説明

地下構造、地下構造の設計手法、及び地下構造の構築方法

【課題】既存躯体と新設躯体とからなる合成躯体における既存躯体側に生じる引張り荷重を抑制できる地下構造、その設計手法、及びその構築方法を提供することを目的とする。
【解決手段】建替え前から地下に存する既存躯体14と建替え時に施工する新設躯体16とによりべた基礎18を構築する。べた基礎18の中間部18Aを、既存躯体14の基礎梁14Aと新設躯体16の中間部16Aとを一体化して構築し、べた基礎18の支持点Pと中間部18Aとの間に存する端部18Bを厚みが変化する偏断面に構成し、且つ当該端部18Bと埋め戻し部20との間をキーストン型枠22により分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下構造、地下構造の設計手法、及び地下構造の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビル等の建築物の建替え時に、建替え前から地下に存する既存基礎(既存躯体)を再利用して基礎を構築することが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。ここで、既存基礎を構成するコンクリートは、養生状態として環境がよいため、強度上問題ない場合が多いが、これに対して既存基礎に残存する鉄筋はさび等により必要強度を有していない場合があり、そのような場合、鉄筋については新設する必要がある。
【0003】
ところで、基礎にはその下に地下水が存在する場合には水圧が作用し、その場合以外にも地反力が作用する。これにより、基礎の両端側の支持点(基礎上に建てられた柱の荷重点)の間の中間部では、既存躯体側に圧縮荷重が生じるのに対し、支持点近傍(支持点と中間部との間に存する端部)では、既存躯体側に引張り荷重が生じるため(図4(B)のモーメント図参照)、鉄筋を基礎の上端部のみならず下端部にも配筋しなければならなくなり、これにより、鉄筋の施工性が悪化する。また、支持点の位置を設定するに際して鉄筋の配筋からの制約が大きくなり、基礎上の建築物の設計自由度が低下する。
【特許文献1】特開平11−193641号公報
【特許文献2】特開2004−339816公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事実を考慮してなされたものであり、既存躯体と新設躯体とからなる合成躯体における既存躯体側に生じる引張り荷重を減少できる地下構造、その設計手法、及びその構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の地下構造は、建替え前から地下に存置された既存躯体と、当該地下に建替え時に施工された新設躯体とからなる合成躯体が地盤に接して設けられた地下構造であって、前記合成躯体は、前記新設躯体と前記既存躯体とが一体化された中間部と、前記中間部と支持点との間に存する端部とからなり、前記端部は、厚みが減少する偏断面に構成され、且つ、地盤側の既存躯体又は地盤と前記合成躯体との間に充填された充填材から分離されていることを特徴とする。
【0006】
請求項1に記載の地下構造では、地盤に接して設けられた躯体が、建替え前から地下に存置された既存躯体と、当該地下に建替え時に施工された新設躯体とからなる合成躯体とにより構成されている。
【0007】
この合成躯体の中間部は、新設躯体と既存躯体とが一体化された合成構造とされている。これにより、既存躯体を利用して剛性及び耐力を向上させることを可能としている。また、合成躯体の中間部と支持点(合成躯体に接して設置された構造物の荷重点)との間に存する端部は、厚みが減少する偏断面に構成されている。
【0008】
ここで、当該端部は、地盤側の既存躯体又は地盤と合成躯体の間に充填された充填材から分離されており、合成躯体の端部の支持構造がピン支持構造に近づけられている。これにより、既存躯体と新設躯体とからなる合成躯体における既存躯体側に生じる引張り荷重をできる。
【0009】
請求項2に記載の地下構造は、請求項1に記載の地下構造であって、前記端部と地盤側の既存躯体又は前記充填材との間に配設され、前記端部と地盤側の既存躯体又は前記充填材とを分離する絶縁材を設けたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の地下構造では、合成躯体の端部と地盤側の既存躯体又は充填材との間に絶縁材を設けることにより、これらの分離をより確実なものとしている。
【0011】
