説明

堤防の法面の保護方法

【課題】軽量であり且つ十分な厚みを有した地盤補強構造体を堤防の法面の保護材として適用し、堤防の法面を保護する方法を提供する。
【解決手段】第1の樹脂ネットと第2の樹脂ネットとを重ね合わせて編み組みしてなる編組体2と、該編組体2の樹脂ネット間に充填された破砕ゴム片4とを備えてなる地盤補強構造体1を堤防の法面の保護材として適用する。前記樹脂ネットは、長尺の樹脂シートに、長手方向及び幅方向に規則的に配列された多数の穴部を形成し、該樹脂シートの長手方向樹脂部を該長手方向に延伸し、該穴部を該長手方向に延在する長穴状としてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤を補強するために該地盤中に埋設される地盤補強構造体を利用する堤防の法面の保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、河川・湖沼・海岸の堤防の方面の保護方法としては、コンクリート、土を用いての緑化などのさまざまな手法が用いられている。
【0003】
一方、地盤中には樹脂ネットや土嚢を埋設して地盤を補強する工法が広く知られている。例えば、特許文献1においては、地盤補強用樹脂ネットとして、ネットの樹脂部分にスパイク状の凸部及び凹部が設けられたものが記載されている。かかる樹脂ネットにあっては、この凸部及び凹部の楔効果によってネットの土への喰い付き力が向上し、より強固に地盤を補強することが可能となると報告されている。こうしたネットは別名ジオグリッドと呼ばれることもある。
【特許文献1】特願2001−329540号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
河川・湖沼・海岸の堤防の法面の保護方法としてコンクリートを用いた場合、頑丈ではあるが冷たい感じを与え、自然環境を損なうものである。また、土を用いた場合、植生が可能で自然な感触を醸し出すことができるが、増水時に流出等の問題がある。さらに、上掲の特許文献1に記載の樹脂ネットは、比較的軽量であり、運搬時や設置時の取り扱い性に優れているが、厚みが小さいため、地中に充填する等して堤防の保護のために用いるには不向きである。
【0005】
そこで本発明の目的は、上記問題点を解消し、軽量であり且つ十分な厚みを有する地盤補強構造体を堤防の法面の保護材として適用し、堤防の法面を保護する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の堤防の法面の保護方法においては、第1の樹脂ネットと第2の樹脂ネットとを重ね合わせて編み組みしてなる編組体と、該編組体の樹脂ネット間に充填された破砕ゴム片とを備えてなる地盤補強構造体を堤防の法面の保護材として適用することを特徴とするものである。
【0007】
前記樹脂ネットは、長尺の樹脂シートに、長手方向及び幅方向に規則的に配列された多数の穴部を形成し、該樹脂シートの長手方向樹脂部を該長手方向に延伸し、該穴部を該長手方向に延在する長穴状としてなることが好ましい。また、前記樹脂シートの幅方向樹脂部に凸部が設けられていることが好ましい。さらに、前記地盤補強構造体の上部は堤防に水平に埋設してもよく、また、前記地盤補強構造体の底部、上部を含む複数箇所をアンカーボルトにて好適に固定することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の堤防の法面の保護方法によれば、編組体の第1の樹脂ネットと第2の樹脂ネットとの間に破砕ゴム片が充填されているため、厚みがあり、堤防の法面を良好に保護することができる。また、本発明の堤防の法面の保護方法は、主として樹脂とゴムから構成されている地盤補強構造体を利用するため、比較的軽量であり、運搬や据付け等の作業を楽に行うことができる。さらに、本発明の堤防の法面の保護方法によれば、編組体に充填された破砕ゴム片の弾力性により、振動吸収性に優れ、しかも、各樹脂ネットの網目開口と破砕ゴム片相互の隙間とを通して透水性も確保される。さらにまた、風雨に耐え、増水した水を被っても一定の抵抗力を示すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、図面を参照して本発明の堤防の法面の保護方法の実施の形態について説明する。
図1は、本発明に使用し得る地盤補強構造体の好適例の斜視図であり、図2は図1のII―II線に沿う断面図である。
【0010】
この地盤補強構造体1は、第1の樹脂ネット3Aと第2の樹脂ネット3Bとを重ね合わせ、編み組みしてなる編組体2と、該編組体2の樹脂ネット3A、3B間に充填された破砕ゴム片4とからなる。
【0011】
