説明

地中貫入体のための止水装置及びこれを用いた地中貫入体の施工方法

【課題】地下水の水圧が高い条件下においても、鋼殻エレメントの圧入部位からの漏水を確実に防止する。
【解決手段】地盤内に構築される鋼殻エレメントに対して、予め土留め鋼材3の圧入予定部位に、土留め鋼材3の断面形状に沿った開口溝20を形成するとともに、前記開口溝20を塞ぐ止水部材を備えた止水装置21を設けておき、この止水装置21は、土留め鋼材3の圧入前の状態で止水性を確保する易破断性の第1止水部材23と、この第1止水部材23の上部側に間を空けて配置されるとともに、土留め鋼材3の圧入後の状態で止水性を確保する第2止水部材24とからなり、前記第2止水部材24は、前記地中貫入体の断面形状に沿った開口溝24aが形成された下段側ゴムパッキン24A、上段側ゴムパッキン24Bとからなり、前記上段側ゴムパッキン24Bは下段側ゴムパッキン24Aと離間を空けて配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下鉄、洞道、共同溝、地下道路、地下街、地下駐車場、交差アンダーパス等の地下構造体を構築するに当たり、地中に設けた鋼殻エレメントから土留め鋼材、支柱、連結梁、上載土支持材などの地中貫入体を施工する際、前記鋼殻エレメントに設けた開口溝からの漏水を防止するための鋼殻エレメントの止水装置及びこれを用いた地中貫入体の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地下鉄、洞道、共同溝、地下道路、地下街、地下駐車場等の地下構造物を構築する方法として開削工法が知られている。この開削工法は、掘削領域を区画する境界部に地上から土留壁を構築し、この土留壁によって囲まれた領域を、適宜路面覆工および切梁支保工等を設けて周辺地盤・土留支保工の安定を図りながら段階的に掘削を行い、その空間部分に目的とする地下構造物を構築した後、埋め戻しを行う工法であり、市街地における掘削工事においても多用されている。
【0003】
しかしながら、近年、市街地においては、電力用および通信用ケーブル、ガス、上下水道管路等多くの地下埋設物が輻輳し、また地下構造物および鉄道等の営業線に近接した工事が増加するとともに、騒音や振動等の周辺環境への影響など、開削工法による地下構造物の施工が著しく困難な状況になってきている。
【0004】
このような状況に鑑み、発明者等は、下記特許文献1において、地下埋設物や地上構造物が存在するために地上からの土留め壁の施工が困難若しくは不可能な条件下においても、施工を可能とした地中貫入体の施工方法を提案した。
【0005】
具体的には、地盤内に構築した横坑(鋼殻エレメント)から土留め用鋼材等の地中貫入体を施工するに当たり、止水性を確保するための止水材注入作業を不要とするとともに、地中貫入体の圧入作業に伴う準備作業、盛替え作業等の施工手間を大幅に省力化することを目的として、予め鋼殻エレメントにおける土留め鋼材の圧入部位に対して、土留め鋼材の断面形状に沿った開口溝を形成するとともに、前記開口溝を塞ぐ止水部材を備えた止水装置を設けておき、鋼殻エレメントの内部から圧入する土留め鋼材の継手を設置済みの土留め鋼材の継手に結合させ、前記止水部材を破断させながら前記土留め鋼材を地盤に向けて圧入するものである。
【0006】
前記止水装置50は、図20に示されるように、鋼殻エレメントの土留め鋼材51の圧入部位に対して設けられ、土留め鋼材51の断面形状を成すスキンプレート52に形成された開口溝53を塞がないように、同様に開口溝54aが形成された止水ベース板54を固設し、その上面側に前記土留め鋼材51の圧入前の状態で止水性を確保するために易破断性の第1止水部材55を配設するとともに、その上面側に前記土留め鋼材51の圧入後の状態で止水性を確保するために、土留め鋼材51の挿入溝56aが形成された第2止水部材56とを積層した後、押え板57をボルト58,58…によって固定した止水装置50である。土留め鋼材51の圧入に当たっては、予め土留め鋼材51の継手内部に止水材を充填しておき、図21(A)に示されるように、小型の圧入式杭打ち機(図示せず)を用い、設置済みの土留め鋼材51の継手に一方側の継手を嵌合させながら土留め鋼材51の先端を第2止水部材56の挿入溝56aに位置決めしたならば、その状態のまま地盤側に向けて押し込み、第1止水部材55を破断させて地盤中に圧入する。圧入後の状態では、図21(B)に示されるように、前記第2止水部材56の挿入溝56aの溝壁が土留め鋼材51の側面に密着することにより止水性が確保されるようになる。
