説明

基板加工方法および液体吐出ヘッドの製造方法

【課題】凹部を有する基板のエッジ部のレジスト被膜性を向上させることにより、レジスト膜のパターニング精度を向上させ、高精度な基板加工が可能となる基板加工方法、および液体吐出ヘッドの製造方法を提供することである。
【解決手段】(a1)凹部を有する基板を、該凹部を有する面を重力方向上側にして配置し、その基板の凹部および凹部を有する面にレジストを塗布してレジスト膜を形成する工程と、(a2)該レジスト膜を形成した基板を、該凹部を有する面を重力方向下側にして配置し、そのレジスト膜に該レジストを溶解可能な液体を塗布して、そのレジスト膜の厚みを調節する工程とを含むことを特徴とする基板加工方法。および液体吐出ヘッドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板加工方法および、インクジェット記録ヘッドなどの液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のインクジェット記録ヘッドの製造方法は、特許文献1に開示されているように以下の工程を含む。シリコン基板上部にインク吐出エネルギー発生素子を含む層を形成した後、前記基板まで前記層の一部を掘り込む工程。前記層上部にノズル部を形成する工程。前記基板をウエットエッチングして共通インク供給口を形成する工程。共通インク供給口内にレジストを塗布する工程。共通インク供給口底面部をパターニングする工程。前記基板を前記層の掘り込み部に連通するまでドライエッチングして独立供給口を形成する工程。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6534247号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の基板加工技術では凹部を有する基板にレジスト膜を形成する際、以下の現象が発生する場合があった。即ち、凹部の縁であるエッジ部は、基板の凹部を有する面と、その凹部の側壁とが交わる部分であり、レジストが表面張力の影響を受けるため、被覆しづらい場合があった。なお、図1では、エッジ部は、基板の凹部を有する面(図1の符号1)と凹部の側壁(図1の符号2b)とにより形成される角部(図1の符号2a)で表される。
【0005】
また、凹部として共通インク供給口を有する基板を含むインクジェット記録ヘッドの製造方法においては、以下のような現象が発生する場合があった。即ち、特許文献1では先掘り込みにより独立供給口の開口精度を決定していたが、ノズル部をスピンコートで形成する場合、先掘り込み部分が段差となり、ノズル部の平坦性が低下する可能性があった。そのため、ノズル部形成後、シリコン基板下部から共通インク供給口形成し、レジストを塗布し、パターニングし、これをマスクとしてドライエッチングにより独立供給口を形成する場合、高精度のエッチングマスクが求められた。しかし、凹部を有する基板のときと同様、従来技術において共通インク供給口のエッジ部(図2の符号20a)では、エッチングマスクとなるレジストが表面張力の影響を受けて被覆しづらい場合があるという課題があった。エッジ部のレジスト膜が薄い場合は、次のドライエッチング工程でエッジ部がエッチングされる場合があり、この場合、エッジ部の形状が不均一になり実装工程でインクの混色を及ぼすことが懸念された。今後高密度化が進むにつれ色間が狭くなると、さらにインクの混色は懸念される。
【0006】
本発明の目的は、凹部を有する基板のエッジ部のレジスト被膜性を向上させることにより、レジスト膜のパターニング精度を向上させ、高精度な基板加工が可能となる基板加工方法、および液体吐出ヘッドの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述のような課題を解決するために、本発明は、(a1)凹部を有する基板を、該凹部を有する面を重力方向上側にして配置し、その基板の凹部および凹部を有する面にレジストを塗布してレジスト膜を形成する工程と、(a2)該レジスト膜を形成した基板を、該凹部を有する面を重力方向下側にして配置し、そのレジスト膜に該レジストを溶解可能な液体を塗布して、そのレジスト膜の厚みを調節する工程と、を含むことを特徴とする基板加工方法である。
【0008】
