説明

地下外壁構造

【課題】複数の鋼矢板による地下壁壁面が部分的に連続化された経済的な地下壁構造を提供すること。
【解決手段】地中に打ち込まれる複数枚の鋼矢板からなる壁本体を備え、当該壁本体が、深度方向に間隔をおいて水平方向に備えられる水平部材と、その各水平部材に一体に接続され鉛直方向に備えられる複数の鉛直部材とによって構成される骨組構造と接合され、
前記壁本体の壁面と前記骨組構造とによって地下空間を形成する鋼矢板地下壁構造であって、前記鋼矢板5のうち複数枚の隣り合う鋼矢板の継手部4同士が、前記水平部材間における深度方向の間の領域で剛に連結されて一体化した鋼矢板連続壁ユニット8を形成しており、前記骨組構造18と少なくとも2つ以上の前記鋼矢板連続壁ユニット8によって形成されている地下壁構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下外壁構造に関し、詳しくは、複数の鋼矢板からなる壁本体を備えた地下外壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物などの地下外壁としては、鉄筋コンクリート造の地下外壁(以下、RC壁とも言う)が多用されており、このようなRC壁を構築する手順としては、親杭横矢板やソイルセメント壁等の地中連続壁による仮設土留めを用いて地下掘削を行い、その後、掘削した仮設土留めの内側にRC壁を構築する工法が一般的である。このような地下外壁の施工方法において、仮設土留め材は、地下外壁の構造体として見込まれておらず、RC壁の構築後に引き抜かれるかあるいは埋め殺されており、いずれにしても施工コスト増加ならびに工期の長期化につながってしまうという不都合がある。
【0003】
このような不都合を改善するために、芯材や鋼矢板からなる仮設土留め材と、RC壁とを一体化した合成構造によって、仮設土留め材を地下外壁の構造体として利用することを図った技術が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に記載された従来の合成構造の地下外壁において、仮設土留めを構成する芯材や鋼矢板は、面外方向に作用する荷重に対してRC壁の補強材として抵抗することが可能であるが、地震時の面内荷重に対して抵抗することはできない。このため、地震時の面内荷重に対して抵抗するためにはRC壁が必須であり、従来の地下外壁構造としては、仮設土留めを用いて地下掘削を行った後にRC壁を構築することから、大幅な施工コスト削減や工期短縮を期待することができない。
一方、大幅なコスト削減や工期短縮を行うためには、従来の地下外壁構造においてRC壁を構築せずに、鋼矢板単独で地下外壁を構成することも考えられるが、この場合には、鋼矢板同士の連結部(継手部)が長手方向(深度方向)に拘束されていないため、地震時の面内荷重に対してせん断力を十分伝達できず、鋼矢板単独で構成した地下外壁を耐震壁として利用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−212944号公報
【特許文献2】特開2002−13134号公報
【特許文献3】国際出願番号PCT/JP2010/000737
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の実施工への適用が困難であるという課題を解決した改善された地下外壁構造として、例えば、図13〜図15に示すような地下外壁構造の技術がある(例えば、特許文献3参照)。この地下外壁構造は、地中に打ち込まれる複数の鋼矢板5からなる壁本体21を備え、当該壁本体21の前面側の空間と背面側の空間または地盤とを区画する地下外壁構造であって、前記鋼矢板5は、その側端縁に継手部4を有して形成され、隣り合う鋼矢板5が互いの継手部4同士の嵌合によって連結されるとともに、当該継手部4を跨ぐ前面側には、前記隣り合う鋼矢板5の両方に接合される連結部材7が当該鋼矢板の長手方向に沿って設けられている地下外壁構造とされている。
【0007】
前記従来の地下外壁構造は、複数の鋼矢板5を打設し、開削した後に、鋼矢板について、壁面方向(面内水平方向)に隣り合う鋼矢板5の継手部4相互を連結部材を介して溶接により固定することで、鋼矢板の継手のせん断変形を拘束し、鋼矢板の壁本体の面内せん断抵抗力を向上させている。
前記従来の場合は、壁面方向に隣り合う鋼矢板の継手部4相互を、連結部材を介して溶接により固定するので、溶接箇所が多くなると共に連結部材7も必要になることから、地下構造物を構築する場合に、コストが高くなるという問題があった。
また、複数の鋼矢板5を連結固定して壁本体21を構築した地下構造物では、鋼矢板壁に建築物の地震荷重を負担させようとした場合、鋼矢板壁面内にせん断力が作用するようになるが、前記改善された技術の場合には、鋼矢板壁の面内せん断抵抗機構が明らかにされていないため、地下壁壁面を一体に連続化し、しかも全鋼矢板を溶接により一体化しており、コストが高くなり経済的でないという問題がある。
したがって、理論的に最大限のせん断抵抗力を発揮するのに必要な最低限の連続一体化枚数が明らかにできれば、その溶接を省いた部分だけ、溶接コストを低減でき、経済的な地下壁構造とすることができる。
【0008】
また、前記の場合に、鋼矢板壁の面内せん断抵抗機構と破壊モードの関係を明確にし、壁高に応じて破壊モードを制御した適切な連続枚数が明確になると、必要最低限の連続壁化とすることができ、地下壁壁面が全面ではなく部分的に連続化された経済的な鋼矢板地下壁構造とすることができる。
