説明

地下水及び土壌の浄化剤およびその製造方法

【課題】簡便な方法で製造できる土壌浄化化剤を提供する。
【解決手段】鉄(Fe)と、ウスタイト(FeO)と、マグネタイト(Fe)と、ヘマタイト(Fe)とからなる複合粒子であって、BET法比表面積が0.5〜5.0m/g、X線回折スペクトルにおける鉄、ウスタイト、マグネタイト、ヘマタイトのピーク強度の総和に対するウスタイトとマグネタイトのピーク強度の和の比が、0.4〜1.0であり、且つ50μm以上の結晶粒径を有する鉄を含むことを特徴とする揮発性有機ハロゲン化合物で汚染された地下水及び土壌の浄化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機ハロゲン化合物や重金属で汚染された地下水及び土壌を浄化するための浄化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
トリクロロエチレンやテトラクロロエチレンなど揮発性有機ハロゲン化合物で汚染された土壌や地下水を原位置で浄化する手法として鉄粉その他金属粉による還元分解法や、過硫酸や過酸化水素水を用いた酸化分解法などが実用化されている。
【0003】
たとえば特許文献1では、地下水水位より深部に位置する土壌又は地下水水位より浅部に位置する土壌又は掘削した土壌であって、有機塩素系化合物で汚染された土壌に、鉄粉を添加・混合することにより、有機塩素系化合物を分解して前記土壌を浄化する土壌の無害化処理方法が開示されている。
【0004】
そして、本工法に適した鉄粉として、0.1質量%以上の炭素を含み且つ、500cm/g以上の比表面積を有すると共に、50質量%以上が150μmのふるいを通過する粒度を有する鉄粉が記載されている。
【0005】
鉄粉による有機塩素化合物の還元分解は、鉄粉表面において、分解対象物に電子を受け渡すことで、反応が進行すると考えられている。従って、分解対象物と接触確率を増やすために、鉄表面の面積が大きい、すなわち、比表面積が大きいものほど、分解速度は大きくなる。
【0006】
また、分解速度を大きくするために、比表面積を大きくするだけでなく、様々な手法が検討されている。たとえば、特許文献2には銅を含有する鉄粉が、特許文献3には、ほぼ球状の鉄粉の表面を覆うように銅が点在する銅被着鉄粉が、特許文献4には、Niを被着させた鉄粉が開示されている。何れの技術も、鉄粉表面に鉄より貴な金属を付着させることで、局部電池を形成し、鉄からの電子供給が起こりやすくしたものである。
【0007】
特許文献5および特許文献6には、α-Feとマグネタイトからなる鉄複合粒子粉末が、特許文献7には、酸化鉄を還元して得られる鉄粉粒子と非還元鉄粉粒子を混合してなる浄化剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−235577号公報
【特許文献2】特開2001−9475号公報
【特許文献3】特開2003−339902号公報
【特許文献4】特開2007−301548号公報
【特許文献5】特開2004−141812号公報
【特許文献6】特開2004−141853号公報
【特許文献7】特開2005−199191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、鉄粉による有機ハロゲン化化合物の還元分解では、その反応速度を大きくするためには、(1)比表面積を大きくする、(2)鉄粉表面に第2の導電性物質を被着させて、局部電池を形成する、などの方法がとられる。
【0010】
特許文献1では、単純に比表面積を大きくすればよいとしているが、一般に比表面積を大きくするためには、粒子を細かくすればよいが、金属粉末を細粒化すると、自然発火する可能性があり、その取り扱いには、細心の注意が必要となる。
【0011】
特許文献2〜4に開示された貴金属を鉄粉表面に被着させる技術は、その製造方法が比較的容易ではあるが、元々、Ni、CoやCuなど高価な金属を使用するため、浄化剤の価格が高くなる。また、昨今では、Niは、それ自体が環境汚染物質となる可能性も唱えられており、これら、貴金属を被着させた鉄粉を浄化用に使用することは、好ましくない。
【0012】
特許文献5〜6では、鉄-マグネタイトの微粒子を浄化剤としているが、その製法は、酸化鉄を原料とし、水素還元して、微粒子の鉄粉を製造した後に、引き続き処理雰囲気を制御しながら徐酸化させ、鉄表面をマグネタイト化し、それにより発火を抑える効果を得ている。この方法では、酸化鉄の還元時に多量の水素を必要とし、また高温で処理することが必要となるため、製造コストがかかるし、一度還元した後に表面を酸化するため、製造プロセスも煩雑となっている。
【0013】
