説明

地盤注入材および地盤注入工法

【課題】特に、亀裂を有する岩盤、あるいは漏水コンクリートへの注入において、優れた耐久性を有し、高い浸透性および止水効果が得られる地盤注入材および地盤注入工法を提供する。
【解決手段】シリカ濃度が15〜40質量%であって、かつ、粒径が10〜80nmであるコロイダルシリカを、イオン交換処理して得られるシリカ溶液を有効成分とする地盤注入材である。シリカ溶液は、無収縮性のシリカゲルを形成することができる。また、シリカ溶液は酸性〜中性領域であることが好ましい。地盤中に、上記地盤注入材を注入する地盤注入工法である。注入現場付近においてコロイダルシリカ中のNaイオンをイオン交換処理する脱アルカリ処理部と、脱アルカリ処理部を通して得られたシリカ溶液を貯蔵する貯蔵部とからなる注入装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤注入材および地盤注入工法(以下、単に「注入材」および「注入工法」とも称する)に関し、詳しくは、地盤改良や止水、液状化防止、岩盤内におけるガス等の貯蔵または産業廃棄物等の封じ込め等の種々の用途に適用され、特に、水圧のかかる岩盤の微細亀裂に注入することによる漏水の防止やコンクリートの補修に適した、無収縮性で無公害性の地盤注入材および地盤注入工法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、護岸の吸い出し防止や海岸付近の液状化対策、コンクリートの亀裂からの漏水防止、劣化コンクリートの補修、ダム、地下ダムおよびトンネル等の岩盤亀裂への注入はもとより、放射性廃棄物の地下空洞内への封じ込めや、LPG(液化石油ガス)等の地下空洞内での貯溜などの際の岩盤の微細な亀裂、および、トンネルや共同溝等のコンクリートの亀裂の充填に対して、高い浸透性を有し、無収縮性のゲルを形成するグラウトの注入による、強度および止水効果に優れた地盤注入が求められている。
【0003】
従来、一般に軟弱砂地盤等の地盤改良に用いられるグラウトとして、水ガラスを原料とした種々の溶液型シリカグラウトが知られている。例えば、水ガラス系アルカリ性グラウト、酸性シリカゾルを主成分とするグラウト、水ガラスを陽イオン交換樹脂またはイオン交換膜で処理して得られる活性シリカを主成分としたグラウト、活性シリカを濃縮増粒してpHが9〜10の弱アルカリ性で安定させたシリカコロイド等である。
【0004】
しかし、LPGや炭酸ガス等の岩盤空洞内での貯留、原子力発電等による廃棄物処理のための岩盤空洞での貯蔵、および、有害金属塩を含む有害物の岩盤空洞内への封じ込め等の際には、従来の水ガラスに反応剤を加えた溶液型シリカグラウトでは、細い亀裂への浸透固結が不十分となり、また、シリカ濃度が低い場合、収縮が大きいかまたは未反応の水ガラスの溶出により、注入後に土粒子間のゲル、または、岩盤の亀裂中のシリカゲルが水圧で押し出されて、止水性や長期耐久性が低下することで、掘削によって構築した空洞が浸透水で埋まってしまったり、貯蔵した有害物が外部へ溶出してしまう等の問題が生じる。
【0005】
また、上記の注入材としては、工場にて製造し、施工現場へ運搬後においても安定した物性を保つために、通常、一定量のアルカリ成分を含有したシリカ溶液が用いられる。このようなシリカ溶液は、施工時において、アルカリ成分を酸で中和することよって、あるいは塩などでシリカを凝集させることにより、固結させる。この際、アルカリ成分が多いほど、ゲル化させるための酸や塩が必要になり、その結果、副反応生成物の発生量が多くなる。
【0006】
これに対し、特許文献1には、地下水へのアルカリの溶出を防ぐために、水溶性珪酸塩貯留槽から注入パイプまでの注入系統中にイオン交換樹脂を充填したアルカリ除去装置を設けることが記載されているが、注入材としての不安定化珪酸水溶液のSiO濃度については12重量以下、好ましくは2〜10重量%と記載されており、高濃度のシリカ溶液におけるアルカリの除去については開示されていない。
【0007】
また、特許文献2には、水ガラスを脱アルカリ処理して活性珪酸とし、これを増粒して得られるゲル化しがたいコロイダルシリカの一次シリカ液を再度脱アルカリ処理して、得られた二次シリカ液を地盤注入材として用いることが記載されているが、一次シリカ液における活性珪酸水溶液はpH2〜4、シリカ濃度1〜15重量%、好ましくは2〜10重量%であって、シリカ濃度が15重量%よりも多いと活性珪酸水溶液のゲル化が起こりやすくなると記載されており、実施例33においてはシリカ濃度14.7質量%の例が記載されているが、15質量%以上の高濃度のシリカ溶液の脱アルカリ処理については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平1―55679号工法(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特許第3541135号工法(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような従来技術に鑑みて、本発明は、高水圧下においても確実に、かつ、長期にわたり止水性および固結強度を保持するために、シリカ濃度が高く、pHが弱酸性を呈する活性シリカコロイドを用いることで、より優れた浸透性、止水性および長期耐久性が得られる地盤注入材および地盤注入工法を提供することを目的とする。
【0010】
