説明

地中壁および透水性地中壁の形成方法

【課題】構造物の施工中に地下水流の流出を防ぐ一方、構造物の施工後には地下水流を適宜生じさせることができる地中壁を提供する。
【解決手段】地中壁1の壁内に生分解性材7を内設し、かつ地中壁1の壁内に生分解性材7に至り反応物および圧力水を導く導管6を設ける。これにより生分解性材7が地中壁1で覆われており当該生分解性材7の分解が止められるので、構造物の建設中に施工現場への地下水流の流出を防ぐことになる。また、構造物の建設後には、導管6を通して生分解性材7の分解反応を行わせる反応物を生分解性材7に導き、かつ導管6を通して生分解性材7が分解された後の空洞部9の周囲のソイルセメント4を破砕する圧力水を導くことで、地中壁1に地下水流を通すことになる。この結果、構造物の施工を妨げる地下水流の流出を防ぎ、かつ構造物の施工後に地下水流の流通を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施工時に地下水流を遮断する一方で施工後には地下水流を確保する地中壁および前記地中壁を用いた透水性地中壁の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地下水流がある地盤に、その流れを横切るように不透水性の構造物を構築した場合、当該構造物が地下ダムのような機能を生じ、上流側では地下水位の上昇が起こり、下流側では水位の低下が起こる。この結果、上流側では構造物への浮上の影響や浸水が生じ、下流側では井戸枯れや地盤沈下が生じるおそれがある。そこで、土留め壁などの地中壁に地下水を通す透水機能を持たせることによって上記問題に対処することが可能である。
【0003】
従来、生分解性プラスチックを用いた地下連続地中壁がある。ここでは、地下連続地中壁をなす柱杭を構築する際、土圧対抗用の芯材の下側に、断面十字状に成型された生分解性プラスチックを長さ方向軸線が鉛直状となるように配置してある。そして、施工後所定時間が過ぎると、生分解性プラスチックが土中のバクテリアによって水と二酸化炭素に分解される。このため、分解された箇所を通して地下連続地中壁をまたぐように地下水流が確保される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−363976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来の地下連続地中壁では、生分解性プラスチックの分解反応時間のコントロールが難しい。すなわち、構造物の施工中に分解反応が起こると地下水流が施工現場に流れ込むことで施工が妨げられ、止水を行わなければならない。さらに、従来の地下連続地中壁では、柱杭をなすソイルセメント中に生分解性プラスチックを直接沈下させるため、設置時に生分解性プラスチックが破損するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みて、構造物の施工中に地下水流の流出を防ぐ一方で構造物の施工後には地下水流を適宜生じさせることができる地中壁および透水性地中壁の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係る地中壁は、透水層に位置する壁内に圧力水を導く導管を設けたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2に係る地中壁は、透水層に位置する壁内に生分解性材を内設し、かつ当該壁内に前記生分解性材に至り反応物および圧力水を導く導管を設けたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3に係る透水性地中壁の形成方法は、透水層に位置する壁内に生分解性材を内設し、かつ当該壁内に前記生分解性材に至り反応物および圧力水を導く導管を設けた地中壁を用いる透水性地中壁の形成方法であって、前記導管を通して前記反応物を放射して生分解性材を分解させて壁内に空洞を設けた後、前記導管を通して前記空洞内に高圧水を放射して前記地中壁を貫通する通水路を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る地中壁は、構造物の建設中では、透水層に位置する壁によって施工現場への地下水流の流出を防ぐことが可能になる。また、構造物の建設後には、導管を通して透水層に位置する壁内に圧力水を導いて壁を破砕することで、壁に地下水流を通すことが可能になる。この結果、構造物の施工を妨げる地下水流の流出を防ぎ、かつ構造物の施工後の地下水流の流通を行うことができる。さらに、壁の破砕を圧力水によって行うため、大規模な装置や設備を必要としないのでコストが嵩むことがない。
【0011】
また、本発明に係る地中壁は、透水層に位置する壁内に生分解性材を内設し、かつ当該壁内に前記生分解性材に至り反応物および圧力水を導く導管を設けた。このため、生分解性材が壁内で覆われていることで当該生分解性材の分解が止められるので、構造物の建設中では、透水層に位置する壁によって施工現場への地下水流の流出を防ぐことが可能になる。また、構造物の建設後には、導管を通して生分解性材の分解反応を行わせる反応物を生分解性材に導き、その後、導管を通して生分解性材が分解された後の空洞の周囲を破砕する圧力水を導くことで、地中壁に地下水流を通すことが可能になる。この結果、生分解性材を用いた場合に当該生分解性材の分解反応時間のコントロールを行えるので、構造物の施工を妨げる地下水流の流出を防ぎ、かつ構造物の施工後に地下水流の流通を行うことができる。さらに、生分解性材の分解後に地中壁の破砕を圧力水によって行うため、大規模な装置や設備を必要としないのでコストが嵩むことがない。