また、本発明は、(b1)表面側に液体を吐出させるエネルギーを発生する複数のインク吐出圧エネルギー発生素子が設けられたシリコン基板の裏面側に、第1のエッチングにより、該シリコン基板の表面と裏面との間に底面部を有する共通インク供給口を形成する工程と、(b2)該基板の共通インク供給口および共通インク供給口を有する面にレジストを塗布してレジスト膜を形成する工程と、(b3)該レジスト膜に前記レジストを溶解可能な液体を塗布して、そのレジスト膜の厚みを調節する工程と、(b4)該共通インク供給口の底面部のレジスト膜をパターニングする工程と、(b5)第2のエッチングにより前記レジスト膜のパターニングを利用してシリコン基板を貫通するまで、該底面部をエッチングする工程と、を含む液体吐出ヘッドの製造方法であって、工程b2において、該基板を、該共通インク供給口を有する面を重力方向上側にして配置し、工程b3において、該レジスト膜を形成した基板を、共通インク供給口を有する面を重力方向下側にして配置することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
以上の構成によれば、凹部を有する基板のエッジ部のレジスト被覆性を向上させることにより、レジスト膜のパターニング精度を向上させ、高精度な基板加工が可能となる基板加工方法および液体吐出ヘッドの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の基板加工方法の各工程を時系列的に説明するための模式的断面図である。
【図2】実施例1に示すインクジェット記録ヘッドの製造工程を時系列的に説明するための模式的断面図である。
【図3】実施例1に示すインクジェット記録ヘッドの模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の基板加工方法および液体吐出ヘッドの製造方法では、基板加工面に塗布膜を被覆しにくい形状の基板に対しても、容易に塗布膜を被覆することができる。
本発明により製造された、液体を吐出する液体吐出ヘッドは、インクジェット記録ヘッドとしてインク記録に用いることができる。
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、本発明の液体吐出ヘッドの適用例として、インクジェット記録ヘッドを例に挙げて説明するが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。
【0013】
本発明の製造方法によって製造されるインクジェット記録ヘッドの構造について、予め説明する。図3は、本発明の製造方法によって製造されたインクジェット記録ヘッドの模式的斜視図である。
【0014】
図3に示すインクジェット記録ヘッドは、シリコン基板10を有する。シリコン基板10の表面側には、複数のインク吐出エネルギー発生素子11、インク流路22及び吐出口15が設けられている。シリコン基板10には、シリコン基板10を貫通し、その表裏面において開口する共通インク供給口20が形成される。なお、基板10において、基板の凹部(共通インク供給口)を有する面を裏面101とし、上記インク吐出エネルギー発生素子11などが設けられている面を表面とする。
【0015】
次に、図1を用いて本発明の基板加工方法を説明する。
なお、本発明に用いる基板は、例えば、シリコン単結晶基板、硝子基板、金属基板および樹脂基板を用いることができる。また、基板の凹部の形状は、必要に応じて選択することができる。基板の凹部は、例えば、アルカリ溶液を用いた結晶異方性エッチング、およびレーザーにより形成することができる。なお、アルカリ溶液としては、テトラメチルアンモニウムハイドライド(TMAH)を用いることができる。
【0016】
基板に凹部を形成する具体的な方法は、図1(a)に示すように、まず、シリコン基板10に、アルカリ溶液から保護する保護層(不図示)と第1のエッチング用マスク(不図示)を形成する。なお、保護層と第1のエッチング用マスクはアルカリ溶液に耐性のある材料とする。シリコン基板10を第1のエッチングとして、アルカリ溶液を用いた結晶異方性エッチングにより基板の一方の面に凹部2を形成する。その後、第1のエッチング用マスクを除去して、一方の面102に凹部2を有する基板10を作製する。
【0017】
