説明

均一組成コポリマー用のセミバッチ共重合方法

本発明は、セミバッチ式の共重合方法に関する。さらに具体的には、本発明の方法は、均一組成コポリマーの製造(異なるモノマー、例えば、反応性比が著しく異なるモノマーからそのようなコポリマーを製造することを含む)に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セミバッチ式の共重合方法に関する。さらに具体的には、本発明の方法は、均一組成コポリマーの製造(異なるモノマー、例えば、反応性比が著しく異なるモノマーからそのようなコポリマーを製造することを含む)に関する。
【背景技術】
【0002】
セミバッチ重合方法は、反応性がさまざまであるモノマーを重合させるための標準的なバッチ方法の欠陥の幾つかに対処しようとする改良バッチ方法である。セミバッチ重合方法では、反応器にモノマーおよび触媒の一部のみを最初に入れる。典型的には、容器の初期充填時に、反応性の低いモノマーが高いモル比で存在することになる。反応が進行し、コポリマー製造にモノマーが費やされるにつれて、さらなるモノマーおよび任意選択的に触媒が、モノマーの相対反応性および所望のコポリマー組成の両方によって決まる比率で反応器に供給される。共重合方法で一般的に行われているように、これは開ループ法である。すなわち、反応塊の組成を監視する現場分析(in−situ analysis)もリアルタイム分析も行われず、それゆえにプロセスの混乱を相殺するために供給組成を調節する手段がないものである。
【0003】
化学工業における工業プロセスで通常用いられる閉ループセミバッチ方法論は、コポリマーの製造には適用されてこなかったが、これは主に、重合が進行している間に反応塊の組成を現場監視するための好適な分析技術がないという理由のためである。モノマーおよびそのモノマーから製造される任意のポリマーのスペクトル特性は、非常に似ていることが多く、そのため任意の所与のモノマーがどれだけポリマーに変換されたかを測定するのが難しい。
【0004】
強混合反応器中での重合プロセスの液相組成の調整は、困難なプロセス制御問題であるが、それはそのプロセスが本質的に非線形であるのが主な理由である。反応器が満たされるにつれて、プロセス利得(process gains)(1種類のモノマーの供給量が1単位変化した場合の反応器内の所与のモノマーの濃度の変化)は減少し、反応器が満たされるにつれて(反応器中の濃度変化において供給量の変化が見られるときの)プロセス時間定数(process time constants)は増大する。したがって、この問題に使用される従来の線形制御系は本質的に安定していない。本質的に非線形であることに加えて、複数のプロセス変数を同時に調整する必要があるため、制御はいっそう複雑である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現場でのプロセス監視が使用され、かつ重合の軌跡を連続的に調節するのに組成の測定値が用いられる、セミバッチ重合反応器内での閉ループ組成制御は、これまでに開示されていなかった。それゆえに、反応性比が非常に異なるモノマーからでさえ均一組成のコポリマーが製造される共重合方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、検出システムを備えた反応器中でモノマーを反応させる重合方法であって、
a.目標液相組成のモノマーのプレチャージを反応器に充填する工程と;
b.反応器中での所望の一連の反応条件および中間液相組成を確立する工程と;
c.検出システムで中間液相組成を測定して中間液相組成値を得る工程と;
d.中間液相組成値を制約付き予測モデル制御システム(constrained predictive model control system)への入力として用いる工程と;
e.制御システムからの出力を用いて反応器へのモノマーの供給量を調節して目標液相組成を維持する工程とを含む、モノマーを反応させる重合方法である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1A】本発明の1つの実施態様に役立つデータ収集・分析装置の略図である。
【図1B】本発明の1つの実施態様用の重合反応器の略図である。
【図2】本発明の1つの実施態様の流れ図である。
【図3】実施例1についてモノマー流量およびTFE圧を時間に対して示したグラフである。
【図4】実施例1についてのモノマー濃度 対 時間のグラフである。