【特許文献1】特開2006−265827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、その後発明者等が研究を重ねた結果、上述の止水装置50は、この接合部にかかる水圧が低い場合には十分な止水性を発揮するものの、水圧が高くなると、止水装置50において土留め鋼材51と第2止水部材56との間及び継手接合部から漏水が生じるおそれがあった。特に、深層地下構造物を構築する場合には、止水装置に高圧の地下水圧がかかることが想定されるため、これを解決する必要性がある。
【0008】
そこで本発明の主たる課題は、地下水の水圧が高い条件下においても、鋼殻エレメントの圧入部位からの漏水を確実に止水できる地中貫入体のための止水装置及びこれを用いた地中貫入体の施工方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、地盤内に構築される鋼殻エレメントに対して、予め土留め鋼材の圧入予定部位に、土留め鋼材の断面形状に沿った開口溝を形成するとともに、前記開口溝を塞ぐ止水部材を備えた止水装置を設けておき、前記鋼殻エレメントの内部から前記止水部材を破断させながら前記土留め鋼材を地盤に向けて圧入する地中貫入体の施工方法における前記止水装置であって、
前記止水装置は、前記地中貫入体の圧入前の状態で止水性を確保する易破断性の第1止水部材と、この第1止水部材の上部側に間を空けて配置されるとともに、前記地中貫入体の断面形状に沿った開口溝が形成され、かつ前記地中貫入体の圧入後の状態で止水性を確保する第2止水部材とからなることを特徴とする地中貫入体のための止水装置が提供される。
【0010】
上記請求項1記載の発明において、第2止水部材が第1止水部材の上部側に間を空けて配置されることによって、換言すれば、前記第2止水部材の下側に曲げ変形を許容する空間を形成することにより、各第2止水部材の地中貫入体への当接部分は、地盤側方向に曲げ変形し、第2止水部材の曲げ復元力が付加された状態で密着するようになり、地盤側から水圧がかかった条件下でも、漏水を確実に防止できるようになる。
【0011】
請求項2に係る本発明として、前記第2止水部材は、上下方向に複数段で配置されるとともに、前記地中貫入体の断面形状に沿った開口溝が形成されたゴムパッキン構造とされ、各ゴムパッキンは上下方向に隣接するゴムパッキンと離間を空けて配置されている請求項1記載の地中貫入体のための止水装置が提供される。
【0012】
上記請求項2記載の発明は、具体的な実施態様を示したものであり、第2止水部材が前記地中貫入体の断面形状に沿った開口溝が形成されたゴムパッキンが上下方向に複数段で配置されたゴムパッキン構造とされることによって、地中貫入体の圧入後の状態で地盤側からの水の浸入に対して段階的な止水が可能となり、漏れが確実に防止できるようになる。
【0013】
請求項3に係る本発明として、前記第2止水部材は、前記地中貫入体の断面形状に沿った開口溝が形成された下段側ゴムパッキンと、前記地中貫入体の断面形状に沿った開口溝が形成された上段側ゴムパッキンとからなる上下2段のゴムパッキン構造とされ、前記上段側ゴムパッキンは下段側ゴムパッキンと離間を空けて配置されている請求項1記載の地中貫入体のための止水装置が提供される。
【0014】
上記請求項3記載の発明は、具体的な実施態様を示したものであり、第2止水部材は、前記地中貫入体の断面形状に沿った開口溝が形成された下段側ゴムパッキンと、前記地中貫入体の断面形状に沿った開口溝が形成された上段側ゴムパッキンとからなる上下2段のゴムパッキン構造とし、前記上段側ゴムパッキンを下段側ゴムパッキンと離間を空けて配置することにより、地下水の水圧が高い条件下においても、鋼殻エレメントの圧入部位からの漏水を確実に止水できる。
【0015】
請求項4に係る本発明として、前記第1止水部材と第2止水部材の空間部及び/又は第2止水部材のゴムパッキン間の空間部に止水材を充填配置してある請求項1〜3いずれかに記載の地中貫入体のための止水装置が提供される。
【0016】