本発明は、前記の課題を解消することができ、複数の鋼矢板による地下壁壁面が全面ではなく部分的に連続化された経済的な地下壁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を有利に解決するために、第1発明の鋼矢板地下壁構造では、地中に打ち込まれる複数枚の鋼矢板からなる壁本体を備え、当該壁本体が、深度方向に間隔をおいて水平方向に備えられる水平部材と、その各水平部材に一体に接続され鉛直方向に備えられる複数の鉛直部材とによって構成される骨組構造と接合され、
前記壁本体の壁面と前記骨組構造とによって地下空間を形成する鋼矢板地下壁構造であって、
前記鋼矢板のうち複数枚の隣り合う鋼矢板の継手部同士が、前記上下の水平部材間における深度方向の間の領域で剛に連結されて一体化した鋼矢板連続壁ユニットを形成しており、前記骨組構造と少なくとも2つ以上の前記鋼矢板連続壁ユニットによって形成されていることを特徴とする。
第2発明では、第1発明の鋼矢板地下壁構造において、前記鋼矢板連続壁ユニットは、前記鋼矢板連続壁ユニット本体の壁面方向(面内水平方向の意)に直交する軸回りの断面係数Zが、下記式(1)を満たすように鋼矢板の連続一体化枚数が定められていることを特徴とする。
Z>η・η2・AH・L/2√3 ・・・・(1)
但し、ηは鋼矢板の形状を考慮した係数で0.0超〜1.0以下の正の数、η2は鋼矢板の継手を考慮した係数、AHは鋼矢板連続壁ユニットの水平断面積(mm2)、Lは鋼矢板壁の壁高寸法(mm)である。
第3発明では、第1発明または第2発明の地下壁構造において、
前記鋼矢板は、第1フランジと、この第1フランジの両側端縁にそれぞれ一体に接続するウェブと、前記各ウェブの先端縁からそれぞれ前記第1フランジと平行かつ外方に延びる第2フランジと、前記各第2フランジの先端縁にそれぞれ設けられる継手部とを有した断面ハット形の鋼矢板であり、前記第1フランジと第2フランジとは、前記第1フランジが地下空間寄りの前面側に第2フランジが奥部側に位置するように配置され、隣り合う断面ハット形の鋼矢板における第2フランジとこれに一体に接続されたウェブとにより形成された凹部に連結部材が配置されていると共に、前記各第2フランジに前記連結部材が接合されていることを特徴とする。
第4発明では、第1発明又は第2発明の地下壁構造において、
前記鋼矢板は、第1フランジと、この第1フランジの両側端縁にそれぞれ一体に接続するウェブと、前記各ウェブの先端縁からそれぞれ前記第1フランジと平行かつ外方に延びる第2フランジと、前記各第2フランジの先端縁にそれぞれ設けられる継手部とを有した断面ハット形の鋼矢板であり、前記第1フランジと第2フランジとは、前記第2フランジが地下空間寄りの前面側に第1フランジが奥部側に位置するように配置され、隣り合う断面ハット形の鋼矢板における第2フランジとこれに一体に接続されたウェブとにより形成された凸部に連結部材が配置されていると共に、隣り合う第2フランジに前記連結部材が接合されていることを特徴とする。
第5発明では、第1発明又は第2発明の地下壁構造において、
前記鋼矢板は、フランジの両側端縁にそれぞれ一体に接続するウェブと、各ウェブにそれぞれ設けられた継手部とを有した断面U字状のU形鋼矢板であり、そのU形鋼矢板を第1及び第2鋼矢板として用いると共に、前記フランジが奥側に位置する第1鋼矢板と、前記フランジが前面側に位置する第2鋼矢板とが交互に配置され、隣り合う第1鋼矢板のウェブと第2鋼矢板のウェブに渡って連結部材が配置されて接合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によると、地中に打ち込まれる複数枚の鋼矢板からなる壁本体を備え、当該壁本体が、深度方向に間隔をおいて水平方向に備えられる水平部材と、その各水平部材に一体に接続され鉛直方向に備えられる複数の鉛直部材とによって構成される骨組構造と接合され、
当該壁本体の壁面と前記骨組構造とによって地下空間を形成する鋼矢板地下壁構造であって、前記鋼矢板のうち複数枚の隣り合う鋼矢板の継手部同士が、前記水平部材間における深度方向の間の領域で剛に連結されて一体化した鋼矢板連続壁ユニットを形成しており、前記骨組構造と少なくとも2つ以上の前記鋼矢板連続壁ユニットによって形成されていることを特徴とする地下壁構造であるので、当該鋼矢板地下壁構造には、壁面方向に隣り合う鋼矢板継手部4相互を、連結部材を介して溶接により固定していない箇所が存在するため、従来構造よりも溶接箇所が少なくなると共に連結部材7の必要な数も少なくなることから、地下構造物を構築する場合にコストが安くなる効果がある。
第2発明によると、第1発明の鋼矢板地下壁構造において、ηは鋼矢板の形状を考慮した係数で0.0超〜1.0以下の正の数、η2は鋼矢板の継手を考慮した係数、AHは鋼矢板連続壁ユニットの水平断面積(mm2)、Lは鋼矢板壁の壁高寸法(mm)とした場合、前記鋼矢板連続壁ユニットは、前記鋼矢板連続壁ユニット本体の壁面方向(面内水平方向)に直行する軸回りの断面係数Zが、Z>η・η2・AH・L/2√3を満たすように鋼矢板の連続一体化枚数が定められており、理論的に最大限のせん断抵抗力を発揮するのに必要な最低限の連続一体化枚数が明らかにされているので、隣り合う鋼矢板の溶接を省いた部分だけ、溶接コストを低減でき、経済的な地下壁構造とすることができる等の効果が得られる。
第3発明によると、第1発明または第2発明の地下壁構造において、前記鋼矢板は、第1フランジと、この第1フランジの両側端縁にそれぞれ一体に接続するウェブと、前記各ウェブの先端縁からそれぞれ前記第1フランジと平行かつ外方に延びる第2フランジと、前記各第2フランジの先端縁にそれぞれ設けられる継手部とを有した断面ハット形の鋼矢板であり、前記第1フランジと第2フランジとは、前記第1フランジが地下空間寄りの前面側に第2フランジが奥部側に位置するように配置され、隣り合う断面ハット形の鋼矢板における第2フランジとこれに一体に接続されたウェブとにより形成された凹部に連結部材が配置されていると共に、前記各第2フランジに前記連結部材が接合されているので、連結部材を隣り合う鋼矢板における継手相互を噛み合わせた各第2フランジと各ウェブとにより形成される凹部に連結部材を収容されて配置することができると共に、前記の第1、2発明と同様な効果を得ることができる等の効果が得られる。
