説明

地盤改良装置。

【課題】直線的なボーリングでは対応できない既設の構造物等の下方の地盤で改良を行うことができる装置を提供する。
【解決手段】管ロッドを長手方向に沿って連結した伝達ロッド2と、伝達ロッド2の先端に取り付けた円筒状の前端ロッドとで構成する。前端ロッドの内部にスライド自在に収納した掘進頭部および位置情報発信器とを回収後に、その回収跡の空洞に高圧噴射筒を挿入する。この高圧噴射筒を通して地中へ高圧で硬化剤を噴射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、いわゆる自在ボーリングによって、直線状及び曲線状に地盤を掘削し硬化剤を高圧噴射して地盤を改良する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
いわゆる自在ボーリングとは、伝達ロッドに内蔵した位置情報発信器から地盤内での位置情報を取得しつつ、直線状及び曲線状に地盤を掘削して長孔を形成し、この長孔内を利用してグラウト材を注入する工法である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記したような自在ボーリングの一例として特許文献1に記載したような技術が知られている。
これは自在ボーリングを行う前端ロッドの内部に位置情報発信器を設置しておき、この位置情報発信器と前端ロッドとを取り付けたワイヤを引っ張って地上に回収できる装置であり、位置情報発信器と前端ロッドとの回収後の長い空洞に薬液注入管を挿入して地中に薬液を注入する。
【特許文献1】特開2005−155209号公報。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記のような既存の装置に対して本発明は、円筒状のロッドを長手方向に沿って連結した伝達ロッドと、伝達ロッドの先端に取り付けた円筒状の前端ロッドと、この前端ロッドの内部にスライド自在に収納した掘進頭部および位置情報発信器と、掘進頭部と位置情報発信器を回収後に、その回収跡の空洞に挿入するための高圧噴射筒とより構成し、この高圧噴射筒を通して地中へ高圧で硬化剤を噴射することを特徴とする地盤改良装置である。

【発明の効果】
【0005】
本発明は上記したようになるから、次のような効果を期待できる。
<1> 簡単な装置によって、地盤の改良を行うことができる。
<2> 特に、直線的なボーリングでは対応できない既設の構造物等の下方の地盤で改良を行うことができる。
<3> 既設構造物の下部でなくとも、地震で液状化しやすい砂質地盤の改良や、地下水位の低下による地盤沈下を生じやすい軟弱地盤の改良などを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の地盤改良装置の実施例について説明する。
【0007】
<1> 前提条件。
本発明の地盤改良装置は、いわゆる「自在ボーリング装置」を利用するものである。
この自在ボーリングを図2にしたがって詳細に説明する、単管を長手方向に沿って連結した伝達ロッド2と、その伝達ロッド2の先端に取り付けた円筒状の前端ロッド1と、この前端ロッド1の内部にスライド自在に収納した掘進頭部12および位置情報発信器13とによって構成する。
その際に、前端ロッド1の先端面が推進方向に対して直角面ではなく、一定の傾斜面を形成していること、および伝達ロッド2が前端ロッド1に対して回転を与えることができ、伝達ロッド2を通る圧力流体で掘進頭部12に推進力を与えることができることが特徴である。
直線状の掘削を行う時には、伝達ロッド2を地上のボーリングマシン5によって回転させつつ前端ロッド1に推進力を付与する。
この回転力は前端ロッド1に伝達して回転するから、先端が傾斜していても次々に位置を変えることによって一方へ偏心することなく、直進させることができる。
一方、曲線状に掘削を行う時には、伝達ロッド2および前端ロッド1の回転を設定した角度で停止して推進力だけを付与する。
すると前端ロッド1の前端の受圧傾斜面12cが地山からの土圧によって傾斜面の方向に滑るように誘導され、徐々に曲線状の掘削がなされることになる。
地中のどの位置で直線掘削を行い、どの位置から曲線掘削を行うかは、前端ロッド1の内部に収納した位置情報発信器13からの信号を地上で受けて決定する。
