説明

地下水流動保全工法

【課題】土留め壁に設置する井戸構造の開口部の幅と等価井戸半径の精度の高い関係式を求め、この関係式を用いることで井戸構造の設計を適切に行うことを可能にし、好適に地下水流動の確保を図ることを可能にした地下水流動保全工法を提供する。
【解決手段】構築した土留め壁で遮断された地下水を土留め壁2に設けた井戸構造5で集水及び/又は涵養することによって地下水の流動を確保する地下水流動保全工法であって、地下水を集水及び/又は涵養する井戸構造5の開口部5aの幅(B)と、この開口部5aと等価な性能を有する井戸の等価井戸半径(r)との関係を示す式、r=0.27×Bを用いて、井戸構造5の開口部5aの幅(B)を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構築した土留め壁で遮断される地下水を土留め壁に設けた井戸構造で集水及び/又は涵養して地下水の流動を確保する地下水流動保全工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、図4に示すように地下鉄や地下道路等の地下構造物1を構築する際に、構築予定位置の両側に地中連続壁などからなる土留め壁2を構築し、その間を掘削して地下構造物1を構築する、いわゆる開削工法が多用されている。
【0003】
一方、土留め壁2によって帯水層3の地下水流T(地下水の流動)が遮断され、土留め壁2の上流側では地下水位が上昇し、下流側では地下水位が低下して、井戸枯れや地盤沈下、あるいは生態系の変化や地下水の汚染などの被害を発生させることがある。
【0004】
これに対し、図4及び図5に示すように、土留め壁2に井戸構造を有する装置を設置したり、アブレシブジェットを用いて土留め壁2を部分的に破壊しスリット状の開口部(井戸構造5)を設けるなどして、土留め壁2で遮断された地下水の集水及び/又は涵養を井戸構造5の開口部5aを介して行い、地下水の流動を確保することが提案、実施されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0005】
そして、このような地下水流動保全工法においては、図5に示すように、地下水を集水及び/又は涵養を行うための開口部5aの幅(B)を決める際に(井戸構造5を設計する際に)、一般に、この開口部の幅(B)と等価な周辺長をもつ井戸の等価井戸半径(r)に置き換え、式1で算定した等価井戸半径(r)を用いるようにしている(非特許文献1参照)。
【0006】
【数1】

【特許文献1】特開2000−87385号公報
【特許文献2】特開2001−317045号公報
【特許文献3】特開2004−232306号公報
【非特許文献1】「地盤工学・実務シリーズ19 地下水流動保全のための環境影響評価と対策 −調査・設計・施工から管理まで−」、社団法人地盤工学会、平成16年10月15日、p.146
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この式1の適用性、妥当性が十分に確認されていないために、土留め壁2に設けた井戸構造5によって地下水の集水及び/又は涵養を好適に行うことができず、好適に地下水流動の確保を図ることができないおそれがあった。すなわち、土留め壁2に設置する井戸構造5の設計を適切に行うことができないという問題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、土留め壁に設置する井戸構造の開口部の幅と等価井戸半径の精度の高い関係式を求め、この関係式を用いることで井戸構造の設計を適切に行うことを可能にし、好適に地下水流動の確保を図ることを可能にした地下水流動保全工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0010】
本発明の地下水流動保全工法は、構築した土留め壁で遮断された地下水を前記土留め壁に設けた井戸構造で集水及び/又は涵養することによって前記地下水の流動を確保する地下水流動保全工法であって、前記地下水を集水及び/又は涵養する前記井戸構造の開口部の幅と、該開口部と等価な性能を有する井戸の等価井戸半径との関係を示す次式を用いて、前記井戸構造の開口部の幅を設定することを特徴とする。
【数2】

ここで、r:井戸構造の開口部と等価な性能を有する井戸の等価井戸半径 [m]
Bw:井戸構造の開口部の幅 [m]
【発明の効果】
【0011】
本発明の地下水流動保全工法によれば、上記の式を用いることで、井戸構造の集水能力及び/又は涵養能力を精度よく求めることができ、井戸構造の設計を適切に行うことが可能になる。これにより、好適に地下水流動の確保を図ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図1から図5を参照し、本発明の一実施形態に係る地下水流動保全工法について説明する。本実施形態は、例えば地下鉄や地下道路等の地下構造物を構築する際に、構築予定位置の両側に構築される地中連続壁などの土留め壁で遮断される地下水を、土留め壁に設けた井戸構造で集水及び/又は涵養することで、地下水流動を確保する地下水流動保全工法に関するものである。
【0013】
本実施形態の地下水流動保全工法においては、構築した土留め壁2で遮断された地下水の流動を確保するために土留め壁2に設ける井戸構造5を設計するにあたり、地下水を集水及び/又は涵養する開口部5aの幅と、この開口部5aと等価な性能を有する井戸の等価井戸半径との関係式として下記の式2を用い、井戸構造5の開口部5aの幅を設定する(図4及び図5参照)。
【0014】
【数3】