上記請求項4記載の発明は、前記第1止水部材と第2止水部材の空間部及び/又は第2止水部材のゴムパッキン間の空間部に止水材を充填配置することにより、土留め鋼材圧入後の状態で確実に漏水が回避できるようになる。
【0017】
請求項5に係る本発明として、前記ゴムパッキンは、土留め鋼材同士の継手部に対応する位置に、継手形状にあった開口が形成されているとともに、開口側縁から延在して土留め鋼材間の隙間に侵入する突出舌片を形成してある請求項1〜4いずれかに記載の地中貫入体のための止水装置が提供される。
【0018】
上記請求項5記載の発明は、前記ゴムパッキンには、土留め鋼材同士の継手部に対応する位置に、継手形状にあった開口を形成するとともに、開口側縁から延在して土留め鋼材間の隙間に侵入する突出舌片が形成されることにより、ゴムパッキンが土留め鋼材継手部の複雑な継手形状に対応して密着するようになり、継手部からの漏水が確実に防止される。
【0019】
請求項6に係る本発明として、前記第1止水部材として、薄ゴムシートが用いられている請求項1〜5いずれかに記載の地中貫入体のための止水装置が提供される。
【0020】
請求項7に係る本発明として、前記土留め鋼材は、順次、圧入する土留め鋼材の継手を圧入済みの土留め鋼材の継手に結合させて圧入する請求項1〜6いずれかに記載の地中貫入体のための止水装置が提供される。
【0021】
請求項8に係る本発明として、地盤内に構築される鋼殻エレメントに対して、予め土留め鋼材の圧入予定部位に、土留め鋼材の断面形状に沿った開口溝を形成するとともに、前記開口溝を塞ぐ止水部材を備えた請求項1〜7いずれかに記載される止水装置を設けておき、前記鋼殻エレメントの内部から、順次、圧入する土留め鋼材の継手を圧入済みの土留め鋼材の継手に結合させ、前記止水部材を破断させながら前記土留め鋼材を地盤に向けて圧入する地中貫入体の施工方法であって、
前記土留め鋼材の圧入前に、予め、継手部に止水材を充填塗布した状態で前記土留め鋼材を地盤に向けて圧入することを特徴とする地中貫入体の施工方法が提供される。
【0022】
請求項9に係る発明として、前記第1止水部材と第2止水部材の空間部及び第2止水部材のゴムパッキン間の空間部に、膨張硬化型の止水材又は非膨張非硬化型の止水材を充填するとともに、圧入済みの土留め鋼材と結合する側の継手内部に前記膨張硬化型の止水材を充填し、圧入済みの土留め鋼材と結合しない側の継手表面に前記膨張硬化型の止水材を塗布するとともに、継手内部に非膨張非硬化型の止水材を充填した状態で前記土留め鋼材を地盤に向けて圧入する請求項8記載の地中貫入体の施工方法が提供される。
【0023】
上記請求項9記載の発明では、土留め鋼材の圧入前に、予め、前記第1止水部材と第2止水部材の空間部及び第2止水部材のゴムパッキン間の空間部に、膨張硬化型の止水材又は非膨張非硬化型の止水材を充填する。従って、土留め鋼材圧入時及び圧入後の状態での漏水が回避できるようになる。前記止水材は止水箇所に応じて止水材の種類を使い分けるようにするのが望ましい。例えば、土留め鋼材の継手部には止水性の高い膨張硬化型の止水材を充填するようにし、それ以外の部位には非膨張非硬化型の止水材を充填することにより、コスト低減を図ることができる。
【0024】
また、前記土留め鋼材の圧入前に、圧入済みの土留め鋼材と結合する側の継手には膨張硬化型の止水材を充填しておくことにより、圧入後、継手部の隙間が膨張硬化型の止水材で充填され漏水が回避される。また、圧入済みの土留め鋼材と結合しない側の継手には膨張硬化型の止水材を塗布し、かつ継手内部に非膨張非硬化型の止水材を充填しておくことにより、圧入後に継手内からの漏水を回避できるとともに、次順の土留め鋼材を圧入するまでの間に、前記止水材が硬化しないため次順の土留め鋼材を抵抗なく圧入できるようになる。
【発明の効果】
【0025】
以上詳説のとおり本発明によれば、地下水の水圧が高い条件下においても、鋼殻エレメントの圧入部位からの漏水を確実に止水できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
図1は本発明に係る地中貫入体の施工方法を用いた地下構造体を構築するための山留め状態を示す横断面図である。
【0027】
