説明

垂直磁気記録媒体の製造方法

【課題】高い特性を有するグラニュラー磁性層を、高価なPtまたはRuの使用量を低減して形成する
【解決手段】非磁性基体上に、強磁性を有する結晶粒子と酸化物を含む非磁性結晶粒界とからなる磁気記録層を備えた垂直磁気記録媒体の製造方法において、前記磁気記録層を、成膜初期には酸素ガスを2体積%以上、10体積%以下添加した希ガスを用いて反応性スパッター法で成膜し、引き続き酸素ガス濃度を低下して反応性スパッター法で成膜することを特徴とする。
磁気記録層の直下に、Ru或いはRuを含む合金からなる下地層を形成する工程を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体の製造方法に関し、より詳細には、ハードディスクドライブなどに搭載される垂直磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクドライブなどで用いられる磁気記録媒体の記録密度に対する要求が、増加の一途をたどっている。高記録密度化への厳しい要求を達成する為には、磁性薄膜の高保磁力化と、低ノイズ化が極めて重要となっていることから、様々な磁性層の組成と構造、および非磁性下地層の材料などが提案されている。
特に、グラニュラー磁性層と呼ばれる、強磁性結晶粒子の周囲を酸化物や窒化物などの非磁性非金属物質で囲んだ構造を有する磁性層が知られている。グラニュラー磁性層は、非磁性非金属物質の粒界相が強磁性結晶粒子を物理的に分離するため、強磁性結晶粒子間の磁気的な相互作用が低下し、記録ビットの遷移領域に生じるジグザグ磁壁の形成を抑制するので、低ノイズ特性が得られると考えられている。
従来用いられてきたCoCr系金属磁性層では、高温で成膜することにより、CrがCo系磁性粒から偏析することで粒界に析出し、強磁性粒子間の磁気的相互作用を低減している。グラニュラー磁性層の場合は、この粒界相として非磁性非金属物質を用いるため、Crと比較して偏析しやすく、比較的容易に強磁性粒子の孤立化が促進できるという利点がある。特に、CoCr系金属磁性層の場合は、成膜時の基板温度を200℃以上に上昇させることがCrの十分な偏析に必要不可欠であるのに対し、グラニュラー磁性層の場合は、加熱なしの成膜においても、酸化物などの非磁性非金属物質の偏析が生じて粒界相が形成されるという利点もある。
【0003】
一方で、グラニュラー磁性層の粒界層を形成するために酸化物などの添加量を増加した場合には、粒界相が厚くなりすぎて強磁性粒子が小さくなり、耐食性が低下することが知られている。このため、特許文献1では、グラニュラー磁性層をスパッター成膜する際に、スパッターガス中の酸素濃度を成膜当初は高く設定し、その後低下させることで強磁性粒子の形状を制御することにより、成長終期の強磁性粒子の直径を成長初期よりも大きくすることが提案されている。特許文献1では、含有する酸素の量に関して、中間層の上に磁気記録層を成膜する際に磁気記録層の中間層側部分の酸素含有率を高くした場合には粒子の微細化が進みすぎ、一つの中間層の粒子の上に複数の磁気記録層の粒子が形成されることから好ましくないとされている。紹介されている実施例では、成膜初期のスパッターガスの酸素ガス濃度は1%以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−120290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
グラニュラー磁性層を有する垂直磁気記録媒体は、種々の長所を有するものの、所望の磁気特性、特に保磁力(Hc)を高くするために高価なPtを多く添加するか、もしくは、高価なRu下地層を厚膜化する必要性が生じる。しかし、これは磁気記録媒体の低価格化への流れとは逆行することとなり、製造コストの観点から問題となる。また同時に、媒体ノイズの低減を進めるためには、グラニュラー磁性層をさらに高度に制御することが必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、グラニュラー磁気記録層を成膜する際に、特定の酸素濃度を有するスパッターガスを用いることにより、高い保磁力を実現可能なことを見出したことに基づき完成したものである。
本発明は、非磁性基体上に、強磁性を有する結晶粒子と酸化物を含む非磁性結晶粒界とからなる磁気記録層を備えた垂直磁気記録媒体の製造方法において、前記磁気記録層は、成膜初期には酸素ガスを2体積%以上、10体積%以下添加した希ガスを用いて反応性スパッター法で成膜し、引き続き酸素ガス濃度を低下して反応性スパッター法で成膜することを特徴とする。
前記希ガスはアルゴンガスであることが好ましい。
また、前記磁気記録層の直下に、Ru或いはRuを含む合金からなる下地層を形成する工程を含むことが好ましい。
また、前記非磁性基体と磁気記録層の間に軟磁性裏打ち層を形成する工程をさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、垂直磁気記録層を形成する際、成膜初期に酸素ガスの濃度を2体積%以上、10体積%以下とすることにより、高いHcを有する磁気記録媒体が得られることから、高価なPt添加量を低減する、または、高価なRu下地層の薄膜化が可能となり、製造コストの低減を図ることができる。
