説明

塑性加工用金属材料およびその製造方法ならびに塑性加工用金属材料の表面処理剤

【課題】リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料の場合のような熱処理時の浸リンの発生がなく、しかも、リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料と同等もしくはそれ以上に潤滑性および耐食性に優れた塑性加工用金属材料およびその製造方法ならびにその製造用の表面処理剤を提供する。
【解決手段】(1) ケイ酸塩、ホウ酸塩の1種以上または水酸化カルシウムと、過酸化物とを含有する水溶液に、塑性加工用金属材料を浸漬した後、乾燥して該金属材料の表面に皮膜を形成することを特徴とする塑性加工用金属材料の製造方法、(2) 前記水溶液と同組成の水溶液よりなる塑性加工用金属材料の表面処理剤、(3) 鋼材の表面に鉄、カルシウム、酸素からなる第1層を有し、それを覆う第2層として、ほう酸塩、水酸化カルシウムと過酸化物からなる皮膜を有することを特徴とする塑性加工用金属材料等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塑性加工用金属材料およびその製造方法ならびに塑性加工用金属材料の表面処理剤に関する技術分野に属するものであり、特には、耐焼き付き性、潤滑性、耐食性に優れ、かつ、熱処理時の浸リン(りん酸塩皮膜中のリンの拡散)を回避することができる塑性加工(引抜き、伸線、圧造、鍛造など)用金属材およびその製造方法に関する技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、冷間伸線加工を行って得られる金属線材は、更に、様々な用途向けに冷間鍛造加工などの冷間加工(塑性加工)が施されるために、その表面に耐焼き付き性と潤滑性とを兼ね備えた被膜(皮膜)を形成する必要がある。
【0003】
このような皮膜を金属線材等の被加工材の表面に被覆すると、加工工具と被加工材との金属接触が回避されるとともに加工発熱が抑制され、これにより焼き付きの発生が抑制され、更に、被加工材表面の摩擦係数が低下するため、加工負荷が緩和され、加工エネルギが低減される。
【0004】
ところで、冷間伸線加工用の潤滑剤としては、ステアリン酸カルシウムなどの金属石けんを含有すると共にキャリア剤として水酸化カルシウムを含有した粉末状の潤滑剤が使用される。
【0005】
しかし、このような粉末状の潤滑剤を用いて冷間伸線加工を行った場合には、冷間伸線加工後の例えば冷間鍛造加工等の厳しい冷間塑性加工の工程において、冷間伸線加工により金属線材の表面に形成された被膜の潤滑性が不十分であり、焼き付きなどの欠陥が発生するといった問題がある。
【0006】
従って、例えば冷間鍛造加工用材料のように、高い潤滑性と耐焼き付き性とを有する被膜が要求される場合には、予め母材(冷間伸線加工用線材)表面にリン酸塩化成処理にて化成被膜(リン酸亜鉛皮膜等のリン酸塩皮膜)を形成し、その上にステアリン酸亜鉛とステアリン酸ナトリウムとからなる石けん層を形成して冷間伸線加工を行い、リン酸塩皮膜と石けん層とからなる皮膜(以下、この皮膜を石鹸・リン酸塩皮膜という)を形成する方法が採用され、これにより対応してきた。
【0007】
この石鹸・リン酸塩皮膜は、冷間鍛造加工のように厳しい加工に対して十分に追従できる高い潤滑性と耐焼き付き性を有するとともに、優れた耐錆性を有する。
【0008】
しかし、冷間伸線加工後の最終製品を熱処理する際に、石鹸・りん酸塩皮膜中のリンの拡散(以下、浸リンという)が生じ、この浸リンに起因して遅れ破壊が例えば高張力ボルトなどにおいて発生するという問題があった。
【0009】
高張力ボルトに関しては、 JIS-B1051で「12.9級強度区分のおねじ部品には、引張応力が働く表面に光学顕微鏡で確認できる白色のリン濃化層があってはならない」と規定されている。
【0010】
このため、石灰セッケンを主成分とする潤滑剤(特開平9−3476号公報)、アルカリ金属ホウ酸塩を主成分とする潤滑皮膜(特開2002−192220号公報)、ケイ酸カリウム、ステアリン酸塩、フッ素系樹脂などから成る潤滑剤(特開2003−53422号公報)などが提案されているが、これらは、潤滑性、耐焼き付き性、耐湿性および耐錆性に関し十分な性能を有していない。
【0011】
なお、リン酸塩(リン酸亜鉛など)を用いる場合、潤滑性(加工性)や加工後の耐食性に優れているものの、煩雑な液管理や多くの工程を必要とする。また被処理材との化学反応によって大量のスラッジが発生し、その処理に労力と費用とを要する。
【特許文献1】特開平9−3476号公報
【特許文献2】特開2002−192220号公報
【特許文献3】特開2003−53422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような事情に着目してなされたものであって、その目的は、石鹸・リン酸塩皮膜(リン酸塩皮膜と石けん層とからなる皮膜)を形成した塑性加工用金属材料の場合のような熱処理時の浸リンの発生がなく、しかも、石鹸・リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料と同等もしくはそれ以上に潤滑性および耐食性に優れた塑性加工用金属材料およびその製造方法ならびにその製造用の表面処理剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意研究を行なった結果、本発明を完成するに至った。本発明によれば上記目的を達成することができる。
