説明

地震計

【課題】地震計は、正確な設置と厳重な管理の必要性のために、地震観測点の数が、なかなか増やせないという課題があった。
【解決手段】地震の揺れ検出する加速度センサ1と、加速度センサ1の出力から地震波の観測方位を算出して出力する地震情報算出手段2と、地磁気を検出する磁気センサ3と、磁気センサ3の出力から地震計の設置方位を算出し、地震波の観測方位と設置方位から震央方位を算出して出力する震央方位算出手段4とを有する構成を採用した。これにより、地震計自体の設置姿勢が検出でき、地震計を簡易に配置することができる様になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震波を検出し地震情報を算出する地震計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大地震発生時には、被害が広域に及ぶため、被害状況をいち早く掴むことが災害軽減のために重要となる。このための方策として、地震後、複数の地震観測点からの地震データを収集し、その収集データに基づいて被害推定を行う手法が用いられる。
【0003】
この収集データとは、具体的には、地震観測時刻と、地震の揺れ、すなわち加速度データからなり、これら収集データを基にセンター機関にあるコンピュータが地震の規模、震源、および震度などを推定して警告を行う。
【0004】
ところで、この地震の規模、震源、震度などを精度良く推定を行うためには、たくさん観測点のデータが必要となるが、一方で、たくさんのデータを処理するには時間が掛かるという問題がある。地震の警告は、一刻も早くの警告が求められるので、この処理時間を短くすることが望まれている。
【0005】
そこで、地震観測点において、地震観測時刻と地震の揺れのみならず、震央方位を同時に検出することで、震源特定のコンピュータ負荷を低減させ処理時間を削減する地震計が提案された(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
この特許文献1に記載の地震計は、地震波の3成分(上下方向、南北方向、東西方向)から震央方向を算出しようとするものである。
【0007】
この方法について、更に詳細に図面を用いて説明を行う。図4は、震央方位を求める原理を示したものである。
【0008】
地震波の初期振幅の南北方向成分をANとし東西方向成分をAWとすると、上下動の初動が下向きのとき(Dのとき)は、ANとAWの合成方向が震央方位となり、上下動の初動が上向きのとき(Uのとき)は、ANとAWの合成方向と反対の方向が震央方位となる。
【0009】
3成分とも初動が明瞭な場合は、この原理により有効に震央方位を算出できるが、不明瞭な場合には90度又は180度の誤りが出る可能性がある。そこで、特許文献1に記載の地震計は、3成分そのものではなく、3成分を指数平滑法により、平滑化したデータにより計算を行うことで、安定した震央方位を求めることができる様になっている。
【0010】
具体的には、上下方向成分と南北方向成分の積の指数平滑値は、下記式(1)により求めることができる。
XUDNS(t)= XUDNS(t−1) α + X1(t) X3(t) ・・・(1)
また、上下方向成分と東西方向成分の積の指数平滑値は、下記式(2)により求めることができる。
XUDEW(t)= XUDEW(t−1) α + X1(t) X(t) ・・・(2)
ここで、X1(t)は上下方向成分のサンプリングデータ、X(t)は東西方向成分のサンプリングデータ、X(t)は南北方向成分のサンプリングデータ、αは0.9程度の定数、XUDNS(t−1)、およびXUDEW(t−1)は前回の指数平滑値である。
【0011】
そして、式(1)(2)で求めた、XUDNS(t)、XUDEW(t)を用いて下記の式により震央方
位を算出する。
θ(t)=tan−1(XUDNS(t)/XUDEW(t)) ・・・(3)
【0012】
【特許文献1】特開昭59−190683号公報(第3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に示した地震計は、地震計自体を東西南北方向に対して正確に設置されることが前提となっており、また、不用意に動かされないよう厳重に管理する必要があった。この正確な設置と厳重な管理の必要性のために、地震観測点の数を増やすことが困難とされていた。
【0014】
現在、日本全国には1000箇所程の地震観測点があるが、直下型地震に対応するためには未だ不十分であり、現在の10〜100倍の数の地震観測点が必要であると言われている。
【0015】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決しようとするもので、簡易な設置、管理が可能な、震央方位を算出することができる地震計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の地震計は、基本的に下記に示す構造を採用するものである。
【0017】
本発明の地震計は、地震の揺れを検出する加速度センサと、加速度センサの出力から地震波の揺れ情報を算出すると共に、地震波の観測方位を算出して出力する地震情報算出手段と、地磁気を検出する磁気センサと、磁気センサの出力から地震計の設置方位を算出し、地震波の観測方位と設置方位から震央方位を算出して出力する震央方位算出手段とを備えることを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の地震計は、現在の時刻情報を出力する時計と、地震計が設置してある位置情報を出力する位置情報設定手段と、受信情報を外部に伝達する通信手段とをさらに備え、この通信手段が、地震情報算出出手段により出力される地震波の揺れ情報と、震央方位算出手段により出力される震央方位と、時計から出力される時刻情報とを、位置情報設定手段により出力される位置情報とを受信して、外部に伝達する手段であることを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明の地震計は、前述した地震情報算出手段が、加速度センサの出力から、地震波方位、揺れ情報とともに、予測S波震度を算出する手段であり、予測S波震度を警報手段に出力し、当該予測S波震度が、当該警報手段に設定された設定値以上であるときにのみ、警報を発することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の地震計は、地磁気を検出する磁気センサと、磁気センサの出力から地震計の設置方位を算出し、震央方位を出力する震央方位算出手段とを有するため、地震計自体の姿勢を容易に検知でき、常に正しい震央方位を求めることができる。
