説明

場内拡声装置

【課題】他地点の参加者と遠隔通信を行いながら、自地点において手軽に場内拡声を行うことができる場内拡声装置を提供する。
【解決手段】他地点からの受話信号を少なくとも含む下り信号を入力するための下り入力端子と、自地点の他装置からの上り信号を入力するための上り入力端子と、下り入力端子から入力された下り信号と上り入力端子から入力された上り信号とを加えた信号であって、収音信号が加えられていない信号を再生するスピーカと、下り入力端子から入力された下り信号と収音信号とを加えた自装置下り信号を自地点の他装置に向けて出力するための下り出力端子と、上り入力端子から入力された上り信号と収音信号とを加えた自装置上り信号を他地点側に向けて出力するための上り出力端子と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自地点と他地点を結んで行う通信会議等の拡声通信の形態において利用される場内拡声装置に関する。
【背景技術】
【0002】
遠隔地を通信網で結んで行われる通信会議は、遠隔地に出向く必要がなく、移動時間の短縮や出張費の削減が可能なため、ビジネス用途として広く利用されている。通信会議は、遠隔地に分かれたそれぞれ複数人の参加者が同時に会話をするため、相手側(他地点)から受信した受話信号を自分側(自地点)のそれぞれの参加者に聞こえるようにスピーカで拡声し、自分側(自地点)のそれぞれの参加者の発話をマイクロホンで収音して送信する拡声通信の形態となる。
【0003】
この拡声通信を行う場合には、スピーカで拡声された音声がマイクロホンに回り込んで発生するエコーを取り除くエコーキャンセラが必要となる。さらに、参加者が大人数となり会議を行う部屋が広くなると、参加者の発話が、その参加者と同じ部屋にいて離れている別の参加者に聞こえにくくなる。そのため、マイクロホンで参加者の発話を収音し、収音信号を相手側(他地点)だけでなく自分側(自地点)においてもスピーカから場内拡声する。このとき、スピーカの再生音がマイクロホンに帰還し、ハウリングが発生する可能性がある。そのため、ハウリングの発生を防止するハウリングキャンセラが必要となる。場内拡声を行いながら通信を行う際に発生するこのような問題を解決する従来技術として特許文献1が知られている。
【0004】
図1に示すように、特許文献1記載の場内拡声用反響消去装置33は、エコーキャンセラ21、損失制御装置12、損失挿入器46、加算器47及び周波数変調器48を備える。
【0005】
エコーキャンセラ21は、スピーカ4で再生された受話信号x(n)がマイクロホン3に回り込むことによって発生するエコーを消去する。以下、詳細を説明する。
【0006】
まず疑似反響路22は、受信信号x(n)と反響路のインパルス応答の推定値h^(n)を用いて疑似エコー信号y^(n)を生成する。
【0007】
減算器24は、マイクロホン3で収音された信号z(n)(以下、「収音信号」という)から疑似エコー信号y^(n)を減算することにより誤差信号e(n)を求める。誤差信号e(n)は、エコーキャンセラ21が正しく動作している場合、即ちh^(n)=h(n)の状態では、送話者信号s(n)と一致する。誤差信号e(n)は、疑似反響路推定回路23、損失制御装置12及び損失挿入器46へ入力される。
【0008】
疑似反響路推定回路23は、受話信号x(n)と誤差信号e(n)を用いて、反響路のインパルス応答の推定値h^(n)を求める。なお、誤差信号e(n)が小さくならない場合、送話者信号s(n)が混入している状態であると判定し、疑似反響路推定値h^(n)の推定を行わない。
【0009】
拡声通信系におけるハウリングを防止するために設けられた損失制御装置12は、従来通りの動作(特許文献1参照)をしても、場内拡声への影響がないような構成となっている。
【0010】
また、損失挿入器46は、損失制御装置12の制御信号に従って動作し、受話信号x(n)のみが存在する場合には、損失を挿入し、送話者信号s(n)が存在する場合には、損失を挿入しない。損失挿入器46を通った誤差信号e(n)は、周波数変調器48を経て、加算器47で受話信号x(n)と加算され、スピーカ4において再生される。
