説明

垂直軸型風車用ブレードとその製造方法

【課題】軽量でありながら強度及び可撓性を有し、さらに製造が容易で安価な垂直軸型風車用ブレードを提供する。
【解決手段】垂直軸型風車用ブレード1aは、翼幅方向へ直線的に長く形成された主部と,支持腕の外周端に取り付けられた際に先端部が回転体側へ傾斜するように主部の両端部からそれぞれ延設される傾斜部によって構成され,発泡樹脂体9からなる基体2と、この基体の両面に,それぞれ対向して設置される一対の補強板12,12と、少なくとも基体2のいずれか一方の面に形成される軟質樹脂層10を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電用風車のブレードに関し、特に軽量で生産性に優れた垂直軸型風車用ブレードとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
まず、従来の風力発電に用いられる垂直軸型風車について図7を参照しながら説明する。図7は、従来の垂直軸型風車16の外観図である。
図7に示すように、垂直軸型風車16には、回転体17に接続された複数の支持腕18の外周端にそれぞれブレード19が取り付けられている。ブレード19の芯体は発泡樹脂成形体で形成され、芯体の表面全体を被覆する表面材は金属又はFRP(繊維強化プラスチック)で形成されている。
しかし、金属でブレードを形成すると、重量が重いため、回転効率が低下する。また、FRPには鉱物繊維等が混入されているため、重量が重く、成形時の工数が多くなる。その結果、製造コストが高くなってしまうという課題があった。また、垂直軸型風車のブレードは回転時の遠心力によって翼幅方向に撓みが生じるが、FRPで形成されたブレードは、強風時に高速回転させると風圧もしくは遠心力による過度の撓みにより破損する場合があり、破片による二次災害が発生するおそれがあるという課題もあった。
このような課題を解決する目的で、破損しても周囲に衝撃を与え難いような軽量構造のブレードを安価に製造する技術が開発されており、それに関して既にいくつかの発明が開示されている。
【0003】
特許文献1には「風車の翼並びにその製造方法」という名称で、台風などの高速風によって翼が破損し、飛散した場合でも周囲に衝撃等を与え難いように、軽量で安全に壊れる風車の翼に関する発明が開示されている。
以下、特許文献1に開示された発明について説明する。特許文献1に開示された発明は、軟質発泡樹脂で形成された翼基体の表面に繊維層が形成された風車の翼であって、風による一定以上の負荷が加わったときに、他の部位に先立って破壊が生じる容易破壊部が翼の長手方の一部に形成されたことを特徴とする。また、翼基体の製造方法は、あらかじめ形成した中空成形型の中空部に発泡樹脂材を注入し、成形型中で発泡及び硬化させて成形するものである。
このような特徴を有する風車の翼においては、翼基体が軟質発泡樹脂で形成されているため、硬質な従来の翼に比して軽量である。さらに、弾力性も有していることから、破損時に破片が飛散して他の物に衝突しても衝撃を与え難い。また、他の部位に先立って容易破壊部が破壊されるため、翼の変形が起こり易く、これにより翼の回転数が急激に減退して風車全体の破壊が抑制され、翼のみの被害に止めることができる。
【0004】
次に、特許文献2には「風車の羽根並びに風車」という名称で、壊れても他に危害の生じない安全で取替えが容易であり、かつ軽量で安価な風車の羽根に関する発明が開示されている。
以下、特許文献2に開示された発明について説明する。特許文献2に開示された発明は、全体形が発泡樹脂成形体で形成され、表面は熱可塑性樹脂被覆材でシュリンクされて被覆層が形成され、さらに羽根の内部翼長方向に長く支持骨が配設されていることを特徴とする。
このような特徴を有する風車の羽根においては、羽根の表面が被覆層で保護されているため破損し難く、また破損しても被覆層は切断され難いので破片が遠方へ飛散し難い。さらに、翼長方向に長く支持骨が配設されていることから、折損し難いとともに形状が変化し難い。そして材質が安価なので、羽根の取替えを低額で行うことができる。
【0005】
そして、特許文献3には、「小型風力発電機用の風車」という名称で、羽根の破損による二次被害の発生を抑制できるとともに、風の変動に応答可能な小型風力発電機用の風車に関する発明が開示されている。