【0021】
また、本発明の地震計は、通信手段により震央方位を伝達することができるため、震源特定のコンピュータ負荷を低減させて、処理時間を削減することができる。
【0022】
また、本発明の地震計は、地震計自体の姿勢を検知できるため、従来の地震計の様に、
正確な設置と厳重な管理の必要性がなく、簡易に地震計を配置することができ、地震観測点の数を急激に増加させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下図面により本発明の実施の形態を詳述する。
図1は、本発明の地震計を示す構成図である。図2は、本発明の地震計における加速度センサにて検出される地震波形を示す図である。図3は、本発明の地震計に搭載される磁気センサの出力を示す図である。
【0024】
[構造説明:図1]
まず、本発明の地震計の構成について図1を用いて説明する。
図1に示す様に、本発明の地震計100は、地震の揺れに対応した3軸の加速度1aを出力するピエゾ抵抗型や静電容量型の加速度センサ1と、加速度1aから地震波の観測方位2bを算出する地震情報算出手段2とを有する。当該地震情報算出手段2から、地震波の観測方位2bとともに、加速度1aに基づいて算出される予測S波震度2aと、揺れ情報2cの扱いについては、後述する。また、この地震計100は、2軸以上の地磁気3aを検出するフラックスゲート型や磁気インピーダンス型の磁気センサ3と、地磁気3aと地震波の観測方位2bから震央方位4aを算出する震央方位算出手段4を有する。
【0025】
本発明の特徴部分である、この加速度センサ1と、磁気センサ3と、これらセンサからの出力値を用いて演算を行う地震情報算出手段2と、震央方位算出手段4とによって、従来の地震計では得られなかった地震計自体の正確な方位情報を得た上で、目的の揺れ情報2cとともに震央方位4aを出力できる形態となる。これを構成する各要件の機能の詳細については、後段で説明する。
【0026】
また、この地震計100は、地震発生の正確な時刻情報5aを出力する電波時計などの時計5と、地震計100の位置情報6aを設定する位置情報設定手段6とを有する。
【0027】
さらに、この地震計100は、震央方位算出手段からの出力である震央方位4a、地震情報算出手段2の出力である揺れ情報2c、時計5の出力である時刻情報5a、位置情報設定手段6の出力である位置情報6aを合わせて外部に伝達するための通信手段7と、地震情報算出手段2から出力される予測S波震度2aに基づき、警報を発する警報手段8とを有して構成される。
【0028】
[動作説明:図1、図2、図3]
次に、本発明の地震計100の動作について図1、図2、図3を用いて説明する。
本発明の地震計100で用いる加速度センサ1は、地震の揺れを検知し、図2に示すように地震波形を表す3軸の加速度(図1における加速度1a)を出力する。本図から、3軸の加速度は、X軸成分、Y軸成分、Z軸成分からなっており、P波に遅れてS波が到達していることが判る。
【0029】
また、図1に示した地震情報算出手段2は、加速度1aを用いて、従来技術で示した式(3)に基づき、地震波方位2bであるθを算出し、震央方位算出手段4に出力する。
【0030】
さらに、地震情報算出手段2は、P波、S波に対応する加速度1aを揺れ情報2cとして通信手段7に出力する。
【0031】
震央方位算出手段4は、X,Y軸の2軸の磁気センサ3により検知された地磁気3aから、地震計100自体の姿勢、すなわち設置方位を算出する。具体的には、図3に示すように、X軸磁気センサ出力MxとY軸磁気センサ出力Myから下記の式で地震計の設置方位を
算出する。
θ=tan−1(My/Mx)・・・(4)
そして、式(3)におけるθ0に式(4)で求めたθを加算または減算することで、図1に示した正確な震央方位4aを算出し、通信手段7に出力する。
【0032】
この様に、本発明の地震計100は、加速度センサ1、磁気センサ3から出力されるデータに基づき、地震情報算出手段2から予測S波震度2aと揺れ情報2cとを求め、地磁気を検出する磁気センサ3の出力から地震計の設置方位を算出し、震央方位4aを出力する震央方位算出手段4とを設けているため、地震計自体の設置方位が若干ずれて設置されたとしても、地震計の正確な姿勢をその地震計自身で検知でき、常に正しい震央方位4aを求めることができる様になる。
【0033】
次に、本発明の地震計100に搭載される更なる機能について説明する。本発明の地震計100には、先に説明した様に、上述した構成に加えて、時計5と位置情報設定手段6と警報手段8とを有する。
【0034】
本発明の地震計100における時計5は、常に正確な時刻を刻む電波時計であることが望ましく、時刻情報5aを通信手段7に出力する。また、時計5は、一般の掛け時計や目覚まし時計のように、時針やディジタル表示器を備えたものであってもかまわない。この時計5から出力される時刻は、地震計100から出力される揺れ情報2cと震央方位4aとともに、合わせて出力される情報であり、通信手段7によって外部に通信されるこの揺れ情報2cと震央方位4aとを地震情報として利用するにあたって、必須の情報である。