【0011】
このような動作を行うことにより、受話信号x(n)しかない場合であって、エコーキャンセラ21の動作が不安定な状態であっても、その誤差信号e(n)が再びスピーカ4から拡声されることを防ぐことができる。また、送話者信号s(n)が存在する場合には、損失が挿入されないため、場内へ希望の音量で拡声することが可能となる。但し、送話者信号s(n)に関しては、加算器47で加算されスピーカ4から出力された信号が再び送話用マイクロホン3に入力され、閉ループが形成され場内拡声でのハウリングが懸念される。このため、加算器47の手前に周波数変調器48を挿入し、ハウリングマージンを稼ぐ構成とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3381838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
拡声通信において、通信会議の会場が広い部屋の場合には、マイクロホンの収音範囲とスピーカの再生範囲が限られているため、複数のスピーカ及び複数のマイクロホンが必要になる。しかしながら、特許文献1記載の場内拡声用反響消去装置33は、複数のスピーカ及び複数のマイクロホンを用いて場内拡声することができないという問題がある。仮に、特許文献1記載の場内拡声装置を用いて場内拡声する場合には、図2のような配置になると考えられる。自地点である通信会議の会場内の各エリアに着席している参加者の声を収音するP個のマイクロホン3−p(但し、P≧1であり、p=1,2,…,P)と、それぞれの参加者に聞こえるように分担して再生するQ個のスピーカ4−q(但し、Q≧1であり、q=1,2,…,Q)と、各マイクロホンの収音信号z−1(n),z−2(n),…,z−p(n),…,z−P(n)を合成して合成収音信号z(n)を生成し場内拡声用反響消去装置33へ出力するミキサー40等が必要となり、システムが大規模となるという問題がある。
【0014】
また、上述のスピーカやマイクロホンは、通常、据え置きタイプなので、それらを常設できる専用の会議室等も必要になり、システムが大規模になるという問題がある。
<スピーカ・マイクロホン一体型通話装置43>
ここで、参考文献1記載のスピーカ・マイクロホン一体型通話装置43は、常設の必要がなく、手軽に持ち運ぶことができる遠隔通信用の装置として知られている。
[参考文献1]中川、羽田、山森、“全指向性を持つスピーカ・マイクロホン一体型通話装置構成法”、NTT R&D、2001、Vol.50、No.4、pp.240-245
【0015】
スピーカ・マイクロホン一体型通話装置43は、中央にスピーカ4を、その周囲に単一指向性のマイクロホン3−1,3−2,3−3及び3−4を配し、その際、各マイクロホンの指向性の背面をスピーカ4に向けることで音響結合量を低減する。スピーカ・マイクロホン一体型通話装置43は、受話端2から入力される受話信号x(n)をスピーカ4で再生する。マイクロホン3−1,3−2,3−3及び3−4は、それぞれ収音信号z1(n),z2(n),z3(n)及びz4(n)をミキサー40に出力し、ミキサー40は、これらの信号を合成し、合成収音信号z(n)を生成し、エコーキャンセラ41へ出力する。スピーカ・マイクロホン一体型通話装置43は、エコーキャンセラ41において、収音信号z(n)からエコーを消去し、誤差信号e(n)を求め、送話信号として、送話端1へ出力する。
【0016】
しかし、スピーカ・マイクロホン一体型通話装置43も複数のスピーカ及びマイクロホンが必要になるような広い部屋の参加者それぞれに場内拡声することができないという問題がある。仮に、参考文献1記載のスピーカ・マイクロホン一体型通話装置43をP個用いて場内拡声する場合には、各スピーカ・マイクロホン一体型通話装置43−pは図4のような構成となり、縦続接続(カスケード接続)する場合には図5のような配置になると考えられる。