以下、特許文献3に開示された発明について説明する。特許文献3に開示された発明は、風車の羽根本体が非塩素系の合成樹脂からなる多孔性柔軟材料によって構成されたことを特徴とする。また、羽根本体の製造方法は、あらかじめ形成した型に多孔性合成樹脂を注入して成形するものである。
このような特徴を有する小型風力発電機用の風車においては、羽根本体を軽量化することができる。また、風速や風向等の変動に対する応答の機動性が向上する。加えて、破損によって生じる破片が柔らかいので、二次災害の発生が抑制される。さらに、羽根本体が複雑な形状であっても容易にこれを成形することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−96074号公報
【特許文献2】特開2009−275536号公報
【特許文献3】特開2006−242194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された発明においては、軽量で弾力性を有していることから、破片が他の物に衝突しても衝撃を与え難い。また、他の部位に先立って容易破壊部が破壊されるため、風車全体の破壊が抑制されて翼のみの被害に止めることができる。
しかし、容易破壊部の破壊を目的としているために、これ以外の翼本体部分には支持骨材などの補強用部材が設けられておらず、容易破壊部の破壊後さらに翼本体部分が破壊される可能性があり、その結果、風車全体にも被害が及ぶおそれがある。
【0008】
次に、特許文献2に開示された発明においては、羽根の表面が被覆層で保護されているため破損し難く、また、破損しても被覆層は切断され難いので破片が遠方へ飛散し難い。さらに、翼長方向に長く支持骨が配設されていることから、折損し難いとともに形状が変化し難い。そして、材質が安価なので、羽根の取替えを低額で行うことができる。
しかし、羽根の表面を熱可塑性合成樹脂でシュリンクする場合、主部と傾斜部の形状の違いにより別途の被覆作業が必要であり、製造工程が複雑となる。
【0009】
さらに、特許文献3に開示された発明においては、羽根本体の軽量化と,風速や風向等の変動に対する応答の機動性の向上を図ることができる。また、破損によって生じる破片が柔らかいため、二次災害の発生が抑制される。
しかし、羽根本体は、複数の成形型に発泡樹脂を注入し,固化させて得られた各部品を互いに張り合わせることによって形成されるため、様々な翼長の羽根を製作する際には、それぞれの成形型をその都度製作しなければならない。よって、サイズ等の設計変更に対し、素早く対応できないおそれがある。
【0010】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、軽量でありながら強度及び可撓性を有し、さらに製造が容易で安価な垂直軸型風車用ブレードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明に係る垂直軸型風車用ブレードは、発泡樹脂体からなる基体と、この基体の両面に,それぞれ対向して設置される一対の補強板と、少なくとも基体のいずれか一方の面に形成される軟質樹脂層と、を備えたことを特徴とする。
上記構成の垂直軸型風車用ブレードにおいては、基体が発泡樹脂体からなるためブレードの重量が軽く、回転に対する負荷を抑制するという作用を有する。また、少なくとも基体のいずれか一方の面に軟質樹脂層を備えたことから、耐摩耗性、柔軟性、緩衝性及び強度を有し、ブレードが高い可撓性を備えるという作用を有する。さらに、一対の補強板を備えることから、ブレードは適当な剛性を備え、過度の撓みが抑制されるという作用を有する。
【0012】
次に、請求項2記載の発明に係る垂直軸型風車用ブレードは、請求項1に記載の垂直軸型風車用ブレードにおいて、基体の内部に設置され、一対の補強板を接続する補強部材を備えたことを特徴とする。
上記構成の垂直軸型風車用ブレードにおいては、請求項1に記載の発明の作用に加えて、基体の内部に一対の補強板を接続する補強部材を備えたことから、補強板が発泡樹脂体から剥離し難くするとともにブレードの剛性をさらに向上させ過度の撓みによる回転効率の低下が防止されるという作用を有する。また、補強部材の形状を変更することで、剛性が様々に調整されるという作用を有する。