次に、凹部を有する基板を、凹部を有する面1を重力方向上側にして配置し、その基板の凹部および凹部を有する面にレジストを塗布してレジスト膜を形成する(工程a1)。なお、凹部を有する基板は、凹部を有する面1が上側にあれば、水平であっても水平でなくても良い。例えば、図1(b)に示すように、スプレー装置のスプレーノズル23を基板10の上方(重力方向上側)に設置し、基板10の凹部を上向き、すなわち凹部を有する面を重力方向上側にして基板10を設置する。ついで、その基板10の上方から鉛直下向きに感光性を持つレジストをスプレーノズル23から吐出してその基板にレジスト膜18を形成する。なお、図1の符号24は、レジストの吐出方向を表す。この際、レジストは少なくとも基板の凹部2、および凹部を有する面1に塗布されレジスト膜18が形成される。レジストを、基板の凹部および凹部を有する面に塗布するとは、凹部(窪んだ部分)の内面全体(図1では、後述する底面部2cおよび側壁2b)も含めて、凹部が形成された面の表面の少なくとも一部を塗布することを意味する。図1に示される凹部を有する基板では、凹部の底面部2c、側壁2b、エッジ部2a、凹部を有する面1の基板部分の表面にレジストが塗布される。なお、凹部は、側壁および底面部からなることもでき、側壁のみからなることもできる。なお、凹部の側壁とは、底面部と面102との間に位置し、底面部と面102と連続する面である。例えば、図1では符号2bで表される。また、側壁は、凹部を有する面に対して垂直な面であっても良く、図1に示すような斜面であっても良い。凹部の底面部とは、例えば、図1では符号2cで表される。また、図1に示すように、底面部は、凹部を有する面に対して平行な面であっても良く、斜面であっても良い。なお、上述したようにエッジ部とは、凹部の縁であり、基板の凹部を有する面と、その凹部の側壁とが交わる部分である。図1では、エッジ部は、基板の凹部を有する面1と凹部の側壁2bとにより形成される角部(符号2a)で表される。
【0018】
スプレー塗布に適した感光性レジストには、AZP4620(商品名、AZエレクトロニックマテリアルズ社製)やOFPR(商品名、東京応化工業社製)やBCB(商品名、ダウコーニング社製)がある。この時、一般的に、基板のエッジ部2aは、表面張力の影響を受けてレジストを被覆しづらい為、基板全体の中でレジスト膜の膜厚が最も薄くなる。
なお、レジストを塗布する際、凹部を有する面が重力方向上側にあるのであれば、必要に応じて、基板の向きを調節することもできる。また、レジストを吐出する吐出用ノズルからレジストを吐出して基板に塗布する際には、ノズルの向きを必要に応じて調節することもできる。
【0019】
また、基板へのレジスト塗布方法としては、スプレー塗布、およびミストコートを用いることができる。また、上記感光性レジスト以外にも、例えば、感光性がなくとも保護性のあるゴム系の樹脂、および撥水性のある樹脂などを用いることができる。
【0020】
次に、レジスト膜を形成した基板を、凹部を有する面を重力方向下側にして配置し、そのレジスト膜に、そのレジストを溶解可能な液体(レジスト溶解液)を塗布して、そのレジスト膜の厚みを調節する(工程a2)。なお、凹部を有する基板は、凹部を有する面が下側にあれば、水平であっても水平でなくても良い。また、凹部を有する基板の各部分のレジスト膜の厚みは、後の工程に応じて選択することができる。例えば、後の工程で、レジスト膜をパターニングし、これをマスクとしてエッチングを行う際には、エッジ部がエッチングされない厚さに、エッジ部のレジスト膜の厚みを調節することができる。工程a2により、基板の膜厚の厚い部分のレジスト膜をレジスト溶解液により溶解させ、エッジ部などの膜厚が薄い部分にその溶解したレジストを、重力を利用して移動させることができ、その膜厚が薄い部分の被覆性を向上させることができる。なお予め、レジスト膜を形成した基板を、凹部を有する面を重力方向下側にして配置し、レジスト溶解液を塗布することにより、溶解したレジストが所望の位置に移動せずに固まることを防ぐことができる。また、基板のどの部分のレジスト膜を溶解させ、どの部分にその溶解したレジストを移動させるかは、必要に応じて選択することができる。しかし、上述したように、エッジ部は表面張力の影響からレジスト膜が薄くなる傾向があるため、溶解させたレジストをエッジ部に移動させることが好ましい。より具体的には、凹部を有する面を重力方向上側にしてレジストを塗布した場合、表面張力により2aから2bに膜が移動するため、2aの膜が薄くなり、2bの膜が厚くなる傾向がある。このため、凹部全体の膜厚均一性の観点から、レジスト溶解液は凹部の側壁(斜面部)2bのレジスト膜に塗布し、溶解させたレジストをエッジ部に移動させることが好ましい。なお、基板の各部分の好ましいレジスト膜の厚さは、以下の通りである。即ち、2a、2b、2cのレジスト膜が、面1の基板部分のレジスト膜と同じ厚さになることが好ましい。
【0021】