【0017】
スピーカ・マイクロホン一体型通話装置43−pは、図3のスピーカ・マイクロホン一体型通話装置43の構成に加えて、下り入力端子51−p、下り出力端子52−p、上り入力端子61−p、上り出力端子62−p及び加算器45−pを備える。
【0018】
他地点の話者の発話はマイクロホン73で収音され、ネットワーク70及び受話端2を介して、受話信号x(n)として各スピーカ・マイクロホン一体型通話装置43−pに入力され、再生される。自地点の話者の発話は各エリアのスピーカ・マイクロホン一体型通話装置43−pで収音され、集約され、最もネットワーク70に近いスピーカ・マイクロホン一体型通話装置43−1から送話信号r−1(n)として出力され、送話端1及びネットワーク70を介して、他地点のスピーカ74で再生される。以下、詳細を説明する。
【0019】
スピーカ・マイクロホン一体型通話装置43−pは、下り入力端子51−pを介して受話信号x(n)が入力され、これをスピーカ4−pで再生する。さらに、受話信号x(n)を下り出力端子52−pを介して出力し、次の(縦続接続において、ネットワーク70から遠い)スピーカ・マイクロホン一体型通話装置に送信する。
【0020】
また、スピーカ・マイクロホン一体型通話装置43−pは、縦続接続において、ネットワーク70から遠いスピーカ・マイクロホン一体型通話装置から、上り入力端子61−pを介して、上り信号r−(p+1)(n)を受信する。加算器45−pにおいて、上り信号r−(p+1)(n)と誤差信号e−p(n)を加算し、自装置上り信号r−p(n)を求め、上り出力端子62−pを介して出力する。なお、自装置上り信号r−p(n)=e−p(n)+e−(p+1)(n)+…+e−P(n)である。最もネットワーク70の近くに配置されるスピーカ・マイクロホン一体型通話装置43−1は、自装置上り信号r−1(n)=e−1(n)+e−2(n)+…+e−P(n)を、送話端1へ出力する。
【0021】
エコーキャンセラ41−pは各装置に具備されているものが動作することによりエコー消去ができるため、相手側(他地点)との通信には問題がない。しかし、自地点のスピーカ・マイクロホン一体型通話装置43−pで収音された発話は(他地点のスピーカ74では再生されるが)、自地点の他のスピーカ・マイクロホン一体型通話装置では再生されないため、同一会場内で場内拡声することができないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記の課題を解決するために、本発明に係る場内拡声装置は、他地点からの受話信号を少なくとも含む下り信号を入力するための下り入力端子と、自地点の他装置からの上り信号を入力するための上り入力端子と、下り入力端子から入力された下り信号と上り入力端子から入力された上り信号とを加えた信号であって、収音信号が加えられていない信号を再生するスピーカと、下り入力端子から入力された下り信号と収音信号とを加えた自装置下り信号を自地点の他装置に向けて出力するための下り出力端子と、上り入力端子から入力された上り信号と収音信号とを加えた自装置上り信号を他地点側に向けて出力するための上り出力端子と、を有する。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る場内拡声装置は、各装置を縦続接続(カスケード接続)して、各装置が連携して信号のやり取りを行うことにより、他地点の参加者と遠隔通信を行いながら、自地点において手軽に場内拡声を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】特許文献1記載の場内拡声用反響消去装置33の構成図。
【図2】特許文献1記載の場内拡声用反響消去装置33を用いて、場内拡声及び他地点との通信を行う場合の配置図。
【図3】参考文献1記載のスピーカ・マイクロホン一体型通話装置43の構成図。
【図4】参考文献1記載のスピーカ・マイクロホン一体型通話装置を縦続接続し、他地点との通信を行う場合のスピーカ・マイクロホン一体型通話装置43−pの構成図。