また第4発明、第5発明であっても前記の第1、2発明と同様な効果を得ることができる等の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態の地下壁構造を備えた地下構造物を示す概略縦断正面図である。
【図2】図1に示す地下構造物の一部拡大縦断正面図である。
【図3】図2に示す地下構造の横断平面図である。
【図4】図1に示す地下鋼造物の拡大縦断側面図である。
【図5】本発明の他の実施形態の地下壁構造を備えた地下構造物を示す概略縦断正面図である。
【図6】本発明の他の実施形態の地下壁構造を備えた地下構造物を示す概略縦断正面図である。
【図7】本発明の他の実施形態の地下壁構造の形態を示し、(a)は横断平面図、(b)は縦断側面図である。
【図8】(a)〜(c)は他の形態の連結部材を用いて、隣合う継手相互を連結一体化した形態を示す横断平面図である。
【図9】(a)(b)は断面ハット形の鋼矢板の形態の2例を示す平面図である。
【図10】連続壁とした矢板枚数を横軸に、単位鋼材あたりの面内せん断抵抗力を縦軸にして、所定の鋼矢板(断面ハット形の鋼矢板)について、純せん断降伏荷重に達するまで一体連続化した矢板枚数を調べた結果を示すグラフである。
【図11】図10を得るために用いた鋼矢板について、1枚壁、2枚連続一体化した2枚壁、3枚連続一体化した3枚壁、4枚枚連続一体化した4枚壁、6枚一体化した6枚壁について、水平荷重との関係について得られた線図である。
【図12】鋼矢板を連続一体化させた連続壁について、地震荷重が作用した場合の説明図である。
【図13】改善された従来の地下壁構造を示す概略縦断正面図である。
【図14】図13に示す地下構造物における鋼矢板壁の部分の拡大縦断正面図である。
【図15】図14に示す地下構造物における鋼矢板壁の部分の横断平面図である。
【図16】波形鋼板についてせん断力が作用した場合の説明図である。
【図17】(a)は断面ハット形の鋼矢板に関して、せん断力が作用した場合にせん断抵抗に寄与する部分の説明図、(b)は断面ハット形の鋼矢板に関しての鋼矢板の形状を考慮した係数に関連した各部の寸法を示す説明図である。
【図18】継手相互を直接又は連結部材を介して連結一体化した連続鋼矢板壁を示す横断平面図で、図12の横断平面にも相当している。
【図19】鋼矢板を連続一体化した2枚壁又は3枚壁について壁高が2.0m、4.0m、8.0mのものを対象として、水平力Pを載荷したときの剛性計算値Aと剛性解析値Bの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0013】
本発明では、建築物に作用する地震荷重を鋼矢板単独で負担させるために、鋼矢板壁の面内せん断抵抗力を向上させる目的で、継手のせん断変形を拘束するために地下壁壁面を全面ではなく部分的に連続化した地下壁構造である。
【0014】
鋼矢板1枚の壁よりも鋼矢板複数枚の連続壁とし、鋼矢板の継手相互を結合した場合のほうが、鋼矢板1枚あたりの面内せん断抵抗力τを、向上させることができるが、どの程度高めることができるか、具体的な鋼矢板を用いて数値解析により調べた。
【0015】
先ず、数値解析に用いた鋼矢板は、図9に示すように、第1フランジ1と、この第1フランジ1の両側端縁にそれぞれ一体に接続するウェブ2と、前記各ウェブ2の先端縁からそれぞれ前記第1フランジ1と平行かつ外方に延びる第2フランジ3と、前記各第2フランジ3の先端縁にそれぞれ設けられる継手部4とを有した断面ハット形の鋼矢板5である。このような鋼矢板は熱間圧延加工により製造される。
図9(a)に示す断面ハット形の鋼矢板5の主な寸法諸元は、有効幅900mm、有効高さ230mm、厚さ10.8mm、鋼矢板1枚当りの断面積110.0cm2,断面二次モーメント9430cm4,断面係数812cm3,単位質量86.4kg/m、壁幅1m当りの断面積122.2cm2/m,断面二次モーメント10,500cm4/m,断面係数902cm3/m,単位質量96.0kg/m、である。
また、図9(b)に示す断面ハット形の鋼矢板5の主な諸元は、有効幅900mm、有効高さ300mm、厚さ13.2mm、鋼矢板1枚当りの断面積144.4cm2,断面二次モーメント22,000cm4,断面係数1,450cm3,単位質量113kg/m、壁幅1m当りの断面積160.4cm2/m,断面二次モーメント24,400cm4/m,断面係数1,610cm3/m,単位質量126kg/m、である。
【0016】
そして、図1〜図3に示すように、また、図1の一部を概略図として示す図12に示すように、図9(a)に示す鋼矢板5を用い、隣り合う鋼矢板5の継手相互に渡って、適宜連結部材7を配置すると共に、溶接等により一体化した鋼矢板連続壁ユニット8の場合で、順次鋼矢板の枚数を増やし、壁高さ方向の両端側が水平方向の床あるいは梁により剛に結合されている形態の鋼矢板連続壁ユニット8の性能と、図9(a)に示すような1枚の鋼矢板を地中に打ち込んで、壁高さの両端側が水平方向の床あるいは梁等の水平部材及び上下方向の鉛直部材により剛に結合されている形態の鋼矢板壁の性能と、について調べた。