【図5A】比較例A(開ループ法)のリトグラフ性能を比較した顕微鏡写真である。
【図5B】実施例1(閉ループ法)のリトグラフ性能を比較した顕微鏡写真である。
【図6A】ポリマー(本発明の開ループ法で調製した比較例A)の組成図である。
【図6B】ポリマー(本発明の閉ループ法で調製した実施例1)の組成図である。
【図7】比較例Aについてのモノマー濃度対時間のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本出願人らは、液相中のコモノマー濃度の現場測定を用いるとともに、モノマー供給量を調節して一定の液相組成を維持する制約付きモデル予測制御アルゴリズムを用いた、高度な制御および最適化が行われるセミバッチ重合方法を開発した。この方法により、重合の過程全体にわたって液体充填速度も一定に維持されるという制約のもとでも、目標液相組成を維持することができる。この制約により、反応器の生産能力は最大化されるとともに、反応器がいっぱいになり過ぎないようにされる。この方法は、重合反応性が非常にさまざまであるモノマー(相対反応性比が2より大きいかまたは0.5未満である)を重合させるのに有用であるが、反応性が類似しているモノマー(約0.5から2の間の相対反応性比)にも使用できる。そのようなモノマーの例として、フルオロオレフィンの二重結合の炭素にフッ素が結合したフルオロオレフィン類、アクリレート、メタクリレート、環状オレフィン、ビニルエーテル、およびスチレン系化合物(styrenics)がある。
【0009】
モノマーの液相組成を一定に維持できることの結果として、本発明の方法で作られたコポリマーはさまざまな鎖の組成がより均一になる。
【0010】
均一性の増大によるコポリマーの性能への影響は、コポリマーの性質およびコポリマーが使用される用途の両方によって異なる。例えば、本発明の方法で作られたある種のフォトレジストコポリマーは、標準的なセミバッチ方法の条件下で同じモノマーから作られたコポリマーと比較して、ラインエッジラフネス(line−edge roughness)が向上することが実証された。
【0011】
本発明の方法を用いるなら、生産性を犠牲にすることなく、ある特定の重合方法の安全性も向上させることができる。セミバッチ反応器の場合、そして特に反応物の1つが有毒性および/または爆燃性である場合(例えば、TFE)、プロセス安全性の点から見て、方法の供給段階の間に反応器がいっぱいになりすぎないことが重要である。その反対に、経済的な観点から言えば、それぞれのバッチで反応器の潜在能力を最大限まで利用することが大いに望まれる。従来の線形制御系では、そのような制約に対処することができない。
【0012】
本発明の方法では、制約付きモデル予測コントローラー(CMPC)の使用と適切な分光技術または他の分析技術とを組み合わせて、セミバッチ共重合の全過程にわたって所望のモノマー濃度を維持することができるシステムを提供する。商用ソフトウェア・パッケージが多数の供給元から入手可能であり、その供給元としては、Adersa(HIECONというプログラム(Paris,France));Cutler Technology Corp.(DMCというプログラム(SanAntonio,TX));Honeywell(RMPCTというプログラム(Morris Township,NJ));Aspentech(DMCPlusというプログラム(Houston,TX));およびThe Mathworks、Inc.(MPCMOVEというプログラム(Natick,MA))がある。
【0013】
P.B.Deshpandeら、Chemical Engineering Progress,91,3,1995,65−72頁で説明されているように、CMPCは線形多変数連続系の高度な制御および最適化のために開発された線形ディジタル・コンピュータ制御アルゴリズムである。モデル予測制御のサブセットであるCMPCは、明確な動的モデルを利用して、将来のある時点における制御プラントの状態を予測する。Six Sigma and Advanced Controls,Inc.の[ONLINE](商標)は、単一のソフトウェアアプリケーションに従来のフィードバック、先回り制御、および条件付き最適化を組み込んでいる。CMPCは、正方システム(操作変数(MV)の数がプロセス出力変数(process output variable)(PV)の数と等しい)および非正方システム(MVの数がPVの数と等しくない)の両方に対応することができる。PVの数がMVの数を超える場合、CMPCはユーザー指定範囲内で被制御変数を調整する。MVの数がPVの数を超える場合、ふさわしい経済最適化目標に基づいてMVを割り当てることができる。後者のシナリオでは、所望に応じて処理量の最大化、エネルギー消費の最小化、品質管理の改善、およびより有用な製造物の生産の改善を行うことができるようになる。