また、岩盤亀裂への注入には、従来はセメント等が用いられてきたが、原子力廃棄物やLPG、炭酸ガス等の岩盤空洞内での貯留、および、土壌汚染物の土中固定などの際には、貯留物や有害物の地下水に対する溶脱を防ぐための恒久的止水機能が求められる。そのためには、超微粒子セメント(ほぼ粒径10μm)の浸透しない、微細な岩盤亀裂への浸透が望まれる。
【0011】
さらに、海岸付近の地盤や花崗岩等を含む岩盤地帯など、湧水中に塩やCa,Mg,Na,K等の金属イオンなどが含まれる場合、アルカリ領域のシリカ溶液では部分的なゲル化が起こり、あるいは、ゲル化時間が短縮して、微細な亀裂を有する地盤へのグラウトの浸透性が低下し、期待した止水効果が得られない。従来は、セメントを併用することで強度を保持し、止水性を高めていたが、この場合、セメント中のCaやMg等の塩により、注入材中で部分ゲルが急速に生成して浸透性が阻害されたり、セメント中のアルカリ成分により、一度形成されたゲルが溶解してしまうという問題があった。
【0012】
そこで本発明の目的は、上記従来技術における問題を解消して、特に、亀裂を有する岩盤への注入において、または、地下水面下にある漏水コンクリート構造物の補修において、優れた耐久性および高い浸透性を有するとともに、高い水圧下においても止水効果が得られる地盤注入材および地盤注入工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らの研究によれば、岩盤へのシリカ溶液の浸透性が不十分である理由は、岩盤中に含まれるCa,Mg,Na,K等が、シリカ系グラウトのシリカ分と反応して、直ちに不均一なシリカ凝集物を形成し、これが岩盤の亀裂や土粒子間に詰まって、シリカ溶液の浸透を阻害することにある。本発明者らのさらなる研究により、このような反応は、シリカ溶液がアルカリ性を呈する場合に生じ、シリカ溶液が酸性から中性を呈する場合には生じないことが判った。しかし、水ガラス等の従来用いられているシリカ化合物は、ゲル化後における体積収縮が大きく、施工のための長いゲル化時間を保持するためには低いpHに調整する必要があり、セメント系注入材と併用する場合には、セメントを劣化させ、あるいはセメントのアルカリでシリカゲルが溶解する等、双方に悪影響を与える可能性がある。このシリカ化合物に酸を加えて酸性領域に調整しても、ゲル化物の収縮が大きく(通常25%収縮する)、また、シリカ濃度が10質量%以下であり、これ以上にするとゲル化時間が数分程度になり、そのため地盤の亀裂またはコンクリートの亀裂に注入しても、浸透性が阻害され、かつ、水圧で押し出されてしまい、恒久的な止水は不可能であった。
【0014】
そこで、本発明者らは検討した結果、岩盤の亀裂注入や、劣化するかまたは亀裂のある既存コンクリートの補修注入において、上記課題を解決するためには、以下の条件を満たすことが重要であることを見出した。
(1)超微粒子セメントよりも粒径が小さく浸透性がよいこと。
(2)無収縮性ゲルを形成すること。
(3)水圧がかかっても長期止水を保持できること。
(4)ゲル化物からのシリカの溶出がほとんどなく、かつ、超微粒子セメントやセメントを注入した後に注入しても、セメントのアルカリによってシリカが溶出しないこと。
(5)地下水中に金属イオン(Ca,Mg,Na)が存在していても、シリカの部分ゲルを生ずることもなく均質なゲルを形成すること。
(6)中性〜酸性領域で濃いシリカ濃度で十分なゲル化時間を有すること。
(7)ゲル時間を調整するための反応剤添加量が少なくて済み、したがってシリカ分以外の水溶性反応生成物が少ないこと。このことは、地下水の水質の変化が小さいことを意味し、また、中性領域に近いpH領域でゲル化するために、地下水のpH変化が少なく、水質保全に優れていることを意味する。
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために、上記の観点からさらに検討した結果、工場で製造された、弱アルカリ性を呈する安定化したコロイダルシリカを主材とし、これを現場付近で直接イオン交換処理して得られた酸性コロイダルシリカ(活性コロイダルシリカ)を有効成分とするシリカ溶液を地盤注入材として用いることで、上記課題をすべて解決できるのみならず、現場における作業性が簡便になることを見出して、本発明を完成した。
【0016】
本出願人による先願として、水ガラスを施工現場にてイオン交換してアルカリ成分(Naイオン)を除去することで、酸性〜中性領域のコロイダルシリカを有効成分とする注入材を得る出願がある。この先願発明では、施工現場においてイオン交換装置において水ガラスからのアルカリの除去を行う場合、水ガラスのアルカリ量が多いので、イオン交換後にイオン交換樹脂またはイオン交換膜を再生するために、大量の塩化水素溶液やアルカリ溶液が必要になり、さらに、再生後の廃液が大量に発生し、廃液処理施設の設置が必要となるため、施工現場では実質的に不可能である。
【0017】
