説明

地盤補強構造

【課題】廃タイヤを切片状に切断破砕したタイヤ破砕ゴム片(タイヤシュレッズ)の弾力特性により、各種壁部の壁面に対する水平圧力を低減することができる地盤補強構造を提供する。
【解決手段】壁部Aの壁面に対して、破砕ゴム片層2を用いて裏込め材1が形成され、該裏込め材1の周囲が裏込め土4で締め固められている地盤補強構造である。裏込め材1が、破砕ゴム片層2上に覆土層3が積層されて形成されていることが好ましく、また、破砕ゴム片層2と土層3とが交互に積層されていることが好ましい。さらに、裏込め材1の、裏込め土4と接している面を傾斜状に形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤補強構造に関し、詳しくは、廃タイヤを切片状に切断破砕したタイヤ破砕ゴム片(タイヤシュレッズ)の弾力特性により、壁部の壁面に対する水平圧力を低減することができる地盤補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃タイヤまたはタイヤチップを用いて交通振動を低減しようとする試みがなされている。例えば、特許文献1では、振動を発するかまたは振動を受ける構造物の周辺に伝播する振動を防止、低減するための防振工法として、構造物の直下または周辺に、周辺地盤よりも剛性の高い硬質材とゴム弾性材とを隣接させて埋設する工法が提案されている。また、タイヤシュレッズを軽量土として用いる試みも米国で行われている。
【特許文献1】特開2004−156259号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の廃タイヤまたはタイヤ破砕ゴム片を用いた地盤補強構造は、河川の岸壁や橋脚の壁部、山の斜面の擁壁等の各種壁部に対する水平圧力を低減するには、工法および効果の面で、なお改良の余地があった。
【0004】
そこで本発明の目的は、上記の問題点を解消し、タイヤ破砕ゴム片の弾力特性により、壁部の壁面に対する水平圧力を低減することができる地盤補強構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、壁部の壁面に対して、裏込め材として破砕ゴム片層を用いることにより前記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の地盤補強構造は、壁部の壁面に対して、破砕ゴム片層を用いて裏込め材が形成され、該裏込め材の周囲が裏込め土で締め固められていることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の地盤補強構造においては、前記裏込め材が、破砕ゴム片層上に覆土層が積層されて形成されていることが好ましく、また、前記破砕ゴム片層と土層とが交互に積層されていることが好ましい。また、前記裏込め材の、前記裏込め土と接している面を好適に傾斜状に形成することができる。さらに、前記壁部を河川の岸壁、橋脚の壁部、トンネルの壁部、建築物の地下壁部、または、山の斜面の擁壁とすることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の地盤補強構造によれば、タイヤ破砕ゴム片の弾力特性により、各種壁部の壁面に対する水平圧力を低減することができる。また、タイヤ破砕ゴム片の使用により高い透水性が得られるとともに軽量で作業の効率性が良好となる。さらに、廃棄材料である廃タイヤを再利用することにより二酸化炭素の削減等、環境面においても優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について具体的に説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係る地盤補強構造の概略断面斜視図である。
【0010】
図示する本発明の好適実施形態に係る地盤補強構造においては、壁部Aの壁面に対して、裏込め材として破砕ゴム片層2が施工され、その上層部は、充分な密度を有する土などの高密度地盤材の覆土層3で、好適には厚さ0.3m以上にて覆われている。このようにして、裏込め材1が造成され、この裏込め材1の周囲は裏込め土4で締め固められている。かかる地盤補強構造においては、タイヤ破砕ゴム片の弾力特性により、壁部Aの壁面に対する水平圧力を低減することができる。また、破砕ゴム片層2の上層に覆土層3があることで、荷重がかかったときにその荷重に対し支持力が働き、層自体の沈下が抑制され、結果として地盤補強構造体の上に重荷重の構造物等が載ってもその荷重に耐え得る構造になる。
【0011】