【0014】
このようにして完成され上記目的を達成することができた本発明は、塑性加工用金属材料およびその製造方法ならびに塑性加工用金属材料の表面処理剤に係わり、特許請求の範囲の請求項1〜3記載の塑性加工用金属材料の製造方法(第1〜3発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法)、請求項4記載の塑性加工用金属材料(第4発明に係る塑性加工用金属材料)、請求項5〜6記載の塑性加工用金属材料の表面処理剤(第5〜6発明に係る塑性加工用金属材料の表面処理剤)、請求項7〜8記載の塑性加工用金属材料(第7〜8発明に係る塑性加工用金属材料)、請求項9記載の塑性加工用金属材料の製造方法(第9発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法)であり、それは次のような構成としたものである。
【0015】
即ち、請求項1記載の塑性加工用金属材料の製造方法は、ケイ酸塩、ホウ酸塩の1種以上または水酸化カルシウムと、過酸化物とを含有する水溶液に、塑性加工用金属材料を浸漬した後、乾燥して該金属材料の表面に皮膜を形成することを特徴とする塑性加工用金属材料の製造方法である〔第1発明〕。
【0016】
請求項2記載の塑性加工用金属材料の製造方法は、前記水溶液におけるケイ酸塩、ホウ酸塩の1種以上または水酸化カルシウムと、過酸化物との濃度比が、4:1〜200:1である請求項1記載の塑性加工用金属材料の製造方法である〔第2発明〕。
【0017】
請求項3記載の塑性加工用金属材料の製造方法は、前記金属材料の表面に形成される皮膜の付着量が2g/m2 以上である請求項1または2記載の塑性加工用金属材料の製造方法である〔第3発明〕。
【0018】
請求項4記載の塑性加工用金属材料は、請求項1〜3のいずれかに記載の塑性加工用金属材料の製造方法によって製造される塑性加工用金属材料である〔第4発明〕。
【0019】
請求項5記載の塑性加工用金属材料の表面処理剤は、ケイ酸塩、ホウ酸塩の1種以上または水酸化カルシウムと、過酸化物とを含有する水溶液よりなることを特徴とする塑性加工用金属材料の表面処理剤である〔第5発明〕。
【0020】
請求項6記載の塑性加工用金属材料の表面処理剤は、前記水溶液におけるケイ酸塩、ホウ酸塩の1種以上または水酸化カルシウムと、過酸化物との濃度比が、4:1〜200:1である請求項5記載の塑性加工用金属材料の表面処理剤である〔第6発明〕。
【0021】
請求項7記載の塑性加工用金属材料は、鋼材の表面に鉄、カルシウム、酸素からなる第1層を有し、それを覆う第2層として、ほう酸塩、水酸化カルシウムと過酸化物からなる皮膜を有することを特徴とする塑性加工用金属材料である〔第7発明〕。請求項8記載の塑性加工用金属材料は、前記第1層の厚さが3〜10μm である請求項7記載の塑性加工用金属材料である〔第8発明〕。
【0022】
請求項9記載の塑性加工用金属材料の製造方法は、ほう酸塩と水酸化カルシウムと過酸化物とを含有する水溶液に、塑性加工用金属材料を浸漬した後、乾燥して該金属材料の表面に皮膜を形成することを特徴とする塑性加工用金属材料の製造方法である〔第9発明〕。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法によれば、石鹸・リン酸塩皮膜(リン酸塩皮膜と石けん層とからなる皮膜)を形成した塑性加工用金属材料の場合のような熱処理時の浸リンの発生がなく、しかも、石鹸・リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料と同等もしくはそれ以上に潤滑性および耐食性に優れた塑性加工用金属材料を得ることができる。
【0024】
本発明に係る塑性加工用金属材料によれば、石鹸・リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料と同等もしくはそれ以上に優れた潤滑性を有して潤滑性よく塑性加工することができ、しかも、石鹸・リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料の場合のような熱処理時の浸リンの発生がなく、石鹸・リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料と同等もしくはそれ以上に耐食性に優れた塑性加工材〔即ち、塑性加工後のもの(例えばボルト形状のもの)〕を得ることができる。
【0025】
本発明に係る塑性加工用金属材料の表面処理剤は、本発明に係る塑性加工用金属材料の製造に際しての表面処理剤として好適であり、それに用いることによって本発明に係る塑性加工用金属材料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明者らは、鋭意研究を行なった結果、ケイ酸塩、ホウ酸塩の1種以上または水酸化カルシウムと、過酸化物とを含有する水溶液に、塑性加工用金属材料を浸漬した後、乾燥して該金属材料の表面に皮膜を形成すると、石鹸・リン酸塩皮膜(リン酸塩皮膜と石けん層とからなる皮膜)を形成した塑性加工用金属材料と同等もしくはそれ以上に潤滑性および耐食性に優れた塑性加工用金属材料を得ることができることを見出した。即ち、ケイ酸塩、ホウ酸塩の1種以上または水酸化カルシウムを皮膜形成剤とし、皮膜密着性向上剤として、過酸化物を添加することにより、石鹸・リン酸塩皮膜に匹敵する程度にまで(石鹸・リン酸塩皮膜の場合と同等もしくはそれ以上の水準に)潤滑性および耐食性を高めることができることを見出した。