さらには、信号対雑音比(SNR)が高く、優れた磁気特性及び電磁変換特性を有する垂直磁気記録媒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の製造方法を説明するための磁気記録媒体の断面模式図の例である。
【図2】スパッターガスの酸素ガス添加濃度に対する、保持力(Hc)の値の変化を説明するためのグラフである。
【図3】スパッターガスの酸素ガス添加濃度に対する、信号対雑音比(SNR)の値の変化を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、垂直磁気記録媒体の例を示した断面模式図である。垂直磁気記録媒体は、非磁性基体1の上に、軟磁性裏打ち層2、非磁性下地層3、磁気記録層4、保護層5が順に形成された構造を有しており、更にその上に、液体潤滑材層6が形成されている。
磁気記録層4としては、強磁性結晶粒子の周囲を酸化物の非磁性非金属物質で囲んだ構造を有するグラニュラー磁性層が用いられる。強磁性材料としては、CoPt系合金、またはCoCrPt系合金が好ましく用いられ、Ta,B,Nb,Ag,Mo,W,Pd,Cuのうちの少なくとも一つの元素をさらに添加することが好ましい。結晶粒界にはSiO等の非磁性酸化物が好ましく用いられる。磁気記録層4は、単層としてもよく、異なる材料を積層した複層としても良い。
磁気記録層4は反応性スパッタリング法によって成膜され、スパッターガスとして酸素ガスを含有する希ガスを用いる。磁気記録層4の成膜初期の段階では、酸素ガスの含有濃度を2体積%以上、10体積%以下に制御する。引き続き酸素ガスの濃度を成膜初期の濃度よりも低濃度にて磁気記録層の成膜を継続する。
成膜初期とは、磁気記録層の全膜厚の1割〜6割を成膜する段階で、1割未満では、初期層としての性能を発揮するにはいたらず、6割を超えると高濃度の酸素ガスの悪影響が顕著に生じるため好ましくない。ここで、全膜厚とは、磁気記録層が積層磁性層の場合には、積層した磁性層の各膜厚を総計したものを指す。
【0010】
酸素ガスの添加は、磁性結晶粒の粒界形成に作用し、過剰な添加は磁性結晶粒の成長に対し妨げとなり、最適な酸素ガス含有濃度が存在する。酸素ガスの含有濃度を2体積%以上、10体積%以下とすることで、磁気記録層のHcを高くすることが可能となる。この結果、Hcを高めるために用いられる高価なPtの添加量を低減することが可能となる。あるいは、通常はHcを向上するために、厚いRu下地膜が必要となるが、これを薄膜とすることができ、高価なRuの使用量を低減することが可能となる。これらの結果、製造コストの低減を図ることができる。
非磁性基体1としては、通常の磁気記録媒体用に用いられる、NiPメッキを施したAl合金や強化ガラス、結晶化ガラス等を用いることができる。
軟磁性裏打ち層2は、磁気記録に用いる磁気ヘッドからの磁束を制御して記録・再生特性を向上するために形成することが好ましい層で、軟磁性裏打ち層2を省略することも可能である。軟磁性裏打ち層2としては、NiFe系合金、センダスト(FeSiAl)合金、飽和磁束密度の大きなFeCo合金等を用いることが出来るが、非晶質のCo合金、例えばCoNbZr、CoTaZrなどを用いることにより良好な電磁変換特性を得ることが出来る。軟磁性裏打ち層2の膜厚は、記録に使用する磁気ヘッドの特性によって所望の範囲とすることができるが、5nm以上、100nm以下であることが、生産性との兼ね合いから望ましい。
【0011】
軟磁性裏打ち層2の磁区制御を目的として、軟磁性裏打ち層の下に磁区制御層を設けることも可能である。
非磁性下地層3は、磁気記録層4の結晶配向性、結晶粒径及び粒界偏析を好適に制御するために用いられる。材料としては、Ru或いはRuCr、RuCo、RuSi、RuW、RuTi、RuBなどの少なくともRuを含む合金膜が用いられる。非磁性下地層3の膜厚としては、磁気記録層4の構造制御を行なうのに必要最小限の膜厚とすることが、記録の面からは必要である。更に、非磁性下地層3の下層にNiFe、NiFeNb、NiFeSi、NiFeB、NiFeCr、NiFeNbBなどのNi基合金膜を形成することにより、非磁性下地層3の結晶性及び配向性を向上させる事ができる。
非磁性下地層3あるいはグラニュラー磁性層4の結晶配向や構造制御を目的として、軟磁性裏打ち層2と非磁性下地層3の間に非磁性のシード層を設けることもできる。
保護層5は、当該分野で通常用いられる保護膜を使用することができ、例えばカーボンを主体とする保護膜を用いることができる。
液体潤滑材層6も、当該分野で通常用いられる液体潤滑材を使用することができ、例えば、パーフルオロポリエーテル系の潤滑剤を用いることができる。
【実施例】
【0012】
以下に実施例を用いてさらに詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を好適に説明する代表例に過ぎず、本発明をなんら限定するものではない.