いずれの壁体の場合も、壁高さ方向の両側の固定方法としては、例えば、図4又は図7(b)に示すように、鋼矢板5側から連結用鉄筋16を張り出し、水平部材としての鉄筋コンクリート製床11と一体化した場合で、前記鉄筋コンクリート製床11の左右方向の両端部は、鉛直部材としての上下方向の鉄筋コンクリート製縦壁12により一体化されている場合である。前記各鉛直部材は鋼矢板壁に固定され、その固定手段としては、例えば前記のような連結用鉄筋16を上下方向に多数設けてこれを介して固定される。
前記のように、鉄筋コンクリート製床11あるいは梁等の水平部材を設けると共にその水平部材に一体に剛に連結された鉄筋コンクリート製縦壁12等の鉛直部材を設けることで、鋼矢板壁6あるいは鋼矢板連続壁ユニット8は、面外方向の曲げ変形あるいは変位が防止されている構造になっていると共に、上下方向の移動が拘束される構造とされている。
【0017】
図12の概略説明図に示すように、そのような鋼矢板連続壁本体21に地震力等により水平荷重Pが作用した場合について、鋼矢板の水平変位(mm)と、単位鋼材当たりのせん断抵抗力(kN)について、図11に示すような数値解析結果のデータを得た。
【0018】
図11に示すように、前記のような鋼矢板5が一枚の場合よりも、継手相互を噛み合わせると共に継手相互に渡って連結部材7を配置すると共に溶接Wにより一体に剛結合した、鋼矢板5が2枚の鋼矢板連続壁ユニット8、鋼矢板5が3枚の鋼矢板連続壁ユニット8、鋼矢板5が5枚の鋼矢板連続壁ユニット8、鋼矢板5が6枚の鋼矢板連続壁ユニット8と、水平荷重に対する単位鋼材当たりのせん断抵抗力が、1枚の鋼矢板の場合に比べて、格段に高くなることがわかる。しかし、鋼矢板枚数を増やし一体化した連続壁ユニットとしても、耐水平荷重の上昇がほとんど見込めず、頭打ちになることがわかる。
【0019】
これは、図10に、連続壁とした矢板枚数を横軸に、単位鋼材あたりの面内せん断抵抗力τを縦軸にして、所定の鋼矢板(ハット型鋼矢板)について、純せん断降伏荷重P1に達するまで一体連続化した矢板枚数を調べた結果を示すグラフに示すように、単位鋼材あたりの面内せん断抵抗力τ1は純せん断降伏荷重P1以下の範囲であれば、連続化枚数を増やすにつれて高くなるが、純せん断降伏荷重P1に達した後においては、連続壁体は塑性変形してしまうため、それ以上の枚数を連続化しても鋼矢板の連続一体化により、単位鋼材あたりの面内せん断抵抗力τを高める効果がほとんどないことを示している。
【0020】
前記のことから、鋼矢板壁の場合、溶接連続化による加工費は連続壁枚数に比例して増加する一方で、単位鋼材当たりの面内せん断抵抗力(単位壁長あるいは一枚当たりのせん断抵抗力)は連続枚数に比例して増加する範囲(図10及び図11の左側直線状に上昇する部分)と増加しない範囲(図10及び図11の右側水平以降部分)があり、経済合理的に連続枚数を決定することに、本発明者は着目した。
そして、前記の各種の連続一体化した鋼矢板連続壁について、FEM解析(数値解析)により詳細に分析したところ、鋼矢板連続壁には、曲げ応力とせん断応力が発生し、その発生割合が連続枚数により変化するために、鋼矢板連続壁における水平方向の端部でかつ壁高方向の端部において、曲げ破壊が支配的になる場合と、せん断破壊が支配的になる場合とがあることが確認されるとともに、せん断破壊型となる連続枚数のうち、連続枚数が少ないものほど経済的であることを明らかにした。
前記の壁高方向の端部A、Bにおいて発生する曲げ応力をσbとし、鋼矢板に用いられている鋼材の降伏応力をσyとした場合に、鋼矢板が曲げ降伏しない条件(σb<σy)を満たし、かつ鋼矢板連続壁ユニットにおける前記両端部A,B部分に発生するせん断力をτとし、母材のせん断降伏応力をτyとした場合に、せん断降伏する条件、すなわちτ≧τyを満たす範囲である。
鋼矢板5の前記両端部A,B部分に発生する曲げ応力σbは、水平荷重をPとし、壁高をLとし、鋼矢板型式及び鋼矢板連続枚数による断面係数Z(鋼矢板壁6の壁面方向に直行する軸c周りの鋼矢板連続枚数による断面係数)とした場合に、これらに依存し、σb=PL/2Z で表すことができる。

図12に概略図を示すように、床11又は梁等により両端が剛に固定された、両端固定の鋼矢板5の壁高さ(杭長)Lとし、鋼矢板壁本体21の面内方向の水平荷重Pが作用した場合に、鋼矢板5の両端固定部A,Bでは、PL/2の曲げモーメントM1が作用する。なお、鋼矢板壁6には、矢印Xのせん断抵抗力が作用し、曲げモーメントMが作用している。
また、鋼矢板連続壁ユニットにおける前記両端部A,B部分に発生するせん断応力τは、水平荷重をP、鋼矢板の形状を考慮した係数をη、鋼矢板の継手を考慮した係数をη2、AHを鋼矢板連続壁ユニットの水平断面積とした場合、これらに依存し、
τ=(P/η/η2)/AH で表すことができる。
【0021】
そこで、水平荷重Pが作用した場合の鋼矢板5のせん断抵抗機構のうち、既存の知見では知られていない、鋼矢板5の形状を考慮した係数ηと、鋼矢板5の継手を考慮した係数をη2及び鋼矢板5の水平抵抗に寄与する断面積AHを調査するFEM解析を実施するとともに、類似の形状である波形鋼板のせん断抵抗機構との比較を行った。
【0022】
ここで、前記の波形鋼板のせん断抵抗機構について、図16を参照して説明する。
図16(b)は図16(a)のフランジ部1とウェブ2の部分を取り出して示す図、図16(c)は図16(b)の投影状態の側面図で、図16(d)は図cの状態からせん断変形した状態を示す図、図16(e)(f)は実際の変形状態を示す図である。
波形鋼板24における第1フランジ1の有効幅寸法をaとし、ウェブの有効幅寸法をbとし、ウェブ2の水平投影幅寸法をcとし、ウェブ2の高さ寸法をhとした場合、矢印で示す荷重Pが作用した場合に、矢印方向に関する波形鋼板24のせん断剛性KSは、KS=GW・AHで表されることが知られている。