【0013】
さらに、請求項3記載の発明に係る垂直軸型風車用ブレードは、請求項1又は請求項2に記載の垂直軸型風車用ブレードにおいて、軟質樹脂層の表面に保護層が形成されたことを特徴とする。
上記構成の垂直軸型風車用ブレードにおいては、請求項1又は請求項2に記載の発明の作用に加えて、軟質樹脂層の表面に保護層が形成されたことから、紫外線や雨水による軟質樹脂層の劣化が防止されるという作用を有する。
【0014】
請求項4記載の発明に係る垂直軸型風車用ブレードの製造方法は、発泡樹脂体により基体を形成する工程と、この基体の両面に一対の補強板を対向して設置する工程と、少なくとも基体のいずれか一方の面に軟質樹脂層を形成する工程と、を備えたことを特徴とする。
上記構成の垂直軸型風車用ブレードの製造方法においては、発泡樹脂体からなる基体の両面に補強板が設置されることから、軽量かつ高強度であるとともに柔軟性、緩衝性を備えた垂直軸型風車用ブレードが製造されるという作用を有する。また、軟質樹脂層は所望の強度等を備えることを目的として1層以上で構成される必要があり、軟質樹脂層を形成する工程を繰り返すことで、多層の軟質樹脂層からなる垂直軸型風車用ブレードが製造されるという作用を有する。
【0015】
次に、請求項5記載の発明に係る垂直軸型風車用ブレードの製造方法は、請求項4記載の垂直軸型風車用ブレードの製造方法において、一対の補強板を接続可能に、補強部材を基体の内部に設置する工程を備えたことを特徴とする。
上記構成の垂直軸型風車用ブレードの製造方法においては、請求項4に記載の発明の作用に加えて、補強部材を基体の内部に設置する工程を備えたことから、様々な形状の補強部材が適宜設置されるという作用を有する。
【0016】
請求項6記載の発明に係る垂直軸型風車用ブレードの製造方法は、請求項4又は請求項5に記載の垂直軸型風車用ブレードの製造方法において、耐候性を有する樹脂層を軟質樹脂層の表面に形成する工程を備えたことを特徴とする。
上記構成の垂直軸型風車用ブレードの製造方法においては、請求項4又は請求項5に記載の発明の作用に加えて、耐候性を有する樹脂層を軟質樹脂層の表面に形成するため、軟質樹脂層の表面性状がそのまま保存されるという作用を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1記載の垂直軸型風車用ブレードは軽量であるため、回転に対する負荷を抑制するという作用を有する。従って、弱風の場合でも回転の起動が可能であり、風速や風向の変化に対する応答性が良いため、回転効率が良い。また、万が一破損しても発泡樹脂体の表面に軟質樹脂層が形成された構造であるため、周囲及び風車本体に対する安全性が高い。さらに、ブレードは軟質樹脂層を備えており、高い耐摩耗性と可撓性を有する。そして、補強板を備えているため、適当な剛性を備えており、過度の撓みが抑制されるという作用を有する。従って、軟質樹脂層と補強板を組み合わせることによれば、ブレードに様々な大きさの剛性を持たせることができる。すなわち、本発明の垂直軸型風車用ブレードにおいては、過度の撓みを抑制することにより高回転時の効率を向上させる一方、適切に撓ませることにより強風時の過回転を防止できるという効果を奏する。
【0018】
本発明の請求項2記載の垂直軸型風車用ブレードにおいては、補強板が発泡樹脂体から剥離し難く、また、ブレードの剛性を大きくできるという効果を有する。さらに、補強部材の形状を変更することにより、剛性が様々に調整されるため、ブレードが設置される地域の風速に最も適した強度を持たせることができる。すなわち、本発明の垂直軸型風車用ブレードによれば、高回転時の効率向上及び強風時の過回転防止という請求項1記載の発明の効果がより一層発揮される。
【0019】
本発明の請求項3記載の垂直軸型風車用ブレードによれば、請求項1又は請求項2に記載の発明の効果に加えて、紫外線や雨水による軟質樹脂層の劣化が防止されるため、軟質樹脂層によってもたらされるブレードの耐摩耗性、柔軟性、緩衝性、強度、可撓性等が維持されるという効果を奏する。
【0020】