【図5】参考文献1記載のスピーカ・マイクロホン一体型通話装置43−p、または、実施例1の場内拡声装置100−pを縦続接続し、他地点との通信を行う場合の配置図。
【図6】実施例1の場内拡声装置100−m及び100−pの構成例を示す図。
【図7】変形例の場内拡声装置100’−pの構成例を示す図。
【図8】変形例の場内拡声装置100”−pの構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【実施例1】
【0026】
<場内拡声装置100−p>
図5及び図6を用いて実施例1に係る場内拡声装置100−pを説明する。場内拡声装置100−pは、遠隔地にある他地点と自地点の間での通信会議等に用いられる。特に、自地点の場内が広く、一つのスピーカでは他地点及び自地点の話者の発話を参加者全員に対して伝えることができない場合、及び、一つのマイクロホンでは自地点の話者全員の発話を収音できない場合に有効である。但し、Pは場内に設置される場内拡声装置の個数であり、p=1,2,…,Pである。場内拡声装置100−pは、自地点の場内において、縦続接続(カスケード接続)される。
【0027】
図6では、ネットワーク70に対して、内側にある(ネットワーク70に近い)場内拡声装置の代表例を100−mとし、外側にある(ネットワーク70から遠い)場内拡声装置の代表例を100−pとして示しているが、場内拡声装置は何台接続されていても良い。但し、ネットワーク70に対して内側にあるか外側にあるかの相対的な関係によって場内拡声する信号の流れが異なる。
【0028】
場内拡声装置100−pは、マイクロホン3−pと、スピーカ4−pと、第1加算器102−pと、第2加算器104−pと、第3加算器106−pと、下り入力端子111−pと、下り出力端子112−pと、上り入力端子121−pと、上り出力端子122−pとを備える。さらに、エコーキャンセラ21−pと、ハウリングキャンセラ48−pとを備えることが望ましい。他の場内拡声装置も同様の構成を有する。
【0029】
<マイクロホン3−p及びスピーカ4−p>
マイクロホン3−pを用いて収音し、スピーカ4−pを用いて拡声する。マイクロホン3−pとスピーカ4−pは一体型であってもよいし、別個でもよい。また、図6において、スピーカ・マイクロホン一体型装置は1つのマイクロホンと1つのスピーカにより構成しているが、参考文献1記載のスピーカ・マイクロホン一体型装置43と同様の構成としてもよいし(つまり、4つの指向性マイクロホン、ミキサー及び1つの無指向性スピーカで構成してもよいし)、他の従来技術により構成してもよい。
【0030】
なお、スピーカ4−pは後述する下り入力端子111−pから入力された下り信号x−(p−1)(n)と後述する上り入力端子121−pから入力された上り信号r−(p+1)(n)とを加えた信号を再生する。なお、スピーカ4−pは、自装置のマイクロホン3−pで収音した収音信号が加えられていない信号を再生する。ここで収音信号とは、マイクロホン3−pの出力信号z−p(n)や、出力信号z−p(n)からエコーを抑圧した信号e−p(n)や、ハウリングを抑圧した信号e’−p(n)等を含む概念である。
【0031】
<下り入力端子111−p>
下り入力端子111−pは、他地点からの受話信号x(n)を少なくとも含む下り信号x−(p−1)(n)を入力するための端子である。例えば、縦続接続において最もネットワーク70に近い場内拡声装置100−1は受話信号x(n)を入力とする。それ以外の場内拡声装置100−pは縦続接続において自装置よりも1つネットワーク70に近い他の場内拡声装置の後述する下り出力端子の出力である下り信号x−(p−1)(n)を入力とする。
【0032】
<上り入力端子121−p>
上り入力端子121−pは、自地点の他装置からの上り信号r−(p+1)(n)を入力するための端子である。例えば、場内拡声装置100−pは縦続接続において自装置よりも1つネットワーク70から遠い他の場内拡声装置の上り出力端子の出力である上り信号r−(p+1)(n)を入力とする。
