安価なケーブルを用いることができるので未設置観測装置115´を安価に構成することが可能になる。また気球101´を膨らませる際のボンベ103´と気球101´との間の距離が短くて済むため、気球101´を速く膨らませることが可能になる利点が得られる。また図5に示す例のように、ボンベから気球に気体を送るパイプを含んだ複合ケーブルからなる複雑な構造のケーブルを用いないため、未設置観測装置115´に不具合が生じにくく、また未設置観測装置の製造コストを下げることができる。
【0036】
この例では、撮影装置7、無線通信装置9及びこれら装置の電源を含む観測設備の重量を400g以下となるように設計している。このようにすると、使用する気球1として、ケーブル5が延びた状態で観測設備を空中に浮遊させることができる小さい浮力を備えたものを用いることができる。その結果、気球1として安価なものを用いることが可能になり、気球1の数が多くなっても、全体として実施に必要な価格が大幅に高くなることはない。
【0037】
なお、この例では、観測設備中で使用される信号処理装置7´C等の演算装置は、書き換え可能なゲートアレイによって構成されている。ゲートアレイは、セミカスタムLSI(顧客の要求に応じて、あらかじめ用意されたメニューをカスタマイズして作成するLSI)の一種であり、CPUを用いる場合よりも装置全体の重量を少なくすることができ、しかも使用電力量についても削減を図ることができる。
【0038】
また、上記実施の形態とは異なって、錘3側に蓄電装置または発電装置を設けると、気球側に電源を搭載する必要がなくなるため、気球として浮力の小さい安価な気球を用いることができる。また観測期間を大幅に延長することが可能になる。なお錘3に発電装置または蓄電装置を設ける場合には、この場合、ケーブル5としては、撮影装置7及び無線通信装置9を含む観測設備に発電装置または蓄電装置から電力を供給する電力供給線を含んだ複合ケーブル5により構成すればよい。
【0039】
図7(A)及び(B)は、本発明の方法を実施するシステムの他の実施の形態の一例を示す図である。この図において、図1に示す実施の形態を構成する部材と同じ部材には、図1に付した符号の数に200の数を加えた数の符号を付して説明を省略する。この例では、観測用空中浮遊体として、移動制御可能な飛行船19を用いる。飛行船19には、撮影装置207及び無線通信装置209が搭載されている。図7(A)では、複数の飛行船19は、観測エリアOAの上空を周回して移動するように制御されている。図7(B)では、複数の飛行船19は、観測エリアOAの上空を蛇行して移動するように制御されている。図7(A)と図7(B)とでは、複数の飛行船19を移動させる制御方法が異なるものの、いずれの場合も、複数の飛行船19によって観測できるエリアの広さが、観測エリアOAの広さよりも狭いものであっても、観測エリアOA全体を観測することができる。なお飛行船19に搭載する機器の重量を例えば1kg以下のように、できるだけ少なくすれば、小型の飛行船19で長時間にわたって、観測エリアOAの上空に飛行船19を配置しておくことが可能である。飛行船19を用いる場合には、各飛行船の駆動制御装置に、各飛行船間の距離を前述と同様に無線通信装置209の通信可能距離内に入るようにするための距離制御システムを搭載している。またこの例では、各飛行船19に搭載した無線通信装置209間に通信ネットワークを構築している。そして複数の飛行船19の1機19aに搭載した無線通信装置209と受信設備113との間で、撮影データの通信を行う。なお観測エリアが広い場合には、観測エリアの内外の複数箇所に、受信設備を設置しておけばよい。
【0040】
なお、複数の飛行船19の移動制御方法は、図7(A)及び(B)の制御方法に限られるものではなく、観測エリアOA全体を観測することができれば、どのような制御方法を採用してもよいのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】発明の実施の形態の一例である設備を示す図である。
【図2】複数の気球にそれぞれ搭載された複数の無線通信装置間に構築された通信ネットワークの例を示す図である。
【図3】(A)及び(B)は、観測エリアを撮影する態様の例を説明するために用いる図である。
【図4】撮影装置の他の構成例を示す図である。
【図5】気球を観測エリアの上空に浮遊させる方法の一例を説明するために用いる図である。
【図6】空中から投下する未設置観測装置の他の例の構成を示す図である。
【図7】(A)及び(B)は、本発明の方法を実施するシステムの他の実施の形態の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1,1a,1´,101,101´ 気球(観測用空中浮遊体)
3 錘
3´,103´ ボンベ
5,5´,105´ ケーブル
7,7´,207 撮影装置
7´A レンズ
7´B 撮像素子
7´C 信号処理回路
8 気体供給用コネクタ
9,9a,209 無線通信装置
11,211 アンテナ
13,213 受信設備
15,115 未設置観測装置
17,117 ヘリコプター
19,19a 飛行船(観測用空中浮遊体)
OA 観測エリア
OA´ 観測エリアの一部
NW 通信ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地上の観測エリアの一部を空中から撮影することができる撮影装置と、前記撮影装置により得た撮影データを無線通信により伝送する機能を有する無線通信装置とを搭載した複数の観測用空中浮遊体を、前記観測エリア全域をカバーするように分散して配置し、