【0027】
本発明は、かかる知見に基づき完成されたものである。このようにして完成された本発明(第1発明)に係る塑性加工用金属材料の製造方法は、ケイ酸塩、ホウ酸塩の1種以上または水酸化カルシウムと、過酸化物とを含有する水溶液(以下、表面処理液ともいう)に、塑性加工用金属材料を浸漬した後、乾燥して該金属材料の表面に皮膜を形成することを特徴とする塑性加工用金属材料の製造方法である〔第1発明〕。この製造方法により得られる塑性加工用金属材料は、前述のことからわかるように、石鹸・リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料と同等もしくはそれ以上に潤滑性および耐食性に優れている。また、この製造方法により金属材料表面に形成される皮膜は、ケイ酸塩、ホウ酸塩の1種以上または水酸化カルシウムと、過酸化物とを含むものであり、リンを含んでいないので、熱処理時の浸リンを発生させるものではない。
【0028】
従って、本発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法によれば、石鹸・リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料の場合のような熱処理時の浸リンの発生がなく、しかも、石鹸・リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料と同等もしくはそれ以上に潤滑性および耐食性に優れた塑性加工用金属材料を得ることができる。
【0029】
従来の非リン系潤滑剤としては、石灰セッケン、ほう酸塩、ケイ酸塩などが知られているが、十分な性能を有するに至っていない。この原因は、石鹸・リン酸塩皮膜と比較して、金属材表面との密着性が不足しているためであると考えられる。即ち、石鹸・リン酸塩皮膜ではリン酸亜鉛皮膜等のリン酸塩皮膜が金属材との化学反応によって形成され、強固に付着しているのに対し、非リン系潤滑剤では金属材との化学反応はほとんどなく、単に、皮膜成分が金属表面に接触しているだけで相対的に弱く付着している。
【0030】
本発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法においては、非リン系潤滑剤(ケイ酸塩、ホウ酸塩の1種以上または水酸化カルシウム)によって形成される皮膜と金属材との付着力を向上させるため、酸化剤(過酸化物)を潤滑剤に添加している。酸化剤(過酸化物)は金属表面に作用して、金属イオンを発生させるが、そのイオンが潤滑成分(ケイ酸塩、ホウ酸塩の1種以上または水酸化カルシウム)と不溶性の皮膜成分を新たに形成する。その不溶性成分がリン酸亜鉛皮膜等のリン酸塩皮膜のような化成皮膜となり、付着力が向上する。
【0031】
本発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法において、酸化剤(過酸化物)としては、塩基性であるケイ酸塩やホウ酸塩、あるいは、水酸化カルシウムと混合して使用することから、塩基性条件で酸化作用を持つものが好ましい。例えば、ペルオキソ硫酸塩、ペルオキソ炭酸塩、ペルオキソほう酸塩などの過酸化物が適している。皮膜中に過酸化物が存在することはIR(赤外線分光分析)により確認することができる。
【0032】
過酸化物の存在量はヨードメトリーで定量できる。潤滑皮膜を希硫酸に溶解させた溶液25mlに、10g/L(リットル)ヨウ化カリウム水溶液100ml を加え、15min 放置する。次に生成したヨウ素を0.1 Nチオ硫酸ナトリウム水溶液で、デンプンを指示薬として滴定する方法である。
【0033】
ケイ酸塩としては、各種アルカリ金属のケイ酸塩を用いることができ、例えば、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウムなどを用いることができる。皮膜中にケイ酸塩が存在することはXRD (X線回折解析)により確認することができる。
【0034】
ほう酸塩としては、各種アルカリ金属のほう酸塩を用いることができ、例えば、メタほう酸ナトリウム、四ほう酸ナトリウムなどを用いることができる。皮膜中にほう酸塩が存在することはXRD (X線回折解析)により確認することができる。
【0035】
水酸化カルシウムとしては、特に粒径等の特性にかかわらず使用することができ、酸化カルシウムを原料として、それに水を添加して使用しても良い。
【0036】
本発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法において、表面処理液(塑性加工用金属材料の浸漬に用いる水溶液)中におけるケイ酸塩、ホウ酸塩の1種以上または水酸化カルシウム(皮膜形成剤)と、過酸化物(皮膜密着性向上剤)との濃度比は、特には限定されるものではないが、塑性加工用金属材料とその表面に形成される皮膜の密着性の点から、4:1〜200:1であることが好ましい〔第2発明〕。
【0037】