【0033】
<第1加算器102−p>
第1加算器102−pは、下り入力端子111−pを介して入力される下り信号x−(p−1)(n)と、上り入力端子121−pに入力された自地点の他装置からの上り信号r−(p+1)(n)とを入力とし、これを加算してスピーカ4−pへ供給する。
【0034】
<エコーキャンセラ21−p>
エコーキャンセラ21−pは、第1加算器102−pの出力信号と自装置のマイクロホンで収音した収音信号z−p(n)が入力され、収音信号z−p(n)に含まれるエコー成分を抑圧し、誤差信号e−p(n)を出力する。エコーキャンセラ21−pは、特許文献1と同様の構成であってもよいし、他の従来技術であってもよい。
【0035】
なお、場内拡声装置100−pのスピーカ4−pは、自装置のマイクロホン3−pの収音信号は再生しないが、第1加算器102−pの出力信号を再生するため、その再生音がマイクロホン3−pに回り込み、エコーとなる。エコーキャンセラ21−pは、このエコー成分を抑圧し、エコー及びハウリングの発生を防ぐ。
【0036】
<ハウリングキャンセラ48−p>
ハウリングキャンセラ48−pは、エコーキャンセラ21−pの入力側(図6中、破線で示す)または出力側に直列に挿入される。ハウリングキャンセラ48−pは、ハウリングを生じやすい特定の周波数帯域だけを非常に低いレベルに減衰させるノッチフィルタや、ある周波数成分を他の周波数成分に変調する周波数変調器や、自動イコライゼーション装置等により構成される。
【0037】
ハウリングキャンセラ48−pを設けることで、場内拡声を行った際に問題となるハウリング(例えば、場内拡声装置100−pのマイクロホン3−pの収音信号が、場内拡声装置100−mのスピーカ4−mで再生されることで、再生音が場内拡声装置100−pのマイクロホン3−pに帰還し発生するハウリング)を回避することができる。
【0038】
ハウリングキャンセラ48−pが、スピーカ4−pとマイクロホン3−pの間の線形システムを保持できる(線形フィルタで構成される)場合は、ハウリングキャンセラ48−pをマイクロホン3−pとエコーキャンセラ21−pの間(つまり、エコーキャンセラ21−pの入力側)に挿入することが望ましい。これは、マイクロホン3−pで収音される他の場内拡声装置の再生音は、エコーキャンセラ21−pにとっては外乱であり、エコー消去性能を劣化させるため、エコーキャンセラ21−pに入力する前に、この外乱を消去することで、よりエコーキャンセラ21−pのエコー消去性能を高めることができるからである。逆に、ハウリングキャンセラ48−pが、スピーカ4−pとマイクロホン3−pの間の線形システムを保持できない(線形フィルタで構成されていない)場合は、エコーキャンセラ21−pの前段にハウリングキャンセラ48−pを挿入すると、エコーキャンセラ21−pのエコー消去性能が落ちるため、エコーキャンセラ21−pの後段(つまりエコーキャンセラ21−pの出力側)にハウリングキャンセラ48−pを挿入することが望ましい。
【0039】
<第2加算器104−p>
第2加算器104−pは、収音信号と、下り信号x−(p−1)(n)とを入力とし、これを加算して、自装置下り信号x−p(n)を求め、下り出力端子112−pに出力する。
【0040】
<下り出力端子112−p>
下り出力端子112−pは、下り入力端子111−pから入力された下り信号x−(p−1)(n)と収音信号とを加えた自装置下り信号x−p(n)(つまり、第2加算器104−pの出力信号)を自地点の他装置に向けて出力するための端子である。例えば、場内拡声装置100−pは縦続接続において自装置よりも1つネットワーク70から遠い他の場内拡声装置へ自装置下り信号x−p(n)を出力する。
【0041】
<第3加算器106−p>
第3加算器106−pは、収音信号と上り信号r−(p+1)(n)とを入力とし、これを加算して、自装置上り信号r−p(n)を求め、上り出力端子122−pに出力する。
