説明

地中杭の構造

【課題】地中杭内にセンサーを挿抜自在に設置することを可能にし、また、挿抜自在に設置されたセンサーの計測値を補正することも容易となる地中杭の構造を提供する。
【解決手段】センサーが内部に設置される地中杭1の構造であって、固化材2の固化によって地中に構築される地中杭1と、上記固化材2内に、該地中杭1の長さ方向に空間を形成するために埋設される保護管3と、該保護管3の上記空間に挿抜自在に挿入されるセンサーとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内部にセンサーが設置される地中杭の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
地中熱を空調設備や融雪設備等の熱源として利用するために、地中に熱交換用配管を埋設して、地中と熱交換用配管内の冷媒との間で熱交換を行っている。地中に熱交換用配管を埋設する場合、熱交換専用に縦孔を設けることは建設コストがかかる。このため、特許文献1に示すように、建築物の地中杭を利用して熱交換用配管を地中に設置する技術が提案されている。
【0003】
一方、地中熱を利用した、空調設備や融雪設備等の熱源機器は、熱交換用配管内の冷媒温度を計測しながらその運転が制御される。また、熱交換が行われる地中の温度についても、地中環境への影響を考慮しつつ効率的な熱源機器の運転条件を設定したり運転を制御するために計測することが好ましい。しかし、地中温度計測用の専用縦孔を設けることは経済的でない。そのため、地中杭を利用して地中の温度を間接的に計測することが考えられる。熱交換に利用される地中杭内の温度を計測する先行技術として特許文献2が知られている。特許文献2において、地中杭は中空部を有するコンクリート製の中空パイプであり、その地中杭内に温度計測装置が配置されている。
【特許文献1】特開2006−29006号公報
【特許文献2】特開平08−184063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2における地中杭は中空パイプの中空部または、その内部に充填された液体のグラウト材内に温度計測用のセンサーを設置している。一方地中杭には、杭の内部までコンクリートが打設され中空部を有しない「場所打ち杭」や、既製杭内部のグラウト材としてセメントミルクなどの固化材が充填されたものがある。内部がコンクリートやセメントミルクなどの固化材で充たされた地中杭に対して、固化材内に温度センサーを直に埋設する場合、固化材すなわち地中杭の温度を直接計測できる反面、地中杭内にセンサーが埋め殺しとなる。このため、設置後のセンサーをメンテナンスすることが出来ず、センサーが故障した場合に熱源等の制御や地中温度の確認ができなくなるという問題があった。
【0005】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、地中杭内にセンサーを挿抜自在に設置することを可能にし、また、挿抜自在に設置されたセンサーの計測値を補正することも容易となる地中杭の構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる地中杭の構造は、センサーが内部に設置される地中杭の構造であって、固化材の固化によって地中に構築される地中杭と、上記固化材内に、該地中杭の長さ方向に空間を形成するために埋設される保護管と、該保護管の上記空間に挿抜自在に挿入されるセンサーとを有することを特徴とする。
【0007】
前記地中杭が、前記固化材を中空筒状の既製杭の内方へ充填して構築される基礎杭であることを特徴とする。
【0008】
前記地中杭が、前記固化材を杭孔へ充填して構築される基礎杭であることを特徴とする。
【0009】
前記地中杭には、地中熱を利用するための熱交換用配管が埋設されること特徴とする。
【0010】
固化材の固化によって地中に構築され、上記センサーによる計測値を補正するための計測値を得るための副センサーが該固化材内に埋設された副地中杭を、前記地中杭に隣接して配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる地中杭の構造にあっては、地中杭内にセンサーを挿抜自在に設置することが可能となる。また、挿抜自在に設置されたセンサーの計測値を補正することが容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明にかかる地中杭の構造の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。本実施形態にかかる地中杭の構造は基本的には、図1から図6に示すように、固化材2の固化によって地中に構築される地中杭1と、固化材2内に、地中杭1の長さ方向に空間Sを形成するために埋設される保護管3と、保護管3の空間Sに挿抜自在に挿入されるセンサー4とを有している。地中杭1は、固化材2を中空筒状の既製杭10の内方へ充填して構築される基礎杭Pである。