【0035】
位置情報設定手段6は、地震計100の設置された位置情報6aを設定するものであり、入力装置と情報を記憶するためのメモリとで構成され、通信手段7に位置情報6aを出力する。入力装置はキーボードやスイッチであっても良いし、屋外に設置するものであればGPSであっても良い。
【0036】
地震波は、先に図2を用いて示したように、X,Y軸成分(水平成分)に比較してZ軸成分(上下方向成分)を多く含むP波が先に到着し、その後、X,Y成分を多く含み、大きな揺れであるS波が到着する。
【0037】
そして、図1に示した地震情報算出手段2は、X,Y軸成分とZ軸成分の振幅の比率からP波、S波の判別を行い、P波を検知した時点で、即座に、すなわちS波が到着する前に予測S波震度2aを警報手段8に出力する。なお、地震情報算出手段2から出力する予測S波震度は、下記表1に示すテーブルを基に求めることができる。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示したテーブルは経験的に得られたもので、P波の加速度振幅のおよそ3倍がS波の振幅となることを表している。警報手段8によって警報を発するにあたっては、精度より時間が優先されるため、このような単純なテーブル方式が適しているが、これに限定す
るものではない。そして、予測S波震度2aは、表1の予測S波加速度から次式により計算する。
予測S波震度 = 2log予測S波加速度+0.94 ・・・(5)
【0040】
具体的には、警報手段8は、地震情報算出手段2からの予測S波震度2aが一定値以上であった場合に、音や表示によって警報を発する。この警報手段8で使用する一定値とは、一般的に地震被害が発生するとされている震度4、あるいは震度5にすることが好ましい。つまり、震度4あるいは震度5以上の地震を、本発明の地震計100が検知したときにだけ、警報手段8によって警報が発せられる形態となる。
【0041】
通信手段7は、地震計100で地震が検知されると、揺れ情報2c、震央方位4a、時刻情報5a、位置情報6aを外部に伝達する。外部とは、複数の地震情報を収集して解析し、地震の規模、震源、震度などを推定して警告を行うセンター機関である。センター機関のコンピュータは、本発明の地震計100が出力する震央方位4aを用いることで、震源推定および地震到達情報のデータ処理を高速かつ正確に行うことができる。
【0042】
このように、本発明の地震計100によれば、時計5からの時計情報5aと、位置情報設定手段6からの位置情報6aとともに、先に説明した、地震情報算出手段2から出力される揺れ情報2cと、震央方位算出手段4から出力される震央方位4aを、通信手段7により伝達することができるため、震源特定のコンピュータ負荷を低減させ処理時間を削減することができる。また、この地震計100は、地震計自体の姿勢を検知できるため、正確な設置、厳重な管理の必要性がなく、簡易に地震計を配置することができ、地震観測点の数を急激に増加させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の地震計100は、高速、高精度な震源特定を求められる地震観測システムに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の地震計の構成を示す構成図である。
【図2】本発明の地震計に搭載する加速度センサにより検出される地震波形を示す図である。
【図3】本発明の地震計における磁気センサの出力を示す図である。
【図4】従来の地震計の原理を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1 加速度センサ
1a 加速度
2 地震情報算出手段
2a 予測S波震度
2b 地震波方位
2c 揺れ情報
3 磁気センサ
3a 地磁気
4 震央方位算出手段
4a 震央方位
5 時計
5a 時刻情報
6 位置情報設定手段
6a 位置情報
7 通信手段
8 警報手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震の揺れを検出する加速度センサと、
前記加速度センサの出力から地震波の揺れ情報を算出すると共に、地震波の観測方位を算出して出力する地震情報算出手段と、
地磁気を検出する磁気センサと、
前記磁気センサの出力から地震計の設置方位を算出し、前記地震波の観測方位と前記設置方位から震央方位を算出して出力する震央方位算出手段と、を備える
ことを特徴とする地震計。
【請求項2】
現在の時刻情報を出力する時計と、
地震計が設置してある位置情報を出力する位置情報設定手段と、
受信情報を外部に伝達する通信手段と、をさらに備え、
前記通信手段は、前記地震情報算出手段により出力される前記地震波の揺れ情報と、前記震央方位算出手段により出力される前記震央方位と、前記時計から出力される前記時刻情報と、前記位置情報設定手段により出力される前記位置情報とを受信して、外部に伝達する手段である
ことを特徴とする請求項1に記載の地震計。
【請求項3】
前記地震情報算出手段は、前記加速度センサの出力から、前記地震波方位、前記揺れ情報とともに、予測S波震度を算出する手段であり、
前記予測S波震度を警報手段に出力し、当該予測S波震度が、当該警報手段に設定された設定値以上であるときにのみ、警報を発する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の地震計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−30990(P2009−30990A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−192114(P2007−192114)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】