[実験例1]
非磁性基体1として表面が平滑な化学強化ガラス基板(例えば、HOYA社製N−5ガラス基板)を用い、これを洗浄後スパッター装置内に導入し、非磁性基体1上に、85at%Co−10at%Zr−5at%Nbターゲットを用いて、CoZrNbの軟磁性裏打ち層2を、Arガス圧5mTorrの雰囲気下で、DCマグネトロンスパッタ法を用い100nm成膜した。続いて、非磁性のNi基合金である83at%Ni−15at%Fe−2at%Crターゲットを用い、Arガス圧5mTorr下でNiFeCrシード層を10nm成膜した。続いてRuターゲットを用い、Ru下地層3を、Arガス圧30mTorr下で15nm成膜した。続いて92モル%(75at%Co−10at%Cr−15at%Pt)−8モル%SiOターゲットを用いて、CoCrPt−SiO磁気記録層4を成膜するが、初期層10nmはスパッターガスへの酸素ガス添加量を種々変更して成膜した。具体的には、Ar分圧に対し0体積%〜14体積%の範囲で酸素ガスを添加した条件下で成膜し、表面層10nmは純Arガス条件下にて成膜した。最後にカーボンターゲットを用いてカーボンからなる保護層5を4nmの厚みで成膜後、真空装置から取り出した。その後、パーフルオロポリエーテルからなる液体潤滑材層6を厚み1.5nmにてデイップ法により形成して垂直磁気記録媒体を得た。
[比較例1]
比較例として、酸素ガスの添加時期を変更した例である。CoCrPt−SiO磁気記録層4の成膜において、初期層10nmは純Arガスで成膜し、表面層10nmはArに対し0体積%〜14体積%の範囲で酸素ガスを添加した条件下にて成膜し、前記以外は全て実験例1と同様にして作製した。
[比較例2]
酸素ガス濃度を一定として成膜した例である。CoCrPt−SiO磁気記録層4の成膜において、Arに対し0体積%〜14体積%の範囲で酸素ガスを添加した条件下にて全層を成膜し、これ以外は全て実験例1と同様にして作製した。
(評価)
実験例1、比較例1および比較例2にて製作した試料の保持力(Hc)を、Kerr効果測定装置を用いて測定した。また、信号対雑音比(SNR)は、垂直磁気記録媒体用の単磁極型磁気ヘッドを取付けたスピンスタンドテスターを用いて測定した。
【0013】
結果を図2、図3に示す。試料のHc、SNRは、比較例1<比較例2<実験例1の順となり、磁気記録層の初期層部分への酸素ガス添加が良好な結果を示す。更に、酸素ガス添加の濃度としては、2%〜10%の範囲が良好である。酸素ガス濃度が1%以下、11%以上ではHc、SNRが劣化する。
【符号の説明】
【0014】
1 非磁性基体
2 軟磁性裏打ち層
3 非磁性下地層
4 磁気記録層
5 保護層
6 液体潤滑材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基体上に、強磁性を有する結晶粒子と酸化物を含む非磁性結晶粒界とからなる磁気記録層を備えた垂直磁気記録媒体の製造方法において、
前記磁気記録層は、成膜初期には酸素ガスを2体積%以上、10体積%以下添加した希ガスを用いて反応性スパッター法で成膜し、引き続き酸素ガス濃度を低下して反応性スパッター法で成膜することを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記希ガスがアルゴンガスであることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記磁気記録層の直下に、Ru或いはRuを含む合金からなる下地層を形成する工程を有することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記非磁性基体と磁気記録層の間に軟磁性裏打ち層を形成する工程をさらに有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−146113(P2011−146113A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8159(P2010−8159)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)
【Fターム(参考)】