【0013】
本実施形態における地中杭1は建築物の基礎杭Pで有り、基礎杭Pは既製杭10によって構成される。既製杭10は、工場等で予め成形された円形断面の中空筒状部材であるPC杭(遠心力成形のプレストレストコンクリート杭)が、単独で又は複数接続されて地中に埋設されて構築されている。既製杭10はPC杭により構築されるものに限定されず、工場等で予め成形された中空筒状の杭であれば、RC杭(遠心力形成の鉄筋コンクリート杭)、PHC杭(遠心力形成の高強度プレストレストコンクリート杭)、SC杭(遠心成形の外殻鋼管付コンクリート杭)、鋼管杭等で構築しても良い。本実施形態における地中杭1の外径は700mm〜1000mm程度で有り、その内径は500mm〜740mm程度である。地中杭1の底部は支持地盤に達し、根固め用のコンクリートが打設されている。地中杭1の上端部は、その周囲の地盤面より上方へ突出されている。
【0014】
地中杭1の内方には、固化材2としてセメントミルクが充填されている。セメントミルクは水とセメント等を練り混ぜてできたミルク状のものであり、時間経過により固化する。地中杭1は、固化材2が既製杭10の内方で固化して地中に基礎杭Pとして構築される。なお、固化材2は、セメントミルクに限定されるものではなく、既製杭10内方の縦孔への充填が可能であり、最終的に縦孔内部に固体部分を形成できる材料であればよい。例えば、時間経過により液体から固体となるコンクリートやモルタルや樹脂材等でもよく、さらに地中杭1に充填され、締め固めにより固体部分を形成できる砂や土等の粒体でもよい。
【0015】
固化材2内には、地中杭1の長さ方向に空間Sを形成するための保護管3が埋設されている。本実施形態における、保護管3はフランジ付き塩化ビニルパイプ30(以下「VP管30」と呼ぶ)が複数接続して形成されている。VP管30の呼び径は80Aから100A程度である。保護管3の上端部は既製杭10の上端部より上方に突出し、合成樹脂製可撓管32が接続されている。合成樹脂製可撓管32は、最終的には建築物の躯体内に埋設され、その端部は所定位置で躯体表面から突出される。保護管3の下端部には止水用キャップ31が取り付けられている。保護管3は、少なくとも固化材2が侵入しない程度の水密性を有して形成され、地中杭1内に所定深さで設置される。これにより保護管3内に地中杭1の長さ方向の空間Sが形成される。なお、本実施形態において「深さ」とは、予め定められた基準地盤面から下方への垂直距離をいう。本実施形態のVP管30には、錘33が必要に応じて取り付けられる。錘33は、地下水が侵入している地中杭1内への保護管3の設置時や、保護管3が設置された地中杭1内部へのセメントミルク打設時に、保護管3に作用する浮力とのバランスをとるためのものである。
【0016】
保護管3には、その長さ方向に適宜間隔でスペーサ5が取り付けられている。スペーサ5は、地中杭1の水平断面における保護管3の位置を保持する機能を有している。本実施形態におけるスペーサ5は、既製杭10の内壁面10aの形状に沿った円形に形成された保持部50と、保持部50の周方向の適宜箇所に設けられた突出部51とにより構成されている。突出部51は、保持部50に回転自在に取り付けた樹脂製のリング状部材である。突出部51は、保持部50の外周側に突出することにより、既製杭10の内壁面10aと保持部50の離隔距離を確保している。保護管3は、固定部材52を利用して保持部50の内周側に当接して支持固定される。これにより、保護管3が地中杭1の外周側に配置され地中へ近接されるとともに、地中杭1の中央部に固化材の充填作業用のスペースが確保される。
【0017】