本発明の請求項4記載の垂直軸型風車用ブレードの製造方法は、発泡樹脂体により基体を形成する工程と、この基体の両面に一対の補強板を対向して設置する工程と、少なくとも基体のいずれか一方の面に軟質樹脂層を形成する工程と、からなり、複雑な工程を必要としない。そして、軽量かつ高強度であるとともに耐摩耗性、柔軟性、緩衝性を備えたブレードが容易に製造される。従って、ブレードの製造コストを大幅に低減することができる。また、各工程において所望の調整を別個独立に行うことができる。例えば、1層目の軟質樹脂層に薄肉部分が発生した場合には、2層目の軟質樹脂層を形成する際にこの薄肉部分を補うことにより全体として均一な厚さにすることができる。
【0021】
本発明の請求項5記載の垂直軸型風車用ブレードの製造方法によれば、請求項4に記載の発明の効果に加えて、様々な形状の補強部材が適宜設置されるという作用を有することから、ブレードの剛性を細かく調節できるという効果を有する。
【0022】
本発明の請求項6記載の垂直軸型風車用ブレードの製造方法によれば、請求項4又は請求項5に記載の発明の効果に加えて、軟質樹脂層の表面性状がそのまま保存されるという作用を有することから、耐摩耗性、柔軟性、緩衝性、強度、可撓性等が維持され、長期に亘って軟質樹脂層が傷つき難いという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)は本発明の実施の形態に係る垂直軸型風車用ブレードの実施例の側面図であり、(b)は図1(a)におけるA−A線矢視断面図である。
【図2】図1(b)の部分拡大図である。
【図3】(a)は本実施例の垂直軸型風車用ブレードの翼断面であり、(b)〜(g)はその変形例である。
【図4】本発明の実施の形態に係る垂直軸型風車用ブレードの製造方法の実施例の工程図である。
【図5】(a)及び(b)は本実施例の垂直軸型風車用ブレードの製造に用いる発泡樹脂片の外観斜視図である。
【図6】(a)〜(c)は本実施例の垂直軸型風車用ブレードに係る補強板及び補強部材の横断面を示す模式図である。
【図7】従来の垂直軸型風車の外観図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0024】
本発明に係る垂直軸型風車について、図1乃至図7を用いて詳細に説明する。
図1(a)は本発明の実施の形態に係る垂直軸型風車用ブレードの実施例の側面図であり、図1(b)は図1(a)におけるA−A線矢視断面図である。すなわち、図1(b)は図1(a)に示される主部3の翼断面を表している。また、図2は、図1(b)の部分拡大図である。図3(a)は本実施例の垂直軸型風車用ブレードの翼断面であり、図3(b)〜図3(g)はその変形例である。図4は、本発明の実施の形態に係る垂直軸型風車用ブレードの製造方法の実施例の工程図である。図5(a)及び図5(b)は、本実施例の垂直軸型風車用ブレード製造に用いる発泡樹脂片の外観斜視図である。図6(a)〜図6(c)は本実施例の垂直軸型風車用ブレードに係る補強板及び補強部材の横断面を示す模式図である。図7は従来の垂直軸型風車の外観図である。
【0025】
図1(a)に示すように、本実施例の垂直軸型風車用ブレード1aの基体2は、翼幅方向へ直線的に長く形成された主部3と、支持腕18(図7参照)の外周端に取り付けられた際に先端部が回転体17(図7参照)側へ傾斜するように主部3の両端部からそれぞれ延設される傾斜部4によって構成される。主部3及び傾斜部4は、スチロール樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニール樹脂、ポリエステル樹脂などのうちの少なくともいずれか1つからなり、発泡倍率が40倍以上の発泡樹脂体9によって形成される。さらに、発泡樹脂体9の表面には、イソシアネート成分を含む硬化剤が混合されたウレタン樹脂などの軟質樹脂が噴霧器5から噴霧される。なお、噴霧器5には液状の軟質樹脂を収容する樹脂容器6及びコンプレッサ8が、それぞれパイプ7a,7bを介して接続されている。
【0026】
図1(b)に示すように、発泡樹脂体9の表面には均一な厚さの軟質樹脂層10が形成されている。図2は、一例として、軟質樹脂層10が軟質樹脂層10a,10bという2つの積層体によって構成される場合を示している。また、軟質樹脂層10bの表面は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン系、フッ素樹脂系、メラミン樹脂系、多官能アクリル樹脂系、ポリシロキサン樹脂系のうちの少なくともいずれか1つからなる耐候性樹脂層11によって被覆されている。
