説明

堆積物を除去する方法及び組成物

本発明は、一又は複数の構成部品内に形成又はそれ以外の方法で堆積する固形堆積物を構造改変し除去するために有用な方法及び組成物を提供する。この固形堆積物には、例えば蒸気発生系内に形成されるスケールが含まれる。水系洗浄組成物は、約13.5i以上のpKa値によって特徴づけられる一又は複数の水酸化第4級アンモニウムを含む。この水酸化第4級アンモニウムは、単独で又は一もしくは複数の炭化物とともに用いられ得る。この添加物には、例えば、キレート化剤、還元剤、酸化剤、pH調節剤、界面活性剤、腐食防止剤、錯化剤、分散剤及びこれらの組み合わせを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下で説明する方法及び組成物は、典型的には、例えば蒸気発生系内の表面に形成されるスケール堆積物を含む金属酸化物及び半金属酸化物の混合物を包含する固形堆積物を構造改変及び除去するために用いられる。当該方法及び組成物は、しかしながら、スケール堆積物に限定されるものではなく、チューブ、パイプ、導管及び/又はこれら以外の構成部品内で堆積する、例えば無水酸化物もしくは水和酸化物、並びに/又は、水酸化物を単体でもしくは硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩及び/又はリン酸塩と混合されたものを含む金属と半金属との様々な混合物を含有する堆積物の除去にも用いられる。特定の堆積物に存在する混合物の具体的な混合比は、例えば、原水の組成、原水に付加される処理化学物質、構成部品の組成、及びシステムの動作条件等の多くの要因に依存する。
【背景技術】
【0002】
蒸気発生系に混入する様々な不純物によって当該システムの構成部品、特に、熱交換器、蒸気発生器、及びタービン等を含む高温運転に関連する構成部品の表面に固形堆積物が発生することが知られている。このような固体は、典型的には上述した金属と半金属との合成物の混合物を含み、特性や蒸気発生系内での位置に応じて、スケール、堆積物、又はスラッジなどと様々に表現される。システム内での濃縮サイクルや循環流体に導入される化学添加物を構造改変することにより堆積物を減少させようとしているが、スケールやその他の堆積物は、全てではないにしても大部分の蒸気発生系において懸念事項であり続けている。
【0003】
どのような用語を用いて堆積物を記述するかによらず、導管の表面や内部にそのような混合物が堆積することで、蒸気発生系の動作に以下に示すような悪影響がある。(1)蒸気発生器内の二次冷却材への熱伝導が減少することにより、熱交換器効率の損失につながる。(2)伝熱管支持部やそれ以外の蒸気発生器の内部構造における流路をつまらせ又は部分的につまらせる。(3)堆積物下腐食を促進し、シェルアンドチューブ式熱交換器におけるチューブ等の影響を受ける表面における局所的な腐食を加速させる。(4)蒸気発生器の構成部品に高い応力を加える。堆積物により発生する応力は、蒸気発生器の構成部品に変形や亀裂を引き起こしえる。
【0004】
このように、化学的又は機械的方法を用いて堆積物を除去することが望ましく、典型的には蒸気発生系の構成部品の表面に堆積した堆積物を除去するために定期的に清掃を行うことにより、かかる堆積物は除去される。堆積物を完全に除去する代わりに、堆積物を構造改変プロセスにより処理してもよい。スケール、堆積物、又はスラッジの改変により、その除去や流動化が容易になるという利点がある。このような改変には、柔軟化、部分溶解、孔形成、表面からの固体の分離、又はこれらの組み合わせが含まれえる。
【0005】
蒸気発生系における固形堆積物は、蒸気発生系及び補助システムの建設に典型的に用いられる材料が原因で、マグネタイト等の酸化鉄を主に含むことが多い。しかしながら、蒸気発生系の異なる部分における固形堆積物は異なる組成を持ちえる。例えば、蒸気発生器の低バンドル領域においては、固形堆積物において、アルミニウム及びケイ素の酸化物及び水和酸化物の含有量が大きくなることが多い。このような酸化物及び水和酸化物には、例えば、ベーマイト(AlOOH)及びシリカ(SiO)が含まれえる。アルミニウム及びケイ素の酸化物を含む堆積物は、化石燃料プラントのボイラーにも存在することが多い。アルミニウム及びケイ素の酸化物及び水和酸化物は、蒸気発生系の至る場所で堆積物を固める結合種として働く傾向がある。これらの種を含む堆積物は、マグネタイトや銅のような蒸気発生器の堆積物において一般的に見られる他の固体よりも、一般に溶解及び除去することがより難しい。
【0006】
様々な処理の化合物を受け取り蓄積する米国及び海外の長期貯蔵施設において見られる核廃棄物スラッジはさらに複雑であり、アルミニウム、ナトリウム、鉄、カルシウム、マンガン、ビスマス、ウラン、銀、銅、ジルコニウム、及びランタン化合物を含みえる。核廃棄物スラッジにおいて同定される代表的な化合物には、例えば、Al(OH)、ギブサイト;(NaAlSiO・(NaNO1.6・2HO、NO−カンクリナイト;AlO(OH)、ベーマイト;NaAl(CO)(OH)、ドーソナイト;Fe、ヘマタイト;CaOH(PO、ヒドロキシアパタイト;Na、クラーク石;ZrO、バデレアイト;Bi、ビスマイト;SiO、クオーツシリカ;Ni(OH)、テオフラスタイト;MnO、軟マンガン鉱;CaF、ホタル石;LaPO・2HO;AgCO及びPuOが含まれる。
【0007】
加圧水型原子炉(PWR)原子力プラントの蒸気発生器の至る場所で見られるマグネタイトや銅を豊富に含む堆積物は、鉄除去用のpH付近(〜7)の中性ヒドラジンや銅除去用のpH(〜9.5)の弱塩基性過酸化水素とともに高濃度のEDTAを含む溶剤を用いることにより効果的に除去される。Schneidmiller,D.及びStiteler,D.著「Steam Generator Chemical Cleaning Process Development」EPRI、Palo Alto、CA、EPRI NP−3009(1983)。しかしながら、そのような溶剤は、垂直方向に配置された蒸気発生器における管と管板との交点やその近くにおいて典型的に見られ、蒸気発生系の他の場所においても見ることができる酸化アルミニウムや酸化ケイ素を豊富に含む堆積物を除去する際には効果がかなり落ちる。(管板は、垂直配置された蒸気発生器の二次(沸騰)側の底面である。)
【0008】
一般に、蒸気発生系から堆積した堆積物を除去するために2つの種類の洗浄工程が用いられる。第1の種類の洗浄工程においては、高濃度の化学溶液が用いられ、典型的には約2%から約15%又はそれ以上の濃度の溶液が用いられる。Severa,J.及びBar,J.,「Handbook of Radioactive Contamination and Decontamination」、Elsevier, Amsterdam,1991。このような処理に用いられる溶質の濃度は便宜上典型的には重量%で表されるが、化学溶液の容量は実際には溶質のモル濃度の関数であることは当業者に明らかである。このような高濃度の化学洗浄方法においては、当該洗浄工程を行うために用いられる一時装置システムを準備するために多くの時間がかかり、化学物質の大量使用及び廃棄が必要になるのでかかる方法は非常に高価なものとなる。
【0009】
対照的に、第2の種類の洗浄工程は、典型的には0.1重量%(約1000ppm)程度の相対的にかなり低濃度の溶液を使用するが、1重量%(約10000ppm)又はそれより僅かに濃い溶液を使用することもある。このような低濃度の化学洗浄方法においては、洗浄対象の既存の蒸気発生系に大規模な一時装置システムを取りつける必要がないので、洗浄プロセスを短時間で実行することが可能になり、通常予定されている保守のための運転停止の間に予定されている他の行動にほとんど又は全く影響を与えないことも多い。また、このような方法においては、大量の化学物質を使用する必要がない。したがって、この種の洗浄工程は、高濃度の化学洗浄方法と比較して、より単純で安価である。低濃度の洗浄方法の幾つかの例を以下で説明する。
【0010】
Fellersの米国特許第5,779,814号(Fellers I)及び米国特許第6,017,399号(Fellers II)は、蒸気発生系の水相に、25℃で約10.61よりも大きいpKa値を有する一又は複数の揮発性アミンを加えることによって、固形堆積物を構造改変し、蒸気発生系の構成部品の表面から固形堆積物を除去する方法を開示している。このようなアミンは、アルキルアミン 、シクロアルキルアミン、第一級アミン誘導体、第二級アミン誘導体、第三級アミン誘導体から成る群より選択される。ジメチルアミン(25℃で約10.61のpKa)は、その群の中で最も望ましい要素である。25℃で約11.27のpKaを有するシクロアルキルアミンであるピロリジンもかなり望ましい要素である。本発明において言及される他の揮発性アミンは、25℃で約10.61のpKaを有するモノ−n−ブチルアミン(MBNA)から25℃で約13.40のpKaを有する1,5−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−5−エンまで多岐にわたる。使用されるアミンの濃度は、約0.01ppmから50ppmであり、望ましくは約0.5ppmから50ppmであり、最も望ましくは0.5ppmから10ppmである。この方法は、上述のアミンを、蒸気発生系のオンライン連続動作中に蒸気を発生させるために用いられる水相、及び、蒸気発生系の停止時に当該システムに存在する水相の両方に付加することを開示している。実際には、このようなアミンは、銅や鉛等の堆積物の構成物質の除去を促進するために、通常予定されている保守のための運転停止の間に、蒸気発生器に存在するレイアップ溶液に加えられる。Marks,C.著「Lead Risk Minimization Program at Palisades Generating Plant」 EPRI, Palo Alto, CA, EPRI 1016556(2008)(「Marks論文」)、Stevens,J.,et.al.著「Steam Generator Deposit Control Program Assessment at Comanche Peak」、Chemie 2002 Proceedings:International Conference Water Chemistry in Nuclear Reactors Systems:Operation Optimization and New Developments Volume 3.Avignon,France,April 22−26,2002(「Stevens」)、Fellers,B.,and J.Wooten著「Alternative Amines Improve Plant Performance at Comanche Peak Steam Electric Station」、 Presented at EPRI Nuclear Plant Performance Improvement Seminar, Charleston,South Carolina,August 3−4,1994 (「B. Fellers」)。このようなアミンは、また、特定のバンド内にpHを構造改変する方法として、数ppbから数ppmの濃度での出力動作中に二次系に加えられる。Effects of Different pH Control Agents on Pressurized Water Reactor Plant Systems and Components, EPRI, Palo Alto, CA:20071019042。
【0011】
Roothamの米国特許第5,764,717号(「Rootham I」)及びRoothamらの米国特許第5,841,826号(「Rootham II」)は、輸送担体剤及び挿入剤又はこれらの組み合わせから成る群の少なくとも一つである洗浄剤から成る洗浄水溶液の使用について開示している。上記輸送担体剤は、ジメチルアミン、エチルアミン、1,2−ジアミノエタン、ジアミノプロパン、エタノールアミン、2−メチル−2−アミノ−1−プロパノール、5−アミノペンタノール、及びメトキシプロピルアミンから成る軍より選択され、上記洗浄剤は上記溶液の0.1重量%より小さい濃度で提供される。この方法は、熱交換器導管内に堆積したスラッジ及び堆積物を除去及び流動化するために上記洗浄溶液内での加圧パルスを使用することをさらに含む。
【0012】