保護管3の空間Sには、センサー4が挿抜自在に挿入される。本実施形態におけるセンサー4は温度センサーである。センサー4は、先端部の熱電対と、熱電対からの電気信号を受信計に送信する導線ケーブル44により構成される。熱電対はシース管43で保護される。導線ケーブル44は保護管3上端部の合成樹脂製可撓管32から突出され、所定箇所まで延伸可能な長さが確保される。本実施形態におけるセンサー4は、一つの地中杭1に対して3本挿入され、各センサー4により地中杭1の異なる深さ3箇所の温度が計測される。本実施形態における3つのセンサー4は、一つのセンサー体40として一体化されている。センサー体40はセンサー用錘41を端部に取り付けた付けた支持ワイヤ42に、その長さ方向で異なる位置に各センサー4のシース管43が取り付けて構成されている。センサー体40は、一本の支持ワイヤ42と三本の導線ケーブル44を束ねた長尺の線状部材として形成される。センサー体40により、各センサー4をまとめて保護管3内に挿入できるため挿入作業が容易になり、保護管3の断面積を小さくすることが出来る。保護管3の断面積を小さくすることで、保護管3内での空気の対流が制限され、空間S内の空気温度が均一化を抑制できる。
【0018】
本実施形態において、「空間Sへ挿抜自在に挿入されるセンサー4」とは、建築物が完成した状態で、保護管3内へ、挿入深さを確認しながら容易に挿入、引き抜きが出来る状態のセンサー4をいう。挿抜自在性を確保するために、保護管3の内径が決定され、その長さ方向の形状も設定される。保護管3の内径は、すなわち空間Sは小さい方が空気層が小さくなるため温度計測上は好ましい。本実施形態における保護管3の長さ方向の形状は直線状に形成され、センサー4の挿抜自在性と、挿入深さの確認容易性が確保されている。また、本実施形態における保護管3は水密性が確保されているため、保護管3内に空間Sが確実に形成され、センサー4自体の厳密な防水性は要求されない。このため、センサー4のシース管43を簡便で小さい構造とすることが出来、保護管3への挿抜自在性が確保し易くなる。
【0019】
保護管3は、センサー4の挿抜が可能で、センサー4の深さ位置が確認できる空間Sを形成できるものであれば、その断面形状は円形に限定されるものではなく、またその長さ方向の形状も直線状に限定されるものではない。例えば四角形断面で、既成杭10の内周面に沿って旋回しながら下方へ延びる螺旋状の保護管3でもよい。なお、センサー4が温度センサーであるため、保護管3は、熱伝導性の良好な材質で形成されることが好ましい。また、センサー4の測定対象を考慮して保護管3の材質を変更してもよい。
【0020】
センサー4は保護管3内に挿入されて、地中杭1の温度を間接的に計測する。地中杭1は基本的にはセメント系の材料(コンクリートやセメントミルクなど)で構成されている。このセメント系の材料の熱に関する性質は、金属材料や樹脂製材料などと比べ、比較的土壌の熱に関する性質に類似している。したがって、地中杭1の温度を間接的に計測することにより地中温度の推定が比較的容易であり、推定された地中温度により熱源機器等の運転条件設定や制御を行うことが出来る。本実施形態におけるセンサー4が実際に計測する温度は、地中杭1に埋設された保護管3内の空気温度、すなわち空間Sの空気温度である。この空間Sの空気温度は、地中の温度や、既製杭10、固化材2、保護管3および空気層の熱伝達率や、保護管3内の空気の対流、熱伝達率、保護管3内面からの輻射等の要素によって定まる。
【0021】
本実施形態の地中杭1には、地中熱を利用するための熱交換用配管6が埋設されている。熱交換用配管6は、架橋ポリエチレン管で構成された樹脂製チューブであり可撓性を有している。熱交換用配管6は、それを二本平行に配置し、それらの一方の端部をU型接手6により接続したU型チューブとして形成されている。U型チューブの一方の熱交換用配管6が冷媒の往き管となり、他方が還り管となる。熱交換用配管6の下端部(U型チューブの下端部)には熱交換用配管錘60が取り付けられている。本実施形態において、一本の地中杭1には、4本の熱交換用配管6(U型チューブとしては2本)が埋設される。本実施形態における熱交換用配管6は、その長さ方向に適宜間隔でスペーサ5により支持される。熱交換用配管6は、スペーサ5の保持部50の外周側に、その周方向に沿ってほぼ等間隔で、突出部51に近接した位置で、保持部50と直交して支持される。突出部51は、保持部50に支持された熱交換用配管6よりも外側へ突出している。
【0022】
本実施形態における基礎杭Pは、建築物のフーチングHの下方に一つずつ設けられ、図8に示すようにX方向(横方向)に4列、Y方向(縦方向)3列配置されている。図8における右上角部、および左下角部の基礎杭Pが地中杭1として構築されている。なお、どの位置の基礎杭Pを地中杭1とするかは、建築物毎に設定される。
【0023】