上記表面処理液には、防錆剤としてモリブデン酸塩やバナジン酸塩、ポリアクリル酸、シリカ、ベンゾトリアゾールを含んでもよい。かかる防錆剤を含んでいる場合、該表面処理液に浸漬し皮膜を形成した後の塑性加工用金属材料の耐食性をより向上することができる。
【0038】
上記表面処理液への金属材浸漬処理をする際の処理温度(表面処理液の温度)は、好ましくは30〜70℃である。30℃未満の場合は、金属材を浸漬し、処理溶液から出した後、金属材に付いた処理溶液を乾燥させるのに時間がかかり、70℃超の場合は、酸化剤の分解が起こる可能性があるからである。このような点から、更に好ましくは40〜60℃である。
【0039】
上記表面処理液に浸漬する金属材の形態は、塑性加工するための金属材である限り、特には限定されず、例えば、ボルト、ナット、ばね、PC(prestressed concrete)鋼、スチールコード、ビードワイヤーなどを製造するための線材または棒材が挙げられる。また、金属材の成分も特に限定されず、鋼材(鉄鋼、ステンレス鋼)、アルミ、チタン、銅などの種々の金属材が使用できる。好ましい金属材は、鋼材である。
【0040】
さらに、摩擦係数を低減させるために、固体潤滑剤を添加することができる。固体潤滑剤としては、例えば、二硫化モリブデン、黒鉛、窒化硼素、雲母、フッ化黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、パラフィンなどが挙げられる。
【0041】
本発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法により金属材料表面に形成される皮膜の付着量は、2g/m2 以上であることが望ましい〔第3発明〕。皮膜の付着量:2g/m2 未満の場合は、多量の連続伸線が困難であるからである。かかる点から、皮膜の付着量:4g/m2 以上であることが更に望ましい。一方、皮膜の付着量:40g/m2 超では潤滑性の向上効果が飽和し、皮膜の付着量:40g/m2 の場合以上には向上しないことから、皮膜の付着量:40g/m2 以下とすることが望ましい。このような点(潤滑性の向上の程度/皮膜の付着量という点)から、皮膜の付着量:20g/m2 以下とすることが更に望ましい。
【0042】
金属材の表面処理液への浸漬時間は、特には限定されないが、この浸漬時間は皮膜の付着量に関係するため、上記の好ましい皮膜の付着量になるように、適宜決定することができる。
【0043】
本発明(第4発明)に係る塑性加工用金属材料は、前述のように、請求項1〜3のいずれかに記載の塑性加工用金属材料の製造方法(即ち、第1〜3発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法のいずれか)によって製造される塑性加工用金属材料である〔第4発明〕。本発明に係る塑性加工用金属材料によれば、石鹸・リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料と同等もしくはそれ以上に優れた潤滑性を有して潤滑性よく塑性加工することができ、しかも、石鹸・リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料の場合のような熱処理時の浸リンの発生がなく、石鹸・リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料と同等もしくはそれ以上に耐食性に優れた塑性加工材〔即ち、塑性加工後のもの(例えばボルト形状のもの)〕を得ることができる。
【0044】
本発明(第5発明)に係る塑性加工用金属材料の表面処理剤は、ケイ酸塩、ホウ酸塩の1種以上または水酸化カルシウムと、過酸化物とを含有する水溶液よりなることを特徴とする塑性加工用金属材料の表面処理剤である〔第5発明〕。本発明に係る塑性加工用金属材料の表面処理剤は、本発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法における表面処理液と同様の組成であるので、本発明に係る塑性加工用金属材料の製造に際しての表面処理液として好適であり、それに用いることによって本発明に係る塑性加工用金属材料を得ることができる。
【0045】
前記水溶液(表面処理剤)におけるケイ酸塩、ホウ酸塩の1種以上または水酸化カルシウムと、過酸化物との濃度比が、4:1〜200:1である場合、第2発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法を行うことができ、金属材料の表面に形成される皮膜の密着性がより優れたものとなり、皮膜の密着性により優れた塑性加工用金属材料を得ることができる〔第6発明〕。
【0046】
本発明者らは、前述の研究に引き続き、更に研究を行なった結果、ほう酸塩と水酸化カルシウムと過酸化物とを含有する水溶液に、塑性加工用金属材料を浸漬した後、乾燥して該金属材料の表面に皮膜を形成すると、石鹸・リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料と同等もしくはそれ以上に潤滑性および耐食性に優れた塑性加工用金属材料を得ることができることを見出した。即ち、ほう酸塩と水酸化カルシウムを皮膜形成剤とし、皮膜密着性向上剤として、過酸化物を添加することにより、石鹸・リン酸塩皮膜に匹敵する程度にまで(石鹸・リン酸塩皮膜の場合と同等もしくはそれ以上の水準に)潤滑性および耐食性を高めることができることを見出した。
【0047】