この実施の形態では、第1の樹脂ネット3Aと第2の樹脂ネット3Bとは同一の樹脂ネットよりなる。該樹脂ネット3A、3Bは、この実施の形態では、以下の手順により製作される。
【0012】
まず、長尺帯状の樹脂シートに、プレス(打ち抜き)加工等により、その長手方向及び幅方向に規則的に配列された多数の穴部(開口)3aを形成する。また、この実施の形態では、この穴あき樹脂シート幅方向に延在する各樹脂部(幅方向樹脂部)3bに、該プレス加工等により、スパイク状の凸部3cを形成する。
【0013】
次に、この樹脂シートを延伸可能な温度まで加温する。次いで、この樹脂シートをピンチローラ等で長手方向に引っ張り、該長手方向に延在する各樹脂部(長手方向樹脂部)3dを延伸させる。
【0014】
その後、この樹脂シートを必要に応じ所定長さ及び所定幅に裁断し、2枚の樹脂ネット3A、3Bを形成する。
【0015】
この樹脂シートは、超高分子量ポリエチレン樹脂シートであることが好ましい。この場合、該超高分子量ポリエチレンの分子量は、1000〜1000万、とりわけ10万〜40万であることが好ましい。また、この超高分子量ポリエチレンは、密度が0.9以上であることが好ましく、さらに、1分子当たり0.3個のブチル基の側鎖を有したものであることが好ましい。
【0016】
この超高分子量ポリエチレン樹脂シートの長手方向樹脂部3dの延伸量は、延伸前の5倍以上であることが好ましい。この延伸量が5倍以下であると、該長手方向樹脂部3dの引張強度が不足する。
【0017】
第1樹脂ネット3Aと第2樹脂ネット3Bとは、図2に示すように、まず、凸部3cが設けられていない側の面を向かい合わせにして重ね合わされ、次いで、該第1の樹脂ネット3Aの長手方向樹脂部3dの途中部が第2の樹脂ネット3Bの穴部3aを通して該第2の樹脂ネット3Bの表側へ押し込まれ、その後、この押し込まれた第1の樹脂ネット3Aの長手方向樹脂部3dと第2の樹脂ネット3Bの長手方向樹脂部3dとの間に結束用線状体5が挿通されることにより、編み組みされている。
【0018】
なお、この実施の形態では、第1の樹脂ネット3Aと第2の樹脂ネット3Bとは所定の間隔をおいて複数箇所にてそれぞれ該線状体5によって結束されている。これにより、編組体2の内部は、図示の通り複数の室に区画されており、各室にそれぞれ破砕ゴム片4が充填されている。
【0019】
この結束用線状体5は、金属や樹脂等のほか種々の材質より構成される。
【0020】
この実施の形態では、破砕ゴム片4は、廃タイヤの破砕ゴム片である。この廃タイヤの破砕ゴム片は、廃タイヤを機械的な処理により破砕したものである。
【0021】
かかる構成の地盤補強構造体1にあっては、編組体2の第1の樹脂ネット3Aと第2の樹脂ネット3Bとの間に破砕ゴム片4が充填されているため、厚みがあり、堤防の法面を良好に保護することができる。また、この地盤補強構造体1は主として樹脂とゴムとから構造されているため、比較的軽量であり、運搬や据付け等の作業を楽に行うことができる。
【0022】
さらに、この地盤補強構造体は、編組体2に充填された破砕ゴム片4の弾力性により、振動吸収性に優れている。しかも、各樹脂ネット3A,3Bの網目開口と、破砕ゴム片4同士の間隔とを通して透水性も確保される。
【0023】
さらにまた、樹脂ネットを長尺の樹脂シートに長手方向及び幅方向に規則的に配列された多数の穴部3aを形成し、この樹脂シートの長手方向樹脂部を長手方向に延伸し、穴部3aを長手方向に延在する長穴状とすることにより、樹脂ネットの樹脂部の引張強度が向上し、丈夫な編組体2が構成される。
【0024】
さらにまた、樹脂シートの幅方向樹脂部に凸部3cを設けることにより、この凸部3cが堤防法面または堤防土中部分に(図4)食い込み、地盤補強構造体1がしっかりと固定される。
【0025】
この実施の形態では、破砕ゴム片4として廃タイヤの破砕ゴム片を用いているので、廃タイヤを有効利用することができる。
【0026】
なお、地盤補強構造体1として、黒色の編組体2を用いる場合には、廃タイヤの破砕ゴム片4とともに黒色で構成されることとなり、外観において締まりのある法面が得られる。
【0027】
上記地盤補強構造体の実施の形態はその一例を示すものであり、上記の実施の形態に限定されるものではない。
【0028】
例えば、この実施の形態では、長手方向樹脂部3dのみを延伸させてなる樹脂ネット3A、3Bを用いているが、幅方向樹脂部も延伸させた樹脂ネットを用いてもよい。
【0029】
この実施の形態では結束用線状体5を用いて第1の樹脂ネット3Aと第2の樹脂ネット3Bとを編み組みしているが、両者の樹脂部同士を接着や溶着等により結合して編組体としてもよい。
【0030】