ここで、Gwは波形鋼板の形状を考慮したせん断弾性係数で、 Gw=η・GO=η・EO/2/(1+ν)、で表されることが知られている。前記式中、ηは形状を考慮した係数で、η=(a+c)/(a+b)と導出できることも知られている。前記のEOは鋼材のヤング係数で、νはポアソン比で、AHは波形鋼板の水平断面積である。
【0023】
前記の波形鋼板24に関するせん断剛性の知見を踏まえて、鋼矢板5について、鋼矢板5が一枚の場合と、複数の鋼矢板5が連続一体化された場合ついて検討すると、次のようなことが言える。
【0024】
(鋼矢板一枚壁の場合)
図17(a)(b)を参照して、1枚の鋼矢板5を地盤に打設して矢板壁とした場合に、矢印で示すような水平なせん断力τが作用した場合に、継手部4付近はフリー(自由端)になっているため、せん断抵抗に寄与しないが、第1フランジ1とウェブ2と第2フランジ3の部分は、せん断抵抗に寄与する部分となる。したがって、鋼矢板一枚壁の場合は、波形鋼板と抵抗機構がほぼ同じになるため、波形鋼板24のη、せん断に寄与する断面積の評価と同じになり、鋼矢板一枚壁の場合の鋼矢板5の形状を考慮した係数ηは、η=(a+c)/(a+b)になり、η2は1となる(η・η2が波形鋼板と同じ値の(a+c)/(a+b)となる)。
また、鋼矢板5では、第1フランジ1の有効幅aが、前記波形鋼板24のaに相当し、ウェブ3の有効幅bが、前記波形鋼板24のウェブ幅bに相当し、ウェブ2の水平投影幅寸法cが、前記波形鋼板24の水平投影幅寸法cに相当する。
【0025】
(鋼矢板連続壁の場合)
図18に示すように、継手部分が相互に剛結されている連続鋼矢板壁6の場合も、水平方向の両端部においては、継手部4はフリーになっているが、連続鋼矢板壁6の場合は、継手部4の部分が相互に、直接溶接により又は後記の実施形態のように連結部材7を介して剛結されているため、継手部7の部分にも継手部7の部分を跨ぐようにせん断力が発生し、せん断抵抗するので、前記の波形鋼板24のせん断抵抗機構とは異なるものと想定される。
そこで、連続鋼矢板壁6のせん断抵抗機構をFEM解析で分析し、図19に示す結果を得た。図19は、鋼矢板が二枚連続一体化した2枚壁および三枚連続一体化した3枚壁について壁高が2.0m、4.0m、8.0mのものを対象として、水平力Pを載荷したときの剛性計算値Aと剛性解析値Bの関係を示している。 剛性計算値Aは、P/δ=1/(L3/12EOI+L/GAH)の右辺により計算している。
ここで、Pは水平力、δは水平変位、Lは壁高、EOは鋼材のヤング係数、Iは鋼矢板連続壁ユニットの壁面方向に直行する軸回りの断面二次モーメントである。Gは鋼矢板連続壁ユニットの形状および継手を考慮したせん断弾性係数で、G=η・η2・Goで表される。ηは鋼矢板の形状を考慮した係数でη=(a+c)/(a+b)であり、η2は鋼矢板の継手を考慮した係数である。GoはEO/2/(1+ν)で表され、前記のEOは鋼材のヤング係数、νはポアソン比であり、AHは波形鋼板の水平断面積である。剛性解析値Bは数値解析結果の初期剛性(変位の初期から比例関係内にある水平力―水平変位関係の傾き)の値である。
ここでは、η2の値について1.2とすることで、剛性計算値AはFEM解析結果である剛性解析値Bとほぼ一致した。
以上より、鋼矢板連続壁ユニットの形状および継手を考慮したせん断弾性係数Gは、G=η・η2・G0=1.2×(a+c)/(a+b)×G0と表すことができることが確認できた。
前記の継手を考慮した係数η2は、継手形状(継手の平面形状、継手の平面面積)により変わる。継手の平面面積が大きくなると、η2は大きくなるため、その値はハット形鋼矢板の場合の1.2に限らないため、鋼矢板の種類が変わる場合は、同様な数値解析または実験により確認した値を用いればよい。
【0026】
前記の通り、鋼矢板5の降伏応力σyよりも、前記の鋼矢板5の両端固定部A,Bの曲げ応力σb(σb=PL/2Z)が小さくなっていることが必要であることから、下記式(1)を満たす必要がある。
PL/2Z<σy ・・・・・・(1)
また、鋼矢板壁6を純せん断降伏形破壊とする必要があることから、鋼矢板連結部のせん断降伏耐力をτyとし、鋼矢板5の形状を考慮した係数ηとし、鋼矢板5の継手を考慮した係数をη2とし、鋼矢板壁6の水平断面積をAHとした場合に、鋼矢板連結部のせん断降伏耐力τyが、水平力Pが作用した場合の単位水平断面積当りのせん断力で鋼矢板の形状及び継手を考慮したせん断力よりも小さくなるように、下記式(2)を満足している必要がある。
P/(η・η2・AH)≧τy=σy/√3・・・・・(2)
【0027】
したがって、鋼矢板壁をせん断降伏形破壊とするためには、前記式(1)を満たすと共に、前記式(2)をも満たす必要がある。これにより曲げ降伏形破壊からせん断降伏型破壊になっている鋼矢板壁とすることができる。
【0028】
前記式(1)と式(2)、すなわち、
PL/2Z<σyとP/(η・η2・AH)≧τy=σy/√3 から、σyを消去することより下記式(3)を得ることができる。
(PL/2Z)<√3P/(η・η2・AH)・・・(3)
であり、この式を前記の軸C回りの連続一体化された鋼矢板壁6の断面係数ZについてPを消去して整理すると、次式(4)が得られる。
Z>η・η2・AH・L/2√3・・・・ (4)
【0029】
前記の式(4)は、複数の鋼矢板を連続一体化した場合に、鋼矢板壁6の壁面方向に直行する軸回りの鋼矢板壁6の断面係数Zが、ηη2HL/2√3を越えるように鋼矢板の連続枚数とすることで、せん断降伏型破壊を期待できる鋼矢板連続壁であることを意味している。
そして、前記の式(4)は、前記の第1フランジ1とその両側にウェブ2を備えた鋼矢板、例えば、前記の断面ハット形の鋼矢板5、あるいは断面U形の鋼矢板5に適用可能な一般式である。