Roothamらの米国特許第6,740,168号(「Rootham III」)は、熱交換器内のスケール及び堆積物を構造改変及び除去する方法を開示している。当該スケール改変剤には、キレート化剤(EDTA、HEDTA、ラウリル置換EDTA、及び/又はシュウ酸、クエン酸、マレイン酸又はこれらの混合物等の有機酸等)、還元剤(アスコルビン酸、アスコルビン酸異性体、クエン酸、ヒドラジン、触媒反応ヒドラジン、又はカルボヒドラジド等)、pH調節剤(炭素数10個未満の窒素含有脂肪族化合物、例えば、トリエタノールアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、1,2−ジアミノエタン、ジアミノプロパン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、2−メチル‐2−アモノ‐1−プロパノール、5−アミノペンタノール、またはメトキシプロピルアミン、及びTriton X−100などの非イオン界面活性剤が含まれる。洗浄用水溶液中のスケール構造改変剤の作用濃度は1重量%未満であり、作用温度は100℃未満であり、作用pH値は3.5から9である。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、蒸気発生系の少なくとも1つの構成部品の表面から固形堆積物を構造改変し除去する方法を提供する。この方法においては、13.5より大きいpKa値を有する一又は複数の水酸化第4級アンモニウムが、単独で又は一又は複数の添加物と組み合わせて、活性溶質として用いられる。このような他の添加物には、キレート化剤、還元剤又は酸化剤、pH調節剤、界面活性剤、腐食防止剤、錯体形成剤、分散剤、及びこれらの組み合わせが含まれ得る。本発明によって提供される方法は、蒸気発生系が「オフライン」のとき、すなわち運転開始工程又は運転停止工程等を含む電力生成モードで動作していないときに適用されることが望ましい。
【0014】
一般に、蒸気発生系における堆積物の改変及び除去に用いられる水溶液の効力を決定する主要因は、一又は複数の活性溶質の塩基の強さである。蒸気発生系において堆積物がアルミニウム化合物及びケイ素化合物を豊富に含む領域、例えば原子力プラント内の蒸気発生器の下部では、洗浄工程において堆積した酸化物を除去するために、高pHが必要となる。したがって、洗浄溶液中の活性溶質として、可能な限り強い塩基を用いることが非常に望ましい。しかしながら、NaOH、KOH、及びCa(OH)等の不揮発性の無機塩基を導入することは望ましくない。このような不揮発性の無機塩基を導入すると、不揮発性のイオン(Na,K,Ca2+)が残されるので、蒸気発生系内に存在する孔で濃縮されると蒸気発生系の構造的な整合性に影響を与える腐食プロセスが著しく加速されてしまうためである。
【0015】
水酸化第4級アンモニウムは、公知の中で最も強い揮発性塩基である。例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)は、不揮発性の無機アルカリと同程度に強い塩基であり、水溶液中でほぼ完全に電離する。多くの酸化物特にシリカやアルミナはアルカリ媒体に溶解するので、この場合の水酸化物は、洗浄剤の揮発性及び/又は腐食性のある酸の使用の回避が有利な用途において特に、洗浄製剤において用いられる。このように、マイクロエレクトロニクスの分野では、TMAH溶液は、ポリシリコン薄膜の化学機械研磨(CMP)に続いてシリコンウェハー表面から粒子や金属不純物の汚染物を除去するために非常に効果的であることが判明した。米国特許第5,466,389号及び第5,863,344号を参照。また、Pan, T.Mら著「Novel cleaning solutions for polysilicon film post chemical mechanical polishing」,IEEE Electron Device Letters 21,338−340(2000)、及びPan, T.Mら著「One−step cleaning solution to replace the conventional RCA two−step cleaning recipe for pregate oxide cleaning」,J.Electrochemical Soc.148,G315−G320(2001)(「Pan文献」)参照。開示された洗浄手順においては、TMAHは、シリコンベースの電子部品から酸化ケイ素のウェットレイヤー及びドライレイヤーのいずれを溶解させるためにも用いられる。Thong,J.T.L.ら著「TMAH etching of silicon and the interaction of etching parameters」、 Sensors and Actuators,63,243−249(1997)参照。
【0016】
この文献は、金属基板を洗浄するためのTMAHの使用例、特にマイクロエレクトロニクスの分野におけるものを大量に含んでいる。TMAHを含有する水系剥離剤組成物は、アルミで被覆された無機基板から残留有機物を洗浄するために用いられる。この点は、米国特許第5,563,119号に開示されている。TMAH溶液は、フォトレジストエッチング加工された銅テープ用のフォトレジスト剥離剤として用いられる。この点は、米国特許第4,714,517号に開示されている。より近時には、TMAH溶液は、電子部品の洗浄においても用いられている。半導体製造において用いられるインターコネクトは、以前はアルミニウムで作られていたが、銅で代替されるようになった。アルミニウムと比べて銅には幾つかの利点がある(特に導電性が高いのでより小型で高速のプロセッサを作製できる)が、銅はアルミニウムよりもCMP後の溶液によって損傷を受けやすい。
【0017】
TMAH溶液は、銅製のインターコネクトから処理残留物を効果的に洗浄することと、インターコネクト自身への損傷の最小化を両立させることがわかっている。この点は、米国特許第6,492,308号(「’308特許」)に開示されている。銅線及び銅線を有する半導体装置の表面に形成される酸化銅は、TMAH溶液を使用して除去可能である。この点は、日本国特許公開公報第2003−155586号に開示されている。金属インターコネクト等の部品が主に銅又は銅合金である金属含有マイクロエレクトロニクス基板、及び、Al、W、TiN、Ta、TiW等の材料(銅拡散障壁材料)やシリカから成るマイクロエレクトロニクス表面もTMAH溶液を用いて洗浄されえる。この点は、米国特許第7,365,045号に開示されている。同様に、TMAH溶液は、Al又はAl/Cu合金から成るマイクロエレクトロニクス基板を洗浄するためにも用いられる。この点は、米国特許第7,419,945号に開示されている。
【0018】
電子以外の分野での洗浄溶液及び鉄表面の洗浄におけるTMAHの使用例は、TMAH含有洗浄溶液が、Cu、Cu/Ni、Cu/Ni/Cu、Mo、及びステンレス鋼等のスクリーニングペーストの残量物を金属マスクから除去するために非常に有効であることを示している。この点は、米国特許第6,277,799号(「’799特許」)に開示されている。TMAH含有溶液は、電子銃のウェーネルト電極を洗浄するために開発されている。この点は、日本特許第4087146号(「JP’146特許」)に開示されている。TMAHは、ブレード等の翼やタービンエンジンの部品、バケット、ノズル、燃焼室ライナー、及びオートクレーブのベーンの150℃から250℃での非腐食性洗浄のために用いられる塩基の群の1つである。このような洗浄用途は、下層の接着塗料又は金属基板表面を損傷することなく、表面の酸化物、ほこり、アルカリ塩、及び有機不純物をタービン部品の表面及び亀裂から完全に除去することが判明した。ここで、接着塗料は、金属組成物、Pt−Al、Al、Al−Ni、Ni−Cr−Al−Y、Fe−Cr−Al−Y、Co−Cr−Al−Y、Ni−Co−Cr−Al−Y及びこれらの混合物であり、金属基板表面は、Ni系超合金、Cr系超合金、Fe系超合金、又はステンレス鋼である。この点は、米国特許第5,685,917号(「’917特許」)に開示されている。TMAH溶液は、ガスフロー装置、薬剤製造装置、及び半導体処理装置等の用途において用いられるステンレス鋼の表面の洗浄及び不動態化のために用いられる。この点は、米国特許第5,858,118号(「’118特許」)に開示されている。TMAH系洗浄溶液は、研磨後に表面を腐食させることなくステンレス鋼の不純物を除去するために室温で用いられる。この点は、韓国特許第2008027610号(「KR’610特許」)に開示されている。
【0019】
TMAHは、通常、洗浄溶液の唯一の成分ではない。例えば、Pan文献に開示されているように、粒子状の汚染物及び金属状の汚染物を除去するための従来のCMP後の洗浄溶液の調合は、2.38重量%のTMAH、29重量%のアンモニア、100ppmのEDTA、及び水を含む。これにより、pHは12.75となる。同様に、シリカ系の銅含有表面は、0.45%のモノエタノールアミン、0.25重量%のTMAH、及び0.175重量%のアスコルビン酸を水中で混合させた混合溶液を用いて洗浄されていた。今点は、’308特許に開示されている。アスコルビン酸は、強い還元剤であるとともに錯化剤である。メタルスクリーニングマスク(例えば、ステンレス鋼マスク又はニッケル合金マスク)からスクリーニングペースト残留物を除去するための洗浄溶液は、水酸化第4級アンモニウム(TMAH又は2−ヒドロキシエチル−トリメチルアンモニウムヒドロキシド)に加えて、乳酸等のヒドロキシカルボン酸の少なくとも1つの水溶性塩、水、及び表面活性剤(0.02から0.3重量%の非イオン性、イオン性、又は両性の界面活性剤)を含む。このような洗浄溶液の一例は、’799特許に開示されているように、約12.1から12.3のpHを有し、1.7から1.8重量%の活性成分から成る。
【0020】
マグネシウム又はマグネシウム合金の物品から油を除去するための洗浄溶液は、TMAHとアルカリ酒石酸塩との混合物から成る。この点は、米国特許第2,346,562号に開示されている。TMAHと過酸化水素との混合溶液が、JP’146特許に開示されているように、電子銃の電極を洗浄するために開発されている。翼又はタービンエンジン部品へ使用することが提案されている洗浄溶液は、’917特許に開示されているように、メタノール等の有機溶剤、TMAH等の塩基、及び水を含む。処理装置内のステンレス鋼表面用に提案されている洗浄用組成物は、’118特許に開示されているように、20〜35重量%のTMAH、2〜8重量%のEDTA等のキレート剤、及び57〜78重量%の水を含む。研磨されたステンレス鋼表面用の非腐食性の洗浄溶液は、KR’610特許に開示されているように、TMAH、有機溶剤、及び水を含む。
【0021】
他の分野及び用途における水酸化第4級アンモニウムによる望ましい結果にもかかわらず、蒸気発生系内に形成される堆積物、例えば金属と半金属との化合物の様々な混合物を含む貯蔵タンク内に存在するシリコンもしくはアルミニウムの無水酸化物、水和酸化物、又は水酸化物及び複雑なスラッジ組成物等を除去又は改変する従来の方法は、それ単体でも一又は複数の他の添加物と組み合わせても水酸化第4級アンモニウムを活性溶質として用いていなかった。この金属と半金属との化合物には、例えば、無水酸化物もしくは水和酸化物及び/又は水酸化物が単体で又はこれらと硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩及び/もしくはリン酸塩とが混合されて含まれる。本発明によれば、TMAH等の水酸化第4級アンモニウムを含有する洗浄溶液は、蒸気発生系における堆積汚染物の効果的な除去を促進する。この洗浄溶液は、単体で又は添加物とともに用いられる。この添加物には、金属表面及び除去されるべき汚染物の性質に応じて、例えば、有機酸、錯化剤、又はEDTA、クエン酸、シュウ酸、マレイン酸等のキレート化剤、ホウ酸もしくは炭酸アンモニウム等のpH調節剤もしくは安定化剤、腐食防止剤、界面活性剤、ヒドラジン又はアスコルビン酸等の還元剤、過酸化水素等の酸化剤、分散剤等が含まれる。これらの洗浄溶液は、当該溶液が用いられる蒸気発生系内の金属表面への損傷度合いを変えることなく又は減少すらさせて、改善された洗浄を提供することができる。
【0022】
アミンは一般に通常の教科書において1つの孤立電子対を有する窒素原子と定義され、置換アンモニア分子とみなすことができる。一般式は、RNH(3−x)となる。このアミンの定義は、概して、第一級アミン、第二級アミン、及び第三級アミンを含むものとして当業者に受け入れられている。第三級アミンの基本構成は、以下の構造式(1)に示される。図中に示されている孤立電子対は、アミンの化学的挙動を決定する主要な要因となる。
【化1】