図1に示された地下構造物5は、例えば交差アンダーパス、地下鉄、洞道、共同溝、地下道路、地下街、地下駐車場等のために地中に構築される構造物であり、本発明の地中貫入体の施工方法は、図示されるように、地下構造物5の上部側地盤に、電力用ケーブルE、通信線T、ガス管G、水道管W、下水道管D等の地下埋設物10が存在しているため、これらの地下埋設物10を移設しない限り地表面からの土留め壁の構築が不可能である場合や、交差アンダーパス工事を開削で工事を行う場合には、切回し道路の確保、交通規制による二次渋滞、近隣に与える影響などを考慮し、ボックスカルバート(地下構造物5)を非開削で構築する場合などに好適に採用されるものである。
【0028】
具体的には、地下埋設物10の下方地盤にシールド掘進機若しくは推進機を用いて縦長矩形断面形状の横坑1A〜1Cを構築するとともに、各横坑1A〜1Cの間に複数の、図示例では3つの横長矩形断面形状の横坑2A〜2Fを構築する。次いで、両側部に位置する横坑1A、1Cの下面から下方地盤に向けて継手付の土留め鋼材3,3…を圧入し、連続した前記鋼殻エレメント1A、1Cと土留め鋼材3,3…とによる土留め壁6,6を形成し、かつ中央の横坑1Bの下面から下方地盤に向けて支持杭となる支柱鋼材4を長手方向に所定の間隔で圧入し、さらに横長横坑2A〜2Fを相互に接続するとともに、横坑1A〜1Cと接続することにより、上載土砂を支持する上部構造体7を構築した後、前記土留め壁6,6及び上部構造体7とで囲まれる空間内を掘削するとともに、前記横坑1A〜1C、2A〜2Fを成す鋼殻エレメント11、12の一部を解体し、空間内にカルバートボックス5からなる地下構造物を構築するものである。
【0029】
前記横坑1A〜1C、2A〜2Fの掘削にシールド掘進機を用いる場合は、例えば、図16および図17に示されるように、一対のドラムカッタ41,41間にこれよりも小径の一対のリングカッタ42が配設されたほぼ正方形断面の掘進ユニット43を単独で又は縦方向に複数連結したものを用いることができる。なお、シールド掘削機としては円形断面のものを用いることもできるが、掘削土量を低減できる点から矩形断面のものを用いるのが望ましい。また、線形が曲線である場合には、中折れ機構を有し曲線掘削が可能なものが用いられる。
【0030】
一方、前記鋼殻エレメント11は、詳細には図2に示されるように、外殻を成すスキンプレート13の内面側に部材長手方向(掘進方向)に所定の間隔で周方向に連続する主桁14,14…が設けられるとともに、周方向に所定の間隔で部材長手方向に沿って断面L字状の第2補強桁15,15…が設けられた構造となっている。この鋼殻エレメント11,12は、前記シールド機による地盤掘削に伴い、その掘削済み部分に順次設置されることにより、地盤内に連続的に設けられるものである。なお、前記横坑1A〜1C、2A〜2Fの掘削に推進掘進機を用いる場合は、鋼殻エレメント11,12は、発進立坑側からジャッキにより押し出され、地盤内に連続的に設けられることになる。
【0031】
前記鋼殻エレメント11から下方地盤に向けて土留め鋼材3(又は支柱鋼材4)を圧入するに当たり、予め、前記鋼殻エレメント11における土留め鋼材3(又は支柱鋼材4)の圧入部位に対して、前記土留め鋼材3(又は支柱鋼材4)の断面形状の開口溝20を形成するとともに、前記開口溝20を塞ぐ止水部材23を備えた止水装置21を設けておき、前記鋼殻エレメント11の内部から前記止水部材23を破断させながら前記土留め鋼材3(又は支柱鋼材4)を地盤に向けて圧入するものである。
【0032】
本発明は、前記止水装置21に関して、特に深層の地盤内に地下構造物を構築する場合など、地下水の水圧が高い条件下においても、確実に止水できる止水装置21の構造を提供するものである。なお、被圧地下水の水圧条件としては、0.2MPa程度までを想定している。
【0033】
以下、図3〜図13に基づき、土留め鋼材3の圧入要領を説明しながら詳述する。
【0034】
前記止水装置21は、図3(B)に示されるように、スキンプレート13に形成した開口溝20を塞がないように、同様に開口溝22aが形成された止水ベース板22を固設し、その上面側に前記土留め鋼材3の圧入前の状態で止水性を確保するために易破断性の第1止水部材23を配設するとともに、その上面側にスペーサー27によって間を空けて配置されるとともに、前記地中貫入体の圧入後の状態で止水性を確保する第2止水部材24を配置した後、押え板25をボルト26、26…によって固定したものである。また、第2止水部材24は、土留め鋼材3の断面形状に沿った開口溝24aが形成されたゴムパッキンが上下方向に複数段で配置されたゴムパッキン構造とされ、各ゴムパッキンは上下方向に隣接するゴムパッキンと離間を空けて配置されている。