本実施形態の地中杭1に隣接して、固化材21の固化によって地中に構築され、センサー4による計測値を補正するための計測値を得るための副センサー22が固化材21内に埋設された副地中杭20が配置される。本実施形態における副地中杭20は、地中杭1に隣接する基礎杭Pに設定されている。したがって、図8における地中杭1にY方向で隣接する基礎杭Pが副地中杭20として構築されている。
【0024】
副地中杭20は、地中杭1におけるセンサー4および保護管3を除き、地中杭1とほぼ同様の基礎杭Pであり、地中杭1と同様の断面形状、外形寸法を有し、ほぼ同様の構造形式で構築されている。本実施形態の副地中杭20は、固化材21を中空筒状の既製杭23の内方へ充填して構築される。既製杭23は、地中杭1と同形状のPC杭であり、工場等で予め成形されたPC杭が単独で又は複数接続されて地中に埋設されて基礎杭を形成している。既製杭23は既成杭10と同様、PC杭に限定されず、RC杭、PHC杭、SC杭、鋼管杭等で構築されても良い。本実施形態における副地中杭20の底部は支持地盤に達し、根固め用のコンクリートが打設されている。副地中杭20の内方には、固化材21としてのセメントミルクが充填されている。固化材21は固化材2と同様、セメントミルクに限定されずコンクリートやモルタルや樹脂材でも、砂や土等の粒体でもよい。
【0025】
本実施形態の副センサー22は、温度センサーであり固化材21内に直に埋設されている。副センサー22は、センサー4による計測値を補正するための計測値を得るためのものであるため、センサー4と同様に温度センサーが使用される。本実施形態における副センサー22は、白金測温抵抗体による温度センサーである。なお、センサー4と同様の熱電対を用いてもよい。副センサー22は、先端部の白金測温抵抗体と、白金測温抵抗体からの電気信号を受信計に送信する導線ケーブルにより構成されている。白金測温抵抗体はシース管221で保護されている。シース管221は、その内部に固化材21や水が進入しないよう防水構造に形成されている。導線ケーブルは合成樹脂製可とう電線管220(例えばCD管)に挿入され保護されている。その合成樹脂製可とう電線管220とシース管221とは隙間無くビニルテープ等により接続される。合成樹脂製可とう電線管220と導線ケーブルは既製杭23の上端部から突出され、所定箇所まで延伸可能な長さが確保されている。
【0026】
本実施形態における副センサー22は、地中杭1の各センサー4と同様に、一つの副地中杭20に対して3本挿入され、地中杭1の各センサー4と同じ深さにおける地中杭20の温度を計測する。また本実施形態における副センサー22は、地中杭1の水平断面におけるセンサー4すなわち保護管3に近接するよう副地中杭20の周面側に配置される。具体的には、図8に示すように副地中杭20の副センサー22は、地中杭1の保護管3と対向する副地中杭20の周面側に90°間隔で3箇所に配置される。ただし、副センサー22の配置は地中杭1の保護管3と対向する位置に限定されるものではない。
【0027】
各副センサー22は適宜間隔でスペーサ24より支持されてその位置が保持される。スペーサ24はスペーサ5と同一形状の部材であり、スペーサ5の保持部50と同一の保持部240とスペーサ5の突出部51と同一の突出部241により構成される。副センサー22の先端部分のシース管221、および合成樹脂製可とう電線管220が、スペーサ24の保持部240の外周側に、保持部240と直交する方向で取り付けられている。保持部240の外周側で副センサー22が支持されることにより、センサー22は副地中杭20の外周側に接近して埋設される。なお、副センサー22の合成樹脂製可とう電線管220やシース管221が、スペーサ24の突出部241よりも保持部240の外方へ突出する場合には、これらを保持部50の内周側に固定し、既製杭23の内面との接触を防止しても良い。
【0028】
本実施形態の副地中杭20には、地中熱を利用するための熱交換用配管25が埋設されている。熱交換用配管25は、地中杭1の熱交換用配管6と同様の配管で構成され、一つの地中杭1に対する熱交換用配管6と同数が、一つの副地中杭20に設けられる。熱交換用配管25は、その長さ方向に適宜間隔でスペーサ24により支持される。熱交換用配管25は、スペーサ24の周方向に等間隔で、地中杭1の熱交換用配管6と同様の方法で支持されて副地中杭20内に埋設される。したがって、副地中杭20のスペーサ24の外周には、90°間隔で熱交換用配管25が配置され、熱交換用配管間25、25間に副センサー22が取り付けられている(図5参照)。熱交換用配管25の下端部には熱交換用配管錘250が取り付けられている。熱交換用配管25が副地中杭20に、地中杭1の熱交換用配管6と同様に埋設されることより、地中杭1と副地中杭20の構造を同一化できる。