以下、各装置について具体的に説明する。
【0008】
<2>前端ロッド。(図1、2)
前端ロッド1は、単管を長手方向に沿って連結した伝達ロッド2の先端に取り付けた外筒11と、その外筒11の内部に収納した掘進頭部12などによって構成する。
前端ロッド1の外筒11の内径は、伝達ロッド2の内径と同一であり、その内部を後述する装着型注入ヘッド3や貫通型ヘッド4の通過が可能である。
なお本明細書で、前端、前方とは、掘進時にこの装置が前進する方向を意味する。
【0009】
<3>外筒。(図1、2)
前端ロッド1を構成する外筒11は円筒体であるが、掘進時に前方に位置する端面、すなわち前端は、円筒の中心軸に直交する面ではなく、90度以外の角度で交わって、竹やりの先端のように形成してある。
その内面のほとんどは円筒状であるが、前端側の一部には、内部へ突出した段差を、係合段11aとして形成する。
外筒11には後方の伝達ロッド2を介して地上から回転力を与えることができる。
さらに外筒11の内面には、外筒1の軸方向に並行な突条をキー11bとして突設させる。
【0010】
<4>掘進頭部12。(図1、2)
外筒11の内部に収納する部材は、掘進頭部12と位置情報発信器13とによって構成する。
位置情報発信器13は、位置情報を検知し発信する発信部やバッテリーを円筒状のケースに内蔵した装置である。
掘進頭部12はその外径が、外筒11の内径とほぼ等しい円柱体である。
掘進頭部12の前端は円柱の中心軸に直交する面ではなく、外筒11と同じ90度以外の角度で交わって、外筒11の前端にと同様に竹やりの先端のように加工して受圧傾斜面12c形成してある。
さらに掘進頭部12の前端の一部に切り欠き12bを形成し、この切り欠き12bが外筒11の内部へ突出した段差部11aと係合して掘進頭部12が外筒11の前端から前方へ露出することを阻止している。
掘進頭部12の後方には前方ゴム環14を介して位置情報発信器13を取り付け、この位置情報発信器13の後方には後方ゴム環15を介して受圧円盤16を取り付ける。
前方ゴム環14と後方ゴム環15は、外筒11の内面に対して緩く弾性接触する程度の外径をもつ軸方向で短い円盤状である。
このため、外筒11の内面との間で、掘削流体に対するシール性が確保される一方、各ゴム環が短い円盤状であるため、位置情報発信器13を回収する際には、伝達ロッド2の半径の小さい曲線が存在してもゴム環14、15の弾性変形により容易に通過することができる。
掘進頭部12の一部にはキー溝12dを刻設し、このキー溝12dが、外筒1内面のキー11bにかみ合うことによって、外筒11の回転を掘進頭部12に伝達しうるように構成する。
【0011】
<5>流体の通路。
各ゴム環14、15の外径、および受圧円盤16の外径は、外筒11の内径とほぼ等しく構成する。
そして各ゴム環14、15、および受圧円盤16の内部には端面から端面を貫通する流路17を形成する。
位置情報発信器13の外径は、外筒11の内径よりも十分に小さく構成し、位置情報発信器13の外面と外筒11の内面との間の空間を流体の通路として利用する。
掘進頭部12の内部にも流路17を貫通させ、その前端は受圧傾斜面12cに吐出口12aとして開放する。
【0012】
<6>注入ヘッド。
外筒11の内部から掘進頭部12などを引き抜いた後には、伝達ロッド2を含めて、地中に長い空洞が形成される。
この引き抜き後の空洞を利用して地中に高圧注入ヘッドを設置することができるが、本発明では二種類の注入ヘッド、すなわち装着型注入ヘッド3と貫通型ヘッド4とを使用することができる。
【0013】
<7>装着型注入ヘッド。(図3)
その注入ヘッドのひとつが図3に示す装着型注入ヘッド3である。
装着型と称するのは、掘進頭部12などを引き抜いた後の中空の外筒11を貫通することなく、外筒11に後から挿入してそのまま装着するタイプの注入ヘッドだからである。
外筒11に装着して前進が拘束されるから、外筒11を地上側へ後退させると、一体となって後退することになる。
この装着型注入ヘッド3は、硬化剤の噴射用の貫通孔31を開口し、後端を開放した管体よりなるノズル体である。
この装着型注入ヘッド3は、単なる管体でも二重管のように複数の筒を重ねた管体であっても使用することができる。