【0035】
図示例では、前記第2止水部材24は、前記地中貫入体の断面形状に沿った開口溝24aが形成された下段側ゴムパッキン24Aと、前記地中貫入体の断面形状に沿った開口溝24aが形成された上段側ゴムパッキン24Bとからなる上下2段のゴムパッキン構造とされ、前記上段側ゴムパッキン24Bは下段側ゴムパッキン24Aとスペーサー28によって離間を空けて配置されている。なお、本実施例では、前記上段側ゴムパッキン24Bは、下段側のゴムパッキン24Aの倍の厚みのゴムパッキンを用いて構成しているが、前記上段側ゴムパッキン24Bについては、下段側ゴムパッキン24Aと同部材を積層することにより倍の厚みを確保することでもよい。
【0036】
前記第1止水部材23としては、例えば厚み3〜7mm程度の薄ゴムシートを好適に用いることができ、前記第2止水部材24としては、1層当たり5〜10mm程度のパッキンゴムとし、その挿入溝幅を土留め鋼材3の肉厚よりも8mm(片側4mm)程度狭くしたものを好適に用いることができる。材質的にはゴム材の他、樹脂又は発泡樹脂などであってもよい。また、破断部分を限定するために、前記第1止水部材23の薄ゴムシートには、裏面に到達しない浅い切込みを形成しておくこともできる。
【0037】
前記土留め鋼材3の圧入は、図4(A)に示されるように、小型の圧入式杭打ち機(図示せず)を用い、設置済みの土留め鋼材3の継手3aに一方側の継手3bを嵌合させながら土留め鋼材3の先端を第2止水部材24の挿入溝24aに位置決めしたならば、その状態のまま地盤側に向けて押し込み、第1止水部材23を破断させて地盤中に圧入する。圧入後の状態では、図4(B)に示されるように、前記第2止水部材24を構成する各ゴムパッキン24A、24Bの土留め鋼材3への当接部分が地盤側方向へ曲げ変形し、ゴムパッキン24A、24Bの曲げ復元力が付加された状態で密着する。
【0038】
前記土留め鋼材3の圧入に当たっては、予め、前記第1止水部材23と第2止水部材24の空間部29a及び/又は第2止水部材24のゴムパッキン24A、24B間の空間部29bに、膨張硬化型の止水材45又は非膨張非硬化型の止水材46を充填するのが望ましい。土留め鋼材3の圧入前に予め前記空隙部29に各種止水材45、46を充填しておくことにより、圧入後に(図4(B)参照)、空隙部29の止水材45、46によって止水性が向上する。
【0039】
前記膨張硬化型止水材45は、例えばウレタン樹脂を主成分とし、水分の吸収により膨張するとともに、時間経過によって次第に硬化を示す止水材であり、かかる膨張硬化型止水材45は、特に止水が困難な継手部において空隙部29を充填する止水材として用いるのが好適である。
【0040】
一方、前記非膨張非硬化型止水材46は、例えばベントナイトを主成分とした止水材を使用することができる。かかる非膨張非硬化型止水材46は、継手部以外で空隙部29を充填する止水材として用いるのが好適である。
【0041】
なお、本例では前記土留め鋼材3として、図5に示されるように、フランジ幅が上下で異なる断面変形H形状の鋼材(商品名:Kドメール−Sタイプ)を用いたが、山留め機能を有する高剛性のものであればどのような土留め鋼材を用いてもよい。また、前記開口溝20は、使用する土留め鋼材の断面形状に合わせて形成される。
【0042】
前記土留め鋼材3、3によって連続した土留め壁6を構築するためには、図3(A)に示されるように、隣接する土留め鋼材3,3の継手3a、3b同士を結合させた状態とする必要があるため、土留め鋼材3の圧入は、一方側から順に継手3a、3bを結合させながら行われる。この場合、本出願人が特開2006−265827号公報で提案した構造では、被圧地下水の水圧が高い場合、図20(A)に示されるように、継手51a、51b同士の結合部分には、第2止水部材56と継手51a、51bとの間に生じる第1の隙間60と、継手50a、50b同士の接合部に生じる第2の隙間61とから漏水し、継手結合部の止水性が十分に確保されていなかった。
【0043】
そこで本発明では、前記第1の隙間60に対する対策として、図6(A)に示されるように、前記ゴムパッキン24に、土留め鋼材同士の継手部3a、3bに対応する位置に、継手形状にあった開口24bを形成するとともに、開口側縁から延在して土留め鋼材間の隙間に侵入する突出舌片24c、24cを形成するようにしている。