【0027】
図3(a)に示すように、本実施例の垂直軸型風車用ブレード1aは、基体2の両面に,それぞれ対向して設置される一対の補強板12,12を備える。補強板12は厚さが略均一な平板状をなし、翼厚が最大となる付近に設けられている。そして、補強板12,12の外面は緩やかな曲面状をなしており、発泡樹脂体9の表面とともに翼面を形成している。また、補強板12,12の内面は発泡樹脂体9に形成された凹部に密着した状態で固定されている。このように、補強板12及び発泡樹脂体9は一体的に形成され、軟質樹脂層10に被覆されている。また、補強板12はエポキシ樹脂を少なくともガラス繊維、炭素繊維、ビニロン繊維のうちのいずれかで強化したFRPからなり、補強板12の翼幅方向の長さは、基体2の翼幅以下となっている。
【0028】
図3(b)〜図3(g)は、いずれも図3(a)に示す発明の変形例を示したものである。図3(b)に示すように、垂直軸型風車用ブレード1bは垂直軸型風車用ブレード1aにおいて一対の補強板12,12の翼弦長方向の略中央部を接続する補強部材13aを備えたことを特徴とする。補強部材13aは厚さが略均一な平板状をなし、その両面は発泡樹脂体9で取り囲まれている。そして、補強板12,補強部材13a及び発泡樹脂体9は一体的に形成され、軟質樹脂層10に被覆されている。補強部材13aは、補強板12と同一の材質からなり、その翼幅方向の長さは、補強板12と同様に基体2の翼幅以下である。なお、図3(c)〜図3(g)に示す垂直軸型風車用ブレード1c〜1gにおける補強部材13b〜13fはいずれも略均一な厚さを有する平板であり、それらの材質は補強板12と同様である。また、翼幅方向の長さについても、補強部材13aと同様である。垂直軸型風車用ブレード1c〜1gにおけるその他の構造は、垂直軸型風車用ブレード1bと同様である。
【0029】
次に、図4を用いて製造工程について説明する。図4は垂直軸型風車用ブレードの製造方法の実施例を示す工程図である。
図4において、本実施例の垂直軸型風車用ブレード1a〜1gは、ステップS1の主部3の型取工程、ステップS1´の傾斜部4の型取工程、ステップS2の主部3の切出工程、ステップS2´の傾斜部4の切出工程、ステップS3の主部3及び傾斜部4の接着工程、ステップS4の基体2の分割工程、ステップS5の基体2及び補強部材13a〜13fの接着工程、ステップS6の補強部材13a〜13f,補強板12及び基体2の接着工程、ステップS7の軟質樹脂の吹付工程、ステップS8の軟質樹脂の硬化工程、ステップS9の耐候性樹脂の吹付工程、ステップS10の耐候性樹脂の硬化工程を経て製造される。なお、傾斜部4を設置しない場合は、ステップS1´及びステップS2´が省略される。
【0030】
ステップS1及びステップS1´は、発泡樹脂製の板材に主部3及び傾斜部4の形状を投影する線図を描出するものである。主部3においては、図5(a)に示すように、発泡樹脂片14の側面に複数の横断面投影線図3aを描出する。傾斜部4においては、図5(b)に示すように、発泡樹脂片15の側面に複数の正面投影線図4a及びこれに直交する側面に側面投影線図4bを描出する。
ステップS2及びステップS2´では、ステップS1及びステップS1´において描出した投影線図3a,4a,4bのとおりに発泡樹脂片14,15を切り出す。さらに形を整えるため、カッターや研磨具を用いて主部3及び傾斜部4を形成しても良い。
ステップS3においては、ステップS2及びステップS2´で切り出した主部3及び傾斜部4を接合し、基体2の全体形を形成する。なお、接合は接着剤を用いて行う。
【0031】
ステップS4では、ステップS3において形成した基体2を翼幅方向に沿って縦長に分割する。このとき、図3(b)〜図3(g)における補強部材13a〜13fが設置可能となるような位置で分割する。分割数については図3(b)〜図3(e)は2分割であり、図3(f),図3(g)では3分割である。
ステップS5では、ステップS4において形成した基体2のすべての分割面に補強部材13a〜13fを接着剤により接着し、基体2と一体化させる。このとき、後述するステップS6において補強板12を取り付けるため、取り付け代を残し基体2の両面からこれら補強板の厚さ分ほど奥まった範囲に補強部材13a〜13fを配置すると良い。なお、補強部材13a〜13fを設置しない場合は、ステップS4及びステップS5が省略される。