【0023】
対照的に、水酸化第4級アンモニウムは、アミンにおいて見られるような孤立電子対を有しておらず、その代わりに、単結合で4つの炭素原子と結合しているアンモニア性窒素原子によって特徴付けられる。水酸化第4級アンモニウムは孤立電子対を含まないので、その化学的挙動はアミンと大きく異なる。水酸化第4級アンモニウムは、求核性ではなく、水の加水分解に加わらない。水酸化第4級アンモニウムの基本構成は、以下の構造式(2)に示される。
【化2】

【0024】
水酸化第4級アンモニウムは、一般に、強アルカリ性であり、少なくとも約13.5のpKa値を有する。望ましい水酸化第4級アンモニウムは、TMAHである。後述する適切な条件下で用いることにより、開示された水酸化第4級アンモニウム洗浄溶液は、炭素鋼、低合金鋼、及びニッケル合金(例えばインコネル600)等の蒸気発生器の典型的な構造合金に対して低い腐食速度を示す。実際に、以下に提示する実施例に示されているように、開示方法は、 Rootham IIIに開示されている希釈化洗浄やFellers I及びFellers IIに示されているジメチルアミン溶液等の従来の洗浄剤と同等の腐食結果を示す一方で、操作者の安全性を改善している。
【0025】
TMAHは強塩基であるため、その水溶液が肌、目、粘液部分へ接触することは避けなければならない。このような腐食性材料の取り扱いに共通の配慮を除けば、TMAHは、蒸気発生器において用いられるジメチルアミン(DMA)等の他のアミンや水酸化ナトリウム等の強い無機塩基と比較して、特定の高毒性を示さない。TMAHは、約130℃から135℃まで、水溶液中で熱的に安定である。この温度付近でのTMAHの熱分解による主生成物は、トリメチルアミンとアンモニアである。メタノールは、微量の副生成物として形成され、その濃度は高温において大きくなりえる。このように、本発明において、熱分解は洗浄工程において一般に問題とならない。望ましい処理温度は、約100℃を超えないものとなる。上述した分解生成物が少量形成されたとしても、不都合な残留物を残留させることはなく、安全性に関する重大な問題は起こさない。
【0026】
本発明の実施に用いられ得る他の水酸化第4級アンモニウムには、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等の4つのアルキル基が全て同じ水酸化テトラアルキルアンモニウム、これら以外の4つのアルキル基が全て同じではない水酸化ジデシルジメチルアンモニウム等の水酸化テトラアルキルアンモニウム、もしくは水酸化コリン、又は複数の水酸化第4級アンモニウムの混合物を含む。
【0027】
本発明における洗浄溶液の他の溶質には、のキレート化剤、例えば、EDTA、HEDTA、ラウリル置換EDTA、及び/又は、クエン酸、シュウ酸、マレイン酸又はこれらの混合物等の有機酸組成物、ヒドラジン又はアスコルビン酸等の還元剤、過酸化水素等の酸化剤、CCI−801[アルキルチオポリオミノアミド]等の腐食防止剤、ホウ酸もしくは炭酸アンモニウム等のpH調節剤もしくは安定化剤、Triton X−100(CAS登録番号:9002−93−1、CA索引名:Poly(oxy−1,2−ethanediyl),α−[4−(1,1,3,3−tetramethylbutyl)phenyl]−ω−hydroxy)、又はこれら以外の添加物、例えば、錯体形成剤や分散剤、が含まれる。
【0028】
本発明において、洗浄溶液中の水酸化第4級アンモニウムの濃度は、0.0001重量%から15重量%の間である。高濃度の第4級アミンは、長期間にわたる運転停止を行い、大量の化学物質を扱うことができる機器を用いる洗浄工程において用いられ得る。好ましくは、水酸化第4級アンモニウムの濃度は、0.0001重量%から5重量%の間であり、運転停止時間を短くし、大量の化学物質を取り扱って廃棄する必要性を削減するために、比較的希釈化された洗浄溶液を用いる洗浄工程において用いられる。
【0029】
洗浄プロセスにおける処理温度は、洗浄溶液中で用いられる水酸化第4級アンモニウムの熱分解温度よりも低くして(TMAHの場合約135℃)、熱分解を抑制又は防止すべきである。この温度は従来の蒸気発生器における通常の処理パラメータよりも低いので、この処理プロセスは、運転停止モードにあり部分的に又は完全に通常の熱伝達液が抜き取られた蒸気発生器において用いられる。スケール改変及び除去を加速させるために、洗浄溶液の温度は外気よりも上昇させることが多く、好ましくは60℃から95℃の間、最も好ましくは80℃から90℃の間に維持される。処理溶液の循環中に、流動励起混合、不活性ガス噴霧、脈動圧、もしくはスケール、堆積物、及びスラッジを除去及び流動化する前記以外の方法、又はこれらの方法の2つ以上の組み合わせによって、洗浄を促進することができる。
【0030】
処理溶液の室温におけるpHは、一般に7より高い値に維持され、好ましくは9より高い値に維持される。一般に、9より大きいpH値は、アルミニウム及びケイ素の酸化物及び水和酸化物の除去を促進するために望ましい。しかしながら、DMA、アンモニア等のpH調節剤は、有機酸、錯化剤、及び/又はキレート化剤を含む洗浄溶液のpHを調整してpH値を下げるために一般に用いられている。このように、従来の洗浄溶液と比較して、pH5程度の低pH値であっても、堆積物種の除去を促進するために水酸化第4級アンモニウムをpH調節剤として使用できることは、当業者にとって明らかである。
【0031】
スケール、堆積物、又はスラッジがアルミニウム、ケイ素又はこれらの両方の高濃度の無水酸化物もしくは水和酸化物を含む場合には、洗浄溶液中で非常に強い塩基を用いることが有効であるため、水酸化第4級アンモニウムを含みこれらの堆積物種を標的とする洗浄溶液は、蒸気発生系の二次回路の他の部分よりも蒸気発生器に適用される際に、最も有用である。蒸気発生器において、このような洗浄工程が最も有効な場所は、垂直配置された蒸気発生器の低いバンドル領域における管と管板との交点やその近くである。蒸気発生器やその部品の全体が、本発明における洗浄溶液と接触する。
【0032】
必要な化学物質の量を減らすために、標的となる化合物、例えば、蒸気発生器に堆積するアルミニウム及びケイ素の無水酸化物もしくは水和酸化物の量が推定され、標的とする化合物の合計量に対して約1分子から100分子の間、好ましくは2分子から20分子の間だけ超過するように、加えられる水酸化第4級アンモニウムの量が調整される。除去対象の堆積物が、アルミニウム及びケイ素の無水酸化物もしくは水和酸化物 マグネタイト等の鉄の無水酸化物もしくは水和酸化物を含む場合には、EDTA等のキレート化剤もしくはヒドラジン等の還元剤又はその両方の添加が有効である。上述のように、核廃棄物の堆積物又はスラッジは、例えば、金属と半金属との化合物の様々な混合物を含む化合物の複雑な混合物を含む。この金属と半金属との化合物には、無水酸化物もしくは水和酸化物及び/又は水酸化物が単体で又はこれらと硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩及び/もしくはリン酸塩とが混合されて含まれている。核廃棄物スラッジの分析により得られる代表的な種には、例えば、Al(OH)、ギブサイト;(NaAlSiO・(NaNO1.6・2HO、NO−カンクリナイト;AlO(OH)、ベーマイト;NaAl(CO)(OH)、ドーソナイト;Fe、ヘマタイト;CaOH(PO、ヒドロキシアパタイト;Na、クラーク石;ZrO、バデレアイト;Bi、ビスマイト;SiO、クオーツシリカ;Ni(OH)、テオフラスタイト;MnO、軟マンガン鉱;CaF、ホタル石;LaPO・2HO;AgCO及びPuOが含まれる。当業者に明らかなように、洗浄溶液の組成及び水酸化第4級アンモニウムと他の含有種との相対濃度は、改変及び除去される核廃棄物スラッジ又はこれ以外のタンクスラッジ内にある標的となる化合物の具体的な組成及び量に対処するために調整される。実際には、導管又は洗浄対象の部品内の条件の変化及び/又は処理期間中における堆積物の組成及び/又は構成の変化に対応するために、洗浄溶液の組成は、堆積物の性質に応じて処理期間中に変更され得る。
【0033】