【0044】
前記突出舌片24cの作用をさらに詳述すると、図6(A)に示される状態から、土留め鋼材3を圧入すると、突出舌片24cは、同図(B)に示されるように、土留め鋼材3に押圧され、略90°回転した状態となる。その後、同図(C)に示されるように、次順の土留め鋼材3’の継手3bを設置済みの土留め鋼材3の継手3aに結合した状態で圧入すると、突出舌片24cは、土留め鋼材の継手3a、3b間の隙間に侵入して密着し、止水性が確保されるようになる。
【0045】
前記第2の隙間61に対する対策として、図7に示されるように、設置済みの土留め鋼材3に次順の土留め鋼材3’を圧入する際、圧入する土留め鋼材3’には、設置済みの土留め鋼材3と結合する側の継手3bに予め膨張硬化型の止水材45を充填しておくようにする。また、設置済みの土留め鋼材3と結合しない側の継手3aに予め膨張硬化型の止水材45を塗布し、かつ非膨張非硬化型の止水材47を充填しておくようにする。
【0046】
圧入済みの土留め鋼材3と結合する側の継手3bに膨張硬化型の止水材45を充填しておくことにより、圧入後に、継手部3a、3bの隙間が前記膨張硬化型の止水材45で密着状態で充填され漏水が防止される。また、圧入済みの土留め鋼材3と結合しない側の継手3aには膨張硬化型の止水材45を塗布し、かつ非膨張非硬化型の止水材47を充填しておくことにより、次順の土留め鋼材3を圧入するまでの間、継手3a内に空間を埋め止水性を確保することができる。また、次順の土留め鋼材3を圧入する際に、圧入抵抗を小さくできるとともに、圧入後に継手3a内に止水材が残置されることにより止水性を確保する。
【0047】
一方で、土留め鋼材3を地盤に圧入した直後の状態では、未結合側継手3a部分では破断した第1止水部材23と土留め鋼材3との間に隙間が生じ地下水の漏れが生ずるおそれがある。
【0048】
そこで、図8に示されるように、圧入直後の土留め鋼材の未結合側継手部3aに対して、継手部パッキン装置8を設置し止水部材23、24との隙間を封鎖するようにするのが望ましい。
【0049】
前記継手パッキン装置8は、同図に示されるように、継手断面形状を成す継手パッキン材30と、この継手パッキン材30を支持する固定具31とからなる装置で、前記固定具31が止水装置21の押え板25にボルト固定される。継手パッキン30の断面形状は、図13に示されるパッキン形状とする。
【0050】
図8に示される状態から、次順の土留め鋼材3’を圧入するには、先ず図9(A)に示されるように、固定具31を取り外すと共に、他方側の継手挿入部位に対して、図9(B)に示すように、継手パッキン材30を配設し、取り外した固定金具31を取付け、継手パッキン装置8を設置したならば、図10に示されるように、土留め鋼材3’の一方側継手3bを設置済みの土留め鋼材3の継手3aに嵌合させるとともに、他方側継手3aを前記継手パッキン装置8の継手パッキン材30に嵌合させ、図11に示されるように、前記一方側継手3bにより継手パッキン材30を地盤中に押し込みながら、土留め鋼材3’を地盤中に圧入する。圧入後の状態を図12に示すが、図8に示す状態と同様の状態となり、常時圧入直後における止水が継手パッキン装置8によっても確保されるようになる。また、嵌合が完了した継手部3a、3bの止水性は、継手3a、3b内に残置される止水材45、47により確保される。
【0051】
他方、横長横坑2A〜2Fを相互に接続し上部構造体7を構築するには、図14に記載されるように、鋼殻エレメント2A〜2Fの側面に山留め用スライド鋼34,34を設けておき、このスライド鋼板34を鋼殻エレメント2A〜2Fの内部から油圧ジャッキ(図示せず)等を用いて隣接する鋼殻エレメント2A〜2Fの地山に挿入し山留めを行うとともに、地下水位以下である場合には、止水材35を注入して止水性を確保するようにする。そして、鋼殻エレメント2A〜2F同士をPC鋼棒やH型鋼等の連結部材にて連結し構造的に一体とする。
【0052】
次に、図15に示すように、構造規模に応じて前記鋼殻エレメント1A〜1Cから土留め鋼材6及び支柱鋼材4を下方地盤に向けて打ち込み、上部構造体7と側部地盤を支持させたならば、土留め壁6,6および上部構造体7によって囲まれた地中地盤を最終掘削深さである掘削床付高40まで掘削段階ごとに腹起こし38、切梁39、切梁受桁37等の土留支保工を架設しながら掘削を行う。