前記複数の観測用空中浮遊体にそれぞれ搭載された前記撮影装置で撮影した撮影データを無線で受信する受信設備を前記観測エリア内または前記観測エリア外に配置し、
前記複数の観測用空中浮遊体にそれぞれ搭載された複数の無線通信装置間に通信ネットワークを構築し、
前記通信ネットワーク中にある1つの前記無線通信装置と前記受信設備との間で通信を行って、前記複数の観測用空中浮遊体にそれぞれ搭載された複数の前記撮影装置により得た撮影データを前記通信ネットワークを利用して収集することを特徴とする地上状況観測方法。
【請求項2】
前記撮影装置は、複数の撮像素子と、前記複数の撮像素子に対応する複数のレンズと、前記複数の撮像素子の出力信号を処理する信号処理回路とを備えており、
前記撮影装置は、前記複数の撮像素子を用いて予め定めた広さの領域を撮影することができるように構成されている請求項1に記載の地上状況観測方法。
【請求項3】
前記無線通信装置は微弱電波で無線通信を行うように構成されており、
隣り合う二つの前記観測用空中浮遊体間の距離を、前記微弱電波により通信が可能な距離と定め、
前記受信設備と前記通信ネットワーク中の前記1つの無線通信装置との間の距離が、前記微弱電波により通信が可能な距離になるように前記受信設備の位置を定めることを特徴とする請求項1に記載の地上状況観測方法。
【請求項4】
前記観測用空中浮遊体が、地上にある錘にケーブルを介して係留された気球である請求項1,2または3に記載の地上状況観測方法。
【請求項5】
前記錘は、前記気球を膨らませる気体が充填されたボンベからなり、前記ケーブルは前記ボンベから前記気球に前記気体を送るパイプを含んだ複合ケーブルからなり、
膨らませない状態の前記気球と、前記ボンベと、前記気球と前記ボンベとを連結する前記複合ケーブルとが組み合わされて未設置観測装置が構成されていることを特徴とする請求項4に記載の地上状況観測方法。
【請求項6】
前記錘は、前記気球を膨らませる気体が充填されたボンベからなり、前記ケーブルは前記ボンベと前記気球とを接続する接続ケーブルからなり、
前記ボンベと膨らませない状態の前記気球とは、気体供給用コネクタで接続されており、
前記気体供給用コネクタは、前記ボンベから前記気球に前記気体を供給する前は前記気球と前記ボンベとを機械的に連結し、前記ボンベから前記気球に前記気体を供給する際には、前記ボンベから前記気球に前記気体の供給を可能にし、前記気球の内圧が予め定めた圧力以上になると前記気球から前記気体が抜け出るのを阻止した状態で、前記気球から前記ボンベを切り離すことができるように構成されており、
前記気球と前記ボンベと前記接続ケーブルと前記コネクタとを組み合わせて未設置観測装置が構成されていることを特徴とする請求項4に記載の地上状況観察方法。
【請求項7】
ヘリコプターや飛行機等の空中移動機に複数の前記未設置観測装置を載せ、前記ボンベから前記気球に前記気体を供給する状態にした前記複数の未設置観測装置を、前記観測エリアの上空から、前記ケーブルが延びるように前記観測エリアに順次投入して、前記複数の観測用空中浮遊体を前記観測エリアの上空に浮遊させることを特徴とする請求項5または6に記載の地上状況観測方法。
【請求項8】
前記撮影装置、前記無線通信装置及びこれら装置の電源を含む観測設備が、400g以下の重量を有しており、
前記気球は、前記ケーブルが延びた状態で前記観測設備を前記空中に浮遊させることができる浮力を備えている請求項4に記載の地上状況観測方法。
【請求項9】
前記観測設備中で使用される演算装置は、書き換え可能なゲートアレイによって構成されている請求項8に記載の地上状況観測方法。
【請求項10】
前記錘は蓄電装置または発電装置を備えており、
前記ケーブルが、前記撮影装置及び前記無線通信装置を含む観測設備に前記蓄電装置または発電装置から電力を供給する電力供給線を含んだ複合ケーブルである請求項4に記載の地上状況観測方法。
【請求項11】
前記観測用空中浮遊体が、移動制御可能な飛行船からなる請求項1に記載の地上状況観測方法。
【請求項12】
複数の前記飛行船によって一時に観測できるエリアの広さが、前記観測エリアの広さよりも狭いものであり、
前記観測エリアの上空を複数の前記飛行船を周回させて、前記観測エリア全体を観測することを特徴とする請求項11に記載の地上状況観測方法。
【請求項13】
地上の観測エリアの一部を空中から撮影することができる撮影装置と、前記撮影装置により得た撮影データを無線通信により伝送する機能を有する無線通信装置とを搭載し、前記観測エリア全域をカバーするように分散して配置された複数の観測用空中浮遊体と、
前記複数の観測用空中浮遊体にそれぞれ搭載された前記撮影装置で撮影した撮影データを無線で受信するように前記観測エリア内または前記観測エリア外に配置された受信設備と、
前記複数の観測用空中浮遊体にそれぞれ搭載された複数の無線通信装置間に構築された通信ネットワークとから構成され、
前記通信ネットワーク中にある1つの前記無線通信装置と前記受信設備との間の通信により、前記複数の観測用空中浮遊体にそれぞれ搭載された複数の前記撮影装置により得た撮影データが前記通信ネットワークを介して前記受信設備に収集されることを特徴とする地上状況観測システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−251640(P2007−251640A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−72948(P2006−72948)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】