なお、レジスト溶解液を塗布する際に、凹部を有する面が重力方向下側になるように基板を配置するのであれば、必要に応じて基板の向きを調節することができる。なお、レジスト溶解液を吐出する吐出用ノズルからこの液体を吐出して、凹部の側壁のレジスト膜に塗布する際には、凹部の側壁に対して、垂直な方向からレジスト溶解液が吐出されるように基板の向きを調節することが好ましい。より具体的には、レジスト溶解液を塗布する側壁の箇所に対して垂線を引き、その垂線上の位置からその箇所に対してレジスト溶解液が吐出されるように基板の向きを調節することが好ましい。
【0022】
また、スプレーノズル23のようなレジスト溶解液を吐出する吐出用ノズルを用いてレジスト膜にこの液体を塗布する際には、必要に応じてそのノズルの向きを調節することができる。なお、凹部の側壁のレジスト膜にこの液体を塗布する際には、膜の溶解量を制御する観点から、そのノズルからレジスト溶解液を吐出する方向(図1の符号25)と、凹部の側壁とが垂直になるようにノズルの向きを調節することが好ましい。より具体的には、レジスト溶解液を塗布する側壁の箇所に対して垂線を引き、その垂線上の位置からその箇所に対してこの液体が吐出されるようにノズルの向きを調節することが好ましい。
【0023】
レジスト溶解液は、使用したレジストに応じて選択することができ、例えば、アセトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を用いることができる。また、レジスト溶解液は、レジスト成分を含む溶媒であることができる。
【0024】
レジスト溶解液を吐出する吐出用ノズルからこの液体を吐出して、レジスト膜に塗布する際には、その吐出タイミングは、適宜設定することができ、例えば、パルス制御、および連続吐出することもできる。これらのうち、膜の溶解量を制御する観点から、レジスト溶解液の吐出タイミングをパルス制御することが好ましい。また、レジスト溶解液の塗布方法としては、上記レジストの塗布方法と同様の方法を挙げることができる。なお、塗布量の制御性の観点から、凹部を有する基板へのレジストの塗布、およびレジスト膜へのレジスト溶解液の塗布をスプレー塗布で行うことが好ましい。なお、スプレー塗布は、吐出用ノズルを用いて前記液体を吐出する方法の一形態である。
【0025】
なお工程a2の具体例としては、図1(c)に示すように、基板10を前記スプレー装置のスプレーノズル23の上方(重力方向上側)に設置し、基板10の凹部を下向き、すなわち凹部を有する面を重力方向下側にして、基板10を配置する。ついで、基板10の下方(重力方向下側)から鉛直上向きに基板斜面部2bに向けてレジスト溶解液を塗布する。
【0026】
次に、図1(d)に示すように、レジスト溶解液を塗布した部分(基板斜面部2b)のレジスト膜は溶解され、垂れ下がり、基板エッジ部2aに留まる。これにより、最終的に図1(e)に示すように、塗布膜が被覆されにくい基板エッジ部2aの被覆性が向上する。
【0027】
なお、本発明の基板加工方法は、工程a2の後に、凹部の底面部のレジスト膜にパターニングを行う工程を含むことができる。具体的には、例えば、図1(f)に示すように、前記形成したレジスト膜18を露光および現像してレジストパターンを形成する。基板凹部において、塗布膜が被覆しにくい部分の被覆性が向上することから、基板凹部全体の膜厚を厚くする必要が無い為、パターニング精度が向上して高精度な基板加工が可能となる。
【0028】
次に、第2のエッチングとして、このレジスト膜のパターニングを利用して基板に、微細な凹部や、凹凸や貫通孔を形成することができる。具体的には、図1(g)に示すように、前記形成したレジストパターンをマスクにして、ドライエッチング法によって、底面部2cに微細な凹部を形成する。最後にこのレジストパターンおよび保護層(不図示)を除去する。
【0029】
これによって基板エッジ部にドライエッチングによるダメージを与えることなく、底面部に形成した微細な凹部を想定した寸法内に収めることができる。
【0030】
上述した凹部を有する基板の基板加工方法は、凹部として共通インク供給口を有する基板を含む液体吐出ヘッドの製造方法に適用することができる。その際、レジストの塗布方法等の好ましい形態は、上述した基板加工方法の場合と同様である。なお、凹部である共通インク供給口の深さ(図2では、基板の裏面101から底面部20cまでの距離)は、必要に応じて選択することができる。なお、本発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、以下の工程を含む。
(b1)表面側に液体を吐出させるエネルギーを発生する複数のインク吐出圧エネルギー発生素子が設けられたシリコン基板の裏面側に、第1のエッチングにより、該シリコン基板の表面と裏面との間に底面部を有する共通インク供給口を形成する工程。