【0029】
本実施形態の副センサー22は、地中杭1のセンサー4と同様に、地中温度を推測するために副地中杭20の温度を計測するものである。しかし、副センサー22は、地中杭20内の固化材21の温度を直接に計測するのに対し、センサー4は、空間Sすなわち保護管3内の空気温度を計測する。このため、センサー4の計測温度は、保護管3の材質や、保護管3内壁面の形状、保護管3内の空気層の厚さ、対流状況等の影響を受け、実際の地中杭1の温度との差が生じる。このセンサー4による計測値を補正するための計測値を得るために、副センサー22により副地中杭20(固化材21)の温度が直接的に計測される。副センサー22による計測温度は地中杭1(固化材2)の温度として推定される。この副センサー22の機能を確実に確保するために、地中杭1に隣接して副地中杭20を配置し、地中杭1と副地中杭20の構築位置の違いによる計測温度への影響を抑制している。さらに、本実施形態において、地中杭1と副地中杭20は、同一形状、寸法で同一の構造形式の基礎杭Pとして構築されている。これにより、地中杭1と地中杭20の構造の違いによる計測温度への影響を抑制している。また、地中杭1が場所打ち杭である場合は、副地中杭20も場所打ち杭として構築される。さらに、本実施形態における、センサー4と副センサー22を対向させて配置したり、熱交換用配管6、25の材質や配置等を揃えることにより、副センサー22とセンサー4の設置条件を揃え、各計測温度のばらつきを発生させる要素を出来るだけ制限している。
【0030】
このため、副センサー22とセンサー4による各計測温度間の差を、それらセンサー4、22の地中杭1、20への設置方法の相違(主に保護管3の有無)に起因するもと推定することが可能となり、センサー4と副センサー22の同時刻の計測温度を多数蓄積し解析することで、両計測温度間の「一定の関係」を導き出しやすくなる。さらに、導き出された「一定の関係」を利用して、センサー4により計測された保護管3内の空気温度を補正して、地中杭1の温度を推定することが可能となる。センサー4による計測温度を補正して地中杭1の温度より正確に推定することで、地中杭1周辺の地中温度も精度良く推定できる。精度良く推定されたこれらの温度に基づいて熱源機器の運転条件設定や制御が精度良くおこなえる。また、センサー4は地中杭1に挿抜自在であるためメンテナンスが可能であり、長期にわたり安定した温度計測が可能となる。したがって、「一定の関係」が導き出された後に副センサー20が故障しても、センサー4の計測温度のみで、熱源機器の運転条件設定や制御を安定して継続でき、地中杭1周辺の地中温度の変化も長期間に亘り計測可能となる。なお、副地中杭20は必ずしも建築物の基礎杭Pとして構築される必要はなく、副地中杭20は、地中杭1と同一の建築物の基礎杭Pでなくとも良い。
【0031】
また、副地中杭20内には、必ずしも熱交換用配管25を埋設する必要はない。その場合には、副地中杭20の温度が、時間経過と共に地中温度とほぼ等しくなるため、副センサー22の計測温度を直接的に地中温度として推定することが可能となる。したがって、センサー4の計測温度と副センサー22の同時刻の計測温度を多数収集し蓄積して比較解析することで、地中温度とセンサー4の計測温度との一定の関係を導き出すことができ、ンサー4の計測温度から地中温度が推定可能となる。
【0032】
以上説明した本実施形態にかかる地中杭の構造の作用について説明する。まず本実施形態にかかる地中杭1および副地中杭20の構築方法を説明する。地中杭1の既製杭10を地中に構築後、既製杭10の内方へ、スペーサ5で支持しながら、熱交換用配管6および保護管3を挿入する。保護管3は、既製杭10の上方でVP管30を順次接続しながら地中杭1へ挿入する。VP管30の接続時に錘33もVP管30に取り付ける。一方、副地中杭20の既製杭23を地中に構築後、既製杭23の内方へスペーサ24で支持しながら、熱交換用配管25と副センサー22を挿入する。その後、地中杭1に対しては、その内方へ固化材2を充填し、熱交換用配管6、保護管3を、地中杭1の外周側の所定位置で固化材2内に埋設する。固化材2の固化後、保護管3の上端部に合成樹脂製可撓管32を接続する。建築物の施工に状況に応じて、熱交換用配管6、合成樹脂製可撓管32を延出し、それらの端部を躯体から突出する位置まで引き出しておく。副地中杭20に対しては、その内方へ固化材21を充填し、熱交換用配管25、副センサー22を、副地中杭20の外周側の所定位置で固化材21内に埋設する。固化材21の固化後、建築物の施工に状況に応じて、熱交換用配管25、副センサー22を延出し、それらの端部を躯体から突出する位置まで引き出しておく。