破砕ゴム片層2に用いられるタイヤ破砕ゴム片は、廃タイヤを機械的な処理により破砕したもので、廃タイヤの種類は、トラックバス用タイヤ、乗用車用タイヤ、オフロード用タイヤなど、いずれの種類のタイヤでもよく、また、その性状としては、ランダム破砕品、カット品、例えば、1/16カット品、1/32カット品、扇形カット品など、いずれの性状であってもよい。さらに、タイヤ破砕ゴム片のサイズは、長径が略1〜300mm、好ましくは15〜150mm、更に好ましくは20〜60mmであり、50mmスクリーン通過品を好適に用いることができる。
【0012】
また、覆土層3の高密度地盤材の材質は砂、土、礫、砕石等からなり、経済性の観点から現場発生土が望ましい。
【0013】
壁部Aは、例えば、大河の岸壁の場合、打ち寄せる波のエネルギーを海側へ反射させる重力式護岸構造物として、地上で鉄筋コンクリート箱型の基礎を造り、底部の土砂を掘削・排出して、所定の位置に沈めていくことにより形成される。
【0014】
裏込め材1が壁部Aの壁面に対して造成され、その壁面に対して現場発生土等を積み上げた裏込め土4が配設されることにより、タイヤ破砕ゴム片の弾力特性が有効に作用し、壁部Aは水平圧力低減機能を発揮することができる。なお、裏込め材1の背後のみならず、周囲を裏込め土4で締め固めることにより、より強力に水平圧力低減機能を発揮することも可能である。
【0015】
図2は、本発明の他の一実施の形態に係る地盤補強構造の概略断面斜視図である。図示する本発明の好適実施形態に係る地盤補強構造においては、壁部Aの壁面に対して裏込め材として破砕ゴム片層2が施工され、その後、充分な密度を有する土などの高密度地盤材の層を被せ、好適には厚さ0.3m以上の覆土層3を形成する。これを繰り返すことにより(図示する例では1回)、裏込め材1が造成されている。尚、覆土層3の種類や構造は、図1に示すものと同じであり、また、基本的に各層においても同一で、静圧として被覆する土の層の厚みは壁の深さにより変化するが、好適には0.3m以上とする。このように破砕ゴム片層2と土層3とを交互に積層することにより、裏込め材1に荷重がかかったときにその荷重に対し十分な支持力が働き、層自体の沈下を良好に抑制することが可能となる。
【0016】
また、裏込め材1に配設される破砕ゴム片層2の数は、図示する例では2層であるが、1〜5層の範囲内であれば好適である。また、各破砕ゴム片層2の厚みは、圧密後で0.3〜1.5mの範囲内が好ましく、より好ましくは0.5〜1mである。なお、破砕ゴム片層2は下層になるほど荷重が大きくなるため、厚めに施工する必要がある。
【0017】
さらに、本発明の地盤補強構造においては、図2に示すように、裏込め材1の、裏込め土4と接している面を傾斜状に形成することで、裏込め土4を配設した場合に、壁部Aの壁面に対する裏込め材1の保持力を高めることができる。
【0018】
上述の本発明の地盤補強構造は、図3に示すような橋脚の壁部Aの地盤補強構造として、また、図4に示すような地下鉄のトンネルの壁部Aの地盤補強構造として好適に用いることができ、これにより、かかる壁部Aに対する水平圧力を軽減し、その耐久年数を延ばすことが可能となる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実験例に基づき説明する。
(実施例1、比較例1)
実施例1として、本発明の地盤補強構造に使用するタイヤ破砕ゴム片を図5に示す円筒状容器A(高さ600mm、直径500mm)に充填し、土圧計を夫々下(底)−中心付近10、下−壁付近11、上(高さ300mmの箇所)−中心付近12、上−壁付近13の4箇所に配置した。しかる後、図示するように、充填されたタイヤ破砕ゴム片の上面から圧力を加え、各土圧計の圧力を測定した。加えた垂直圧力とともに、測定した各圧力を図6に示す。また、比較例1として、実施例1において使用したタイヤ破砕ゴム片の代わりに砂を用いた以外は実施例1と同様にして、4箇所の土圧計の圧力を測定した。加えた垂直圧力とともに、測定した各圧力を図7に示す。
【0020】
図6と図7に示す圧力測定結果から明らかなように、タイヤ破砕ゴム片を使用した場合、砂を使用した場合に比べ、下−壁付近および上−壁付近の圧力が低減されており、タイヤ破砕ゴム片を裏込め材として使用した場合には水平圧力が低減され、各種埋設壁部に対する負荷を軽減することができることがわかる。
【0021】
(実施例2、比較例2)