蒸気発生器内に存在する対象堆積汚染物に対応するために用いられる洗浄溶液中の活性溶質、特に水酸化第4級アンモニウムの割合を増加させるために、本発明の洗浄溶液の導入は、堆積物、特に蒸気発生器の下側部分に位置する堆積物のマグネタイト部分の大部分を除去するために、少なくとも1つのキレート化剤、例えばEDTA、HEDTA、ラウリル置換EDTA、及び/又は、クエン酸、シュウ酸、マレイン酸又はこれらの混合物等の有機酸を主成分として含む洗浄溶液の導入及びその後の排出に続いて行われることが望ましい鉄種をより効果的に除去するために、ヒドラジン又はアスコルビン酸等の還元剤及びpH調節剤をキレート化剤溶液に加えてもよい。上述のように、蒸気発生系に存在する堆積物は、これらの系の典型的な構造材料として用いられている酸化鉄を主成分として含むことが多い。このように、本発明の洗浄溶液の導入前に酸化鉄を除去することにより、標的とする堆積汚染物に到達しやすくなる。
【0034】
標的とする化合物の総堆積量が比較的高い場合には、所望のモル比を実現するために十分な量の水酸化第4級アンモニウムを有する洗浄溶液を導入することは、実用的ではない。かかる場合には、連続的に使用される洗浄溶液によって所望量の水酸化第4級アンモニウムを導入することができる。これにより、加えられる洗浄溶液において用いられる作用濃度を低く保ったまま、標的の化合物に対する目標モル比を実現することができる。例えば、1対2のモル比(サブモル比)を得るために十分な作用濃度の洗浄溶液を連続的に加えることにより、2対1のモル比を得るための作用濃度を有する洗浄溶液を一度に加えた場合と同等の露出が得られる。等しい濃度の処理溶液を用いる例を説明したが、本方法は、そのような態様に限定されるものではなく、作用濃度が上昇、減少、又は上昇、減少、及び/又は一定の濃度のより複雑なプロファイルを示す処理溶液を用いることができる。洗浄溶液の作用濃度は、水酸化第4級アンモニウムの付加又は水の付加により初期濃度が希釈化されることによっても、処理期間中に変更されえる。
【0035】
本発明の洗浄方法は、核施設又は非核施設の蒸気発生系から生じるスケール、堆積物、スラッジの改変又は除去のために用いられ得る。
【0036】
本発明の目的は、蒸気発生系の構成部品からのスケールの軟化及び部分溶解、孔形成、スケール、堆積物又はスラッジの分離、又はこれらの組み合わせのための有効な方法、特に、かかるスケール、堆積物、又はスラッジが無水酸化物もしくは水和酸化物及び/又は水酸化物が単体で又はこれらと硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩及び/もしくはリン酸塩とが混合されて含まれている金属と半金族との化合物の混合物を標的種として含んでいる場合に有効な方法を提供することにある。本発明の他の目的は、運転停止時間を短くし、大量の化学物質を取り扱って廃棄する必要性を削減するために、比較的低濃度の洗浄剤を含む洗浄水溶液を用いて蒸気発生器を洗浄するよりコスト効率のよい方法を提供することにある。
【0037】
本発明の他の目的は、核汚染物を含む導管又はタンクからのスケール、堆積物又はスラッジの改変、部分溶解、又は除去を行うための有効な方法、特に、かかるスケール、堆積物、又はスラッジが無水酸化物もしくは水和酸化物及び/又は水酸化物が単体で又はこれらと硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩及び/もしくはリン酸塩とが混合されて含まれている金属と半金族との化合物の混合物を含んでいる場合に有効な方法を提供することにある。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の望ましい実施形態は、蒸気発生器の二次側の下部領域から堆積物を構造改変又は除去する際に特に有効である。本実施形態は、熱交換器の運転を停止させる工程及び蒸気発生器から熱伝達液の少なくとも一部を抜き取る工程で開始する複数の工程を備える。蒸気発生器に対しては、次に、洗浄溶液の導入、浸漬、及び排出が行われる。循環又はガス噴霧は、化学浸漬の際に混合を促進するために実行され得る。第1の洗浄溶液又は第1の複数の洗浄溶液は、鉄種の除去を最適化するために、その主な洗浄剤として、EDTA等のキレート化剤とともに、ヒドラジン等の還元剤及びpH調節剤を含有する。次に、スケール構造改変剤を含む洗浄水溶液が熱交換器に導入される。このスケール構造改変剤は、0.0001重量%から15重量%の間の濃度のTMAH等の水酸化第4級アンモニウム、及び、EDTA等のキレート化剤を含む。他の添加物、例えばヒドラジンやアスコルビン酸を用いてもよい。スケール構造改変剤溶液内におけるTMAH等の水酸化第4級アンモニウムの分子量は、アルミニウム及びケイ素の無水酸化物もしくは水和酸化物の総推定量の2倍から20倍とする。スケール構造改変剤溶液の循環は、約60℃から95℃の間、最も望ましくは約80℃から90℃の間で行われる。
【0039】
以下で説明する多くの例示実施形態において、TMAHを含む洗浄溶液の効果は、Fellers等に開示されたDMAを含有する従来の洗浄溶液と比較される。以下で説明するように、水酸化第4級アンモニウムは、従来の洗浄溶液で用いられていたアミンとは化学的に及び機能的に異なる。しかしながら、このようなアミンの効能との比較は、本発明の洗浄溶液の有効性を評価するための合理的な評価尺度を提供する。
【0040】
同程度の濃度の水酸化第4級アンモニウム、DMA,及び他のアミンが以下の例において一般的に検討される。しかしながら、実際には、従来のアミンの濃度は、可燃性やその他の危険性のために、以下の例で説明する濃度よりもはるかに低い濃度に制限される。例えば、Fellersは、DMAを10ppb(0.000001重量%)から50ppm(0.005重量%)の範囲の濃度で含む洗浄溶液を開示している。対照的に、本発明の例示実施形態で用いられるTMAHは、15重量%以上の濃度でも安全に使用できる。このように、以下の例示実施形態においては、比較は概して同等の濃度で行われるが、DMA等の従来のアミンの使用は一般に非常に低い範囲に制限されるため、水酸化第4級アンモニウムの使用により実現される堆積物の標的種の除去の改善は、以下で説明されるよりも何桁か大きい。
【実施例】
【0041】
実施例1
本発明の例示実施形態は、0.06gのベーマイトと0.06gのけい砂との混合物(B+S)、又は、0.06gのベーマイトと0.06gのけい砂と0.68gのマグネタイトとの混合物(B+S+M)を用いて、実験室実験により評価された。これらの混合物は、脱イオン水において、濃度381ppm(0.0381%)のTMAH水溶液40mLとともに、ホウ酸で室温pHを11.0に調節して、80℃で1日間加熱された。
【0042】
Fellersに開示されているDMA浸漬等の従来の洗浄技術と比較するために、同様の混合物が、脱イオン水中の濃度356ppmのジメチルアミン(DMA)40mLとともに、ホウ酸で室温pHを11.0に調節して、同様の条件下で評価された。FellersI及びFellersIIに開示されているDMA浸漬は、Marks論文で議論されているように、銅及び鉛の除去を目的としている。しかしながら、このような洗浄溶液との比較は、アルミニウム及びケイ素の無水酸化物もしくは水和酸化物等の他の堆積汚染物を除去する本発明の洗浄溶液の有効性を評価するための合理的な評価基準になると考えられた。
【0043】
1日経過後、溶解したAl、Si、及びFeを分析するために、当該溶液を抜き取った。元の未処理溶液を用いて、さらに2日間、残留固形物に関する実験を継続した。実験中に溶解した各酸化物の割合に加えて、塩基(TMAH又はDMA)に溶解した金属のモル比も算出した。これらの試験の結果を表1に示す。
【0044】
この結果によれば、ベーマイトが最も溶解しやすい成分であった。実験の2つの段階で得られた溶液のモル比の計算によって、溶解Alの塩基に対する比は、DMA溶液については0.06〜0.07であり、TMAH溶液については0.24〜0.29であった。第2段階の2日間の工程は、第1段階の1日間の工程と同程度の有効性を有する。
【表1】