【0014】
線形動的プロセスモデル(linear dynamic process models)はCMPCの根幹をなし、ステップ応答モデルが[ONLINE](商標)で用いられている。ステップ応答モデルは、2ステップ実験プロセス識別手順(two−step experimental process identification procedure)から作られる。最初に、正常動作条件で作動するプロセスで、ふさわしい期間の間、操作変数(MV)を両方向(開始値より上および下)に動かし、得られた入力データ(MVおよび測定外乱(ある場合))および出力データ(PV)を記録する。第2ステップでは、得られたデータを分析して、多変数プロセスの開ループステップ応答モデルを得る。サンプリング頻度(すなわち、サンプリング間隔)は、多変数系におけるもっとも遅い変遷パターン(dynamics)が正確に描き出されるように選択する。
【0015】
プロセスに関してCMPCを実行するための段階的手順は以下のとおりである:
1. それぞれのサンプリング間隔で、ステップ応答モデルを用いてPサンプリング間隔についてのすべてのプロセス出力(PV)の将来の値を予測する。パラメーターPは予測範囲と呼ばれる。
2. 現在のプロセス出力測定値に基づいて、ステップ1において予測されたプロセス出力のベクトルを訂正し、こうして非測定外乱およびモデリング誤差があることを考慮に入れる。
3. 訂正した将来のプロセス出力を設定値の軌跡と比較して、将来の誤差のベクトルを生成する。
4. 条件付き最適化問題を解いて、ユーザー選択の最適化指標が満足されるように(操作変数およびプロセス出力に対するすべての操作制約によって決まる)Mコントローラー変動量(M controller movement)(MV)のセットを計算する。パラメーターMを制御範囲と呼ぶ。
5. それぞれの操作変数でのこれらのM変動値(M moves)の最初のものをプロセスに適用し、次のサンプリング間隔でステップ(1)〜(4)を繰り返す。
【0016】
パラメーターであるN(最長開ループ整定時間)、M(制御範囲)およびP(予測範囲)は、コントローラーの応答性および堅牢性(プラントモデルの不適合があっても安定性を維持する能力)と関連がある。これらのパラメーターを適切に選択するならば、万全の制御(最小変動制御)を指定できる。しかし、この場合、操作変数の過度の変動が生じ、システムはモデリング誤差があると不安定になりうる。よく行われるようにPをN+Mに等しくなるように設定すると、計算が単純化され、望ましい堅牢特性(robustness properties)を有する高性能のコントローラーとなる。
【0017】
制約付きモデル予測コントローラーは、操作可能目的(operational objectives)を指定するための幾つかのパラメーターを含む。
・プロセス出力の上限および下限は目標を指定する。上限を下限と等しく設定することにより、ただ1つの設定値が指定される。異なる値の場合には、プロセス出力がその中に収まる範囲が指定される。コントローラーは最初に、それぞれの範囲内のプロセス出力を調整しようとする。そうすることができた場合、コントローラーはコスト係数で指定された経済的目標を達成することに集中する。
・プロセス出力に関連した重みを用いて、それぞれの相対的重要性に優先順位を付ける。より大きな選択的重み付け値を特定のMVに割り当てることにより、他のMVと比べてそのMVの制御がより厳しくなる。
・操作変数の上限と下限で、CMPCが違反することのない操作変数の範囲を指定する。
・操作変数に関連したコスト係数(または変動ペナルティー(move penalties))により、目的関数で指定された経済基準に基づいてその割り振りを行うことが可能である。
・最大変動サイズ(maximum move sizes)。CMPCソフトウェアは、あるサンプリング間隔から次のサンプリング間隔へ変わっても、指定された操作変数の最大変化に違反することはない。
【0018】