ステップS6では、ステップS5において設置した補強部材13a〜13fに補強板12を接着する。接着面は、補強部材13a〜13fが基体2の表面に露出している面である。これと同時に、基体2にも補強板12を接着する。なお、あらかじめ基体2表面上の分割面を被覆する位置において、補強板12の体積分に相当する大きさの凹部を基体2に形成しておくことが必要であり、接着位置はこの凹部となる。ここまでの工程で、補強板12と補強部材13aを内部に設置した基体2が形成される。なお、形成された基体2の表面全体を滑らかな均一面とするため、この後に研磨工程を加えても良い。
【0032】
ステップS7では、ステップS6において形成した基体2の表面に軟質樹脂層10の噴霧を行う。このとき、作業室の温度は20〜25度、湿度は70%以下とする。作業は図1におけるコンプレッサ8を始動させ、噴霧器5により軟質樹脂層10を基体2の表面に形成する。すなわち、基体2の表面から等しい噴射距離を維持し、この表面全体に万遍無く軟質樹脂を噴霧することで図2の軟質樹脂層10を形成する。この後、図2における軟質樹脂層10が所望の厚さとなるまで複数回に亘って同様の噴霧を繰り返す。なお、軟質樹脂層10については、混入される硬化剤の種類や量、樹脂温度、雰囲気温度、噴霧粒径の調整を適宜行うことにより表面性状を制御することができる。
ステップS8では、ステップS7において形成した軟質樹脂層10を硬化させる。硬化は、埃の立たない乾燥室において室温で10〜15分間程度養生させることにより行う。その後、硬化した軟質樹脂層10の表面を研磨し、滑らかな面にしても良い。
【0033】
ステップS9では、ステップS8において硬化させた軟質樹脂層10の表面に耐候性樹脂層11をピンホールが生じないように注意しながら塗布する。なお、ピンホールの発生は、耐候性樹脂11が硬化しないうちに加圧室において加圧することで防止できる。そして、ステップS10では、ステップS9において塗布した耐候性樹脂層11を、例えば室温にて養生させることにより硬化させる。
以上のステップS1〜S10の工程を経ることで、本実施例の垂直軸型風車用ブレード1a〜1gが完成する。
【0034】
次に、本実施例の垂直軸型風車用ブレード1aの作用について説明する。まず、主部3及び傾斜部4が発泡樹脂体9によって形成されることから、全体の重量が軽量になるという作用を有する。また、発泡樹脂体9の表面にウレタン樹脂等の軟質樹脂層10が形成されているため、ブレードの耐摩耗性、柔軟性、緩衝性、強度、可撓性が高いという作用を有する。従って、万一破損した場合であっても、ブレードの破片が周囲に与える衝撃は小さいものとなる。そして、軟質樹脂層10が柔軟であるため、緩衝性を有し、ブレードの回転中に砂や氷の粒子が衝突しても軟質樹脂層10の表面が削られ難い。さらに、軟質樹脂層10は軟質樹脂層10a,10bの積層体であることから、積層する厚さや層の数、又は樹脂の添加物の種類や含有量を調節することで、様々な強度や重量等を有する垂直軸型風車用ブレード1aが製造される。また、混入される硬化剤の種類や量、温度、噴霧する軟質樹脂の粒径などの調整をすることで、その表面性状を滑面もしくは種々の粗面などに自在に変化させることができる。このように表面性状を変化させることによれば、所望のデザイン性(意匠性)を持たせることができる。また、粗面にすることにより高回転時における風に対する抵抗を大きくして、過回転を防止することができる。
加えて、耐候性樹脂層11が軟質樹脂層10の外面を被覆しているため、軟質樹脂層10の表面性状が維持される結果、上記の作用が持続する。なお、垂直軸型風車用ブレード1b〜1gにおいても、垂直軸型風車用ブレード1aと同様の作用を有する。
【0035】