請求項3に記載の地下構造は、請求項1又は請求項2に記載の地下構造であって、建替え時に新設鉄筋を前記新設躯体に配筋したことを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の地下構造では、建替え時に新設鉄筋を新設躯体に配筋することで、合成躯体に生じる応力に応じた補強を行うことができ、鉄筋による合成躯体の補強を確実なものとしている。ここで、合成躯体における既存躯体側に生じる引張り荷重を減少できていることにより、新設鉄筋を合成躯体における既存躯体側ではなく新設躯体側に配筋することで、合成躯体の強度を確保することが可能である。
【0013】
請求項4に記載の地下構造は、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の地下構造であって、前記端部を、支持点側へかけて地盤の反対側へ傾斜したテーパ状に構成したことを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の地下構造では、合成躯体の端部を支持点側へかけて地盤の反対側へ傾斜したテーパ状に構成することにより、当該端部における応力集中を緩和し、また、当該端部の施工を容易化している。
【0015】
請求項5に記載の地下構造は、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の地下構造であって、前記合成躯体は、べた基礎を構成していることを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の地下構造では、べた基礎を上記合成躯体とすることにより、地下水から受ける水圧や地反力によりべた基礎における既存基礎側に生じる引張り荷重を減少させている。
【0017】
請求項6に記載の地下構造は、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の地下構造であって、前記合成躯体は、地下側壁を構成していることを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の地下構造では、地下側壁を上記合成躯体とすることにより、土圧により地下側壁における既存基礎側に生じる引張り荷重を減少させている。
【0019】
請求項7に記載の地下構造の設計手法は、建替え前から地下に存置された既存躯体と、当該地下に建替え時に施工する新設躯体とからなる合成躯体を地盤に接して設ける地下構造の設計手法であって、前記合成躯体を、前記新設躯体と前記既存躯体とが一体化される中間部と、前記中間部と支持点との間に存する端部とにより構成し、前記端部を、厚みが減少する偏断面に構成し、且つ、地盤側の既存躯体又は地盤と前記合成躯体との間に充填された充填材から分離させることを特徴とする。
【0020】
請求項7に記載の地下構造の設計手法では、地盤に接して設けられる躯体を、建替え前から地下に存置された既存躯体と、当該地下に建替え時に施工する新設躯体とからなる合成躯体により構成する。
【0021】
この合成躯体の中間部を、新設躯体と既存躯体とが一体化された構成とし、また、合成躯体の中間部と支持点(合成躯体に接して設置された構造物の荷重点であり、合成躯体が基礎として用いられる場合には柱位置、合成躯体が地下壁として用いられる場合には各階の底位置である。)との間に存する端部を、厚みが減少する偏断面に構成する。
【0022】
ここで、当該端部を、地盤側の既存躯体又は地盤と合成躯体との間に充填された充填材から分離させることにより、合成躯体の端部の支持構造をピン支持構造に近似させる。これにより、合成躯体の端部の既存躯体側に生じる引張り荷重を減少できる。
【0023】
請求項8に記載の地下構造の設計手法は、請求項7に記載の地下構造の設計手法であって、前記端部と地盤側の既存躯体又は前記充填材との間に、前記端部と地盤側の既存躯体又は前記充填材とを分離する絶縁材を設けることを特徴とする。
【0024】
請求項8に記載の地下構造の設計手法では、合成躯体の端部と地盤側の既存躯体又は充填材との間に絶縁材を設ける。これにより、合成躯体の端部と地盤側の既存躯体又は充填材との分離がより確実なものとなる。
【0025】
請求項9に記載の地下構造の構築方法は、建替え前から地下に存置された既存躯体と、当該地下に建替え時に施工する新設躯体とからなる合成躯体を地盤に接して設けることにより構築する地下構造の構築方法であって、前記合成躯体を、前記新設躯体と前記既存躯体とが一体化される中間部と、前記中間部と支持点との間に存する端部とにより構成し、前記端部を、厚みが減少する偏断面に構成し、且つ、地盤側の既存躯体又は地盤と前記合成躯体との間に充填された充填材から分離させることを特徴とする。
【0026】