本発明の1つの実施態様において有用な反応器、検出器および制御システムを、略図的に図1Aおよび1Bに示す。この例の構成では、2種類の液相モノマーおよび1種類の気相モノマーを用いる。この構成では、液相モノマーの1つ(図1BにおいてM1で示されている)をポンプAでセミバッチ反応器へ供給する。反応器内監視システムで、このモノマーの濃度を測定する。他の液相モノマー(M2)は、ポンプBで重合反応器へ供給する。重合開始剤は、ポンプCで反応器へ供給する。圧力制御バルブ(図1A中のPCV)を通してコンプレッサーで気相モノマーを反応器に添加し、このモノマーの一部を液相中に溶かすと共に、反応器内監視システムで監視も行う。この実施態様では、液相中のモノマーの濃度および反応器へ入る溶液の総流量が目標値に保持されるが、これはポンプAおよびポンプBからのモノマー溶液の流れおよび反応器圧力を維持するローカルコントローラーの設定値を操作することによりCMPCコントローラーによって行われる。反応器圧力により、反応器へ供給される(液相に溶解する)気相モノマーの量が決まる。液相組成は、反応器の透明窓を通してラマン分光法で分析する。液相組成物からのラマン散乱光は透明窓を透過し、ラマン信号(これはラマンプロセスアナライザー(Raman process analyzer)に伝えられる)を生成する。反応過程の間に周期的にラマン信号データを集めて、中間液相組成を決定する。
【0019】
反応器の温度制御は、内部/外部の加熱/冷却複合化システムを用いて維持する。
【0020】
他の実施態様では、ポンプAおよび/またはポンプBは2種以上のモノマーの混合物を含むことができる。
【0021】
図1Aに示されているように、ラマン信号をラマンプロセスアナライザーで分析し、その後、ラマンPCへ送って組成情報へ変換する。次いで組成情報をプロセス制御PCへ送って、プロセスに関してCPMCを実行する。
【0022】
重合の目標液相組成は、所与の目標コポリマー組成に関して事前に古典的ポリマー式を用いて決定されるが、これは重合するモノマーのそれぞれの相対反応性によって決まる。モノマーの反応性比の差が大きければ大きいほど、目標液相組成は目標コポリマー組成とは異なることになる。モノマーの反応性比は、対共重合(pair−wise copolymerizations)の速度論的研究または非線形パラメーター推定手法から得ることができる。これらの手法はどちらも当業者によく知られている。
【0023】
本発明の1つの実施態様のブロック図を図2に示す。
【0024】
目標液相組成をどのように求めるかを示すため、TFEとNB−F−OHとtBAとの三元共重合体を考慮する。この三元共重合体のポリマーの式を以下に示す。
【0025】
【数1】

【0026】
反応性比(r3121、r2132、r3123など)は一連のバッチ重合から得られた。上式を用いて、必要とされる目標液相組成(すなわち、TFE、NB−F−OHおよびtBAの濃度)をそれぞれの目標コポリマー組成(PTFE:PNB-F-OH:PtBA)について計算することができる。
【0027】
【表1】

【0028】
例えば、目標コポリマー組成においてTFEが30モル%、NB−F−OHが20モル%およびtBAが50モル%であるとすると、液相組成は重合の全過程にわたってTFEが54.27モル%、NB−F−OHが19.50モル%、およびtBAが26.22モル%にすべきである。
【0029】
制御ストラテジ(control strategy)は、反応の過程全体を通じて反応器へのモノマー溶液の供給量を操作することにより、反応器中の液相組成を制御してコポリマー組成を調整する。開始剤の供給量は、制御システムによっては操作されず、むしろ開始剤の供給プロファイル(feed profile)が実行に先立って設定される。
【0030】
本発明の方法の1つの実施態様では、反応器は、目標液相組成を有するモノマー混合物でインラインセンサー(in−line sensor)を十分に濡らすことができるレベルまで満たす。それぞれのモノマーのさらなる分量を、それぞれのモノマーがポリマーに転換される速度で重合の過程全体にわたって反応器に加える。
【0031】
本発明の1つの実施態様では、[ONLINE](商標)は、不揮発性モノマーの流れ設定値および圧力設定値をリセットして、被制御変数(例えば、不揮発性モノマーのモルパーセントおよび全モノマー液体流)を所定の目標値にする。
【0032】
全モノマー液体流は、モノマー溶液の供給の合計であり、データ収集・制御ソフトウェア(例えば、National Instruments(Austin,TX)のLabView(登録商標)データ収集・制御ソフトウェア)において所定の頻度で計算される。全モノマー液体流の設定値は、反応器への初期充填(V0)、反応器への所望の最終充填(Vf)、重合継続時間(tP)、およびTFEの全液相吸収の計算値(VTFE)に基づいてそれぞれの実行の前に、手作業で計算する。