実施例2として、本発明の地盤補強構造に使用するタイヤ破砕ゴム片を図8に示す直方体状容器B(1000mm×500mm×1000mm)に層厚が300mm、400mm、600mm、900mmとなるように充填した。その際、土圧計を底面の短辺の中央付近16に配置した。しかる後、図示するように、充填されたタイヤ破砕ゴム片の上面から載荷板17(500mm×250mm)にて圧力23.5、70.5、117.5、164.5kPaをそれぞれ加え、底面中央の14の位置と底面の短辺の中央付近16における圧力を測定した。また、比較例2として、実施例2において使用したタイヤ破砕ゴム片の代わりに砂を用いた以外は実施例2と同様にして、同位置における圧力を測定した。底面中央の14の位置に対する、底面の短辺の中央付近16の位置の圧力減少(=(14の圧力)−(16の圧力))の結果を図9に示す。
【0022】
図9に示す圧力減少の結果から明らかなように、ゴム層および砂層の厚みが増すほど圧力減少が低下することがわかる。また、層厚が同じであれば、ゴム層のほうが砂層よりもその効果は顕著であることがわかる。
【0023】
(実施例3、比較例3)
実施例3として、本発明の地盤補強構造に使用するタイヤ破砕ゴム片を図8に示す直方体状容器B(1000mm×500mm×1000mm)に層厚が300mm、400mm、600mm、900mmとなるように充填した。その際、土圧計を底面の短辺の中央付近16に配置した。しかる後、図示するように、充填されたタイヤ破砕ゴム片の上面から載荷板17(500mm×250mm)にて圧力を順次加え、底面の短辺の中央付近16における圧力を測定した。また、比較例3として、実施例3において使用したタイヤ破砕ゴム片の代わりに砂を用いた以外は実施例3と同様にして、同位置における圧力を測定した。結果を図10に示す。
【0024】
図10に示すように、印加圧力が大きくなるほど、圧力減少が大きくなることがわかる。また、ゴム層、砂層ともに層が薄いほど圧力減少が大きく、ゴム層と砂層を比較すると、層厚が同じであれば、ゴム層のほうが圧力減少が大きいことがわかる。
【0025】
(実施例4)
実施例4として、本発明の地盤補強構造に使用するタイヤ破砕ゴム片を図8に示す直方体状容器B(1000mm×500mm×1000mm)に層厚が300mmとなるように充填した。その際、土圧計を底板の中央付近14、長辺の中央付近15、および短辺の中央付近16、の3点に配置した。しかる後、載荷板17(500mm×250mm)にて、充填されたタイヤ破砕ゴム片の上面から一定時間ごとに加圧し、各土圧計の圧力を測定した。結果を図11に示す。
【0026】
図11より、載荷板真下においては印加圧力とほぼ同じ圧力が検出されたが、圧力印加地点から遠くなるほど、検出された圧力は小さくなっていることがわかる。
【0027】
次に、破砕ゴム片層上に覆土層として砂が積層されている場合の地盤補強構造について以下の試験を行った。
【0028】
(実施例5)
実施例5として、本発明の地盤補強構造に使用するタイヤ破砕ゴム片を図12に示す直方体状容器C(2000mm×1000mm×1000mm)に層厚が800mmとなるように充填し、次いでその上に覆土層として砂を200mmの層厚となるように充填した。その際、土圧計を底面の短辺の中央付近116に配置した。しかる後、充填されたタイヤ破砕ゴム片の上面から載荷板117(500mm×250mm)にて圧力を1時間毎に順次加え、載荷板117における沈下量を測定し、初期の層厚さから充填層の圧縮率を算出した。結果を図13に示す。
【0029】
図13に示すように、印加圧力が大きくなるに従い、充填層の圧縮率が大きくなることがわかる。
【0030】
(実施例6)
実施例5と同様に、本発明の地盤補強構造に使用するタイヤ破砕ゴム片を図12に示す直方体状容器C(2000mm×1000mm×1000mm)に層厚が800mmとなるように充填し、次いでその上に覆土層として砂を200mmの層厚となるように充填した場合(B)と、タイヤ破砕ゴム片のみで層厚が800mmとなるように充填した場合(A)とにおいて、印加圧力を図13に示すように変えて底面の各位置の圧力を測定した。その際、土圧計を図12に示すように直方体状容器Cの底面114に配置した。
【0031】
図14(a)、(b)、(c)、(d)および図15(a)、(b)、(c)に示すように、(A)と(B)とで同じ圧力を印加した場合、(A)の場合よりも(B)の場合の方が充填層の圧力が夫々の測定箇所において小さくなることがわかる。
【0032】
(実施例7)
実施例6と同様に、本発明の地盤補強構造に使用するタイヤ破砕ゴム片を図12に示す直方体状容器C(2000mm×1000mm×1000mm)に層厚が800mmとなるように充填し、次いでその上に覆土層として砂を200mmの層厚となるように充填した場合(B)と、タイヤ破砕ゴム片のみで層厚が800mmとなるように充填した場合(A)とにおいて、印加圧力を(A)の場合は70kPa、(B)の場合は117kPaとして、図16に示す直方体状容器Cの各測定箇所で充填層の圧力を測定したところ、(A)の場合に比べ(B)の場合の方が印加圧力は37kPaも大きいのにもかかわらず、夫々の箇所で(A)と(B)の圧力がほぼ同等となることがわかる。