【0042】
<上り出力端子122−p>
上り出力端子122−pは、上り入力端子121−pから入力された上り信号r−(p+1)(n)と収音信号とを加えた自装置上り信号r−p(n)(つまり、第3加算器106−pの出力信号)を他地点側に向けて出力するための端子である。例えば、場内拡声装置100−pは縦続接続において自装置よりも1つネットワーク70に近い他の場内拡声装置へ自装置下り信号r−p(n)を出力する。但し、縦続接続において最もネットワーク70に近い場内拡声装置100−1は、上り出力端子から自装置上り信号r−1(n)を送話信号として、送話端1に出力する。
【0043】
<遠隔通信について>
このような構成とすることによって、各場内拡声装置100−pの収音信号は、それぞれ第3加算器106−pで集約されて、最もネットワークに近い場内拡声装置100−1から送話信号r−1(n)として、ネットワーク70を介して相手側(他地点)に送出される。また、下り信号には、少なくとも受話信号が含まれるため、各場内拡声装置100−pのスピーカで他地点の参加者の発話が再生される。
【0044】
<場内拡声について>
それぞれの場内拡声装置100−pのマイクロホン3−pで収音した収音信号を、自装置100−p以外の場内拡声装置のスピーカから再生することにより自分側(自地点)の同一室内の各エリアで拡声する。なお、自装置100−pのマイクロホン3−pで収音した音声を自装置のスピーカ4−pでは拡声しない。これは、同じ場内拡声装置100−p内に具備されたスピーカ4−pとマイクロホン3−pは、その距離が近くハウリングを発生させる帰還(フィードバック)量が多いからである。さらに、収音する場内拡声装置100−pの周辺にいる参加者は話者と近いため、話者の発話(音声)が十分に届くからである。例えば、特許文献1では、マイクロホン(例えば3−1)で収音された発話は、話者の近傍に設置されるスピーカ(例えば4−1)からも再生されるため、話者には自分の発話が聞こえ、話しづらいという問題がある(図2参照)。また、話者近傍にいる参加者は、話者とスピーカのどちらからも発話が聞こえ、聞き取りづらいという問題がある。仮に特許文献1において、話者の近傍に設置されるスピーカからは再生しないように制御すると、その構成が複雑になると考えられる。一方、本実施例では、自地点の他装置で収音した発話は再生するが、自装置で収音した発話は再生しないので、話者は自分の発話を気にせずに話すことができ、話者近傍の参加者は話者の発話を聞き取りやすくなるという効果を奏する。
【0045】
各場内拡声装置の収音信号は、具体的には以下の方法で他の場内拡声装置に送信される。相対的にネットワーク70に近い場内拡声装置で収音した発話は受話路(下り信号路)で加算して、相対的にネットワーク70から遠い場内拡声装置へ送り、相対的にネットワーク70から遠い場内拡声装置で収音した発話は送話路(上り信号路)で加算して、相対的にネットワーク70に近い場内拡声装置へ送る。
【0046】
具体的には、ネットワーク70に対して場内拡声装置100−pは場内拡声装置100−mより外側にあるので(ネットワーク70から遠いので)、場内拡声装置100−mのマイクロホン3−mで収音された音声は、加算器104−mで加算される。この信号は受話路を通り、場内拡声装置100−pのスピーカ4−pから場内拡声される。これに対して、場内拡声装置100−pのマイクロホン3−pで収音された音声は加算器106−pで加算され、装置100−mのスピーカ4−mから場内拡声される。ここで、この説明では装置mと装置pについて説明したが、他装置に対してネットワーク100に対して内側か外側か(近いか遠いか)の相対的な関係で上述のどちらかの動作によって、場内拡声が実現できる。
【0047】
<効果>
遠隔通信時に同時に場内拡声を行う場合、特許文献1では、システムが大規模になり、音響機器などを常設できる専用の会議室も必要であった。また、参考文献1では自地点の発話を同一室内に場内拡声することはできなかった。
