説明

地下水流動保全工法

【課題】通水施設への地下水の流れを考慮した等価透水係数を用いることにより、通水施設の設計を適切に行うことができ、好適に地下水流動の確保を図ることが可能な地下水流動保全工法を提供する。
【解決手段】地下構造物3に設けた通水施設4で、地下構造物3によって遮断された地下水を通過させて地下水の流動を確保する地下水流動保全工法であって、通水施設4を含む地下構造物3全体を等価な透水性を有する材料に置き換えて設定される等価透水係数を、通水施設4への地下水の流れを考慮した等価透水係数算定式を用いて設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下構造物に設けた通水施設で、地下構造物によって遮断された地下水を通過させて地下水の流動を確保する地下水流動保全工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、図10に示すように地下鉄や地下道路等の地下構造物1を構築することによって地下水流(帯水層2の地下水の流動)Tが遮断され、上流側では地下水位が上昇し、下流側では地下水位が低下して、井戸枯れや地盤沈下、あるいは生態系の変化や地下水の汚染などの被害を発生させることがある。
【0003】
これに対し、図10に示すように、土留め壁(地下構造物1の一部)3に井戸構造を有する装置を設置したり、アブレシブジェットを用いて土留め壁3を部分的に破壊しスリット状の開口部を設けるなどして、地下構造物1の所定位置に地下水を通過させるための通水施設4を設け、地下水の流動を確保することが提案、実施されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0004】
一方、このような地下水流動保全工法の設計においては、一般に、有限要素法など数値解析手法が用いられているが、数キロメートル四方という広域の解析対象領域の中で、数センチメートルから数十センチメートル程度の比較的小さい通水施設4をモデル化すること(要素分割すること)は困難である。
【0005】
このため、一般に、通水施設4を含む地下構造物1全体を等価な透水性を有する材料に置き換えてモデル化して解析する手法が多用されている(非特許文献1参照)。この手法においては、個々の通水施設4を表現してモデル化する必要がないため、モデル化の労力を大幅に低減することができる。
【特許文献1】特開2000−87385号公報
【特許文献2】特開2001−317045号公報
【特許文献3】特開2004−232306号公報
【非特許文献1】「地盤工学・実務シリーズ19 地下水流動保全のための環境影響評価と対策 −調査・設計・施工から管理まで−」、社団法人地盤工学会、平成16年10月15日、p.351〜p.352
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記載された手法においては、通水施設4を含む地下構造物1全体を等価な透水性を有する材料に置き換えて設定する等価透水係数が単純平均により求められ、地下水を一様な流れとして評価するため、通水施設4へ地下水が集まりあるいは流出していくときに発生する水頭損失が考慮されていない。このため、実際よりも通水施設4の通水性能が過大に評価される(過小設計になる)おそれがあった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、通水施設への地下水の流れを考慮した等価透水係数を用いることにより、通水施設の設計を適切に行うことができ、好適に地下水流動の確保を図ることが可能な地下水流動保全工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0009】
本発明の地下水流動保全工法は、地下構造物に設けた通水施設で、前記地下構造物によって遮断された地下水を通過させて地下水の流動を確保する地下水流動保全工法であって、前記通水施設を含む地下構造物全体を等価な透水性を有する材料に置き換えて設定される等価透水係数を、次式を用いて設定することを特徴とする。
【数1】

ここで、keq:通水施設部分の等価透水係数 [m/s]
η:井戸効率 [−]
:地山の透水係数 [m/s]
W:流れを遮断する地下構造物の流れ方向の幅 [m]
a:通水施設の設置間隔 [m]
R’:見かけの影響圏半径 [m]
:通水施設の等価井戸半径 [m]
:通水施設の開口幅 [m]
:通水施設部分の透水係数 [m/s]
t:開口部の奥行き(充填材の充填厚さ)[m]
【発明の効果】
【0010】
本発明の地下水流動保全工法によれば、上記の式(等価透水係数算出式)を用いて通水施設部分の等価透水係数を求め、この等価透水係数を地下構造物部分の透水係数として設定することによって、通水施設設置時の地下水の流れ状況を考慮して表現することが可能になる。これにより、通水施設へ地下水が集まりあるいは流出していくときに発生する水頭損失を考慮して、通水施設の設計を適切に行うことができ、好適に地下水流動の確保を図ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図1から図10を参照し、本発明の一実施形態に係る地下水流動保全工法について説明する。本実施形態は、例えば地下鉄や地下道路等の地下構造物1を構築する際に構築予定位置の両側に構築される地中連続壁などの土留め壁3(地下構造物1の一部)に設けた通水施設4で、土留め壁3によって遮断された地下水を通過させることにより地下水の流動を確保する地下水流動保全工法に関するものである。
【0012】
本実施形態の地下水流動保全工法においては、土留め壁3の所定位置に設置する通水施設4を設計するにあたり、通水施設4を含む地下構造物1全体を等価な透水性を有する材料に置き換えて設定される等価透水係数keqを、次式(式1〜4)を用いて設定する。
【0013】
【数2】