また、水ガラスの希釈液を用いなくてはイオン交換樹脂やイオン交換膜にシリカ分が析出してしまうところから、シリカ濃度が2〜4質量%程度でpHが2〜4程度のシリカ溶液しか得られなかった。さらに、シリカ濃度の薄いシリカ溶液では強度が低く、岩盤の亀裂を充填しても容易に水圧で押し出されてしまい、かつ、セメントであらかじめ一次注入する場合、セメントのアルカリでシリカ分が溶け出してしまうという問題があった。そこで、本発明者らは、工場で水ガラスをイオン交換処理して保たれたシリカ濃度の薄い(通常2〜4質量%)の活性シリカ溶液を濃縮して、弱アルカリ性で安定化したシリカ濃度が15〜40質量%、粒径が10〜80nmのシリカコロイドを製造し、このコロイダルシリカをイオン交換処理することにより、この問題を解決した。コロイダルシリカは比表面積が小さく、表面に分布しているNaイオンが少なくてもコロイドが安定しているので、これをイオン交換する場合、シリカ濃度が濃くても少量のNaイオンの交換量で脱アルカリすることが可能である。これにより、イオン交換装置を小型化しカートリッジ状にすることで、施工現場において容易にイオン交換でき、使用後は廃液設備のある工場に運搬して、イオン交換樹脂またはイオン交換膜の再生を行うことにより、施工現場において廃液処理施設を設置する必要がなくなる。これによって、高いシリカ濃度の濃いシリカコロイドを原液のまま脱アルカリして、それを注入に用いることが可能になった。これは、コロイドを用いることにより、濃度が濃くてもアルカリ量が少ないため、小型のイオン交換装置で多量の脱アルカリシリカの製造が可能になったからである。
【0018】
1)本発明に用いるコロイダルシリカは、工場においてイオン交換樹脂やイオン交換膜により水ガラスを脱アルカリしてNaイオンを加え、加熱、増粒してコロイド化し、pHを9〜10に調整したものであり、長期間(数年以上)安定であって、実質的にゲル化することなく施工現場へ搬入される。
この際の物性とは、コロイドの粒径および粒径分布であり、本発明に使用できるコロイドの平均粒径は10nm〜80nmである。
【0019】
2)本発明では、コロイダルシリカを施工現場において、さらにイオン交換して脱アルカリするが、コロイドの平均粒径が10〜80nmと大きいので、コロイド比表面積が大きく反応性が低いために、シリカ濃度が15〜40質量%と高くても、ただちにゲル化することなく、しかも、ゲル化時間として数十分〜数時間を保持できる。また、粘性は3〜10mPa・sを保ちうる。さらに、コロイドの粒径が10nm〜80nmと大きいことから、比表面積が小さいために可溶性シリカ量が小さく、耐久性に優れる。さらにまた、同じ理由により、反応性が低く、イオン交換樹脂やイオン交換膜にシリカが析出することなく、シリカ濃度の高い脱アルカリしたコロイドを得ることができ、このコロイドをベースとして地盤に注入することができる。さらにまた、コロイドは従来の微粒子セメント等の粒径よりも小さいので、岩盤への浸透性が高い。さらにまた、コロイド自体がその内部では重合反応をほとんど終了しているため、コロイド同士の表面が重合してゲル化しても、ゲル化後の重合による脱水は極めて少ないため、そのゲル化物の収縮はほとんどなく、また、シリカの溶出もほとんどない。このため、耐久性に優れ、高い水圧に対して押し出される心配がない。
【0020】
3)従来のコロイダルシリカ(pHが9〜10)のゲル化は、コロイド表面の電気荷電を低下させることでコロイド粒子同士がくっつくことで生ずる。表面電荷を下げる方法としては、酸を加えpHを下げる方法、または、塩などの電解質を加える方法がある。さらに、それぞれのpHにおいて塩などの電解質を加えていくことで、ゲル化時間を調整する。このため、シリカ分以外の反応生成物が多くなり、地下水の水質が変化しやすい。本発明のイオン交換処理したコロイダルシリカは、Naイオンの脱イオン化によりpHが9〜10であったものを、中性から酸性にpHを移行させることで、反応生成物はゲルを構成するSiOのみで固結し、反応生成物はきわめて少なく、地下水質をほとんど変化させない。シリカコロイド自体が、その表面にあるOHイオンによりシロキサン結合を形成して重合し、ゲル化することにより、シリカの溶脱は無視できるほど小さいので、高いシリカ濃度でも体積収縮が実質的になく、無収縮といえる。さらに、高濃度の大きな粒径のシリカコロイドのみで、数時間ほどでゲル化することによって高い強度を発現することができることにより、高水圧下で長期において止水することができる。
【0021】
4)従来の水ガラスを主材とするシリカ系注入液によるゲル化物はアルカリに弱く、特に、微粒子セメントを一次注入して大きな亀裂を充填した後に、シリカ系注入液を二次注入して細かい亀裂を充填する場合、セメントからのアルカリの溶出液が、シリカのゲル化物を溶解する問題があった。また、地下水中に金属イオン(Ca,Mg,Na)が存在する場合、シリカの部分ゲルを生じていた。本発明者らの検討により、この問題は、中性〜酸性領域の高濃度の大きな粒径のシリカ、すなわち、シリカコロイド(コロイダルシリカ)を用いてイオン交換処理で脱アルカリすることにより、防止できることが判った。この方法により得られたコロイダルシリカは、アルカリによりpHを9〜10に調整したコロイダルシリカに酸を加えて中性〜酸性化したコロイダルシリカに比べて、同じpHであってもゲルタイムが長く、浸透性に優れており、さらに、地下水の水質を変化させない。
【0022】
5)さらに、酸性領域では、コロイダルシリカへの酸や塩の添加量が従来に比べ少なくなることにより、未反応物が少なくなる。また、pHが酸性領域にあるため、地盤中に溶出しているCa,Mg,Na,K等の金属イオンにより、不均質なゲルを析出しないため、岩盤への目づまりを防ぐことができる。
【0023】
また、あらかじめセメントが注入されている場合、セメントから溶出するCa,Mg等のイオンによっても、同じ理由で浸透性を阻害されない。
このように本発明者らは、シリカ注入材として、イオン交換により得られたアルカリ成分の少ないコロイダルシリカが、これに少量の酸や塩を加えることで、あるいは何も加えなくても、ゲル化し、優れた耐久性および止水性を確保しつつ、シリカとCa,Mg等のイオンとの反応による不均一なゲル化を抑え、さらに、pH調整のために使用する酸の添加量を減少させることで未反応生成物を低減し、注入材の浸透性を高くすることができることを見出して、本発明に至ったものである。