(b2)前記基板の共通インク供給口および共通インク供給口を有する面にレジストを塗布してレジスト膜を形成する工程。
(b3)前記レジスト膜に前記レジストを溶解可能な液体を塗布して、そのレジスト膜の厚みを調節する工程。
(b4)共通インク供給口の底面部のレジスト膜をパターニングする工程。
(b5)第2のエッチングにより前記レジスト膜のパターニングを利用してシリコン基板を貫通するまで、底面部をエッチングする工程。
なお、基板加工方法のときと同様に、工程b2において、基板を、共通インク供給口を有する面を重力方向上側に配置し、工程b3において、レジスト膜を形成した基板を、共通インク供給口を有する面を重力方向下側にして配置する。
本発明の基板加工方法および液体吐出ヘッドの製造方法では、基板のエッジ部のレジスト被膜性が向上することから、以下のことが言える。すなわち、基板全体のレジスト膜の厚さ、特に凹部の底面部、液体吐出ヘッドにおいては共通インク供給口の底面部(パターニング面)のレジスト膜の厚さが必要以上に厚くなることがなく、パターニング精度が向上する。このため、高精度な基板加工が可能となる。
【実施例】
【0031】
本発明の製造方法を用いてインクジェット記録ヘッドを製造した。図2を用いて詳細に説明する。
【0032】
まず、図2(a)に示すようなシリコン単結晶基板10を用意した(工程b1)。即ち、表面にインク吐出エネルギー発生素子11と密着向上層9とポジ型レジスト層12とインク流路構造体材料層14と撥水性被膜14aと吐出口15とが設けられ、裏面に第1のエッチング用マスク8と熱酸化膜16とが設けられた基板10を用意した。
【0033】
次に、図2(b)に示すように、撥水性被膜14aを表面に有するインク流路構造体材料層14上、および吐出口15内に、その材料層をアルカリ溶液から保護する為に保護層19を形成した。保護層19は東京応化工業社よりOBCの商品名で上市される材料を用いた。その後、シリコン基板10を、第1のエッチングとして、テトラメチルアンモニウムハイドライド(TMAH)22質量%溶液に、83℃で12時間浸漬し、基板の凹部として、インク供給の為の共通インク供給口20を形成した。なお、共通インク供給口20は、共通インク供給口側壁20bおよび共通インク供給口底面部20cを有し、基板の共通インク供給口を有する面と、側壁20bとから形成される角部をエッジ部20aと称する。側壁20bは、底面部20cと裏面101との間に位置し、基板10の裏面101から共通インク供給口20の底面部20cの平坦面までの距離は、500μmであった。使用したシリコン基板10の厚さは、625±15μmのCZ基板(商品名、三菱マテリアルズ社製)で、6インチサイズ(Φ(直径)150mm)であった。さらに、基板の裏面に形成した第1のエッチング用マスク8と熱酸化膜16を除去した。
【0034】
次に、基板10を、共通インク供給口を有する面を重力方向上側にして配置し、その基板の共通インク供給口および共通インク供給口を有する面にレジストを塗布して、レジスト膜18を形成した(工程b2)。具体的には、図2(c)に示すように、スプレー装置のスプレーノズル23を基板10の上方(重力方向上側)に設置し、その基板の共通インク供給口20を上向き、すなわち共通インク供給口を有する面を重力方向上側にして基板10を設置した。ついで、その基板10の上方から鉛直下向きに感光性を持つレジスト:AZP4620(商品名、AZエレクトロニックマテリアルズ社製)を塗布した。この時、共通インク供給口エッジ部20aはレジストが表面張力の影響を受けて被覆しづらい為、基板全体の中でレジスト膜の膜厚が最も薄くなった。
【0035】
次に、レジスト膜を形成した基板を、共通インク供給口を有する面を重力方向下側にして配置し、そのレジスト膜にそのレジストを溶解可能な液体を塗布して、そのレジスト膜の厚みを調節した(工程b3)。具体的には、図2(d)に示すように、基板10を前記スプレー装置のスプレーノズル23の上方(重力方向上側)に設置し、共通インク供給口の開口部を下向き、すなわちインク供給口を有する面を重力方向下側にして、基板10を配置した。ついで、スプレーノズル23を鉛直方向に対して傾けた状態にして、スプレーノズル23から前記レジストを溶解可能な液体を吐出し、共通インク供給口斜面部20bのレジスト膜に塗布した。なお、その際、共通インク供給口斜面部20bと、前記液体の吐出方向25とが垂直になるようにスプレーノズル23を調節し、前記液体の吐出タイミングをパルス制御した。
【0036】