請求項9に記載の地下構造の構築方法では、地盤に接して設けられる躯体を、建替え前から地下に存置された既存躯体と、当該地下に建替え時に施工する新設躯体とからなる合成躯体により構成する。
【0027】
この合成躯体の中間部を、新設躯体と既存躯体とが一体化された構成とし、また、合成躯体の中間部と支持点(合成躯体に接して設置された構造物の荷重点であり、合成躯体が基礎として用いられる場合には柱位置、合成躯体が地下壁として用いられる場合には各階の底位置である。)との間に存する端部を、厚みが減少する偏断面に構成する。
【0028】
ここで、当該端部を、地盤側の既存躯体又は地盤と合成躯体の間に充填された充填材から分離させることにより、合成躯体の端部の支持構造をピン支持構造に近似させる。これにより、合成躯体における既存躯体側に生じる引張り荷重を減少できる。
【0029】
請求項10に記載の地下構造の構築方法は、請求項9に記載の地下構造の構築方法であって、前記端部と地盤側の既存躯体又は前記充填材との間に、前記端部と地盤側の既存躯体又は前記充填材とを分離する絶縁材を設けることを特徴とする。
【0030】
請求項10に記載の地下構造の構築方法では、合成躯体の端部と地盤側の既存躯体又は充填材との間に絶縁材を設ける。これにより、合成躯体の端部と地盤側の既存躯体又は充填材との分離がより確実なものとなる。
【発明の効果】
【0031】
本発明は上記構成にしたので、既存躯体と新設躯体とからなる合成躯体における既存躯体側に生じる引張り荷重を減少できる地下構造、その設計手法、及びその構築方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下に図面を参照しながら本発明の一実施形態について説明する。
【0033】
図1及び図2には、本発明の第1実施形態に係る地下構造10が示されている。なお、本実施形態における地下は平面視にて矩形状に構成されており、図1に示す左右方向(地下の長手方向)をX方向と示し、図1に示す上下方向(地下の長手方向と直交する方向)をY方向と示し、図2に示す高さ方向をZ方向と示す。
【0034】
図1及び図2に示すように、地下構造10は、ビル等の地上建築物12の建替えの際に、既存躯体14をその一部を存置して解体し、存置された既存躯体14を再利用して構築されている。この地下構造10は、地盤底壁(地盤)1上に既存躯体14と新設躯体16とにより構成された合成躯体としてのべた基礎(マットスラブ基礎)18と、べた基礎18と地盤底壁1との間を充填する充填材としての埋め戻し部20とを備えている。
【0035】
図2及び図3に示すように、既存躯体14は、地盤底壁1上に施工された鉄筋コンクリート製の基礎梁14AがX方向及びY方向に沿って延設されて(格子状に配設されて)構成されており、外周部には、地下天面まで延設された地下壁部14Bが設けられている。また、複数の基礎梁14A及び地下壁部14Bは、地盤底壁1上に敷設された底盤14Cにより連結されている。
【0036】
また、X方向の基礎梁(以下、単に基礎梁という)14Aと地下壁部14Bとの間には、埋め戻し部20が敷設されている。埋め戻し部20は再生骨材により形成されている。また、埋め戻し部20の高さは、基礎梁14Aの成(高さ)と同等とされており、上端部は略平坦に形成されている。
【0037】
ここで、図3に示すように、埋め戻し部20のX方向中央側の端部には、Y方向に沿って延在する絶縁材としてのキーストン型枠22が嵌め込まれている。このキーストン型枠22は、下側から上側へかけてX方向外側へ傾斜されており、上端部は略水平へ屈曲され、また、下端部は基礎梁14AのX方向外側下部に当接されている。
【0038】
即ち、埋め戻し部20のX方向中央側の端部は、底側から上側へかけてX方向外側へ傾斜したテーパ部20Aとされ、埋め戻し部20の底側は、基礎梁14Aまで充填されており、埋め戻し部20と基礎梁14Aとの間には、Y方向から見た場合に三角形状の空間が形成され、また、X方向両側の埋め戻し部20の間には、Y方向から見た場合に逆台形状の空間が形成されている。
【0039】
そして、上記逆台形状の空間、及び埋め戻し部20及び基礎梁14Aの上側には、コンクリートを打設した新設躯体16が構築されている。この新設躯体16は、目荒らしやシア筋等の一体化処理により基礎梁14Aと一体化された中間部16Aと、中間部16AのX方向両側に存する端部16Bとで構成されている。
【0040】
端部16BのX方向外側には、柱状地下構造物24が建てられており、端部16BのX方向外側は、柱状地下構造物24の荷重入力点(後述の支持点)とされている。即ち、べた基礎18は、新設躯体16の中間部16Aと既存躯体14の基礎梁14Aとが一体化された中間部18Aと、支持点Pと中間部18Aとの間に存する端部18Bとにより構成されている。