【0012】
また、本発明に係る透水性地中壁の形成方法は、透水層に位置する壁内に生分解性材を内設し、かつ当該壁内に前記生分解性材に至り反応物および圧力水を導く導管を設けた地中壁を用いる透水性地中壁の形成方法であって、前記導管を通して前記反応物を放射して生分解性材を分解させて壁内に空洞を設けた後、前記導管を通して前記空洞内に高圧水を放射して前記地中壁を貫通する通水路を形成する。このため、生分解性材が壁内で覆われていることで当該生分解性材の分解が止められるので、構造物の建設中では、透水層に位置する壁によって施工現場への地下水流の流出を防ぐことが可能になる。また、構造物の建設後には、導管を通して生分解性材の分解反応を行わせる反応物を生分解性材に導き、その後、導管を通して生分解性材が分解された後の空洞の周囲を破砕する圧力水を導くことで、地中壁に地下水流を通すことが可能になる。この結果、生分解性材を用いた場合に当該生分解性材の分解反応時間のコントロールを行えるので、構造物の施工を妨げる地下水流の流出を防ぎ、かつ構造物の施工後に地下水流の流通を行うことができる。さらに、生分解性材の分解後に地中壁の破砕を圧力水によって行うため、大規模な装置や設備を必要としないのでコストが嵩むことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る地中壁および透水性地中壁の形成方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
図1は本発明に係る地中壁を示す概略図、図2は図1に示した地中壁の平断面図、図3は図1に示した地中壁の斜視図、図4は図1に示した地中壁の縦断面図である。ここでの地中壁は、柱杭2を複数連続して並設した土留め壁などの地中壁1からなるもので、当該柱杭2を透水層101に貫通してその下方の不透水層102まで到達して設けてある。また、地中壁1は、地下水上流側と地下水下流側とにそれぞれ対向して設けてあり、その間の透水層101に例えば車両用トンネルなどの構造物Kが建設してある。
【0015】
柱杭2は、例えば地表面GLから透水層101を貫通してその下方の不透水層102に到達して掘削した削孔3内にソイルセメント4を充填したものであり、ソイルセメント4の内部に芯材5、導管6および生分解性材7を内設してある。
【0016】
芯材5は、例えばH鋼などの長手状の鋼材からなり、その長手方向を地表面GLから構造物Kを建設した透水層101の部位に至るように設けてある。
【0017】
導管6は、中空のパイプからなり、芯材5の長手方向に沿って地表面GLから芯材5の下端に至るまで設けてある。導管6は、削孔3(ソイルセメント4)のほぼ中心に配置してあることが好ましい。
【0018】
生分解性材7は、例えばポリヒドロキシブチレートを成分とする微生物産生系のもの、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリビニルアルコールなどを成分とする化学合成系のもの、酢酸セルロース、キトサン、澱粉などを成分とする天然物利用系のものなど、反応物(バクテリアなど)によって水と二酸化炭素とに分解される物質が好ましい。なお、生分解性材7がポリ乳酸の場合には、当該ポリ乳酸が水による加水分解の性質をもっているので水を反応物として用いることが可能である。この生分解性材7は、芯材5の下部であって、構造物Kよりも下側である透水層101の位置に配設してある。また、生分解性材7は、図3に示すように導管6に連通する孔部71を有している。さらに、生分解性材7は、その外周が保護材72によって被覆してある。また、必要に応じて生分解性材7に植物繊維を混ぜて補強してもよい。なお、生分解性材7は、図3に示すように底部が下方に向けて尖っていることが好ましい。
【0019】
上記地中壁1を構築するには、まず、削孔3を複数連続して掘削する。次いで、削孔3内にソイルセメント4を形成する。次いで、削孔3のソイルセメント4中に生分解性材7を挿入する。次いで、削孔3のソイルセメント4中に芯材5を生分解性材7の上から挿入する。この芯材5には、導管6が取り付けてある。すなわち、芯材5の挿入によって生分解性材7が構造物Kよりも下側である透水層101の位置に押し下げられる。その後、ソイルセメント4が固化することで透水性地中壁が完成する。なお、生分解性材7が削孔3内で押し下げられる際、当該生分解性材7の外周に保護材72で被覆されているので、生分解性材7が破損する事態を防ぐことが可能である。ちなみに、上記地中壁1を構築する別方法として、導管6を取り付けた生分解性材7を芯材5の先端に予め取り付けておき、削孔3を複数連続して掘削し、削孔3内にソイルセメント4を形成した後、芯材5を先端からソイルセメント4中に挿入するようにしてもよい。
【0020】
このように構築した地中壁1は、芯材5によって土圧に耐えるものとなり、対向した間の止水壁として機能する。そして、この対向した地中壁1の間に構造物Kが建設されることになる。
【0021】
構造物Kの建設が完了した後、地中壁1に透水機能を付与する。図5は本発明に係る透水性地中壁の形成方法の工程を示す平断面図、図6は図5(a)の工程における縦断面図、図7は図5(c)の工程における縦断面図である。なお、図5では地中壁1として1つの柱杭2のみを示してある。