したがって二重管であれば噴射孔31は2箇所に、三重管であれば3箇所に開設することになる。
装着型注入ヘッド3は、大径部32と小径部33とによって構成する。
大径部32の外径は外筒11の内径とほぼ等しく形成し、小径部33の外径やそれよりも小さく形成する。
その結果、大径部32と小径部33との境界に形成された段差をストッパー34として利用する。
このストッパー34が前端ロッド1の外筒11の内側の段部11aに当接すると、装着型注入ヘッド3はそれ以上の前進が不可能となる。
装着型注入ヘッド3の噴射孔31の位置は、装着型注入ヘッド3が外筒11の段部11aに当接して前進が阻止された場合に、噴射孔が外筒11の前端よりも前方、すなわち地中に露出する位置に設定する。
なおストッパー34は段差を利用した構成に限らず、装着型注入ヘッド3が前端ロッド1の内部を貫通することができない構造であれば採用することができる。
装着型注入ヘッド3の後端にはワイヤ35を取り付け、使用後の装着型注入ヘッド3を地上へ回収することができるように構成する。
また装着型注入ヘッド3の一部にはキー溝を刻設し、外筒11の内面に形成したキー11bに嵌合して外筒11の回転を装着型注入ヘッド3に与えることが可能であるように構成する。
【0014】
<8>貫通型ヘッド。(図6)
注入ヘッドの他のひとつが貫通型ヘッド4である。
貫通型と称するのは、外筒11に装着するのではなく、外筒11を貫通する構成だからである。
したがって、外筒11を地上へ向けて後退させると、外筒11とともに後退することがなく、外筒11を貫通して地中に残ってしまう。
この貫通型ヘッド4も、前端を閉塞し、後端を開放した管体であり、単なる管体でも二重管のように複数の筒を重ねた管体であっても使用することができる。
貫通型ヘッド4の前方側面の一部には噴射孔41を開口して、地上から供給する高圧液を外部に吐出できるように構成する。
したがって二重管であれば噴射孔41は2箇所に、三重管であれば3箇所に開設することになる。
貫通型ヘッド4は外筒11を貫通するように、その外径は外筒11の内径よりも十分に小さく形成する。
貫通型ヘッド4の後方には高圧流体を供給する高圧ホース42を連結する。
【0015】
<9>前端ロッド1の掘進。
次に施工方法について説明する。
地上に設置したボーリングマシン5を使用し、ガイド管51に沿って前端ロッド1および前端ロッドに接続した伝達ロッド2を地中に挿入する。
前端ロッド1は、外筒11内に掘進頭部12や位置情報発信器13を挿入して構成してある。
伝達ロッド2は、円筒状の単管ロッドを長手方向に沿って連結して構成したものである。
この伝達ロッド2の後端に地上のボーリングマシン5で回転力を与えることによって、先端の前端ロッド1に回転を与えることができる。
この伝達ロッド2の内部に高圧流体を供給すると、受圧円盤16を後方から加圧することになり、掘進頭部12には推進力が与えられる。
外筒11の先端に位置した受圧傾斜面12cは土圧を受けている。
そこで、受圧円盤16が受ける前方への力を、受圧傾斜面12cの受ける抵抗よりも大きく設定すれば回転力、および吐出口からの高圧流体の噴射と合わせて地盤中を前進することができる。
掘進頭部12の受圧傾斜面12cを利用し、位置情報発信器13からの信号をもとにして直進あるいは曲線通過を行わせることは前記で説明したとおりである。
その際に、伝達ロッド2の内部を通して供給された高圧流体は、掘進頭部12の先端の吐出口12aから噴射して地盤の切削、攪拌を行って前進を容易にする。
こうして掘進を続け、前端ロッド1が地盤改良の目的の位置に到達させる。
到達したら、高圧流体の供給を停止し、地上からワイヤ18を巻き上げて外筒11中の位置情報発信器13、掘進頭部12を地上に回収し、外筒11と伝達ロッド2を地中に残しておく。
【0016】
<10>装着型注入ヘッド3の挿入、噴射。
前端ロッド1の外筒11から掘進頭部12などを引き上げて回収しても、外筒11も伝達ロッド2も地中に残っており、連続する空洞として地中に位置している。
この引き上げ後の空洞を利用して高圧噴射筒を挿入する。
高圧噴射筒のひとつとして、装着型注入ヘッド3を空洞の挿入する場合について説明する。
装着型注入ヘッド3を伝達ロッド2内の空洞に挿入し、地上から加圧流体を供給すると、その装着型注入ヘッド3の後端の受圧面36が流体の圧力を受けて伝達ロッド2内を前進し、やがて前端ロッド1の外筒11内に到着し、外筒11内へ外周を密着した状態で挿入される。(図4)