【0041】
ここで、端部18Bは、基礎梁14AからX方向外側へかけて次第に厚みが減少する(テーパ状に傾斜した)偏断面に構成されており、且つ、キーストン型枠22により埋め戻し部20から分離されている。
【0042】
また、新設躯体16における基礎梁14Aの上側には、新設鉄筋26がX方向及びY方向に沿って(縦横に)配筋されている。また、図3に示すように、コンクリートを打設した新設躯体28が、地下壁部14Bに接して設けられており、地下壁部14Bと新設躯体28とからなる合成躯体30が地盤側壁2に接して設けられている。
【0043】
ここで、本実施形態では、べた基礎18の強度・剛性の算定に際して、基礎梁14Aの部分の強度・剛性については、鉄筋の強度については考慮せず、コンクリートの強度についてのみ考慮している。
【0044】
なお、埋め戻し部20を構成する材料としては、再生骨材の他に、再生骨材と流動化処理土とを合成したもの、コンクリート等の他の材料も適用可能である。また、新設躯体16は、コンクリートが最適であるが、解体ガラとセメントとを混合したもの等の他の材料も適用可能である。また、キーストン型枠22は、埋め戻し部20を施工するための型枠として用い、そのまま捨て型枠とすることにより所望の位置に施工できることから、施工上有用であるが、これに替えて、ビニールシートや発泡材等の他の絶縁材も適用可能である。
【0045】
次に、本実施形態における作用について説明する。
【0046】
図4に示すように、べた基礎18には、地盤底側から地下水による水圧や地反力が作用する。ここで、べた基礎18のX方向両端部におけるA点及びC点(図3参照)には、柱状地下構造物24からの鉛直下向き荷重が作用し、A点及びC点は、水圧や地反力を受けたべた基礎18の支持点Pとなっている。
【0047】
このため、図4(A)及び図5(A)に示すように、A点とC点との中間部であるB点(図3参照)においては、地盤底側へ向かうモーメントMが発生し(上端引張、下端圧縮)、既存躯体14側に圧縮荷重が発生する。一方、A点近傍及びC点近傍においては、モーメントMがほぼ0となる。
【0048】
これは、厚みが減少する偏断面に構成された端部18B(支持点Pの近傍)が、キーストン型枠22により埋め戻し部20から分離されていることから、当該端部18Bの支持構造がピン支持構造に近似されていることによる。
【0049】
一方、べた基礎18のX方向両端部を厚さが均一な一様断面構造とした場合には、図4(B)のグラフに示すように、また、図5(B)に破線で示すように、A点及びC点において地上側へ向かうモーメントMdが発生し(上端圧縮、下端引張)、既存躯体14側に引張り荷重が発生する。この場合には、図5(B)に破線で示すように、べた基礎18の上端側のみならず下端側(すなわち既存躯体14内)にも新設鉄筋26を配筋しなければならず、新設鉄筋26の配筋が困難になる。
【0050】
これに対して、本実施形態では、A点近傍及びC点近傍において発生する荷重をほぼ0とすることが可能であるため、図5(A)に示すように、べた基礎18の上端部のみに新設鉄筋26を配筋し、下端部への新設鉄筋26の補強配筋を不要とすることが可能である。また、新設鉄筋26の配筋に縛られることなく、支持点Pの位置を設定することが可能となるため、柱状地下構造物24の設計自由度が拡大する。
【0051】
また、既存躯体14のコンクリート部分は、養生状態として環境がよいこともあり強度上問題ない場合が多いのに対して、既存躯体14の鉄筋部分は、コンクリート部分に含有される塩化物等の影響による錆び等の問題から、強度不足となるおそれがある。
【0052】
しかし、本実施形態では、べた基礎18の強度・剛性の算定に際して、基礎梁14Aについては鉄筋の強度を考慮せず、コンクリートの強度のみを考慮しているため、既存躯体を利用した合成躯体を生成して、必要十分な強度・剛性を確保することが可能である。
【0053】
また、本実施形態では、べた基礎18の端部18Bを支持点P側へかけて上側(地盤底壁1の反対側)へ傾斜したテーパ状に構成したことにより、当該端部18Bにおける応力集中が緩和され、また、当該端部18Bの施工が容易化されている。
【0054】
なお、本実施形態では、端部18Bと地盤底壁1との間の空間に埋め戻し部20を設けたが、当該空間部分に既存躯体を設けてもよい。また、本実施形態では、端部18Bの下端部と埋め戻し部20の下端部とを残してその上側を分離させたが、端部18Bと埋め戻し部20との下端から上端までの全体を分離してもよい。この場合には、べた基礎18のA点及びC点における支持構造がピン支持構造により近づくため、端部18Bにおける既存躯体14側に生じる引張り荷重をより一層抑制できる。