また、特許文献7では、酸化鉄を還元して得られる鉄粉粒子と非還元鉄粉粒子を混合してなり、酸化鉄を還元して得られる鉄粉粒子が粒子の酸化状態の構成として、0価の鉄が55から100パーセント、酸化鉄( I I )が0から30パーセント、三二酸化鉄が0から15パーセント及び四三酸化鉄が0から45パーセントであり、非還元鉄粉粒子が粒子の酸化状態の構成として、0価の鉄が10から40パーセント、酸化鉄( I I ) が30から70パーセント、三二酸化鉄が0から15パーセント及び四三酸化鉄が10から30パーセントであることを特徴とする土壌浄化剤が紹介されているが、酸化鉄を還元する工程と所定の鉄粉調製後、これらを混合する工程を含み製造プロセスが煩雑となっている。
【0014】
本発明は、簡便な方法で製造できる土壌浄化化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、NiやCoなどの高価な金属を用いることなく、また、製造時に水素を用いることなく、安価に高い反応性を有する鉄−マグネタイト複合材を得ることができる。
【0016】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0017】
第一の発明は、鉄(Fe)とウスタイト(FeO)と、マグネタイト(Fe)と、ヘマタイト(Fe)とからなる複合粒子であって、BET法比表面積が0.5〜5.0m/g、X線回折スペクトルにおける鉄、ウスタイト、マグネタイト、ヘマタイトのピーク強度の総和に対するウスタイトとマグネタイトのピーク強度の和の比が、0.4〜1.0であり、且つ50μm以上の結晶粒径を有する鉄を含むことを特徴とする揮発性有機ハロゲン化合物で汚染された地下水及び土壌の浄化剤である。
【0018】
第二の発明は、酸化鉄粉と鉄粉とを(1:99)〜(80:20)の質量割合で混合し、窒素雰囲気中で、400〜900℃で熱処理することを特徴とする第一の発明に記載の揮発性有機ハロゲン化合物で汚染された地下水及び土壌の浄化剤の製造方法である。
【0019】
第三の発明は、前記鉄粉を還元鉄粉とすることを特徴とする第二の発明に記載の揮発性有機ハロゲン化合物で汚染された地下水及び土壌の浄化剤の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、有機ハロゲン化合物などで汚染された地下水や土壌を短時間で浄化できる浄化剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
第1の実施の形態は、鉄(Fe)とウスタイト(FeO)と、マグネタイト(Fe)と、ヘマタイト(Fe)とからなる複合粒子であって、BET比表面積が0.5〜5.0m/g、X線回折スペクトルにおける鉄、ウスタイト、マグネタイト、ヘマタイトのピーク強度の総和に対するウスタイトとマグネタイトのピーク強度の和の比が、0.4〜1.0であり、且つ50μm以上の結晶粒径を有する鉄を含むことを特徴とする揮発性有機ハロゲン化合物で汚染された地下水及び土壌の浄化剤である。
【0022】
本発明における浄化剤は、鉄、ウスタイト、マグネタイトおよびヘマタイトの複合粒子である。純粋なα−Feは、その反応速度も十分大きいと考えられるが、一方で、常温空気中で放置すると、表面に酸化被膜ができ、反応性が劣化する。また、比表面積の大きな微粒子では、発熱、発火の危険性もあるため、保管上の注意が必要となる。
【0023】
本発明では、鉄粉と酸化鉄を、不活性雰囲気中で熱処理して、鉄粉表面を酸化すると同時に酸化鉄を還元させて、ウスタイト、マグネタイトおよびヘマタイトを生じさせる。このため、鉄粉自体は、酸化被膜で覆われているため、上記課題を解決できる。
【0024】
金属鉄もしくは、その複合粉を用いた場合、その反応速度を大きくするためには、粒子の比表面積を大きくすること、即ち、0.5m/g以上とする必要がある。それ未満では、反応速度は小さくなり、浄化には適さないからである。
【0025】
一方5.0m/gを越えるものでは、常温空気中でも激しく酸化反応が進行し、発熱、発火の危険性があるため、保管上好ましくない。
【0026】
鉄、ウスタイト、マグネタイト、ヘマタイトの存在比には適正な値が存在する。すなわち、鉄、ウスタイト、マグネタイト、ヘマタイトのピーク強度の総和に対するウスタイト、マグネタイトのピーク強度の和の比が0.4〜1.0である。
【0027】
比が0.4未満では、反応速度が遅く、地下水や土壌の浄化には適さないからである。
一方、1.0超えでは、反応速度が速すぎるからである。
なおより好ましい範囲は、0.5〜1.0である。
【0028】
また、原料鉄粉をHによる仕上げ還元を行わない還元鉄粉とアトマイズ゛鉄粉とした場合、アトマイズ゛鉄粉は急冷されることにより、微細なマルテンサイト組織を有しており、低温の熱処理では50μm以上の粒径にまでは粒成長しないし、反応性も十分ではない。従って、この場合は高温での熱処理を行うことにより、50μm以上の結晶粒径を得られ、十分な反応速度を得ることができる。
【0029】
なお、結晶粒径が反応性に及ぼす影響は、定かではないが、より結晶性の高い(純度の高い)鉄の方が、反応性に富んでいると考えられる。
【0030】