本発明の第7発明〜第9発明は、かかる知見に基づき完成されたものである。このようにして完成された第7発明〜第9発明の中、第9発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法は、ほう酸塩と水酸化カルシウムと過酸化物とを含有する水溶液に、塑性加工用金属材料を浸漬した後、乾燥して該金属材料の表面に皮膜を形成することを特徴とする塑性加工用金属材料の製造方法である〔第9発明〕。この製造方法により得られる塑性加工用金属材料は、前述のことからわかるように、石鹸・リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料と同等もしくはそれ以上に潤滑性および耐食性に優れている。また、この製造方法により金属材料表面に形成される皮膜は、ホウ酸塩および水酸化カルシウムと、過酸化物とを含むものであり、リンを含んでいないので、熱処理時の浸リンを発生させるものではない。
【0048】
従って、本発明の第9発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法によれば、石鹸・リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料の場合のような熱処理時の浸リンの発生がなく、しかも、石鹸・リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料と同等もしくはそれ以上に潤滑性および耐食性に優れた塑性加工用金属材料を得ることができる。
【0049】
従来の非リン系潤滑剤では、前述のように金属材との化学反応はほとんどなく、単に、皮膜成分が金属表面に接触しているだけで弱く付着している。
【0050】
本発明の第9発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法においては、非リン系潤滑剤(ホウ酸塩、水酸化カルシウム)によって形成される皮膜と金属材との付着力を向上させるため、酸化剤(過酸化物)を潤滑剤に添加している。酸化剤(過酸化物)は金属表面に作用して、金属イオンを発生させるが、そのイオンが潤滑成分(ホウ酸塩、水酸化カルシウム)と反応し、この金属(例えばFe)、Ca、Oからなる反応層(不溶性)を新たに形成する。その反応層がリン酸亜鉛皮膜のような化成皮膜として働き、付着力が向上する。
【0051】
本発明の第9発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法によれば、塑性加工用金属材料の表面に該金属材料の主成分の金属、カルシウム、酸素からなる第1層を有し、それを覆う第2層として、ほう酸塩、水酸化カルシウムと過酸化物からなる皮膜を有する塑性加工用金属材料が得られる。このとき、金属材料が鋼材であれば、鋼材の表面に鉄、カルシウム、酸素からなる第1層を有し、それを覆う第2層として、ほう酸塩、水酸化カルシウムと過酸化物からなる皮膜を有する塑性加工用金属材料(鋼材)が得られる。これらの塑性加工用金属材料によれば、石鹸・リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料と同等もしくはそれ以上に優れた潤滑性を有して潤滑性よく塑性加工することができ、しかも、石鹸・リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料の場合のような熱処理時の浸リンの発生がなく、石鹸・リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料と同等もしくはそれ以上に耐食性に優れた塑性加工材〔即ち、塑性加工後のもの(例えばボルト形状のもの)〕を得ることができる。
【0052】
本発明の第7発明に係る塑性加工用金属材料は、上記のような塑性加工用金属材料であって金属材料が鋼材であるものである。即ち、鋼材の表面に鉄、カルシウム、酸素からなる第1層を有し、それを覆う第2層として、ほう酸塩、水酸化カルシウムと過酸化物からなる皮膜を有することを特徴とする塑性加工用金属材料である〔第7発明〕。
【0053】
この塑性加工用金属材料によれば、石鹸・リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料と同等もしくはそれ以上に優れた潤滑性を有して潤滑性よく塑性加工することができ、しかも、石鹸・リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料の場合のような熱処理時の浸リンの発生がなく、石鹸・リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料と同等もしくはそれ以上に耐食性に優れた塑性加工材〔即ち、塑性加工後のもの(例えばボルト形状のもの)〕を得ることができる。
【0054】
本発明の第7発明における第1層の厚さとしては3〜10μm であることが望ましい〔第7発明〕。この第1層の厚さが3μm 未満の場合、金属同士の接触を十分に防止することができず、加工時に焼き付きを生じやすい。10μm 以上に厚くすることは困難であり、また、皮膜に亀裂が生じやすくなる。
【0055】
上記第1層の厚さの測定は、オージェ分光法によって行うことができる。この測定条件の例を以下に記述する。得られたプロファイルにおいて、例えば、Feの含有量が5(atmic%)以上になる深さから、Caが5(atmic%)以下になる深さまでを反応層(第1層)の厚さと定義する。