【0055】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、説明は省略する。
【0056】
図6に示すように、地下壁部14Bと新設躯体28とからなる合成躯体(地下側壁)30が、地盤側壁2に接して構築されている。新設躯体28には、上下方向及び左右方向に沿って新設鉄筋(図示省略)が配筋されている。また、地下天面には、建替え後に新設された地上1階部分のスラブ32が構築されている。
【0057】
ここで、新設躯体28の上端部は、下側から上側へかけてX方向外側へ傾斜したテーパ状に構成され、新設躯体28の下端部は、上側から下側へかけてX方向外側へ傾斜したテーパ状に構成されており、新設躯体28の上端部とスラブ32との間及び新設躯体28の下端部とべた基礎18との間にはY方向から見た場合に三角形状の空間が形成されている。この三角形状の空間には、Y方向から見た断面形状が三角形状でY方向へ延在する絶縁材としてのバックアップ材34が嵌め込まれており、これにより、新設躯体28の上端部がスラブ32から分離され、新設躯体28の下端部がべた基礎18から分離されている。なお、バックアップ材34の材料としては、発泡スチロール等が適用可能である。
【0058】
次に、本実施形態における作用について説明する。
【0059】
図7に示すように、合成躯体30には、地下側方側から側土圧が作用する。ここで、合成躯体30の上端部及び下端部(A点及びC点(図6参照))にはそれぞれ、スラブ32又はべた基礎18からX方向外側向きに反力が作用しており、A点及びC点は、側土圧を受けた合成躯体30の支持点Pとなっている。
【0060】
このため、合成躯体30におけるA点とC点との中間部であるB点(図6参照)においては、X方向外側へ向かうモーメントMが発生し、既存躯体側に圧縮荷重が発生する。一方、A点近傍及びC点近傍においては、モーメントがほぼ0となる。
【0061】
これは、厚みが減少する偏断面に構成された新設躯体28の上下端部(支持点Pの近傍)が、バックアップ材34によりスラブ32又はべた基礎18から分離されて、ピン支持状態に近似されているためである。
【0062】
従って、合成躯体30におけるA点近傍及びC点近傍において発生するモーメントをほぼ0とすることが可能であるため、新設躯体28の表面側のみに新設鉄筋26を配筋し、既存躯体14への補強配筋を不要とすることが可能である。また、新設鉄筋の配筋に縛られることなく、支持点Pの位置を設定することが可能となるため、スラブ32等の設計自由度が拡大する。
【0063】
なお、新設躯体28の上下端部とスラブ32又はべた基礎18との分離構造は、本実施形態における構造以外にも考えられる。例えば、図8に示すように、新設躯体28の上端部とスラブ32との間、及び新設躯体28の下端部とべた基礎18との間にY方向から見た場合に矩形状の空間を形成し、この空間にY方向から見た断面形状が矩形状のキーストン型枠36を嵌め込んだ構造が挙げられる。この構造の構築に際しては、新設躯体28を施工する際にキーストン型枠36を型枠として用い、そのまま捨て型枠として残存させればよい。
【0064】
また、図9に示すように、新設躯体28の上端部、地下壁部14B及びスラブ32の境界部、及び新設躯体28の下端部、地下壁部14B及びべた基礎18の境界部にビニールシート38を挟み込んだ構造も挙げられる。
【0065】
以上、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。例えば、上記実施形態では、地下構造の全体をべた基礎18としたが、地下水による水圧を受ける範囲のみを耐圧盤として機能するべた基礎18とし、その他の範囲は、再生骨材等による埋め戻し部とする等、適宜設計変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1実施形態に係る地下構造の概略を示す平面図である。
【図2】図1の2−2断面図である。
【図3】図2の一部を拡大した断面図である。
【図4】(A)は本発明の第1実施形態に係る地下構造に備えられたべた基礎の曲げモーメント図であり、(B)は比較例に係る地下構造に備えられたべた基礎の曲げモーメント図である。