【0024】
6)また、一般に、酸性〜中性領域ではシリカの溶出は少ないものの、アルカリ領域では溶解度が高いため、従来においては、セメント注入材のブリージング水や溶出物のアルカリ成分によりシリカが溶出し、強度低下や、ゲルの溶解が生じてしまうことがあった。しかし、本発明の注入材は、コロイドを呈することで、従来の水ガラスに比べて素材の粒径が大きく、アルカリによる影響を受けにくいため、ゲルが溶解せず強度と高い浸透性を保つことができる。
【0025】
7)さらに、ゲル化時間を調整するためには、長いゲル化時間を要する場合には酸を加えればよく、短いゲル化時間を要する場合にはアルカリ金属塩を加えればよく、酸性領域に保てば、部分ゲルを生じない。
【0026】
本発明の注入材には、塩、酸、セメント、スラグ、多価金属化合物、アルカリ金属塩、アルカリ、金属イオン封鎖剤、有機化合物、活性シリカおよび水ガラスよりなる群から選ばれる1種以上を併用して、ゲル化時間や強度を調整してもよい。
【0027】
また、本発明の地盤注入工法は、地盤中に、上記本発明の地盤注入材を注入する地盤注入工法において、注入現場付近において前記コロイダルシリカ中のNaイオンをイオン交換処理する脱アルカリ処理部と、該脱アルカリ処理部を通して得られた前記シリカ溶液を貯蔵する貯蔵部とからなる注入装置を用いることを特徴とするものである。
【0028】
本発明の地盤注入工法においては、前記脱アルカリ処理部を脱着可能として、該脱アルカリ処理部を、注入現場において使用後に回収し、運搬して、工場にて再生することができる。
【0029】
また、本発明の地盤注入工法においては、前記地盤中の地下水が、カルシウムおよび/またはマグネシウムを含有しても、浸透性に問題は生じない。
【0030】
本発明の注入工法においては、前記地盤注入材を、セメントまたはスラグを有効成分とする他の地盤注入材と併用して、前記地盤に注入してもよい。また、本発明の注入工法においては、前記地盤注入材を、岩盤またはコンクリートの亀裂に浸透させて、止水を行うことができ、その後に上記脱アルカリシリカコロイドを注入して止水を行ってもよい。さらに、本発明の注入工法においては、前記地盤注入材を、前記地盤中に注入して、地盤改良または液状化防止を行うこともできる。さらにまた、本発明の注入工法においては、前記地盤注入材を、前記地下水の水位以下の地盤中に注入して止水層を形成し、廃棄物若しくは土壌汚染物の封じ込め、または、ガス、液体燃料若しくは廃棄物を貯蔵する空洞若しくはトンネルの構築を行うこともできる。さらにまた、本発明の注入工法は、特に、前記地盤注入材を、高水圧下の地盤中またはコンクリート構造物の周辺部に注入する際に有用である。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、上記構成としたことにより、濃い濃度のシリカコロイドを、そのままあるいは少量のゲル化剤を添加して、そのまま注入できるので、亀裂を有する岩盤への注入においても、ゲルそのものが無収縮のため水圧に対する抵抗性に優れ、優れた耐久性を有し、かつ、超微粒子セメント(粒径10μm)よりも大幅に粒径が小さいので(平均粒径10〜80nm)、高い浸透性および止水効果が得られる地盤注入材および地盤注入工法を実現することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る地盤注入装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】実施例で用いたコロイダルシリカのイオン交換処理装置を示す概略図である。
【図3】本発明の注入材を地下構造物の周りの地盤に注入する方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明の地盤注入材は、コロイダルシリカをイオン交換処理して得られるシリカ溶液を有効成分とするものである。特には、イオン交換処理により酸性〜中性領域に調整したコロイダルシリカを用いたことで、海水や湧水中に含まれる塩や金属イオン等により浸透性を損なうことなく、高水圧下でも良好な止水性および耐久性を発揮できる注入材とすることが可能となった。
【0034】
本発明に用いるイオン交換処理前のコロイダルシリカは、水ガラスをイオン交換樹脂またはイオン交換膜を用いて処理して、水ガラス中のナトリウムイオンを除去することでPH2〜4の酸性シリカ溶液を得、これをpH調整した後、加熱造粒し、必要に応じて濃縮したものである。これにより、pHが10付近の弱アルカリ性で安定した、シリカ濃度15〜40質量%、好適には20〜40質量%、平均粒径10〜80nmのコロイダルシリカが得られる。高圧下において良好な止水性を得る観点から、シリカ濃度15〜40質量%、平均粒径10〜80nmのコロイダルシリカを用いることが好ましい。
【0035】
本発明に係るイオン交換処理前のコロイダルシリカ溶液は、Naイオンがほとんど分離除去されているため、通常、pHが10以下の弱アルカリ性を示し、NaOは0.2質量%〜4.0質量%の範囲にある。NaOが4.0質量%を超えるとコロイダルシリカは溶けてしまい、ケイ酸塩の水溶液となってしまう。一方、NaOが0.2質量%より少なくなると、コロイダルシリカは安定して存在し得ず、凝集してしまう。すなわち、NaOが0.2質量%〜4.0質量%の範囲内で、Naイオンがコロイダルシリカの表面に分布して、コロイダルシリカを安定したコロイド状に保ち得る。