【0045】
実施例2
本発明の例示実施形態は、0.06gのベーマイトと0.06gのけい砂との混合物(B+S)、又は、0.06gのベーマイトと0.06gのけい砂と0.68gのマグネタイトとの混合物(B+S+M)を用いて、実験室実験により評価された。これらの混合物を、脱イオン水中の濃度1500ppm(0.15%)のTMAH水溶液40mlとともに、pH調節剤を用いずに、ホウ酸で室温pHを11.0に調節し、又は、ホウ酸で室温pHを9.0に調節し、80℃で1日間加熱された。
【0046】
類似の混合物を、脱イオン水中の濃度84ppm(0.0084%)のジメチルアミン(DMA)水溶液40mlとともに、pH調節剤を用いずに、ホウ酸で室温pHを11.0に調節し、又は、ホウ酸で室温pHを9.0に調節し、同様の条件下で加熱した。全ての溶液に対して、各実験の最初に、15分間窒素を噴霧した。
【0047】
1日(24時間)経過後、溶解したAl、Si、及びFeを分析するために、当該溶液を抜き取った。元の未処理溶液を用いて、さらに2日間、残留固形物に関する実験を継続した。実験中に溶解した各酸化物の割合に加えて、塩基(TMAH又はDMA)に溶解した金属のモル比も算出した。(pH11又はpH9に調整された溶液においてはpH調整時の部分的な中和反応によって塩基の有効な初期量が大きく減少してしまうため、これらの計算は、未調整の溶液に限って行った。)したがって、pH調整を行った溶解金属/導入塩基のモル比はpHの測定値に基づいて推定し。これらの試験の結果を表2に示す。