【0033】
建築物の躯体工事完了後に、合成樹脂製可撓管32の端部から、センサー体40を所定深さまで降下させて、支持ワイヤ42の上端部を建築物の躯体に固定して、保護管3の空間Sの所定位置に各センサー4を設置する。センサー体40挿入の際、各センサー4は、熱電対を用い、防水性も要求されないためシース管43がコンパクトであるため、屈曲した合成樹脂製可撓管32内も容易に挿通することができる。このため、空間Sへのセンサー4の挿抜自在性が確保しやすくなっている。センサー4の挿入深さと、既に副地中杭20内に埋設された副センサー22の埋設深さは一致するように、センサー4の深さ位置を調整する。これによりセンサー4が挿抜自在に挿入された地中杭1および副センサー22が埋設された副地中杭20が構築される。
【0034】
本実施形態における、地中杭1および副地中杭20の作用について述べる。地中杭1に挿入されたセンサー4により、地中杭1への所定挿入深さにおける空間S(保護管3内)の空気温度が計測され電気信号として受信計に送信される。受信計に送信された温度データは適宜処理、蓄積され、熱源機器等の制御などに利用される。保護管3は、スペーサ5により地中杭1の外周部付近に設置されるため、比較的地中との距離が短く、周囲の固化材2の厚さも小さくなり、空間Sの空気温度は地中の温度に近くなりやすい。
【0035】
センサー4の温度計測に併せて、副センサー22により所定深さにおける副地中杭20の温度が計測され電気信号として受信計に送信される。受信計に送信された副センサー22からの温度データは、適宜処理されて蓄積され、熱源機器などの制御等に利用される。副センサー22が計測する温度は、副地中杭20の固化材21の温度である。このため、副センサー22が計測する温度には、センサー4の計測する保護管3内の空気温度に比べ、保護管3、空気層が存在せず、これらが熱感流の抵抗や熱の容量体として作用しないため、副地中杭20の温度が直接的に反映される。さらに、副センサー22はスペーサ24により、副地中杭20が外周部に近く埋設されているため、地中と副センサー22との間の固化材21の厚さが薄くなり、冷媒温度や地中温度の変化にも短時間で応答するため、地中の温度が反映されやすい。
【0036】
そのため、両センサー2、22による計測開始当初は、副センサー22の計測温度を優先に用いて、熱源機器等の運転条件の設定や制御、地中温の推定などをおこなう。この間に蓄積される、センサー4による計測温度と副センサー20による計測温度を蓄積して比較解析し、両者間の「一定の関係」を導き出す。その「一定の関係」が導き出された後は、センサー4の計測温度をその「一定の関係」で補正して、熱源機器の制御等に使用する。これにより、何時副センサー22が故障しても熱源機器を精度良く継続的に制御等可能となり、長期にわたる地中温度の継続的な計測が可能となる。
【0037】
本実施形態において、地中杭1の構造を、固化材2の固化によって地中に構築される地中杭1と、固化材2内に、地中杭1の長さ方向に空間Sを形成するために埋設される保護管3と、保護管3の空間Sに挿抜自在に挿入されるセンサー4とを有しているため、センサー4をメンテナンスや、設置深さの調整のために容易に挿抜することが出来る。
【0038】
また、地中杭1が、固化材2を中空筒状の既製杭10の内方へ充填して構築される基礎杭であるため、既製杭10を利用して、センサー4を挿抜可能に地中杭1内に設置できる。
【0039】
さらに地中杭1には、地中熱を利用するための熱交換用配管6が埋設されているため、地中杭1を熱交換用の杭として利用しつつ、地中温度を推測出来る(温度)データを取得でき、効率的な熱交換を行うことが可能となる。
【0040】
加えて、固化材21の固化によって地中に構築され、センサー4による計測値を補正するための計測値を得るための副センサー22が固化材21内に埋設された副地中杭20を、地中杭1に隣接して配置したため、副センサー22の計測値によりセンサー4による計測値を適切に補正でき、センサー4による計測値から、精度の高い地中杭1の温度や地中杭1周辺の地中温度の推定が可能となり、地中熱を利用した熱源機器等の運転条件設定や、長期間にわたる地中温度の計測が可能となる。
【0041】
