説明

埋設物探知センサ

【課題】磁気センサの検出感度を向上させた複合型の埋設物探知センサを提供する。
【解決手段】受信部16及び送信部18からなる磁気センサ12と電波センサ14を備え、電波センサ14を構成する複数のアンテナ要素を受信部16の外周上に配置し、さらに受信部16を中心として、電波センサ14の外周上に送信部18を配置した埋設物探知センサ10である。受信部16は、一対の半円形状のコイル20を対称に組み合わせて円形とし、コイル20のコイルパターン方向を互いに反対に形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は埋設物探知センサに係り、特に複合センサにより地上から埋設物の探知を行う埋設物探知センサに関する。
【背景技術】
【0002】
埋設物を地上から探知するには、磁気センサや電波センサを用いた探知装置が利用されている。磁気センサを用いた探知装置は、磁気を発受信するコイルを有し、比較的浅い部分に埋設された物の探査に適している。一方、電波センサを用いた探知装置は、電波を発受信するアンテナを有し、磁気センサを用いた場合と比較して深度の深い部分に埋設された検査物の探査に適している。このことから、磁気センサと電波センサとの両方の特徴が得られる、磁気センサと電波センサとのいずれも用いた複合型探知装置が提案されている。
【0003】
この複合型探知装置のセンサに関する発明として、特許文献1が挙げられる。特許文献1に開示された埋設物探知センサ1は、図7(1)に示すように磁気センサ2となるリング形状の受信部3及び送信部4と、このコイル間に電波センサ5となるアンテナ6とを備えた構成である。そして送信部4は、電流が供給されると磁界を発生させ、地中に埋設されている金属物に誘導起電力を発生させる。受信部3は、この誘導起電力により発生される磁界を感知して、埋設物の有無を探査する。また電波センサ5は、電流が供給されるとアンテナ6から電波を発生させる。埋設物はこの電波を反射するので、アンテナ6は反射電波を感知して、埋設物の有無を探査する。このように磁気センサ2及び電波センサ5を複合的に用いることにより埋設物の探知を行っている。
【特許文献1】特開2006−71408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで磁気センサと電波センサとからなる複合型探知センサにおいて、磁気センサは、導電線を巻き回したコイルにより形成している。すなわち受信部及び送信部はいずれも、ボビンに導電線を周方向に必要数巻き回した構成となる(図7(2)は送信部の側面図を示す)。
【0005】
この巻き回し作業は作業員の手作業で長時間を要し、かつコイルごとに巻き方が不均一であり一定しない。コイルごとに巻き方が不均一であると、種々の測定誤差、例えばコイルの感度にばらつきが生じることがある。また磁気センサの製作に長時間を必要としていた。
【0006】
また特許文献1の受信部は円形状であり探知センサの中心に配置している。この受信部3は、図8(1)に示すように大小2つのコイル(内側コイル3a、外側コイル3b)から形成されている。内側コイル3aの巻き線方向は反時計回りであり、外側コイル3bの巻き方向は時計回りである。各コイルは巻き数が同じであるが径が異なる。コイル3a,3bの磁界の大きさは図8(2)に示すようになり、探知する範囲が異なる。また径の異なる内側コイル3a及び外側コイル3bと図示しない送信コイルとの距離の違いにより、差動動作において送信磁界をキャンセルするときに完全にキャンセル(ゼロ)することができない。図8(3)は内側コイル3aと外側コイル3bを軸対称に配置した状態の探知範囲を示す。図示のようにコイルの探知範囲は平面方向に対して同心円状に拡がるため、微小金属Mが移動してきたとき、その位置が探知できない。受信部3は中心で最大感度を示し、その周辺は360度方向同じ感度になるため、受信部3の中心から見た微小金属Mの方向の区別が困難であった。
上記従来技術の問題点を解決するために本発明は、磁気センサの検出感度を安定化させる複合型の埋設物探知センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の埋設物探知センサは、電波センサと受信部及び送信部からなる磁気センサとを備え、前記電波センサを構成する複数のアンテナ要素を本体中心に取り付けた前記受信部の外周上に配置し、さらに前記受信部を中心として、前記電波センサの外周上に前記送信部を配置した埋設物探知センサであって、前記受信部は、一対の半円形状のコイルを対称に組み合わせて円形とし、前記コイルの巻き方向を互いに反対に形成したことを特徴としている。