【0036】
このようにして調製されたコロイダルシリカは、水ガラスに比べpHが中性に近く、かつ、半永久的に安定しているので、これを注入材に用いる場合、工場から現場への搬入、保管および注入操作の際にゲル化する懸念がない。なお、このコロイダルシリカの溶液をそのまま地盤中に注入しても、それ自体で実用時間内にゲル化することはないので、実用上の固結効果は得られない。
【0037】
次に、本発明における上記コロイダルシリカのイオン交換処理は、汎用のイオン交換樹脂またはイオン交換膜を用いて、常法に従い実施することができ、特に制限されるものではない。本発明においては、弱アルカリ性で安定したコロイダルシリカをイオン交換処理して、酸性〜中性領域、例えば、pH3〜8の範囲とする点が重要であり、これにより、ゲル化等の不具合を生ずることなく、浸透性の良好な注入材を得ることができる。ここで、イオン交換処理後においても、コロイダルシリカのシリカ濃度および平均粒径は、処理前と変わらないと考えられる。また、本発明においては、あらかじめ調整しておいた安定なコロイダルシリカを、現場においてイオン交換樹脂等で処理して注入材を得ることもでき、この場合、イオン交換樹脂の使用量が少量で済むので、実施が容易かつ低コストであるというメリットも有する。
【0038】
本発明におけるイオン交換装置は、コロイダルシリカ中のNaイオンを分離する分離手段と、コロイダルシリカを前記分離手段に送る送液手段とからなる。コロイダルシリカ中のNaイオンを分離する手段としては、例えば、陽イオン交換樹脂槽若しくはイオン交換膜を隔膜とする電解透析槽、または、これら両者を備えた小型脱アルカリ処理槽(脱アルカリ処理部)1を、再生済みで常に使用できる状態にセットして工事現場(注入現場)に持ち込み、図1に示すように、この脱アルカリ処理槽1に、一次シリカ液貯留槽2、二次シリカ液貯留槽5、注入ポンプ6および注入管7をそれぞれ適宜接続することで、本発明の注入装置とすることができる。なお、本発明において、二次シリカ液貯留槽5は、脱アルカリ処理槽1を通して得られたイオン交換処理されたシリカ溶液を貯蔵する貯蔵部となる。この場合、イオン交換樹脂等の再生処理や洗浄処理等は生産工場で行い、工事現場では再生処理済みのものを上記のようにセットにして搬入し、既存の注入設備の中に組み込むだけでよい。使用後には、回収し、運搬して、工場にて再生することができる。ここで、この脱アルカリ処理槽を含む設備には、pH計やコントローラを付属させることもでき、この場合、連続操業が可能となる。
【0039】
本発明の注入材には、上記イオン交換処理されたコロイダルシリカに加えて、塩、酸、セメント、スラグ、多価金属化合物、アルカリ金属塩、アルカリ、金属イオン封鎖剤、有機化合物、活性シリカおよび水ガラスよりなる群から選ばれる1種以上を、適宜配合することができる。塩、酸は、例えば、0.01〜25質量%の範囲内で使用することにより、ゲル化時間を調整できる。また、活性シリカ、水ガラス、有機化合物、セメント、スラグを、例えば、1〜50質量%の範囲内で加えることで、ゲル化後において強度を高く発現させることができる。さらに、アルカリ金属塩、アルカリを加えることで、ゲル化時間を調整することができる。さらにまた、金属イオン封鎖材を0.5〜25質量%加えることで、地下水に溶出した金属イオンを不動態化し、注入領域周辺に被膜を形成する働きが得られる。
【0040】
上記のうち塩としては、多価金属の無機塩、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化鉄、塩化アルミニウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硝酸アルミニウム、リン酸アルミニウムなどが挙げられる。酸としては、例えば、リン酸、塩酸、硫酸、有機酸、酸性を呈する塩等が用いられる。多価金属化合物としては、例えば、カルシウムやマグネシウムの酸化物、水酸化物、塩化物等が挙げられ、中でも特に、消石灰、塩化カルシウムや塩化マグネシウム等の多価金属塩化物が好ましい。アルカリ金属塩としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等のナトリウムおよびカリウム塩が挙げられる。アルカリとしては、例えば、消石灰、苛性アルカリ等が挙げられる。
【0041】
また、金属イオン封鎖剤は、キレート効果を有し、地下水に岩盤から溶解する金属イオンや岩盤の亀裂から溶出する金属イオンを不動態化する効果を有するものであり、具体的には例えば、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロトリ酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、プロピレンジアミン四酢酸、ビス(2−ヒドロキシフェニル酢酸)エチレンジアミン、これらの塩類、脂肪族オキシカルボン酸、縮合リン酸塩等が挙げられる。このうち脂肪族オキシカルボン酸としては、酒石酸、クエン酸、コハク酸、グルコン酸、ジヒドロキシエチルグリシン等が挙げられる。また、縮合リン酸塩としては、ピロリン酸、トリリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸等のポリリン酸の塩が挙げられ、具体的には、ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、酸性ヘキサメタリン酸ナトリウムまたはこれらのカリウム塩等がある。有機化合物としては、グリオキザール、ジアセチン、トリアセチン、エチレンカーボネート等が挙げられる。