【0033】
【数2】

【0034】
反応器へ入る液体の全流量をこのように制限することで、この方法は、固有のプロセス安全性の手段を有する。システムは所望の組成設定値を達成するために積極的に流量を操作しようとするが、当然ながら反応器がいっぱいになりすぎることも、充填不足になったりすることもないからである。
【0035】
本発明の方法を用いてさまざまなTFEコポリマーを作ることができる。TFEコポリマーの分子量は、連鎖移動剤(例えば、THF)の添加、反応温度の操作、またはラジカル開始剤の添加割合によって効果的に制御できる。分子量を制御するためのこれらの方法はすべてバッチ重合の技術分野においてよく知られている。本発明の1つの実施態様では、開始剤濃度と連鎖移動剤濃度を併用してポリマーの分子量を調整する。
【0036】
本発明の1つの実施態様は溶解したTFEとアクリレート系モノマーの重合が関係しているが、当業者なら他のタイプのモノマー(スチレン系化合物およびオレフィン系炭化水素(olefinics)を含む)のフリーラジカル共重合にこの方法が有用であることを容易に理解するであろう。
【0037】
本発明の1つの実施態様では、現場測定はラマン分光法で行われる。これと同様に、液相のモル組成の測定を行える任意のインライン装置(FTIR、NIR、デンシトメトリー、GCなど)を利用できるであろう。
【実施例】
【0038】
特に記載のない限り、組成はすべてモル%で示す。
【0039】
化学製品/モノマー
【0040】
【表2】

【0041】
実施例1
TFE、NB−F−OHおよびアクリレート(PinAcおよびHAdA)の閉ループ共重合
この実施例は、モノマーが0.059〜47.4の範囲の反応性比を示す、セミバッチ共重合の閉ループ組成制御を示す。
【0042】
特にこの実施例は、反応の全過程にわたって組成が閉ループ制御される、アクリレート(HAdAおよびPinAc)、TFE、およびノルボルネンフルオロアルコール(NB−F−OH)の共重合を示す。この実施例の目標コポリマー組成は、TFEが21%、NB−F−OHが41%、PinAcが21.6%、HAdAが16.4%であり、重量平均分子量(Mw)が35,700であった。溶媒中の最終ポリマー濃度の目標を30重量%とし、モノマーおよび開始剤の流れが開始して12時間後の重合の終了時に反応器が67.56%まで満たされることを目標とした。これら4種類のモノマーの反応性比から、目標ポリマー組成では、TFEが40.09%、NB−F−OHが43.78%、アクリレートが16.14%の液相組成が必要であろうことを計算した。
【0043】
重合反応では、4種類のモノマーを3つの別個の流れで利用した:NB−F−OH(酢酸メチル溶媒中)、酢酸メチル溶媒中のアクリレート(21.6/16.4のモル比のHAdAおよびPinAc)、TFE(気体)。Isco(登録商標)スクリューポンプを用いて2種類の液体モノマー溶液を供給した。TFEは圧力制御ループを介して重合反応器へ供給した。Isco(登録商標)ポンプは開始剤溶液の供給にも使用した。
【0044】
重合反応器は、内部冷却コイルおよび内部攪拌機と連接した形で冷却/加熱ジャケットを備えた、343℃で1500psigの定格圧力の1ガロン(INCONEL(登録商標)600)容器(Autoclave Engineersのもの)であった。反応器には、撮像ラマン分光計(Kaiser Optical SystemsモデルRXN1−785)も備わっていた。
【0045】
ラマン分光分析データは、反応器のサファイアのぞき窓を通して収集され、光ファイバーケーブルによってラマンコンピュータへ送られ、一変量および多変量キャリブレーションモデルを用いてそれぞれ線形回帰および部分最小二乗法アルゴリズムに基づいて分析して、60〜80秒間の分析サイクルでTFE、NB−F−OHおよび全アクリレートのモル分率を推定した。
【0046】