【0030】
前記のηについて、検討すると、通常、鋼矢板のせん断耐力τは、τ=P・(1/η/η2)/AHであらわすことができる。
但し、ηは断面ハット形の鋼矢板5の形状を考慮した係数ηであり、鋼矢板5の継手を考慮した係数をη2とし、AHは、鋼矢板の水平投影断面積を連続化枚数分だけ合計した面積である。
前記のような第1フランジ1とその両側のウェブ2を備えた形態の鋼矢板では、断面ハット形の鋼矢板5一枚壁のη・η2は、η・η2=(a+c)/(a+b)となり、前記の断面ハット形の鋼矢板5を複数連続一体化した鋼矢板連続壁の場合のη・η2は、η・η2=1.2・(a+c)/(a+b)であらわすことができることをFEM解析により見出した。
前記のaは、第1フランジの幅寸法で、bはウェブの幅寸法で、cはウェブ2の水平投影幅寸法で、また、図16において、hは、ウェブ2の高さ寸法である。
図16(a)に示すように、第1フランジ1の両側にウェブ2を有する場合に、矢印方向からせん断力Pが作用した場合に、(a)に垂直方法の投影状態の変形は、(c)から(d)になり、実際の変形は、(e)から(f)に示す状態になっている。
【0031】
なお、前記の断面ハット形の鋼矢板5の継手を考慮した係数η2は、図9(a)に示す断面ハット形の鋼矢板5による連続壁6における継手連結した場合の係数であり、図9(b)に示すように、断面ハット形の鋼矢板5の継手形状(継手の平面形状、継手の平面面積)が異なる場合には、前記の鋼矢板5の継手を考慮した係数η2は、また、別個の数値になる。また、連結部材7の形状によっても変わり、別個の数値となる。
【0032】
また、図10に示す結果から、図9(a)に示す形態の断面ハット形の鋼矢板5では、2枚以上4枚以下、好ましくは4枚の断面ハット形の鋼矢板5を連続一体化した鋼矢板連続壁ユニット8とし、隣り合う鋼矢板連続壁ユニット8相互は、単に継手部4相互をかみ合わせた形態の地下壁構造とすると、鋼矢板連続壁ユニット8間における溶接が必要なくなることから、溶接箇所を少なくすることができる分、経済的な地下壁構造になる。
そして、本発明の地下壁構造では、このような隣り合う鋼矢板連続壁ユニット8の継手部4相互をかみ合わせた形態の地下壁構造の場合でも、前記のように、鉄筋コンクリート製床11あるいは梁等の水平部材を設けると共にその水平部材及び鋼矢板連続壁ユニット8に一体に剛に連結された鉄筋コンクリート製縦壁12等の鉛直部材を設けて、隣り合う鋼矢板連続壁ユニット8は、面外方向の曲げ変形あるいは変位が防止されている構造になっていると共に、深度方向の移動が拘束される構造とされていることが必要である。
また、検討した結果、図9(b)に示す断面性能がより高い、断面ハット形の鋼矢板では、2枚以上8枚以下、好ましくは、3枚の断面ハット形の鋼矢板5を連続一体化した鋼矢板連続壁ユニット8とし、隣り合う鋼矢板連続壁ユニット8相互は、単に継手部4相互をかみ合わせた形態の地下壁構造とすると、溶接箇所を少なくすることができる分、経済的な地下壁構造になる。
同様に、断面U字溝形のU形鋼矢板では、少なくとも3枚、例えば3枚以上8枚以下、好ましくは、3枚の断面ハット形の鋼矢板5を連続一体化した鋼矢板連続壁ユニット8とし、隣り合う鋼矢板連続壁ユニット8相互は、単に継手部4相互をかみ合わせた形態の地下壁構造とすると溶接箇所を少なくすることができる分、経済的な地下壁構造の地下構造物になる。
【0033】
そして、前記のような鋼矢板壁ユニット8では、鋼矢板壁の面内せん断時の破壊モードは、せん断破壊と面内曲げ破壊が生じる可能性があり、壁高が短く、連続枚数が多いほど、鋼矢板壁はせん断降伏型の破壊が生じるようになる。
鋼矢板壁の単位鋼材当りの面内せん断抵抗力(単位壁長あるいは鋼矢板1枚当りのせん断抵抗力:kN)は、壁面方向に隣り合う継手相互を噛み合わせて一体化した鋼矢板連続壁では、鋼矢板の連続枚数を、所定枚数以上増やしても、純せん断降伏荷重P1を越えるとせん断降伏型破壊が生じるため、純せん断降伏荷重P1を越えない連続枚数にする必要があり、この範囲における最大連続化枚数による鋼矢板壁断面が、最大限有効にせん断力への抵抗に寄与していると言える。
また、前記の鋼矢板壁断面が最大限有効にせん断力への抵抗に寄与している以上の連続壁化は、抵抗荷重を増加する効果はないため、鋼矢板壁全面を連続壁化すると著しく不経済であるうえ、工期が長くなる。
【0034】
次に、図1〜図4を参照して、前記のような経済的な鋼矢板連続壁ユニット8の形態を複数ユニット備えた地下構造物15についてより具体的に説明する。
図1〜図4には、断面ハット形の鋼矢板5を複数枚、連続一体化した鋼矢板連続壁ユニット8を複数備えた地下壁構造が示されている。
図1は本発明の一実施形態の地下壁構造を備えた地下構造物を示す概略縦断正面図、図2は図1に示す地下構造物の拡大縦断正面図、図3は図2に示す地下構造の横断平面図、図4は図1に示す地下鋼造物の縦断側面図である。
【0035】
前記のような地下構造物15を構築する場合について簡単に説明すると、図1〜4において、鋼矢板5は、隣り合う断面ハット形の鋼矢板5の継手相互を噛み合わせて地盤14に打設され、地下空間を形成すべき側(図示の場合は手前側)が開削されて、適宜断面ハット形の鋼矢板5の表面の下地処理が施されて、所定の壁高さ間隔をおいて、上下に間隔をおいて上部連結用鉄筋16及び下部連結用鉄筋17が張り出すように設けられる。
また、前面側の隣り合う断面ハット形の鋼矢板5の継手部4に渡って、断面L形の連結部材7におけるコーナー部が手前側に凸となるように配置されていると共に、継手部4の上下方向に連続して配置されている。