【0042】
さらに、活性シリカは、水ガラスをイオン交換樹脂またはイオン交換膜で処理して、水ガラス中のアルカリの一部または全部を除去して得られるものである。活性シリカとしては、水ガラスと酸を混合してなる酸性水ガラスを、イオン交換樹脂またはイオン交換膜に通過させ、水ガラス中の塩の一部または全部を脱塩して得られたものを用いてもよい。また、活性シリカのシリカ濃度が低い場合には、加熱濃縮したり、コロイダルシリカや水ガラス等を適宜に添加して、シリカ濃度を上げることもできる。活性シリカのシリカ濃度は、通常1〜8質量%、pHは2〜4である。
【0043】
本発明の地盤注入工法は、内部に含まれる地下水が、カルシウムおよび/またはマグネシウムを含有する地盤でも適用可能である点に特徴を有する。本発明の注入材は、このような地盤に適用した際に特に有用であり、かかる本発明の注入工法によれば、アルカリ領域のシリカ溶液を用いた注入材の場合に問題となるゲル化の発生やゲル化時間の短縮等の問題を生ずることなく、良好な浸透性および固結性を得ることができ、地下における浸透水圧下においても、長期にわたり止水効果を得ることが可能となる。上記のような地下水を含む地盤としては、花崗岩等を含む岩盤や、海岸付近や海底の地盤、地下水の水位以下の地盤等が挙げられる。
【0044】
また、本発明の注入工法においては、上記本発明の注入材を地盤に注入する前または注入した後に、セメントまたはスラグを有効成分とする他の地盤注入材を、該地盤に注入しても、浸透性を阻害されることがない。このような他の地盤注入材としては、例えば、微粒子セメントや微粒子スラグあるいはこれらの混合物を有効成分とする懸濁型注入材等が挙げられる。かかる他の地盤注入材をあらかじめ地盤に注入して、粗い割れ目を充填しておくことにより、地下における浸透水圧下であっても、長期に亘り止水性および強度を保持して、地盤をより良好に改良することが可能となる。
【0045】
この場合、例えば、微粒子スラグを有効成分とする懸濁型注入材をあらかじめ地盤中に注入し、次いで、この懸濁型注入材が注入された地盤に本発明の地盤注入材を注入して、地盤中で併用することも可能である。また、本発明の地盤注入材を注入した後に、懸濁型注入剤グラウトを注入したり、懸濁型注入材と本発明の地盤注入材とを交互に複数回にわたり注入するなどにより、両者を地盤中で併用することもできる。一次注入材として上記懸濁型注入材を用いた場合、二次注入材として、上記金属イオン封鎖剤(好ましくはリン酸化合物)を含む本発明の地盤注入材を注入することで、懸濁型注入材の接触面でのゲルの溶解の原因となるアルカリ成分を中性化し、さらに、地下水中に遊離した一次注入材のブリージング水由来のカルシウムやマグネシウム等の金属イオンと結合して膜を形成することで、長期的に安定なゲルを得ることができる。
【0046】
また、本発明の地盤注入工法においては、上記本発明の地盤注入材を、岩盤またはコンクリートの亀裂に充填して、湧水等の止水を行うことも好ましい。本発明の地盤注入材は、湧水中に含まれる塩や各種金属イオンと反応性を有しないので、かかる用途にも好適に適用可能である。
【0047】
さらに、本発明の地盤注入工法においては、上記本発明の地盤注入材を地盤中に注入して、恒久地盤改良または液状化防止を行うことも好ましい。本発明の地盤注入材は、海水や湧水中に含まれる塩や各種金属イオンと反応性を有しないことに加え、長期耐久性を有するものであるので、かかる用途においても、良好な浸透性および止水性を発揮でき、効果的である。
【0048】
さらに、本発明の地盤注入工法は、上記本発明の地盤注入材を、地下水の水位以下の地盤中に注入して止水層を形成し、廃棄物若しくは土壌汚染物の封じ込め、または、ガス、液体燃料若しくは廃棄物を貯蔵する空洞若しくはトンネルの構築を行う用途にも好適に適用可能である。本発明の地盤注入材は、海水や湧水中に含まれる塩や各種金属イオンと反応性を有しないことに加え、長期耐久性を有するものであるので、かかる用途においても、良好な浸透性および止水性を発揮でき、効果的である。このような地下水の水位以下の地盤とは、例えば、河川や海岸の護岸等での使用の場合、地下0m〜数十m程度の深さの地盤を意味する。また、地下への廃棄物の封じ込めや、ガス、燃料、核廃棄物等の地下備蓄の場合、数十m〜数百mの深さのトンネルや備蓄地盤の止水を行うこともできる。
【0049】
さらにまた、本発明の地盤注入工法においては、上記本発明の地盤注入材を、高水圧下の地盤中に注入することも好ましい。本発明の地盤注入材は、前述したように、高水圧下においても、良好な止水性を得ることができる。ここで、高水圧下とは、例えば、地下トンネル等であれば、5MPa〜50MPa程度における水圧下を意味する。
【0050】
本発明の注入材は、前述したように、例えば、陽イオン交換樹脂槽若しくはイオン交換膜を隔膜とする電解透析槽、または、これらの両者を備えた小型の脱アルカリ処理槽を、再生済みで常に使用できる状態にセットして工事現場に持ち込み、図1に示すように、この脱アルカリ処理槽1に、一次シリカ液貯留槽2、二次シリカ液貯留槽5および注入ポンプ6をそれぞれ適宜接続することで、容易に製造することができる。また、水槽3、硬化剤槽4および注入管7を接続することで、脱アルカリ処理後のコロイダルシリカに水槽3および硬化剤槽4から送液し、二次シリカ液貯留槽5内にて適正な配合を行い、地盤10に直接注入することで、コロイダルシリカの脱アルカリ後の増粒を防ぐことができる、さらに、この設備にpH計やコントローラー等を接続することもでき、脱アルカリ操作や配合操作を、目的に合わせて厳密に行うことができる。