ここで、r:井戸構造の開口部と等価な性能を有する井戸の等価井戸半径 [m]
Bw:井戸構造の開口部の幅 [m]
【0015】
この式2は、有限要素法による浸透流解析を用いて土留め壁2に設置される井戸構造5の集水能力(及び/又は涵養能力)を計算し、この結果と、通常の井戸の揚水能力(集水能力及び/又は涵養能力)を算定する井戸理論式とを比較して、図1に示すように、井戸構造5の開口部5aの幅(B)と、この開口部5aと等価な性能を有する井戸の等価井戸半径(r)との関係を求めて導出したものである。
【0016】
図2は、この式2を用いて土留め壁2の井戸構造5を設計した一例であり、地下水の影響圏半径Rを100m、1000mとした場合における井戸構造5の開口部5aの幅(B)に対する井戸構造5の開口部5aの設置間隔の変化を示している。そして、このような計算結果を参考にして、開口部5aの幅(B)や開口部5aの設置間隔を変化させた種々の条件での設計比較を行うことで、合理的な設計が可能になる。
【0017】
また、図3は、式2に基づいて土留め壁2に井戸構造5を設置した場合において、この土留め壁2で遮られた地下水の水位変動量を、有限要素法を用いて解析した結果と、式2に基づく設計法により求めた結果を比較したものである。ここで、図3においては、地下水の影響圏半径Rを100m、地下水の動水勾配Iを0.046とした場合、地下水の影響圏半径Rを1000m、地下水の動水勾配Iを0.005とした場合、地下水の影響圏半径Rを100m、地下水の動水勾配Iを0.005とした場合の結果をそれぞれ示している。
【0018】
そして、図3に示すように、全てのケースにおいて、有限要素法により求めた地下水の水位変動量と、式2に基づく設計法により求めた地下水の水位変動量とがほぼ同値となり、これらの結果から式2を用いて井戸構造5の開口部5aの幅(B)や開口部5aの設置間隔を設定する設計法の妥当性が実証されている。なお、式2は、地盤の透水性や影響圏半径Rなどが異なる種々の条件で適用可能である。
【0019】
したがって、本実施形態の地下水流動保全工法においては、上記の式2を用いることで、井戸構造5の集水能力及び/又は涵養能力を精度よく求めることができ、井戸構造5の設計を適切に行うことが可能になる。これにより、土留め壁2に設ける井戸構造5の設計や、これを地下水流動保全対策として用いる場合の設計の信頼性を確保することができ、すなわち設計の妥当性が確保でき、好適に地下水流動の確保を図ることが可能になる。
【0020】
以上、本発明に係る地下水流動保全工法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る地下水流動保全工法において、井戸構造の開口部の幅とこの開口部と等価な性能を有する井戸の等価井戸半径との関係(関係式)を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る地下水流動保全工法において、井戸構造の開口部の幅とこの開口部と等価な性能を有する井戸の等価井戸半径との関係式を用いて土留め壁の井戸構造を設計した一例である。
【図3】本発明の一実施形態に係る地下水流動保全工法において、井戸構造の開口部の幅とこの開口部と等価な性能を有する井戸の等価井戸半径との関係式の妥当性を実証した図である。
【図4】構築した土留め壁に井戸構造を設けて地下水の流動を確保した状態を示す図である。
【図5】井戸構造を設計する際に、井戸構造をこの井戸構造の開口部と等価な性能を有する井戸の等価井戸半径に置き換えることを示した図である。
【符号の説明】
【0022】
1 地下構造物
2 土留め壁
3 帯水層
5 井戸構造
5a 開口部
T 地下水流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構築した土留め壁で遮断された地下水を前記土留め壁に設けた井戸構造で集水及び/又は涵養することによって前記地下水の流動を確保する地下水流動保全工法であって、
前記地下水を集水及び/又は涵養する前記井戸構造の開口部の幅と、該開口部と等価な性能を有する井戸の等価井戸半径との関係を示す次式を用いて、前記井戸構造の開口部の幅を設定することを特徴とする地下水流動保全工法。
【数1】

ここで、r:井戸構造の開口部と等価な性能を有する井戸の等価井戸半径 [m]
:井戸構造の開口部の幅 [m]

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate