説明

地面の熱容量分析による大規模な不法廃棄物投棄現場の探索方法

【課題】 過去に産業廃棄物等を不法に投棄した後に覆土し、さらに植生が繁茂した状況下にある現場を広域に探索し発見する方法は皆無に等しかった。あっても当該地区が開発対象となって初めて航空機による熱赤外線データを収集して、廃棄物の有無を調査しているのが現状であった。
【解決手段】 産業廃棄物等が廃棄され覆土された状況下にある地面は、隣接する他の地域とは明らかに地面の熱容量が異なることに着目して、人工衛星からの熱赤外線データを昼夜間に亘って受信して保存しておき、該データを元に地表をメッシュ状に区画して隣接する複数区画の地面の昼間における温度上昇と吸収エネルギーとから熱容量を算出し、隣接する区画の熱容量を相互に比較検討し、特異な熱容量の値を呈している地区を抽出して廃棄物現場を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地表面からの放射エネルギーを人工衛星により観測することで、不法且つ大規模に投棄され、さらに当該投棄物を土砂等で覆い隠した状態にある産業廃棄物の投棄現場を発見する手法に関するもので、特に人工衛星から得られる情報を用いるために、極めて広域に及ぶ探査が可能である。
【背景技術】
【0002】
近年日本各地において大規模な産業廃棄物の不法投棄現場が相次いで発見されている。これらの不法投棄現場の多くは山間部等の普段は人が通らないような場所にあり、早期発見が困難なケースが多く、大規模になってしまってから発見される事が多い。
不法投棄問題は特に大規模であるほど、撤去費用や処理方法の問題のみならず、周辺の環境への悪影響やこれらに起因する農林水産業における風評被害などの深刻な問題を引き起こす。
従って被害が深刻になる前に早期に発見する技術が望まれている。
【0003】
当該技術に関連する従来技術として、例えば特許文献1には地表面から放射される熱赤外線を航空機により観測し、午前と午後における地表面の相対温度分布を求め、該データを基に調査した地域の地表面の発熱性・保温性廃棄物の埋没範囲を面的に抽出する方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、前記特許はこれから開発しようとする地域を限定して航空機により観測し、開発前に当該地域の廃棄物投棄の有無を調査する方法に関する技術であり、開発の対象になっていない地域の不法廃棄物投棄現場を探索する本発明とは目的が異なる。
さらに、前記特許は午前と午後における地表面の相対温度差を指標としているのに対し、本発明は地面の熱容量を求める技術を提供するものである。
【0005】
【特許文献1】特開2003−279415
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来例に見られるように、航空機から得られるデータを基に解析する手法は、開発地域内に廃棄物が投棄されているか否かの事前調査には好適であるが、特定地域の調査に限定される課題があった。一方、廃棄物が不法に投棄される場所は、開発の対象にもならない山間部等が殆どであり、広域且つ長期間に亘って投棄されているケースが多く、下流域の河川水質に異常が検出されて始めて調査が開始されているのが現実である。
【0007】
本発明は、人工衛星から受信したデータを解析することにより、過去に不法に廃棄し且つ覆土し、さらに植生が繁茂している状況下であっても、廃棄物の投棄現場箇所を推定することが可能となり、航空機等から得られるデータを基に解析していた従来例よりも極めて広範囲に探索できる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
係る観点から、本発明は、人工衛星から送信されてくるデータを基に解析することにより、従来例のように特定地域における不法投棄物の有無を調査するのではなく、極めて広範囲に亘る不法廃棄物現場を探索し、当該地域を特定する手段を提供するもである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施により、通常は人が立ち入らない山間部などに廃棄物等が不法に投棄されている現場を発見する手段として極めて有効であり、従来例に見られるように航空機等を用いる必要が無く、経費と期間の削減並びに省力化の効果もある。
【0010】
係る効果を背景に、従来より簡単に且つ広範囲に探索が可能である事から、廃棄物の不法投棄現場の早期発見が可能となり、環境保全効果並びに撤去費用削減効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、一般に人工衛星を追尾してデータを受信する装置と当該データを保存する機器とから構成されている設備を有する施設において、並びに当該施設からデータを入手することができる施設において実行可能である。
【実施例】
【0012】
図1は本発明による、地表の熱容量算出方法手順の一実施例を示す図である。
まず、地球観測を目的とした人工衛星(例えば、米国NASAの地球観測衛星Terra-1およびAqua-1など)に搭載されている撮像分光放射計のデータを受信する。
【0013】
受信したデータを日時並びに人工衛星の位置情報等を付加して保存操作を行い、該保存されたデータから、調査対象地域を収録しているデータを抽出する。
【0014】
抽出されたデータから赤外線領域の内、大気による吸収が小さい窓領域と呼ばれている11μmを中心とした8μm以上12μm以下の領域のスペクトル分布を元に、プランク輻射方程式に基づいて昼間と夜間の地表面温度を求め、該昼夜間の温度差を日中の温度上昇分とする。



【0015】
次に、衛星による画像取得日時等を元に当該時点での入射エネルギーを気象庁の観測データ等から求め、当該入射エネルギーから次項に述べる手法により算出される反射エネルギーを差し引いて吸収エネルギーを求める。
【0016】
当該地域からの反射エネルギーは、先ず前記した8μm以上12μm以下の領域のスペクトルを当該波長帯に亘って積分し、さらに該積分値を地表放射率と大気透過率で除した輻射エネルギー値から、太陽光に含まれない輻射エネルギーを差し引いて算出する。



【0017】
上記した方法により求めた吸収エネルギーを前述の温度上昇分で除することにより当該地域の熱容量を求めることが出来る。


【0018】
本発明は、以上の手法で求めた当該地域の熱容量と近接する地域の熱容量を比較して検討することにより、当該地域に廃棄物が投棄されているか否かを判定することを特徴としている。したがって、比較する基準となる当該地域と近接する地域を選定する基準が重要となる。
【0019】
比較対象とする地域の選定基準として、(1)地表放射率が同等であることが望ましいことから、地表放射率に最も影響を及ぼす植生が等しい地域、(2)周辺の地形による温度変化等の影響を排除する目的から、地理的条件が近い地域、(3)大気透過率が同等であることが望ましいことから、座標的に近接している地域であることの3項目が挙げられる。
【0020】
上述した3項目を満足する地域のデータを抽出し、先に述べた手順により熱容量を算出し、廃棄物が不法投棄されていると推定される地域の熱容量と比較検討する。なお、比較対象とする地域を複数選定して検討する事により、当該不法投棄現場との熱容量の違いが鮮明になる。
【0021】
図2〜図4は本発明の効果を実証する目的で、日本国内で過去に大規模に産業廃棄物が不法投棄され、最近当該現場が明確になった地域の内、3箇所を対象に本発明の実施例に記載した手順により解析した結果を示した。
【0022】
図2は本発明の実施例に示した手順によりA地域における廃棄物投棄現場の探索結果の例を示す。前記した選定基準に従って抽出したA地域付近3箇所の地面の熱容量を算出して平均値を求め、該熱容量の平均値からの偏差割合を3地区別に示してある。
【0023】
A−1地区の熱容量は平均値熱容量との偏差割合が3%程度となっているのに対し、A−2地区およびA−3地区の偏差割合は約−1.5%となっている。したがって、A−1地区はA−2地区およびA−3地区の地表面の熱容量とは明らかに異なっており、A−1地区には周辺の土壌とは異なる物質が存在していると判断できる。
【0024】
図3は本発明の実施例に示した手順によりB地域における廃棄物投棄現場の探索結果の例を示す。熱容量の算出手順並びに偏差割合を求める方法は前記と同様である。B地域では、B−1地区の熱容量は平均熱容量との偏差割合が−20%程度となっているのに対し、B−2地区およびB−3地区の偏差割合は共に約10%となっている。したがって、B地域においては、B−1地区に周辺の土壌とは異なる物質が存在していると判断できる。
【0025】
図4は本発明の実施例に示した手順によりC地域における廃棄物投棄現場の探索結果の例を示す。C地域では、C−1地区の熱容量は平均熱容量との偏差割合が約4.7%となっているのに対し、C−2地区の偏差割合は−2.5%程度およびC−3地区は−2.2%となっている。以上、3地区の熱容量を比較検討した結果、C地域においては、C−1地区に周辺の土壌とは異なる物質が存在していると判断できる。
【0026】
以上に示した地表熱容量の算出結果は、産業廃棄物が投棄されていることが事前に分かっている箇所を対象として実施したものであるが、明らかに隣接する地域とは異なった地面の熱容量となっている。
【0027】