装着型注入ヘッド3が外筒11内に到達したら、外筒11を後方へ引き戻すと、外筒11の係合段11aが装着型注入ヘッド3のストッパーに係合する。(図5)
前記したように装着型注入ヘッド3と外筒11が係合した状態で、噴射孔31は外筒11の前方に露出する寸法に形成してある。
その状態で装着型注入ヘッド3に、伝達ロッド2を通して硬化剤などの溶液を高圧で供給すれば、先端の噴射孔31から地中に噴射することができ、外筒11を残しておいた周辺の地盤を円柱状に改良することができる。
一箇所での噴射が終了したら、伝達ロッド2を介して前端ロッド1を後退させる。
すると前端ロッド1の後退によって装着型注入ヘッド3も後退し、次の改良位置に至る。
そこで同様に硬化剤などの噴射を行う。
【0017】
<11>貫通型ヘッド4の挿入、噴射。
次に高圧噴射筒のひとつとして、貫通型ヘッド4を空洞の挿入する場合について説明する。
貫通型ヘッド4を伝達ロッド2内の空洞に挿入し、後方に高圧ホース42を取り付け、地上からホース42内に加圧流体を供給する。
すると貫通型ヘッド4とホース42は流体の圧力を受けて伝達ロッド2内を前進してゆき、やがて前端ロッド1の外筒11内に到着する。
そして、外筒11内へ外周に余裕を残した状態で挿入される。(図7)
貫通型ヘッド4が外筒11内に到達したら、伝達ロッド2を介して外筒11を後方へ引き戻す。(図8)
すると、外筒11と貫通型ヘッド4は係合していないから、伝達ロッド2とともに外筒11だけが地上に向けて後退し、貫通型ヘッド4は地中に残ることになる。(図9)
その状態で高圧ホース42から貫通型ヘッド4に硬化剤を供給し、その噴射孔41から地中に噴射して周辺の地盤を改良することができる。
一箇所での噴射が終了したら、高圧ホース42を介して貫通型ヘッド4を後退させ、次の改良位置で同様に硬化剤などの噴射を行う。
こうして、必要とする位置の地盤を改良することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の前端ロッドの一実施形態の分解説明図。
【図2】自在ボーリングの施工状態の説明図および前端ロッドの断面図。
【図3】装着型注入ヘッドの説明図。
【図4】装着型注入ヘッドを外筒内へ挿入した状態の説明図。
【図5】装着型注入ヘッドが外筒の前端から露出して硬化剤を噴射している状態の説明図。
【図6】貫通型ヘッドの説明図。
【図7】貫通型ヘッドが外筒内へ挿入した状態の説明図。
【図8】貫通型ヘッドが外筒の前端から露出して硬化剤を噴射している状態の説明図。
【図9】貫通型ヘッドのみが地中に残って地中に硬化剤を噴射している状態の説明図。
【符号の説明】
【0019】
1:前端ロッド
11:外筒
12:掘進頭部
13:位置情報発信機
16:受圧円盤
2:伝達ロッド
3:装着型注入ヘッド
4:貫通型ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のロッドを長手方向に沿って連結した伝達ロッドと、
伝達ロッドの先端に取り付けた円筒状の前端ロッドと、
この前端ロッドの内部にスライド自在に収納した掘進頭部および位置情報発信器と、
掘進頭部と位置情報発信器を回収後に、その回収跡の空洞に挿入するための高圧噴射筒とより構成し、
この高圧噴射筒を通して地中へ高圧で硬化剤を噴射することを特徴とする地盤改良装置。
【請求項2】
高圧噴射筒は、
地中に残した前端ロッドの内部を貫通することができないストッパー部を形成したノズル体である、
請求項1記載の地盤改良装置。
【請求項3】
高圧噴射筒は、
地中に残した前端ロッドの内径よりも小さい外径を備え、
前端ロッドの内部を貫通することができるノズル体である、
請求項1記載の地盤改良装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−31701(P2008−31701A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205121(P2006−205121)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】