【0051】
図3は、本発明の注入材を地下構造物の周りの地盤に注入する方法を示す図である。図示する例では、地下水中に金属イオン(Ca,Mg,Na)が存在する地盤10、または、硫酸イオンや火山堆積物中に構築されたトンネルのコンクリート17の劣化を防ぐために、トンネル25内部から削孔して、地下構造物10の周りの地盤の領域16に、図示するような製造装置および配合タンク、ポンプ、流量計からなる注入システム28により、送液管9を介して、イオン交換した後のゲル化時間の調整を行ったコロイダルシリカを注入して、コンクリートの劣化を防いでいる。また、地盤中のコンクリート17が、地下水や注入液に含まれる硫酸イオンや塩素イオンによって劣化する可能性があるため、コンクリート17の背面の地盤に、金属イオン封鎖材を含むコロイダルシリカを注入して、コンクリートの劣化を防止または補修することができる。さらに、コロイダルシリカを注入するに先立って、コンクリート17の背面に、注入管7によりセメント系グラウトを注入することもできる。なお、図中、符号26は車を示す。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を、実施例を用いてより具体的に説明する。
(1)脱アルカリ試験
図2に示すような装置を用いて、以下に従い、コロイダルシリカの濃度を5、15、30wt/vol%に調整したものをイオン交換樹脂に通水して、脱アルカリした酸性〜中性領域のコロイダルシリカを作製した。イオン交換処理前のシリカ溶液としては表1に示したものを用い、表2に示す各濃度に調整したものを用いた。また、イオン交換樹脂としては、ダイヤイオン(登録商標)DIAION SK 1B(三菱化学(株)製)を用いた。さらに、比較としてJIS 3号水ガラスを用いて、同様の濃度に調整したものをイオン交換樹脂に通水して、脱アルカリを行った。
【0053】
まず、図示するように、装置のカラム11(内径500mm,高さ10000mm)内に、イオン交換樹脂12を、カラム内の半分の高さ(5000mm)まで、約1.28リットルにて充填した。次に、カラム11の上部の投入口13から、2N−HClをpHが一定になるまで通水し、その後、イオン交換水を、pH5以上になるまで通水した。次に、投入口13から、所定の濃度に調整したコロイダルシリカまたは水ガラスを通水し、装置から採取したイオン交換樹脂のpHを測定して、排液口14から、廃液タンク15内に、pH3〜6に安定したものを回収した。
上記実施例に用いたシリカ溶液の物性を、下記の表1に示す。また、試験結果を、下記の表2に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
上記表中に示すように、コロイダルシリカは5、15、30質量%の濃度で、脱アルカリ処理を行うことができた。水ガラスを用いたものは、5質量%の濃度のものは脱アルカリ処理を行うことができたが、15質量%および30質量%の濃度のものは、イオン交換樹脂中で部分ゲル化が生じてしまい、脱アルカリ処理が行えなかった。これにより、施工現場における脱アルカリ操作は、高濃度のシリカ溶液を得るためにはコロイダルシリカの方が適しており、水ガラスでは5質量%程度の濃度のシリカ溶液の脱アルカリが限界であることがわかった。
【0057】
また、得られた比較例1,4、実施例1,2のシリカ溶液に塩化カリウムを添加し、ゲルタイム100分程度に調整した。比較例1のシリカ溶液はゲル化したが、ゲル化後に体積が収縮した。比較例4のシリカ溶液は、ゲル化したが強度発現が低く、岩盤亀裂の止水やコンクリートには適さないものであった。実施例1,2のシリカ溶液においては良好なゲルが得られ、1ヶ月同体積のイオン交換水内で養生しても、体積や強度の低下は見られなかった。この結果から、この注入工法においては、シリカ濃度15質量%以上のコロイダルシリカを用いることが好ましいことがわかる。
【0058】
また、上記表2中に示す、実験に用いたシリカ溶液中に含まれるNaイオン含有量から、水ガラスを主剤とすると、コロイダルシリカと比べてNaイオン含有量が30〜40倍程度多いことから、イオン交換樹脂を多く必要とすることがわかる。本実施例に用いたイオン交換樹脂は、1.28リットルで36gのNaイオンをイオン交換することができることから、比較例3の場合は500mlのシリカ溶液が採取できるのに対し、実施例2では、その約35倍の17.5Lのシリカ溶液が採取できることがわかる。これにより、イオン交換した高濃度のシリカ溶液を作製する場合、コロイダルシリカをイオン交換処理することにより、均一な溶液を作製でき、イオン交換樹脂の使用量も少なくてすみ、現場でのイオン交換処理についても、水ガラス溶液に比べて作業性がよいことがわかる。
【0059】
(2)水との相性
イオン交換処理により脱アルカリし、回収したコロイダルシリカ(表2中の実施例3)のpHを、下記表3中に示すように調整して、動粘度計により、粘度20mPa・s以下の保持時間を測定した。なお、回収したコロイダルシリカのpH調整において、アルカリ側に移行させる際には未脱アルカリのコロイダルシリカを用い、酸性側に移行させる際にはリン酸を用いた。
【0060】
また、各コロイダルシリカについて、海水および岩盤から採取した湧水に対する反応性を調査した。具体的には、シャーレに各20mlの海水または湧水をそれぞれ満たして、上記コロイダルシリカを10ml滴下し、滴下後の白濁の有無を確認した。その結果を、下記の表3中に併せて示す。