【0014】
ここで、keqは通水施設部分の等価透水係数(m/sec)、ηは井戸効率(−)、kは地山の透水係数(m/sec)、Wは地下水の流れを遮断する地下構造物1の流れ方向の幅(土留め壁3の厚さなど)(m)、aは土留め壁3の延設方向(横方向)に設置される通水施設4の設置間隔(m)、R’は見かけの影響圏半径(m)、rは通水施設4の等価井戸半径(m)、Bは通水施設4の開口幅(通水施設4の開口部の幅)(m)、kは通水施設部分の透水係数(m/sec)、tは開口部の奥行き(充填材の充填厚さ)(m)である。
【0015】
そして、上記の式4は、図1に示すように、地下水を通過させる通水施設4の開口部4aの幅Bと、この開口部4aと等価な性能を有する井戸の等価井戸半径rとの関係式である。この式4は、本願の発明者らが導出した式であり、有限要素法による浸透流解析を用いて通水施設4の集水能力及び/又は涵養能力(通水性能)を計算し、この結果と、通常の井戸の揚水能力(集水能力及び/又は涵養能力)を算定する井戸理論式とを比較して、図2に示すように、通水施設4の開口部4aの幅Bと等価井戸半径rとの関係を求めて導出したものである。
【0016】
また、図3は、式4を用いて設計した通水施設4を土留め壁3に設置した場合において、この土留め壁3で遮られた地下水の水位変動量を、有限要素法を用いて解析した結果と、式4に基づく設計法により求めた結果を比較したものである。ここで、図3においては、地下水の影響圏半径Rを100m、地下水の動水勾配Iを0.046とした場合、地下水の影響圏半径Rを1000m、地下水の動水勾配Iを0.005とした場合、地下水の影響圏半径Rを100m、地下水の動水勾配Iを0.005とした場合の結果をそれぞれ示している。
【0017】
この図3に示すように、全てのケースにおいて、有限要素法により求めた地下水の水位変動量と、式4に基づく設計法により求めた地下水の水位変動量とがほぼ同値となる。これにより、式4を用いて通水施設4の開口部4aの幅Bや開口部4aの設置間隔aを設定する設計法の妥当性が実証されている。
【0018】
一方、この式4は、通水施設4の開口部4aの透水性が十分に確保されている理想的な状態を想定したものであるため、実際の現場において、開口部4aに透水性の低い材料が充填され、通水施設4の通水性能が低下してしまう状況を評価して設計に反映することができない。
【0019】
このため、通水施設4の通水性能(井戸効率η)を、次のように式2(上記の式2と同式)及び式5を用いて設定している。
【0020】
【数3】