【0056】
・装置 ---- パ−キン・エルマ−社製PHI650走査型オ−ジェ電子分光装置
・一次電子エネルギー、電流 ---- 10keV、300nA
・その入射角 ---- 試料法線に対して30度
・そのビーム径 ---- <5μmφ
・分析領域 ---- 同上(点分析)
・イオンスパッタエネルギー、電流 ---- 3keV、25mA
・その入射角度 ---- 試料法線に対して約58度
・そのスパッタ速度 ---- 約31nm/分
【0057】
本発明の第9発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法において、酸化剤(過酸化物)としては、塩基性であるホウ酸塩と混合して使用することから、塩基性条件で酸化作用を持つものが好ましい。本発明の第1発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法の場合と同様、例えば、ペルオキソ硫酸塩、ペルオキソ炭酸塩、ペルオキソほう酸塩などの過酸化物が適している。皮膜中に過酸化物が存在することはIR(赤外線分光分析)により確認することができる。
【0058】
ほう酸塩としては、本発明の第1発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法の場合と同様、各種アルカリ金属のほう酸塩を用いることができ、例えば、メタほう酸ナトリウム、四ほう酸ナトリウムなどを用いることができる。皮膜中にほう酸塩が存在することはXRD (X線回折解析)により確認することができる。
【0059】
防錆剤として、モリブデン酸塩やバナジン酸塩、ポリアクリル酸、シリカ、ベンゾトリアゾールを適宜含むこともできる。
【0060】
適用可能な金属材の種類、固体潤滑剤を添加することができること等は、前述の本発明の第1発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法の場合と同様である。金属材料表面に形成される皮膜の付着量は、本発明の第1発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法の場合と同様、2g/m2 以上であることが望ましく、更に4g/m2 以上であることが望ましく、一方、40g/m2 以下とすることが望ましく、更に20g/m2 以下とすることが望ましい。
【実施例】
【0061】
本発明の実施例および比較例について、以下説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0062】
〔例A〕
鋼種SCM435よりなる熱間圧延線材を熱処理し、この熱処理後の線材を酸洗して脱スケールし、次いで水洗した後、石灰乳にて中和処理し、表面処理液(水溶液)への浸漬処理を施して、伸線用線材(直径φ=10mm )を得た。この浸漬処理の際の表面処理液の組成、浸漬温度(表面処理液の温度)、浸漬時間を表1に示す(No.1〜14)。なお、浸漬処理後、大気中に放置して乾燥した。皮膜付着量は約8g/m2 である。
【0063】
また、上記と同様の熱処理、酸洗、水洗後の線材について、リン酸塩処理・石鹸処理(リン酸塩処理し、この後、石けん処理するという処理)して石鹸・リン酸塩皮膜の形成を行って、伸線用線材(直径φ=10.3mm )を得た(No.15)。このリン酸塩処理・石鹸処理は、下記のようにして行った。上記水洗後の線材を50℃の15%塩酸に10min 間浸漬した後、水洗する。次に、この水洗後の線材について、リン酸亜鉛化成処理剤〔パルボンド181X(日本パーカライジング株式会社製)〕を用いて濃度:90g/Lの水溶液に調整し、この水溶液を80℃にし、これに前記水洗後の線材を10min 間浸漬した後、水洗するという条件で化成処理(リン酸塩処理)を行う。次に、この化成処理後の線材について、石けん潤滑剤〔パルーブ235(日本パーカライジング株式会社製)〕を用いて濃度:70g/Lの水溶液に調整し、この水溶液を80℃にし、これに前記化成処理後の線材を5min 間浸漬するという条件で石けん処理を行う。石鹸・リン酸塩皮膜の付着量(リン酸塩皮膜の付着量と石けん層の付着量の合計)は、約8g/m2 である。
【0064】
このようにして形成された皮膜の組成を確認した。この確認は次のようにして行った。過酸化物については、皮膜をSUS 片などで剥離させ、その成分をKBr とともに錠剤として測定する。波数890 〜 830cm-1にピークが見られることから、過酸化物の存在が確認できる。また、潤滑剤については、CuをターゲットとしたX線(Kα)を用い、SUS 片などで剥離させた皮膜を測定する。Ca(OH)2 では2θ=18.1, 33.5, 47.0 deg に、 Na2B4O7・10H2O では2θ=34.9, 31.3, 18.2 deg に、Na2SiO3 では2θ=33.5, 39.5, 18.2 deg にそれぞれピークが見られることから、それぞれの存在が確認できる。
【0065】