【0061】
【表3】

【0062】
(3)固結試験
上記表3に示す配合No.1〜5のコロイダルシリカに、下記表4に示す条件に従い、水ガラス、塩化カリウムおよび酸をそれぞれ添加して、得られた注入材のゲルタイムを測定した。
【0063】
【表4】

*1)JIS 3号水ガラス
【0064】
上記表中に示すように、実施例3,5,7において、イオン交換処理したコロイダルシリカに塩化カリウムを加えることで、ゲル化することが確認できた。すなわち、比較例5の、従来のコロイダルシリカに対し塩化カリウムを加えた注入材では、pHが弱アルカリ領域であるのに対し、実施例3,5,7の注入材では、pHが中性〜酸性に調整されていることがわかる。また、実施例4,6,8に示すように、イオン交換処理したコロイダルシリカに対し、水ガラスおよび酸を加えた場合には、pHの調整により、数分〜数百分のゲル化時間が得られている。
【0065】
(4)水に対する抵抗
岩盤の割れ目を模したスチール製パイプを用いて、各注入材の、水圧に対する抵抗を評価した。スチール製パイプは長さ50cm、孔径1,3,5mmの3種類を用いた。上記表2に示す各配合にて作製した注入材を、これら3種類のパイプ内に、一方の端部より注入して、室温にて28日間養生した。その後、地盤深さ約500mに相当する水圧5MPaを、各パイプの側面よりゲル断面に掛けて、水圧に対する抵抗を測定した。水圧下においてゲルが破壊され通水したものを×、水圧化において止水が保てるものを○とし、その結果を、下記の表5中に示す。
【0066】
【表5】

【0067】
上記表5中の結果より、以下のことがわかった。実施例3,5,7および比較例5の注入材は、孔径1,3,5mmのパイプのそれぞれについて水に対する抵抗性を示し、水を止水した。これに対し、実施例4,6,8の注入材は、孔径1mmのパイプについては抵抗性を示したものの、孔径3,5mmのパイプについては通水してしまった。したがって、孔径3mm以上程度の割れ目への注入には、実施例4,6,8の注入材の適用は不向きであるといえる。また、比較例6のイオン交換水ガラスを用いた場合は、ゲルの収縮が大きく、孔径1mmでも通水してしまった。
【符号の説明】
【0068】
1 脱アルカリ処理槽
2 一次シリカ液貯留槽
3 水槽
4 硬化剤槽
5 二次シリカ液貯留槽
6 注入ポンプ
7 注入管
9 送液管
10 地盤
11 カラム
12 イオン交換樹脂
13 投入口
14 排液口
15 廃液タンク
16 固結領域
17 地下構造物
25 トンネル
26 車
28 注入システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ濃度が15〜40質量%であって、かつ、粒径が10〜80nmであるコロイダルシリカを、イオン交換処理して得られるシリカ溶液を有効成分とすることを特徴とする地盤注入材。
【請求項2】
前記シリカ溶液が酸性〜中性領域である請求項1記載の地盤注入材。
【請求項3】
塩、酸、セメント、スラグ、多価金属化合物、アルカリ金属塩、アルカリ、金属イオン封鎖剤、有機化合物、活性シリカおよび水ガラスよりなる群から選ばれる1種以上を含有する請求項1または2記載の地盤注入材。
【請求項4】
地盤中に、請求項1〜3のうちいずれか一項記載の地盤注入材を注入する地盤注入工法において、
注入現場付近において前記コロイダルシリカ中のNaイオンをイオン交換処理する脱アルカリ処理部と、該脱アルカリ処理部を通して得られた前記シリカ溶液を貯蔵する貯蔵部とからなる注入装置を用いることを特徴とする地盤注入工法。
【請求項5】
前記脱アルカリ処理部が脱着可能であり、該脱アルカリ処理部を、注入現場において使用後に回収し、運搬して、工場にて再生する請求項4記載の地盤注入工法。
【請求項6】
前記地盤中の地下水が、カルシウムおよび/またはマグネシウムを含有する請求項4または5記載の地盤注入工法。
【請求項7】
前記地盤注入材を、セメントまたはスラグを有効成分とする他の地盤注入材と併用して、前記地盤に注入する請求項4〜6のうちいずれか一項記載の地盤注入工法。
【請求項8】
前記地盤注入材を、岩盤またはコンクリートの亀裂に浸透させて止水を行う請求項4〜7のうちいずれか一項記載の地盤注入工法。
【請求項9】
前記地盤注入材を、前記地盤中に注入して、地盤改良または液状化防止を行う請求項4〜7のうちいずれか一項記載の地盤注入工法。
【請求項10】
前記地盤注入材を、前記地下水の水位以下の地盤中に注入して止水層を形成し、廃棄物若しくは土壌汚染物の封じ込め、または、ガス、液体燃料若しくは廃棄物を貯蔵する空洞若しくはトンネルの構築を行う請求項4〜7のうちいずれか一項記載の地盤注入工法。
【請求項11】
前記地盤注入材を、高水圧下の地盤中またはコンクリート構造物の周辺部に注入する請求項4〜7のうちいずれか一項記載の地盤注入工法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−92186(P2012−92186A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239298(P2010−239298)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(509023447)強化土株式会社 (31)
【出願人】(000162652)強化土エンジニヤリング株式会社 (116)
【Fターム(参考)】