【0048】
それに対して、本実施例では場内拡声装置を複数縦続接続(カスケード接続)した際に、複数の場内拡声装置同士が連携して信号のやり取りを行うことにより、他地点の参加者と遠隔通信を行いながら、自地点において手軽に場内拡声を行うことができる。
【0049】
また、自地点にある場内拡声装置のマイクロホンで収音した音声を同じ場内拡声装置のスピーカでは拡声せず、自地点にある他の場内拡声装置のスピーカのみで拡声することにより、ハウリングを避け、かつ、同一室内にいる話者と遠くても話者の音声を十分に聞き取ることを可能とした。
【0050】
また特許文献1は、場内拡声用反響消去装置33と各スピーカを、さらに、ミキサー40と各マイクロホンを接続する必要があるため、配線数が多く、配線距離が長く、そして、配線作業が煩雑になるという問題がある(図2参照)。つまり、少なくとも(P+Q)本のケーブルを必要とし、各ケーブルの長さは、場内拡声用反響消去装置33と各スピーカの距離以上、または、ミキサー40と各マイクロホンの距離以上となる。
【0051】
それに対して、本実施例では、受話路及び送話路からなるケーブルの本数をP本とし、各ケーブルの長さは、送話端と最も送話端に近い場内拡声装置100−1の距離と、隣り合うスピーカ・マイクロホン一体型通話装置の距離の和となる。よって、配線の数を少なくし、配線の長さを短くし、そして、配線作業を容易にすることができる(図5参照)。
【0052】
[変形例1]
また、図7に示すように、場内拡声装置100’−pは、必ずしも上述の上り入力端子121−p、上り出力端子122−p及び第1加算器102−pを有さなくともよい。下り入力端子111−pは実施例1と同様に、他地点からの受話信号x(n)を少なくとも含む下り信号x−(p−1)を入力するための端子である。スピーカ4−pは、下り入力端子111−pから入力された(少なくとも受話信号x(n)を含む)下り信号x−(p−1)であって、自装置のマイクロホンで収音した収音信号が加えられていない信号を、再生する。このとき、第1加算器102−pを用いず、上り入力端子61−pから入力される上り信号r−(p+1)が再生されない点が、実施例1とは異なる。そして、下り出力端子112−pは実施例1と同様に下り入力端子111−pから入力された下り信号x−(p−1)(n)と収音信号とを(第2加算器104−pにおいて)加えた自装置下り信号x−p(n)を自地点の他装置に向けて出力するための端子である。上り出力端子62−pは、上り入力端子61−pから入力された上り信号r−(p+1)(n)と収音信号とを(第3加算器106−pにおいて)加えた自装置上り信号r−p(n)を他地点側に向けて出力する。
【0053】
このような構成としても実施例1と同様の効果を得ることができる。但し、第1加算器102−pを備えないため、自地点の場内拡声装置のスピーカで再生するのは、上り信号のみであり、相対的にネットワーク70に近い場内拡声装置で収音した発話は、相対的にネットワーク70から遠い場内拡声装置で再生され、場内拡声される。一方、相対的にネットワーク70から遠い場内拡声装置で収音した発話は、(他地点のスピーカ74では再生されるが)相対的にネットワーク70に近い場内拡声装置では再生されない。よって、相対的にネットワーク70に近い場内拡声装置で収音した発話を相対的にネットワーク70から遠い場内拡声装置で場内拡声するのみでよい場合には、このような構成としてもよい。
【0054】
[変形例2]
また、図8に示すように、場内拡声装置100”−pは、必ずしも上述の下り入力端子111−p、下り出力端子112−p及び第2加算器104−pを有さなくともよい。この場合、下り入力端子51−pには(他の場内拡声装置の収音信号を含まない)受話信号x(n)のみが入力され、下り出力端子52−pからそのまま受話信号x(n)を出力する。スピーカ4−pは、上り入力端子121−pから入力された上り信号r−(p+1)に受話信号x(n)を加えた信号であって、自装置のマイクロホンで収音した収音信号が加えられていない信号を、再生する。上り出力端子122−pは、実施例1と同様に、上り入力端子121−pから入力された上り信号r−(p+1)と収音信号とを(第3加算器106−pにおいて)加えた自装置上り信号r−p(n)を他地点側に向けて出力する。