さらに、垂直軸型風車用ブレード1aは、翼幅方向に長く形成される補強板12を備えることから、この方向について剛性を有し、強風時における風圧や高速回転時の遠心力によるブレードの過度の撓みが抑制されるという作用が発揮される。なお、垂直軸型風車用ブレード1b〜1gにおいても補強板12を備えており、同様の作用を有している。さらに、補強部材13a〜13fを備えることから、補強板12が発泡樹脂体9から剥離し難くなるとともに、より過度の撓みが抑制される。ここで、ブレードの撓みは補強板12と補強部材13a〜13fの断面二次モーメントに依存する。そして、翼弦長方向の軸(図6のX軸)に関する曲げモーメントに起因する撓みが最もブレードの性能に影響を与える。従って、ここでは特にX軸に関する断面二次モーメントに着目する。表1は図3(a)の補強板12、図3(b)の補強板12と補強部材13a、及び図3(g)の補強板12と補強部材13fについて、それぞれ断面二次モーメントIを計算した結果である。なお、図6(a)乃至図6(c)に示すように、wは補強板12の翼弦長方向(図中X方向)の長さ、tは補強部材13a,13fの厚さ、Hは翼厚方向(図中Y方向)における補強板12,12の両表面間の距離、hは補強部材13a,13fの高さである。また、Cは翼弦長であり、Ic(*)/Ic(1a)は垂直軸型風車用ブレード1aのI/Cに対する垂直軸型風車用ブレード1b,1gのI/Cの比をそれぞれ示している。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示すように、X軸に関する断面二次モーメントは垂直軸型風車用ブレード1gが最も大きく、次に垂直軸型風車用ブレード1bが大きい。従って、前述の撓みを抑制する作用は大きい順に垂直軸型風車用ブレード1g,1b,1aとなる。また、垂直軸型風車用ブレード1b〜1eのX軸に関する断面二次モーメントはいずれもほぼ等しく、垂直軸型風車用ブレード1fの断面二次モーメントは、垂直軸型風車用ブレード1gの断面二次モーメントとほぼ等しい。
【0038】
次に、垂直軸型風車用ブレード1aの効果について説明する。基体2は、全体の重量が軽量になることから、回転起動時に大きなトルクを必要とせず低速風でも起動が良好であり、最大回転速度に至るまでに必要な時間が短いという効果を有する。そして、風速や風向の変化に対する応答性が向上するため、最適回転速度に至るまでに必要な時間が短いという効果を有する。さらに、風車全体の重量が軽くなることにより、支持ベアリングの摩擦抵抗が小さくなって回転効率が向上するとともに、支柱強度を過度に大きくする必要がなくなる。また、基体2は、発泡樹脂片14,15から切り出された主部3及び傾斜部4を接着することによって形成されるため、異なる大きさのブレードを自在に製造することが可能である。
【0039】
このように成形された基体2の表面には軟質樹脂層10が形成され、ブレード全体で高い弾性と強度を有することから、強風が吹き付ける場合でもブレードの撓みと反発に起因する折損等が防止される。すなわち、発泡樹脂体9の強度不足、表面及び薄肉部における欠損といった課題を解決することができる。これにより、安全性が向上する。一方、ブレードが過度に撓むと、ブレードの性能が低下するため、回転効率が低下する。この現象を逆に利用して、ブレードを撓ませることにより過回転防止をすることも考えられる。そして、本発明の垂直軸型風車用ブレードによれば、軟質樹脂層10の厚さや層の数、あるいは混入される硬化剤の種類や量、噴霧する軟質樹脂の粒径等を調整することで、所望の可撓性、強度及び表面粗度を持たせることができるため、上述の過回転防止が可能となる。また、重量、耐摩耗性、表面性状等が自在に制御できるので、様々な性能を持つ垂直軸型風車用ブレードを製造することができる。従って、利用可能範囲が広いという効果を有する。また、軟質樹脂層10は、噴霧器5で吹き付けて形成されるので、傾斜部4を有するような三次元的な形状のブレード表面への形成作業が格段に容易である。
【0040】
次に、基体2の内部には補強板12と補強部材13a〜13fが取り付けられていることから、補強板12が発泡樹脂体9から剥離し難くなるとともに、ブレードの強度をさらに向上させて可撓性を抑制することができる。このことは、表1の断面二次モーメントの値からも明らかであり、例えば、補強板12と補強部材13fを備える垂直軸型風車用ブレード1gを用いることによれば、可撓性を最も強く抑制することができる。このように、本発明の垂直軸型風車用ブレードにおいては、軟質樹脂層10との組み合わせにより、軟質樹脂層10のみの場合と比較して、強度と可撓性をより広範囲に調整することが可能である。また、これらの補強板と補強部材は、構造や材質等、その組み合わせを変化させることができることと、基体2をその構造に合わせて自在に分割できることから、範囲ばかりでなく、より細かな調整が可能である。ただし、実際のブレードにおいては補強板12,12の外面が緩やかな曲面を描き、図6(a)乃至図6(c)のように完全な平行ではない。従って、垂直軸型風車用ブレード1bの場合、翼厚が最大となる位置に補強部材13aを配置し、これを中心とする両側に補強板12,12を配置して、X軸に関する断面二次モーメントが最大となるようにすることが望ましい。
