説明

地盤の補強方法、補強地盤

【課題】施工期間を長期化させることなく、垂直縫地工法を行いながら周囲の地盤改良を行うことができるようにする。
【解決手段】地盤の表面の複数個所において、ドリル先端からグラウトを排出する機構を有するロータリーパーカッションより地盤表面に孔30を掘削し、孔30内に芯材31を挿入し、孔30の上部をゴムパッキンにより密閉した状態で、ドリル先端から孔内に略中間高さまでグラウト32を圧入し、ドリルを孔30から撤去し、注入管11と、注入管11を取り囲むように設けられた袋体12とを備えたグラウト注入用パッカー10を孔30内に挿入し、袋体12を膨張させて孔30の内周面に密着させた状態で、注入管11を通して孔内にグラウト32を圧入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山岳トンネル坑口などの切羽崩壊や対象地盤の沈下を生じ得る地盤の表面に孔を削孔し、孔内に芯材を挿入した後、孔内にグラウトを注入することにより、地盤を補強する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、山岳トンネル坑口などの切羽崩壊や対象地盤の沈下が生じ易い斜面では、垂直縫地工法による補強が行われている(非特許文献1参照)。垂直縫地工法とは、まず、斜面表面から必要な深度まで孔を削孔し、削孔した孔内に芯材を挿入し、孔内にグラウト材を充填する工法である。このように地盤内に複数の芯材を格子状に埋設することで、芯材が滑り荷重に対してせん断抵抗するため、切羽崩壊や対象地盤の沈下の発生を抑えることができる。
【非特許文献1】NETIS、新技術情報提供システム“マイクロパイルネイリング工法”、[online]、2007年6月1日、国土交通省、[平成20年9月26日検索]、インターネット〈URL:http://www.netis.mlit.go.jp/RenewNetis/Search/Nt/NtDetail1.asp?REG_NO=CB-050045&TabType=2&nt=nt〉
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、斜面の地盤に強度が必要とされる場合には、垂直縫地工法に加えて、地盤改良を別途行っていた。しかしながら、このように垂直縫地工法に加えて、地盤改良を別途行うと、施工期間が長期化してしまうという問題がある。
【0004】
本発明は上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、施工期間を長期化させることなく、垂直縫地工法を行いながら周囲の地盤改良を行うことができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の地盤の補強方法は、前記地盤の表面の複数個所において、ドリル先端からグラウトを排出する機構を有する削孔機により前記地盤の表面に孔を掘削する削孔ステップと、前記孔内に芯材を挿入する芯材挿入ステップと、前記孔の上部を密閉した状態で、前記ドリル先端から前記孔内に略中間高さまでグラウトを注入する第1の注入ステップと、 グラウトを注入するための注入管と、当該注入管を取り囲むように設けられた袋体とを備えた注入冶具を前記孔内に挿入し、前記袋体を膨張させて前記孔の内周面に密着させた状態で、前記注入管を通して前記孔内にグラウトを注入する第2の注入ステップと、を行うことを特徴とする。
【0006】
上記の補強方法において、前記複数個所のうちの何れかの箇所において、前記第2の注入ステップを行うのと並行して、前記複数個所のうちの他の何れかの箇所において、前記削孔ステップ、芯材挿入ステップ、及び第1の注入ステップのうち少なくとも何れかを行ってもよい。
また、前記第1の注入ステップでは、前記ドリルと孔の間にパッキンを介在させることにより、前記孔の上部を密閉してもよい。
【0007】
また、前記複数個所のうちの何れかの箇所において、前記第1の注入ステップ又は第2の注入ステップを行う際に、前記複数個所のうちの、前記第2の注入ステップが完了した箇所の前記孔を閉塞部材により密閉してもよい。
また、本発明の補強地盤は、上記の地盤の補強方法により補強されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1及び第2の注入ステップにおいて、孔の上部を密閉した状態とするため、孔内にグラウトを圧入することができる。このため、周囲の地盤にグラウトが浸透することとなり、周囲の地盤の地盤改良を行うことができる。また、第1の注入ステップの完了後、第2の注入ステップを行うのと並行して、この削孔機を他の孔における削孔ステップ、及び第1の注入ステップに用いることができ、施工期間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の地盤の補強方法の一実施形態を図面を参照しながら、詳細に説明する。
本実施形態の補強の対象となるのは、例えば、トンネル坑口などの土砂たい積部分をトンネル掘削するような場合の土砂の地山である。本実施形態の補強方法は、このような地盤の表面における縦横に所定の間隔をあけた複数個所において、孔を削孔し、孔内に芯材を挿入し、孔内にグラウトを注入することにより、地盤をせん断補強する方法である。
【0010】
図1は、本実施形態の補強方法に用いられるグラウト注入用パッカー10を示す図である。同図に示すように、グラウト注入用パッカー10は、長尺な鋼製の注入管11と、注入管11の中間部に間隔を開けて取り付けられた上下の袋体12と、を備える。
【0011】