この場合において、前記受信部及び送信部は、基板の表面に複数巻きのコイルパターンを形成し基板化するとよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の埋設物探知センサは、一対の半円形状のコイルを対称に組み合わせて円形の受信部としている。また一対のコイルはパターン数及び積層数が同等であって、互いにコイルパターンが反対方向となるように形成している。このため基板には正負号が逆転した電流が検出される。そして埋設物探知センサを走査させて例えば受信部の中心位置、すなわち一対の基板間の直下位置に金属製異物が配置されたとき、左右の受信部に同じ大きさの電流が流れることになる。このとき一方のコイルにはプラス電流、他方のコイルにはマイナス電流が流れており符号のみ逆転し、いずれも電流の大きさは等しい。よって、このコイル間の差分を取ることによって金属製異物の位置情報を正確に特定することができる。したがって受信部の検出感度及び精度が向上する。
【0009】
本発明の埋設物探知センサは、受信部及び送信部からなる磁気センサを基板化している。具体的には受信部及び送信部は基板にコイルパターンを複数巻きし、この基板を複数カスケード(数珠つなぎ)接続して積層させた多層としている。このため、従来の導電線を巻き回したコイルに比べ基板にコイルパターンを均一に形成することができる。よってセンサは一定の品質が得られ安定する。したがって測定誤差、測定位置ずれを防止することができ、センサの精度及び検出感度が向上する。
【0010】
また従来手作業で巻き回して作成していたのに比べ、プリント基板によりコイルの製作が短時間かつ容易となり、量産性がある。さらに検査物の受信感度に合わせて、受信部の層数を例えば4層およびそれ以上の層数(8層、12層………)へ拡張することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明に係る埋設物探知センサの最良の実施形態について説明する。図1は埋設物探知センサにおけるセンサ部分の平面図である。図2は磁気センサの受信部基板の説明図である。図3は磁気センサの送信部基板の説明図である。図4は受信部及び送信部のコイルパターンの説明図である。
【0012】
図1に示すように埋設物探知センサ10は、主に磁気センサ12と電波センサ14とから構成されている。
磁気センサ12は、センサ本体中心に配置した受信部と、センサ本体の外周に沿って配置した送信部との2つのコイルから構成されている。
【0013】
受信部16は図2(1)に示すように基板上に形成した一対の半円形状のコイル20a,20bからなり、コイル20の切欠き部21を線対称に組み合わせて全体として円形となるように配置している。また受信部16の中心はセンサ本体の軸心と同心に形成している。
【0014】
図2(3)は同図(1)のB部断面拡大図を示し、図示のように受信部16は基板23上に予め設定した複数巻きのコイルパターンを形成している。すなわちコイルパターンは、検査物に応じて受信部16の抵抗値(Ω)が定まり、この抵抗値の範囲に収まるコイル径、巻き数が決まり、さらにこのコイル径、巻き数によってコイルパターンの幅、厚みが定まる。本実施形態では一例として、基板23上にパターン幅0.15mm、厚さ70μmのコイルパターンを100μmの間隔を開けて形成している。
【0015】
図4(1)は受信部のコイル20aのコイルパターンの説明図である。本実施形態では一例として200パターンの受信部16の場合について説明する。設定したコイル径に受信部16を収めるため、第1層から第4層にそれぞれ50パターンを形成している。このとき第1層の終点と第2層の始点を電気的に接続し、第2層の終点と第3層の始点を電気的に接続し、第3層の終点と第4層の始点を電気的に接続し、第4層の終点をスルーホールを介して第1層の始点付近に近接配置している。各層は図示のようにいずれもパターン方向が時計回り(矢印g)となるようにカスケード(数珠つなぎ)接続している。
【0016】
図2(2)は同図(1)のa矢視図を示し、図示のように受信部16はコイル20を形成した基板23を複数積層させた多層に形成している。また、コイル20aの切欠き部側の平面Aを線対称として、一対の第1コイル20a,第2コイル20bを組み合わせて円状に配置している。
【0017】
図2(4)は同図(1)のA部拡大図を示し、コイル20a,20bに形成したパターンの始点及び終点は、切欠き部側に終点を配置し、円弧側に始点を配置している。これにより(1)に示すようにコイル20aのパターン方向は、切欠き部21から右回り(時計回り)となる矢印f方向となる。一方コイル20bのパターン方向は、コイル20aと逆方向であって、切欠き部21から左回りとなる矢印e方向となる。