モル分率測定値は、ハードワイヤードシリアル通信によって監視プロセス制御・データ収集システム(Labview(登録商標)ソフトウェア(National Instruments(Austin,TX))で作成され、パーソナルコンピュータで実行される)へ渡した。この方法で製造されるコポリマー組成物のリアルタイム制御は、SAC, Inc.(Louisville,KY)提供の、ソフトウェアで実行される制約付きモデル予測コントローラー(CMPC)(ONLINE(商標)と呼ばれる)によって実現された。このアルゴリズムでは、NB−F−OHおよびアクリレートの濃度の測定値と、目標値ならびにこれら2種類のモノマー溶液の流量の設定値および反応器圧力設定値の計算された変更(制御アルゴリズムの目的関数を満たすであろう変更)とを比較した。得られた設定値変更は、Labview(登録商標)の監視プロセス制御ソフトウェアへ転送され、次いで、反応器への溶液流量を調整するローカルポンプコントローラーおよび反応器へのTFE供給管路の制御バルブを調整するローカル圧力コントローラーへ転送された。
【0047】
重合プロセス
重合反応器をN2で洗浄した。その後、圧力が70psigに達するまでTFEを反応器へ送り、次いで反応器からガス抜きをした。TFEで加圧しその後ガス抜きを行うというこのサイクルを6回繰り返した。その6回目のサイクルの後、反応器圧力を抜いて5psigにした。
【0048】
Isco(登録商標)ポンプAを用いて、322gのNB−F−OH、10gのPinAc、12gのHAdAおよび426gの酢酸メチルからなる溶液(撹拌子の下部のブレードを覆うのに十分な量)を反応器に仕込んだ。ポンプAおよび送出管路(delivery lines)の残留プレチャージ溶液を回収容器へ排出した。ラマン装置を始動させて、反応の間60秒ごとに1回、この装置から反応器内の液相の組成の測定を行った。
【0049】
その後、Isco(登録商標)ポンプAにモノマー溶液M1(酢酸メチル中66.8重量%のNB−F−OH)を満たし、この溶液の少量を用いて残留プレチャージ溶液をすべて送出管路から取り除いた。
【0050】
Isco(登録商標)ポンプBにモノマー溶液M2(酢酸メチル中に27.7重量%のPinAcおよび33.0重量%のHAdA)を満たし、この溶液の少量を用いて前の作業の残留溶液をすべて送出管路から取り除いた。
【0051】
Isco(登録商標)ポンプCに開始剤溶液(酢酸メチル中に4.6重量%のPerkadox(登録商標)16N(Noury Chemical Corp.(Burt,NY))(ジ−(4−tert−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート))で満たし、この溶液の少量を用いて前の作業からの残留溶液をすべて送出管路から取り除いた。
【0052】
次いで反応器上の攪拌装置(agitator drive)を始動させ、調節して撹拌速度を500rpmにした。次いでJulabo(登録商標)加熱/冷却装置を始動させ、設定値を50℃に調節した。
【0053】
反応器温度が50℃に安定すると、反応器圧力用の圧力コントローラーは210psigに設定され、TFEコンプレッサーが始動され、反応器へのTFEガスの流れが開始された。
【0054】
反応器の温度および圧力の両方がそれらの設定値条件で安定してから、3つのIsco(登録商標)ポンプ全部を始動した。ポンプAの開始流量は1.247cc/分、ポンプBの開始流量は0.590cc/分、ポンプCの開始流量は4.64cc/分であった。開始剤の流れが開始されてから6分後に、ポンプCからの開始剤の流れの設定値を0.19cc/分に変更した。このように、反応器へ供給されるPerkadox(登録商標)の総量(5g)を、最初の6分間で23.8%が入り、残りが8時間かけて一定速度で入るように分けた。
【0055】
液相組成の初期設定値(Perkadox(登録商標)の流量の設定後にラマン測定装置で測定したもの)は、前の重合に対してTFEが67.3%、NB−F−OHが30.0%およびアクリレートが2.7%であった。
【0056】
ポンプAおよびBの流量および反応器圧力の設定値は、ラマン装置から得た信号に応じて、ONLINE(商標)CMPCアルゴリズムで決定されたとおりに、重合の過程全体にわたって7分ごとに更新した。
【0057】
CMPC[ONLINE](商標)の構成を表1に示す。ONLINE(商標)コントローラーは、M1の供給量を1.25cc/分、M2の供給量を0.59cc/分で開始するよう設定した。総流量の制約は1.84cc/分に設定した。
【0058】
【表3】

【0059】
反応過程全体にわたるONLINE(商標)で示された設定値の軌跡を図3に示す。ラマン装置で測定して得られた液相組成の軌跡を図4に示す。重合の過程の間ずっと、おおよそ毎分1つのサンプルの頻度で704回の組成測定をラマン装置で行った。液相組成について得られた統計結果を表2に示す。
【0060】
【表4】

【0061】
反応器に供給されるそれぞれのモノマーの総量を表3に示す。
【0062】
【表5】