【表2】

【0048】
実験の2つの段階で得られた未調整溶液のモル比の計算によって、溶解金属(Al、Si、及びFe)の塩基に対する比は、DMA溶液については0.03〜0.06であり、TMAH溶液については0.09〜0.10であった。pH調整された溶液についてのモル比は、TMAHを含む溶液について一貫して2倍から8倍高かった。実施例1において示された試験において観察されたとおり、TMAH溶液は、ベーマイトの溶解に特に有効であった。例えば、利用可能なベーマイトの約36%の溶解が未調整TMAH溶液において観察された。一方、未調整DMA溶液においては約1.7%であった。
【0049】
実施例3
本発明の例示実施形態は、0.06gのベーマイトと0.06gのけい砂との混合物(B+S)、又は、0.06gのベーマイトと0.06gのけい砂と0.68gのマグネタイトとの混合物(B+S+M)を用いて、実験室実験により評価された。これらの混合物を、10.8の室温pHを有する脱イオン水中の濃度46ppm(0.046%)のTMAH水溶液40mlとともに、80℃で1日間加熱した。
【0050】
これと並行して、類似の混合物を、10.8の室温pHを有する脱イオン水中の濃度70ppm(0.007%)のジメチルアミン(DMA)水溶液40mlとともに、類似の条件下で加熱した。
【0051】
1日経過後、溶解したAl、Si、及びFeを分析するために、当該溶液を抜き取った。元の未処理溶液を用いて、さらに2日間、残留固形物に関する実験を継続した。実験中に溶解した各酸化物の割合に加えて、塩基(TMAH又はDMA)に溶解した金属のモル比も算出した。これらの試験の結果を表3に示す。
【表3】

【0052】
この結果によれば、ベーマイトが最も溶解しやすい成分であった。実験の2つの段階で得られた溶液のモル比の計算によって、溶解Alの塩基に対する比は、DMA溶液については0.04〜0.10であり、TMAH溶液については0.05〜0.27であった。
【0053】
実施例1において説明され表1にまとめられた類似の試験において観察された溶解の程度(試験期間においてベーマイトは15%まで溶解)は、実施例3において説明され表3にまとめられた酸化物の溶解の程度(試験期間においてベーマイトの溶解は0.7%より少ない)よりも高かった点に留意されたい。この観察結果は、実施例1で評価された溶液の濃度が高いことだけでなく、実施例3と比較して溶液のpHが高い(当初存在していた塩基の濃度が高いことに関係する)ことにもよる。いずれの例においても、モル比の計算により、TMAHはDMAより有効であることが確認された。しかしながら、TMAHの優れた性質は実施例1においてより明確になっている。
【0054】
実施例4
本発明の例示実施形態は、0.06gのベーマイトと0.06gのけい砂との混合物(B+S)、又は、0.06gのベーマイトと0.06gのけい砂と0.68gのマグネタイトとの混合物(B+S+M)を用いて、実験室実験により評価された。これらの混合物を、脱イオン水中における濃度50.8g/L(5.08%)のTMAH溶液と濃度10g・L−1(1%)のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)との混合溶液40mlとともに、80℃で1日間加熱した。
【0055】
これと並行して、類似の混合物を、脱イオン水中における濃度17.8g/L(1.78%)のジメチルアミン(DMA)溶液と濃度10g・L−1(1%)のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)との混合溶液40mlとともに、80℃で1日間加熱した。
【0056】
1日(1時間)経過後、溶解したAl、Si、及びFeを分析するために、当該溶液を抜き取った。実験中に溶解した各酸化物の割合に加えて、導入された塩基(TMAH又はDMA)に溶解した金属の量のモル比も算出した。これらの試験の結果を表4に示す。
【表4】

【0057】
この結果によれば、ベーマイトが最も溶解しやすい成分であった。このモル比の計算によって、溶解金属(大部分は溶解Al)の導入塩基に対する比は、DMA溶液については0.02〜0.04であり、TMAH溶液については0.15〜0.16であった。実施例1から3において説明された低濃度の洗浄溶液の場合には、モル比の計算によってTMAHがDMAよりも4倍から7倍有効であることが示された。一般に、TMAHの優れた性質は実施例4のより濃度が高い溶液によってさらに明確になっている。
【0058】
実施例5
本発明の他の例示実施形態は、けい砂(S)の試料、ベーマイトの試料(B)、又はこれらのけい砂とベーマイトとの混合物(B+S)を用いて、実験室実験により評価された。各資料及び混合物を、濃度2.5%のTMAH溶液40mlとともに、80℃で1日間加熱した。これと並行して、類似の混合物を、脱イオン水において、濃度10%のジメチルアミン(DMA)水溶液40mlとともに、類似の条件下で加熱した。1日経過後、溶解したSiを分析するために、当該溶液を抜き取った。これらの試験の結果を表5に示す。
【表5】

【0059】
この結果によって、TMAHの重量濃度は4倍も低く、TMAHのモル濃度は8倍も低いにもかかわらず、2.5%TMAH溶液における溶解Siの濃度は、10%DMA溶液における濃度よりも2倍から16倍だけ高いことが示された。2つの溶液におけるSi溶解の違いは、ベーマイトも存在するときに特に大きかった。これにより、残留ベーマイトがSiの溶解を抑制することが示された。ベーマイトの存在によってSiの溶解が抑制される程度は、DMA溶液の試験においてTMAH溶液を用いた試験の場合よりも非常に高かった。このように、TMAHの優れた性質はベーマイトが存在する場合により明確になっている。
【0060】
表5に示された溶液の類似の試験は、0.03gのベーマイトの試料のみを用いて行われた。この結果によって、TMAHの重量濃度は4倍も低く、TMAHのモル濃度は8倍も低いにもかかわらず、Alの溶解は13倍だけ高いことが示された。
【0061】
実施例6
本発明の他の実施例は、米国のPWR原子力プラントにおいて蒸気発生器の二次側における管を取り囲む堆積物から除去された固形物から成る実際のPWR SG堆積物(「カラー試料」という。)を用いて、実験室実験により評価された。具体的には、0.12gのカラー試料又は0.12gのカラー試料と0.68gのマグネタイトとの混合物を、脱イオン水において、濃度5%のTMAH溶液単体40ml又は5%のTMAH溶液と1%のEDTA溶液との混合溶液40mlとともに、80℃で1日間加熱した。これと並行して、類似の試料を、脱イオン水において、濃度2%のジメチルアミン(DMA)水溶液単体40ml又は2%のTMAH溶液と1%のEDTA溶液との混合溶液40mlとともに類似の条件下で加熱した。1日経過後、溶解したAl、Si、及びFeを分析するために、当該溶液を抜き取った。元の未処理溶液を用いて、さらに2日間、残留固形物に関する実験を継続した。2段階の試験期間に溶解した固形物(Al、Si、又はFe)の累積比率を表6に示す。
【表6】

【0062】
実施例1から実施例5において説明された人工混合物を用いた試験と同じく、上記の結果によって、実際のプラント堆積物においてベーマイトが最も溶解しやすいことが分かった。また、TMAHを含む溶液の性質は、Al種及びSi種に関して、DMAを含む溶液よりも優れていることが分かった。TMAH及びDMAは、実施例6において評価され表6にまとめられた溶液中に同等のモル濃度で存在していた。
【0063】
実施例7
本発明の他の実施例は、蒸気発生器の通常の構成材料であるC1018炭素鋼及びインコネル600のクーポンを用いて、実験室実験により評価された。これらのクーポンを、脱イオン水中において、濃度5%のTMAH溶液と濃度1%のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)との混合溶液40mlに80℃で1週間晒した。これと並行して、類似のクーポンを、脱イオン水において、濃度2%のジメチルアミン(DMA)水溶液と濃度1%のEDTAとの混合溶液40mlとともに、類似の条件下で加熱した。C1018クーポンの寸法は、0.9x0.85x0.28cmとした。また、インコネル600クーポンの寸法は、1.25x1.2x0.3cmとした。1週間経過後、当該溶液を抜き取り、C1018クーポン及びインコネル600クーポンの腐食を評価するために、溶解したFe、Mn、Ni及びCrを分析した。当該4つの金属の溶解濃度を、当該1週間の期間におけるクーポンの腐食速度を決定するために、集約して使用した。元の未処理溶液を用いて、さらに3週間、当該クーポンに関する実験を継続した。また、続いて、最後に4週間、同じく元の未処理溶液を用いて当該クーポンに関する実験を行った。これらの試験の結果を表7に示す。
【表7】