【0053】
掘削終了後は、図1に示すように、基礎コンクリートを打設し、適宜切梁等の土留支保工を解体するとともに、鋼殻エレメント11,12の一部を解体しながら地下構造物5の構築を行う。
【0054】
〔他の形態例〕
(1)上記形態例では、前記第2止水部材24は、上下方向に複数段、図示例では2段で配置されたゴムパッキン24A、24Bとしたが、場合によって単層のゴムパッキンとしてもよい。
【0055】
(2)上記形態例では、土留め鋼材3の圧入方法について詳述したが、横坑1Bの下面から地盤に圧入される支柱鋼材4は、隣接する支柱鋼材4を連続させる必要はなく、所定間隔毎に単独の状態で地盤に圧入すればよい。
【0056】
(3)上記形態例では、鋼殻エレメント1A〜1C、2A〜2Fの内部に覆工コンクリートを打設していないが、強度上必要であるならば、覆工コンクリートを打設するようにしてもよい。
【0057】
(4)上記形態例では、上部構造体7として、横坑2A〜2Fを地盤中に構築し、これら横坑2A〜2Fを相互に連結するとともに、両端部横坑1A、1C及び中間部横坑1Bと連結して、断面門型形状の山留め構造体を構築するようにしたが、前記上部構造体7の構築に当たり、前記中間部の横坑2A〜2Fを設けることなく、図18に示されるように、鋼殻エレメント1A、1Bの間、及び鋼殻エレメント1B、1Cとの間に土留め鋼材9.9…を横架することにより上部構造体7に代えることができる。この場合、土留め鋼材9の施工精度が要求されるため、最初の土留め鋼材9は、水平ボーリングによって横坑1A、1B(1B、1C)間に渡る水平孔を形成した後、水平ボーリング孔に牽引ワイヤーを渡し、この牽引ワイヤーによって前記土留め鋼材9を引っ張りながら正確に設置する。この際に土留め鋼材9の継手内部に牽引ワイヤーを配設しておき、次順の土留め鋼材9を前記牽引ワイヤで引っ張りながら圧入する手順の繰り返しによって土留め鋼材9,9…による上部構造体7を構築するのが望ましい。
【0058】
(5)上記形態例では、鋼殻エレメント1A〜1Cの下面側から下方側地盤に向けて鉛直に土留め鋼材3や支柱鋼材4を圧入するようにしたが、図19に示されるように、両側部及び中間部に上下2段構成で横坑1A〜1Fを構築し、上段側に位置する鋼殻エレメント1A、1B、1C間に土留め鋼材9,9を水平方向に架け渡すとともに、下段側に位置する鋼殻エレメント1D、1E、1F間に土留め鋼材9’,9’を水平方向に架け渡し、さらに上段側の鋼殻エレメント1A、1B、1Cからそれぞれ下方側に位置する下段側鋼殻エレメント1D、1E、1Fに向けて鉛直方向に土留め鋼材6,6…を架け渡すことにより、土留め鋼材9…、9’…、6…により周囲を囲むようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る地中貫入体の施工方法を用いた地下構造物を構築するための山留め状態を示す横断面図である。
【図2】鋼殻エレメント1A(1B,1C)を示す、(A)は横断面図、(B)はB-B線矢視図である。
【図3】止水装置21を示す、(A)は要部平面図、(B)はB-B線矢視図である。
【図4】止水装置21における土留め鋼材3の圧入要領図である。
【図5】土留め鋼材3の横断面図である。
【図6】止水装置21における土留め鋼材3の継手3a、3bを拡大した圧入要領図である。
【図7】止水装置21における土留め鋼材3の継手3a、3bを拡大した圧入要領図である。
【図8】土留め鋼材3の圧入手順図(その1)である。
【図9】土留め鋼材3の圧入手順図(その2)である。
【図10】土留め鋼材3の圧入手順図(その3)である。
【図11】土留め鋼材3の圧入手順図(その4)である。
【図12】土留め鋼材3の圧入手順図(その5)である。
【図13】継手パッキン30の態様を示す図である。
【図14】横坑2A〜2Fの連結要領を示す横断面図である。
【図15】支保工設置による掘削要領を示す横断面図である。
【図16】シールド機の縦断面図である。
【図17】シールド機のカッターヘッド正面図である。
【図18】山留め構造体の他の形成方法(その1)を示す横断面図である。
【図19】山留め構造体の他の形成方法(その2)を示す横断面図である。
【図20】従来の止水装置50を示す、(A)は要部平面図、(B)はB-B線矢視図である。