【0063】
開始剤の流量を0.19cc/分に変更した後8時間経ってから、ポンプCを止めた。モノマー溶液が反応器へ流れ始めた後12時間経ってから、ポンプAおよびBを止めた。それと同時にTFEの流れを止め、反応器圧力が40psigに達するまで10分ごとに20psiずつ段階的に反応器の排気を行った。TFE圧力が40psigに達した時点で、Julabo(登録商標)加熱/冷却装置の設定値を25℃に下げた。反応器温度が25℃に達した時点で、TFE通気管路を通じて容器の残りの圧力を解放し、攪拌機のモーターを停止した。次いで、圧力が10psigに達するまで反応器に窒素を加えた。
【0064】
次いで反応器内の溶液を取り出して、明るい黄色のやや濁ったポリマー溶液2781gを得た。その液体密度は1.39g/L、Mwは32,700、多分散度(Mw/Mn)は2.02であった。ポリマー溶液をヘプタン中に沈澱させて(ヘプタンとポリマー溶液の容積比は18/1)、472gの白色ポリマーを分離した。このポリマーをSolkane(登録商標)365mfc/THFの混合物(50/50の重量比)中に再溶解させてから、ヘプタンで再沈澱させて433gの最終乾燥生成物を得た。この最終乾燥生成物のゲル浸透クロマトグラフィーでは、Mwが34,500であり、多分散度が1.86であることが示された。NMR分析でポリマー組成を求めると、8.6%TFE/30.9%NB−F−OH/30.9%PinAc/29.6%HAdAであった。
【0065】
リソグラフィー工程
12重量%の固形分の配合物として最終乾燥ポリマー(97.88g)、トリフェニルスルホニウムノナフレート(triphenylsulfonium nonaflate)(2.00g)、およびテトラブチルアンモニウムラクテート(tetrabutylammonium lactate)(0.12g)を2−ヘプタノン中に含むものを調製し、一晩攪拌した。
【0066】
画像形成はクリーンルーム施設内で行った。東京エレクトロン株式会社(Tokyo Electron Company)(日本国東京)のTEL ACT 8塗布/焼付け/現像トラックを用いて、配合物の被覆および処理を行った。配合物は、82nmのAR19反射防止コーティングで下塗りされた8インチのSiウェーハ(Rohm and Haas Electronic Products(Marlborough,MA)のもの)の上に手作業で施し、1764rpmで回転させて約270nmの厚さの膜を得た。回転させた後、塗布したウェーハを150℃で60秒間焼き付けた。次いで、ウェーハは、ASML(Veldhoven,the Netherlands)のSVG Micrascan 193ステッパーを用いて画像を描き、NA=0.60およびシグマ=0.3を有する照明光学系(illumination optics)で準備した。さまざまなパターン(それらの中には100nmの1:1線が含まれる)を有する位相シフトマスク(alternating phase−shift mask)(AltPSM)で、画像が提供された。0.5mJ照射増分での露光の蛇行パターンを作成した。画像形成の後に、ウェーハを135℃で60秒間焼き付けて、Clariant(登録商標)300MIFの2.38%現像液(AZ Electronic Materials(Branchburg,NJ))で60秒間現像した。次いで、KLA Tencor(SanJose,CA)の走査型電子顕微鏡(SEM)型式番号8100 CDを用いて、このパターンの最適露光を特定し、図5に示す画像を作成した。
【0067】
比較例A
TFE、NB-F-OHおよびアクリレート(PinAcおよびHAdA)の開ループ共重合
実施例1の場合のように、目標コポリマーモル組成は、TFEが21%、NB−F−OHが41%、全アクリレートが38%(PinAcが21.6%、HAdAが16.4%)であり、Mwは35,700であった。溶媒中の最終ポリマー濃度の目標を30重量%とし、モノマーおよび開始剤が流れ始めて12時間後の重合の終了時に反応器が67.56%まで満たされるはずであった。しかし、この比較例では、液体モノマー溶液の流量およびTFE気体流によって維持する反応器圧力の設定値は、反応過程の間中、一定に保った(開ループ方式)。この比較例は、決して均一とは言えない反応性比を示すモノマーのセミバッチ共重合の場合に従う、従来の手順を示している。
【0068】
重合プロセス