【0018】
送信部18は、図3(1)に示すように基板23c上に形成したリング形状のコイル20cからなる。送信部18は受信部16と同心及び同一平面上に形成している。
【0019】
図3(3)は同図(1)のC部拡大図を示し、図示のように送信部18は基材23c上に予め設定した複数巻きのコイルパターンを形成している。コイルパターンは、受信部16同様に、検査物に応じて送信部18の抵抗値(Ω)が定まり、この抵抗値の範囲に収まるコイル径、巻き数が決まり、さらにこのコイル径、巻き数によってコイルパターンの幅、厚みが定まる。本実施形態では一例として、基板23c上にパターン幅0.5mm、厚さ70μmのコイルパターンを0.2mmの間隔を開けて形成している。
【0020】
図4(2)は送信部のコイルパターンの説明図である。本実施形態では一例として100パターンの送信部18の場合について説明する。設定したコイル径に送信部18を収めるため、第1層から第4層にそれぞれ25パターンを形成している。このとき第1層の終点と第2層の始点を電気的に接続し、第2層の終点と第3層の始点を電気的に接続し、第3層の終点と第4層の始点を電気的に接続し、第4層の終点をスルーホールを介して第1層の始点付近に近接配置している。各層は図示のようにいずれもパターン方向が時計回り(矢印h)となるようにカスケード(数珠つなぎ)接続している。
【0021】
図3(2)は同図(1)にb矢視図を示し、図示のように送信部18は基板23cを複数積層させた多層に形成している。
図3(4)同図(1)のD部拡大図を示し、基板23cに形成したコイルパターンの始点及び終点は、これによりパターン方向が右回り(時計回り)となる矢印i方向となる。
【0022】
受信部の外側であって送信部18の内側には、電波センサ14を配設している。この電波センサ14は、磁気センサ12の受信部16や送信部18と略同一平面上に形成されている。この電波センサ14は受信部16の周囲に設けられた3素子型レーダセンサである。電波センサ14は、3つのレーダアンテナ部22(アンテナ要素)に分割されている。このレーダアンテナ部22は、レーダアンテナ部22の外側におけるある点を基準とした円周上においてずらして配置されており、本実施形態ではある点を基準として回転方向に120度ずつずらした状態で配置されている。レーダアンテナ部22は複数層によって構成され、アンテナ基板が最下層に配置されている。アンテナ基板は三角状の板をエレメントとし、その頂点を対向させることで構成されたレーダアンテナ26が設けられている。レーダアンテナ26は本実施形態では金属メッキ処理により形成している。
【0023】
次に、埋設物探知センサ10の作用について説明する。図5は磁気センサの探知の説明図である。磁気センサ12は、電源から送信部18に電流が供給されると、送信部18の断面を回るように磁束Gが発生する。送信部18から発生した磁界によって、地中に埋設されている金属物に誘導起電力が発生する。この誘導起電力によって発生される磁界を受信部16のコイル20a,20bが感知して、埋設物の探知を行っている。
【0024】
図6は磁気センサの受信部の説明図である。同図(1)は平面図であり、同図(2)は(1)のA矢視図である。図示のように、半円形状のコイル20a、20bは巻き線方向が異なるが、同じパターン数、同一形状であり、磁界が同じ大きさになる。また図示しない送信コイルとの距離もコイル20a、20bでは同じであり、差動動作において、送信磁界をキャンセルすることができる。さらに、(2)に示すように微小金属Mが移動してきたときに、左右コイルの信号に違いが生じるためその方向がわかる。すなわち左側のコイル20bのコイル極性の信号が大きくなり、中央の位置でほぼゼロになり、さらに移動すると右側のコイル20bのコイル極性の信号が大きくなる。
【0025】
また一対のコイル20a,20bはパターン数及び積層数が同等であって、互いにコイルパターンが反対方向となるように形成しているため、基板20a,20bには正負号が逆転した電流Iが検出される(図5(2))。そして埋設物探知センサ10を走査させて例えば受信部16の中心位置、すなわち一対のコイル20a,20b間の直下位置に埋設物30が配置されたとき、左右のコイル20a,20bに同じ大きさの電流Iが流れることになる。このとき一方のコイル20aにはプラス電流、他方のコイル20bにはマイナス電流が流れて、符号のみ逆転し、いずれも電流の大きさは等しい。よって、このコイル20a,20b間の差分を取ることによって埋設物30の位置情報を正確に特定することができる。したがって受信部16の検出感度及び精度が向上する。