【0033】
(実施例8)
実施例7と同様に、本発明の地盤補強構造に使用するタイヤ破砕ゴム片を図12に示す直方体状容器C(2000mm×1000mm×1000mm)に層厚が800mmとなるように充填し、次いでその上に覆土層として砂を200mmの層厚となるように充填した場合(B)と、タイヤ破砕ゴム片のみで層厚が800mmとなるように充填した場合(A)とにおいて、印加圧力を図17に示すように変えて載荷板117の位置の沈下量を測定し、初期の厚さから圧縮率を算出した。
【0034】
図17に示すように、印加圧力が大きくなっても、(A)よりも(B)の充填層の圧縮率の方が常に小さくなることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施の形態に係る地盤補強構造の概略断面斜視図である。
【図2】本発明の他の一実施の形態に係る地盤補強構造の概略断面斜視図である。
【図3】本発明の地盤補強構造の適用例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の地盤補強構造の他の適用例を示す概略断面図である。
【図5】土圧低減性能評価の試験方法を示す説明図である。
【図6】実施例1における土圧低減性能評価の試験結果を示すグラフである。
【図7】比較例1における土圧低減性能評価の試験結果を示すグラフである。
【図8】他の土圧低減性能評価の試験方法を示す説明図である。
【図9】圧力減少と層厚みの関係を示すグラフである。
【図10】圧力減少と印加圧力の関係を示すグラフである。
【図11】印加圧力地点と検出地点の距離の関係を示すグラフである。
【図12】更に他の土圧低減性能評価の試験方法を示す説明図である。
【図13】実施例5における印加圧力と充填層の圧縮率との関係を経時的に示すグラフである。
【図14】実施例6における(A)と(B)との場合における各測定箇所と充填層の圧縮率との関係を示す図である。
【図15】実施例6における(A)と(B)との場合における各測定箇所と充填層の圧縮率との関係を示す図である。
【図16】実施例7における(A)と(B)とにおいて印加圧力を変えた場合における各測定箇所における充填層の圧縮率の関係を示す図である。
【図17】実施例8における(A)と(B)との場合における印加圧力と充填層の圧縮率との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 裏込め材
2 破砕ゴム片層
3 (覆)土層
4 裏込め土
A 壁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁部の壁面に対して、破砕ゴム片層を用いて裏込め材が形成され、該裏込め材の周囲が裏込め土で締め固められていることを特徴とする地盤補強構造。
【請求項2】
前記裏込め材が、破砕ゴム片層上に覆土層が積層されて形成されている請求項1記載の地盤補強構造。
【請求項3】
前記破砕ゴム片層と土層とが交互に積層されている請求項2記載の地盤補強構造。
【請求項4】
前記裏込め材の、前記裏込め土と接している面が傾斜状に形成されている請求項1〜3のうちいずれか一項記載の地盤補強構造。
【請求項5】
前記壁部が河川の岸壁である請求項1〜4のうちいずれか一項記載の地盤補強構造。
【請求項6】
前記壁部が橋脚の壁部である請求項1〜4のうちいずれか一項記載の地盤補強構造。
【請求項7】
前記壁部がトンネルの壁部である請求項1〜4のうちいずれか一項記載の地盤補強構造。
【請求項8】
前記壁部が建築物の地下壁部である請求項1〜4のうちいずれか一項記載の地盤補強構造。
【請求項9】
前記壁部が山の斜面の擁壁である請求項1〜4のうちいずれか一項記載の地盤補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図16】
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【図17】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−293365(P2009−293365A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250681(P2008−250681)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】