【0021】
ここで、図4及び図5に示すように、Qは通水施設4の実集水量又は実涵養量(m/sec)、sは開口部4a内の水位低下量又は水位上昇量(m)、kは地山の透水係数(m/sec)、kは充填材5の透水係数(m/sec)、Dは開口部4aの長さ(=帯水層2の層厚)(m)、R’は式3で求めた見かけの影響圏半径(m)、rは式4で求めた開口部4aの等価井戸半径(m)、Bは開口部4aの幅(m)、tは開口部4aの奥行き(充填材の充填厚さ)(m)、ηは井戸効率(理想的な状態での集水量と実集水量の比、又は理想的な状態での涵養量と実涵養量の比)(−)、Qは理想的な状態での開口部4aの集水量又は涵養量(m/sec)である。
【0022】
そして、図6は、土留め壁3に設けた通水施設4の通水性能を、有限要素法を用いて解析した結果(計算値)と、式2及び式5を用いた設計法によって求めた結果(式2)をそれぞれ示している。ここで、図6は、影響圏半径Rを100mとし、開口部4aの奥行きtを0.5mとし、開口部4aの幅Bを変化させた際の通水施設4の通水性能を示したものであり、横軸を地山の透水係数kと充填材5の透水係数kの比とし、縦軸を井戸効率ηとしている。この図に示すように、有限要素法を用いて解析した結果と、式2及び式5を用いた設計法によって求めた結果とが一致しており、式2及び式5の妥当性が実証されている。
【0023】
本実施形態においては、このような式2及び式4を用いて式1から通水施設部分の等価透水係数keqを求め、この等価透水係数を地下構造物部分の透水係数とすることにより、通水施設設置時の地下水の流れ状況を考慮して表現することができる。
【0024】
図7は、設計条件として、地山の透水係数kを1×10−5m/sec、地下水の流れを遮断する地下構造物1の流れ方向の幅Wを10m、通水施設4の開口部4aの幅Bを0.75m(r=0.2mに相当)、通水施設部分の透水係数kを1×10−2m/sec、帯水層2の厚さDを10m、自然状態での地下水の動水勾配Iを0.01として、従来式(非特許文献1に記載された従来の等価透水係数算出式)と、式1(本発明に係る等価透水係数算出式)とをそれぞれ用いて、通水施設設置間隔aを変化させたときの等価透水係数keqを算定した結果を示している。
【0025】
この図7から、単純平均により等価透水係数keqを求める従来式においては、通水施設4の設置間隔を大きくするに従い漸次等価透水係数keqが小さくなるが、上記の設計条件で通水施設4を設置すると、等価透水係数keqが元の地山の透水係数kよりも大きくなってしまう。このため、通水施設4の通水性能が過大に評価されて、設計に適用することができない。
【0026】
一方、本発明に係る等価透水係数算出式(式1)においては、通水施設4の設置間隔を大きくするに従い漸次等価透水係数keqが小さくなって、この等価透水係数keqが元の地山の透水係数kよりも大きくなることがない。
【0027】
ついで、図8は、このような式1で求めた等価透水係数keqと一次元流れの理論式を用いて、通水施設1箇所当たりの通過流量を算出し、この結果を有限要素法による浸透流解析の結果と比較したものである。そして、この図に示すように、式1で求めた等価透水係数keqによる通過流量と、有限要素法による浸透流解析から求めた通過流量とが実用上十分な精度で一致することが確認された。
【0028】
また、図9は、この式1により求めた等価透水係数keqと一次元流れの理論式を用いて、発生する水位変動量を算出し、この結果を有限要素法による浸透流解析の結果と比較したものである。この図から、式1で求めた等価透水係数keqによる水位変動量と、有限要素法による浸透流解析から求めた水位変動量とが実用上十分な精度で一致することが確認された。
【0029】
このように、土留め壁3に設置した通水施設4への地下水の流れを考慮した本発明に係る等価透水係数算出式を用いることで、従来式を用いた場合よりも精度よく地下水流動保全工法(通水施設4)の設計が行える。
【0030】
したがって、本実施形態の地下水流動保全工法によれば、式1〜4(等価透水係数算出式)を用いて通水施設部分の等価透水係数keqを求め、この等価透水係数keqを地下構造物部分の透水係数として設定することによって、通水施設設置時の地下水の流れ状況を考慮して表現することが可能になる。これにより、通水施設4へ地下水が集まりあるいは流出していくときに発生する水頭損失を考慮して、通水施設4の設計を適切に行うことができ、好適に地下水流動の確保を図ることが可能になる。
【0031】
このとき、周辺の地下水流れが単純で、理論式により表現できる場合には、理論式上で式1を用いて算出した等価透水係数keqを用いればよい。また、複雑な条件の下では、有限要素法などの数値解析手法を用い、当該部分の透水係数として式1を用いて算出した等価透水係数keqを入力すれば、通水施設設置時の地下水の流れ状況を考慮した設計を精度よく行うことが可能である。
【0032】
さらに、通水施設設置間隔a、通水施設4の開口部4aの幅B、通水施設部分の透水係数kなどを変化させ、等価透水係数keqを計算した上で通水量や水位変動量を評価することにより、所定の設計条件が満足でき、かつ効果的な仕様を決定することが可能になる。
【0033】
また、地下水流動保全工法(通水施設4)の設計においては、複雑な繰り返し計算を必要とするが、式1から式4の等価透水係数算出式を用いた手法を表計算ソフトによってシステム化しておくことにより、簡易に設計を行うことも可能になる。
【0034】
以上、本発明に係る地下水流動保全工法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】通水施設を設計する際に、通水施設をこの通水施設の開口部と等価な性能を有する井戸の等価井戸半径に置き換えることを示した図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る地下水流動保全工法において、通水施設の開口部と、この開口部と等価な性能を有する井戸の等価井戸半径との関係(式4)を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る地下水流動保全工法において、通水施設の開口部の幅と、この開口部と等価な性能を有する井戸の等価井戸半径との関係式(式4)の妥当性を実証した図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る地下水流動保全工法において、式2及び式5の諸条件を示した図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る地下水流動保全工法において、式2及び式5の諸条件を示した図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る地下水流動保全工法において、式2の妥当性を実証した図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る地下水流動保全工法において、式1と従来式の通水施設設置間隔と等価透水係数の関係を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る地下水流動保全工法において、式1の妥当性を実証した図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る地下水流動保全工法において、式1の妥当性を実証した図である。
【図10】土留め壁に通水施設を設けて地下水の流動を確保した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 地下構造物
2 帯水層
3 土留め壁(地下構造物)
4 通水施設
4a 開口部
5 充填材
T 地下水の流れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下構造物に設けた通水施設で、前記地下構造物によって遮断された地下水を通過させて地下水の流動を確保する地下水流動保全工法であって、
前記通水施設を含む地下構造物全体を等価な透水性を有する材料に置き換えて設定される等価透水係数を、次式を用いて設定することを特徴とする地下水流動保全工法。
【数1】

ここで、keq:通水施設部分の等価透水係数 [m/s]
η:井戸効率 [−]
:地山の透水係数 [m/s]
W:流れを遮断する地下構造物の流れ方向の幅 [m]
a:通水施設の設置間隔 [m]
R’:見かけの影響圏半径 [m]
:通水施設の等価井戸半径 [m]
:通水施設の開口幅 [m]
:通水施設部分の透水係数 [m/s]
t:開口部の奥行き(充填材の充填厚さ)[m]

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−7450(P2010−7450A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323954(P2008−323954)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(391019740)三信建設工業株式会社 (59)
【Fターム(参考)】