【0041】
さらに、耐候性樹脂層11により軟質樹脂層10の表面性状が維持されるという作用を有することから、長期に亘って軟質樹脂層が傷つきにくく緩衝性が維持され、鳥などの衝突物の衝撃が軽減されるという効果が発揮される。また、紫外線や雨水によるブレードの退化が抑制され、ブレードの耐用年数が長くなるという効果を奏する。そして、ステップS1〜ステップS10の各工程は、いずれも高度な技術が要求されるものではなく、容易に垂直軸型風車用ブレード1a〜1gを製造することができる。
【0042】
なお、軟質樹脂層10は、2層に限られず3層以上あるいは1層であっても良く、その材質はウレタン樹脂の他、塩化ビニール樹脂、シリコン樹脂などでも良い。また、耐候性樹脂11の代わりに、シリコンからなる衝撃吸収材でも良い。さらに、補強部材13a〜13fの形状は、平板状の他、棒状であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0043】
請求項1乃至請求項6に記載された発明は、風力発電用風車に対して適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1a〜1g…垂直軸型風車用ブレード 2…基体 3…主部 3a…横断面投影線図 4…傾斜部 4a…正面投影線図 4b…側面投影線図 5…噴霧器 6…樹脂容器 7a,7b…パイプ 8…コンプレッサ 9…発泡樹脂体 10…軟質樹脂層 10a,10b…軟質樹脂層 11…耐候性樹脂層 12…補強板 13a〜13f…補強部材 14,15…発泡樹脂片 16…垂直軸型風車 17…回転体 18…支持腕 19…ブレード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発泡樹脂体からなる基体と、
この基体の両面に,それぞれ対向して設置される一対の補強板と、
少なくとも前記基体のいずれか一方の面に形成される軟質樹脂層と、
を備えたことを特徴とする垂直軸型風車用ブレード。
【請求項2】
前記基体の内部に設置され、前記一対の補強板を接続する補強部材を備えたことを特徴とする請求項1記載の垂直軸型風車用ブレード。
【請求項3】
前記軟質樹脂層の表面に保護層が形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の垂直軸型風車用ブレード。
【請求項4】
発泡樹脂体により基体を形成する工程と、
この基体の両面に一対の補強板を対向して設置する工程と、
少なくとも前記基体のいずれか一方の面に軟質樹脂層を形成する工程と、
を備えたことを特徴とする垂直軸型風車用ブレードの製造方法。
【請求項5】
前記一対の補強板を接続可能に、補強部材を前記基体の内部に設置する工程を備えたことを特徴とする請求項4記載の垂直軸型風車用ブレードの製造方法。
【請求項6】
耐候性を有する樹脂層を前記軟質樹脂層の表面に形成する工程を備えたことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の垂直軸型風車用ブレードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−211571(P2012−211571A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78593(P2011−78593)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(509164164)地方独立行政法人山口県産業技術センター (22)
【出願人】(597089554)有限会社 環境造形 (2)
【Fターム(参考)】