【0055】
このような構成としても実施例1と同様の効果を得ることができる。但し、第2加算器104−pを備えないため、自地点の場内拡声装置のスピーカで再生するのは、上り信号と受話信号のみからなる下り信号であり、相対的にネットワーク70から遠い場内拡声装置で収音した発話は、相対的にネットワーク70に近い場内拡声装置で再生され、場内拡声される。一方、相対的にネットワーク70に近い場内拡声装置で収音した発話は、相対的にネットワーク70から遠い場内拡声装置では再生されない。よって、相対的にネットワーク70から遠い場内拡声装置で収音した発話を相対的にネットワーク70に近い場内拡声装置で場内拡声するのみでよい場合には、このような構成としてもよい。
【0056】
[その他の変形例]
なお、場内拡声装置100−pは、必ずしもエコーキャンセラ21−p及びハウリングキャンセラ48−pを備えなくともよい。その場合にも、遠隔通信と場内拡声を手軽に実現することができる。また、自地点にある場内拡声装置のマイクロホンで収音した音声を同じ場内拡声装置のスピーカでは拡声せず、自地点にある他の場内拡声装置のスピーカのみで拡声することにより、ハウリングを避けることができる。
【符号の説明】
【0057】
100−p,100’−p,100”−p 場内拡声装置
1 送話端
2 受話端
3−p マイクロホン
4−p スピーカ
21−p エコーキャンセラ
48−p ハウリングキャンセラ
70 ネットワーク
102−p 第1加算器
104−p 第2加算器
106−p 第3加算器
111−p 下り入力端子
112−p 下り出力端子
121−p 上り入力端子
122−p 上り出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他地点からの受話信号を少なくとも含む下り信号を入力するための下り入力端子と、
自地点の他装置からの上り信号を入力するための上り入力端子と、
前記下り入力端子から入力された下り信号と前記上り入力端子から入力された上り信号とを加えた信号であって、自装置のマイクロホンで収音した収音信号が加えられていない信号を再生するスピーカと、
前記下り入力端子から入力された下り信号と前記収音信号とを加えた自装置下り信号を自地点の他装置に向けて出力するための下り出力端子と、
前記上り入力端子から入力された上り信号と前記収音信号とを加えた自装置上り信号を他地点側に向けて出力するための上り出力端子と、
を有する場内拡声装置。
【請求項2】
他地点からの受話信号を少なくとも含む下り信号を入力するための下り入力端子と、
前記下り入力端子から入力された下り信号であって、自装置のマイクロホンで収音した収音信号が加えられていない信号を再生するスピーカと、
前記下り入力端子から入力された下り信号と前記収音信号とを加えた自装置下り信号を自地点の他装置に向けて出力するための下り出力端子と、
を有する場内拡声装置。
【請求項3】
自地点の他装置からの上り信号を入力するための上り入力端子と、
前記上り入力端子から入力された上り信号であって、自装置のマイクロホンで収音した収音信号が加えられていない信号を再生するスピーカと、
前記上り入力端子から入力された上り信号と前記収音信号とを加えた自装置上り信号を他地点側に向けて出力するための上り出力端子と、
を有する場内拡声装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−228899(P2011−228899A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96141(P2010−96141)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】