このようにして得られた伸線用線材(皮膜形成されたもの)および該線材を伸線した後の線材について、潤滑性および防錆性(耐食性)を調査した。潤滑性については、次のようにして調査した。補助潤滑剤を用いることなく、上記伸線用線材(直径φ=10.3mm )をφ9.5 、φ8.3 、φ7.45、φ6.3 、φ5.6 、φ4.9 、φ4.2 、φ3.6 、φ3.2 、φ2.8 、φ2.5 、φ2.2 と順に段階的に伸線加工し、この際の伸線荷重を測定し、また、伸線加工後の線材の表面状態(表面肌)を観察し、これにより潤滑性を調査した。耐食性については、次のようにして調査した。上記伸線用線材(皮膜形成されたもの)を温度40℃、湿度90%の恒温恒湿槽内で2週間放置した後、この線材の表面に発生した錆の面積率を目視により測定した。
【0066】
上記調査の結果を表2に示す。No.15 (比較例)即ち石鹸・リン酸塩皮膜形成材は、φ3.6 時の伸線加工の際の伸線荷重が大きく、また、焼付が生じて伸線加工後の線材の表面肌も良くなく、潤滑性が悪い。No.1〜13(本発明の実施例)は、No.15 (比較例)の石鹸・リン酸塩皮膜形成材に比較し、伸線加工の際の伸線荷重が小さく、また、伸線加工後の線材の表面肌も良好であって、潤滑性に優れており、且つ、錆面積率が小さくて耐食性も優れている。また、No.1〜13がφ2.2 まで伸線可能であったのに対し、No.15 ではφ3.6 で焼付が発生している。酸化剤(過酸化物)を添加していない No.14(比較例)は、No.15 (比較例)の石鹸・リン酸塩皮膜形成材やNo.1〜13(本発明の実施例)の酸化剤(過酸化物)を添加した場合に比較し、伸線加工の際の伸線荷重が大きくて潤滑性に劣っていると共に、錆面積率が大きくて耐食性も劣っている。
【0067】
以上より、酸化剤(過酸化物)を添加することによって、潤滑性および耐食性を向上させることができることが確認された。即ち、以上のことは、本発明の第1〜3発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法により得られる塑性加工用金属材料、本発明の第4発明に係る塑性加工用金属材料は、石鹸・リン酸塩皮膜を形成したものと同等もしくはそれ以上に潤滑性および耐食性に優れていることを裏付けている。
【0068】
〔例B〕
鋼種SCM435よりなる熱間圧延線材(線径:10mm)を760 ℃で熱処理(球状化焼鈍)し、この熱処理後の線材を酸洗して脱スケールし、次いで水洗した後、表面処理液(水溶液)への浸漬処理を施して、伸線用線材(直径φ=10mm )を得た。この浸漬処理の際の表面処理液の組成、浸漬温度(表面処理液の温度)、浸漬時間を表3に示す(No.1a 〜7a)。なお、浸漬処理後、大気中に放置して乾燥した。皮膜付着量は約8g/m2 である。
【0069】
また、上記と同様の熱処理、酸洗、水洗後の線材について、リン酸塩処理・石鹸処理(リン酸塩処理し、この後、石けん処理するという処理)して石鹸・リン酸塩皮膜の形成を行って、伸線用線材(直径φ=10.3mm )を得た(No.8a )。このリン酸塩処理・石鹸処理は、下記のようにして行った。上記水洗後の線材を50℃の15%塩酸に10min 間浸漬した後、水洗する。次に、この水洗後の線材について、リン酸亜鉛化成処理剤〔パルボンド181X(日本パーカライジング株式会社製)〕を用いて濃度:90g/Lの水溶液に調整し、この水溶液を80℃にし、これに前記水洗後の線材を10min 間浸漬した後、水洗するという条件で化成処理(リン酸塩処理)を行う。次に、この化成処理後の線材について、石けん潤滑剤〔パルーブ235(日本パーカライジング株式会社製)〕を用いて濃度:70g/Lの水溶液に調整し、この水溶液を80℃にし、これに前記化成処理後の線材を5min 間浸漬するという条件で石けん処理を行う。石鹸・リン酸塩皮膜の付着量(リン酸塩皮膜の付着量と石けん層の付着量の合計)は、約8g/m2 である。
【0070】
このようにして形成された皮膜の組成を確認した。この確認は例Aの場合と同様の方法により行った。また、第1層(Fe-Ca-O層すなわちFe、Ca、Oからなる反応層)の厚さの測定を行った。この厚さの測定はオージェ分光法によって下記条件で行った。得られたプロファイルにおいて、Feの含有量が5(atmic%)以上になる深さから、Caが5(atmic%)以下になる深さまでを第1層の厚さとした。
【0071】
・装置 ---- パ−キン・エルマ−社製PHI650走査型オ−ジェ電子分光装置
・一次電子エネルギー、電流 ---- 10keV、300nA
・その入射角 ---- 試料法線に対して30度
・そのビーム径 ---- <5μmφ
・分析領域 ---- 同上(点分析)
・イオンスパッタエネルギー、電流 ---- 3keV、25mA
・その入射角度 ---- 試料法線に対して約58度
・そのスパッタ速度 ---- 約31nm/分
【0072】
上記伸線用線材(皮膜形成されたもの)および該線材を伸線した後の線材について、潤滑性および防錆性(耐食性)を調査した。潤滑性については、次のようにして調査した。補助潤滑剤を用いることなく、上記伸線用線材(直径φ=10mm )をφ9.5 、φ8.3 、φ7.45、φ6.3 、φ5.6 、φ4.9 、φ4.2 、φ3.6 と順に段階的に伸線加工し、この際の伸線荷重を測定し、また、伸線加工後の線材の表面状態(表面肌)を観察し、これにより潤滑性を調査した。耐食性については、次のようにして調査した。上記伸線用線材(皮膜形成されたもの)を温度40℃、湿度90%の恒温恒湿試験器(タバイエスペック製SH-221)内で2週間放置した後、この線材の表面に発生した錆の面積率を目視により測定した。