以上の実施結果から、廃棄物投棄に関する情報が十分に得られていない地域を対象に、本発明を適用して当該地域の地表の熱容量を求めることにより、当該地域が過去に不法投棄後覆土された地域であれば、明らかに隣接する他の地域とは異なった地面の熱容量となっており、当該地域に廃棄物が投棄されていると特定できる。
【0028】
さらに、上述した図2のA地域のA−1および図4のC地域のC−1では、各地域の平均熱容量との偏差割合がプラスの値になっている。これは、当該A−1地区およびC−1地区においては、付近の土壌よりも熱容量が大きい物質の存在を示しており、反対に図3のB地域のB−1地区はマイナスの値になっていることから、B−1地区においては、付近の土壌よりも熱容量が小さい物質が主に投棄されていることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、廃棄物が不法投棄された地区を探索する手段に限定するものではなく、地下資源探査、温泉等の地下水脈探査等、地表近傍の情報を得る手段として広く活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明から成る地表の熱容量算出方法の手順を示す図
【図2】本発明の実施例による廃棄物投棄現場探索結果(その1)
【図3】本発明の実施例による廃棄物投棄現場探索結果(その2)
【図4】本発明の実施例による廃棄物投棄現場探索結果(その3)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像分光放射計を搭載している人工衛星から受信した波長3μm程度以上14μm程度以下のデータを基に、
地理的且つ気象学的にほぼ同一条件下にある昼間と夜間の前記データを選択した後、
8μm以上12μm以下の領域の昼夜のスペクトル分布から日中における一定時間内の地表温度上昇分を求め、
該地表温度上昇分を算出した時間と同一時間内における太陽光の入射エネルギーから、輻射と反射に係るエネルギーを差し引いて当該地表の吸収エネルギーを求め、
該吸収エネルギーと前記地表温度上昇分とから当該地表の熱容量を算出することを特徴とする
地面の熱容量分析による大規模な不法廃棄物投棄現場の探索方法。
【請求項2】
(1)植生が等しい点、(2)地理的条件が近い点、(3)座標的に近接している点の三条件を満たす地域を選定して周辺地域とし、
該周辺地域の地表の熱容量を請求項1に示した手法で求め、
不法投棄現場と推定される地域の地表の熱容量と当該周辺地域の地表の熱容量とを比較検討することによって、不法投棄現場を特定することを特徴とする
地面の熱容量分析による大規模な不法廃棄物投棄現場の探索方法。
【請求項3】
始めに比較的広域区画として隣接する複数地域とし、
該複数地域の地表の熱容量を請求項1に示した手法で求め、
当該複数地域の平均熱容量より偏差が大きい値を呈する地域を抽出し、
次に前記抽出地域を含む地区をより細かく区画した複数地域とし、
該複数地域の地表の熱容量を請求項1に示した手法で求め、
当該複数地域の平均熱容量より偏差が大きい値を呈する地域を抽出し、
漸次区画を細かくして解析することにより、
熱容量が特異な値を呈する地域を特定することを特徴とする
地面の熱容量分析による大規模な不法廃棄物投棄現場の探索方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−58333(P2009−58333A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225164(P2007−225164)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(303002930)財団法人青森県工業技術教育振興会 (17)
【Fターム(参考)】