前記のように、連結部材7を設けることにより、壁面方向に隣り合う断面ハット形の鋼矢板5相互は継手部4及び連結部材7を介して連結一体化されて、鋼矢板連続壁ユニット8を形成している。そして、本発明においては、鋼矢板連続壁ユニット8における壁面方向に直行する軸C回りの断面係数Zが、Z>η・η2・AH・L/2√3の式を満たすように鋼矢板の連続一体化枚数が定められている地下壁構造とされている。
【0036】
図示の形態では、2枚の断面ハット形の鋼矢板5を連結部材7により一体化した鋼矢板連続壁ユニット8としており、隣り合う鋼矢板連続壁ユニット8相互間は、鋼矢板連続壁ユニット8が継手部4相互を嵌合させたのみの状態の鋼矢板地下壁構造とされている。
そして、前記の鋼矢板地下壁構造を備えた地下構造物では、その上下では、上下方向に間隔をおいて水平方向に備えられる複数の水平部材としての鉄筋コンクリート製床11と左右方向では、これに一体に接続されると共に、左右方向に間隔をおいて鉛直方向に備えられる複数の鉛直部材としての鉄筋コンクリート製縦壁12とによって構成される骨組構造18と、前記の上部連結用鉄筋16及び下部連結用鉄筋17及びこれらに接続される床版用鉄筋並びにこれらを埋め込むコンクリート22により接合される。継手部4相互が噛み合わされた複数の鋼矢板連続壁ユニット8部分の鋼矢板地下壁本体24は、骨組構造18と接合して、地下空間19を形成するための鋼矢板地下壁構造とされている。
また、各鋼矢板連続壁ユニット8内においては、水平部材(鉄筋コンクリート製床11)間においては、前記上下の水平部材間における深度方向の間の領域で前記の連結部材7により、隣り合う断面ハット形の鋼矢板5相互は剛に連結されている。
そして、本発明の地下壁構造では、前記骨組構造18と少なくとも2枚の前記鋼矢板連続壁ユニット8によって形成されている地下壁構造とされている。
また、鋼矢板連続壁ユニット8を構成する鋼矢板5の連続枚数は、せん断破壊型となる連続枚数の範囲に収めればよく、そのうち、例えば、好ましくは2枚の連続枚数の鋼矢板で、あるいは3枚の連続枚数とすればよい。
【0037】
鋼矢板連続壁ユニット8における鋼矢板相互を連結している連結部材7を溶接により固定する場合には、その左右両側部を上下方向に間隔をおいて断続して固着すればよい。
前記の変形形態として、図9(a)に示す断面ハット形の鋼矢板5を用いる場合は、例えば、2〜4枚連続して一体化した鋼矢板連続壁ユニット8とすると、より経済的な地下壁構造とすることができる。
前記のような鋼矢板連続壁ユニット8を用いた地下壁構造では、建築物に作用する地震荷重を鋼矢板単独で高く負担させるようにした鋼矢板連続壁ユニット8となり、建築物に作用する地震荷重を確実に負担することができる構造となっている。
【0038】
図5に示す形態は、前記図1に示す形態の変形形態で、3枚の鋼矢板の継手を噛み合わせると共に連結部材7を溶接により各継手部4に溶接により固定した形態の鋼矢板連続壁ユニット8を2ユニットと、2枚の鋼矢板の継手を噛み合わせると共に連結部材7を溶接により各継手部4に溶接により固定した形態の鋼矢板連続壁ユニット8を1枚組み合わせた形態の地下壁構造としている。前記以外の構成については、前記の形態と同様である。
図6に示す形態では、4枚の鋼矢板の継手を噛み合わせていると共にこれらの隣り合う鋼矢板5に渡って連結部材7を配置し固着して、4枚の断面ハット形の鋼矢板5からなる鋼矢板連続壁ユニットとしている。前記以外の部分の構造については、前記の実施形態と同様であるので、同様な部分には、同様な符号を付して説明を省略した。
【0039】
前記の地下壁構造においては、前記の断面ハット形の鋼矢板5の前記第1フランジ1と第2フランジ3とは、前記第1フランジ1が地下空間19寄りの前面側に第2フランジ3が奥部側(地山側)に位置するように配置され、隣り合う断面ハット形の鋼矢板5における第2フランジ3とこれに一体に接続されたウェブ2とにより形成された凹部に連結部材7が配置されていると共に、前記各第2フランジ3に前記連結部材7の両側部が上下方向に断続した溶接Wにより剛に接合されている。前記連結部材7を連続した溶接により固着することで、連結部材7表面側からの水の滲み出しを防止することができる。
【0040】
前記のような地下壁構造を構築する場合に、図7に示すように、前記第2フランジ3が地下空間19寄りの前面側に第1フランジ1が奥部側に位置するように配置され、隣り合う断面ハット形の鋼矢板5における第2フランジ3とこれに一体に接続されたウェブ2とにより形成された凸部に連結部材7が配置されていると共に、隣り合う第2フランジ3に前記連結部材7が接合されていてもよい。このような場合には、連結部材7におけるコーナー部は地下空間19側に突出するように配置されるようになる。
【0041】
前記のような場合に、図8(a)に示すように、横断面溝形の連結部材7を用いてもよく、図8(b)に示すように、横断面円弧状の連結部材7を用いてもよい。また、隣り合う鋼矢板が断面U字状のU形鋼矢板5の場合には、断面U字状のU形鋼矢板5の配列は、図8(c)に示すように、交互180度回転された状態の配列となる。
すなわち、同じ断面形態のU形鋼矢板5を第1及び第2鋼矢板として用いると共に、第1ランジ1が奥側に位置する第1鋼矢板と、前記第1フランジ1が前面側(地下空間側寄り)に位置する第2鋼矢板とが交互に配置され、隣り合う第1鋼矢板のウェブ2と第2鋼矢板のウェブ2に渡って連結部材7が配置されて接合されている。前記連結部材7を地下空間19側から配置して、断続した又は連続した溶接により固着することにより、壁面方向に隣り合うU形鋼矢板5相互は連結一体化されている。
【0042】