編組体2内に充填される破砕ゴム片4として廃タイヤ以外の破砕ゴム片を用いてもよい。破砕ゴム片4は、単なる集合体として編組体2に充填されてもよく、予め相互に結合されていてもよい。
【0031】
以上の手順により得られた地盤補強構造体1を堤防の法面の保護材として適用した堤防の法面の保護法方を図3および図4に基づいて説明する。
地盤11上に盛り土12を施して堤防10Aを造成する。かかる堤防10A上に地盤補強構造体1を配設する。この際、図3に示すように、地盤補強構造体1の上部を水平に堤防上部13へ、下部を堤防法面部14に載置する。地盤補強構造体1の底部、上部および中間部分の複数箇所はアンカーボルト15にて固定することが好ましく、これにより水中部分および全体の保持力、安定性が向上する。
【0032】
堤防10Aに地盤補強構造体1を配設した後、図4に示すように、堤防上部13に盛り土16を被せ、地盤補強構造体1の上部に静加重をかけた状態で水平に埋設し堤防10Bを完成させる。地盤補強構造体の一部を上部堤防の中に折り込み、その上から一定厚の土を被せて静加重をかけることにより、地盤補強構造体が強力に固定することができる。なお、地盤補強構造体1の上部の固定方法は、静加重をかけて固定できるものであれば、これに限定されるものではない。
【0033】
なお、地盤補強構造体1の2本の最外辺は、内部の破砕ゴム片4が漏れないように糸で縫い合わせることが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。
まず、地盤11上に盛り土12を施して堤防10Aを造成し、堤防10A上にロッド間間隔1m、膨らみ30cm、幅1m、長さ8m(8ユニット)の地盤補強構造体1を配設した。次に、地盤補強構造体1の上部3mを水平に堤防上部13へ、下部5mを堤防法面部14に載置し、地盤補強構造体1の底部、上部および要所をアンカーボルト15にて固定した。その後、堤防上部13に1mの盛り土16を被せ、地盤補強構造体1の上部に静加重をかけた状態で水平に埋設し堤防10Bを完成させた。
【0035】
以上と同様の手順により、5本の地盤補強構造体を作成し、側面同士を接する形で堤防10Bの表面に平行に施工した。
【0036】
地盤補強構造体1の下部から4m浸漬するように水を張り、軽度の波浪を一定時間与え強度と耐久性の実験を行った。
【0037】
その結果、地盤補強構造体1に損傷・不具合は見られなかった。さらに、その後1年間自然風雪に暴露したが、地盤補強構造体1と堤防10Bに損傷や不具合は見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に使用し得る地盤補強構造体の好適例の斜視図である。
【図2】図1のII―II線に沿う断面図である。
【図3】堤防に地盤補強構造体を被せた状態の断面図である。
【図4】堤防上部に盛り土を被せ、水を張った状態の断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 地盤補強構造体
2 編組体
3A 第1の樹脂ネット
3B 第2の樹脂ネット
3a 穴部
3b、3d 樹脂部
3c 凸部
4 破砕ゴム片
5 結束用線状体
10A 堤防
10B 堤防
11 地盤
12 盛り土
13 堤防上部
14 堤防法面部
15 アンカーボルト
16 盛り土

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の樹脂ネットと第2の樹脂ネットとを重ね合わせて編み組みしてなる編組体と、該編組体の樹脂ネット間に充填された破砕ゴム片とを備えてなる地盤補強構造体を堤防の法面の保護材として適用することを特徴とする堤防の法面の保護方法。
【請求項2】
前記樹脂ネットが、長尺の樹脂シートに、長手方向及び幅方向に規則的に配列された多数の穴部を形成し、該樹脂シートの長手方向樹脂部を該長手方向に延伸し、該穴部を該長手方向に延在する長穴状としてなる請求項1の保護方法。
【請求項3】
前記樹脂シートの幅方向樹脂部に凸部が設けられている請求項1または2記載の保護方法。
【請求項4】
前記地盤補強構造体の上部を堤防に水平に埋設する請求項1〜3のうちいずれか一項記載の保護方法。
【請求項5】
前記地盤補強構造体の底部、上部を含む複数箇所をアンカーボルトにて固定する請求項1〜4のうちいずれか一項記載の保護方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−154436(P2007−154436A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347455(P2005−347455)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】