【0073】
上記調査の結果を表4に示す。No.8a (比較例)即ち石鹸・リン酸塩皮膜形成材は、φ3.6 時の伸線加工の際の伸線荷重が大きく、また、焼付が生じて伸線加工後の線材の表面肌も良くなく、潤滑性が悪い。No.1a 〜6a(本発明の実施例)は、No.8a (比較例)の石鹸・リン酸塩皮膜形成材に比較し、伸線加工の際の伸線荷重が小さく、また、伸線加工後の線材の表面肌も良好であって、潤滑性に優れており、且つ、錆面積率が小さくて耐食性も優れている。酸化剤(過酸化物)を添加していない No.7a(比較例)は、 No.8a(比較例)の石鹸・リン酸塩皮膜形成材や No.1a〜6a(本発明の実施例)の酸化剤(過酸化物)を添加した場合に比較し、伸線加工の際の伸線荷重が大きくて潤滑性に劣っていると共に、錆面積率が大きくて耐食性も劣っている。
【0074】
表3からわかるように、No.8a (比較例)の石鹸・リン酸塩皮膜形成材の場合には、Fe-Ca-O層(Fe、Ca、Oからなる反応層)は形成されていない。 No.7a(比較例)の場合は、表面処理液に酸化剤(過酸化物)が含有されておらず、Fe-Ca-O層は形成されているが、その厚みが2μm と薄い。No.1a 〜6a(本発明の実施例)の場合は、表面処理液に水酸化カルシウムと酸化剤(過酸化物)が含有されており、厚い(厚み:3〜8μm )Fe-Ca-O層が形成されている。
【0075】
以上より、ほう酸塩と水酸化カルシウムと酸化剤(過酸化物)とを含有する水溶液に鋼材を浸漬した後、乾燥すると、該鋼材の表面に第1層としてFe-Ca-O層が形成され、第2層としてほう酸塩、水酸化カルシウムと過酸化物からなる皮膜が形成され、このFe-Ca-O層(第1層)の厚みが3μm 以上と厚く、これらにより、潤滑性および耐食性を向上させることができ、中でも潤滑性を向上させることができることが確認された。即ち、以上のことは、本発明の第9発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法により得られる塑性加工用金属材料、本発明の第7〜8発明に係る塑性加工用金属材料は、石鹸・リン酸塩皮膜を形成したものと同等もしくはそれ以上に潤滑性および耐食性に優れていることを裏付けている。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法によれば、石鹸・リン酸塩皮膜(リン酸塩皮膜と石けん層とからなる皮膜)を形成した塑性加工用金属材料の場合のような熱処理時の浸リンの発生がなく、しかも、リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料と同等もしくはそれ以上に潤滑性および耐食性に優れた塑性加工用金属材料を得ることができるので、本発明に係る塑性加工用金属材料の製造方法は塑性加工用金属材料の製造方法として好適に用いることができて有用である。本発明に係る塑性加工用金属材料によれば、熱処理時の浸リンの発生がなく、石鹸・リン酸塩皮膜を形成した塑性加工用金属材料と同等もしくはそれ以上に耐食性に優れた塑性加工材〔塑性加工後のもの(例えば、ボルト形状のもの)〕を得ることができるので、本発明に係る塑性加工用金属材料は塑性加工用金属材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸塩、ホウ酸塩の1種以上または水酸化カルシウムと、過酸化物とを含有する水溶液に、塑性加工用金属材料を浸漬した後、乾燥して該金属材料の表面に皮膜を形成することを特徴とする塑性加工用金属材料の製造方法。
【請求項2】
前記水溶液におけるケイ酸塩、ホウ酸塩の1種以上または水酸化カルシウムと、過酸化物との濃度比が、4:1〜200:1である請求項1記載の塑性加工用金属材料の製造方法。
【請求項3】
前記金属材料の表面に形成される皮膜の付着量が2g/m2 以上である請求項1または2記載の塑性加工用金属材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の塑性加工用金属材料の製造方法によって製造される塑性加工用金属材料。
【請求項5】
ケイ酸塩、ホウ酸塩の1種以上または水酸化カルシウムと、過酸化物とを含有する水溶液よりなることを特徴とする塑性加工用金属材料の表面処理剤。
【請求項6】
前記水溶液におけるケイ酸塩、ホウ酸塩の1種以上または水酸化カルシウムと、過酸化物との濃度比が、4:1〜200:1である請求項5記載の塑性加工用金属材料の表面処理剤。
【請求項7】
鋼材の表面に鉄、カルシウム、酸素からなる第1層を有し、それを覆う第2層として、ほう酸塩、水酸化カルシウムと過酸化物からなる皮膜を有することを特徴とする塑性加工用金属材料。
【請求項8】
前記第1層の厚さが3〜10μm である請求項7記載の塑性加工用金属材料。
【請求項9】
ほう酸塩と水酸化カルシウムと過酸化物とを含有する水溶液に、塑性加工用金属材料を浸漬した後、乾燥して該金属材料の表面に皮膜を形成することを特徴とする塑性加工用金属材料の製造方法。

【公開番号】特開2006−272461(P2006−272461A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−58267(P2006−58267)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】