プレチャージ、モノマー溶液(M1およびM2)および開始剤溶液の組成は、実施例1のものと同じであった。ONLINE(商標)コントローラーが関与しなかったこと以外は、重合も同様にして行った。モノマー流量および反応器圧力の設定値は、実施例1で開始条件として決めたレベルに、重合過程を通じて一定に保った。
M1の流量=1.25cc/分
M2の流量=0.59cc/分
反応器圧力=210psig
ラマン装置で測定して得られた液相組成の軌跡を図6に示す。
【0069】
重合の過程の間ずっと、おおよそ毎分1つのサンプルの頻度で720回の組成測定をラマン装置で行った。液相組成について得られた統計結果を表4に示す。
【0070】
【表6】

【0071】
次いで反応器内の溶液を取り出して、明るい黄色のやや濁ったポリマー溶液4350gを得た。その液体密度は1.39g/L、Mwは24,000、多分散度(Mw/Mn)は3.15であった。ポリマー溶液をヘプタン中に沈澱させて(ヘプタンとポリマー溶液の容積比は18/1)、682gの白色ポリマーを得た。ポリマーをSolkane(登録商標)365mfc/THFの混合物中に再溶解させてからヘプタンで再沈澱させて、646gの最終乾燥生成物を得た。そのMwは24,700であり、多分散度は2.77であった。NMRによる測定では、ポリマー組成は、TFEが13.2%、NB−F−OHが34.4%、PinAcが23.2%、HAdAが29.2%であることが示された。
【0072】
リソグラフィープロセス
12重量%の固形分の配合物として最終乾燥ポリマー(97.88g)、トリフェニルスルホニウムノナフレート(2.00g)、およびテトラブチルアンモニウムラクテート(0.12g)を2−ヘプタノン中に含むものを調製し、一晩攪拌した。
【0073】
実施例1について上述したようにして被覆ウェーハの調製およびその後の画像形成を行った。その画像を図5に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出システムを備えた反応器中でモノマーを反応させる重合方法であって、
a.目標液相組成のモノマーのプレチャージを反応器に充填する工程と;
b.反応器中での所望の一連の反応条件および中間液相組成を確立する工程と;
c.検出システムで前記中間液相組成を測定して中間液相組成値を得る工程と;
d.前記中間液相組成値を制約付き予測モデル制御システムへの入力として用いる工程と;
e.前記制御システムからの出力を用いて反応器へのモノマーの供給量を調節して前記目標液相組成を維持する工程と
を含む、モノマーを反応させる重合方法。
【請求項2】
前記検出システムが、ラマン分光法プロセスアナライザー、前記液相組成からのラマン散乱光を収集する撮像または浸水可能なプローブ、および前記プローブと前記反応器中の前記液相組成との間の光学接触を可能にする前記反応器上の接続ポートを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記モノマーが、フルオロオレフィンの二重結合の炭素にフッ素が結合しているフルオロオレフィン類、アクリレート、メタクリレート、環状オレフィン、ビニルエーテル、およびスチレン系化合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記環状オレフィンがNB−F−OHである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記フルオロオレフィンがTFEである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記モノマーが0.5から2の間の相対反応性比を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記モノマーが、2より大きいかまたは0.5未満である相対反応性比を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法で調製されるポリマー。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−513669(P2010−513669A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542865(P2009−542865)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/025801
【国際公開番号】WO2008/082503
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】