第2の実施の形態は、上記浄化剤の製造方法に関する。
【0031】
本製造方法は、基本的には、不活性雰囲気中で熱処理を行い、酸化鉄を鉄粉で還元し、マグネタイトを発生させ、同時に鉄を酸化させて、マグネタイトもしくはウスタイトを得るものである。マグネタイトーFe複合材を製造する方法としては、微粒子の酸化鉄を水素還元し、微粒子の鉄粉を得た後に、引き続き、酸化雰囲気で、鉄粉表面を緩やかに酸化させる方法などがあるが、本発明の製造方法であれば、比較的、簡単かつ低コストで、マグネタイト-Fe複合材とすることができる。なお、酸化鉄粉と鉄粉の質量割合は、(1:99)〜(80:20)とする。本範囲を外れると所期の特性を得られない場合があるからである。
【0032】
また、雰囲気温度を調整することで、ウスタイトも同時に出現できる。すなわち、その処理温度は、400℃以上である。高温にすると反応速度は大きくなるが、同時に焼結が進み、比表面積が小さくなるからである。また、熱処理後の粉砕にも負荷がかかることとなるので熱処理温度は、900℃以下である。
【0033】
ヘマタイト含有率が低すぎる場合には、X線回折スペクトル上、所望の強度比を得ることができない。また、高すぎる場合には、X線回折スペクトル上、所望の強度比を得られない、もしくは、所望の強度比を得るためには、長時間の熱処理が必要となるため経済的でない。
【実施例1】
【0034】
JFEスチール社製の還元鉄粉K100T及びアトマイズ゛鉄粉300R、及びJFEケミカル社製酸化鉄粉を用い、表1に示すような配合で鉄粉と酸化鉄粉を混合し、これを、管状炉で、Nを原料1Kgにつき1L/minの割合で流通させ、毎分10℃/minで所定温度まで昇温し、所定温度で1Hr熱処理を行ったものを浄化剤とした。
【0035】
得られた浄化剤は、BET法による比表面積測定を行い、また、α−Fe、ウスタイト、マグネタイト、ヘマタイトのピーク強度を測定し、α−Fe、ウスタイト、マグネタイト、ヘマタイトのピーク強度の総和に対するウスタイトとマグネタイトのピーク強度の和の比を求めた。各ピーク強度をFe:鉄、W:ウスタイト、M:マグネタイト、H:ヘマタイトで表すと、その比は(W+M)/(Fe+W+M+H)と表される。
【0036】
また、得られた浄化剤を樹脂に埋込んで研磨し、エッチング後、光学顕微鏡により組織観察を行い、鉄中の結晶粒径を計測し、50μm以上の結晶粒径の有無を判定した。
【0037】
浄化実験は、5mg/Lのトリクロロエチレン水溶液50mLを100mLバイアル瓶に入れ、これに、浄化剤5gを添加した後に密栓し、25℃、180rpmで、振盪し、所定時間後に、バイアル瓶ヘッドスペースのガス濃度を測定することで、トリクロロエチレン残存率(Ct/Ci)を求め、反応を擬一次反応とし、log(Ct/Ci) vs 時間(Hr)の傾きより、その反応速度定数(Hr-1)を求めた。なお、Ciはトリクロロエチレンの初期濃度を、Ctは時間tにおけるトリクロロエチレンの濃度を意味する。また、上記トリクロロエチレン水溶液には、支持電解質として、NaSOとCaCOを、それぞれ、80mg/L、40mg/Lに調整した。
【0038】
【表1】

【0039】
表1から明らかなように、BET法比表面積が0.5〜5.0m2/g、X線回折スペクトルにおいてα−Fe、ウスタイト、マグネタイト、ヘマタイトのピーク強度の総和に対するウスタイトとマグネタイトのピーク強度の和の比が0.4〜1.0であり、かつ当該金属鉄の粒径が50μm以上であれば、トリクロロエチレンの分解反応の反応速度定数kは0.03Hr-1以上と、他のものに比較して大きいことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄(Fe)と、ウスタイト(FeO)と、マグネタイト(Fe)と、ヘマタイト(Fe)とからなる複合粒子であって、BET法比表面積が0.5〜5.0m/g、X線回折スペクトルにおける鉄、ウスタイト、マグネタイト、ヘマタイトのピーク強度の総和に対するウスタイトとマグネタイトのピーク強度の和の比が、0.4〜1.0であり、且つ50μm以上の結晶粒径を有する鉄を含むことを特徴とする揮発性有機ハロゲン化合物で汚染された地下水及び土壌の浄化剤。
【請求項2】
酸化鉄粉と鉄粉とを(1:99)〜(80:20)の質量割合で混合し、窒素雰囲気中で、400〜900℃で熱処理することを特徴とする請求項1記載の揮発性有機ハロゲン化合物で汚染された地下水及び土壌の浄化剤の製造方法。
【請求項3】
前記鉄粉を還元鉄粉とすることを特徴とする請求項2に記載の揮発性有機ハロゲン化合物で汚染された地下水及び土壌の浄化剤の製造方法。

【公開番号】特開2011−98300(P2011−98300A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255041(P2009−255041)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】