本実施形態における地中杭1は、固化材2が中空筒状の既製杭10の内方へ充填されて構築された基礎杭Pとしたが、固化材2を杭孔へ充填して構築される基礎杭Pとしても良い。杭孔は地盤面に削孔された縦孔である。この形式の基礎杭Pには、例えば場所打ち杭が該当する。地中杭1を場所打ち杭とした場合、その内部に挿入される杭鉄筋籠(杭鉄筋を一体的に組んだもの)を利用して、保護管3や熱交換用配管6を地中杭1の外周側に設置する。このため、スペーサ5は不要となる。保護管3や熱交換配管6は杭鉄筋籠の外周側に取り付ける方が熱交換の効率上好ましいが、杭孔の孔面に保護管3や熱交換用配管6が接触する場合は、杭鉄筋籠の内側に取り付けてもよい。地中杭1を場所打ち杭とした場合、場所打ち杭の躯体を構成するコンクリートが固化材2に該当する。その他の構成は既製杭10を用いた前述の実施形態における地中杭1と同様であり説明を省略する。
【0042】
地中杭1を、固化材2を杭孔へ充填して構築される基礎杭の構造とすることにより、建築物の場所打ち杭を利用して、メンテナンス可能にセンサー4を取り付けることが可能となり、地中状態(温度)の推定が可能となる。
【0043】
地中杭1を、固化材2を杭孔へ充填して構築される基礎杭、すなわち場所打ち杭とした場合、副地中杭20も杭孔へ充填して構築される基礎杭として、地中杭1に隣接させて設置する。副地中杭20内には先の実施形態と同様の副センサー22、熱交換配管25が埋設される。副センサー22、熱交換配管25は,副地中杭20内部に挿入される杭鉄筋籠を利用して、副地中杭20内に配置する。このため、スペーサ24は不要となる。
【0044】
これにより地中杭1が場所打ち杭であっても、そのセンサー4の計測値を補正するための計測値を副センサー22により計測でき、センサー4の計測値に対して適切な補正を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る地中杭の構造の好適な一実施形態における地中杭の垂直方向の断面図である。
【図2】図1に示した地中杭の水平方向の断面図である。
【図3】図1に示した地中杭の保護管の内部状況を説明するための、保護管端部の垂直方向の断面図である。
【図4】本発明に係る地中杭の構造の好適な一実施形態における副地中杭の垂直方向の断面図である。
【図5】図4に示した副地中杭の水平方向の断面図である。
【図6】本発明に係る地中杭の構造の好適な一実施形態における地中杭および副地中杭の配置を示す平面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 地中杭
2 固化材
3 保護管
4 センサー
6 熱交換用配管
10 既製杭
20 副地中杭
21 固化材
22 副センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサーが内部に設置される地中杭の構造であって、
固化材の固化によって地中に構築される地中杭と、
上記固化材内に、該地中杭の長さ方向に空間を形成するために埋設される保護管と、
該保護管の上記空間に挿抜自在に挿入されるセンサーとを有することを特徴とする地中杭の構造。
【請求項2】
前記地中杭が、前記固化材を中空筒状の既製杭の内方へ充填して構築される基礎杭であることを特徴とする請求項1に記載の地中杭の構造。
【請求項3】
前記地中杭が、前記固化材を杭孔へ充填して構築される基礎杭であることを特徴とする請求項1に記載の地中杭の構造。
【請求項4】
前記地中杭には、地中熱を利用するための熱交換用配管が埋設されること特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の地中杭の構造。
【請求項5】
固化材の固化によって地中に構築され、上記センサーによる計測値を補正するための計測値を得るための副センサーが該固化材内に埋設された副地中杭を、前記地中杭に隣接して配置したことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の地中杭の構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−102884(P2009−102884A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275703(P2007−275703)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(591023479)ダイダン株式会社 (82)
【Fターム(参考)】