【0026】
一方、電波センサ14は、図示しない給電モジュールからレーダアンテナ26へ電流が供給されると、このレーダアンテナ26は電波を発生させる。この電波は下方に向けて放射され、埋設物で反射する。そして電波センサ14は、この反射波を感知して、埋設物の探知を行っている。具体的には、まずレーダコントローラは3つの偏波切換パルスを順次発生させる。このパルスは、偏波切換回路に供給され、偏波切換回路はレーダアンテナ26のうち2つのアンテナを順次選択し、一つを受信用、他の一つを送信用としている。切換パルスが発生する度に、送信アンテナと受信アンテナが切り換えられる。このように送信の偏波が120度おきに回転し、受信の偏波もこれと120度の位相差をもって120度おきに回転するので、あらゆる方向に電波が送信され、またあらゆる方向から反射波が受信されることになる。偏波方向が固定されていると埋設物の埋設方向によっては検出が難しい場合があるが、このシステムは偏波方向が刻々と変わるので、どのような埋設方向の埋設物でも検出可能となる。
【0027】
このように埋設物探知センサ10は、一対の半円形状のコイルを対称に組み合わせて円形とし、互いにコイルパターンが反対方向となる受信部としたので、このコイル間の差分を取ることによって埋設物の位置情報を正確に特定することができる。したがって磁気センサの検出感度及び精度が向上する。
【0028】
ところで電波センサのレーダアンテナは、アルミなどの金属を用いて形成されている。金属性材料を用いると渦電流の大きさが大きくなり、埋設物の検出性能が低下してしまうという問題があった。
【0029】
本発明の電波センサ14は、レーダアンテナを金属メッキにより形成している。一般に鉄、銅、アルミなどの金属は透磁率が大きい。これに比べ銅メッキ、ニッケルメッキなどのメッキ製品は透磁率が小さく受信部への影響が小さくなり、電波センサの材質としては適している。よって、本発明では電波センサの材質にPCB電解メッキを用いている。これによりレーダアンテナの金属部に発生する渦電流の影響を少なくすることができる。
【0030】
本実施形態では、受信部の基板を円形状で説明したが、基板の形状はコイルパターンが半円形状に形成できればこれに限らず、例えばコイルパターンよりも一回り大きい半円形状とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】埋設物探知センサにおける磁気センサの平面図である。
【図2】磁気センサの受信部基板の説明図である。
【図3】磁気センサの送信部基板の説明図である。
【図4】受信部及び送信部のコイルパターンの説明図である。
【図5】磁気センサの探知の説明図である。
【図6】磁気センサの受信部の説明図である。
【図7】従来の磁気コイルの説明図である。
【図8】従来の磁気センサの受信部の説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1………埋設物探知センサ、2………磁気センサ、3………受信部、4………送信部、5………電波センサ、6………アンテナ、10………埋設物探知センサ、12………磁気センサ、14………電波センサ、16………受信部、18………送信部、20………コイル、21………切欠き部、22………レーダアンテナ部、23………基板、26………レーダアンテナ、30………埋設物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波センサと受信部及び送信部からなる磁気センサとを備え、前記電波センサを構成する複数のアンテナ要素を本体中心に取り付けた前記受信部の外周上に配置し、さらに前記受信部を中心として、前記電波センサの外周上に前記送信部を配置した埋設物探知センサであって、
前記受信部は、一対の半円形状のコイルを対称に組み合わせて円形とし、前記コイルの巻き方向を互いに反対に形成したことを特徴とする埋設物探知センサ。
【請求項2】
前記受信部及び前記送信部は、基板の表面に複数巻きのコイルパターンを形成し基板化したことを特徴とする請求項1記載の埋設物探知センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−2866(P2009−2866A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165503(P2007−165503)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、地中等埋設物探知・除去技術開発委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】