注入管11の上部には、カムロック15が取り付けられており、このカムロック15にグラウト圧入装置から延びるグラウト圧送用のホースを接続することで、グラウト圧入装置から圧送されたグラウトを、注入管11を通して、その下端から排出することができる。
【0012】
袋体12は、外側の布材と内側のゴム材の二層構造のチューブからなり、その上下の縁がゴムバンド13により注入管11の外周面に締め付けられることで取り付けられており、チューブと注入管11の外周面との間に密閉された空間が形成されている。
【0013】
また、グラウト注入用パッカー10は、注入管11の内側を通って、下端が夫々上下の袋体12内に開口するように取り付けられた一対の小径の空気管14を備えている。これら一対の空気管14には、上部にボールバルブ16が設けられている。かかる構成により、空気管14の上端から空気もしくは水を送り込むことで、袋体12を膨張させることができ、さらに、この状態でボールバルブ16により空気管14を閉塞することで、袋体12が膨張した状態を保つことができる。
【0014】
また、図2は、本実施形態の補強方法に用いられるリーク防止用パッカー20である。同図に示すように、リーク防止用パッカー20は、グラウト注入用パッカー10に比べて短い、鋼製の注入管21と、注入管21の中間部に取り付けられた袋体22と、注入管21の内側を通って下端が袋体22内に開口するように取り付けられ、上部にボールバルブ26が介装された空気管24を備える。グラウト注入用パッカー10と同様に、空気管24から空気もしくは水を送り込むことで、袋体22を膨張させることができ、さらに、この状態でボールバルブ26により空気管24を閉塞することで、袋体22が膨張した状態を保つことができる。なお、リーク防止用パッカー20は、グラウト注入用パッカー10と異なり、注入管21の上端は閉塞されている。
【0015】
以下、本実施形態の補強方法を、図3A〜図3Gを参照しながら、説明する。
まず、図3Aに示すように、ロータリーパーカッション40により、地盤を掘削し、孔30を形成する。なお、ロータリーパーカッション40は、地盤を掘削するためのドリル41を備え、ドリル41の先端から削孔した孔内にグラウトを注入する機構を備えた重機である。地盤を掘削する際には、予め、ドリル41の上端部の周囲に、円環状のゴムパッキン50を、中央の孔にドリル41が挿通した状態で取り付けておく。
【0016】
次に、図3Bに示すように、地盤に形成された孔30内に芯材31を挿入する。
次に、図3Cに示すように、ロータリーパーカッション40によりゴムパッキン50を下方に向かって押し付け、ゴムパッキン50をドリル41上部に密着させるとともに、孔30の開口部周縁の地表面と密着させることにより、ゴムパッキン40とドリル41によって孔30の上部を密閉した状態で、ドリル41下部からグラウト32を孔30内に圧入する。この際、上記のようにドリル41の上部にゴムパッキン50を取り付けておくことにより、孔30の上端を密閉しているので、孔30内に圧入したグラウト32を効果的に周囲の地盤内に浸透させることが可能となる。
【0017】
次に、孔30の略中間高さまでグラウト32の注入が完了したら、図3Dに示すように、孔30からロータリーパーカッション40のドリル41を撤去する。次に、図3Eに示すように、袋体12が収縮した状態のグラウト注入用パッカー10を、芯材31の上部が注入管11内に収容されるように、孔30内に挿入する。そして、空気管14を通して袋体12内に空気もしくは水を圧入する。これにより、各袋体12が膨張して孔30の内周面と密着し、孔30の上部を密閉することができる。なお、本実施形態では、グラウト注入用パッカー10に複数の袋体12を取り付けているため、より確実に孔30の上部を密閉することができる。
【0018】
次に、図3Fに示すように、カムロック15にグラウト圧入装置から延びるグラウト圧送用のホース70を接続し、注入管11を通して、孔30内にグラウト32を圧入する。この際、袋体12により孔30の上部を密閉した状態で、孔30内にグラウト32を圧入することで、圧入したグラウト32を周囲の地盤内に効果的に浸透させることができる。
【0019】
なお、グラウト32を孔30内に圧入する際、その近傍にグラウト32の注入が完了した孔30が存在する場合には、図3Gに示すように予め、グラウト32を圧入する前に、この近傍の孔30にリーク防止用パッカー20を挿入し、空気管24を通して袋体22内に空気もしくは水を圧入する。これにより、袋体22が膨張し、孔30の内周面と密着するため、これらグラウト32の注入が完了した孔30の上部がリーク防止用パッカー20により密封されることとなる。
【0020】
このように、グラウト32の注入が完了した孔30の上部を閉塞することで、近傍の他の孔30にグラウト32を圧入する際に、周囲の地盤に伝播した圧力の影響で、グラウト32が孔30からあふれ出すのを防止できる。
【0021】
また、図3Fを参照して説明したグラウト注入用パッカー10を用いてグラウト32を注入する工程と並行して、ロータリーパーカッション40を、次に削孔を行う位置に移動して、図3A〜図3Cを参照して説明したのと同様に、地盤に孔30を削孔し、孔30内に鉄筋31を挿入し、孔30の中間高さまでグラウト32の注入を行う工程を行う。
以上、図3A〜図3Fを参照して説明した工程を、地表面の複数個所において行い、各箇所において孔30内に圧入したグラウト32が硬化することにより、地盤の補強が完了する。
【0022】