次に、図2(e)に示すように、レジスト溶解液により、共通インク供給口斜面部20bのレジスト膜は溶解され、垂れ下がり、共通インク供給口エッジ部20aに留まった。最終的に図2(f)に示すように、塗布膜が被覆しにくい共通インク供給口のエッジ部20aに対するレジスト膜の被覆性が向上した。
【0037】
ついで、工程b3の後に、前記共通インク供給口の底面部のレジスト膜にパターニングを行う工程を行った(工程b4)。具体的には、図2(g)に示すように、前記形成したレジスト膜18を露光および現像して独立供給口のパターンを形成した。塗布膜が被覆しにくい共通インク供給口エッジ部20aの被覆性が向上したことから、基板全体の膜厚を厚くする必要が無い為、パターニング精度が向上して高精度な基板加工が可能となった。
【0038】
次に、第2のエッチングとして、前記レジスト膜のパターニングを利用してシリコン基板を貫通するまで底面部をエッチングする工程を行った(工程b5)。具体的には、図2(h)に示すように、前記形成したレジストパターンをマスクにして、ドライエッチング法によって、独立供給口21を形成した。この時、共通インク供給口エッジ部20aの被覆性がよい為、所望の箇所のみエッチングできるようになり、エッチングによる実装工程でインクの混色の懸念が無くなった。その後、レジスト膜18を除去し、シリコン基板10のシリコン部の残りの部分をレジストマスクを利用して除去した後に、それによって露出するメンブレン膜であるP−SiO膜100の一部を除去して、共通インク供給口を基板の表面側まで貫通させた。
【0039】
最後に、図2(i)に示すように、前記シリコン基板10をキシレンに浸漬して保護層19および、インク流路の型材であるポジ型レジスト層12を除去した。この工程により、図2(i)の断面図に示すとおり、吐出口15に連通し、インク吐出エネルギー発生素子11に対し、対称なインク液流路22を形成した。その後、これを本硬化した。
【0040】
これによって基板エッジ部にドライエッチングによるダメージがなく、独立供給口が想定した寸法内に収められた液体吐出ヘッドを製造することができた。
【符号の説明】
【0041】
1:凹部を有する面
2:基板の凹部
2a:基板エッジ部
2b:凹部の側壁(斜面部)
2c:凹部の底面部
8:第1のエッチング用マスク
9:密着向上層
10:基板
11:インク吐出エネルギー発生素子
12:ポジ型レジスト層
14:インク流路構造体材料層
14a:撥水性被膜
15:吐出口
16:熱酸化膜
18:レジスト膜
19:保護層
20:共通インク供給口
20a:共通インク供給口エッジ部
20b:共通インク供給口側壁(斜面部)
20c:共通インク供給口底面部
21:独立供給口
22:インク流路
23:スプレーノズル
24:レジストの吐出方向
25:レジストを溶解可能な液体の吐出方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a1)凹部を有する基板を、該凹部を有する面を重力方向上側にして配置し、その基板の凹部および凹部を有する面にレジストを塗布してレジスト膜を形成する工程と、
(a2)該レジスト膜を形成した基板を、該凹部を有する面を重力方向下側にして配置し、そのレジスト膜に該レジストを溶解可能な液体を塗布して、そのレジスト膜の厚みを調節する工程と、
を含むことを特徴とする基板加工方法。
【請求項2】
前記凹部が側壁を有し、工程a2が、その凹部の側壁のレジスト膜に前記液体を塗布する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の基板加工方法。
【請求項3】
工程a2において、前記液体を吐出する吐出用ノズルを用いて前記凹部の側壁のレジスト膜に該液体を塗布し、その際に、該ノズルから該液体を吐出する方向と、該凹部の側壁とが垂直になるように該ノズルの向きを調節することを特徴とする請求項2に記載の基板加工方法。
【請求項4】
工程a2において、前記液体を吐出する吐出用ノズルから該液体を吐出して前記凹部の側壁のレジスト膜に塗布し、その際、凹部の側壁に対して垂直な方向から該液体が吐出されるように、その基板の向きを調節することを特徴とする請求項2に記載の基板加工方法。
【請求項5】
工程a2において、前記液体を吐出する吐出用ノズルから該液体を吐出して前記基板の凹部および凹部を有する面のレジスト膜に塗布し、その際に、該液体の吐出タイミングをパルス制御することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の基板加工方法。
【請求項6】