【0022】
まず、図5(a)および図6に示すように柱杭2の杭頭から導管6の内部にノズル8を挿通して生分解性材7の孔部71に至らせ、当該ノズル8から生分解性材7を分解反応させるための反応物を放射する。すると、図5(b)に示すように生分解性材7が反応を起こして分解することになる。このため、生分解性材7が内設されていた柱杭2の部位が空洞部9になる。
【0023】
その後、図5(c)および図7に示すように柱杭2の杭頭から導管6の内部にウォータジェットノズル10を挿通して空洞部9に至らせ、当該ウォータジェットノズル10から柱杭2のソイルセメント4にスリット11を設けるための圧力水を放射する。スリット11は、ウォータジェットノズル10を上下方向に移動させることによって、空洞部9の上下(柱杭2の深さ方向)に渡って設けられる。なお、強度のあるソイルセメント4を切削する場合には、必要に応じて圧力水に研磨材を混入させたアブレシブジェットを使用することが好ましい。すると、図5(d)に示すように空洞部9の周囲である柱杭2のソイルセメント4が破砕されて、透水機能をなす通水路12が形成されることになる。この結果、通水路12を透して透水層101の地下水上流から地下水下流に至り地中壁1をまたぐように地下水流が確保される。
【0024】
このように、上述した地中壁1では、地中壁1の壁内に生分解性材7を内設し、かつ地中壁1の壁内に生分解性材7に至り反応物および圧力水を導く導管6を設けてある。このため、生分解性材7が地中壁1で覆われており当該生分解性材7の分解が止められるので、構造物Kの建設中に施工現場への地下水流の流出を防ぐことが可能になる。また、構造物Kの建設後には、導管6を通して生分解性材7の分解反応を行わせる反応物を生分解性材7に導き、その後、導管6を通して生分解性材7が分解された後の空洞部9の周囲のソイルセメント4を破砕する圧力水を導くことで、地中壁1に地下水流を通す透水性地中壁を形成することが可能になる。この結果、生分解性材7を用いた場合に当該生分解性材7の分解反応時間のコントロールを行えるので、構造物Kの施工を妨げる地下水流の流出を防ぎ、かつ構造物Kの施工後に地下水流の流通を行うことができる。さらに、生分解性材7の分解後にソイルセメント4の破砕を圧力水によって行うため、大規模な装置や設備を必要としないのでコストが嵩むことがない。
【0025】
また、導管6に連通する孔部71を生分解性材7に設けたことにより、反応物を生分解性材7に効率よく導き、生分解性材7を早期に分解反応させることが可能になる。さらに、生分解性材7の外周を保護材で被覆したことにより、生分解性材7を設置する際に生分解性材7が破損する事態を防ぐことが可能である。
【0026】
なお、上述した実施の形態では、生分解性材7を用いた構成について説明したが、この限りではない。図には明示しないが、生分解性材7を用いず、透水層101に位置する地中壁1の内部に圧力水を導く導管6を設けた構成としてもよい。この場合でも、構造物Kの施工を妨げる地下水流の流出を防ぎ、かつ構造物Kの施工後の地下水流の流通を行うことができる。さらに、ソイルセメント4の破砕を圧力水によって行うため、大規模な装置や設備を必要としないのでコストが嵩むことがない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る地中壁を示す概略図である。
【図2】図1に示した地中壁の平断面図である。
【図3】図1に示した地中壁の斜視図である。
【図4】図1に示した地中壁の縦断面図である。
【図5】本発明に係る透水性地中壁の形成方法の工程を示す平断面図である。
【図6】図5の工程における縦断面図である。
【図7】図5の工程における縦断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 地中壁
2 柱杭
3 削孔
4 ソイルセメント
5 芯材
6 導管
7 生分解性材
71 孔部
72 保護材
8 ノズル
9 空洞部
10 ウォータジェットノズル
11 スリット
12 通水路
101 透水層
102 不透水層
GL 地表面
K 構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透水層に位置する壁内に圧力水を導く導管を設けたことを特徴とする地中壁。
【請求項2】
透水層に位置する壁内に生分解性材を内設し、かつ当該壁内に前記生分解性材に至り反応物および圧力水を導く導管を設けたことを特徴とする地中壁。
【請求項3】
透水層に位置する壁内に生分解性材を内設し、かつ当該壁内に前記生分解性材に至り反応物および圧力水を導く導管を設けた地中壁を用いる透水性地中壁の形成方法であって、
前記導管を通して前記反応物を放射して生分解性材を分解させて壁内に空洞を設けた後、前記導管を通して前記空洞内に高圧水を放射して前記地中壁を貫通する通水路を形成することを特徴とする透水性地中壁の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−81941(P2008−81941A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−260384(P2006−260384)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(391019740)三信建設工業株式会社 (59)
【Fターム(参考)】