以上説明したように、本実施形態によれば、ロータリーパーカッション40のドリル41の上部にゴムパッキン50を取り付けておき、また、グラウト注入用パッカー10の袋体12を膨張させることにより、孔30の上部を密閉した状態でグラウト32を圧入することができ、圧入したグラウト32を孔30の周囲の地盤内に効果的に浸透させることができる。これにより、垂直縫地工法により地盤に作用する滑り荷重に対する補強を施すことができるとともに、地盤にグラウト32が浸透することで地盤を更に補強することができる。
【0023】
また、ロータリーパーカッション40により、孔30の下部にグラウト32を注入した後、残りのグラウト32は、グラウト注入用パッカー10により孔30内に圧入することとしたため、孔30の上部にグラウト32を圧入する作業と並行して、ロータリーパーカッション40により他の孔30を削孔し、この孔30内に芯材31を挿入し、さらに、この孔30の下部にグラウト32を注入する作業を行うことができる。このため、作業効率を向上し、短期間で施工を行うことができる。
【0024】
また、グラウト32を孔30内に圧入する際に、その近傍のグラウト32の注入が完了した他の孔の上部をリーク防止用パッカー20により閉塞しておくことで、孔30内にグラウト32を圧入する際の圧力が地盤を伝播して、他の孔30内のグラウト32に作用したとしても、グラウト32があふれ出すことを防止できる。
【0025】
なお、本実施形態では、グラウト注入用パッカー10に一対の袋体12を設けることとしたが、これに限らず、袋体を一つ又は三つ以上設けることとしてもよい。これと同様に、リーク防止用パッカー20に袋体22を一つのみ設けることとしたが、袋体を複数もうけることとしてもよい。
【0026】
また、本実施形態では、ロータリーパーカッション40により、孔の掘削や孔内へのグラウトの圧入を行うこととしたが、これに限らず、孔の掘削及び孔内へのグラウトの圧入を行うことができる装置であれば用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態の補強方法に用いられるグラウト注入用パッカーを示す図である。
【図2】本実施形態の補強方法に用いられるリーク防止用パッカーである。
【図3A】本実施形態の地盤の補強方法を説明するための図(その1)である。
【図3B】本実施形態の地盤の補強方法を説明するための図(その2)である。
【図3C】本実施形態の地盤の補強方法を説明するための図(その3)である。
【図3D】本実施形態の地盤の補強方法を説明するための図(その4)である。
【図3E】本実施形態の地盤の補強方法を説明するための図(その5)である。
【図3F】本実施形態の地盤の補強方法を説明するための図(その6)である。
【図3G】本実施形態の地盤の補強方法を説明するための図(その7)である。
【符号の説明】
【0028】
10 グラウト注入用パッカー
11、21 注入管
12、22 袋体
13、23 ゴムバンド
14、24 空気管
15 カムロック
16、26 ボールバルブ
20 リーク防止用パッカー
30 孔
31 芯材
32 グラウト
40 ロータリーパーカッション
41 ドリル
50 ゴムパッキン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤の補強方法であって、
前記地盤の表面の複数個所において、
ドリル先端からグラウトを排出する機構を有する削孔機により前記地盤の表面に孔を掘削する削孔ステップと、
前記孔内に芯材を挿入する芯材挿入ステップと、
前記孔の上部を密閉した状態で、前記ドリル先端から前記孔内に略中間高さまでグラウトを注入する第1の注入ステップと、
グラウトを注入するための注入管と、当該注入管を取り囲むように設けられた袋体とを備えた注入冶具を前記孔内に挿入し、前記袋体を膨張させて前記孔の内周面に密着させた状態で、前記注入管を通して前記孔内にグラウトを注入する第2の注入ステップと、を行うことを特徴とする地盤の補強方法。
【請求項2】
請求項1記載の地盤の補強方法であって、
前記複数個所のうちの何れかの箇所において、前記第2の注入ステップを行うのと並行して、
前記複数個所のうちの他の何れかの箇所において、前記削孔ステップ、芯材挿入ステップ、及び第1の注入ステップのうち少なくとも何れかを行うことを特徴とする地盤の補強方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の地盤の補強方法であって、
前記第1の注入ステップでは、
前記ドリルと孔の間にパッキンを介在させることにより、前記孔の上部を密閉することを特徴とする地盤の補強方法。
【請求項4】
請求項1から3のうち何れか1項に記載の地盤の補強方法であって、
前記複数個所のうちの何れかの箇所において、前記第1の注入ステップ又は第2の注入ステップを行う際に、
前記複数個所のうちの、前記第2の注入ステップが完了した箇所の前記孔を閉塞部材により密閉することを特徴とする地盤の補強方法。
【請求項5】
請求項1から4のうち何れか1項に記載の地盤の補強方法により補強されたことを特徴とする補強地盤。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図3G】
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【公開番号】特開2010−112128(P2010−112128A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−288110(P2008−288110)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】