前記の連結部材7は、継手部の前面側の覆うカバー材として用いることにより、景観をよくしている。また、継手部4と連結部材7との間に隙間23を設けて隠蔽空間を形成するようにして、例えば、背面地盤からの滲みだした水を誘導するようにしている。連結部材7を設けることにより、背面地盤からの滲みだした水が表側に滲みだすことはない。なお、このように滲みだした水を誘導する場合には、下側のコンクリート製床19には、適宜、排水溝(図示を省略した)が設けられる。また、前記のような場合には、連結部材7は鋼矢板5の継手部4に対して、連続した溶接により固着されることで、連結部材7の両側部からの滲み出しを防止することができる。
また、前記の上部連結用鉄筋16及び下部連結用鉄筋17に接続するように床版鉄筋が配筋されると共に適宜型枠が配置され、これらの鉄筋を埋め込むように、コンクリート22が打設されて、コンクリート製天井スラブ又は上部及び下部コンクリート製床11が形成されている。また、前記のコンクリート製床11の構築と同時に、これらに一体に剛結合されるコンクリート製縦壁12からなる鉛直部材を構築すべく、鉄筋が配筋されると共にコンクリートが打設されて、コンクリート製縦壁12が設けられている。
【0043】
前記のように、鋼矢板連続壁ユニット8を複数備えた連続壁は、背面側の地盤14又は地下空間と、前面側の地下空間19とを区画するために設けられている。
【0044】
本発明を実施する場合、隣り合う鋼矢板の継手相互を噛み合わせると共に連結部材7により隣り合う鋼矢板相互を剛結合して一体化した鋼矢板連続壁ユニット8を工場において生産して、鋼矢板連続壁ユニット8単位で施工するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
W 溶接
1 第1フランジ
2 ウェブ
3 第2フランジ
4 継手部
5 鋼矢板
6 鋼矢板壁
7 連結部材
8 鋼矢板連続壁ユニット
10 鉄筋ジベル
11 鉄筋コンクリート製床
12 コンクリート製縦壁
14 地盤
15 地下構造物
16 上部連結用鉄筋
17 下部連結用鉄筋
18 骨組構造
19 地下空間
21 壁本体
22 コンクリート
23 隙間
24 波形鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に打ち込まれる複数枚の鋼矢板からなる壁本体を備え、当該壁本体が、深度方向に間隔をおいて水平方向に備えられる水平部材と、その各水平部材に一体に接続され鉛直方向に備えられる複数の鉛直部材とによって構成される骨組構造と接合され、
前記壁本体の壁面と前記骨組構造とによって地下空間を形成する鋼矢板地下壁構造であって、前記鋼矢板のうち複数枚の隣り合う鋼矢板の継手部同士が、前記水平部材間における深度方向の間の領域で剛に連結されて一体化した鋼矢板連続壁ユニットを形成しており、前記骨組構造と少なくとも2つ以上の前記鋼矢板連続壁ユニットによって形成されていることを特徴とする地下壁構造。
【請求項2】
請求項1に記載の地下壁構造において、前記鋼矢板連続壁ユニットは、前記鋼矢板連続壁ユニット本体の壁面方向(面内水平方向)に直交する軸回りの断面係数Zが、下記式(1)を満たすように鋼矢板の連続一体化枚数が定められていることを特徴とする地下壁構造。
Z>η・η2・AH・L/2√3 ・・・・・(1)
但し、ηは鋼矢板の形状を考慮した係数で0.0超〜1.0以下の正の数、η2は鋼矢板の継手を考慮した係数、AHは鋼矢板連続壁ユニットの水平断面積(mm2)、Lは鋼矢板壁の壁高寸法(mm)である。
【請求項3】
請求項1または請求項2の地下壁構造において、
前記鋼矢板は、第1フランジと、この第1フランジの両側端縁にそれぞれ一体に接続するウェブと、前記各ウェブの先端縁からそれぞれ前記第1フランジと平行かつ外方に延びる第2フランジと、前記各第2フランジの先端縁にそれぞれ設けられる継手部とを有した断面ハット形の鋼矢板であり、前記第1フランジと第2フランジとは、前記第1フランジが地下空間寄りの前面側に第2フランジが奥部側に位置するように配置され、隣り合う断面ハット形の鋼矢板における第2フランジとこれに一体に接続されたウェブとにより形成された凹部に連結部材が配置されていると共に、前記各第2フランジに前記連結部材が接合されていることを特徴とする地下壁構造。
【請求項4】
請求項1または2に記載の地下壁構造において、
前記鋼矢板は、第1フランジと、この第1フランジの両側端縁にそれぞれ一体に接続するウェブと、前記各ウェブの先端縁からそれぞれ前記第1フランジと平行かつ外方に延びる第2フランジと、前記各第2フランジの先端縁にそれぞれ設けられる継手部とを有した断面ハット形の鋼矢板であり、前記第1フランジと第2フランジとは、前記第2フランジが地下空間寄りの前面側に第1フランジが奥部側に位置するように配置され、隣り合う断面ハット形の鋼矢板における第2フランジとこれに一体に接続されたウェブとにより形成された凸部に連結部材が配置されていると共に、隣り合う第2フランジに前記連結部材が接合されていることを特徴とする地下壁構造。
【請求項5】
請求項1または2に記載の地下壁構造において、
前記鋼矢板は、フランジの両側端縁にそれぞれ一体に接続するウェブと、各ウェブにそれぞれ設けられた継手部とを有した断面U字状のU形鋼矢板であり、そのU形鋼矢板を第1及び第2鋼矢板として用いると共に、前記フランジが奥側に位置する第1鋼矢板と、前記フランジが前面側に位置する第2鋼矢板とが交互に配置され、隣り合う第1鋼矢板のウェブと第2鋼矢板のウェブに渡って連結部材が配置されて接合されていることを特徴とする地下壁構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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