【0064】
これらの2つの洗浄溶液を用いて行った実験結果によって、腐食防止剤を使用しなかったにもかかわらず、腐食の程度は極めて小さいことがわかった。C1018炭素鋼の80℃における腐食の程度は、TMAH溶液において、DMA溶液よりも遅かった。ただし、両溶液における腐食速度は、従来の高濃度蒸気発生器化学洗浄工程(Fellers II)を用いた際に予想されるピーク腐食速度よりも約5桁から7桁小さく、実質的に無視できるほどであった。参考までに、炭素鋼蒸気発生器の耐用年数内におけるその内部の腐食許容度は、典型的には、700μmから3000μmの範囲である。
【0065】
実施例8
C1018炭素鋼を用いて、本発明の他の例示実施形態を実験室実験において評価した。これらのクーポンを、脱イオン水中において、濃度5%のTMAH溶液と濃度のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)との混合溶液40mlに80℃で1週間晒した。これと並行して、6つの類似の混合物を、脱イオン水において、濃度2%のジメチルアミン(DMA)水溶液と濃度1重量%のEDTAとの混合溶液40mlとともに、類似の条件下で加熱した。また、C1018クーポンの寸法は、0.9x0.85x0.28cmとした。1週間経過後、溶解したAl、Si、及びFeを分析するために、当該溶液を抜き取った。当該2つの金属の溶解濃度を、当該1週間の期間におけるクーポンの腐食速度を決定するために、集約して使用した。元の未処理溶液を用いて、実験をさらに3週間継続した。これらの試験の結果を表8に示す。
【表8】

【0066】
最初の1週間の試験においては、DMA溶液において実験された6つの試料については、よく一致した結果が得られた。この腐食速度は、0.992±0.084 μm・year−1程度であった。第2の試験期間において、DMA溶液に晒された6つの試料の溶解速度は、よく一致していた。この腐食速度は、1.001±0.052μm・year−1程度であった。表8からは、TMAH溶液で観察された溶解速度が、第1週においては 0.290±0.045μm・year−1、続く3週間においては0.043±0.018μm・year−1であり、DMA溶液で観察される対応する溶解速度よりも非常に遅いことも分かった。このことは、実施例7において説明し表7にまとめた実験結果とも一致する。また、TMAH溶液に晒した場合には、第2の実験期間中に観察された溶解速度が大きく減少していたが、DMA溶液に晒した場合にはこのような現象は観察されなかった。このことは、TMAHの優れた耐食性は、長期間の使用においてより発揮されることを示す。上述のとおり、DMA溶液及びTMAH溶液のいずれを用いた試験においても、腐食防止剤を使用しなかったにもかかわらず、観察された腐食の程度は極めて小さかった。
【0067】
実施例9
TMAHの鉄に対する腐食性が熱劣化する可能性を評価するために、C1018炭素鋼クーポンを、5重量%TMAH+1重量%EDTAの3つの溶液中で試験した。この3つの溶液のうち1つに対しては、事前に加熱を行わなかった。2番目の溶液は、試験前に、130±10℃の温度に2日間さらされた。予熱期間に、溶液を加熱するための20mLのパールボンブをほぼ完全に満たされており、溶液上部には蒸気のための空間はほとんどなかった。3番目の溶液も同様に130 ±10℃の温度で2日間予熱されたが、20mLのパールボンブのほぼ半分の分量しか使用せず、パールボンブ内は10mL分の溶液と10mL分の空気となっていた。この3つのTMAH溶液は、C1018炭素鋼クーポンの試験において、40mLの試験溶液内で用いられた。C1018クーポンの寸法は、0.9x0.85x0.28cmとした。
【0068】
1週間経過後、溶解したAl、Si、及びFeを分析するために、当該溶液を抜き取った。当該2つの金属の溶解濃度を、当該1週間の期間におけるクーポンの腐食速度を決定するために、集約して使用した。この3つのTMAH溶液を用いた試験の結果を表9に示す。
【表9】

【0069】
表9の結果により、相当量の体積を有する空気の存在下でTMAH溶液を高温で予熱しても、TMAH溶液の80℃におけるC1018鋼に対する腐食性にはほとんど影響がなかった。一方、少量の空気が存在する場合の予熱によって、腐食性が増した。この腐食性の増加は、曝気条件下で生成された生成物よりも、熱分解生成物の形成によるものと思われる。また、空気が存在しない場合の予熱によって、溶液のpHが約13.0から約13.4に僅かに上昇した。比較的高濃度のTMAH及びEDTAを含む溶液を腐食防止剤無しで用いたにもかかわらず、表9にまとめて示した観察された炭素鋼の腐食速度は、極めて小さいものであった。
【0070】
実施例10
C1018炭素鋼及びインコネル600を用いて、本発明の他の例示実施形態を実験室実験において評価した。具体的には、未加工のC1018炭素鋼クーポン、予め酸化されたC1018炭素鋼クーポン、未加工のインコネル600管接合部、及び予め酸化されたインコネル600管接合部について、光学顕微鏡及び走査電子顕微鏡(SEM)を用いて特徴を調べ、次に、脱イオン水中において1.5g/L(1.5%)のTMAH40mLとともに、又は、脱イオン水中において0.6g/L(0.6%)のDMA40mLとともに、これらの試料を80℃で48時間加熱した。3番目の予め酸化されたインコネル600管接合部について、脱イオン水中で、5%TMAH溶液+1%EDTA溶液中で、同様の条件下で試験を行った。
【0071】
試験の終わりに、各試料を濯ぎ、乾燥させた後、光学顕微鏡及び走査電子顕微鏡(SEM)を用いて特徴を再度観察した。溶解したFe、Mn、Ni、及びCrの濃度を決定するために、使用した溶液をICP−AES法により分析した。これらの濃度を用い、溶解金属濃度に基づいて同等の厚みの減少や腐食速度を計算した。これらの使用溶液の化学的分析の結果を表10に示す。
【表10】

【0072】
これらの結果から、全ての場合において、作用中の一般的な腐食の程度は無視できるものであることが示された。希釈化されたTMAH溶液における腐食の程度は、事前に酸化されたインコネル600の場合に大きくなることが確認されたのみで、その他は希釈化されたDMA溶液における腐食の程度と同程度であった。非常に高濃度のTMAHを含む溶液における腐食の程度の測定は、事前に酸化されたインコネル600の場合についてのみ実施した。この溶液における溶解の程度は、希釈化された溶液における溶解の程度よりも高かったが、それでも48時間の試験期間中における腐食は0.1μmよりも少なかった。
【0073】
厚みの減少については、未加工の試料の露出した金属表面が、炭素鋼の場合には7.87g・cm−3の密度を有し、インコネル600の場合には8.47g・cm−3の密度を有し、この金属表面に均一に侵食が起こると仮定し、また、事前に酸化させた試料の露出した酸化物表面が、炭素鋼の場合には5.17g・cm−3(マグネタイト)の密度を有し、インコネル600の場合には5.21g・cm−3 (Cr)の密度を有し、この酸化物表面に均一に侵食が起こると仮定して計算した。
【0074】
溶液の分析に加えて、試料重量の変化も測定し、厚みの減少の計算に使用した。しかしながら、測定される重量の減少は1mg以下であるため、重量の減少に基づく結果は、半定量分析としか考えることができない。この重量の減少に基づく半定量分析の結果は、化学分析に基づく結果と概して同程度であったが、化学分析の方がより正確で信頼性が高いと考えられる。
【0075】
電子顕微鏡観察では、被覆されていない(未加工の)表面又は事前に酸化された表面の外観には、露出による変化は観察されなかった。
【0076】
実施例11
実施例1から実施例8の結果から、洗浄溶液中での堆積物の構成物質(けい砂+ベーマイト又はけい砂+ベーマイ+マグネタイト)の溶解の程度の測定において、TMAH溶液がDMA溶液よりも有効であり、特にベーマイトの溶解に関してTMAHの方が有効であることが分かった。TMAHの有効性は、TMAHが強塩基であり、その溶液がDMAよりも強い塩基性を示すことに起因する。この仮定を検証するために、TMAH溶液を同様に強塩基性の水酸化コリン(CholOH)溶液と比較した。0.06gのけい砂と0.06gのベーマイトとの混合物、又は、0.06gのけい砂と0.06gのベーマイトと0.68gのマグネタイトとの混合物を、TMAH又はCholOHの複数の溶液(40mL)に、80℃で48時間さらした。各実験は、2度ずつ行われた。使用されたテスト溶液を用いて溶解したSi、Al、及びFeの濃度を決定し、テスト溶液中の対応する酸化物の割合を計算した。これらの試験の結果を表11に示す。
【表11】