【図5】(A)は、本発明の第1実施形態に係る地下構造に備えられたべた基礎の中間部における曲げモーメントの作用状態を模式的に示す断面図であり、(B)は、本発明の第1実施形態に係る地下構造に備えられたべた基礎の端部における曲げモーメントの作用状態を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る地下構造の概略を示す側断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る地下構造に備えられた合成躯体の曲げモーメント図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る地下構造の変形例の概略を示す側断面図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る地下構造の変形例の概略を示す側断面図である。
【符号の説明】
【0067】
1 地盤底壁(地盤)
2 地盤側壁(地盤)
10 地下構造
14 既存躯体
16 新設躯体
18 べた基礎(合成躯体)
18A 中間部
18B 端部
20 埋め戻し部(充填材)
22 キーストン型枠(絶縁材)
26 新設鉄筋
28 新設躯体
30 合成躯体
34 バックアップ材(絶縁材)
36 キーストン型枠(絶縁材)
38 ビニールシート(絶縁材)
P 支持点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建替え前から地下に存置された既存躯体と、当該地下に建替え時に施工された新設躯体とからなる合成躯体が地盤に接して設けられた地下構造であって、
前記合成躯体は、前記新設躯体と前記既存躯体とが一体化された中間部と、
前記中間部と支持点との間に存する端部とからなり、
前記端部は、厚みが減少する偏断面に構成され、且つ、地盤側の既存躯体又は地盤と前記合成躯体との間に充填された充填材から分離されていることを特徴とする地下構造。
【請求項2】
前記端部と地盤側の既存躯体又は前記充填材との間に配設され、前記端部と地盤側の既存躯体又は前記充填材とを分離する絶縁材を設けたことを特徴とする請求項1に記載の地下構造。
【請求項3】
建替え時に新設鉄筋を前記新設躯体に配筋したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の地下構造。
【請求項4】
前記端部を、支持点側へかけて地盤の反対側へ傾斜したテーパ状に構成したことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の地下構造。
【請求項5】
前記合成躯体は、べた基礎を構成していることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の地下構造。
【請求項6】
前記合成躯体は、地下側壁を構成していることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の地下構造。
【請求項7】
建替え前から地下に存置された既存躯体と、当該地下に建替え時に施工する新設躯体とからなる合成躯体を地盤に接して設ける地下構造の設計手法であって、
前記合成躯体を、前記新設躯体と前記既存躯体とが一体化される中間部と、前記中間部と支持点との間に存する端部とにより構成し、
前記端部を、厚みが減少する偏断面に構成し、且つ、地盤側の既存躯体又は地盤と前記合成躯体との間に充填された充填材から分離させることを特徴とする地下構造の設計手法。
【請求項8】
前記端部と地盤側の既存躯体又は前記充填材との間に、前記端部と地盤側の既存躯体又は前記充填材とを分離する絶縁材を設けることを特徴とする請求項7に記載の地下構造の設計手法。
【請求項9】
建替え前から地下に存置された既存躯体と、当該地下に建替え時に施工する新設躯体とからなる合成躯体を地盤に接して設けることにより構築する地下構造の構築方法であって、
前記合成躯体を、前記新設躯体と前記既存躯体とが一体化される中間部と、前記中間部と支持点との間に存する端部とにより構成し、
前記端部を、厚みが減少する偏断面に構成し、且つ、地盤側の既存躯体又は地盤と前記合成躯体との間に充填された充填材から分離させることを特徴とする地下構造の構築方法。
【請求項10】
前記端部と地盤側の既存躯体又は前記充填材との間に、前記端部と地盤側の既存躯体又は前記充填材とを分離する絶縁材を設けることを特徴とする請求項9に記載の地下構造の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−68312(P2009−68312A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−240979(P2007−240979)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】