工程a1における前記凹部を有する基板への前記レジストの塗布、および工程a2における前記レジスト膜への前記液体の塗布を、スプレー塗布で行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の基板加工方法。
【請求項7】
前記凹部が側壁と底面部とを有し、工程a2の後に、該凹部の底面部のレジスト膜にパターニングを行う工程を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の基板加工方法。
【請求項8】
前記液体が、レジスト成分を含む溶媒であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の基板加工方法。
【請求項9】
前記凹部を有する基板が、シリコン単結晶基板であって、前記凹部がアルカリ溶液を用いた結晶異方性エッチングにより形成されたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の基板加工方法。
【請求項10】
(b1)表面側に液体を吐出させるエネルギーを発生する複数のインク吐出圧エネルギー発生素子が設けられたシリコン基板の裏面側に、第1のエッチングにより、該シリコン基板の表面と裏面との間に底面部を有する共通インク供給口を形成する工程と、
(b2)該基板の共通インク供給口および共通インク供給口を有する面にレジストを塗布してレジスト膜を形成する工程と、
(b3)該レジスト膜に前記レジストを溶解可能な液体を塗布して、そのレジスト膜の厚みを調節する工程と、
(b4)該共通インク供給口の底面部のレジスト膜をパターニングする工程と、
(b5)第2のエッチングにより前記レジスト膜のパターニングを利用してシリコン基板を貫通するまで、該底面部をエッチングする工程と、
を含む液体吐出ヘッドの製造方法であって、
工程b2において、該基板を、該共通インク供給口を有する面を重力方向上側にして配置し、
工程b3において、該レジスト膜を形成した基板を、共通インク供給口を有する面を重力方向下側にして配置することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記共通インク供給口が側壁を有し、工程b3が、その共通インク供給口の側壁のレジスト膜に前記液体を塗布する工程を含むことを特徴とする請求項10に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項12】
工程b3において、前記液体を吐出する吐出用ノズルを用いて前記共通インク供給口の側壁のレジスト膜に該液体を塗布し、その際に、該ノズルから該液体を吐出する方向と、該共通インク供給口の側壁とが垂直になるように該ノズルの向きを調節することを特徴とする請求項11に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項13】
工程b3において、前記液体を吐出する吐出用ノズルから該液体を吐出して前記共通インク供給口の側壁のレジスト膜に塗布し、その際に、前記共通インク供給口の側壁に対して垂直な方向から該液体が吐出されるように、その基板の向きを調節することを特徴とする請求項11に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項14】
工程b3において、前記液体を吐出する吐出用ノズルから該液体を吐出して前記基板の共通インク供給口および共通インク供給口を有する面のレジスト膜に塗布し、その際に、該液体の吐出タイミングをパルス制御することを特徴とする請求項10〜13のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項15】
工程b2における前記共通インク供給口を有する基板へのレジストの塗布、および工程b3における前記レジスト膜への前記液体の塗布を、スプレー塗布で行うことを特徴とする請求項10〜14のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項16】
前記レジストを溶解可能な液体が、レジスト成分を含む溶媒であることを特徴とする請求項10〜15のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項17】
前記基板が、シリコン単結晶基板であって、前記共通インク供給口が、アルカリ溶液を用いた結晶異方性エッチングにより形成されたことを特徴とする請求項10〜16のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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