【図21】従来の止水装置50における土留め鋼材51の圧入要領図である。
【符号の説明】
【0060】
1A〜1C・2A〜2F…横坑、3…土留め鋼材、4…支柱鋼材、5…ボックスカルバート(地下構造物)、6…土留め壁、7…上部構造体、8…継手部パッキン装置、9…土留め鋼材、10…地下埋設物、11・12…鋼殻エレメント、13…スキンプレート、14…主桁、15…補強桁、20…開口溝、21…止水装置、23…第1止水部材、24…第2止水部材、24c…突出舌片、27・28…スペーサー、29…空隙部、45…膨張硬化型止水材、46・47…非膨張非硬化型止水材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤内に構築される鋼殻エレメントに対して、予め土留め鋼材の圧入予定部位に、土留め鋼材の断面形状に沿った開口溝を形成するとともに、前記開口溝を塞ぐ止水部材を備えた止水装置を設けておき、前記鋼殻エレメントの内部から前記止水部材を破断させながら前記土留め鋼材を地盤に向けて圧入する地中貫入体の施工方法における前記止水装置であって、
前記止水装置は、前記地中貫入体の圧入前の状態で止水性を確保する易破断性の第1止水部材と、この第1止水部材の上部側に間を空けて配置されるとともに、前記地中貫入体の断面形状に沿った開口溝が形成され、かつ前記地中貫入体の圧入後の状態で止水性を確保する第2止水部材とからなることを特徴とする地中貫入体のための止水装置。
【請求項2】
前記第2止水部材は、上下方向に複数段で配置されるとともに、前記地中貫入体の断面形状に沿った開口溝が形成されたゴムパッキン構造とされ、各ゴムパッキンは上下方向に隣接するゴムパッキンと離間を空けて配置されている請求項1記載の地中貫入体のための止水装置。
【請求項3】
前記第2止水部材は、前記地中貫入体の断面形状に沿った開口溝が形成された下段側ゴムパッキンと、前記地中貫入体の断面形状に沿った開口溝が形成された上段側ゴムパッキンとからなる上下2段のゴムパッキン構造とされ、前記上段側ゴムパッキンは下段側ゴムパッキンと離間を空けて配置されている請求項1記載の地中貫入体のための止水装置。
【請求項4】
前記第1止水部材と第2止水部材の空間部及び/又は第2止水部材のゴムパッキン間の空間部に止水材を充填配置してある請求項1〜3いずれかに記載の地中貫入体のための止水装置。
【請求項5】
前記ゴムパッキンは、土留め鋼材同士の継手部に対応する位置に、継手形状にあった開口が形成されているとともに、開口側縁から延在して土留め鋼材間の隙間に侵入する突出舌片を形成してある請求項1〜4いずれかに記載の地中貫入体のための止水装置。
【請求項6】
前記第1止水部材として、薄ゴムシートが用いられている請求項1〜5いずれかに記載の地中貫入体のための止水装置。
【請求項7】
前記土留め鋼材は、順次、圧入する土留め鋼材の継手を圧入済みの土留め鋼材の継手に結合させて圧入する請求項1〜6いずれかに記載の地中貫入体のための止水装置。
【請求項8】
地盤内に構築される鋼殻エレメントに対して、予め土留め鋼材の圧入予定部位に、土留め鋼材の断面形状に沿った開口溝を形成するとともに、前記開口溝を塞ぐ止水部材を備えた請求項1〜7いずれかに記載される止水装置を設けておき、前記鋼殻エレメントの内部から、順次、圧入する土留め鋼材の継手を圧入済みの土留め鋼材の継手に結合させ、前記止水部材を破断させながら前記土留め鋼材を地盤に向けて圧入する地中貫入体の施工方法であって、
前記土留め鋼材の圧入前に、予め、継手部に止水材を充填塗布した状態で前記土留め鋼材を地盤に向けて圧入することを特徴とする地中貫入体の施工方法。
【請求項9】
前記第1止水部材と第2止水部材の空間部及び第2止水部材のゴムパッキン間の空間部に、膨張硬化型の止水材又は非膨張非硬化型の止水材を充填するとともに、圧入済みの土留め鋼材と結合する側の継手内部に前記膨張硬化型の止水材を充填し、圧入済みの土留め鋼材と結合しない側の継手表面に前記膨張硬化型の止水材を塗布するとともに、継手内部に非膨張非硬化型の止水材を充填した状態で前記土留め鋼材を地盤に向けて圧入する請求項8記載の地中貫入体の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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