【0077】
表11の結果から、TMAH及びCholOHは、堆積物の構成物質の溶解について同等の有効性を有することが分かった。これにより、蒸気発生器の洗浄剤としてのTMAHの有効性は、その特定の化学構造の影響ではなく、高塩基解離定数の帰結であることが示された。このように、上記で特定及び示唆された他の水酸化第4級アンモニウムも、本明細書に開示された本発明と同等に関連し、TMAH及びCholOHを含む例示実施形態は、本発明の範囲や適用範囲を制限するものと解されるできではない。表11にまとめられた結果によって、評価した溶液内では、ベーマイトはシリカやマグネタイトよりも極めて溶けやすいことが確認できた。このことは、前出の例と整合的である。塩基(TMAH又はCholOH)の濃度が0.15‐0.2重量%から5重量%に上昇したときに、ベーマイトの溶解の程度は、約1.7倍だけ増加した。
【0078】
上記で引用した文献の各々は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機化合物の混合物を含む堆積物を構造改変し除去する方法であって、
a)作用濃度の水酸化第4級アンモニウムを含む洗浄水溶液を形成する工程と、
b)作用時間の間、前記堆積物を前記洗浄水溶液と接触させる工程と、
c)前記作用時間の間、前記洗浄水溶液を処理温度範囲内に維持する工程と、
d)前記作用時間の後、前記洗浄用水溶液を実質的に全て除去する工程と、
を順に備える方法。
【請求項2】
c)前記作用時間の間、前記洗浄水溶液を処理温度範囲内に維持する工程を備える、
堆積物を構造改変し除去する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記洗浄水溶液がキレート化剤、錯化剤、有機酸、及びこれらの混合物から成る群より選択された成分をさらに含む、
堆積物を構造改変し除去する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記洗浄水溶液が、還元剤、酸化剤、pH調節剤又は安定化剤、腐食防止剤、非イオン性界面活性剤、及びこれらの混合物から成る群より選択される追加成分をさらに含む、
堆積物を構造改変し除去する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記水酸化第4級アンモニウムが、水酸化テトラアルキルアンモニウム、水酸化コリン、及びこれらの混合物から成る群より選択される、
堆積物を構造改変し除去する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記洗浄水溶液が、EDTA、HEDTA、ラウリル置換EDTA、有機酸、及びこれらの混合物から成る群より選択されたキレート化剤をさらに含む、
堆積物を構造改変し除去する請求項1に記載の方法。
【請求項7】
a)前記洗浄水溶液中における前記水酸化第4級アンモニウムの作用濃度が0.0001重量%から15重量%の間であり、
b)前記作用温度が前記水酸化第4級アンモニウムの熱分解温度以下であり、
c)前記処理水溶液の室温におけるpHが少なくとも7である、
堆積物を構造改変し除去する請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記作用時間の少なくとも一部の間、流動励起混合、不活性ガス噴霧、脈動圧、及びこれらの組み合わせから成る群より選択される方法によって、前記洗浄用水溶液を攪拌する、
堆積物を構造改変し除去する請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記堆積物中の標的となる化合物の総堆積量を推定する工程と、
前記総堆積量に対する目標モル比を実現するために、前記洗浄水溶液中の前記水酸化第4級アンモニウムの量を調節する工程と、
を備える、堆積物を構造改変し除去する請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記目標モル比が少なくとも1:1である、
堆積物を構造改変し除去する請求項9に記載の方法。
【請求項11】
熱伝達液を利用する熱交換系内のスケール及び堆積物を構造改変し除去する方法であって、
a)前記熱交換系から前記熱伝達液の少なくとも一部を除去する工程と、
b)作用濃度の水酸化第4級アンモニウムを含む洗浄水溶液を前記熱交換器に導入する工程と、
c)前記作用時間の間、前記洗浄水溶液を処理温度範囲内に維持する工程と、
d)前記熱交換系から前記洗浄用水溶液を実質的に全て除去する工程と、
e)交換熱伝達液を導入する工程と、
を備える方法。
【請求項12】
前記洗浄水溶液を導入する前に前記熱交換系を停止させる工程と、
前記交換熱伝達液を導入した後に前記熱交換系を再稼動させる工程と、
をさらに備える、
熱伝達液を利用する熱交換系内のスケール及び堆積物を構造改変し除去する請求項11に記載の方法。
【請求項13】
c)前記作用時間の間、前記洗浄水溶液を処理温度範囲内に維持する工程、
をさらに備える、
熱伝達液を利用する熱交換系内のスケール及び堆積物を構造改変し除去する請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記洗浄水溶液がキレート化剤、錯化剤、有機酸、及びこれらの混合物から成る群より選択された成分をさらに含む、
熱伝達液を利用する熱交換系内のスケール及び堆積物を構造改変し除去する請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記洗浄水溶液が、還元剤、酸化剤、pH調節剤又は安定化剤、腐食防止剤、非イオン性界面活性剤、及びこれらの混合物から成る群より選択される追加成分をさらに含む、
熱伝達液を利用する熱交換系内のスケール及び堆積物を構造改変し除去する請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記水酸化第4級アンモニウムが、水酸化テトラアルキルアンモニウム、水酸化コリン、及びこれらの混合物から成る群より選択される、
熱伝達液を利用する熱交換系内のスケール及び堆積物を構造改変し除去する請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記洗浄水溶液が、EDTA、HEDTA、ラウリル置換EDTA、有機酸、及びこれらの混合物から成る群より選択されたキレート化剤をさらに含む、
熱伝達液を利用する熱交換系内のスケール及び堆積物を構造改変し除去する請求項11に記載の方法。
【請求項18】
a)前記洗浄水溶液中における前記水酸化第4級アンモニウムの作用濃度が0.0001重量%から15重量%の間であり、
b)前記作用温度が前記水酸化第4級アンモニウムの熱分解温度以下であり、
c)前記処理水溶液の室温におけるpHが少なくとも7である、
熱伝達液を利用する熱交換系内のスケール及び堆積物を構造改変し除去する請求項11に記載の方法。
【請求項19】
堆積物を構造改変し除去する方法であって、
a)キレート化剤、錯化剤、有機酸、及びこれらの混合物から成る群より選択された作用濃度の成分を含む第1の洗浄水溶液を生成する工程と、
b)作用時間の間、前記堆積物を前記第1洗浄水溶液と接触させて構造改変された堆積物を生成する工程と、
c)作用濃度の水酸化第4級アンモニウムを含む第2洗浄水溶液を生成する工程と、
d)第2作用時間の間、前記構造改変された堆積物を前記第2洗浄水溶液と接触させる工程と、
e)前記作用時間の間、前記洗浄水溶液を処理温度範囲内に維持する工程と、
f)前記第2作用時間の後、前記第2洗浄用水溶液を実質的に全て除去する工程と、
を順に備える方法。
【請求項20】
前記第1作用時間の後、前記第1洗浄用水溶液を実質的に全て除去する工程、を備える、
堆積物を構造改変し除去する請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記第1洗浄水溶液が、EDTA、HEDTA、ラウリル置換EDTA、及びこれらの混合物から成る群より選択されたキレート化剤をさらに含む、
堆積物を構造改変し除去する請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記処理期間において前記作用濃度を変更する工程を備える、堆積物を構造改変し除去する請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2013−518179(P2013−518179A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549977(P2012−549977)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/022022
【国際公開番号】WO2011/093849
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(501010395)ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー (78)
【Fターム(参考)】